(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137076
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240927BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240927BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240927BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F1/00 Y
B22F1/10
B22F3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048444
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】▲婁▼ 庚健
(72)【発明者】
【氏名】大沢 美紀
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 孝裕
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC29
4K018CA11
4K018DA11
4K018FA08
4K018KA46
5E040AA04
5E040BB03
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN04
5E040NN17
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示は、結晶配向度が高く、残留炭素量が低いR-T-B系永久磁石を得ることができるR-T-B系永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR-T-B系永久磁石の製造方法であって、R-T-B系永久磁石用の原料合金を準備する準備工程と、原料合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼結させる焼結工程と、を備える。粉砕工程において、潤滑剤が、原料合金、及び合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加され、潤滑剤は、下記式(1)で示される化合物(但し、イソブチルアミドを除く)を含む。
R
1は極性を有する官能基、R
2は水素原子、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、R
3及びR
4は夫々独立に、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR-T-B系永久磁石の製造方法であって、
R-T-B系永久磁石用の原料合金を準備する準備工程と、
前記原料合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結させる焼結工程と、
を備え、
前記粉砕工程において、潤滑剤が、前記原料合金、及び前記合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加され、
前記潤滑剤は、下記一般式(1)で示される化合物(但し、イソブチルアミドを除く)を含む、R-T-B系永久磁石の製造方法。
【化1】
[式(1)中、R
1は、極性を有する官能基を表し、R
2は、水素原子、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR1が、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基又はアセチル基である、請求項1に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で示される化合物の炭素数が、5以上である、請求項1又は2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR2が、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である、請求項1又は2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程における前記潤滑剤の添加量が、前記原料合金の全量を基準として、0.1質量%以上である、請求項1又は2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(1)で示される化合物が、ピバル酸アミド、イソ酪酸、2-エチルブタンアミド、2,2-ジエチルブタンアミド、ピバル酸、2-エチル-1-ブタノール、2,2-ジエチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタンアミン、2,2-ジエチル-1-ブタンアミン、3-メチル-2-ブタノン、3,3-ジメチル-2-ブタノン、2,2-ジメチル-4-ペンテンアミド及び2-ヘキシル-4-ペンチン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕工程が、前記原料合金を粉砕する第一の粉砕工程と、前記第一の粉砕工程によって得られた前記合金粉末を更に粉砕する第二の粉砕工程と、を含み、
前記第二の粉砕工程において、前記潤滑剤が前記合金粉末へ添加される、請求項1又は2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素R、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有するR-T-B系永久磁石は、優れた磁気特性を有する磁石として広く使用されており、自動車用や産業機械用モーターの小型化及び高性能化に伴いその需要が増加している。R-T-B系永久磁石の製造では、原料合金を粉砕して合金粉末を得る。そして、合金粉末を磁場中にて加圧して成形し、熱処理することで永久磁石が製造される。
【0003】
粉砕工程では、十分な量の潤滑剤が添加される。これにより、粉砕性の向上が期待される。また、潤滑剤の添加により、合金粉末の成形時の粒子間における動摩擦力が低減される。そのため、得られる永久磁石は、結晶配向度が向上し、残留磁束密度(Br)が高くなることが期待される。他方、潤滑剤の添加により残留炭素量が増加するため、永久磁石の保磁力(Hcj)が低下してしまう傾向がある。
【0004】
特許文献1には、総炭素数(n+1)が16以下の脂肪酸アミドを2種類以上含み、かつ総炭素数(n+1)が16以下の脂肪酸アミドが80wt%以上を占めることを特徴とする潤滑剤を用い、添加量を減少させることで、焼結体中の残留炭素量を低減するR-T-B系焼結磁石の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法により得られた焼結磁石は、残留炭素量が低下するにつれて残留磁束密度が大幅に低下している。つまり特許文献1の製造方法では、高い結晶配向度と低い残留炭素量とを両立することはできなかった。
【0007】
本開示は、結晶配向度が高く、残留炭素量が低いR-T-B系永久磁石を得ることができるR-T-B系永久磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR-T-B系永久磁石の製造方法であって、
R-T-B系永久磁石用の原料合金を準備する準備工程と、
上記原料合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、
上記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
上記成形体を焼結させる焼結工程と、
を備え、
上記粉砕工程において、潤滑剤が、上記原料合金、及び上記合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加され、
上記潤滑剤は、下記一般式(1)で示される化合物(但し、イソブチルアミドを除く)を含む、R-T-B系永久磁石の製造方法。
【化1】
[式(1)中、R
1は、極性を有する官能基を表し、R
2は、水素原子、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。]
[2]上記一般式(1)におけるR
1が、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基又はアセチル基である、[1]に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
[3]上記一般式(1)で示される化合物の炭素数が、5以上である、[1]又は[2]に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
[4]上記一般式(1)におけるR
2が、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である、[1]~[3]のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
[5]上記粉砕工程における上記潤滑剤の添加量が、上記原料合金の全量を基準として、0.1質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
[6]上記一般式(1)で示される化合物が、ピバル酸アミド、イソ酪酸、2-エチルブタンアミド、2,2-ジエチルブタンアミド、ピバル酸、2-エチル-1-ブタノール、2,2-ジエチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタンアミン、2,2-ジエチル-1-ブタンアミン、3-メチル-2-ブタノン、3,3-ジメチル-2-ブタノン、2,2-ジメチル-4-ペンテンアミド及び2-ヘキシル-4-ペンチン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
[7]上記粉砕工程が、上記原料合金を粉砕する第一の粉砕工程と、上記第一の粉砕工程によって得られた上記合金粉末を更に粉砕する第二の粉砕工程と、を含み、
上記第二の粉砕工程において、上記潤滑剤が上記合金粉末へ添加される、[1]~[6]のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、結晶配向度が高く、残留炭素量が低いR-T-B系永久磁石を得ることができるR-T-B系永久磁石の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、合金粉末の動摩擦係数の測定装置の模式的な斜視図である。
【
図2】
図2中の(a)、
図2中の(b)及び
図2中の(c)は、
図1に示される測定装置を用いた動摩擦係数の測定の手順を示す模式図であって、測定装置及び合金粉末の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示される測定装置によって測定される合金粉末のせん断力及び下部垂直応力の経時的なプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の好適な一実施形態が詳細に説明される。ただし、本開示は下記の実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」はいずれも、「R-T-B系永久磁石」を意味する。
【0012】
(永久磁石の製造方法)
本実施形態に係る永久磁石の製造方法は、R-T-B系永久磁石用の原料合金を準備する準備工程と、原料合金を粉砕して合金粉末を得る粉砕工程と、合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼結させる焼結工程と、を備える。粉砕工程において、潤滑剤が、原料合金、及び合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加される。永久磁石の製造方法は、合金粉末に磁場を印加することにより、合金粉末を配向させる配向工程を更に備えてよい。以下、各工程について詳述する。
【0013】
[準備工程]
永久磁石を構成する各元素を含む金属(金属原料)から、永久磁石用の原料合金が作製される。原料合金は、ストリップキャスティング法、ブックモールド法、又は遠心鋳造法によって作製されてよい。金属原料は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含む合金であってよい。これらの金属原料は、所望の永久磁石の組成に略一致するように秤量される。一種類の原料合金が用いられてよい。複数種の原料合金が用いられてもよい。粉砕工程前の原料合金は、多数の粒子であってよい。例えば、原料合金は、フレーク状の粒子であってよい。原料合金はインゴットであってもよい。
【0014】
永久磁石用の原料合金は、希土類元素R、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する。希土類元素Rは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Feのみを含有してよい。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Fe及びCoの両方を含有してもよい。原料合金の化学組成は、最終的に得たい永久磁石の主相及び粒界相の化学組成に応じて調整すればよい。つまり、目的とする永久磁石の組成に応じて上記元素を含む各出発原料を秤量及び配合して、原料合金を調製すればよい。永久磁石は、例えば、ネオジム磁石であってよい。永久磁石の主相は、例えば、Nd2Fe14Bであってよい。粒界相は、例えば、主相に比べて希土類元素Rの含有量が大きい相(Rリッチ相)であってよい。粒界相は、遷移金属リッチ相、Bリッチ相、酸化物相又は炭化物相を含んでもよい。
【0015】
[粉砕工程]
粉砕工程において、潤滑剤は、原料合金、合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加される。潤滑剤の添加とは、潤滑剤を、原料合金、又は合金粉末と物理的に合わせることを意味する。原料合金自体の組成は、潤滑剤の添加によって変化しなくてよい。つまり、粉砕工程において原料合金自体の組成は変化しなくてよい。
【0016】
粉砕工程は、原料合金を粉砕する第一の粉砕工程と、第一の粉砕工程によって得られた合金粉末を更に粉砕する第二の粉砕工程と、を含んでよい。第一の粉砕工程は、粗粉砕工程と言い換えられてよい。第二の粉砕工程は、微粉砕工程と言い換えられてよい。第一の粉砕工程及び第二の粉砕工程が実施されることにより、平均粒子径が小さい合金粉末が得られ易い。ただし粉砕工程は、第一の粉砕工程及び第二の粉砕工程に分けられなくてもよい。つまり、一段階の粉砕工程のみによって、原料合金から合金粉末が作製されてよい。以下では、第一の粉砕工程及び第二の粉砕工程を含む粉砕工程が説明される。第一の粉砕工程において粉砕された原料合金は、合金粉末と表記される。潤滑剤は、原料合金及び合金粉末のうち少なくともいずれかへ添加されてよい。複数回の潤滑剤の添加が行われてよい。以下の各工程は、酸素濃度が50ppm以下である非酸化的雰囲気下で実施されてよい。
【0017】
潤滑剤は、下記一般式(1)で示される化合物(但し、イソブチルアミドを除く)を含む。下記一般式(1)で示される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう)により、合金粉末同士の動摩擦係数が低減される。以下、化合物(1)について詳述する。
【0018】
【化2】
[式(1)中、R
1は、極性を有する官能基を表し、R
2は、水素原子、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。]
【0019】
R1は、例えば、アミド基(-CONR11
2基)、カルボキシル基(-COOH基)、ヒドロキシ基(-OH基)、アミノ基(-NR11
2基)、アセチル基(-COR11基)、リン酸基(-R11OPO(OH)(OR11)基)が挙げられる。アミド基、アミノ基、アセチル基、リン酸基中のR11は、水素原子又は炭化水素基であってよい。当該炭化水素基は、直鎖又は分岐のアルキル基であってよい。当該炭化水素基及びアルキル基の炭素数は、1~12、1~8又は1~2であってよい。アミド基及びアミノ基中に複数存在するR11は、同一であってよく、異なっていてもよい。
【0020】
R1は、永久磁石の結晶配向度を一層向上させつつ残留炭素量を一層低減することから、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基及びアセチル基であることが好ましく、アミド基であることがより好ましい。
【0021】
R2は、永久磁石の結晶配向度を一層向上させつつ残留炭素量を一層低減することから、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基であることが好ましい。R2は、R1がアミド基である場合、永久磁石の結晶配向度を一層向上させつつ残留炭素量を一層低減することから、ベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基であることが好ましい。ベンゼン環を有する炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。ベンゼン環を有する炭化水素基の炭素数は、6~20であってよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、例えば、1~20であってよい。アルケニル基としては、例えば、エテニル基、プロぺニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基及びオクテニル基が挙げられる。アルケニル基の炭素数は、2~20であってよい。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基及びオクチニル基が挙げられる。アルキニル基の炭素数は、2~20であってよい。アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、直鎖又は分岐鎖であってよい。
【0022】
R3及びR4のベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基としては、それぞれ、R2のベンゼン環を有する炭化水素基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基と同様のものが例示される。
【0023】
化合物(1)の具体例としては、ピバル酸アミド、イソ酪酸、2-エチルブタンアミド、2,2-ジエチルブタンアミド、ピバル酸、2-エチル-1-ブタノール、2,2-ジエチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタンアミン、2,2-ジエチル-1-ブタンアミン、3-メチル-2-ブタノン、3,3-ジメチル-2-ブタノン、2,2-ジメチル-4-ペンテンアミド、2-ヘキシル-4-ペンチン酸、2-メチルブタンアミド、バルプロミド、2,2-ジプロピルペンタンアミド、αーメチルシクロヘキサンアセトアミド、2-エチルブタン酸、2,2-エチルブタン酸、3-エチルー2-ペンタノン、リン酸-2-水素イソプロピル、リン酸水素ジイソプロピルが挙げられる。化合物(1)は、1種を単独で用いてよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
化合物(1)の炭素数は、永久磁石の結晶配向度を一層向上させつつ残留炭素量を一層低減することから、5以上であることが好ましい。化合物(1)の炭素数は、同様の観点から、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0025】
潤滑剤における化合物(1)の含有量は、潤滑剤の全量を基準として、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は100質量%であってよい。
【0026】
粉砕工程における潤滑剤の添加量は、原料合金の全量を基準として、永久磁石の結晶配向度を一層向上させつつ残留炭素量を一層低減することから、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。原料合金の質量の絶対値は、m(kg)と表されてよく、潤滑剤の質量の絶対値の合計は、a(kg)と表されてよく、原料合金の全量に対する潤滑剤の添加量の合計は、100a/m(質量%)と表されてよい。
【0027】
第一の粉砕工程における原料合金の粉砕手段は、水素吸蔵粉砕、ディスクミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル及びスタンプミルからなる群より選ばれる少なくとも一種の手段であってよい。第一の粉砕工程では、複数種の粉砕手段によって原料合金が粉砕されてよい。第一の粉砕工程によって得られた合金粉末の平均粒子径は、例えば、10μm以上1000μm以下であってよい。第一の粉砕工程によって得られた合金粉末は、粗粉末と言い換えられてよい。
【0028】
第一の粉砕工程では、水素吸蔵粉砕により原料合金が粉砕されることが好ましい。水素吸蔵粉砕では、水素が原料合金へ吸蔵される。水素の吸蔵後、原料合金の加熱により水素が原料合金から脱離する。原料合金からの水素の脱離により、原料合金が粉砕される。水素吸蔵粉砕により、高い粉砕速度で原料合金の平均粒子径が目標値まで低減され易い。原料合金からの水素の脱離のために、水素が吸蔵された原料合金は、200℃以上又は350℃以上で加熱されてよい。加熱時間は、30分以上又は60分以上であってよい。原料合金からの水素の脱離のために、水素が吸蔵された原料合金は、真空中又はアルゴン(Ar)ガスの気流中で加熱されてよい。
【0029】
潤滑剤が添加された原料合金が水素吸蔵粉砕により粉砕される場合、潤滑剤の水素化分解によって潤滑剤が減少し易い。第一の粉砕工程における潤滑剤の減少により、第一の粉砕工程に及び第二の粉砕工程其々の粉砕速度が低下し易い。したがって、第一の粉砕工程において原料合金が水素吸蔵粉砕によって粉砕される場合、第一の粉砕工程における潤滑剤の水素化分解を防止するために、第二の粉砕工程において潤滑剤が合金粉末へ添加されることが好ましい。
【0030】
第二の粉砕工程における合金粉末の粉砕手段は、ジェットミル(気流粉砕機)、ボールミル、ビーズミル、振動ミル及び湿式アトライターからなる群より選ばれる少なくとも一種の手段であってよい。第二の粉砕工程では、複数種の粉砕手段によって合金粉末が粉砕されてよい。第二の粉砕工程において粉砕された合金粉末の平均粒子径は、例えば、0.5μm以上4μm以下であってよい。第二の粉砕工程において粉砕された合金粉末は、微粉末と言い換えられてよい。
【0031】
第二の粉砕工程では、ジェットミルにより合金粉末が粉砕されることが好ましい。ジェットミルでは、高圧の不活性ガスが高速でノズルから噴射され、合金粉末が不活性ガスによって加速される。加速された合金粉末同士の衝突、及び合金粉末とその容器の内壁との衝突によって、合金粉末が更に粉砕される。ジェットミルにより、高い粉砕速度で合金粉末の平均粒子径が目標値まで低減され易い。不活性ガスは、例えばArであってよい。
【0032】
第二の粉砕工程では、潤滑剤が添加された合金粉末が粉砕されてよい。例えば、第二の粉砕工程では、合金粉末、潤滑剤が、円錐型混合機(ナウタミキサー)、V型混合機又は攪拌羽式攪拌機によって混合されてよく、これらの混合物がジェットミルにより粉砕されてよい。
【0033】
合金粉末の動摩擦係数は、0.43以下であってよい。動摩擦係数の測定方法は、後述する。
【0034】
[成形工程及び配向工程]
成形工程では、型を用いて合金粉末から成形体を作製する。成形工程及び配向工程は同時に実施されてよい。成形工程及び配向工程が同時に実施される場合、金型内の合金粉末に磁場を印加しながら、合金粉末が金型で加圧される。その結果、磁場に沿って配向された合金粉末を含む成形体が得られる。合金粉末が化合物(1)を含むことにより合金粉末を構成する合金粒子間の摩擦が低減される。その結果、成形体の密度が高まり、合金粉末が磁場に沿って配向され易く、永久磁石の残留磁束密度が高まる。
【0035】
金型が合金粉末に及ぼす圧力は、30MPa以上300MPa以下であってよい。金型内の合金粉末に印加される磁場の強さは、796kA/m以上1990kA/m以下であってよい。磁場は、静磁場又はパルス磁場であってよい。合金粉末及び潤滑剤の混合物が成形されてよい。
【0036】
成形工程の後、配向工程が実施されてよい。配向工程前に実施される成形工程では、型を用いて合金粉末から成形体が形成される。型は、樹脂、金属及びセラミックからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料からなっていてよい。配向工程前に実施される成形工程では、型が合金粉末に及ぼす圧力が、0.049MPa以上20MPa以下であってよい。成形工程後に実施される配向工程では、型内に保持された成形体へ磁場が印加される。つまり、型内の成形体に磁場を印加することにより、成形体を構成する合金粉末が磁場に沿って配向される。磁場は、静磁場又はパルス磁場であってよい。型内の成形体に印加する磁場の強度は、例えば、796kA/m以上5173kA/m以下であってよい。配向工程においても、型内の成形体が加圧されてよい。配向工程において型が成形体に及ぼす圧力は、0.049MPa以上20MPa以下であってよい。
【0037】
成形工程及び配向工程の後、成形体が脱磁されてよい。
【0038】
[焼結工程]
焼結工程では、焼結炉中で成形体を焼結させることにより、焼結体が得られる。焼結炉内の雰囲気は、真空又は不活性ガスであってよい。不活性ガスは、例えばArであってよい。焼結工程の諸条件は、目的とする永久磁石の組成、原料合金の粉砕方法及び合金粉末の平均粒子径等に応じて、適宜設定されてよい。焼結温度は、例えば900℃以上1200℃以下であってよい。焼結時間は、1時間以上20時間以下であってよい。成形体中に含まれている化合物(1)のうち一部は高温で揮発し、その他は成形体中の水素により還元され、成形体から離脱する。それによって、得られる焼結体の残留炭素量が低下する。
【0039】
時効処理工程において、焼結体が更に加熱されてよい。時効処理工程により、焼結体の磁気特性が向上する。時効処理工程の雰囲気は、真空又は不活性ガスであってよい。不活性ガスは、例えばArであってよい。時効処理工程では、焼結体が約600℃で1~3時間加熱されてよい。多段階の時効処理工程が実施されてもよい。例えば、第一時効処理では、焼結体が700~900℃で1~3時間加熱されてよく、第一時効処理に続く第二時効処理では、焼結体が500~700℃で1~3時間加熱されてよい。焼結工程に連続して時効処理工程が実施されてよい。
【0040】
時効処理工程に続く冷却工程により、焼結体が急冷されてよい。焼結体は、不活性ガス中で急冷されてよい。不活性ガスは、例えばArであってよい。焼結体の冷却速度は、例えば5℃/分以上100℃/分以下であってよい。
【0041】
加工工程では、切削及び研磨等により、焼結体の寸法及び形状が調整されてよい。以上方法によって得られた焼結体は、重希土類元素を含んでいなくてよい。焼結体が、既に重希土類元素を含んでいてもよい。焼結体中の重希土類元素の有無に関わらず、以下の拡散工程が実施されてよい。ただし拡散工程は必須ではない。
【0042】
重希土類元素を含む永久磁石を製造する場合、拡散工程が実施されてよい。重希土類元素は、例えば、Tb及びDyのうち少なくとも一つの元素であってよい。拡散工程では、重希土類元素又はその化合物を上記の焼結体の表面に付着させた後、焼結体が加熱されてもよい。例えば、重希土類元素を焼結体の表面に付着させてよい。重希土類元素を含む蒸気中において、焼結体が加熱されてもよい。拡散工程により、重希土類元素が焼結体の表面から内部へ拡散し、さらに重希土類元素が粒界を介して主相粒子の表面へ拡散する。
【0043】
重希土類元素を含有する塗料が焼結体に表面に塗布されてよい。塗料が重希土類元素を含む限り、塗料の組成は限定されない。塗料は、例えば、重希土類元素の単体、重希土類元素を含む合金、又は重希土類元素を含む化合物であってよい。重希土類元素を含む化合物は、水素化物、フッ化物、又は酸化物であってよい。塗料に含まれる溶媒(分散媒)は、水以外の溶媒であってよい。例えば、溶媒は、アルコール、アルデヒド、又はケトン等の有機溶媒であってよい。塗料における重希土類元素の濃度は限定されない。
【0044】
拡散工程における拡散処理温度は、800℃以上950℃以下であってよい。拡散処理時間は、1時間以上50時間以下であってよい。拡散処理温度及び拡散処理時間が上記の範囲内であることにより、重希土類元素の濃度分布を制御し易く、永久磁石の製造コストが低減される。拡散工程が上述の時効処理工程を兼ねてもよい。
【0045】
拡散工程後に、さらに熱処理を永久磁石に施してもよい。拡散工程後の熱処理温度は、450℃以上600℃以下であってよい。熱処理時間は、1時間以上10時間以下であってよい。拡散工程後の熱処理によって、最終的に得られる永久磁石の磁気特性(特に保磁力)が向上し易い。
【0046】
拡散工程の後、切削及び研磨等により、焼結体の寸法及び形状が調整されてよい。
【0047】
焼結体の表面の酸化又は化成処理(chemical treatment)により、不動態(passive)層が焼結体の表面に形成されてよい。焼結体の表面が樹脂膜で覆われてもよい。不動態層又は樹脂膜の形成により、永久磁石の耐食性が更に向上する。
【0048】
以上の方法により、永久磁石が製造される。永久磁石の形状は限定されない。例えば、永久磁石の形状は、直方体、立方体、矩形(板)、多角柱、アークセグメント、扇、環状扇形(annular sector)状、球、円板、円柱、筒、リング、又はカプセルであってよい。永久磁石の断面の形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓形、アーチ形、C字形、又は円であってよい。永久磁石は、モータ、発電機又はアクチュエーター等に適用されてよい。例えば、永久磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用される。
【0049】
[作用機序]
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の製造方法によれば、粉砕工程において添加される潤滑剤が化合物(1)を含むことで、結晶配向度が高く、残留炭素量が低い永久磁石が得られる。このような効果が奏される理由を本発明者らは以下のように推察している。すなわち、化合物(1)がR1として有する極性を有する官能基は、合金粉末への吸着力を増強する。他方、化合物(1)がR3及びR4として有するアルキル基等は、その嵩高さにより化合物(1)同士の反発力を増強する。そのため、合金粉末に吸着した化合物(1)が合金粉末間の反発を促すことで動摩擦係数が低減される。それにより、合金粉末を成形するときの合金粉末の流動性が高まる。その結果、得られる永久磁石の結晶配向度が向上する。また、得られる永久磁石の残留磁束密度が向上する。
【0050】
また、化合物(1)がR3及びR4として有するアルキル基等は、その嵩高さにより化合物(1)と、吸着している合金粉末との間の反発力を増強する。そのため、化合物(1)は、例えば、上記一般式(1)においてR2~R4のうち2つが水素原子である化合物を用いた場合と比較して、焼結工程において揮発しやすい。その結果、得られる永久磁石の残留炭素量は低いものとなる。また、得られる永久磁石の保磁力が向上する。
【0051】
(動摩擦係数の測定方法)
以下、合金粉末の動摩擦係数の測定方法について詳述する。
図1は、動摩擦係数の測定装置10を示す。測定装置10は、セル8、基板12、下部圧力計5、パンチ6、垂直サーボシリンダ4(サーボモータ)、及び水平サーボシリンダ14を備える。セル8は円筒であり、セル8の端面が基板12の表面に接するように、セル8が基板12の表面に設置される。セル8は基板12の表面に固定されておらず、基板12から分離可能である。セル8の内側の空間と連通する凹部が基板12の表面に形成されている。パンチ6の少なくとも一部は円柱であり、セル8の内側に嵌合される。パンチ6は、セル8と垂直サーボシリンダ4の間に配置され、パンチ6の端面が垂直サーボシリンダ4の先端で押されることにより、パンチ6がセル8の内側へ挿入される。垂直サーボシリンダ4は、垂直方向(鉛直方向)におけるパンチ6の位置及び移動速度を自在に制御する。垂直方向とは、セル8が設置される基板12の表面に対して垂直な方向と言い換えられる。水平サーボシリンダ14は、基板12の側面を押して、水平方向において、基板12を移動させる。水平サーボシリンダ14は、水平における基板12の位置及び移動速度を自在に制御する。水平方向とは、セル8が設置される基板12の表面に対して平行な方向と言い換えられる。下部圧力計5は、基板12の下に設置される。
【0052】
図2中の(a)に示されるように、合金粉末3は、セル8の内側及び基板12の凹部へ設置される。セル8と基板12との間には、合金粉末3がセル8内から漏れ出ない程度に小さい隙間が設けられている。続いて、
図2中の(b)に示されるように、パンチ6がセル8の内側へ挿入され、パンチ6の端面が合金粉末3を圧縮する。セル8内の合金粉末3が底面に及ぼす下部垂直応力F
LNは、下部圧力計5によって測定される。
【0053】
下部垂直応力FLNが設定値Faに到達すると、セル8内の合金粉末3をパンチ6で加圧した状態で、パンチ6及びセル8の位置が固定され、合金粉末3の体積(パンチ6、セル8及び基板12の凹部で囲まれた領域の容積)が一定に維持される。この時、合金粉末3全体にかかる応力が最も低くなるように、合金粉末3を構成する個々の金属粒子が移動及び回転して、再配列する。
【0054】
図2中の(c)に示すように、基板12の側面を水平サーボシリンダ14の先端で押すことにより、基板12を一定のせん断速度で水平方向に移動させる。その結果、せん断力fがセル8内の合金粉末3へ作用する。せん断力fは、水平サーボシリンダ14が基板12の側面に及ぼす力fと等しい。したがって、せん断力fは水平サーボシリンダ14の先端に設置されたロードセルによって測定される。せん断力f及び下部垂直応力F
LN其々の経時間的な変化は、
図3に示される。
図3の右側の縦軸は、せん断力f(単位:N)である。
図3の左側の縦軸は、下部垂直応力F
LN(単位:N)である。
図3の横軸は、時間T(単位:秒)である。
【0055】
合金粉末3のせん断に伴って、せん断面近傍に位置する金属粒子は移動及び回転して再配列する。そして、金属粒子の再配列が十分に進み、せん断面が定常状態になると、せん断力fは最大値fcに至る。一方、セル8内の合金粉末3が底面に及ぼす下部垂直応力FLNは、せん断面における金属粒子の再配列が進むにつれて減少する。せん断力fが最大値fcとなる時、下部垂直応力FLNはFdに至る。つまりFdとは、せん断力fが最大値fcであるときの下部垂直応力FLNと定義される。
【0056】
以上のせん断力f(fc)及び下部垂直応力FLN(Fd)の測定方法に基づき、合金粉末3の動摩擦係数μは、下記数式1Aによって定義される。
μ=fc/Fd (1A)
【実施例0057】
以下、本開示が実施例により更に詳細に説明されるが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
ストリップキャスト法により、フレーク状の原料合金が作製された。原料合金は、Nd、Co、Cu、Zr、Al、B及びFeからなっていた。原料合金における各元素の含有量は以下の値であった。
Ndの含有量:29質量%
Coの含有量:0.5質量%
Cuの含有量:0.1質量%
Zrの含有量:0.2質量%
Alの含有量:0.2質量%
Bの含有量:0.97質量%
Feの含有量:balance(残部)
【0059】
第一の粉砕工程では、室温下で1時間にわたって水素を原料合金へ吸蔵させた。水素の吸蔵後、原料合金を500℃で1時間加熱することにより、原料合金が脱水素された。以上の水素吸蔵粉砕により原料合金が粉砕され、合金粉末が得られた。第一の粉砕工程によって得られた合金粉末の平均粒子径は、500μmであった。
【0060】
第一の粉砕工程に続く第二の粉砕工程では、潤滑剤が合金粉末へ添加された。実施例1の潤滑剤は、下記表1に示される。潤滑剤の炭素数と、式(1)中R1の名称及び構造と、R2、R3及びR4のうち炭化水素基であるものの個数とを表1に示した。合金粉末の全量を基準とした潤滑剤の添加量は、下記表1に示される。
【0061】
第二の粉砕工程では、潤滑剤及び合金粉末が室温で10分間混合された。潤滑剤及び合金粉末はV型混合機によって混合された。潤滑剤と混合された合金粉末はジェットミルによって更に粉砕された。合金粉末の平均粒子径が3μmになるまで、合金粉末がジェットミルによって粉砕された。ジェットミルの気流は、N2ガスであった。気流中の酸素の濃度は50ppm以下であった。
【0062】
以上の第一の粉砕工程及び第二の粉砕工程により、実施例1の永久磁石用の合金粉末が作製された。実施例1の合金粉末における動摩擦係数は、後述する方法で測定された。
【0063】
[動摩擦係数の測定]
上述の方法で、実施例1の合金粉末の動摩擦係数μを測定した。測定装置としては、株式会社ナノシーズ製の粉体層せん断力測定装置NS‐S500を用いた。測定装置の概要は、
図1、2及び3に示されるとおりであった。測定に用いた円筒状のセル8の内径φは、15mmであった。測定では、セル8の端面と基板12の表面との間に、0.3mmの隙間を設けた。測定では、10gの合金粉末3をセル8の内側及び基板12の凹部へ充填した。パンチ6の押し込み速度は、0.2mm/秒に維持した。粒子間の応力の緩和時間は、200秒であった。動摩擦係数μの測定におけるせん断速度は、10μm/秒に維持した。これにより、下部垂直応力F
LNの設定値Faを40N及び60Nに変更してせん断力fの最大値(設定値が40Nの場合:fc1、設定値が60Nの場合:fc2)と、せん断力fが最大値であるときの下部垂直応力F
LN(設定値が40Nの場合:Fd1、設定値が60Nの場合:Fd2)とを測定した。下部垂直応力を横軸にせん断力を縦軸にして(Fd1、fc1)及び(Fd2、fc2)をプロットして最小二乗法を用いて一次近似曲線を引き、その傾きを動摩擦係数μとした。
【0064】
合金粉末がV型混合機によって攪拌された。合金粉末の攪拌後、金型内の合金粉末に磁場を印加しながら、合金粉末を金型で加圧することにより、成形体が作製された。つまり成形工程及び配向工程が同時に実施された。金型が合金粉末に及ぼす圧力は、1.4t/cm2であった。金型内の合金粉末に印加された磁場の強さは、1193kA/mであった。
【0065】
焼結過程では、成形体をArガス中で加熱することにより、焼結体が得られた。焼結過程では、成形体が1030℃で4時間加熱された。焼結過程に続いて、焼結体は急冷された。
【0066】
焼結体の急冷後、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理が実施された。第一時効処理及び第二時効処理のいずれにおいても、焼結体はArガス中で加熱された。第一時効処理では、焼結体が900℃で1時間加熱された。第二時効処理では、焼結体が530℃で1時間加熱された。
【0067】
以上の方法により、実施例1の永久磁石が作製された。
【0068】
[保磁力、残留磁束密度、残留磁気分極及び飽和磁気分極の測定]
室温(23℃)における実施例1の永久磁石の保磁力(Hcj)及び残留磁束密度(Br)が測定された。測定には、B‐Hトレーサーを用いた。
【0069】
[結晶配向度の測定方法]
実施例1の永久磁石の結晶配向度は、ロットゲーリング法により測定された。具体的には、まず、永久磁石の磁極面を鏡面研磨した。その後、鏡面研磨した面に対してX線回折測定した。そして、測定により得られた回折ピークの強度を下記数式1に代入して配向度(単位:%)を算出した。下記数式1のI(00l)は、永久磁石の(00l)面における反射X線の回折強度である。下記数式1のI(hkl)は、永久磁石の(hkl)面における反射X線の回折強度である。なお、実際に即した結晶配向度を算出するためには、回折ピークに対してベクトル補正を行うことが好ましいため、本実施例ではベクトル補正を行った上で結晶配向度を算出した。結果を表1に示した。
【数1】
【0070】
[残留炭素量の測定]
実施例1の永久磁石の残留炭素量は、赤外線吸収法によって測定された。結果を表1に示した。
【0071】
(実施例2~16、比較例1~6)
各実施例及び比較例の第一の粉砕工程では、下記表1に示される潤滑剤が合金粉末へ添加された。各実施例及び比較例の潤滑剤の添加量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて、実施例1と同様の方法で各実施例及び比較例の合金粉末及び永久磁石が作製された。各実施例及び比較例の合金粉末の動摩擦係数は、実施例1と同様にして測定された。各実施例及び比較例の永久磁石の保磁力、残留磁束密度及び残留炭素量は、実施例1と同様にして測定された。各実施例及び比較例の永久磁石の結晶配向度は、実施例1と同様にして算出された。結果を表1に示した。
【0072】