(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137063
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】環境負荷推定装置、環境負荷推定システム及び環境負荷推定方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/40 20240101AFI20240927BHJP
【FI】
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048418
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 弥生
(72)【発明者】
【氏名】安河内 大
(72)【発明者】
【氏名】小林 佳子
(72)【発明者】
【氏名】足立 進吾
(72)【発明者】
【氏名】富山 友恵
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC42
5L050CC42
(57)【要約】
【課題】精度の異なるデータや算出式を組み合わせて環境負荷を推定する環境負荷推定装置において、アプリ側がデータの利用可否を判定できるように、環境負荷の推定結果であるデータに推定精度を付与することを目的とする。
【解決手段】本開示の環境負荷推定装置は、業務システム装置、オープンデータ提供装置、移動経路収集装置のそれぞれからデータを取得可能なデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータと、前記環境負荷推定装置が保持しているデータを含む入力データを、該入力データに整合的な推定方法代入することで、一人あたりの詳細環境負荷を推定する詳細環境負荷推定部と、
前記詳細環境負荷と、利用者の移動経路の情報を組み合わせて、前記利用者の経路環境負荷を推定する経路環境負荷推定部と、
を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の情報を組み合わせて処理することで、環境負荷を推定する環境負荷推定装置であって、
業務システム装置、オープンデータ提供装置、移動経路収集装置のそれぞれからデータを取得可能なデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータと前記環境負荷推定装置が保持しているデータを含む入力データを、該入力データに整合的な推定方法に代入することで、一人あたりの詳細環境負荷を推定する詳細環境負荷推定部と、
前記詳細環境負荷と、利用者の移動経路の情報を組み合わせて、前記利用者の経路環境負荷を推定する経路環境負荷推定部と、
を備える環境負荷推定装置。
【請求項2】
前記推定方法は、1つ以上の算出式と前記入力データの組合せで定義され、
前記詳細環境負荷推定部は、算出する前記詳細環境負荷の値に対して、推定精度情報を付与する
ことを特徴とする請求項1に記載の環境負荷推定装置。
【請求項3】
前記詳細環境負荷推定部は、移動経路を環境負荷の推定区分毎の前記推定方法を選択するにあたり、
前記推定方法で使用する入力データが、継続属性を有するか、因果属性を有するか、独立属性を有するかによって、前記推定方法の使用可否判定方法を変更する
ことを特徴とする請求項2に記載の環境負荷推定装置。
【請求項4】
複数の情報を組み合わせて処理することで、環境負荷を推定する環境負荷推定装置と、業務システム装置と、オープンデータ提供装置と、移動経路収集装置がネットワークを介して接続された環境負荷推定システムであって、
前記環境負荷推定装置は、
業務システム装置、オープンデータ提供装置及び移動経路収集装置からデータを取得可能なデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータと、前記環境負荷推定装置が保持しているデータを含む入力データを、該入力データに整合的な推定方法代入することで、一人あたりの詳細環境負荷を推定する詳細環境負荷推定部と、
前記詳細環境負荷と、利用者の移動経路の情報を組み合わせて、前記利用者の経路環境負荷を推定する経路環境負荷推定部と
を備える環境負荷推定システム。
【請求項5】
請求項1に記載の環境負荷推定装置において、
前記詳細環境負荷推定部は
環境負荷の推定区分ごとに、推定方法の候補を設定する第1の工程と、
第1の工程において設定した推定方法に用いる算出式と前記算出式に用いるデータについて、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度との整合性を検証する第2の工程と、
第2の工程において、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合した場合には、当該推定方法を用いて環境負荷の推定を行う第3の工程と
第2の工程において、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合しない場合には、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合する推定方法を探索し、探索した推定方法の算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合した場合には、当該探索した推定方法を用いて環境負荷の推定を行う第4の工程と
を有する環境負荷推定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の環境負荷推定方法において、
前記詳細環境負荷推定部は、前記第2の工程において、
算出式に用いるデータが継続属性を備えるデータの場合には、最初の推定区分以降は、第1の工程で設定する推定方法の候補に、最初の推定区分で採用した推定方法を設定し、
算出式に用いるデータが因果属性を備えるデータの場合には、最初の推定区分以降は、第1の工程で設定する推定方法の候補に、一つ前の推定区分で採用した推定方法を設定する
ことを特徴とする環境負荷推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷推定装置、環境負荷推定システム及び環境負荷推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の達成の観点から、CO2の排出量の削減が大きな社会目標となっている。特に、交通は、大気汚染、地球温暖化など、環境に大きな影響を及ぼすことから、移動によるCO2排出量の削減が重要な課題となっている。
鉄道やバスといった公共交通は、自家用車と比べて単位輸送量(人キロベース)あたりのCO2排出量が低いことから、個々のユーザーが公共交通機関を利用し、移動によるCO2排出量を削減することが重要である。
個々のユーザのスマートフォンから取得される通信情報から移動手段(電車、バス、自動車、歩行など)を検出する一方、運行に係るエネルギー消費量を推定し、個々のユーザが乗車した区間や列車に対し、一人当たりのCO2排出削減量を可視化できれば、個々のユーザのモーダルシフトを促進し、持続可能な社会構造への転換を図ることが可能となる。
さらに、こうしたユーザーの動向を公共交通を運営する側(以下、「事業者」という。)に提供することにより、事業者はこうした動向のデータを活用して、さらに効率的に事業を運営することが可能となり、環境にやさしい社会の実現に近づくことが可能となる。
【0003】
また、サプライチェーン排出量の一項目である従業員の通勤におけるCO2排出量を算出するには、各交通機関(自家用車、航空、バス、鉄道など)で定められた単位輸送量あたりのCO2排出量(1人を1キロ輸送するのにかかるCO2排出量)と移動距離の掛け合わせで計算されるのが一般的である。
【0004】
しかし、同一の交通機関であっても車両の性能などによって環境負荷は異なる。例えば自家用車の場合、電気自動車はガソリン車よりCO2排出量が少ないことが一般に知られている。
鉄道においても、CO2やNOXの排出量を削減できる新型車両は従来の車両より環境負荷が低く、乗客の人数によって一人あたりの環境負荷は変動する。
鉄道事業者が持つ様々なデータを活用すれば、より詳細な環境負荷を算出することが可能であるが、事業者によって提供されるデータの形式や精度は異なることが多い。また、同じ環境負荷の値を求める算出式であっても、それぞれの算出式によって必要とするデータの種類や形式、精度は異なることが多いため、環境負荷の値の精度を定めることには難しい面がある。
【0005】
SDGsへの貢献との関心を維持するシステムとしては、特許文献1に「利用者が移動開始場所から移動を開始したこと及び移動終了場所で移動を終了したことを検出する移動検出部と、移動開始場所、移動終了場所並びに移動手段の情報を含む移動内容を判定して移動履歴記録部に記録する移動内容判定部、旅客運送サービスを利用した移動に係る一人あたりの第1のCO2排出量と、移動開始場所から移動終了場所まで一般的に普及している乗用車で移動したと仮定した場合の一人あたりの第2のCO2排出量を計算する環境負荷量計算部及び第1のCO2排出量の第2のCO2排出量からの削減量に応じて利用者に付与する前記ポイントを計算して記録するポイント計算部を有するSDGsアプリケーションと、を含んで構成されるSDGs貢献ポイントシステム」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、乗車した列車の車両の型式や特急・急行の種別、車両重量、発電手段の情報、天候などを考慮し、乗車人数で按分して一人あたりのCO2排出量などについて考慮している。
しかし、特許文献1では、基本的な情報を事前に基準値として設定して固定しており、鉄道事業者等の事業者側のデータ等をリアルタイムに反映できないため、算出した結果については改善の余地がある。
そこで、本開示では、事業者のデータを活用し、環境負荷推定に関するデータのリアルタイム性、正確性を高めた環境負荷推定装置、環境負荷推定システム及び環境負荷推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の環境負荷推定装置の一つは、複数の情報を組み合わせて処理することで、環境負荷を推定する環境負荷推定装置である。
そして、環境負荷推定装置は、業務システム装置、オープンデータ提供装置、移動経路収集装置のそれぞれからデータを取得可能なデータ取得部を備えている。
また、前記データ取得部が取得したデータと、前記環境負荷推定装置が保持しているデータを含む入力データを、該入力データに整合的な推定方法に代入することで、一人あたりの詳細環境負荷を推定する詳細環境負荷推定部と、
前記詳細環境負荷と、利用者の移動経路の情報を組み合わせて、前記利用者の経路環境負荷を推定する経路環境負荷推定部とを備えている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、事業者のデータを活用し、環境負荷推定に関するデータのリアルタイム性、正確性を高めた環境負荷推定装置、環境負荷推定システム及び環境負荷推定方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態のハードウエア構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る環境負荷推定装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、環境負荷を推定するための推定方法の例を説明する概略図である。
【
図7】
図7は、環境負荷推定のメインフローを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、詳細環境負荷の推定のフローチャートである。
【
図9】
図9は、列車ごとの環境負荷の推定のフローチャートである。
【
図10】
図10は、データの属性が継続属性である場合の推定方法のフローチャートである。
【
図11】
図11は、データの属性が因果属性である場合の推定方法のフローチャートである。
【
図12】
図12は、データの属性が独立属性である場合の推定方法のフローチャートである。
【
図13】
図13は、推定方法の算出式に代入するデータの例を示す図である。
【
図14】
図14は、乗客数を推定するためのデータについて説明する図である。
【
図15】
図15は、列車ごとの環境負荷を推定するデータについて説明する図である。
【
図16】
図16は、列車ごとの環境負荷を推定するデータについて説明する図である。
【
図17】
図17は、列車ごとの環境負荷を推定するデータについて説明する図である。
【
図19】
図19は、利用経路の環境負荷の推定方法のするフローチャートである。
【
図20】
図20は、乗客の行動経路、交通機関の利用経路を取得するデータの例を示す図である。
【
図21】
図21は、移動経路をフラグメントに分解した場合の例を説明する図である。
【
図22】
図22は、乗客の利用経路および利用列車の情報を統合したデータの例を説明する図である。
【
図23】
図23は、フラグメントごとの環境負荷を統合した例を説明する図である。
【
図24】
図24は、ヒートマップ形式で環境負荷を可視化した例を示す図である。
【
図25】
図25は、ダイヤ図の形式で環境負荷を可視化した例を示す図である。
【
図26】
図26は、経路探索や移動履歴表示の形式で、環境負荷推定値を可視化した例を示す図である。
【
図27】
図27は、環境負荷推定値の活用事例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
また、「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、本開示において様々な要素又は構成要素を説明するのに用いられる場合があるが、これらの要素又は構成要素はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、或る要素又は構成要素を別の要素又は構成要素と区別するためにのみ用いられる。
したがって、以下で論述する第1の要素又は構成要素は、本発明概念の教示から逸脱することなく第2の要素又は構成要素と呼ぶこともできる。
【0013】
また、本開示において、「データの精度」とは、本開示で用いる入力値、出力値などのデータの精度を示すものである。しかし、データの精度の表記方法は、一般的な精度を表す指標をとして用いられている百分率で定義されるような正解率や有効数字といったものに限定されるものではない。本開示における「データの精度」は、例えば、データの有無、予測値か実績値か、データの取得頻度、計測単位といったデータの特性を表現する指標を意味している。つまり、データとして使用できるか否かを判断するための「使えるレベル」、「有効性」を意味するものである。
特に、本開示における出力値の総環境負荷値についてのデータの精度を「推定精度情報」ということがある。推定精度情報の形式としては、数値(%など)形式でも良いし、実際に使用した式・データとその精度を推定精度情報としても良い。
【0014】
なお、本開示では、環境負荷の推定を行うことができる単位を「環境負荷の推定区分」と称する。
また、本開示では、入力データと推定方法又は算出式が「整合的」であるとは、入力データの品質や精度が推定方法又は算出式が想定している品質や精度と整合しており、推定方法や算出式が意図している正確性で推定値を算出できること、つまり「有効性」を備えていることを意味している。
【0015】
また、本開示において、「データの属性」とは、次の3種類である。
A:継続属性
環境負荷の推定区分ごとにデータの内容や精度が変化せず、前の推定区分のデータを継続して使用可能な属性を有するデータ。
B:因果属性
環境負荷の推定区分ごとにデータの内容や精度が変化する可能性はあるが、変化の内容は、前の推定区分のデータと因果関係を有し、データの精度に変更が少ない属性を有するデータ。
C:独立属性
環境負荷の推定区分ごとにデータの内容やデータの精度が変化することが多く、しかも、変化の内容は、前の推定区分のデータとの因果関係がなく、前の推定区分とは独立であり、このため、データの精度についても変更されている可能性が高い属性を有するデータ。
【0016】
<ハードウエア構成例>
まず、
図1を参照して、本開示の実施形態を実施するためのハードウエア構成例について説明する。
本開示の実施形態によるハードウエア構成例は、任意の適切なコンピューティングシステムで構成することができる。環境負荷推定システムを構成するハードウエアの主要コンポーネントは、環境負荷推定装置10とネットワーク20で接続可能な業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50、アプリサーバ60である。
環境負荷推定装置10は、記憶装置101、メモリ110、CPU120、UI装置130、通信装置140を含む。これらのコンポーネントは、バス150を介して相互的に接続することができる。
【0017】
記憶装置101は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成することができ、プログラム102やデータ103を記憶することができる。
また、メモリ110は、RAMなど揮発性記憶素子で構成することができる。
CPU120は、1つ又は複数のCPUを備えてもよく、単一のCPUシステムであってもよい。CPU120は、記憶装置101に格納されたプログラム102をメモリ110に読み出すなどしてプログラムを実行し、装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なう。
【0018】
UI装置130は、ビデオ表示装置、スピーカ、テレビ等のユーザ出力デバイスや、キーボード、マウス、キーパッド、タッチパッド、トラックボール、ボタン、ライトペン、又は他のポインティングデバイス等のユーザ入力デバイスのようなユーザI/Oデバイスを含んでもよい。
【0019】
ネットワーク20は、環境負荷推定装置10の通信装置140を介して業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50、アプリサーバ60を接続・通信が可能な経路である。
なお、業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50、アプリサーバ60は、それぞれ複数存在してもよく、それぞれ必要なネットワーク20を介して環境負荷推定装置10と接続・通信が可能であればよい。
また、業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50に含まれるデータ等については後述する。
【0020】
個々のユーザは、アプリサーバ60を介して、デスクトップコンピュータ、携帯型コンピュータ、ノートパソコン、タブレットコンピュータ、ポケットコンピュータ、電話、スマートフォン、又は任意の他の適切な電子機器によって、環境負荷推定結果を受信することが可能である。
また、事業者もアプリサーバ60を介して環境負荷推定結果を受信することが可能である。
なお、アプリサーバ60においては、個々のユーザ向けのスマートフォン用アプリ、一般企業向けの旅費精算などに用いるアプリ、事業者内の業務自動化などに用いるアプリなどを提供することができる。
さらに、環境負荷推定結果の受信は、必ずしもアプリサーバ60を通して受信しなければならないものではない。ネットワーク20を介して他のルートによって環境負荷推定結果を受信することとしてもよい。
【0021】
<環境負荷推定装置>
次に、
図2を参照して、環境負荷推定装置10の構成について説明する。
図2は、本開示の実施形態に係る環境負荷推定装置の構成の一例を示す図である。
環境負荷推定装置10には、前述のようにネットワーク20を介して外部の各種装置やサーバと接続されている。
環境負荷推定装置10は、各種データの取得を行うデータ取得部201、各種データから詳細環境負荷を推定する詳細環境負荷推定部203、経路環境負荷を推定する経路環境負荷推定部205、推定結果等を配信するデータ配信部207を備えている。
また、環境負荷推定装置10は、データ取得部が取得した各種データ等を格納し、詳細環境負荷推定部203及び経路環境負荷推定部205が処理を行うために必要な情報として、基礎データ211、統計データ213、計画データ215、計測データ217、推定方法パターン220、詳細環境負荷230、経路環境負荷240の情報を備えている。
なお、基礎データ211、統計データ213、計画データ215、計測データ217に格納されるデータの例については、後に詳述する。
【0022】
環境負荷推定装置10におけるデータ取得は、環境負荷推定装置10から業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50などにリクエストを送信して取得するPull型によってデータを取得してもよいし、業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50などから発信されるデータを取得するPush型によって取得してもよい。
また、データ取得元は、業務システム装置30、オープンデータ提供装置40、移動経路収集装置50などの外部の装置であっても良いし、環境負荷推定装置10内の記憶媒体であっても良い。
【0023】
さらにデータ取得のタイミングは、一定周期ごとでも、データ生成時などの任意のタイミングでも、いずれでも良く、詳細環境の負荷推定時、経路環境負荷の推定時のそれぞれ段階で利用するデータをその都度取得することとしてもよい。
データ配信についても、環境負荷推定装置から自ら発信するPush型で配信してもよいし、データ配信先からの要求を待って、Pull型で配信することとしてもよい。
ここで、データ配信先としては、外部の装置を想定するが、配信するデータについては、一時的あるいは永続的に環境負荷推定装置10内の記憶媒体に記憶することが望ましい。
さらにデータ配信のタイミングは、一定周期ごとでも、アプリからのリクエスト時などの任意のタイミングでも、いずれでも良い。
【0024】
<推定方法>
次に、
図3を参照して、環境負荷の種類やその推定方法について説明する。
図3は、環境負荷を推定するための推定方法の例を説明する概略図である。
環境負荷には消費電力量、CO
2排出量、その他フロン、メタン、NOXなどの温暖化ガス排出量など様々な指標が存在する。そして、それらの値を算出する方法・アルゴリズムも、多数存在する。
例えば、
図3はアウトプットとして推定したいデータ(データd)に対しては、推定方法が複数ある(推定方法1,2)ことを示している。推定方法1は、算出式Xと算出式Yを用いてデータdをアウトプットとして推定するものであり、推定方法2は、算出式Zを用いて、データdをアウトプットとして推定するものである。
【0025】
推定方法1においては、最初に用いる算出式Xにおいては、特定の精度を満たすデータaが必要であり、これが算出式Xのインプットとなる。データaの精度は算出式Xが定める精度であり、この精度要件を満たすデータaが存在しない場合には、推定方法1を採用しても正確性の高い推定値を算出することは難しい。
推定方法1においては、算出式Xが算出したデータbが算出式Xのアウトプットであり、かつ次の算出式Yのインプットとなる。
算出式Yにおいては、データb及びデータcをインプットとして、データdを算出することとなる。ここでも、算出式Yのインプットとして必要なデータの精度は、算出式Yが定めるものであり、データb及びデータcがこの精度要件を満たさないと、推定方法1は正確な推定値を導き出すことは難しい。
つまり、入力値となるデータは、そのデータと整合的な推定方法に代入されないと正確な推定値を導くことは難しい。
【0026】
一方、推定方法1以外の推定方法として、推定方法2が存在する場合がある。推定方法2においては、算出式Zのみでデータdをアウトプットとして推定するものである。算出式Zのインプットとして必要なデータの精度は、算出式Zが定めるものであり、データeがこの精度要件を満たさないと、推定方法2は採用することができない。
【0027】
推定方法1又は推定方法2によって推定されたデータdの精度は異なるものになる可能性があるが、上述のように、それぞれの推定方法で用いる算出式が必要とするインプットのデータの精度を決めておき、様々なデータの精度を評価しておけば、合理的に推定方法を選択して、合目的的に最適な環境負荷の推定を行うことができる。
【0028】
つまり、入手可能なデータや算出式には様々なものが混在しており、これらの精度の異なるデータや算出式を組み合わせて環境負荷を推定する場合には、環境負荷を推定する側、例えば、アプリサーバー側において、データの利用の可否を判定できるように、データの精度を評価しておくことが必要となる。
そうすることによって、
図3の例では、入手可能なデータの精度を推定して記憶しておき、推定方法1または推定方法2のいずれを選択するかをアプリサーバー側で決定し、必要なデータdが得られるようにしている。
このため、本開示においては、算出式毎に必要なデータの精度を定めておくとともに、データの種類に応じてデータの精度を判定し、これらのデータに整合的な推定方法や算出式に代入することで正確な推定値を導出することとしている。さらに具体的には、推定方法や算出式毎に取得したデータの使用の可否をデータの精度を用いて判断することとしている。
【0029】
このようなデータを算出式に代入して推定値を算出する手法を、例えば、公共交通の移動における環境負荷の算出に適用すれば、環境負荷データを詳細に推定することができる。このため、事業者がサプライチェーン排出量を算出するにあたり、アプリ等を用いて従業員の移動による排出量をより正確に算出することが可能となる。
また、消費者等の個々のユーザに、自分自身の行動による環境負荷を正確に把握させることで、モーダルシフトを推進し、環境意識向上への貢献が期待される。
【0030】
<データ属性と推定方法の切り替え>
次に、
図4から
図6を参照して、本開示において採用しているデータの属性の分類と推定方法の切り替えについて説明する。
本開示においては、データの属性を3種類に分類し、推定方法や算出式の選定を効率的に実施することができるようにしている。
図4から
図6においては、鉄道路線を走行する車両を例にして、環境負荷推定方法の切り替えについて説明するが、本開示は駅間を走行する鉄道車両の環境負荷に限定されるものではない。例えば、駅における様々な設備を使用することによる環境負荷の算出にも適用可能であるし、路線バスやその他の環境負荷の算出が必要なあらゆる局面に対して適用が可能である。
【0031】
図4から
図6は、X駅とY駅の間の駅間を走行した場合の環境負荷の指標である電力量とY駅到着後のY駅-Z駅の間の駅間を走行した場合の環境負荷の指標である電力量を推定するモデルを示したものである。
一般的に、電力量を推定する際には、ある駅を発車して、次の駅で停車するまでの駅間毎に電力量を推定することとなる。つまり、駅間毎に環境負荷を推定するためのデータを収集し、算出式にデータを代入して、駅間毎の環境負荷を計算することとなる。
具体的には、電力量を推定するためのデータとしては、例えば、車両の型式、遅れ時間、ランカーブ(横軸に走行位置、縦軸に速度を取り、列車の走行位置の変化に従い、各地点での速度の変化を曲線として表したグラフ)などがある。車両の型式は、いずれの型式の車両であるかによって環境負荷が異なるし、遅れ時間によってもその後のランカーブが異なることとなるため、ランカーブに影響を及ぼし、環境負荷の算出に影響を及ぼすこととなる。そして、ランカーブによって車両の走行に必要な電力量が変化し、環境負荷が変化することとなる。
つまり、環境負荷を推定するためには、環境負荷の推定区分ごとにこれらのデータを収集し、収集したデータの精度を見極めて、データの取得した状況に適した算出式を選定することが必要となる。つまり、推定区分ごとに推定方法を選定することとなり、駅間毎(推定区分毎)に推定方法を切り替える判断処理が発生することとなる。
しかし、算出式に代入するデータの属性をA:継続属性、B:因果属性、C:独立属性に分類しておくことにより、推定方法の切り替え判断の回数を減らし、環境負荷推定装置の計算負荷を減らすことが可能となる。
【0032】
(継続属性の例)
まず
図4を参照して、継続属性について、車両の型式データ400の例を用いて説明する。
図4においては、実線で囲まれた車両の型式データ400が継続属性であり、点線で囲まれた他のデータは、継続属性以外の属性となっている。
図4において、車両の型式データ400は、基本的に、同一の列車が始発駅を出発してから終点に到着するまで変更されることはないので、常にデータの内容および精度は一定であり、途中の運行経過によって変化することはない。つまり、このような継続属性を有するデータは、始発駅(最初の環境負荷の推定区分)でデータの精度を確認し、その精度が算出式の求める精度を満たしていれば、途中の駅間(後の環境負荷の推定区分)でデータの精度を改めて確認し、選定方法の見直しを行う必要はない。
具体的には、始発駅において型式データが取得できなかった場合には、型式の特定が必要な算出式を含む推定方法を採用することはできず、型式の特定を必要としない算出式を含む推定方法に変更しなければならない。そして、始発駅で採用された推定方法は、終点に到着するまで継続し、途中の駅間で推定方法の切替判断を行う必要はない。
【0033】
(因果属性の例)
次に
図5を参照して、因果属性について、遅れデータ500、501、502の例を用いて説明する。
図5においては、実線で囲まれた遅れデータ500、501、502が因果属性であり、点線で囲まれた他のデータは、因果属性以外の属性となっている。
図5において、遅れデータ500、501、502は、基本的に、前の駅間(前の環境負荷の推定区分)の遅れ時間に関連して変化するのが通常である。つまり、事故などが発生した場合を除いて、遅れ時間は、前の駅間の遅れ時間が漸増したり、漸減する傾向がある。このため、因果属性を有するデータについては、前の駅間で用いた推定方法を継続し、次の駅間(次の環境負荷の推定区分)で用いる場合もあるし、遅れデータの精度が変化することによって、推定方法を変更する可能性もある。
具体的には、X-Y駅間の遅れデータ500に精度が不足していることによって推定方法を変更していた場合、次の駅間(Y-Z駅間)において、遅れデータ501の精度が回復している場合には、推定方法を前の前の駅間(X駅以前の駅間)に戻す場合もあるし、遅れデータ502において精度が回復していない場合には、前の駅間(X-Y駅間)において採用した推定方法を引き続き採用することとなる。
【0034】
(独立属性の例)
次に
図6を参照して、独立属性について、ランカーブ600、601の例を用いて説明する。
図6においては、実線で囲まれたランカーブ600、601が独立属性であり、点線で囲まれた他のデータは、独立属性以外の属性となっている。
図6において、Y-Z駅間(推定の対象となる推定区分)のランカーブ601は、基本的に、前の駅間(X-Y駅間)(前の環境負荷の推定区分)のランカーブ600とは無関係であることが多い。このため、独立属性を有するデータについては、データの有する精度の変化によって、推定方法を各駅間において常に変更する可能性がある。
具体的には、前の駅間(X-Y駅間)において一時的なデータの欠損のためにランカーブ600の精度が不足していることによって推定方法を変更していた場合であっても、次の駅間(Y-Z駅間)においてはランカーブ601の精度は十分である可能性が高い。このため、基本的に各駅間においてランカーブの精度を判断し、各駅間において推定方法の切替判断を行う必要がある。
【0035】
このようにデータの特性に応じて推定方法の切替判断処理の決定方法を類型化しておくことにより、推定区分ごとに行う推定方法判断処理の回数を減らし、環境負荷推定装置の計算負荷を軽減することが可能となる。このような処置を講じることは、リアルタイムで環境負荷推定を行う際には、特に有効な方策となる。
【0036】
<メインフロー>
次に、
図7を参照して、本開示の環境負荷推定のフローについて説明する。
図7は、環境負荷推定のためのメインフローを示したフローチャートである。本開示における環境負荷推定は、ステップ700の「詳細環境負荷の推定」およびステップ750の「利用経路の環境負荷推定」の2段階から構成される。
【0037】
なお、以下の説明では、鉄道の列車での移動を例にして環境負荷推定について説明するが、本開示はこれらに限定されるものではなく、バスや自家用車など様々な移動形態に適用することができる。自家用車の場合には、車種やプローブデータ(走行する車に装備されている様々なセンサーから得られるデータ)や走行する道路の情報などから詳細の環境負荷を推定することができる。
また、鉄道の列車に関する環境負荷については、駅間毎ではなく、駅ごと、駅の中の施設ごとなどでも良い。当然に、バスに適用する場合には、バス車両ごと、停留所ごとなど様々な状況に適用することができる。
【0038】
本開示における、詳細環境負荷の推定の詳細については、後述するが、詳細環境負荷の推定とは、公共交通機関などのサービスを開始から終了に至るまでの乗客一人当たりの環境負荷を推定する推定プロセスである。つまり、移動サービスごとに分析される環境負荷に関するデータを生成するプロセスである。
一方、ステップ750の利用経路の環境負荷推定とは、移動サービスを利用するユーザの経路に基づき、ユーザごとの環境負荷を推定する推定プロセスである。利用経路の環境負荷推定の詳細についても後述するが、利用経路の環境負荷を推定するためには、ユーザごとの移動経路情報の取得が必要となる。
【0039】
なお、環境負荷の推定は、予測値に基づく推定の場合もあるし、実績値に基づく推定の場合もある。推定値の精度は、実績値に基づく推定の方が高精度となるが、推定値算出のフローとしては同じである。
予測値に基づく環境負荷推定データの用途としては、例えば、ユーザが経路検索等をおこなった際に、検索結果の経路について、環境負荷推定値を示すことで、ユーザ(乗客)の行動変容を促すことなどに活用できる。一方、実績値に基づく環境負荷推定データの用途としては、例えば、ユーザの移動実績に基づいて、環境負荷の低減への貢献に応じてエコポイントを付与したり、企業がサプライチェーンにおけるCO2排出量などを算出する際に活用できる。
【0040】
<詳細環境負荷の推定>
次に、
図8を参照して、旅客鉄道の列車ごとの消費電力量やCO
2排出量などの詳細環境負荷の推定を例にして説明する。
図8は、
図7に示したステップ700の詳細環境負荷の推定内容を詳細に説明するフローチャートである。
図8の詳細環境負荷の推定は、ステップ801の「列車ごとの環境負荷の推定」、ステップ802の「乗客一人当たりの環境負荷の推定」およびステップ803の「推定精度情報を付与し、詳細環境負荷として記憶」の3段階から構成される。
まず、ステップ801の「列車ごとの環境負荷の推定」においては、列車ごとに走行路線の各駅間毎の環境負荷を推定する。
なお、列車ごとの環境負荷の推定については、詳細は後述する。
次に、ステップ802の「乗客一人当たりの環境負荷の推定」においては、各列車の各駅間の乗車人員のデータで列車ごとの環境負荷を除し、一般的な乗客一人当たりの環境負荷を推定する。つまり、ステップ801のアウトプットを乗車人数で按分することとなる。
【0041】
なお、乗車人数の推定については、後に、
図14を用いて詳述する。
この手法が、旅客列車ではなく、貨物列車に適用される場合には、乗車人数ではなく、貨物の単位質量あたりで按分してもよい。
そして、ステップ803の「推定精度情報を付与し、詳細環境負荷として記憶」においては、算出した推定値に対して、データの精度を付与し、詳細環境負荷として記憶する。
具体的には、ステップ801の「列車ごとの環境負荷の推定」およびステップ802の「乗客一人当たりの環境負荷の推定」において使用した算出式の精度、データの精度(データの有無、実績か予測か、リアルタイム性、取得頻度、計測単位など)に基づき、最終アウトプットである総環境負荷値に対し「推定精度情報」を付与する。推定精度情報の形式としては、数値(%など)形式でも良いし、実際に使用した式・データとその精度を精度情報として付与しても良い。
【0042】
このように、詳細環境負荷の推定値に対して推定精度情報を付与しておくことによって、このデータを利用するアプリ側において、データ利用の際に目的に合致したデータを選択可能とすることができる。
また、公共交通の移動における環境負荷データを詳細に推定できることで、環境負荷データを様々なアプリに活用できるようになる。
例えば、事業者がサプライチェーン排出量を算出するにあたり、従業員の移動による排出量をより正確に算出できる。さらに、消費者に自分自身の行動による環境負荷を正確に把握させることで、環境意識向上への貢献が期待される。
【0043】
<列車ごとの環境負荷の推定>
次に、
図9を参照して、
図8のステップ801の「列車ごとの環境負荷の推定」について説明する。
図9は、列車ごとの環境負荷の推定のフローをデータの属性ごとに分類して説明したフローチャートである。
(ステップ901)
まず、ステップ901において、環境負荷の推定の対象となる列車と区間を指定する。
【0044】
(ステップ902)
次に、ステップ902から、環境負荷の推定の対象となる列車と区間について、列車の走行順に繰り返して以下のステップ903から909のステップを繰り返すこととなる。なお、繰り返しの順番については、必ずしも対象区間の駅間の順や走行順に限定する必要はない。利用頻度の高い駅間や列車、環境負荷の推定の必要性の高い駅間や列車の順に繰り返しを行うこととしてもよい。
【0045】
(ステップ903)
次に、ステップ903において、環境負荷を推定するための推定方法となる候補を設定する。推定方法としては、既存の様々な推定方法を採用することができる。
【0046】
(ステップ904)
次に、ステップ904において、推定方法の候補の算出式に代入するデータについて、データの属性を継続属性(A)、因果属性(B)、独立属性(C)に分類し、それぞれの属性に基づいて、ステップ905~908の処理を行う。
【0047】
(ステップ905)
ステップ905は、データが継続属性の場合の推定方法の決定プロセスである。ステップ905では、最初の駅間において取得できたデータに基づいて、採用できる推定方法を決定し、その推定方法をすべての対象区間において適用することとする。つまり、初回に決めた推定方法を2回目以降の繰り返しの中でも継続して用いることを決定する。これによって、継続属性のデータについては、対象区間における繰り返しのフローの中で、推定方法の判断を行う必要がなくなり、環境負荷推定の計算負荷を軽減することが可能となる。
なお、採用する推定方法の詳細についは、後述する。
【0048】
(ステップ906及び907)
ステップ906は、データが因果属性の場合の推定方法の決定プロセスである。ステップ906では、ある駅間において取得できたデータに基づいて、採用できる推定方法を決定し、次の駅間においては、ステップ907において、前の駅間において採用した推定方法を推定方法の候補として採用し、取得できたデータが前の駅間で採用した推定方法に適用可能な精度を備えているか否かを判断し、適用可能であれば、そのまま前の駅間で採用した推定方法の算出式を用いて環境負荷を推定することとする。これによって、因果属性のデータについては、採用する推定方法の候補を前の駅間で採用した推定方法に絞ることが可能となり、推定方法判定に関して、環境負荷推定の計算負荷を軽減することが可能となる。つまり、因果属性を有するデータについては、前の駅間と次の駅間において、データの精度が大きく変化する場合は少ないと考えられるため、前の駅間で採用した推定方法を適用可能である確率が高い。このため、前回採用した推定方法を次の推定方法候補とすることによって、計算負担を軽減できる。しかし、データの精度が変化し、前の推定方法が適用できない場合には、別途の推定方法を選択する必要がある。
なお、採用する推定方法の詳細についは、後述する。
【0049】
(ステップ908)
ステップ908は、データが独立属性の場合の推定方法の決定プロセスである。データが独立属性の場合には、ある駅間において取得できたデータが、次の駅間において適用可能である割合は低いので、基本的に、すべての駅間において、取得できたデータに基づいて採用可能な推定方法を決定し、その推定方法に基づいて環境負荷を推定することとなる。
【0050】
なお、ステップ905、ステップ906、ステップ908においては、一つの推定方法に複数の算出式や複数のデータ属性が含まれる場合には、すべての算出式毎にデータの精度を踏まえてデータの使用の可否、つまり代入の可否を判断することとなる。採用する推定方法の詳細についは、後述する。
【0051】
(ステップ909)
次に、ステップ909においては、上述した推定方法に基づいて環境負荷を算出し、その結果を記録する。
【0052】
(ステップ910)
次に、ステップ910においては、対象区間内の駅間や対象列車について、環境負荷の推定が完了するまでステップ903からステップ909を繰り返し、完了した場合には終了に移行することとする。
【0053】
つまり、本開示の環境負荷の推定方法は、推定区分ごとに、以下の第1から第4の工程を繰り返して環境負荷を推定する方法である。
(1)環境負荷の推定区分ごとに、推定方法の候補を設定する第1の工程
(2)第1の工程において設定した推定方法に用いる算出式と前記算出式に用いるデータについて、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度との整合性を検証する第2の工程
(3)第2の工程において、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合した場合には、当該推定方法を用いて環境負荷の推定を行う第3の工程
(4)第2の工程において、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合しない場合には、算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合する推定方法を探索し、探索した推定方法の算出式が求めるデータの精度と取得したデータの精度とが整合した場合には、当該探索した推定方法を用いて環境負荷の推定を行う第4の工程
【0054】
さらに、本開示の環境負荷推定方法は、以下の要件を含んでもよい。
(5)算出式に用いるデータが継続属性を備えるデータの場合には、最初の推定区分以降は、第1の工程で設定する推定方法の候補に、最初の推定区分で採用した推定方法を設定する
(6)算出式に用いるデータが因果属性を備えるデータの場合には、最初の推定区分以降は、第1の工程で設定する推定方法の候補に、一つ前の推定区分で採用した推定方法を設定する
【0055】
<継続属性の場合の推定方法の詳細>
次に、
図10を参照して、データの属性が継続属性である場合の推定方法の詳細について、説明する。
図10は、
図9で概略を説明したデータの属性が継続属性である場合の推定方法のフローチャートである。
図9で既に説明した、ステップ902、ステップ909、ステップ910については、
図9の場合と同一なので、説明を省略する。
【0056】
(ステップ1002及びステップ1060)
環境負荷の推定区分が確定した後、最初のステップでは、まず、初回の推定区分か否かを判断し、Yesである場合には、次のステップ1010に進む。NOである場合には、ステップ1060に進み、この区分において採用する推定方法pを初回に採用した推定方法P1と決定する。
つまり、データ属性が継続属性の場合は、初回の推定区分において推定方法を定めれば、2番目以降の推定区分において、初回と同じ推定方法を採用すればよい。これによって、2番目以降の推定区分において、推定方法を決定するための演算を省略することが可能となり、演算負荷を低減して、環境負荷の推定が実現できることとなる。
【0057】
(ステップ1010及びステップ1020)
ステップ1002において、初回の推定区分であると判断された場合には、ステップ1010において、推定方法pの候補に初期値を設定する。つまり、推定方法を例えば、P0と設定し、ステップ1020に進む。
ステップ1020においては、先のステップ1010で設定された推定方法P0に必要なデータを取得する。
【0058】
(ステップ1030)
次に、ステップ1030では、ステップ1020で取得したデータの精度を参照し、取得したデータが推定方法P0で使用可能か否かを判断し、使用できなければ、ステップ1040に進み、使用可能であればステップ1050に進む。
【0059】
(ステップ1040)
次に、ステップ1030において、取得したデータが使用できなと判断された場合は、ステップ1040において、推定方法の変更を行う。例えば、推定方法を先に設定したP0以外の推定方法であるPxに変更し、ステップ1020に戻り、変更した推定方法Pxに必要なデータを取得し、再度ステップ1030においてデータの精度に基づいて当該推定方法に使用できるか否かを判断する。つまり、推定方法と当該推定方法に使用可能なデータの組み合わせが見つかるまでルーティンを繰り返すこととなる。
なお、ステップ1040における推定方法の変更においては、最終的に選択する推定方法として、データの精度を問わない推定方法を準備しておき、ステップ1020からステップ1040までのルーティンが無限ルーティンにならないようにしてもよいし、ルーティンの繰り返し回数に上限を設定し、上限に達した場合には、別途の処理を行うように設定してもよい。
【0060】
(ステップ1050及びステップ1060)
次に、ステップ1030において、取得したデータが使用できる判断された場合は、ステップ1050において、推定方法を例えばP1に決定し、ステップ1060において、決定した推定方法P1を2回目以降も採用するように記憶する。
【0061】
<因果属性の場合の推定方法の詳細>
次に、
図11を参照して、データの属性が因果属性である場合の推定方法の詳細について、説明する。
図11は、
図9で概略を説明したデータの属性が因果属性である場合の推定方法のフローチャートである。
図9において既に説明した、ステップ902、ステップ909、ステップ910、更に
図10において既に説明した、ステップ1010,ステップ1020、ステップ1030、ステップ1040については、
図9、
図10の場合と同一なので、説明を省略または簡略化する。
【0062】
(ステップ1002およびステップ1010以降)
環境負荷の推定を行う区分が確定した後、最初のステップでは、継続属性の場合と同様に、まず、初回の推定区分か否かを判断し、Yesである場合には、継続属性の場合と同様に、ステップ1010において推定方法の初期値を設定する。次に、ステップ1020からステップ1160によって初回(1番目の駅間)の推定方法を決定し、ステップ909において計算実行、出力結果を記録する。なお、初回の場合には、ステップ1150においてはn=1であるから、p=P1となる。
【0063】
(ステップ1102)
初回以外の場合には、ステップ1002からステップ1102に進み、推定方法候補として、前回採用した推定方法を設定する。つまり、2番目の駅間で1番目の駅間で採用した推定方法であるp=P1が仮置きされることとなる。
因果属性を備えるデータの場合には、前回採用したものと同様の精度のデータを取得できる可能性が高いの、前回用いた推定方法が採用可能である可能性が高い。このため、前回採用した推定方法を最初に設定することによって、推定方法を決定するための計算負荷を大きく低減することが可能となる。
【0064】
<独立属性の場合の推定方法の詳細>
次に、
図12を参照して、データの属性が独立属性である場合の推定方法の詳細について、説明する。
図12は、
図9で概略を説明したデータの属性が独立属性である場合の推定方法のフローチャートである。
図9において既に説明した、ステップ902、ステップ909、ステップ910、更に
図10において既に説明した、ステップ1010,ステップ1020、ステップ1030、ステップ1040については、
図9、
図10の場合と同一なので、説明を省略または簡略化する。
【0065】
データ属性が独立属性である場合は、データの精度が以前の駅間のデータの精度に影響されることが少ないと考えられるため、いずれの駅間であっても、初期値から推定方法を探索し、データを取得し、当該駅間に適用する推定方法を決定する必要性が高い。
このため、独立属性である場合は、ステップ1010によって推定方法の初期値を設定し、ステップ1020においてデータを取得し、ステップ1030においてデータの使用の可否を判断する。そして、データの使用が不可であれば、ステップ1040で推定方法を変更して、再度データを取得し、ステップ1020に戻り、変更した推定方法Pxに必要なデータを取得し、再度ステップ1030においてデータの精度に基づいて当該推定方法に使用できるか否かを判断する。
【0066】
つまり、推定方法と当該推定方法に使用可能なデータの組み合わせが見つかるまでルーティンを繰り返すこととなる。
なお、ステップ1040における推定方法の変更においては、最終的に選択する推定方法として、データの精度を問わない推定方法を準備しておき、ステップ1020からステップ1040までのルーティンが無限ルーティンにならないようにしてもよいし、ルーティンの繰り返し回数に上限を設定し、上限に達した場合には、別途の処理を行うように設定してもよいことは、継続属性の場合や因果属性の場合と同様である。
【0067】
(ステップ1050)
ステップ1050において採用する推定方法が決定できた場合には、ステップ909において、計算実行、出力結果を記録することは、継続属性の場合や因果属性の場合と同様である。しかし、独立属性の場合には、当該駅間での推定方法を後に使用することがないので、継続属性のステップ1060や因果属性のステップ1160で行ったような推定方法の記録は必ずしも行う必要はない。
【0068】
なお、一つの算出式にA:継続属性、B:因果属性、C:独立属性の異なる属性のデータの代入が必要な場合には、いずれかの属性を優先して適用することを定めておき、優先する属性の算出式であると仮定して推定方法の候補を設定すればよい。
具体的には、以下の(1)~(3)のように定めておくことができる。
(1)算出式にA:継続属性のデータが含まれている場合には、A:継続属性として
図10に示した処理を実施する。
(2)算出式にA:継続属性のデータが含まれておらず、B:因果属性が含まれている場合には、B:因果属性として
図11に示した処理を実施する。
(3)算出式にC:独立属性のデータのみが含まれている場合にだけ、C:独立属性として
図12に示した処理を実施する。
【0069】
(列車ごとの環境負荷を推定する場合のデータの例)
次に、
図13を参照して、列車ごとの環境負荷を推定する場合に、推定方法の算出式に代入(インプット)するデータの例について説明する。
図13は、
図8において説明したステップ801の列車ごとの環境負荷を推定する場合に推定方法の算出式に代入するデータの例を示したものである。
図13は、旅客列車の列車ごとの環境負荷を推定のためのデータ例であるが、他の公共交通機関や施設、設備等の環境負荷を推定する場合には、測定の対象に応じた様々なデータを用いることができる。
【0070】
図13の1310の列はデータの種類を交通機関のサービスを提供する事業者が提供する業務システムに関するデータと事業者以外が提供する一般的に活用可能なオープンデータに分類して示している。
列車ごとの環境負荷を推定する場合の推定方法では、上述したデータを算出式に代入して、環境負荷を推定することが可能であり、個々のデータや算出式は公知のものを用いることができる。
なお、1320から1370の列に記載の情報はデータを作成するシステムや事業者によって異なるものであり、
図13の記載は一例である。
【0071】
例えば、列車の運行に必要な電力量は、電力管理システムにおける列車走行電力量から算出することが可能であるし、その電力の購入先と、購入先のエネルギー調達経路からCO2排出量として、環境負荷を推定することが可能となる。
環境負荷の推定方法は既存の多数の算出式活用することができる。
本開示においては、算出式を採用するにあたり、それぞれの算出式の必要なデータの精度をあらかじめ定めておくとともに、取得したデータに対して、データの有無やデータの取得タイミング(頻度)を含めた精度情報を付すこととしている。このため、取得したデータに適した算出式を用いて、正確な環境負荷の推定が可能となる。
【0072】
<乗客数の推定>
次に、
図14を参照して、
図8で示した乗客一人あたりの環境負荷を推定するために必要な乗客数の推定ためのデータについて説明する。
列車の乗客数は
図14に例示されているようなデータを用い、適宜組み合わせることによって推定することが可能である。
図14のデータの配列は、
図13の計画データ1360が販売データ1450に変更されている点のみで異なる。このため、
図13と同一の項目について説明を省略する。
図14の販売データ1450は、事前に生成される営業に関するデータである。
例えば、監視カメラシステムにおけるカメラ映像から、直接的に列車の乗車人数を推定することが可能である。
また、システム名称におけるBeaconシステムは、駅やバス停に小型の発信機(ビーコン)を設置しておき、ビーコンからのブルートゥース(登録商標)の信号をユーザのスマートフォンが受信すると、スマートフォンに乗車記録が記憶されるシステムである。このようなシステムを用いると、ビーコンとスマートフォンとの通信情報から列車等に乗車した人数を推定することも可能となる。
本開示においては、
図14で説明したようなデータについても、
図13に例示したデータと同様に、データの有無やデータの取得タイミング(頻度)を含めた精度情報を付すこととしている。このため、取得したデータに適した算出式を用いて、正確な人数の推定が可能となる。
【0073】
(データの入力例)
次に、
図15、
図16、
図17を参照して、
図13を用いて説明した「列車ごとの環境負荷」を推定するデータの入力例について説明する。
図15は、2つの推定方法の例を示したものである。パターンID1510は、推定方法を識別するためのIDをパターンIDとして示している。入力データ1520は、それぞれの推定方法が出力するデータを示しており、
図15の例では、いずれの推定方法も電力量を推定するものであることを示している。また算出式ID1540は、それぞれの推定方法で用いる算出式を示しており、
図15の例では、パターンID1の推定方法は、F1およびF2の2つの算出式を用い、パターンID2の推定方法では、F3の算出式1つのみを用いることを示している。さらに、精度1550では、出力する電力量の精度を示している。
なお、ここで、出力値の精度は、数値(%など)で定義しても良いし、高・中・低などでも良い。取得頻度(秒単位、分単位など)でも、計測単位(ミリ、キロなど)でも良い。
また、使用条件1560とは、該当する推定方法パターンを使用するための条件を示したものである。使用条件1560としては、数値(例えば、遅れ時間X分以下など)で定義しても良いし、場所や時間を条件にしても良いし、データの値で条件を決めても良い。
【0074】
図16は、データ属性の定義の例を示したものである。データID1610は、算出式に代入するパラメータの種類を識別するためのIDをデータ名で示している。データID1610は、データ名だけを示すものであり、データの値や精度は含まれない。
また、分類1620は、
図9などを用いて説明した「データの属性」を規定している。
このようにデータID1610毎に「データの属性」が規定されていることにより、
図9などで説明した「列車ごとの環境負荷」の推定において、データの分類を用いて、効率的に適正な算出式を備えた推定方法を決定することができる。なお、「データの属性」が規定されていないデータに関しては、全て「独立属性」であるものとする。
【0075】
図17は、算出式の定義の例を示したものである。算出式ID1710は、算出式を識別するためのIDを示している。また、コンテンツ1720は、算出式そのものとして、具体的なアルゴリズム、処理フロー、数式などが格納されている。
また、入力データ1730及び出力データ1740では、インプットとなるデータおよびアウトプットとなるデータの種類が規定されている。そして、精度1750では、該当する算出式を使用した場合の出力データ1740の精度が格納されている。そして、使用条件1760には、該当する算出式を使用する場合の条件が格納されている。
このため、
図17の例では、出力データとして電力量を求めるためには、算出式としてはF2とF3の二つの算出式が存在し、それぞれ入力すべきデータが異なっており、出力データの精度にも相違があることが分かる。
【0076】
上述の説明から明らかなように、
図15は、推定方法毎に
図16および
図17の内容を統合したものであり、
図15によって、「列車ごとの環境負荷」のデータについて、推定精度情報の付与が可能となっている。
【0077】
次に、
図18を参照して、
図8のステップ803で説明した「推定精度情報を付与し、詳細環境負荷として記憶」する際の出力例について説明する。
図18は、
図15によって出力された「列車ごとの環境負荷」を「環境負荷の推定区分」毎に乗客数で割り戻し、個人環境負荷値1870として示したものである。
図18において、環境負荷指標1810は、電力量、CO
2排出量などの環境負荷の指標を示している。列車番号1820、推定区間始点1830、推定区間終点1840は、環境負荷の推定区分を規定する情報であり、推定区間始点1830、推定区間終点1840は、駅名ではなくキロ程(起点からの距離をキロメートル単位で示した値)でも良い。また、列車番号1820、推定区間始点1830、推定区間終点1840とダイヤとを照合すれば、時刻情報も得られることとなる。
総環境負荷値1850は、該当する列車、区間、つまり、環境負荷の推定区分における環境負荷の値である。乗車人数1860は、該当する環境負荷の推定区分における乗車人数であり、個人環境負荷値1870は、総環境負荷値1850を乗車人数1860で除した値であり、一人当たりの環境負荷の値である。さらに推定方法1880は、どの推定方法(算出式、データ)を使用したかを示しており、精度1890は推定精度情報を示すものである。
【0078】
次に、
図19を参照して、利用経路の環境負荷の推定について説明する。
図19は、
図7に示したステップ750の利用経路の環境負荷の推定内容を詳細に説明するフローチャートである。
【0079】
(ステップ1910)
ステップ1910においては、ユーザ(乗客ということもある。)の行動経路、交通機関の利用経路は、既知の様々な方法により取得することができる。乗客の交通機関の利用経路を取得するデータの例については、後述する。
【0080】
(ステップ1920)
ステップ1920においては、乗客の交通機関の利用経路に基づいて、利用する列車を特定する。
例えば、車内の通信端末にスマートフォンをかざして乗車証明を取得した場合や、スマートフォンのGPSから取得できる位置・移動速度などの情報とダイヤ(計画ダイヤ又は実績ダイヤ)を紐づける場合、改札の通過時刻から乗車可能な列車を推定することなどが可能である。
【0081】
(ステップ1930)
ステップ1930においては、乗客の利用経路を環境負荷の推定区分(以下、「フラグメント」とも言う。)に分解する。具体的な推定区分への分解の例については、後述する。
【0082】
(ステップ1940、ステップ1941、ステップ1943、ステップ1945)
ステップ1940以降においては、ステップ1930で生成した推定区分ごとに環境負荷の推定を行う。まず、ステップ1941において、各フラグメントごとに詳細環境負荷の有無を確認し、詳細環境負荷のデータが存在すれば、ステップ1943において、詳細環境負荷を取得する。ステップ1943においては、
図8で説明したステップ803において記憶した詳細環境負荷を用いることとなる。
ステップ1941において、詳細環境負荷が得られないことが判明した場合には、ステップ1945に進み、概算環境負荷を推定する。ここで、概算環境負荷としては、一般的な単位輸送量あたりのCO
2排出量×移動距離などの公知の手法を用いて推定した値である。
【0083】
(ステップ1950)
ステップ1950においては、各フラグメントの推定値を統合する。統合した推定値の例については、後述する。
【0084】
<利用経路データ>
次に、
図20を参照して、
図19のステップ1910で取得する、乗客の行動経路、交通機関の利用経路を取得するデータの例について説明する。
図20においてシステム種別2010は、データの入手先のシステム種別を示しており、主に、事業者が提供する業務システムとユーザのスマートフォンの位置情報などを扱うシステム・装置などがある。そして、
図20においては、それらのシステムに含まれている代表的なシステムをシステム名称2020、データの種類をデータ名称2030として示している。
なお、2020から2070の列に記載の情報はデータを作成するシステムや事業者によって異なるものであり、
図20の記載は一例である。
移動経路収集装置の位置移動アプリにおける「位置(GPS等)、時間、移動手段」は、スマートフォンのGPSや加速度センサから取得できる位置、時間、移動速度、加速度、振動などのデータに基づき、各時刻の位置と移動手段(歩行、自転車、自動車、バス、電車など)を推定することが可能である。また、ユーザのスマートフォンとサーバの接続成否情報から、例えばGPSが取得できない場合には、ユーザが地下鉄を利用している可能性が高い、という判断も可能となる。これらの情報と鉄道事業者などが持つ運行管理システムのダイヤ・在線データ等と照合すれば、ユーザが利用する鉄道の検知や乗車列車の特定は高精度で特定できることとなる。
【0085】
また、データ取得タイミング2040は、それぞれのデータの取得タイミング、頻度を示している。予定データ2050、予測データ2060、実績データ2070は、それぞれのデータの確度に関連するデータの算出根拠の種別を表すものである。予定データは、事前に予定される情報に基づくものであり、ある程度確度が高いデータであることを示している。また、予測データは、過去の分析等から予測される情報であり、確度は低いことを示している。さらに、実績データは、当日~翌日以降、移動の実績として取得される情報であることを示している。
【0086】
<フラグメントへの分解>
次に、
図21を参照して、移動経路をフラグメントに分解した場合の例を説明する。
図21に示すように、地点Aから地点Bまで移動する場合に、駅Wから駅Zの間は、駅W~駅X、駅X~駅Y、駅Y~駅Zのフラグメント2100に経路を分解することができる。
【0087】
<乗客利用経路>
次に、
図22を参照して、
図19のステップ1910で取得した乗客の利用経路およびステップ1920で特定した利用列車の情報を統合したデータの例を説明する。
図22において、乗客ID2210は、個々の乗客を識別するためのIDであり、経路順序2215は、乗客のたどる経路の順番を示している。
移動区間始点2220、移動区間終点2225は、乗客の移動経路をフラグメントに分解した場合のそれぞれのフラグメントの始点と終点を示している。また、移動時間始点2230および移動時間終点2235も、フラグメント毎の移動開始の時間と移動終了の時間を示している。また、移動手段2240はそれぞれのフラグメントに用いた移動手段を示している。これら乗客ID2210から移動手段2240のデータは、
図19のステップ1910で付与されたデータである。
また、利用列車番号2245は、利用する列車を特定する情報であり、
図19のステップ1920で付与されたデータである。
【0088】
<経路環境負荷>
次に、
図23を参照して、経路環境負荷を算出した結果の例を説明する。
図23は、利用経路をフラグメントに分解し、フラグメントごとの環境負荷を統合した例である。
乗客ID2310、経路順序2315、移動区間始点2325、移動区間終点2340移動時間始点2325および移動時間終点2340、移動手段2345は、それぞれ
図22の乗客ID2210、経路順序2215、移動区間始点2220、移動区間終点2225、移動時間始点2230、移動時間終点2235及び移動手段2240に対応している。フラグメント2320は、
図21で説明したフラグメントに付した番号である。
また、環境負荷指標2350、個人環境負荷値2355、推定方法2360、精度2365は、
図19のステップ1943及びステップ1945で付与したデータである。
この場合、
図19のステップ1945によって、概算環境負荷を推定した場合であっても、推定方法2360、精度2365に記録しておくことが望ましい。
図23の経路環境負荷を示した例では、フラグメント毎に経路環境負荷を示したが、使用する目的に応じて、交通手段ごと(徒歩、鉄道、自家用車など)あるいは一部のフラグメントを統合しても良い。さらに、環境負荷指標2350が同じ環境負荷指標になるように変換して(例えば、電力量をCO
2排出量に変換して)、合計値として推定しても良い。
【0089】
<表示パターン>
次に、
図24乃至
図27を参照して、環境負荷の推定結果の表示例について説明する。
図24及び
図25は、事後者向けに環境負荷の推定結果を列車ごとに示した例である。
図24は、ヒートマップ形式で環境負荷を可視化した例であり、乗客一人当たりの環境負荷値を表記しており、環境負荷が大きいほど背景色を濃く表示している。
また、
図25は、環境負荷推定値をダイヤ図の形式で表示した例である。グラフの縦軸が駅間を示しており、横軸は時間を示している。そして、一人当たりの環境負荷値が大きいほど、太い線で表記しどの時間帯のどの列車が環境負荷が高いかが一目で理解できるものとなっている。
【0090】
次に、
図26は、乗客向けの経路探索や移動履歴表示の形式で、環境負荷推定値を移動区間ごとに示している。
地点Aから駅Wまでの徒歩区間2610におけるCO
2排出量は0gであり、駅Wから駅Xまでの鉄道による移動区間2620におけるCO
2排出量は100gであるのに対して、駅Xから地点Bまでの車による移動区間2630では、CO
2排出量は500gであることが一目で理解できる。
【0091】
次に、
図27を参照して、乗客一人当たりの環境負荷推定値(消費電力量、CO
2排出量)の活用事例について説明する。
図27は、想定ユーザ2710として個々の乗客やユーザ、事業者、一般企業を分類して示している。また、提供値タイミング2720として、事前、事後に分類して示している。ここで、事前とは、例えば、列車の運行前に環境負荷を予測し、ユーザにその情報を用いて、アプリなどによって環境負荷推定値の情報を配信する場合を念頭に置いている。事前に情報を配信する場合には、提供する情報やデータのリアルタイム性に価値があると考えられる。一方、事後とは、例えば、列車の運行後に環境負荷の実績を推定し、ユーザにその情報を用いたアプリを配信する場合を念頭に置いている。事後に事前に情報を配信する場合には、提供する情報やデータの正確性に価値があると考えられる。
用途2730の欄は、具体的な用途の例を示しており、提供する価値2740は、それぞれの用途によって期待される社会に提供できる価値を例示している。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
例えば、環境負荷の推定において上述の事例では、ユーザが徒歩、列車、自動車を用いて出発地から目的地まで移動する場合について説明したが、本開示が適用できる環境負荷の推定は、これらの移動形態に限定されるものではなく、環境負荷が発生するあらゆる活動に適用できることは言うまでもない。
例えば、大きな移動を伴わなくとも、一つの建屋内での設備の使用や、人間の行動について環境負荷が発生していれば、そのような環境負荷に対して本開示の推定装置やシステム等を適用することによって、正確な環境負荷の推定値を得ることができ、環境負荷の低減を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
10:環境負荷推定装置
20:ネットワーク
30:業務システム装置
40:オープンデータ提供装置
50:移動経路収集装置
60:アプリサーバ
101:記憶装置
102:プログラム
103:データ
110:メモリ
120:CPU
130:UI装置
140:通信装置
150:バス
201:データ取得部
203:詳細環境負荷推定部
205:経路環境負荷推定部
207:データ配信部
211:基礎データ
213:統計データ
215:計画データ
217:計測データ
220:推定方法パターン
230:詳細環境負荷
240:経路環境負荷