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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137071
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドの液体循環装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/18 20060101AFI20240927BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20240927BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 501
B41J2/14 603
B41J2/14 605
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048437
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】324006865
【氏名又は名称】理想テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁田 昇
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA26
2C056FA13
2C056HA05
2C056KA01
2C056KB16
2C057AF71
2C057AG12
2C057AG30
2C057AG44
2C057AG68
2C057AN05
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液体の循環流の形成と液体の吐出を正常に行う液体吐出ヘッドの液体循環装置を提供する。
【解決手段】液体循環装置は、液体吐出ヘッド、上流側液体流路、下流側液体流路、圧力調整部、循環路、およびポンプを備える。液体吐出ヘッドは、ノズルに連通する圧力室、圧力室の液体流入口に連通する上流側液体マニホールド、上流側液体マニホールドに連通する上流側ポート、圧力室の液体流出口に連通する下流側液体マニホールド、下流側液体マニホールドに連通する下流側ポートを備える。圧力調整部は、下流側液体流路側に設ける。ポンプは、循環路に設ける。液体は、上流側液体流路から液体吐出ヘッドに供給し、液体吐出ヘッドから排出される液体は、下流側液体流路、圧力調整部、循環路を介して上流側液体流路に循環させる。圧力室の液体流出口から圧力調整部までの流路抵抗は、上流側液体流路の入口から圧力室の液体流入口までの流路抵抗よりも小さい。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室、前記圧力室の液体流入口に連通する上流側液体マニホールド、前記上流側液体マニホールドに連通する上流側ポート、前記圧力室の液体流出口に連通する下流側液体マニホールド、前記下流側液体マニホールドに連通する下流側ポートを備える液体吐出ヘッドと、
前記上流側ポートに接続した上流側液体流路と、
前記下流側ポートに接続した下流側液体流路と、
前記下流側液体流路側に設けた圧力調整部と、
前記上流側液体流路と前記下流側液体流路を接続する循環路と、
前記循環路に設けたポンプと、を備え、
前記液体は、前記上流側液体流路から前記液体吐出ヘッドに供給し、前記液体吐出ヘッドから排出される前記液体は、前記下流側液体流路、前記圧力調整部、前記循環路を介して前記上流側液体流路に循環させ、
前記圧力室の液体流出口から前記圧力調整部までの流路抵抗は、前記上流側液体流路の入口から前記圧力室の液体流入口までの流路抵抗よりも小さいことを特徴とする液体吐出ヘッドの液体循環装置。
【請求項2】
前記圧力室の前記液体流入口と前記上流側液体流路の入口の間にリストリクタと前記ノズルを有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの液体循環装置。
【請求項3】
前記ノズルから前記液体を吐出しないときの前記液体の循環流量は、前記液体吐出ヘッドの最大吐出流量以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの液体循環装置。
【請求項4】
前記リストリクタから前記圧力室へ流れる前記液体の流量は、前記ノズルから吐出する前記液体の流量が多いほど低下することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッドの液体循環装置。
【請求項5】
前記上流側液体マニホールドには、前記上流側ポートと吐出チャネルの距離が近い場所ほど流体抵抗が大きい抵抗部材を設けることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの液体循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体吐出ヘッドの液体循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定量の液体を所定の位置に供給する液体吐出ヘッドが知られている。液体吐出ヘッドは、例えばインクジェットプリンタ、3Dプリンタ、分注装置などに搭載する。インクジェットプリンタは、インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体の表面に画像等を形成する。3Dプリンタは、造形材の液滴を造形材吐出ヘッドから吐出し、硬化させて、三次元造形物を形成する。分注装置は、試料の液滴を吐出して複数の容器等へ所定量供給する。
【0003】
液体吐出ヘッドは、液体を吐出するチャネルを複数有している。各チャネルは、液体を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、圧力室の容積を変化させるアクチュエータを備える。液体吐出ヘッドは、複数のチャネルの中から液体を吐出するチャネルを選択し、選択したチャネルのアクチュエータに駆動信号を与えて液体を吐出させる。液体は、圧力室に液体流入口と液体流出口を設けて循環供給する。液体吐出ヘッドに液体を循環供給する装置は、ノズル近傍の液体の圧力を安定にするのが難しい。ノズル近傍の液体の圧力が安定しないと、液体を正常に吐出できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-51169号公報
【特許文献2】特開2014-79895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、液体の循環流の形成と液体の吐出を正常に行うことのできる液体吐出ヘッドの液体循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの液体循環装置は、液体吐出ヘッド、上流側液体流路、下流側液体流路、圧力調整部、循環路、およびポンプを備える。液体吐出ヘッドは、ノズルに連通する圧力室、前記圧力室の液体流入口に連通する上流側液体マニホールド、前記上流側液体マニホールドに連通する上流側ポート、前記圧力室の液体流出口に連通する下流側液体マニホールド、前記下流側液体マニホールドに連通する下流側ポートを備える。上流側液体流路は、前記上流側ポートに接続する。下流側液体流路は、前記下流側ポートに接続する。圧力調整部は、前記下流側液体流路側に設ける。循環路は、前記上流側液体流路と前記下流側液体流路を接続する。ポンプは、前記循環路に設ける。前記液体は、前記上流側液体流路から前記液体吐出ヘッドに供給し、前記液体吐出ヘッドから排出される前記液体は、前記下流側液体流路、前記圧力調整部、前記循環路を介して前記上流側液体流路に循環させる。前記圧力室の液体流出口から前記圧力調整部までの流路抵抗は、前記上流側液体流路の入口から前記圧力室の液体流入口までの流路抵抗よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に従うインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタの全体構成図である。
図2】上記インクジェットヘッドの斜視図である。
図3】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図4】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図5】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した平面図である。
図6】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した斜視図である。
図7】上記インクジェットヘッドのヘッド部を部分拡大した断面図である。
図8】上記インクジェットヘッドのヘッド部内の斜視図である。
図9】上記インクジェットヘッドがインクの吐出に利用する1/4波長液柱共鳴の説明図である。
図10】上記インクジェットヘッドのインク循環装置の全体構成図である。
図11】上記インクジェットヘッドの駆動回路である。
図12】上記インクジェットヘッドのアクチュエータに与える駆動波形である。
図13】上記駆動波形を与えたアクチュエータの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に従う液体吐出ヘッドの液体循環装置について、添付図面を参照しながら詳述する。なお、各図において、同一構成は同一の符号を付している。
【0009】
実施形態の液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置の一例として、記録媒体に画像を印刷するインクジェットプリンタ10を説明する。図1は、インクジェットプリンタ10の概略構成を示す。インクジェットプリンタ10は、筐体11の内部に、記録媒体の一例であるシートSを収納するカセット12、シートSの上流搬送路13、カセット12内から取り出したシートSを搬送する搬送ベルト14、搬送ベルト14上のシートSに向けてインクの液滴を吐出する複数のインクジェットヘッド100~103、シートSの下流搬送路15、排出トレイ16、及び制御基板17を配置する。ユーザーインターフェイスである操作部18は、筐体11の上部側に配置する。
【0010】
シートSに印刷する画像データは、例えば外部接続機器であるコンピュータ200で生成する。コンピュータ200で生成した画像データは、ケーブル201、コネクタ202,203を通してインクジェットプリンタ10の制御基板17に送る。
【0011】
ピックアップローラ204は、カセット12からシートSを一枚ずつ上流搬送路13へ供給する。上流搬送路13は、送りローラ対131、132と、シート案内板133、134で構成する。シートSは、上流搬送路13を経由して、搬送ベルト14の上面に送る。図中の矢印104は、カセット12から搬送ベルト14へのシートSの搬送経路を示す。
【0012】
搬送ベルト14は、表面に多数の貫通孔を形成した網状の無端ベルトである。駆動ローラ141、従動ローラ142,143の3本のローラは、搬送ベルト14を回転自在に支持する。モータ205は、駆動ローラ141を回転することによって搬送ベルト14を回転させる。モータ205は、駆動装置の一例である。図中105は、搬送ベルト14の回転方向を示す。搬送ベルト14の裏面側に、負圧容器206を配置する。負圧容器206は、減圧用のファン207と連結する。ファン207は、形成する気流によって負圧容器206内を負圧にし、搬送ベルト14の上面にシートSを吸着保持させる。図中106は、気流の流れを示す。
【0013】
液体吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッド100~103は、搬送ベルト14上に吸着保持したシートSに対して、例えば1mmの僅かな隙間を介して対向するように配置する。インクジェットヘッド100~103は、シートSに向けてインクの液滴を夫々吐出する。インクジェットヘッド100~103は、下方をシートSが通過する際に画像を印刷する。各インクジェットヘッド100~103は、吐出するインクの色が異なることを除けば、同じ構造である。インクの色は、例えば、シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックである。
【0014】
各インクジェットヘッド100~103へのインクの供給は、各インク循環装置341~344によってそれぞれ循環供給する。インク循環装置341~344の詳しい構成は後述する(図10参照)。図1では、作図の便宜上、インク循環装置341~344をそれぞれ破線枠で図示している。
【0015】
画像形成後、搬送ベルト14から下流搬送路15へシートSを送る。下流搬送路15は、送りローラ対151,152,153,154と、シートSの搬送経路を規定するシート案内板155,156で構成する。シートSは、下流搬送路15を経由し、排出口157から排出トレイ16へ送る。図中矢印107は、シートSの搬送経路を示す。
【0016】
続いて、インクジェットヘッド100~103の構成について説明する。以下は、図2図8を参照しながら、インクジェットヘッド100について説明しているが、インクジェットヘッド101~103もインクジェットヘッド100と同じ構造である。
【0017】
図2に示すように、インクジェットヘッド100は、液体吐出部の一例であるヘッド部2を備える。ヘッド部2は、フィルム配線基板の一例であるフレキシブルプリント配線板21と接続する。フレキシブルプリント配線板21は、中継基板の一例であるプリント基板22と接続する。ヘッド部2は、ノズル部の一例であるノズルプレート23を備える。ヘッド部2は、図1のインク循環装置341からのインク供給路311、及びヘッド部2内を循環したインクをインク循環装置341に戻すインク排出路331を夫々接続している。
【0018】
インクを吐出する各吐出チャネルのノズル24は、ノズルプレート23の第1の方向の例えばX方向に沿って配列する。ノズル密度は、例えば150~1200dpiの範囲内に設定する。ノズル24は、一列に限らず、複数列であってもよい。ヘッド部2の詳しい構成は、後述する。
【0019】
フレキシブルプリント配線板21は、例えばポリイミドなどの合成樹脂フィルムを用いたフレキシブルなプリント配線基板である。フレキシブルプリント配線板21は、ドライバチップである駆動用のIC(Integrated Circuit)25を搭載している(以下、駆動ICと称す)。プリント基板22は、ガラス繊維入りのエポキシ樹脂層と銅配線層を多重に積層した硬質のスルーホール基板である。インクジェットヘッド100の制御部としての駆動IC25は、インクジェットプリンタ10の制御部としてのCPUを備えた制御基板17からプリント基板22を介して送られてくるデータを一時的に格納し、所定のタイミングでインクを吐出するよう各吐出チャネルに駆動信号を与える。
【0020】
図3図7は、ヘッド部2の部分断面図である。ノズルプレート23は、圧力室基板3の枠の部分および圧力室31の隔壁を形成する部分(図4図5参照)の一面に接合する。振動板30は、ノズルプレート23とは反対側の圧力室31の隔壁を形成する部分の一面に接合する。ノズルプレート23は、例えばポリイミドなどの樹脂又はステンレスなどの金属で形成した矩形状のプレートである。振動板30は、外力を加えたときに変形する可撓性を有する。振動板30は、例えばニッケルやステンレスなどの金属で形成した例えば4μm~8μmの薄板状のプレートである。振動板30の材質は、ポリイミドフィルムなど、金属以外でもよい。ノズルプレート23、振動板30、及び圧力室基板3の隔壁の部分で囲われた空間(図6図7参照)は、各吐出チャネルの圧力室31を形成する。
【0021】
狭窄路であるリストリクタ4は、ノズル24の内側開口と対向する位置に配置する。リストリクタ4の一面には、ノズル背面のインクの流路41となる凹状の溝を形成している。以下、この流路をリストリクタ流路と称す。リストリクタ流路41は、第2の方向の例えばY方向に直線状に形成するのが好ましい。リストリクタ流路41は、吐出チャネルごとに形成する。なお、リストリクタ流路41の断面形状は、矩形が好ましいが(図6図7参照)、半円形など他の形状でもよい。リストリクタ4は、圧力室基板3に一体的に形成してもよく、個別に形成して圧力室基板3の隔壁の部分に接合してもよい。圧力室基板3及びリストリクタ4の材質は、例えばステンレスなどの金属である。
【0022】
各吐出チャネルのリストリクタ流路41の一端側は、第1の共通インク室としてのインク供給マニホールド42に共通接続する。さらにインク供給マニホールド42は、インク供給路311に接続する。なお、図3におけるリストリクタ流路41の一端側からリストリクタ4の端面に沿ってZ方向に伸びる流路の部分は、マニホールドに代えて吐出チャネルごとに独立した溝状の流路で形成してもよい。一方、リストリクタ流路41の他端側は、吐出チャネルごとに圧力室31と連通する。
【0023】
圧力室31は、リストリクタ流路41と同様、Y方向に直線状に形成するのが好ましい。各吐出チャネルの圧力室31の他端側の開口は、第2の共通インク室としてのインク排出マニホールド43と共通連通する。インク排出マニホールド43は、圧力室31に比べて容量が大きく、圧力室31の他端の開口を液柱共鳴の解放端にしている。一方、圧力室31の一端側はリストリクタ流路41と連通しているが、リストリクタ流路41の断面積を圧力室31の断面積よりも小さくして狭窄部にしている。そのため実質的に圧力室31の一端側は閉端になっており、詳しくは後述する1/4波長液柱共鳴を利用してインクを吐出することができる。リストリクタ流路41の断面積は、圧力室31の断面積の2分の1以下が好ましい。
【0024】
インク供給マニホールド42から供給するインクは、各吐出チャネルのリストリクタ流路41および圧力室31を介して、インク排出マニホールド43から排出される。すなわち、リストリクタ流路41と圧力室31は、インクの循環流を形成する系路の一部を構成している。インク供給マニホールド42側のリストリクタ流路41の開口が液体流入口であり、インク排出マニホールド43側の圧力室31の開口が液体流出口である。循環流の流速は、リストリクタ流路41の断面積を圧力室31の断面積よりも小さくしているので、リストリクタ流路41の流速の方が圧力室31の流速よりも速い。
【0025】
リストリクタ流路41と圧力室31の境界、すなわち圧力室31側のリストリクタ4の端面は、ノズルプレート23側から振動板30側に向かって外方に傾斜する斜面44が好ましい。傾斜角θは、例えば45度~85度である。加えて、リストリクタ流路41と圧力室31は、ノズルプレート23の一面に沿って直線状につながっているのが好ましい(図3図5参照)。これらはいずれもインクの循環流を流れ易くするためである。循環流の流れ方向は、リストリクタ流路41から圧力室31の順が好ましい。
【0026】
各吐出チャネルのアクチュエータ5は、振動板30を挟んで圧力室31と対向する位置に配列している(図3図6参照)。各アクチュエータ5は、Z方向における振動板30とは反対側の一面を支持基板32にそれぞれ接合することによって固定している。
【0027】
圧電アクチュエータの一例であるアクチュエータ5は、例えばピエゾ素子などの圧電体51、第1の内部電極52、及び第2の内部電極53を交互に層状に積層して形成した積層型圧電アクチュエータである。各圧電体51は、分極方向が例えばZ方向において互いに逆向きに配置し、d33モードで変形させる。第1の内部電極52と第2の内部電極53は、圧電体51の主面にそれぞれ形成した導電膜である。第1の内部電極52は、それぞれY方向におけるアクチュエータ5の一方の端面まで形成し、この端面に形成した第1の外部電極54に接続する。第2の内部電極53は、それぞれY方向におけるアクチュエータ5の他方の端面まで形成し、この端面に形成した第2の外部電極55に接続する。ダミー層58は、圧電体51と同材料である。但し、ダミー層58は、内部電極を設けず、電界が印加されないので変形しない。ダミー層58は、アクチュエータ5を支持基板32に固定するベースとなり、あるいは組立中や組立後の精度を出すために研磨する研磨代となる。
【0028】
複数の圧電体51を積層したアクチュエータ5は、一例として、薄板状に加工した各圧電体51の主面に第1の内部電極52と第2の内部電極53をそれぞれ成膜する。そして圧電体51同士を積層し焼成して一体にする。その後、第1の外部電極54と第2の外部電極55を成膜する。その後、圧電体51を着分極する。圧電体51は、チタン酸ジルコン酸鉛 (PZT)などの鉛含有圧電材料、或いはニオブ酸ナトリウムカリウムなどの鉛非含有圧電材料で形成する。第1の内部電極52と第2の内部電極53は、銀パラジウムなどの焼成可能な導電性材料で成膜する。第1の外部電極54と第2の外部電極55は、メッキ法やスパッタ法など既知の方法で、Ni、Cr、Auなどで成膜する。
【0029】
各アクチュエータ5の第1の外部電極54は、フレキシブルプリント配線板21の個別配線56にそれぞれ接続する(図3参照)。フレキシブルプリント配線板21は、基材となる樹脂フィルム26,個別配線56,絶縁フィルム27で構成する。フレキシブルプリント配線板21は、個別配線56が第1の外部電極54と接触するように配置し、例えばNCF(Non-Conductive Film)などによって固定する。或いはハンダなどによって固定してもよい。変形例として、個別配線56を振動板30の表面に形成してヘッド部2から引き出してもよい。
【0030】
一方、各吐出チャネルの第2の外部電極55は、図6に示すように、例えばダミー層58の部分を利用して各アクチュエータ5の第2の外部電極55同士をつなげて共通電極とする。共通電極とした第2の外部電極55は、図示を省略するが、例えば支持基板32のX方向における端の部分から引き出して、例えばフレキシブルプリント配線板21に形成した共通配線に接続する。変形例として、個別配線56を振動板30の表面に形成してヘッド部2から引き出してもよい。
【0031】
なお、各吐出チャネルのアクチュエータ5の間には、溝を介して支柱を配置してもよい。支柱は、駆動用のアクチュエータ5と同様に形成したダミーのアクチュエータで構成してよい。すなわち、共通の圧電体51、第1の内部電極52、及び第2の内部電極53を用いて一括で形成し、溝を形成することでアクチュエータ5と支柱とに分ける。支柱は、例えば隣接する圧力室31間の隔壁にあたる位置に配置する。勿論、支柱は、ダミーのアクチュエータで形成するのに代えて、別の部材で形成してもよい。例えば支持基板32に支柱を形成してもよい。
【0032】
図8は、ヘッド部2内のインク供給マニホールド42とインク排出マニホールド43の斜視図である。図8(b)に示すように、インク供給マニホールド42は、インク供給路311を天井部の中央に接続し、インク供給路311に向かって山形となるように天井面を傾斜させている。インク供給マニホールド42は上流側液体マニホールドの一例である。インク供給マニホールド42とインク供給路311の接続点が上流側ポートである。さらにインク供給マニホールド42内には、インクが全吐出チャネルに向かって拡がって流れるように、複数のガイド板45を内部に設けている。複数のガイド板45は、吐出チャネル間で流量が偏らないように、中央は間隔を密にし、端部に向かうにつれて間隔が拡がる配置が好ましい。すなわち、インク供給マニホールド42内に、上流側ポートと吐出チャネルの距離が近い場所ほど流体抵抗が大きい抵抗部材を設けている。インク供給マニホールド42は、下部側の開口を介して各吐出チャネルのリストリクタ流路41と共通接続する。
【0033】
図8(c)に示すように、インク排出マニホールド43も同様に、インク排出路331を天井部の中央に接続し、インク排出路331に向かって山形となるように天井面を傾斜させている。インク排出マニホールド43は下流側液体マニホールドの一例である。インク排出マニホールド43とインク排出路331の接続点が下流側ポートである。インク排出マニホールド43内を圧力ダンパー室にするダンパーフィルム46は、インク排出マニホールド43の例えば片方の内側面に配置する。ダンパーフィルム46は可撓性を有し、圧力変動を吸収する。圧力ダンパー室は、急激な圧力変動が発生した場合の備えとして設けるのが好ましい。インク排出マニホールド43を圧力ダンパー室と兼用するのが好ましいが、循環流の下流側であれば圧力ダンパー室を別に設けてもよい。インク排出マニホールド43は、下部側の開口を介して各吐出チャネルの圧力室31と共通接続する。
【0034】
インク排出路331は、インク供給路311よりも太くして循環流の流路抵抗を少なくする。インク排出マニホールド43とインク排出路331の接続点である下流側ポートの開口も、インク供給マニホールド42とインク供給路311の接続点である上流側ポートの開口よりも大きくして循環流の流体抵抗を小さくする。さらに、インク排出マニホールド43の容積も、インク供給マニホールド42の容積よりも大きくして循環流の流体抵抗を小さくする。これらはいずれも詳しくは後述する下流側流路の圧力を一定に制御するのに有効である。
【0035】
続いて、インクジェットヘッド100がインクの吐出に利用する1/4波長液柱共鳴について説明する。図9(a)は、圧力室31内の1/4波長液柱共鳴を図示している。破線が圧力振幅であり、一点破線が流速振幅である。比較のため、図9(b)に、インクの吐出に1/2波長液柱共鳴を利用する圧力室6を図示している。破線が圧力振幅であり、一点破線が流速振幅である。図9(b)に示すように、インクの吐出に1/2波長液柱共鳴を利用する圧力室6は、両端を完全に開放する為、圧力室6を経由してインクを循環させるインク循環式ヘッドに非常に適している。上流側の共通インク室から圧力室6に流入するインクは、障害物なくノズル61の背後を通過してそのまま下流側の共通インク室に流出する。1/2波長液柱共鳴管は、中央が圧力振幅最大となるので、ノズル61は、液柱共鳴管である圧力室6の中央に配置する。原理的には圧力室中央の圧力を上げるために圧力室6の流入口と流出口のインクの流れを制限する必要はない。
【0036】
加えて、圧力室6の流入口から流出口へ向かうインクの循環流は、液柱共鳴によるインクの吐出動作に影響を及ぼさないので、インクを循環させることの利点を最大限に得ることができる。具体的には、沈降性成分(例えば顔料)の滞留を防ぐ、溶剤の揮発による粘度増加を緩和する、気泡を排出する、温度を均一化する、洗浄を容易にするなどである。
【0037】
しかしながらこの形式のサイドシューター型のインクジェットヘッドは、ノズル61に形成されるインクのメニスカスMの復元力によるメニスカス振動に対する制動が効かない。そのためインクを連続して吐出する高速追従性が良くないという問題がある。インクを連続して吐出すると、図9(b)に示すようにメニスカスMが次第に外側に移動又は膨らんでしまい、後続のインクの吐出に影響を及ぼすなどの問題である。その対策として、図9(c)に示すように圧力室6の流入口と流出口にリストリクタ62,63を設けて、ノズル61に形成されるメニスカスMの復元力とインクの質量との共鳴によって起きるメニスカス振動を適正に制動するという方法がある。
【0038】
但し、圧力室6の流入口と流出口にリストリクタ62,63を設けると、圧力室6の両端が液柱共鳴の解放端でなくなる。そのため、図9(c)に示す圧力室6の共鳴原理は、液柱共鳴型ではなく、リストリクタ62,63内のインク質量と圧力室6の容積とが共鳴するヘルムホルツ共鳴型と言える。加えて、インクの循環流は、圧力室6の流入口と流出口の2か所でリストリクタ62,63を通過しなくてはならない。インクを吐出しないときのノズル背圧は、流入口と流出口のリストリクタ62,63の抵抗比で決まる圧力となるため、リストリクタ62,63を高精度に作成しなければノズル背圧を適正値(例えば、-1kPa)に保てない。また、気泡やインク中の沈降性成分などが下流側のリストリクタ63の手前に滞留してしまう問題も発生し易い。
【0039】
これに対し、インクの吐出に1/4波長液柱共鳴を利用するインクジェットヘッド100は、圧力室31を開放可能でインク循環に適した構造である液柱共鳴管を利用しながら、高速吐出追従性の課題を解決するものである。すなわち、図9(a)に示すように、圧力室31の一端側を実質的に閉じ、他端側を開放することによって、圧力室31を1/4波長液柱共鳴管とする。さらに液柱共鳴管の閉端にリストリクタ流路41を設け、リストリクタ流路41の途中にノズル24を配置する。
【0040】
圧力室31は、それ自身が循環流の抵抗とならないように、リストリクタ流路41よりも断面積を大きくしている。リストリクタ流路41は、ノズル24に形成されるメニスカスMの復元力とインクの質量とによって生じる、印刷ドット間の時間間隔よりも長周期の共鳴(メニスカス振動)を制動するために設けているので、印刷ドット間の時間間隔よりも短周期の圧力室31に生じる液柱共鳴に対する制動効果を有しない方が望ましいからである。リストリクタ流路41は、液柱共鳴管の閉端に設けているので、液柱共鳴を制動しない。このように図9(a)の構成は、構造的に液柱共鳴が制動されることはなく、後述する駆動波形のダンピングパルスなどで制動する。
【0041】
ノズル24の位置をリストリクタ流路41のY方向のどの位置に配置するかによってメニスカスMの復元力によるメニスカス振動の制動を調整することができる。すなわち、リストリクタ流路41内でノズル24を圧力室31に近づければメニスカス振動が現れ、圧力室31よりも遠ざければメニスカス振動は制動される。ノズル24から圧力室31の閉端までの流路抵抗は、ノズル24から上流側のインク供給マニホールド42までの流路抵抗よりも十分小さい。ノズル24から圧力室31の閉端までの流路抵抗は、圧力室31の閉端から下流側のインク排出マニホールド43までの流路抵抗よりも大きい。よって、メニスカス振動の制動作用は、リストリクタ流路41のノズル24から圧力室31の閉端までの流路抵抗に支配される。
【0042】
例えばインクの粘度が低くメニスカス振動の制動を大きくする方向に調整したいときは、ノズル位置を圧力室31から遠ざけるようにすれば、リストリクタ流路41のノズル24から圧力室31の閉端までの流路抵抗が大きくなるため、メニスカス振動の制動は強くなる。反対に、例えばインクの粘度が高くメニスカス振動の制動を小さくする方向に調整したいときは、ノズル位置を圧力室31に近づけるようにすればリストリクタ流路41のノズル24から圧力室31の閉端までの流路抵抗が小さくなるため、メニスカス振動の制動は弱くなる。ノズル24がリストリクタ流路41と圧力室31の境界にあるとメニスカス振動が制動されないが、インク粘度が高く、連続吐出する駆動周波数が低ければそれでも十分である。
【0043】
このように、ノズル24をリストリクタ流路41のどの位置に配置するかによって、メニスカス振動の制動の強さを選ぶことができる。ノズル24の位置を変えるにはノズルプレート23の取り付け位置をずらすか、またはノズル穴を開ける位置を変えればよい。ノズル穴をレーザー加工によって開けている場合は、レーザーを当てる位置を変えるだけで済む。ノズル位置を変更してもノズルプレート23以外には影響は無く、他の部分の設計や製造に影響しない。
【0044】
続いて、インクジェットヘッド100にインクを循環供給するインク循環装置341について、図10を参照しながら説明する。インク循環装置341は、液体吐出ヘッドの液体循環装置の一例である。なお、インクジェットヘッド101~103にインクを循環供給するインク循環装置342~344も、インク循環装置341と同様の構成である。図10に示すように、インク循環装置341は、インクタンク315、インクポンプ321、インクフィルタF1、インクジェットヘッド100のヘッド部2、及びこれらを接続するインク供給路311とインク排出路331によって構成している。さらにインク供給路311とインク排出路331には、エアバルブV1,V2とエアフィルタF2,F3を夫々設けている。
【0045】
図10のインクジェットヘッド100のインク循環装置341は、インクを初期充填する際、最初にエアバルブV2を閉じエアバルブV1を開いて、インクポンプ321で上流側流路からインクを供給する。インクは、上流側ポート(IN)を介してヘッド部2に流入し、リストリクタ流路41と圧力室31を通過する。下流側ポート(OUT)を介してヘッド部2から排出されるインクは、下流側流路を介してインクタンク315に戻る。下流側流路にインクが充填されたらエアバルブV1を閉じエアバルブV2を開くと、ノズル背圧は-ρghよりΔPだけ大きな-ρgh+ΔPに圧力制御される。ΔPは、ノズル24から下流側ポート(OUT)までの圧力損失による分で、この圧力損失はノズル24がリストリクタ流路41の圧力室31の閉端から遠い位置にあるほど、またインクポンプ321が流すインクの流量が大きいほど、大きくなる。高低差hは、例えば-ρgh+ΔP=-1kPaとなるように設定する。ΔPが大きいと、所望のノズル背圧になるように高低差hを設定しようとするとき、タンク315を低く設定しなければならず、その結果、インク排出路331が長くなり過ぎる場合がある。インク排出路331が長くなり過ぎると太い流路を使ったとしても流路抵抗による圧力変動が無視できず、また流路をインクで満たすために多くのインクを消費する。インク排出路331が長くなり過ぎないようにするため、エアフィルタF3の大気解放側を大気解放する代わりに、図示しない圧力-P1の気圧制御タンク(例えば、減圧タンク)に接続してもよい。その場合は-ρgh+ΔP-P1=-1kPaとなるように高低差hと圧力-P1を設定する。すなわち、インクジェットヘッド100のインク循環装置341は、ノズル24よりも下流側に圧力調整部を有する。圧力調整部は、共通インク室であるインク排出マニホールド43の圧力を所定圧力に制御する。さらにインク排出マニホールド43が圧力ダンパー室を兼ねる場合は、圧力ダンパー室の圧力の変動を抑える。なお、エアバルブV1を閉じエアバルブV2を開くタイミングは、時間で制御するか、又はインクタンク315に液面センサーなどを設置して制御すればよい。
【0046】
ここで、上流端から下流端まで所定の流路抵抗を持つ系にインクを流そうとしたとき、流量は上流端と下流端の圧力差に比例するので、所望の流量を得るために上流端の圧力を上げるか或いは下流端の圧力を下げるかを選択することができる。しかし、インクの圧力を下げることはインクの圧力を上げることに比べて困難で弊害が多い。一つの理由は、空気はインクに比べて小さな隙間を通過しやすいから、高圧側でインクを漏らさないようにすることよりも低圧側で空気を漏らさないようにすることの方が困難だからである。別の理由は、高圧側は圧力の上限が無いのに対し、低圧側は真空以下にはできないという制約があるからである。
【0047】
一方で、ノズル背圧はノズル24に適正なメニスカスMが形成されるように、適正な圧力としたい。例えば大気圧に対して-0.5kPa~-3kPa、好ましくは-1kPaである。そして下流側の圧力をなるべく下げずにノズル背圧を適正に保つには、ノズル24より上流側の流路抵抗を大きく、ノズル24より下流側の流路抵抗を小さく設定することが望ましい。
【0048】
ノズル24からインクを吐出するとき、ノズル24から吐出されるインクの流量は、循環流の上流側流量と循環流の下流側流量の差である。ノズル24から吐出されるインクの流量は、印字内容によって変化するが、ノズル背圧の変化は小さいことが望ましい。ノズル背圧は、[圧力+インクの高さhによる単位体積あたり位置エネルギー]が規定される場所から循環路中のノズル分岐に至る流路抵抗に流量を掛けた分だけ大きい、又は小さい値である。[圧力+インクの高さhによる単位体積あたり位置エネルギー]が規定される場所が上流側と下流側の両方にあれば、ノズル24から吐出されるインクの流量変化によるノズル背圧の圧力変化の大きさは、循環流の上流側の流路抵抗と循環流の下流側の流路抵抗の並列抵抗によって決まる。
【0049】
すなわちノズル24から吐出されるインクの流量変化に伴うノズル背圧の圧力変化を抑えるためには、循環流の上流側の流路抵抗と循環流の下流側の流路抵抗の並列抵抗を小さくすればよい。並列抵抗であるから一方の抵抗を小さくすれば他方の抵抗の大きさの影響は小さくなる。すなわち、下流側の流路抵抗を小さく保つことによって、上流側の流路抵抗が大きくても、ノズル24から吐出されるインクの流量変化に伴うノズル背圧の圧力変化を抑えることができる。このため、流路抵抗を増加させるインクフィルタF1を循環流の上流側に配置可能となる。循環流の上流側にインクフィルタF1を配置することは、ヘッド部2内に異物や気泡を流し込まないためにも重要である。
【0050】
さらに、上流側の流路抵抗を大きくしてもよいので上流側の流路を狭くすることができる。一般に狭い流路から広い流路へ向かう流れは、逆の場合に比べてインク充填時に空気を残し難い。また一般的なインクジェットインクは、直径4mm以下の流路には重力方向に関わらず充填し易く、逆に直径4mmよりも大きな断面を持ち重力方向に様々な方向を向いている流路には空気の残留なくインクを充填することが困難である。このことからも、インクの充填し易さという点で、上流側の流路を相対的に狭くできることは有利である。
【0051】
下流側流路中の僅かな気泡は、その気泡による重力減少分、圧力が変化するだけで済む。一方で、上流側の流れの経路上に少しでも気泡が残っていると、その気泡が偶発的にヘッド部2内に流入したときインクの不吐出を起こす場合がある。よって、信頼性の高い印字を行う為には、上流側の経路上の気泡は排除しなくてはならない。
【0052】
上述のように、ヘッド部2は、インクをリストリクタ4側から流入させ、インク排出マニホールド43に排出して循環させる。すなわち、リストリクタ4側をインクの流れの上流側とする。上述の理由により、インクフィルタF1は、上流側の流路に設ける。上流側は流量一定とするのが望ましく、上流側の流路抵抗は大きくてよいからである。従って、インク供給路311についても、インク排出路331よりも細くしてよい。一例として、インク供給路311は直径3mmのチューブとし、インク排出路331は直径6mmのチューブとする。この場合、上流側ポートの開口は直径3mm、下流側ポートの開口は直径6mmである。上流側を流量一定にすれば、このように断面積の小さい流路を採用できるので、インクジェットヘッド100のヘッド部2にインクを充填し易く気泡が残りにくい。
【0053】
上流側の流量は、インクジェットヘッド100のインク最大吐出流量の1倍以上とするのが望ましい。インク最大吐出流量は、すべての吐出チャネルからインクを吐出したときの総流量である。リストリクタ流路41を流れるインクの流量は、吐出するインクの流量が多いほど低下する。そのため、仮に上流側の流量がインク最大吐出流量よりも小さいと、吐出するインクの一部は下流側から吸うことになる。下流側のインクはインクフィルタF1を通過した直後のインクではないので、パーティクルの観点からノズル背面のインクの流路41に流入させることは望ましくない。そのために上流側の流量を、インクの最大吐出流量の1倍以上にして、インク最大吐出流量でインクを吐出したとしても上流側からインクを供給できるようにする。
【0054】
上流側の共通インク室であるインク供給マニホールド42は、所定流量に制御するのに対し、下流側の共通インク室であるインク排出マニホールド43は、所定圧力に制御する。インク排出マニホールド43の圧力をPm(負圧)、インク排出マニホールド43からノズル背面までのリストリクタ流路41の流路抵抗をR、ノズル背面よりも上流側から流入するインクの流量をQu、ノズル24から吐出するインクの流量をQn、ノズル背面よりも下流側に流れるインクの流量をQdとすると、Qd=Qu-Qnである。ノズル背圧Pnは、Pn=Pm+RQdである。
【0055】
インクを吐出しないとき、すなわちQn=0のときノズル背圧は絶対値の最も小さい負圧となり、このときPn=Pm+RQuとなる。このインクを吐出しないときのノズル背圧Pnを、例えば-1kPaの負圧に設定する。一方、圧力室31の圧力の定常値を例えば-5kPaに設定する。仮にこの負圧がそのままノズル背面に伝わると、メニスカスMを維持しきれずに、メニスカスMが壊れてノズル24から空気を引き込んでしまう。そこでノズル24と圧力室31の間のリストリクタ4の流路抵抗を利用して、ノズル背面の圧力を圧力室31の圧力に対して正圧側にシフトさせる。インクを吐出しないときのノズル24と圧力室31の間の流路抵抗に流量を掛けた値RQu=RQdが例えば4kPaとなるように流路抵抗Rを設定すれば、ノズル背面の圧力は-5kPa+4kPa=-1kPaの適正負圧となって、ノズル24に凹型のメニスカスMが形成される。インクを吐出しない間は、この状態が保たれる。
【0056】
インクを吐出するときは、吐出したインクの流量分Qnだけ、ノズル背面から下流側に流れる流量Qdが減少する。そうするとノズル背面と圧力室31の圧力差が減少し、ノズル背圧はRQnだけ負圧側にシフトする。仮に、インク吐出最大流量のときに下流側の流量Qdが0(ゼロ)となるよう上流側の流量Quを設定した場合、インク吐出最大流量で吐出したときのノズル背面の定常圧力は-5kPaとなる。すなわちインクの吐出量が多いほどノズル背圧Pnが負圧側にシフトし、連続吐出に因るメニスカスMの盛り上がりを起き難くできる。リストリクタ4は、インク供給マニホールド42とノズル24の間にあるので、連続吐出している吐出チャネルの負圧が増大してもそれが吐出していない吐出チャネルに影響を及ぼすことが少ない。
【0057】
ノズル24よりも下流側の流量は、上流側の流量から吐出流量を引いた値となるので、一定ではなく印字内容によって変化する。すなわち、吐出しないとき最大流量となり、インク最大吐出流量で吐出したとき最小流量となる。下流側は、上流側のように流量一定にするのではなく、流量変化に対する圧力変化が小さくなるように構成する。そのため、上述のように下流側の流路、ポート、マニホールドを上流側の流路、ポート、マニホールドよりも大きくすることで、流量変化に伴う圧力変化を抑える。さらにインク排出マニホールド43の一面をダンパーフィルム46で構成して下流側の急激な圧力変化を抑える。下流側には流路抵抗を増やすインクフィルタなどを設けないようにする。ノズル24よりも下流側は、断面積の大きな流路が要求されるので小さな気泡が残りやすいが、圧力一定に制御することを目的としているので小さな気泡があっても悪影響はない。またインクの流れが下流に向かっているので、その小さな気泡が圧力室31へ混入する恐れも少ない。
【0058】
仮にリストリクタ4とノズル24の間に圧力室31があると流量変化時のノズル背圧の変化が遅れるためメニスカスMの盛り上がりを防ぐ作用に遅れが生じ、また吐出終了後流量が減ったときに負圧の変化が間に合わずノズル24から空気を引き込んでしまう。これに対し本実施形態のリストリクタ4はノズル24と圧力室31の間にある為、流量変化に対する反応が速く、吐出流量が増大、減少したときに効果的にノズル背圧を増加、減少させることができる。
【0059】
次にインクを吐出する駆動系について、図11を参照しながら説明する。図11は、インクジェットヘッド100の駆動回路である。図11に示すように、各吐出チャネル(#1ch~#nch)のアクチュエータ5は、第1の外部電極54に接続した個別配線56を介して駆動IC25の駆動ドライバDの出力端子にそれぞれ接続する。第1の外部電極54と個別配線56の接続点がアクチュエータ5の個別端子である。一方、各アクチュエータ5の第2の外部電極55は、共通配線57を介して例えばグランド(GND)などの共通電位に接続する。第2の外部電極55と共通配線57の接続点がアクチュエータ5のコモン端子である。
【0060】
駆動IC25は、アクチュエータ5に与える駆動電圧V1の電源7及び駆動電圧V2の電源70を接続する。電源7及び電源70は、正極を駆動IC25に接続し、負極をグランド(GND)に接続する。駆動IC25は、インクジェットプリンタ10の制御部である制御基板17(図1参照)から送られてくるプリントデータの信号線と接続する。プリントデータは、制御信号の一例である。
【0061】
続いて、図12及び図13を参照しながらインク吐出動作について説明する。駆動IC25の各駆動ドライバDは、駆動電圧V1,V2及びグランド(GND)を使って、各アクチュエータ5の個別端子に駆動波形を与える。電圧V1は例えば20Vである。電圧V2は例えば10Vである。グランド(GND)は例えば0Vである。どのアクチュエータ5を駆動させるかは、例えばプリントデータに基づく。図12は、アクチュエータ5に与える駆動波形の一例である。
【0062】
上述のインク循環装置341でインクの循環流を形成した状態でアクチュエータ5を駆動させる場合、図12に示すように、個別端子に電圧V2を与えて待機状態とする。電圧V2を与えると、圧電体51の分極軸の向きに電界が印加され、図13(a)に示すように、アクチュエータ5が積層方向(Z方向)に伸長して圧力室31の容積が縮小した状態になる。これはインク吐出のタイミングに先立って行っておく。その後、インクの吐出タイミング(図12の時刻t1)で最初に個別端子の電位をグランド(GND)に下げることで、図13(b)に示すように、伸長していたアクチュエータ5が元に戻り、すなわち相対的に収縮し、圧力室31の容積が相対的に拡張する。
【0063】
そして例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間経過後、図12の時刻t2において個別端子に電圧V2を与えると、図13(c)に示すように、アクチュエータ5が積層方向(Z方向)に伸長して相対的に圧力室31の容積が縮小し、上述の1/4波長液柱共鳴によりノズル24からインクの液滴Rが吐出する。そして例えばヘッド部2の圧力振動周期の1/2の時間経過後、図12の時刻t3において個別端子に電圧V1を与え、所定時間後の時刻t4で電圧V2に戻す。その際のアクチュエータ5の伸長(図13(d))と復帰(図13(a))によって圧力室31の容積を縮小、復帰させ、この動作によって残留振動を減衰させる。このようにアクチュエータ5の積層方向の縦振動に合わせて圧力室31の容積が変わり、1/4波長液柱共鳴によりインクを吐出することができる。
【0064】
以上説明したように、上述のいずれかの実施形態によれば、インクの循環流の形成とインクの吐出を正常に行うことのできるインクジェットヘッド100のインク循環装置を提供することが可能である。
【0065】
なお、アクチュエータ5は、複数の圧電体51を積層した積層型に限らない。圧電体51が単一層のアクチュエータであってもよい。また、駆動電圧を印加したときのアクチュエータの動作は、縦振動に限らない。さらに、ドロップオンデマンド・ピエゾ方式に限らず、コンティニアス方式に適用してもよい。
【0066】
上述の実施形態では、インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド100を液体吐出ヘッドの一例として説明したが、液体吐出ヘッドは、3Dプリンタの造形材吐出ヘッド、分注装置の試料吐出ヘッドであってもよい。
【0067】
本実施形態の液体吐出ヘッドは、以下の様に表すことができる。
(1)ノズルに連通する圧力室、前記圧力室の液体流入口に連通する上流側液体マニホールド、前記上流側液体マニホールドに連通する上流側ポート、前記圧力室の液体流出口に連通する下流側液体マニホールド、前記下流側液体マニホールドに連通する下流側ポートを備える液体吐出ヘッドと、
前記上流側ポートに接続した上流側液体流路と、
前記下流側ポートに接続した下流側液体流路と、
前記下流側液体流路側に設けた圧力調整部と、
前記上流側液体流路と前記下流側液体流路を接続する循環路と、
前記循環路に設けたポンプと、を備え、
前記液体は、前記上流側液体流路から前記液体吐出ヘッドに供給し、前記液体吐出ヘッドから排出される前記液体は、前記下流側液体流路、前記圧力調整部、前記循環路を介して前記上流側液体流路に循環させ、
前記圧力室の液体流出口から前記圧力調整部までの流路抵抗は、前記上流側液体流路の入口から前記圧力室の液体流入口までの流路抵抗よりも小さい液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(2)前記圧力室の前記液体流入口と前記上流側液体流路の入口の間にリストリクタと前記ノズルを有する液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(3)前記ノズルから前記液体を吐出しないときの前記液体の循環流量は、前記液体吐出ヘッドの最大吐出流量以上である液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(4)前記リストリクタから前記圧力室へ流れる前記液体の流量は、前記ノズルから吐出する前記液体の流量が多いほど低下する液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(5)前記上流側液体マニホールドには、前記上流側ポートと吐出チャンネルの距離が近い場所ほど流体抵抗が大きい抵抗部材を設ける液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(6)前記上流側液体流路から前記上流側液体マニホールドまでの間の経路にフィルタを設ける液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(7)前記ノズルよりも上流側の循環流は、前記ポンプによって所定の流量に制御し、前記下流側液体マニホールドは、前記圧力調整部によって所定の圧力に制御する液体吐出ヘッドの液体循環装置。
(8)前記下流側液体マニホールドは、圧力ダンパー室を兼ねる液体吐出ヘッドの液体循環装
【0068】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
10 インクジェットプリンタ
100~103 インクジェットヘッド
2 ヘッド部
24 ノズル
25 駆動IC
31 圧力室
311 インク供給路
331 インク排出路
321 インクポンプ
341~344 インク循環装置
4 リストリクタ
41 リストリクタ流路
42 インク供給マニホールド
43 インク排出マニホールド
5 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13