(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137074
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】沈下量評価方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
E02D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048440
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 菜都美
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AC01
2D043CA20
(57)【要約】
【課題】地盤改良体の沈下量を適切に評価することができ、不同沈下対策工としての地盤改良の設計に反映することを可能とした沈下量評価方法を提案する。
【解決手段】構造物を支持する地盤を地盤改良してなる改良体の沈下評価方法であって、改良体の初期剛性と極限圧縮応力値とにより規定される圧縮応力と圧縮ひずみとの関係の関数を規定するステップと、関数を利用して構造物から改良体に作用する荷重度に応じた変形係数を求めるステップと、荷重度と変形係数とに基づいて改良体の圧縮量を評価するステップとを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する地盤を地盤改良してなる改良体の沈下評価方法であって、
前記改良体の初期剛性と極限圧縮応力値とにより規定される圧縮応力と圧縮ひずみとの関係の関数を規定するステップと、
前記関数を利用して、前記構造物から前記改良体に作用する荷重度に応じた変形係数を求めるステップと、
前記変形係数と前記荷重度に基づいて前記改良体の圧縮量を評価するステップと、を実行することを特徴とする、沈下評価方法。
【請求項2】
前記関数は、式1から導き出される双曲線関数であることを特徴とする、請求項1に記載の沈下評価方法。
σ=ε/(a+b×ε) ・・・式1
1/a:初期変形係数E0
1/b:極限値qu
【請求項3】
前記極限圧縮応力値は、設計基準強度であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の沈下評価方法。
【請求項4】
前記地盤から採取した試料土と固化材とを混合してなる供試体または築造後の前記改良体から採取した供試体に対して一軸圧縮試験または三軸圧縮試験を行い、前記極限圧縮応力値を計測することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の沈下評価方法。
【請求項5】
前記構造物の柱位置毎に支配面積を規定し、前記柱位置毎の荷重度を求めるステップと、
前記支配面積に対応する地盤の支持力を算定するステップと、
前記支持力から求まる許容値を前記荷重度が上回る箇所を地盤改良の対象範囲に設定するステップと、をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載の沈下評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良体の沈下量評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直接基礎の支持地盤は、構造物の荷重によって沈下する。地盤に生じる沈下量は、一定ではなく、不同沈下が発生する。地盤に不同沈下が生じると構造物に付加応力が発生するため、不同沈下量が許容値以下になるような地盤改良を行うか、付加応力に耐え得る構造にする必要がある。例えば、特許文献1では、地盤改良による不同沈下を予測し、不同沈下の分布に応じて改良体を形成する地盤改良方法が開示されている。
改良地盤を設計する際には、非特許文献1に記載された算出方法により沈下量を算出するのが一般的である。非特許文献1には、改良地盤頭部における即時沈下量の算出方法として、改良地盤の圧縮量と下部地盤の沈下量を合計する方法が示されている。実務上、改良体の変形係数として一軸圧縮強さの50%到達時の変形係数E50が使用されることが多く、非特許文献1の算出方法では、一軸圧縮強さと変形係数の関係の平均勾配としておよそ180であるとしている。ただし、E50はおよそ5×10-3程度のかなり大きなひずみに対応する値であり、沈下量は大きめの評価となる。全面改良を行う場合には安全側の評価として妥当であるといえるが、1つの建物に対して部分的に改良を行った場合には改良部分の沈下量が未改良部分の沈下量を上回るような不自然な予測結果となることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人建築研究所監修、「建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針-セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法-」、一般財団法人日本建築センター、一般財団法人ベターリビング、2018年11月30日、p.113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、地盤改良体の沈下量を適切に評価することができ、不同沈下対策工としての地盤改良の設計に反映することを可能とした沈下量評価方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、構造物を支持する地盤を地盤改良してなる改良体の沈下評価方法であって、前記改良体の初期剛性と極限圧縮応力値とにより規定される圧縮応力と圧縮ひずみとの関係の関数を規定するステップと、前記関数を利用して前記構造物から前記改良体に作用する荷重度に応じた変形係数を求めるステップと、前記変形係数と前記荷重度とに基づいて前記改良体の圧縮量を評価するステップとを実行するものである。
かかる沈下評価方法によれば、荷重度に応じた改良体の圧縮量を算出できる。そのため、部分的に地盤改良を行う場合であっても、位置毎の沈下量を算出することができ、これを地盤改良の設計や基礎の設計に利用することで、不同沈下を低減できる。また、沈下予測精度が向上するため、計画時に合理的で経済的な基礎形式を選択できる。
【0007】
前記関数は、式1から導き出される双曲線関数であるのが望ましい。
σ=ε/(a+b×ε) ・・・式1
1/a:初期変形係数E0
1/b:極限値qu
【0008】
また、前記極限圧縮応力値は、設計基準強度を使用してもよいし、現地地盤から採取した試料土と固化材とを混合してなる供試体または築造後の前記改良体から採取した供試体に対して一軸圧縮試験または三軸圧縮試験を行った計測値を使用してもよい。
なお、前記構造物の柱位置毎に支配面積を規定し、前記柱位置毎の荷重度を求めるステップと、前記支配面積に対応する地盤の支持力を算定するステップと、前記支持力から求まる許容値を前記荷重度が上回る箇所を地盤改良の対象範囲に設定するステップとをさらに備えていれば、柱位置に対応する地盤改良計画や基礎構造の設計に活用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の沈下量評価方法によれば、荷重度に応じた変形係数を用いることで、改良体の圧縮量を合理的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る沈下量評価方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】(a)は双曲線関数の例を示すグラフ、(b)は(a)の双曲線関数を参照して作成した極限値qu=1200kN/m
2で計算した場合の双曲線関数である。
【
図4】実施例および比較例1,2の沈下量の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、基礎地盤に対する地盤改良の効果を適切に評価するための改良体の沈下評価方法について説明する。基礎地盤に対する地盤改良は、構造物の基礎の不同沈下を抑制するために行う。地盤改良の効果を適切に評価することで、評価結果を構造物の基礎の設計に反映して、杭基礎を直接基礎に変更したり、基礎梁のせいを小さくすることも可能となる。
図1に本実施形態の沈下評価方法の手順を示す。沈下評価方法は、
図1に示すように、荷重度算定ステップS1と、支持力算定ステップS2と、改良範囲設定ステップS3と、関数規定ステップS4と、変形係数取得ステップS5と、沈下量評価ステップS6とを行う。
【0012】
荷重度算定ステップS1では、構造物の柱位置毎に支配面積を規定し、柱位置毎の荷重度を求める。
支持力算定ステップS2では、荷重度算定ステップS1で求めた支配面積に対応する地盤の支持力を算定する。
改良範囲設定ステップS3では、地盤改良の対象範囲に設定する。地盤改良の対象範囲は、支持力から求まる許容値を荷重度が上回る箇所とする。
関数規定ステップS4では、圧縮応力と圧縮ひずみとの関係を表す関数(双曲線関数)を規定する。この関数は、地盤改良により形成される改良体の初期剛性と極限圧縮応力値とにより規定される。
図2(a)に双曲線関数の例を示す。ここで、本実施形態では、極限圧縮応力値を設計基準強度とする。
図2(b)に、極限値qu=Fc=1200kN/m
2で計算した場合の双曲線関数を示す。
関数は、式1から導き出される双曲線関数である。
σ=ε/(a+b×ε) ・・・式1
E
0=180Fc×5
1/a:初期変形係数E
0
1/b:極限値q
u
【0013】
変形係数取得ステップS5では、関数規定ステップS4において規定した関数(双曲線関数)を利用して、構造物から改良体に作用する荷重度に応じた変形係数を求める。
沈下量評価ステップS6では、変形係数取得ステップS5で求めた変形係数と構造物から改良体に作用する荷重度とに基づいて改良体の圧縮量(すなわち、常時荷重における改良体の圧縮量)を求める。また、改良体の下側の地盤(下部地盤)の沈下量を評価する。下部地盤の沈下に対する検討は日本建築学会「建築基礎構造設計指針」に準拠し、改良地盤底面に鉛直荷重が作用するものとして沈下量を計算する。そして、常時荷重における改良体の圧縮量と下部地盤の沈下量とを合計し、改良体の上面における沈下量とする。なお、沈下量は、改良体を梁要素に置換し、梁要素に得られた変形係数を与え、梁要素の下部に地盤を模擬したばねを付して計算してもよい。
【0014】
以上、本実施形態の沈下評価方法によれば、荷重度に応じた改良体の圧縮量を算出できる。そのため、部分的に地盤改良を行う場合であっても、改良体の圧縮量(あるいは改良体上面における沈下量)を位置毎に算出することができ、これを地盤改良の設計や基礎の設計に利用することで、不同沈下を低減できる。また、沈下予測精度が向上するため、計画時に合理的で経済的な基礎形式を選択できる。
【0015】
以下、本実施形態の沈下評価方法により部分的に地盤改良を行った場合(実施例)の沈下量のシミュレーション結果を示す。
図3に沈下解析モデルの模式図を示す。
図3に示すように、沈下解析モデルは、格子状に形成された基礎梁1を有した構造物とした。基礎梁1の各交差部に柱が立設されているものとし、柱位置毎の荷重度(=接地圧)を求めた。接地圧が基礎直下の支持力を超える箇所を含む範囲(
図3において破線で囲まれた領域)を地盤改良(改良体2)の対象としてシミュレーションを行った。沈下解析モデル上で、改良体2を梁要素に置換し、双曲線関数から得られた変形係数を与えて、改良体の圧縮量と下部地盤の沈下量を算出した。また、比較例1として全体的(構造物下方の基礎地盤全体)に地盤改良を行った場合、比較例2として地盤改良を行わなかった場合についてもシミュレーションを行った。
【0016】
図4に、
図3のX-X断面における実施例および比較例1,2の柱座標位置における改良体上面の沈下量を示す。
図4に示すように、地盤改良を行った実施例および比較例1が、地盤改良を行わない場合の比較例2よりも沈下量を低減できることが確認できた。また、部分的に地盤改良を行う実施例の方が、全面的に地盤改良を行う比較例1よりも場所ごとの沈下量の差が小さく、不同沈下を抑制できる結果となった。
【0017】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、極限圧縮応力値を設計基準強度としたが、極限圧縮応力値は、供試体に対して行った一軸圧縮試験または三軸圧縮試験の計測値であってもよい。供試体は、構造物の施工予定箇所の地盤から採取した試料土と固化材とを混合して試料から作成したものであってもよいし、築造後の改良体から採取したものであってもよい。
なお、関数規定ステップにおいて規定した関数は、「建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針-セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法-」(国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人建築研究所監修)に示される変形係数E/E0とひずみの関係との比較により妥当性を確認するのが望ましい。
【符号の説明】
【0018】
1 基礎梁
2 改良体
S1 荷重度算定ステップ
S2 支持力算定ステップ
S3 改良範囲設定ステップ
S4 関数規定ステップ
S5 変形係数取得ステップ
S6 沈下量評価ステップ