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特開2024-137086(メタ)アクリル酸系共重合体及びその製造方法、水処理剤並びにスケール付着防止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137086
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸系共重合体及びその製造方法、水処理剤並びにスケール付着防止剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/54 20060101AFI20240927BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240927BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20240927BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F220/54
C08F220/06
C02F5/00 610Z
C02F5/00 620B
C02F5/00 620C
C02F5/10 620D
C02F5/10 620C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048458
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】523109194
【氏名又は名称】トウアゴウセイ・タイランド・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Toagosei(Thailand) Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】890/4,Moo 3,Khaokansong,Sriracha Chonburi 20110 Thailand
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】山内 光司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正裕
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02S
4J100AJ02P
4J100AK32R
4J100AL03S
4J100AM17S
4J100AM21Q
4J100BA56Q
4J100CA06
4J100DA01
4J100DA38
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】被処理水と混合した際に泡立ちが発生しにくく、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケール形成が抑制される水処理剤、その主成分として好適な(メタ)アクリル酸系共重合体を提供する。
【解決手段】本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、a)(メタ)アクリル酸及びその塩から選ばれる1種に由来する単位と、b)不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物から選ばれる1種に由来する単位と、c)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる1種に由来する単位と、d)20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体から選ばれる1種に由来する単位とを、65.1~95.7質量%、0.1~30.7質量%、4.1~29.9質量%及び0.1~4.9質量%の割合で含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)からなる(メタ)アクリル酸系共重合体であって、
(a)(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(ma)に由来する単量体単位
(b)不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mb)に由来する単量体単位
(c)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mc)に由来する単量体単位
(d)20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(md)に由来する単量体単位
前記単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とした場合に、前記単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の含有割合は、それぞれ、65.1~95.7質量%、0.1~30.7質量%、4.1~29.9質量%及び0.1~4.9質量%である(メタ)アクリル酸系共重合体。
【請求項2】
重量平均分子量が1,500~20,000である請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸系共重合体の合計量に対して、分子量が1,000以下である(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合が15.0質量%以下であり、分子量が200,000以上である(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合が0.10質量%以下である請求項2に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体。
【請求項4】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法であって、
前記単量体(ma)、前記単量体(mb)、前記単量体(mc)、前記単量体(md)及び水を含む単量体混合物を調製する調製工程と、
反応器に、前記単量体混合物、重合開始剤、及び任意成分として連鎖移動剤を、それぞれ、連続的に供給し、単量体の重合を行う重合工程と、
を、順次、備える(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合工程において、前記反応器への前記単量体混合物の供給時間を2~12時間とする請求項4に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程において、前記反応器における前記単量体(md)の残留濃度を合計で0.3g/100mL以下に保持しながら前記単量体の重合を行う請求項5に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する水処理剤。
【請求項8】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する、リン酸カルシウムスケール、炭酸カルシウムスケール、硫酸カルシウム及びシリカスケールの付着防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成が十分に抑制される水処理剤又はスケール付着防止剤並びにこれらの主成分として好適な(メタ)アクリル酸系共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水は、各種産業において用いられており、水の送液は、通常、配管を介してなされる。しかしながら、送液又は滞留を繰り返す等により配管の内表面に、珪素化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物等を含むスケールが形成されるため、このようなスケール形成を抑制する処理剤(水処理剤)が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水性系の中にシリカまたは珪酸塩の形成が蔓延するのを防止するための方法であって、前記系に、a)重量平均分子量約1000~約25000の、(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー、但し、コポリマーは、1)約20~約85重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、2)約11超~約80重量%の(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸、または、3)約5~約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または、4)約30~約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成されており、そしてターポリマーは、1)約30~約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、2)約11超~約65重量%の(メタ)アクリルアミノメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と、3)約5~約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または4)約5~約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、または、5)(メタ)アクリルアミノメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3~約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成されている、b)マグネシウムイオン、c)前記コポリマーまたはターポリマーと、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物、d)重量平均分子量約1000~約25000のポリ(メタ)アクリル酸またはポリマレイン酸またはそれらの塩と、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、無機塩の沈澱を抑制することによって水性系を安定化させる方法であって、水性系に、(a1)2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-メタクリルアミド-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸又はそれらの塩の1以上から選択される不飽和スルホン酸40~60重量%;及び(b1)アクリル酸又はメタクリル酸又はそれらの塩から選択される不飽和カルボキシルモノマー40~60重量%のモノマー単位を有する、重量平均分子量が約3,000~約10,000である水溶性ポリマー、あるいは、(a2)2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-メタクリルアミド-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸又はそれらの塩の1以上から選択される不飽和スルホン酸30~60重量%;(b2)アクリル酸又はメタクリル酸又はそれらの塩から選択される不飽和カルボキシルモノマー35~65重量%;及び(c2)tert-ブチルアクリルアミド、tert-オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、スチレン、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート又はヒドロキシプロピルアクリレートの1以上から選択される不飽和非イオン化性モノマー0.1~10重量%のモノマー単位を有する、重量平均分子量が約3,000~約12,000である水溶性ポリマーを加えることを含み;水性系は、鉄、亜鉛、カルシウム、ホスフェート又はモリブデートイオンの1以上から選択される無機イオンを含み;水性系を、約80℃を超える温度に保持する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、アクリル酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(x)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩に由来する構造単位(y)とを含み、前記構造単位(x)及び前記構造単位(y)の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、35~90質量%及び10~65質量%であるアクリル酸系共重合体であり、重量平均分子量Mwが2000~30000であり、分子量が70000以上であるアクリル酸系共重合体の含有割合が、すべての重合体の合計量に対して0.30質量%以下であるアクリル酸系共重合体が開示されている。そして、このアクリル酸系共重合体は、リン酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果を有する水処理剤の含有成分として好適であることが記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、開放循環冷却水系等において、熱交換器等へのリン酸カルシウム系スケール及びシリカ系スケールの付着を効果的に防止する処理剤として、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸と、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体との共重合体であって、全単量体由来の構造単位100重量%中、(メタ)アクリル酸由来の構造単位を40~70重量%、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸由来の構造単位を15~40重量%、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体由来の構造単位を5~25重量%有し、かつ、ポリマー鎖に次亜リン酸化合物由来の骨格を含む共重合体を有効成分とすることを特徴とするリン酸カルシウム系スケール及びシリカ系スケール防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-356580号公報
【特許文献2】特開平8-224597号公報
【特許文献3】国際公開2016/047267号公報
【特許文献4】特開2018-130702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スケール形成の抑制に用いられる水処理剤は、通常、水溶液であり、このような水処理剤は、被処理水に対してそれが作用したか否かを目視で判断しやすいことから、透明性を有することが好ましく、また、重合体等の有効成分によるスケール形成抑制効果を発現させやすいことから、スケールの構成成分である、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム又は硫酸カルシウムを形成する前駆体成分を含む水と混合したときに、泡立ちが発生しにくいことが好ましい。
本発明の課題は、水溶液とした際に透明性に優れ、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等を形成する前駆体成分を含む水(被処理水)と混合した際に泡立ちが発生しにくく、混合液において、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成が十分に抑制される水処理剤並びにスケール付着防止剤を与える(メタ)アクリル酸系共重合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7gを超える単量体である、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種、不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種、並びに、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種、に、それぞれ、由来する各単量体単位と、20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する単量体単位とからなり、これらの4種の単量体単位が特定の割合で含有される(メタ)アクリル酸系共重合体を水に溶解させると透明性を有する水溶液を得ることができ、この水溶液を水処理剤として用い、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム又は硫酸カルシウムを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)と接触させると、泡立ちが発生しにくく、水処理剤と各被処理水との各混合液において、これらの化合物を含むスケールの形成が抑制されることを見い出した。
【0010】
本発明は、以下に示される。
[1]下記の単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)からなる(メタ)アクリル酸系共重合体であって、
(a)(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(ma)に由来する単量体単位
(b)不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mb)に由来する単量体単位
(c)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mc)に由来する単量体単位
(d)20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(md)に由来する単量体単位
上記単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とした場合に、上記単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の含有割合は、それぞれ、65.1~95.7質量%、0.1~30.7質量%、4.1~29.9質量%及び0.1~4.9質量%である(メタ)アクリル酸系共重合体。
[2]重量平均分子量が1,500~20,000である上記[1]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体。
[3]上記(メタ)アクリル酸系共重合体の合計量に対して、分子量が1,000以下である(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合が15.0質量%以下であり、分子量が200,000以上である(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合が0.10質量%以下である上記[2]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体。
[4]上記[1]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法であって、
上記単量体(ma)、上記単量体(mb)、上記単量体(mc)、上記単量体(md)及び水を含む単量体混合物を調製する調製工程と、
反応器に、上記単量体混合物、重合開始剤、及び任意成分として連鎖移動剤を、それぞれ、連続的に供給し、単量体の重合を行う重合工程と、
を、順次、備える(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
[5]上記重合工程において、上記反応器への上記単量体混合物の供給時間を2~12時間とする上記[4]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
[6]上記重合工程において、上記反応器における上記単量体(md)の残留濃度を合計で0.3g/100mL以下に保持しながら上記単量体の重合を行う上記[5]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
[7]上記[1]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する水処理剤。
[8]上記[1]に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する、リン酸カルシウムスケール、炭酸カルシウムスケール、硫酸カルシウム及びシリカスケールの付着防止剤。
【0011】
本明細書において、重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう)及び数平均分子量(以下、「Mn」ともいう)は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)により測定された標準ポリアクリル酸ナトリウム換算値である。また、「(メタ)アクリル」の記載は、アクリル及びメタクリルを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体を水に溶解させると透明性を有する水溶液を得ることができ、この水溶液を水処理剤として用い、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム又は硫酸カルシウムを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)と接触させると、泡立ちが発生しにくく、水処理剤と各被処理水との混合液において、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成を好適に抑制することができる。従って、本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、スケールを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)が接触する配管等における内表面に、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの付着を防止する薬剤成分として用いることもできる。
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法によれば、上記効果を有する(メタ)アクリル酸系共重合体を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「(メタ)アクリル酸系共重合体(P)」という)は、下記の単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)からなり、これらの単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とした場合に、単量体単位(a)、(b)及び(c)の含有割合が、それぞれ、65.1~95.7質量%、0.1~30.7質量%、4.1~29.9質量%及び0.1~4.9質量%であることを特徴とする。
(a)(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(ma)に由来する単量体単位
(b)不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mb)に由来する単量体単位
(c)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(mc)に由来する単量体単位
(d)20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体(md)に由来する単量体単位
【0014】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(a)は、単量体(ma)の少なくとも1種に由来するものであり、アクリル酸、アクリル酸塩、メタクリル酸及びメタクリル酸塩から選ばれた少なくとも1つに由来する単量体単位である。
【0015】
上記単量体(ma)としては、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸カルシウム等が挙げられる。
【0016】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の水溶液の透明性の観点から、単量体単位(a)は、アクリル酸塩に由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0017】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(a)の含有割合は、単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とすると、65.1~95.7質量%である。下限値は、好ましくは65.2質量%、より好ましくは65.3質量%である。また、上限値は、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%である。
【0018】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体(b)は、単量体(mb)の少なくとも1種に由来するものであり、不飽和ジカルボン酸及びその塩並びに不飽和ジカルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する単量体単位である。
【0019】
上記単量体(mb)としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの無水物や、不飽和ジカルボン酸に含まれるカルボキシ基と、1価又は多価のカチオンとにより形成された塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩等)等が挙げられる。
【0020】
本発明において、スケールへのキレート効果と重合性の観点から、単量体単位(b)は、無水マレイン酸に由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(b)の含有割合は、単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とすると、0.1~30.7質量%である。下限値は、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%である。また、上限値は、好ましくは25質量%、より好ましくは20質量%である。
【0022】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(c)は、単量体(mc)の少なくとも1種に由来するものであり、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1つに由来する単量体単位である。
【0023】
上記単量体(mc)としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
本発明において、共重合体の溶解度向上の観点から、単量体単位(c)は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩に由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0025】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(c)の含有割合は、単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とすると、4.1~29.9質量%である。下限値は、好ましくは10質量%、より好ましくは20質量%である。また、上限値は、好ましくは29.5質量%、より好ましくは29.0質量%である。
【0026】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(d)は、単量体(md)の少なくとも1種に由来するものであり、20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
20℃又は30℃の水100mLに対する溶解度が7g以下のビニル単量体としては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ブチレン、イソブチレン、N-tert-ブチルアクリルアミド(TBAM)等が挙げられる。本発明においては、上記溶解度が0.1g以下のビニル単量体が好ましい。
また、芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0027】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の水溶性、得られる水溶液の透明性、並びに、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成抑制性の観点から、単量体単位(d)は、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、N-tert-ブチルアクリルアミド(TBAM)又はスチレンに由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0028】
本発明において、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を構成する単量体単位(d)の含有割合は、単量体単位(a)、(b)、(c)及び(d)の合計を100質量%とすると、0.1~4.9質量%である。下限値は、好ましくは0.2質量%、より好ましくは0.4質量%である。また、上限値は、好ましくは3.0質量%、より好ましくは2.0質量%である。
【0029】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の具体例は、以下に示される。
(1)アクリル酸塩・無水マレイン酸・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩・スチレン共重合体
(2)アクリル酸塩・無水マレイン酸・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩・アクリル酸エチル共重合体
(3)アクリル酸塩・無水マレイン酸・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩・アクリル酸n-ブチル共重合体
(4)アクリル酸塩・無水マレイン酸・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩・アクリル酸イソブチル共重合体
(5)アクリル酸塩・無水マレイン酸・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩・N-tert-ブチルアクリルアミド(TBAM)共重合体
【0030】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の構造は、特に限定されないが、好ましくはランダム共重合体である。
【0031】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)のMwは、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成抑制性の観点から、好ましくは1,500~20,000であり、より好ましくは2,000~15,000、更に好ましくは3,000~10,000である。また、MwとMnとの比(Mw/Mn)である多分散度は、好ましくは1.2~2.5、より好ましくは1.2~2.0である。
【0032】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)は、分子量の異なる共重合体が集合して、上記好ましいMwを有するものとすることができる。そして、本発明においては、分子量が1,000以下である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「(メタ)アクリル酸系共重合体(P1)」という)や、分子量が200,000以上である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「(メタ)アクリル酸系共重合体(P2)」という)が含まれてもよいが、(メタ)アクリル酸系共重合体(P1)の含有割合は、本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の合計量に対して、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下であり、(メタ)アクリル酸系共重合体(P2)の含有割合は、本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の合計量に対して、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0033】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)は、特定の単量体単位を特定の含有割合で含み、上記好ましいMwを有することから、透明性に優れた水溶液を得ることができる。そして、この水溶液を水処理剤として用い、リン酸カルシウム又はシリカを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)と接触させると、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム又は硫酸カルシウムを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)と接触させると、泡立ちが発生しにくく、水処理剤と、各被処理水との混合液において、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケールの形成を抑制することができる。水処理剤と被処理水とを混合した際に泡立ちが発生しにくいことについて、本発明者らは、単量体単位(d)が疎水性基を有することから、この単量体単位(d)を0.1~4.9質量%含む(メタ)アクリル酸系共重合体(P)において、疎水性基及び親水性基のバランスが界面活性剤として働かない範囲で制御できているためであると推定している。
【0034】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)は、従来、公知の方法により製造することができる。(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の好ましい組成とするために、単量体を重合するのみでなく、重合により得られた反応生成物から精製を行ってもよい。
【0035】
本発明における(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)は、単量体(ma)と、単量体(mb)と、単量体(mc)と、単量体(md)と、水とを含む単量体混合物を調製する調製工程と、反応器に、得られた単量体混合物、重合開始剤、及び任意成分として連鎖移動剤を、それぞれ、連続的に供給し、単量体の重合を行う重合工程とを、順次、備えるものである。尚、重合に供される単量体が、(メタ)アクリル酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の少なくとも(メタ)アクリル酸を含み、(メタ)アクリル酸塩に由来する単量体単位及び/又は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸塩に由来する単量体単位を含む(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を製造する場合には、重合工程の後、該重合工程により得られた共重合体を中和反応に供する(中和工程)ことが好ましい。また、重合工程及び中和工程のいずれか一方の後には、未反応単量体を除去する工程を備えることができる。
【0036】
上記調製工程において、単量体混合物を得る方法は特に限定されない。本発明では、疎水性の単量体(md)を用いるため、まず、単量体(ma)に単量体(md)を溶解させ、その後、得られた溶液と、単量体(mb)と、単量体(mc)と、水とを混合することが好ましい。尚、混合方法は特に限定されない。
【0037】
上記調製工程における各単量体及び水の使用量は、以下の通りである。
単量体(ma)の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計に対して、65.1~95.7質量%である。下限値は、好ましくは65.2質量%、より好ましくは65.3質量%である。また、上限値は、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%である。
単量体(mb)の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計に対して、0.1~30.7質量%である。下限値は、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%である。また、上限値は、好ましくは25質量%、より好ましくは20質量%である。
単量体(mc)の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計に対して、4.1~29.9質量%である。下限値は、好ましくは10質量%、より好ましくは20質量%である。また、上限値は、好ましくは29.5質量%、より好ましくは29.0質量%である。
単量体(md)の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計に対して、0.1~4.9質量%である。下限値は、好ましくは0.2質量%、より好ましくは0.4質量%である。また、上限値は、好ましくは3.0質量%、より好ましくは2.0質量%である。
また、水の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計を100質量部とすると、好ましくは5~80質量部、より好ましくは20~60質量部である。
【0038】
次に、重合工程では、調製工程で得られた単量体混合物、重合開始剤、及び任意成分として連鎖移動剤を、それぞれ、連続的に反応器に供給して、好ましくは、反応系を撹拌下、単量体の重合を行う。このとき、必要に応じて、水も連続的に供給してもよい。反応器としては、単量体混合物を供給する手段、連鎖移動剤を供給する手段、重合開始剤を供給する手段、撹拌手段、反応系の温度を調製する手段、還流冷却手段、中和用薬剤を供給する手段、反応液を排出する手段等を備える、従来、公知の構成の反応器(反応装置)を用いることができる。
【0039】
本発明にかかる重合工程においては、反応器への単量体混合物の供給時間を特定の範囲とすることにより、所望の物性の共重合体を効率よく製造することができる。単量体混合物の供給時間は、好ましくは2~12時間、より好ましくは2~10時間、更に好ましくは2~6時間である。尚、重合工程の終了は、通常、単量体混合物の供給完了と同時ではない。
【0040】
また、反応器への単量体混合物の供給速度は一定であることが好ましいが、重合転化率の経時変化を確認しつつ、供給速度を変化させてもよい。
【0041】
重合開始剤としては、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
重合開始剤の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~10.0質量部、より好ましくは0.1~2.0質量部である。
【0043】
重合開始剤の使用方法は、特に限定されず、単量体混合物と同時に重合開始剤の供給を開始するか、あるいは、単量体混合物の供給後に重合開始剤の供給を開始することが好ましい。また、重合開始剤の供給終了時期は、単量体混合物の供給完了時期より、好ましくは5分以上、特に好ましくは10分以上遅くなるようにする。
【0044】
連鎖移動剤としては、亜リン酸、次亜リン酸及びこれらの塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等);亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びこれらの塩(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等);メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン際、3-メルカプトプロピオン際、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール類等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
連鎖移動剤の使用量は、単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部である。
【0046】
連鎖移動剤の使用方法は、特に限定されず、その供給終了時期は、単量体混合物の供給完了時間より、好ましくは10分以上、特に好ましくは20分以上早くなるようにする。
【0047】
重合工程において、反応系に多価金属イオンを存在させると、重合反応中に重合開始剤及び連鎖移動剤の分解を促進することができる。このような多価金属イオンを形成する材料として、硫酸鉄(III)アンモニウム又はその水和物、硫酸鉄(III)又はその水和物、硫酸鉄(II)又はその水和物等を用いることができる。
【0048】
重合工程において、反応器に各原料を供給する前には、予め、水を収容しておくことが好ましく、これにより、反応器に供給された原料が効率よく混合され、重合反応も円滑に進行する。収容物は、水のみ、連鎖移動剤を含む水、又は、多価金属イオンを含む水等とすることができる。
【0049】
重合工程における単量体の重合温度(反応系の温度)は、重合開始剤の種類等により、適宜、選択され、特に限定されない。好ましい重合温度は70℃以上である。副反応が起きない反応系では、好ましくは重合溶媒(水)の沸点近傍であり、特に好ましくは重合溶媒(水)の沸点である。尚、単量体混合物の供給開始後に重合開始剤を供給し始める場合、単量体混合物の供給開始時の反応系の温度は、所定の重合温度より低くてもよい。このように設定した場合、重合開始剤の供給開始後に所定の重合温度に調整すればよい。
【0050】
本発明にかかる重合工程においては、重合を開始以下してから重合開始剤の供給を終了するまでの全てにおいて、反応器中の反応液100mLあたりの単量体(mc)の残留濃度(合計の濃度)を、好ましくは0.3g以下、より好ましくは0.1g以下に調整することができるので、所望の物性の(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を効率よく製造することができる。尚、重合工程は、単量体混合物の供給完了後、最大12時間経過してから終了させることが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法が、重合工程の後、中和工程を備える場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等の、アルカリ剤又はその水溶液を用いることができる。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0052】
中和工程を行う場合、反応液のpHを好ましくは7.0以下、より好ましくは1.0~5.0の範囲に調整する。
【0053】
本発明の製造方法によれば、単量体単位(a)、(b)及び(c)の含有割合が所定の範囲にあり、且つ、未反応の単量体(ma)、(mb)、(mc)及び(md)の含有、並びに、上記の(メタ)アクリル酸系共重合体(P1)及び(P2)の含有を可能な限り僅かとした(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を効率よく製造することができる。
【0054】
本発明の製造方法にかかる重合工程後及び中和工程後において、反応液から水を除去しない場合は、通常、反応液が(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の水溶液からなる。この水溶液を用いて、冷却水系、ボイラー水系、地熱発電水系、海水の淡水化装置、パルプ溶解釜、黒液濃縮釜等において、スケール形成を抑制する水処理剤、及び、冷却水の配管の内表面、熱交換器の伝熱面等へのスケール付着を防止するスケール付着防止剤を、それぞれ、容易に製造することができる。更に、(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の水溶液は濁りがなく透明性を有するものとすることができるので、この水溶液を用いて得られた水処理剤及びスケール付着防止剤もまた、透明性を有することができ、取り扱いが容易である。
【0055】
本発明の水処理剤は(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を含有し、好ましい性状は液体(水溶液)である。この水溶液における(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の含有割合は、水処理剤としての効果、即ち、スケール形成の抑制効果が十分に得られることから、好ましくは1~1000mg/L、より好ましくは5~100mg/Lである。
【0056】
本発明の水処理剤は、必要に応じて、ポリアクリル酸又はその塩、ポリマレイン酸又はその塩、他の(メタ)アクリル酸系共重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体等の、従来、公知のスケール形成抑制剤、殺菌剤、防食剤、スライム防止剤、消泡剤等を含有してもよい。
【0057】
本発明の水処理剤は、シリカスケール、リン酸カルシウムスケール、炭酸カルシウムスケール及び硫酸カルシウムのうちの少なくともシリカスケールを形成する前駆体成分を含む水(被処理水)への施用に好適である。例えば、解放循環冷却水系においては、節水、省資源の観点から、冷却水の系外への排出量低減のため、冷却水が濃縮され、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の難溶性の塩を形成することがあるので、このような場合に、本発明の水処理剤を用いると、熱交換効率の低下、配管の閉塞等の不具合を抑制することができる。また、熱交換器、冷凍機等を備え、高濃縮運転を行う冷却水系、ボイラー水系又は地熱発電水系においては、シリカスケールを形成することがある。シリカスケールが設備の構成部材に付着すると、その除去が困難な場合が多いため、本発明の水処理剤を用いると、シリカスケールの形成を好適に抑制することができる。尚、上記水(被処理水)のpH及び温度は、特に限定されない。
【0058】
本発明の水処理剤を使用する場合、例えば、上記のスケール材料を形成する前駆体成分を含む水(被処理水)に投入され、必要により撹拌される。
【0059】
本発明のスケール付着防止剤は(メタ)アクリル酸系共重合体(P)を含有し、好ましい性状は液体(水溶液)である。この水溶液における(メタ)アクリル酸系共重合体(P)の含有割合は、スケール付着防止剤としての効果、例えば、凝縮器、熱交換器、配管等の、工業用水、水道水、地下水等の水と接触する構造部材へのスケール付着防止効果が十分に得られることから、好ましくは1~1000mg/L、より好ましくは5~100mg/Lである。
【0060】
本発明のスケール付着防止剤を使用する場合、例えば、上記のスケール材料を形成する前駆体成分を含む水(被処理水)に投入され、必要により撹拌される。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。尚、下記において、%及びppmは、特に断らない限り、質量基準である。
【0062】
1.(メタ)アクリル酸系共重合体の製造原料
下記原料を用いて、各種重合体を製造した。
【0063】
1-1.単量体
AA:アクリル酸
MLA:無水マレイン酸
ATBS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム
St:スチレン
EA:アクリル酸エチル
20℃の水100mLに対する溶解度は1.5gである。
BA:アクリル酸n-ブチル
20℃の水100mLに対する溶解度は0.14gである。
IBA:アクリル酸イソブチル
20℃の水100mLに対する溶解度は0.79gである。
TBAM:N-tert-ブチルアクリルアミド
30℃の水100mLに対する溶解度は0.1gである。
【0064】
1-2.重合開始剤
過硫酸ナトリウム
【0065】
1-3.連鎖移動剤
重亜硫曹
【0066】
1-4.中和剤
水酸化ナトリウムの50%水溶液
【0067】
2.(メタ)アクリル酸系共重合体又はその水溶液の評価方法
2-1.(メタ)アクリル酸系共重合体の分子量分布の測定
(メタ)アクリル酸系共重合体のMw及びMnを、GPCにより、SHIMADZU社製「LC-20AD」(型式名)を用いて測定した。
<GPC測定条件>
カラム:東ソー社製G4000PWxl、G3000PWxl及びG2500PWxlを連結
溶離液:0.1M-NaCl+リン酸バッファー(pH7)
検出器:RI
カラム温度:40℃
標準物質:創和科学社製ポリアクリル酸ナトリウム
【0068】
2-2.(メタ)アクリル酸系共重合体に含まれる未反応単量体の定量(1)
AA又はそのナトリウム塩、及び、ATBSを、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)により、SHIMADZU社製「LC-20AD」(型式名)を用いて測定した。
<HPLC測定条件>
カラム:東ソー社製ODS-80Ts
溶離液:0.17%硫化水素テトラブチルアンモニウム水溶液:アセトニトリル=90:10
カラム温度:40℃
検出器:UV-vis(205nm)
【0069】
2-3.(メタ)アクリル酸系共重合体に含まれる未反応単量体の定量(2)
St、EA、BA、IBA及びTBAMを、ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」という)により、SHIMADZU社製「GC-2014AF」(型式名)を用いて測定した。
<GC測定条件>
カラム:東ソー社製HR-1
キャリヤーガス:He
試料注入口温度:250℃
昇温条件:70℃→150℃(昇温速度:毎分20℃)
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0070】
3.(メタ)アクリル酸系共重合体の製造
以下、各種の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造例を示す。
【0071】
実施例1-1
初めに、スチレン(St)3.5gを、アクリル酸(AA)424gに溶解し、この混合液に、無水マレイン酸70g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液449g及び純水14gを添加して、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9.3g添加した。そして、反応器内に、上記の単量体混合物と、過硫酸ナトリウムの5%水溶液と、重亜硫曹の30%水溶液とを、連続的に供給して重合反応を行った。単量体混合物の供給量及び供給時間は、それぞれ、4.0g/分及び4時間である。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.71g/分及び4時間10分である。重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.29g/分及び3時間40分である。尚、重合反応を行う間、反応器内の温度を75℃に保持した。また、単量体(md)であるスチレン(St)の、反応液100mLあたりの残留濃度を0.1g未満に保持した。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給が終了した後、反応液を昇温して85℃とし、1時間保持した。次いで、中和剤を用いて反応液のpHを2.3に調整し、固形分濃度が46%である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(F1)」ともいう)の水溶液を得た。この水溶液は濁りがなく透明であった。
【0072】
重合を開始して1時間経過後に採取したサンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)に供したところ、単量体(md)の残留濃度は0.1g/100mL未満であった(表1参照)。
【0073】
その後、共重合体(F1)を、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供したところ、Mwは17790、Mnは7050、Mw/Mnは約2.5であった。また、この共重合体(F1)に含まれる、分子量1000以下の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は1.6%であり、分子量200000以上の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.0%であった(表1参照)。
【0074】
また、共重合体(F1)に含まれる未反応単量体の定量分析を行ったところ、AA及びそのナトリウム塩は10000ppm未満、ATBSは10000ppm未満、Stは、検出下限(0.1ppm)未満であった(表1参照)。
【0075】
実施例1-2~1-9
表1に記載の組成を有する単量体を用いて、実施例1-1と同様にして、(メタ)アクリル酸系共重合体(F2)~(F9)の製造を行った(表1参照)。
【0076】
比較例1-1
初めに、アクリル酸(AA)473g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液496g及び純水14gを、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9g添加した。そして、反応器内に、上記の単量体混合物と、過硫酸ナトリウムの5%水溶液と、重亜硫曹の30%水溶液とを、連続的に供給して重合反応を行った。単量体混合物の供給量及び供給時間は、それぞれ、4.1g/分及び4時間である。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.3g/分及び4時間10分である。重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.7g/分及び3時間40分である。尚、重合反応を行う間、反応器内の温度を75℃に保持した。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給が終了した後、反応液を昇温して85℃とし、1時間保持した。次いで、中和剤を用いて反応液のpHを2.3に調整し、固形分濃度が45%である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(FF1)」ともいう)の水溶液を得た。この水溶液は濁りがなく透明であった。
【0077】
その後、共重合体(FF1)を、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供したところ、Mwは6730、Mnは4130、Mw/Mnは約1.6であった。また、この共重合体(FF1)に含まれる、分子量1000以下の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.8%であり、分子量200000以上の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.0%であった(表1参照)。
【0078】
また、共重合体(FF1)に含まれる未反応単量体の定量分析を行ったところ、AA及びそのナトリウム塩は66ppm、ATBSは123ppmであった(表1参照)。
【0079】
比較例1-2
初めに、スチレン(St)35gを、アクリル酸(AA)315gに溶解し、この混合液に、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液774g及び純水14gを添加して、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9g添加した。そして、反応器内に、上記の単量体混合物と、過硫酸ナトリウムの5%水溶液と、重亜硫曹の30%水溶液とを、連続的に供給して重合反応を行った。単量体混合物の供給量及び供給時間は、それぞれ、4.7g/分及び4時間である。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.3g/分及び4時間10分である。重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.7g/分及び3時間40分である。尚、重合反応を行う間、反応器内の温度を75℃に保持した。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給が終了した後、反応液を昇温して85℃とし、1時間保持した。次いで、中和剤を用いて反応液のpHを2.6に調整し、固形分濃度が42%である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(FF2)」という)の水溶液を得た。この水溶液は濁りがあり不透明であった。
【0080】
重合を開始して1時間経過後に採取したサンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)に供したところ、単量体(md)の残留濃度は0.1g/100mL未満であった(表1参照)。
【0081】
その後、共重合体(FF2)を、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供したところ、Mwは7700、Mnは4640、Mw/Mnは約1.7であった。また、この共重合体(FF2)に含まれる、分子量1000以下の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.5%であり、分子量200000以上の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.0%であった(表1参照)。
【0082】
また、共重合体(FF2)に含まれる未反応単量体の定量分析を行ったところ、AA及びそのナトリウム塩は66ppm、ATBSは628ppmであった(表1参照)。
【0083】
比較例1-3
初めに、スチレン(St)70gを、アクリル酸(AA)469gに溶解し、この混合液に、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液357g及び純水14gを添加して、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9g添加した。そして、反応器内の温度を75℃に保持しながら、反応器内に、単量体混合物の供給量及び供給時間を、それぞれ、3.8g/分及び4時間、過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間を、それぞれ、0.3g/分及び4時間10分、重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間を、それぞれ、0.7g/分及び3時間40分として、重合反応を開始したが、重合反応の途中で、反応器内に析出物が生成し、(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(FF3)」という)の製造を中止した。
【0084】
比較例1-4
初めに、アクリル酸(AA)427gに無水マレイン酸70g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液449g及び純水14gを添加して、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9.3g添加した。そして、反応器内に、上記の単量体混合物と、過硫酸ナトリウムの5%水溶液と、重亜硫曹の30%水溶液とを、連続的に供給して重合反応を行った。単量体混合物の供給量及び供給時間は、それぞれ、4.0g/分及び4時間である。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.29g/分及び4時間10分である。重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間は、それぞれ、0.71g/分及び3時間40分である。尚、重合反応を行う間、反応器内の温度を75℃に保持した。過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給が終了した後、反応液を昇温して85℃とし、1時間保持した。次いで、中和剤を用いて反応液のpHを2.3に調整し、固形分濃度が45%である(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(FF4)」ともいう)の水溶液を得た。この水溶液は濁りがなく透明であった。
【0085】
その後、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供したところ、Mwは10780、Mnは5650、Mw/Mnは約1.9であった。また、この共重合体(FF4)に含まれる、分子量1000以下の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は1.1%であり、分子量200000以上の(メタ)アクリル酸系共重合体の含有割合は0.0%であった(表1参照)。
【0086】
また、共重合体(FF4)に含まれる未反応単量体の定量分析を行ったところ、AA及びそのナトリウム塩は1260ppm、ATBSは1235ppm、であった(表1参照)。
【0087】
比較例1-5
初めに、スチレン(St)70gを、アクリル酸(AA)456gに溶解し、この混合液に、無水マレイン酸35g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(ATBS)の50%水溶液139g及び純水14gを添加して、十分に撹拌し、単量体混合物を得た。
その後、還流冷却装置を備える反応器に、純水420gを仕込み、75℃に昇温した後、反応器内を撹拌しながら、重亜硫曹の30%水溶液を9g添加した。そして、反応器内の温度を75℃に保持しながら、反応器内に、単量体混合物の供給量及び供給時間を、それぞれ、4.0g/分及び4時間、過硫酸ナトリウムの5%水溶液の供給量及び供給時間を、それぞれ、0.3g/分及び4時間10分、重亜硫曹の30%水溶液の供給量及び供給時間を、それぞれ、0.7g/分及び3時間40分として、重合反応を開始したが、重合反応の途中で、反応器内に析出物が生成し、(メタ)アクリル酸系共重合体(以下、「共重合体(FF5)」ともいう)の製造を中止した。
【0088】
【表1】
【0089】
4.水処理剤の評価
(1)シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムに対するスケール抑制試験
上記の実施例1-1~1-9並びに比較例1-1、1-2及び1-4で得られた、(メタ)アクリル酸系共重合体の各水溶液を、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が1000ppmになるように調整して水処理剤(S)とし、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムに対するスケール形成の抑制効果を、以下の方法で確認した。その結果を表2に示す。
以下のリン酸カルシウムスケール抑制試験、炭酸カルシウムスケール抑制試験及び硫酸カルシウムスケール抑制試験における「ブランク」とは、水処理剤(S)を添加しないで無機塩を、所定の濃度とした溶液の試験結果を意味する。
【0090】
<シリカスケール抑制試験>
水処理剤(S)と、ケイ酸ナトリウムとを用い、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が150mg/L、ケイ酸ナトリウムの濃度が351mg/Lである液240mLを準備し、70℃で30分間放置した。その後、この液を攪拌しながら、0.5%塩化マグネシウム水溶液44mL、0.5%塩化カルシウム水溶液31.6mL、及び0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液36mL投入した。次いで、この混合液を撹拌しながら、0.21%炭酸水素ナトリウム水溶液40mLを投入し、1mol/L塩酸水溶液でpH8.0に調整した。その後、70℃で3時間放置した後、シリカによる液の濁り及び沈殿の有無を目視観察し、下記の基準でスケール抑制性を評価した。
◎:沈殿は観察されなかったが、液の濁りは薄かった
〇:沈殿は観察されなかったが、液の濁りは濃かった
×:沈殿が観察された
【0091】
<リン酸カルシウムスケール抑制試験>
水処理剤(S)と、リン酸水素2ナトリウムと、塩化カルシウムとを用い、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が20mg/L、リン酸水素2ナトリウムの濃度が90mg/L、塩化カルシウムの濃度が375mg/Lである液360mLを調製した。次いで、この液を撹拌しながら、0.21%炭酸水素ナトリウム水溶液40mLを投入し、50%水酸化ナトリウム水溶液でpH8.5に調整した。その後、60℃で3時間放置した後、リン酸カルシウムによる液の濁り及び沈殿の有無を目視観察し、下記の基準でスケール抑制性を評価した。
◎:濁り及び沈殿が全く観察されなかった
〇:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度が高かった
×:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度に差がなかった
【0092】
<炭酸カルシウムスケール抑制試験>
水処理剤(S)と、炭酸水素ナトリウムと、塩化カルシウムとを用い、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が10mg/L、炭酸水素ナトリウムの濃度が420mg/L、塩化カルシウムの濃度が375mg/Lである液400mLを調製した。次いで、この液を1M水酸化ナトリウム水溶液でpH8.5に調整した。その後、60℃で20時間放置した後、炭酸カルシウムによる液の濁り及び沈殿の有無を目視観察し、下記の基準でスケール抑制性を評価した。
◎:濁り及び沈殿が全く観察されなかった
〇:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度が高かった
×:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度に差がなかった
【0093】
<硫酸カルシウムスケール抑制試験>
水処理剤(S)と、硫酸ナトリウムと、塩化カルシウムとを用い、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が4mg/L、硫酸ナトリウムの濃度が6000mg/L、塩化カルシウムの濃度が6200mg/Lである液400mLを調製した。その後、60℃で3時間放置した後、硫酸カルシウムによる液の濁り及び沈殿の有無を目視観察し、下記の基準でスケール抑制性を評価した。
◎:濁り及び沈殿が全く観察されなかった
〇:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度が高かった
×:濁り及び沈殿が観察されたが、ブランクと比較すると濾過後の上澄み液におけるCa濃度に差がなかった
【0094】
(2)泡立ち評価試験
上記の実施例1-1~1-9並びに比較例1-1、1-2及び1-4で得られた、(メタ)アクリル酸系共重合体の各水溶液を、(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が1%になるように調整して水処理剤(T)とし、その10gを、アズワン製の樹脂製ディスポカップ(容積:1L、サイズ:内径上径122mm、下径102.5mm、高さ147mm)に入れ、SCARLETT製ハンドミキサー「SUPER HAND MIXER MODEL HE-133」(アタッチメントはビータータイプ)を用いて、最大速度で30秒間撹拌した。撹拌開始直後の泡立ち高さ、及び、撹拌開始から発生した泡が消えるまでの時間を測定し、下記の基準で泡立ち性を評価した。その結果を表2に示す。
◎:撹拌直後の泡立ちがほとんどなく(おおよそ1cm以下)、ただち(おおよそ15秒以内)に泡が消えた
〇:撹拌しておよそ1分以内に泡が消えた
×:撹拌しておよそ1分以内に泡が消えなかった
【0095】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、シリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムのうち少なくともシリカを含むスケール形成の抑制効果に優れる水処理剤、あるいは、冷却水系、ボイラー水系又は地熱発電水系における設備の構成部材へのスケール付着抑制効果に優れるスケール付着防止剤の構成成分として好適である。