(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137092
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電気化学キャパシタ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/24 20130101AFI20240927BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20240927BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240927BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240927BHJP
【FI】
H01G11/24
H01G11/36
H01G11/62
H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048465
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西森 祐太
(72)【発明者】
【氏名】小城原 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】信森 千穂
(72)【発明者】
【氏名】仲村 達也
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】江崎 賢一
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA15
5E078DA13
(57)【要約】
【課題】エネルギー密度の高い電気化学キャパシタを提供する。
【解決手段】第1活物質を含む第1電極と、第2活物質を含む第2電極と、電解液と、を備え、前記電解液は、イオン液体を含み、X線光子分光法(XPS)を用いて、前記第1電極の表面を相対感度係数に基づき定量分析したとき、前記イオン液体に由来する元素Fの元素Cに対する原子数比率R
Fが10%以上である、電気化学キャパシタ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1活物質を含む第1電極と、
第2活物質を含む第2電極と、
電解液と、を備え、
前記電解液は、イオン液体を含み、
X線光子分光法(XPS)を用いて、前記第1電極の表面を相対感度係数に基づき定量分析したとき、前記イオン液体に由来する元素Fの元素Cに対する原子数比率RFが10%以上である、電気化学キャパシタ。
【請求項2】
前記比率RFが、14%以上である、請求項1に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項3】
X線光子分光法(XPS)を用いて、前記第1電極の表面を相対感度係数に基づき定量分析したとき、元素Cに対する元素Bの原子数比率RBが1%以上である、請求項1に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項4】
前記第1電極には、前記第2電極よりも低い電位が印加される、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項5】
前記第1電極と前記第2電極との間に、4.0V以上の電圧が印加される、請求項4に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項6】
前記第1活物質は、還元型酸化グラフェンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項7】
前記イオン液体は、複素芳香環を有するカチオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項8】
前記カチオンは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンを含む、請求項7に記載の電気化学キャパシタ。
【請求項9】
前記イオン液体は、テトラフルオロボレートアニオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンおよびスマートフォン等のICT用、車載用、ならびに蓄電用等の需要の拡大に伴い、キャパシタに代表される電気化学デバイスの高容量化が求められている。
【0003】
グラフェンは、理論的な比表面積が約2600m2/gであり、かつ導電性を有するため、キャパシタ用電極材料として有望である。
【0004】
特許文献1は、2枚以上のグラフェンシートがカーボンナノチューブを介して平行に集積され、さらにこのグラフェンシート集積体が相互にカーボンナノチューブにより電気的及び機械的に3次元状に連結されたことを特徴とするグラフェンシートフィルムを提案している。このフィルムを電極に用いて、290.6F/gの容量が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のキャパシタは、リチウムイオン電池と比較した場合、急速充放電が可能であり出力密度は高いものの、エネルギー密度は依然として低く、用途が限定されている。電気化学キャパシタの用途を拡大するためには、エネルギー密度を一層高めることが要望されている。
【0007】
キャパシタの動作電圧を高くするほど、より高いエネルギー密度が得られる。そこで、高電圧で動作する電解液と電極材料の組み合わせが探索されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記を鑑み、本発明の一側面は、第1活物質を含む第1電極と、第2活物質を含む第2電極と、電解液と、を備え、前記電解液は、イオン液体を含み、X線光子分光法(XPS)を用いて、前記第1電極の表面を相対感度係数に基づき定量分析したとき、前記イオン液体に由来する元素Fの元素Cに対する原子数比率RFが10%以上である、電気化学キャパシタに関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エネルギー密度の高い電気化学キャパシタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る電気化学キャパシタの一部切り欠き斜視図である。
【
図2】実施例1および比較例1のキャパシタについて、印加電圧V
1に対する単極容量C
1の変化を示すグラフである。
【
図3】実施例1および比較例1のキャパシタについて、負極表面のXPS分析におけるF 1sスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、電気化学キャパシタとは、様々な蓄電機構を有するキャパシタを包含し、例えば、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電機構を少なくとも部分的に有する蓄電デバイスを意味する。蓄電デバイスまたは電気化学キャパシタは、一対のキャパシタ用電極と電解液とを備えている。電極は活物質を含む。
【0012】
活物質は、例えば、イオンをドープおよび脱ドープすることで容量を発現する。イオンの活物質へのドープとは、活物質へのイオンの吸着、活物質によるイオンの吸蔵、活物質とイオンとの化学的相互作用などを含む概念である。また、イオンの活物質からの脱ドープとは、活物質からのイオンの脱着、活物質からのイオンの放出、活物質とイオンとの化学的相互作用の解除などを含む概念である。ただし、ここでは、イオンの活物質へのドープとは、主に活物質へのイオンの吸着をいい、イオンの活物質からの脱ドープとは、主に活物質からのイオンの脱着をいう。活物質にイオンが吸着すると電気二重層が形成され、容量を発現する。すなわち、キャパシタ用電極は、主に分極性電極を意味するが、分極性電極の性質を有しつつファラデー反応も容量に寄与する電極であってもよい。
【0013】
本開示の一実施形態に係る電気化学キャパシタは、第1活物質を含む第1電極と、第2活物質を含む第2電極と、電解液と、を備える。第1電極と第2電極との間には、通常、セパレータが介在している。電解液は、イオン液体を含む。以下において、本開示に係る電気化学キャパシタを、単に「キャパシタ」と称することがある。
【0014】
本開示に係る電気化学キャパシタは、一実施形態において、第1活物質または第2活物質にイオン液体を構成するカチオンまたはアニオンが吸着し、電気二重層が形成されて容量を発現する。加えて、閾値以上の高電圧が印加されることで、イオン液体を構成するカチオンの還元反応またはアニオンの酸化反応が発生し、酸化還元反応による活物質とカチオンまたはアニオンとの間の電荷移動によっても容量を発現する。
【0015】
第1電極と第2電極との間には、4.0V以上の電圧が印加され得る。この場合に、酸化還元反応による容量が発生し、高容量で、エネルギー密度の高いキャパシタを実現できる。
【0016】
第1電極および第2電極のいずれか一方はキャパシタの正極であり、他方は負極である。以下において、第1電極を負極とし、第2電極を正極として説明する。すなわち、第1電極に、第2電極よりも低い電位が印加される使用を想定する。第1電極および第2電極は、同じ電極でもよく、異なる電極であってもよい。
【0017】
X線光子分光法(XPS)を用いて、第1電極の表面を相対感度係数に基づき定量分析したとき、イオン液体に由来する元素Fの元素Cに対する原子数比率RFが10%以上である。この場合に、キャパシタは、高容量および高エネルギー密度を実現できる。この理由について、発明者らの現在の知見では、以下のように考えられる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
イオン液体に含まれるカチオンまたはアニオンは、高電圧の印加により還元または酸化され、還元反応または酸化反応の反応生成物が電解液中に生成され得る。これらの反応生成物は、正極または負極の表面に吸着し、堆積し得る。
【0019】
例えば、負極では、イオン液体のカチオンが還元され、還元生成物が生成され得る。還元生成物はさらにイオン液体のアニオンと反応し、副生成物が生成され得る。還元生成物がアニオンと一緒に負極表面に吸着し、および/または、アニオンとの副生成物が負極表面に吸着した吸着状態が形成され得る。結果、XPSなどの表面分析手法により負極の表面を分析すると、イオン液体に由来する元素が観測される。例えば、イオン液体のカチオンまたはアニオンがF(フッ素)を含む場合、XPS分析によりFが測定される。イオン液体のカチオンまたはアニオンがB(ホウ素)を含む場合、XPS分析によりBが測定される。
【0020】
XPS法にて算出される負極表面のCに対するFの原子数比率RFが10%以上である場合に、酸化還元反応による容量が顕著に増大し、高容量で、エネルギー密度の高いキャパシタを実現できる。より好ましくは、比率RFは14%以上であってもよい。比率RFは、14%以上であってもよい。比率RFは、30%以下であってもよく、14%以上30%以下であってもよい。
【0021】
負極の表面に形成される吸着状態は、Bを含んでもよい。その場合、XPS法にて算出されるCに対するBの原子数比率RBは、1%以上であってもよい。
【0022】
具体的に、例えば、下記の式(1)に示す1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)をイオン液体として用いる場合、4.0V以上の電圧での充電時には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)が負極にて還元され、下記の式(2)に示す反応により、EMIラジカルが生成され得る。
【0023】
【0024】
【0025】
一方、放電時には、式(2)と逆の反応が進行し、EMIラジカルが一電子を放出してEMI+カチオンに戻る反応(酸化反応)が進行し得る。したがって、キャパシタは、カチオンまたはアニオンの吸着により容量が発現するほか、酸化還元反応によっても追加の容量を発現し、この結果顕著に高い容量が得られると考えられる。
【0026】
式(2)の反応生成物であるラジカルは、アニオンであるBF4
-と反応し、反応生成物は負極表面に到達して吸着状態を形成し得る。吸着物には、BF4
-に由来するFおよびBが含まれる。比率RFまたは比率RBが上記の関係式を満たすように、吸着物がFまたはBを含んでいる場合に、高容量および高エネルギー密度を実現できる。
【0027】
X線光子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、試料表面にX線を照射し、原子のイオン化により試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで、試料表面を構成する元素の組成および化学結合状態を分析する手法である。XPSスペクトルの各ピークの面積は、対応する元素の原子数に比例している。しかしながら、X線に対するイオン化断面積は元素ごとに異なり、また装置の設定にも依存するため、異なる元素に対応するピークの面積同士を比較して、その元素間の組成比を求めることはできない。そこで、組成が既知の試料に対して測定を行い、各元素の原子数に対するピーク強度との関係を予め求めておく。相対感度係数(RSF:Relative Sensitivity Factors)を用いることで、試料表面を構成する元素の組成を精度よく定量することができる。
【0028】
以下に、XPS測定の条件の一例を示す。束縛エネルギーの校正には、黒鉛のC1sスペクトル(248.5eV)を用いることができる。
測定装置: アルバック・ファイ社製ESCA5600
使用X線源: Al-Kα線、Mg-Kα線
分析領域: 800μmΦ
定量換算方法:各元素のピーク面積に相対感度係数を乗じた値の比率から定量値を算出
【0029】
第1電極および第2電極には、結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、PTFEなどのフッ素を含有する化合物が含まれる場合がある。この場合、電極表面のXPS測定において、C元素のピークには、上記のイオン液体に由来するピークに加えて、電極に含まれる結着剤由来のC-F結合に由来するピークが現れる。結着剤由来のC-F結合に由来するピークは、イオン液体に由来するピークとは異なる束縛エネルギーの位置に現れるため、ピーク位置によって、表面に存在するFがイオン液体に由来するものか否かを判別することができる。比率RFを求めるに際して、XPSスペクトルにおけるF元素の原子数から、結着剤に由来するF元素の原子数を引き算してイオン液体に由来するF元素の原子数を求め、XPSスペクトルにおけるC元素の原子数で除算して比率RFを求める。
【0030】
比率RF(および、比率RB)は、イオン液体を構成するアニオンおよびカチオンの種類、電解液に含まれるイオン液体の含有率(濃度)に依存するほか、吸着物が堆積する第1電極(第1活物質)の表面状態に大きく依存すると考えられる。高容量および高エネルギー密度を得るには、比率RF(および比率RB)が上記の関係を満たすことのできる活物質を選択することが重要である。
【0031】
第1活物質および/または第2活物質の材料としては、層構造を有する炭素材料を用いることができる。すなわち、炭素材料は、炭素原子が平面内で六角形の網目を形成するように結合した層(一般に、グラフェン層またはグラフェンシートと呼ばれる)の積層構造を含む。炭素材料は、グラフェンを含んでもよい。グラフェンは、還元型酸化グラフェンもしくは三次元構造を有するグラフェンであってもよい。
【0032】
グラフェンとは、炭素原子1個分の厚さを有するグラフェンシートを最小単位とするカーボン材料であり、通常は複数のグラフェンシートが積層された積層体を構成している。グラフェンシートとは、炭素原子1個分の厚さを有するsp2結合炭素で構成された集合体もしくは分子であり、シート状に広がるハニカム状の格子構造を有している。
【0033】
第1活物質および第2活物質のうち少なくとも第1活物質が、層構造を有する炭素材料を含んでいてもよい。
【0034】
層構造を有する炭素材料は、正極側の活物質および負極側の活物質のいずれとしても用いられ得る。しかしながら、一実施形態において、上記炭素材料を第1活物質に含む電極を第1電極とし、負極に用いることで、上記比率RFおよび比率RBが大きくなり、飛躍的に容量が増大する。
【0035】
炭素材料は、還元型酸化グラフェンを含むことが好ましい。還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェンを還元することで得られる。
【0036】
酸化グラフェン(以下、「GO」とも称する。)は、グラフェンシートに酸素含有基が結合した構造を有する。酸素含有基は、主にグラフェンシート積層体のエッジ面に結合していると考えられる。酸素含有基は、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、エポキシ基等の親水性基である。酸化グラフェン(GO)は、一般に水等の極性溶媒に対する分散性を有する。酸化グラフェン(GO)は、sp3結合炭素を含むため、一般に絶縁性を有する。
【0037】
酸化グラフェン(GO)を還元することで、酸素含有基が除去され、還元型酸化グラフェン(以下、「rGO」とも称する。)が得られる。還元型酸化グラフェン(rGO)は、導電性を有するグラフェン類縁体である。還元型酸化グラフェンには、還元工程で除去されなかった酸素含有基が含まれ得る。グラフェン層内に酸素原子などの官能基が存在していることにより、炭素材料の結晶構造は理想的なグラフェンまたはグラファイト構造から外れ、グラフェン層内の炭素原子にはsp2結合とsp3結合が混在している。この結果、高電圧の印加によりグラフェン層間が広がり易くなり、カチオンおよびアニオンがグラフェン層間に挿入され易くなって、電気二重層の形成領域が拡大し易くなる。よって、還元型酸化グラフェンを活物質に用いて、キャパシタの容量を飛躍的に高めることができる。
【0038】
加えて、酸素原子などの官能基の存在により、グラフェンの平面構造に歪みが生じ、層構造の乱れ(もしくは層間距離の乱れ)や、もしくは、グラフェン層が折れ曲がりまたは屈曲することにより三次元構造が形成され得る。これにより、カチオンおよびアニオンが吸着可能な実効的な表面積が増大し、高容量を実現できる。また、イオン液体との反応による吸着状態が形成され易く、RFおよび比率RBを大きな値に制御し易い。
【0039】
一般的なグラフェンは、通常、平坦なシート状の形態を有している。一方、本実施形態のキャパシタに用いられるグラフェンは、平坦なシート状ではなく、層構造の乱れ(もしくは層間距離の乱れ)を有する(もしくは、三次元構造を有する)様々な形態のグラフェンシート積層体であってもよい。三次元構造を有するグラフェン(グラフェンシート積層体)を活物質に用いることで、キャパシタの容量が飛躍的に増大する。
【0040】
三次元構造とは、主に、フレーク状の粒子内に形成されたミクロな三次元構造(すなわち微細構造)を意味する。三次元構造を有することで、平坦なシート状のグラフェンに比べてグラフェンシート同士の重なりが顕著に抑制され、グラフェンの大きな表面積を有効に活用し得るようになる。三次元構造を有するグラフェンシート積層体の主面(主に002面(ベーサル面))には、複数の隆起部もしくは複数の窪み部(すなわち、襞)が形成されている。このような三次元構造により、グラフェンシート間の距離が適切に制御され、グラフェンシート同士の重なりが効果的に低減され得る。
【0041】
三次元構造は、襞を有するグラフェンシートが屈曲した折れ曲がり構造を含み得る。屈曲部分を介して、一枚のグラフェンシートがシートの面に交差する方向に折り重なって、積層体が形成され得る。折れ曲がり構造における屈曲部分の曲率半径は、例えば10~1000nmの範囲である。襞の間隔は、例えば10~100nmの範囲である。
【0042】
三次元構造における折れ曲がり構造は、屈曲部分の間のシート部分において、例えば、縮れ構造もしくは折りたたみ構造を含む。このとき、個々のグラフェンシート積層体は、自身が微細な多孔質構造(microporous structure)を有し得る。よって、積層体の表面近傍におけるイオンの拡散がより良好になる。縮れ構造や折りたたみ構造(すなわち、襞部分)の存在は、グラフェンシート積層体の電子顕微鏡(SEM、TEM等)写真により確認することができる。
【0043】
縮れ構造とは、例えば、ランダムに形成された複数の襞(ひだ)状の隆起部と窪み部とを有する構造であればよい。また、折りたたみ構造とは、一枚のグラフェンシート積層体が部分的に複数回折りたたまれた折りたたみ部を有する構造であり、縮れ構造の範疇に含まれる。折りたたみ部に形成される隆起部の高さもしくは窪み部の深さは、その構造を有するグラフェンシート積層体のカーボン部分の厚みよりも大きくてよく、カーボン部分の厚みの2倍以上であってもよい。
【0044】
このような三次元構造を有するグラフェンは、対数微分細孔分布において細孔径2nm~4nmの範囲にピークを有し、さらに、細孔径4nm~50nmの範囲において細孔径の増加とともに容積が二次関数的に増加していく分布を有し得る。細孔径2nm~50nmの範囲のメソ孔全細孔容積は、例えば0.20cm3/g以上であり得る。メソ孔全細孔容積は、0.20cm3/g~0.5cm3/gの範囲、0.25cm3/g~0.4cm3/gの範囲、もしくは0.25cm3/g~0.35cm3/gの範囲にあってもよい。細孔径4nm~50nmの細孔容積の合計は、例えば、細孔径2nm~4nmの細孔容積の合計の15倍以上であり得る。
グラフェンの比表面積および細孔径分布の測定には、日本ベル社で入手可能なBELSORP 28SA装置を使用することができる。メソ孔の解析理論としては、毛管凝縮理論(Kelvinの式)に基づき計算されるDollimore Heal法(DH法)を用いる。
【0045】
このような三次元構造を有するグラフェンにより、水銀ポロシメータで測定される対数微分細孔容積分布が0.3μm以上、6μm以下の範囲に最大ピークを有するキャパシタ用電極が得られる。三次元構造を有することで、平坦なシート状のグラフェンに比べてグラフェンシート同士の重なりが顕著に抑制され、グラフェンの表面積をイオンの吸着に有効に活用し得るようになる。ベーサル面に複数の隆起部もしくは複数の窪み部が形成された三次元構造により、グラフェンシート間の距離が適切に制御され、グラフェンシート同士の重なりが効果的に低減される。よって、イオンの移動(拡散)が抑制されることなく、活物質の活性サイトを増加させることができ、高容量を発現させることができる。
【0046】
グラフェンシート積層体の平均積層数は、例えば10層以下であり、5層以下であってもよい。グラフェンシート積層体は、炭素原子1個分の厚さを有する最小単位のグラフェンシート(すなわち単層シート)に近づくほど望ましい。
【0047】
平均積層数は、X線回折プロファイルの002面(ベーサル面)に帰属される回折ピークから算出される面間距離(d002)から推算される(例えば、日本物理学会2015年秋季大会 概要集p1014)。或いは、グラフェンの電子顕微鏡(SEM等)写真から得られる推定値であればよい。例えば、グラフェンのSEM写真のスケールと、グラフェンシートの002面(ベーサル面)の面間距離からグラフェンシートの積層数を推定できる。例えば、任意の20個のグラフェンシート積層体を選択し、それぞれの積層数を推定し、最大側から5番目までの数値と、最小側から5番目までの数値とを省き、中間の10個の数値の平均値を平均積層数とすればよい。
【0048】
グラフェンシート同士の層間距離(すなわち、ベーサル面間距離)は、ランダムに変化していてもよい。層間距離のランダムな変化は、グラフェンシート積層体の結晶性が低いことを意味する。積層体における積層構造の乱れが大きいほど、層間距離の変化も顕著になる。
【0049】
グラフェンのX線回折プロファイルは、通常、002面に帰属される回折ピークを有する。グラフェンシート同士の重なりが大きく、グラフェンの結晶性が高くなるほど、回折ピークはシャープになる。
【0050】
一方、グラフェンが三次元構造を有する場合、回折ピークはブロードになり、複数のピークに波形分離できるようになる。回折ピークよりも高角側には、アモルファス相に帰属されるハローパターンが観測されてもよい。
【0051】
X線回折プロファイルから算出されるグラフェンの002面の面間距離d002は、0.330nm以上0.360nm以下である。d002は、2θ=26.38°付近の領域に観測される回折ピークを波形分離し、各成分についてd002を算出し、その平均として算出される。グラフェンの002面の距離d002は、好ましくは0.340nm(3.40Å)以上であり、0.360nm(3.60Å)以上がより好ましく、0.370nm(3.70Å)以上が更に好ましい。
【0052】
電解液は、イオン液体を含む。イオン液体としては、常温(25℃)および常圧(大気圧)下において液体状態で存在する塩化合物が好ましく用いられ得る。塩化合物を構成するカチオンとして、イミダゾリウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、ピペリジニウム系カチオン、アンモニウム系カチオン、ホスホニウム系カチオンなどが挙げられる。アニオンとしては、ハロゲン化物イオン(Cl-、Br-など)、テトラフルオロボレートイオン(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF6
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)などが挙げられる。
【0053】
これらのカチオンのなかでも、複素芳香環を有するカチオンを用いることで、極めて高い容量を実現できる。この理由は現在解明中であるが、芳香族環に由来する非局在性のπ軌道は、グラフェンのπ軌道と結合し易く、特異的に安定な吸着状態を形成すること、および、還元反応により生じたラジカル化合物が共鳴構造をとることにより安定に存在でき、且つ、グラフェンのπ軌道と安定な吸着状態を形成し易いこと、などが要因として考えられる。
【0054】
アニオンがテトラフルオロボレートイオン(BF4
-)を含む場合、負極表面のXPS分析において、F1sスペクトルにおいて、束縛エネルギーが686~692eVの範囲にピークを有し得る。アニオンがヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6
-)を含む場合も、BF4
-を含む場合と同様、負極表面のXPS分析において、F1sスペクトルにおいて、束縛エネルギーが686~692eVの範囲にピークを有し得る。B1sスペクトルおよびP1sスペクトルを分析することにより、アニオンがBF4
-またはPF6
-のどちら(または、その両方)を含んでいるかを判別できる。
【0055】
複素芳香環を有するカチオンは、イミダゾリウムカチオンであってもよい。イミダゾリウムカチオンは、イミダゾール骨格の水素の一部がアルキル基などで置換されたカチオンであってもよい。
【0056】
イミダゾリウムカチオンの例として、複素芳香環を有するカチオンは、1-C1-3アルキル-3-C1-3アルキルイミダゾリウムカチオンであってもよく、より具体的には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンを含んでもよい。カチオンの80モル%以上が1-C1-3アルキル-3-C1-3アルキルイミダゾリウムカチオンもしくは1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンであってもよい。
【0057】
電解液の粘度を調整し、出力特性を高めるために、イオン液体に溶媒を混合し、電解液として用いてもよい。溶媒としては、イオン液体と均一に混ざり合う限りにおいて、キャパシタの電解液として従来用いられている溶媒(非水溶媒)を用いることができる。
【0058】
非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。
【0059】
電解液がイオン液体以外の溶媒を含む場合、電解液の全体に占めるイオン液体の割合は、75質量%以上もしくは80質量%以上であってもよく、さらに、90質量%以上であってもよい。
【0060】
上記の構造を有するグラフェンを活物質に用いて、キャパシタ用電極としての第1電極および/または第2電極が製造される。キャパシタ用電極には、結着剤を含ませてもよい。結着剤は、上記三次元構造を有するグラフェンを電極層に成形する際に、グラフェン同士の結合や、グラフェンと集電体との結合を補助する役割を有する。
【0061】
以下に、本開示の一実施形態に係るグラフェンの製造方法、および、これにより製造されたグラフェンを用いたキャパシタ用電極の製造方法の一例について説明する。
【0062】
≪グラフェンの製造方法≫
(i)分散液調製工程
まず、酸化グラフェンを含む水分散液を調製する。水分散液には、酸化グラフェンおよび水以外に、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の分散剤等を含ませてもよい。酸化グラフェンは、例えば、グラファイトの酸化を経由してグラファイトから単層または多層の状態で剥離生成されることができる。
【0063】
グラファイトの酸化は、例えば、水中で酸化剤を用いて行い得る。酸化剤には、硫酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸、重クロム酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、過酸化物、過硫酸塩、有機過酸などを用い得る。水には水溶性溶媒を添加してもよい。水溶性溶媒としては、アルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが例示できる。水中での酸化反応により、酸化グラフェンの水分散液が生成する。
【0064】
酸化グラフェンの酸素含有率は、例えば10~60質量%であればよく、20~50質量%でもよく、30~50質量%でもよい。
【0065】
(ii)還元工程
次に、酸化グラフェンを含む水分散液中で酸化グラフェンを還元することにより、還元型酸化グラフェンを生成させる(第1還元工程)。還元方法としては、例えば水熱処理が好ましい。例えば、水分散液をオートクレーブに封入して水熱処理することにより、ゲル状生成物を生成させればよい。水熱処理の温度は、例えば、150℃以上、好ましくは170℃以上、200℃以下でもよい。
【0066】
水熱処理だけでも、三次元構造を有する還元型酸化グラフェンを得ることは可能であるが、還元を更に進行させるために、ゲル状生成物を還元剤と接触させてもよい(第2還元工程)。還元剤としては、例えば、金属ヒドリド類、ボロヒドリド類、ボラン類、ヒドラジンもしくはヒドラジド類、アスコルビン酸類、チオグリコール酸類、システイン類、亜硫酸類、チオ硫酸類、亜ジチオン酸類などが例示できる。例えば、アスコルビン酸ナトリウムのような水溶性の還元剤を含む水溶液にゲル状生成物を浸漬すればよい。水溶液の温度は、例えば20~110℃であればよく、40~100℃でもよく、50~100℃でもよい。還元剤の使用量は、還元剤の種類、第1カーボン原料(酸化グラフェン)の酸素含有量、ゲル状生成物量などに応じて適宜調整すればよい。
【0067】
その後、ゲル状生成物を凍結乾燥(フリーズドライ)させてもよい。凍結乾燥によれば、グラフェンの三次元構造が高度に維持された状態の乾燥ゲル(キセロゲル)を得ることができる。凍結乾燥は、例えば-50℃~0℃、好ましくは-50℃~-20℃で、100Pa以下、更には1Pa以下の減圧下で行えばよい。
【0068】
次に、乾燥ゲルを非酸化性雰囲気中で熱還元し、残留する官能基を脱離させる(第3還元工程)。
【0069】
非酸化性雰囲気は、減圧雰囲気(例えば0.1MPa以下(好ましくは10Pa以下))、還元雰囲気(例えば0.01MPa以下の水素雰囲気)、不活性ガス雰囲気(例えばN2、Ar、Ne、Heなどの流通雰囲気)などであってもよい。
【0070】
非酸化性雰囲気中での加熱温度は、700℃以上であって、800℃以上でもよく、900℃以上でもよく、1000℃以上でもよく、1200℃以上でもよい。ただし、還元型酸化グラフェンの酸素含有率の低減には限界があり、生産コストを考慮すると、非酸化性雰囲気中での加熱温度は、1800℃以下でもよく、1400℃以下でもよく、1200℃以下でもよい。温度範囲を規定する場合、これらの上限と下限は任意に組み合わせてよい。温度範囲は、例えば、1000℃~1800℃でもよい。
【0071】
非酸化性雰囲気中での加熱時間は、加熱条件、処理されるカーボン量によって適宜選択されるが、例えば、0.1~5時間程度であってもよい。
【0072】
熱還元後の乾燥ゲルの酸素含有率は5質量%未満であり、4質量%以下でもよく、3質量%以下でもよく、2.6質量%未満が望ましく、2質量%以下、もしくは1.5質量%以下でもよい。酸素含有率が5質量%未満にまで減少すると、酸素含有基と電解液成分との酸化還元反応により生成する反応物が減少する。このような反応物は、電極の細孔を塞ぎ、イオンの拡散性を低下させるとともに、イオンの吸着サイトを低減させる。よって、反応物が少ないほど、イオンの拡散性を低下させることなく、イオンの吸着サイトを低減させることがないので、高容量を発現させることができる。
【0073】
熱還元後の乾燥ゲルを粉砕し、還元型酸化グラフェンの粉末(rGO粉末)を得る。
上記方法により、三次元構造を有するグラフェン(還元型酸化グラフェン)が製造される。製造されたグラフェンを用いて、例えば、以下の方法でキャパシタ用電極を製造できる。
【0074】
≪キャパシタ用電極の製造方法≫
(iii)電極化工程
例えば、rGO粉末を結着剤とともに水等の分散媒に分散させてスラリーを調製する。得られたスラリーを導電性基材(集電体)に塗布し、塗膜を乾燥することで、集電体に担持された電極層が形成され、キャパシタ用電極が得られる。その後、電極層を圧延してもよい。
【0075】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)等のフッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアセテート等の水溶性樹脂等を用い得る。
【0076】
電極層は、上記のグラフェン以外に、例えば活性炭のような他の活物質を含んでもよい。また、電極層は、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粒子を含んでもよい。ただし、高容量と高い信頼性とを両立する観点から、グラフェンが電極層の50質量%以上を構成することが望ましく、65質量%以上を構成することがより好ましい。
【0077】
集電体には、金属箔、金属多孔体などを用い得る。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、白金等を用い得る。これらの金属を主成分とする合金を用いてもよい。金属箔は、プレーン箔でもよいが、エッチング等により粗面化を施した箔、プラズマ処理を施した箔等であってもよい。金属多孔体は、例えば三次元網目構造を有する。
【0078】
金属多孔体の単位面積あたりの質量は、例えば500g/m2以下でもよく、150g/m2以下でもよい。金属多孔体の空隙率は、例えば80体積%~98体積%であればよく、90体積%~98体積%でもよい。
【0079】
金属多孔体の空隙の平均孔径は、例えば50μm以上、1000μm以下であればよく、400μm以上、900μm以下でもよく、450μm以上、850μm以下でもよい。
【0080】
≪キャパシタ≫
次に、上記キャパシタ用電極を第1電極および第2電極として備える電気化学キャパシタの一例について説明する。
図1は、キャパシタ10の一部切り欠き斜視図である。
【0081】
図示例のキャパシタ10は、捲回型のキャパシタ素子1を具備する。キャパシタ素子1は、それぞれシート状の第1電極2と第2電極3とをセパレータ4を介して捲回して構成されている。第1電極2および第2電極3は、それぞれ金属製の第1集電体、第2集電体と、その表面に担持された第1電極層、第2電極層を有し、イオンを吸着および脱着することで容量を発現する。第1、第2集電体には、例えば、アルミニウム箔が用いられる。集電体の表面は、エッチングなどの手法によって粗面化してもよい。第1電極2および第2電極3には、それぞれ引出部材としてリード線5a、5bが接続されている。キャパシタ素子1は、電解液(図示なし)とともに円筒型の外装ケース6に収容されている。外装ケース6の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属であればよい。外装ケース6の開口は、封口部材7によって封止されている。リード線5a、5bは、封口部材7を貫通するように外部に導出されている。封口部材7には、例えば、ブチルゴムなどのゴム材が用いられる。
【0082】
電極層は、活物質を必須成分として含み、結着剤、導電助剤などを任意成分として含み得る。活物質は、例えば、既に述べた特徴を有するグラフェンを含む。電極層は、例えば、活物質、結着剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))などを水とともに混練機で練合して得られるスラリーを集電体の表面に塗布し、塗膜を乾燥し、圧延することで得られる。
【0083】
セパレータは、セルロースまたはその誘導体を含むことが好ましい。セルロースは、酸およびアルカリの双方に対して安定であり、高電圧が印加される環境下であっても安定である。また、引っ張り強度が大きく、第1電極および第2電極を巻回し巻回式電極群を形成する場合にも十分な強度を有している。セパレータの形態としては、例えば、微多孔膜、織布もしくは不織布などを用い得る。セパレータの厚さは、例えば8~50μmであり、12~35μmが好ましく、14~35μmもしくは16~35μmがより好ましい。
【0084】
上記実施形態では、巻回型キャパシタについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他構造のキャパシタ、例えば、積層型あるいはコイン型のキャパシタにも適用し得る。
【0085】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
(1)キャパシタ用電極の作製
過マンガン酸カリウムを酸化剤に用いてグラファイトを水中で酸化させ、酸化グラフェンを得た。酸化グラフェンを1質量%含む水分散液を180℃で6時間、水熱処理して、ゲル状生成物を得た(第1還元工程)。
【0087】
引き続き、ゲル状生成物を還元剤であるアスコルビン酸ナトリウム水溶液(アスコルビン酸ナトリウム濃度1.0mol/L)に浸漬し、100℃に加熱して2時間保持し、カーボンを十分に還元した(第2還元工程)。
【0088】
その後、ゲル状生成物を-20℃で100Paの減圧下で凍結乾燥(フリーズドライ)させて、キセロゲルを得た。続いて、次に、キセロゲルを窒素流通下で、1200℃で、2時間加熱する熱処理を行った(第3還元工程)。熱処理後のキセロゲルを粉砕し、還元型酸化グラフェンの粉末を得た。
【0089】
還元型酸化グラフェンの粉末100質量部と、結着剤であるCMC10質量部とを、適量の水に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを厚み30μmのAl箔からなる集電体に塗布し、塗膜を110℃で真空乾燥し、圧延して、電極層を形成し、キャパシタ用電極を得た。
【0090】
(2)キャパシタの作製
一対のキャパシタ電極を準備し、20mm×20mmの正方形状に打ち抜いた。キャパシタ電極のそれぞれにリード線を接続し、セルロース製不織布のセパレータを挟んで電極層の塗工面同士が対向するようにキャパシタ電極を重ね合わせ、積層型のキャパシタ素子を得た。キャパシタ素子を電解液とともにAlラミネート製の外装ケースに収容し、封口部材で封口して、実施例1のキャパシタA1を完成させた。その後、2.5Vを印加しながら、60℃で6時間エージング処理を行った。
【0091】
キャパシタA1の電解液としては、イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)を用いた。
【0092】
<比較例1>
グラファイトを物理剥離して得られる物理剥離グラフェンを準備した。実施例1の還元型酸化グラフェンに代えて、この物理剥離グラフェンを活物質に用いてキャパシタ電極を作製し、このキャパシタ電極を用いて、キャパシタ素子を得た。
これ以外については、実施例1と同様にして、比較例1のキャパシタB1を作製した。
【0093】
キャパシタA1およびB1について、それぞれ、下記に示す評価を行った。
【0094】
<評価>
各キャパシタA1およびB1の容量を下記の方法で評価した。
【0095】
製造後のキャパシタを、設定電圧V1(=2.8V)までセル活物質重量(正極活物質質量と負極活物質量の合計)に対して0.1~1A/gの電流で定電流充電した。その後、設定電圧V1で8分間、定電圧充電を行った。
【0096】
定電圧充電終了後、セル活物質重量に対して0.1~1A/gの電流で、0Vまで定電流放電を行った。放電時において電圧が2.1Vから0.1Vに低下するまでの電圧変化の傾きから、容量を算出した。容量は、放電時の定電流値をI(A)、電圧が2.1Vから0.1Vに低下するまでの放電時間をt(sec)として下記式にて算出される。
容量(F)=It/(2.1-0.1)
【0097】
算出された容量から、正負極容量(正負極活物質質量)が同じとして単極容量を算出し、電圧V1を印加したときの、正負極活物質質量1g当たりの単極容量C1(F/g)を求めた。
【0098】
設定電圧V
1を2.8Vから5.0Vまで、変化させながら、同様にして正負極活物質質量1g当たりの単極容量C
1(F/g)を求め、単極容量C
1の電圧V
1に対する依存性を評価した。結果を
図2のグラフに示す。
【0099】
さらに、V1=4.4Vで上記充電を完了した後のキャパシタから負極を取り出した。取り出した負極を炭酸ジメチルにて洗浄後、乾燥させた。乾燥後の負極表面に対してXPS定量分析を行い、上述の方法で比率RFおよびRBを求めた。結果を表1に示す。
【0100】
【0101】
図2のグラフより、キャパシタA1では、キャパシタへの印加電圧V
1を4.0V以上に増加させるに伴い、単極容量C
1が急激に増加している。一方、キャパシタB1では、単極容量C
1がキャパシタA1よりも小さく、また、キャパシタへの印加電圧V
1を4.0V以上に増加させても、単極容量C
1の増加は僅かである。
【0102】
表1より、キャパシタA1では、負極表面に存在するFのCに対する比率RFが10%以上と大きく、また、BのCに対する比率RBも1%以上と大きく、酸化還元反応による容量増加が起きていることが分かる。一方、キャパシタB1では、比率RFおよび比率RBがともに小さい。キャパシタB1では、負極表面にBおよびFは微小量しか存在しておらず、酸化還元反応による容量増加が発生していないことが分かる。
【0103】
図3に、キャパシタA1およびB1における負極表面のXPS分析におけるF1sスペクトルを示す。キャパシタA1およびB1では、ともにF1sスペクトルにピークが見られるが、キャパシタB1のピークはキャパシタA1と比べて小さく、またピーク位置が異なる。これは、キャパシタB1では、F1sスペクトルに現れるピークは、負極表面の近傍に存在するBF
4
-に由来するピークであるのに対して、キャパシタA1では、F 1sスペクトルに現れるピークは、EMI
+カチオンが還元された反応生成物がさらにBF
4
-と反応した副生成物によるものと考えられ、Fの結合状態が異なるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、エネルギー密度の高い電気化学キャパシタが得られる。
【符号の説明】
【0105】
1:キャパシタ素子、2:第1電極、3:第2電極、4:セパレータ、5a:第1リード線、5b:第2リード線、6:外装ケース、7:封口部材、10:キャパシタ