(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137107
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】漏洩高さ位置検出方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
C21B 7/10 20060101AFI20240927BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20240927BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C21B7/10 301
F27D1/12 A
F27D21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048495
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】能宗 克行
【テーマコード(参考)】
4K015
4K051
4K056
【Fターム(参考)】
4K015CA04
4K015CA08
4K051AA01
4K051AB03
4K051HA01
4K051HA08
4K051HA13
4K056AA01
4K056BA01
4K056CA02
4K056FA11
4K056FA27
(57)【要約】
【課題】オペレータに負担をかけずに、管路からの流体の漏洩高さ位置を可及的に正確に検出することが可能な漏洩高さ位置検出方法及びその装置を提供する。
【解決手段】管路から流体が漏洩していない定常時の供給流量値及び排出流量値と流体が漏洩している漏洩時の供給流体値及び排出流体値の供給流量差及び排出流量差を求める。この供給流量差と排出流量差の流量差比を求め、予め記憶された供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置の相関関係に基づいて、求めた流量差比から流体の漏洩高さ位置を検出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に配管された管路内を下方から上方に向かって流通する流体が管路から漏洩している高さ方向の位置を検出する方法であって、
前記管路に供給される流体の流量を検出する供給流量検出ステップと、
前記管路から排出される流体の流量を検出する排出流量検出ステップと、
前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の供給流体の流量値を検出する定常時供給流量値検出ステップと、
前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の排出流体の流量値を検出する定常時排出流量値検出ステップと、
前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の供給流体の流量値を検出する漏洩時供給流量値検出ステップと、
前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の排出流体の流量値を検出する漏洩時排出流量値検出ステップと、
前記定常時の供給流体の流量値と前記漏洩時の供給流体の流量値との供給流体の流量差を検出する供給流量差検出ステップと、
前記定常時の排出流体の流量値と前記漏洩時の排出流体の流量値との排出流体の流量差を検出する排出流量差検出ステップと、
前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差との前記流体の流量差比を検出する流量差比検出ステップと、
検出された前記流量差比から予め記憶された供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する漏洩高さ位置検出ステップと、を備えた漏洩高さ位置検出方法。
【請求項2】
前記相関関係は、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから得られる流体の漏洩量ごとに記憶され、
前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから前記管路からの流体の漏洩量を検出するステップを備え、
前記漏洩高さ位置検出ステップは、検出された前記漏洩量から前記相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する、請求項1に記載の漏洩高さ位置検出方法。
【請求項3】
前記管路は、高炉のクーリングステーブを冷却する冷却配管である、請求項1又は2に記載の漏洩高さ位置検出方法。
【請求項4】
上下方向に配管された管路内を下方から上方に向かって流通する流体が管路から漏洩している高さ方向の位置を検出する装置であって、
前記管路に供給される流体の流量を検出する供給流量検出部と、
前記管路から排出される流体の流量を検出する排出流量検出部と、
前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の供給流体の流量値を検出する定常時供給流量値検出部と、
前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の排出流体の流量値を検出する定常時排出流量値検出部と、
前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の供給流体の流量値を検出する漏洩時供給流量値検出部と、
前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の排出流体の流量値を検出する漏洩時排出流量値検出部と、
前記定常時の供給流体の流量値と前記漏洩時の供給流体の流量値との供給流体の流量差を検出する供給流量差検出部と、
前記定常時の排出流体の流量値と前記漏洩時の排出流体の流量値との排出流体の流量差を検出する排出流量差検出部と、
前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差との前記流体の流量差比を検出する流量差比検出部と、
供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係を記憶する漏洩高さ位置-流量差比相関関係記憶部と、
検出された前記流量差比から前記相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する漏洩高さ位置検出部と、を備えた漏洩高さ位置検出装置。
【請求項5】
前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから前記管路からの流体の漏洩量を検出する漏洩量検出部を備え、
前記相関関係記憶部は、前記漏洩量検出部で検出される漏洩量ごとに、供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係を記憶し、
前記漏洩高さ位置検出部は、検出された前記漏洩量から前記漏洩量ごとの相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する、請求項4に記載の漏洩高さ位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩高さ位置検出方法及びその装置、特に上下方向に配管された管路内を下方から上方に向かって流通する流体が管路から漏洩している高さ方向の位置を検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鉱石から溶銑を製造する高炉では、クーリングステーブ(以下、ステーブ)と呼ばれる冷却設備によって炉体を冷却することが多い。ステーブは、高炉内の高温ガスや溶融物から高炉の外壁である鉄皮を保護するための設備であり、冷却のための水冷管路が内蔵されている。このようなステーブは、高さ方向に積み重ねるようにして炉体の周方向に多数配設されており、したがって冷却水の管路も炉体の周方向に多数設けられている。これらの管路は、高炉の下部に設けられた下側ヘッダと上部に設けられた上側ヘッダを繋ぐようにして配管されており、一般に、冷却水は管路内を下方から上方に向けて流通する。
【0003】
ステーブは、高炉に吹き込まれる高温の送風や、炉内の反応熱による熱負荷を受けており、更に下降する原料との摩擦負荷にも晒されている。そのため、長期間の使用によって亀裂、摩耗、漏水などの劣化が生じる。漏水が高炉の炉内で発生すると、炉内温度の低下を招き、高炉炉冷トラブルとして知られる異常につながるため、漏水の早期検知が求められる。しかし、一般に、漏水箇所の特定は、オペレータによって配管系統を1つずつ点検する手法が用いられており、漏水箇所の特定までに時間がかかる。特に、高炉のような高い設備では、管路から流体が漏洩している高さ方向の位置を特定することが重要である。
【0004】
このような管路からの流体の漏洩の高さ位置を検出する方法としては、例えば、下記特許文献1や特許文献2に記載されるものがある。このうち、特許文献1に記載される漏洩高さ位置検出方法は、所定の高さ毎に管路にガス検知器を接続し、損傷部位から管路内に侵入した高炉内のガスを検出することで、流体の漏洩高さ位置を検出する。また、特許文献2に記載される漏洩高さ位置検出方法は、管路の炉底部位に圧力計を取り付け、この圧力計で検出される管路内の流体圧力から流体の漏洩高さ位置を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-320728号公報
【特許文献2】特開平9-196803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される漏洩高さ位置検出方法では、管路内、すなわち冷却水中に侵入したガスの検出が煩雑であり、オペレータに係る負担が大きい。また、特許文献2に記載される漏洩高さ位置検出方法は、オペレータに係る負担は小さいものの、漏洩量の多寡に応じて、どの程度の圧力変化が生じるかといった、漏洩量と圧力の関係が明らかになっていないので、検討の余地がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オペレータに負担をかけずに、管路からの流体の漏洩高さ位置を可及的に正確に検出することが可能な漏洩高さ位置検出方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る漏洩高さ位置検出方法は、上下方向に配管された管路内を下方から上方に向かって流通する流体が管路から漏洩している高さ方向の位置を検出する方法であって、前記管路に供給される流体の流量を検出する供給流量検出ステップと、前記管路から排出される流体の流量を検出する排出流量検出ステップと、前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の供給流体の流量値を検出する定常時供給流量値検出ステップと、前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の排出流体の流量値を検出する定常時排出流量値検出ステップと、前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の供給流体の流量値を検出する漏洩時供給流量値検出ステップと、前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の排出流体の流量値を検出する漏洩時排出流量値検出ステップと、前記定常時の供給流体の流量値と前記漏洩時の供給流体の流量値との供給流体の流量差を検出する供給流量差検出ステップと、前記定常時の排出流体の流量値と前記漏洩時の排出流体の流量値との排出流体の流量差を検出する排出流量差検出ステップと、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差との前記流体の流量差比を検出する流量差比検出ステップと、検出された前記流量差比から予め記憶された供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する漏洩高さ位置検出ステップと、を備えたことを要旨とする。
【0009】
また、本発明の更なる態様は、前記相関関係は、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから得られる流体の漏洩量ごとに記憶され、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから前記管路からの流体の漏洩量を検出するステップを備え、前記漏洩高さ位置検出ステップは、検出された前記漏洩量から前記相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる態様は、前記管路は、高炉のクーリングステーブを冷却する冷却配管であることを特徴とする。
また、本発明の一態様に係る漏洩高さ位置検出装置は、上下方向に配管された管路内を下方から上方に向かって流通する流体が管路から漏洩している高さ方向の位置を検出する装置であって、前記管路に供給される流体の流量を検出する供給流量検出部と、前記管路から排出される流体の流量を検出する排出流量検出部と、前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の供給流体の流量値を検出する定常時供給流量値検出部と、前記管路からの前記流体の漏洩のない状態における定常時の排出流体の流量値を検出する定常時排出流量値検出部と、前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の供給流体の流量値を検出する漏洩時供給流量値検出部と、前記流体が前記管路から漏洩している状態における漏洩時の排出流体の流量値を検出する漏洩時排出流量値検出部と、前記定常時の供給流体の流量値と前記漏洩時の供給流体の流量値との供給流体の流量差を検出する供給流量差検出部と、前記定常時の排出流体の流量値と前記漏洩時の排出流体の流量値との排出流体の流量差を検出する排出流量差検出部と、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差との前記流体の流量差比を検出する流量差比検出部と、供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係を記憶する漏洩高さ位置-流量差比相関関係記憶部と、検出された前記流量差比から前記相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出する漏洩高さ位置検出部と、を備えたことを要旨とする。
【0011】
また、本発明の漏洩高さ位置検出装置の更なる態様は、前記供給流体の流量差と前記排出流体の流量差とから前記管路からの流体の漏洩量を検出する漏洩量検出部を備え、前記相関関係記憶部は、前記漏洩量検出部で検出される漏洩量ごとに、供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置との相関関係を記憶し、前記漏洩高さ位置検出部は、検出された前記漏洩量から前記漏洩量ごとの相関関係に基づいて流体が漏洩している高さ方向の位置を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の漏洩高さ位置検出方法及びその装置によれば、予め記憶された供給流体及び排出流体の流量差比と流体の漏洩高さ位置の相関関係に基づいて、検出された供給流体及び排出流体の流量差比から流体の漏洩高さ位置を検出することができる。そのため、オペレータに負担をかけることなく、管路からの流体の漏洩高さ位置を検出することができる。このとき、管路からの流体の漏洩高さ位置と供給流体及び排出流体の流量差比の相関関係には、管路からの流体の漏洩量がパラメータとして介在している。したがって、この流体の漏洩量を相関関係に反映することで、管路からの流体の漏洩高さ位置を可及的に正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の漏洩高さ位置検出方法及びその装置の一実施形態である漏洩高さ位置検出システムの概略構成図である。
【
図3】
図1の漏洩高さ位置検出システムに構築された漏洩高さ位置検出装置のブロック図である。
【
図5】漏洩の有無における供給流量及び排出流量の説明図である。
【
図6】漏洩高さ位置における供給流量差及び排出流量差の説明図である。
【
図7】漏洩高さ位置と流量差比の相関関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の漏洩高さ位置検出方法及びその装置の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1は、漏洩高さ位置検出方法及びその装置の一実施形態を示す漏洩高さ位置検出システムが設けられた高炉2の概略構成図である。この実施形態の漏洩高さ位置検出システムは、高炉2の炉壁2aに設けられたステーブ(クーリングステーブ)5内の管路1から冷却水(流体)が漏洩している高さ方向の位置を特定(検出)するものである。図に示す太い一点鎖線の部分にステーブ5が配設されており、後述するように、ステーブ5内に埋設されている配管材6を連結して冷却水が流通される管路1が構成されている。したがって、図の一点鎖線が、高炉2における冷却水の管路1を模式的に表している。すなわち、この実施形態における管路1は、高炉2のステーブ5を冷却する冷却配管である。
【0016】
図2には、ステーブ5の断面を概略的に示す。図の右方が炉内側、左方が鉄皮側である。前述のように、ステーブ5は高炉2の外殻である鉄皮を熱から保護するために炉壁2aを冷却する。したがって、ステーブ5は鉄皮の内側に配設される。実際のステーブ5は、特に炉内側が複雑な形状をしているが、ここでは、ステーブ5全体を構成する銅などの高熱伝導材料の内部に鋳込まれている配管材6の概要を示す。ステーブ5は、全体としては板状であり、場合によって炉壁2aに沿って湾曲され、内部には上下方向に伸長する配管材6が図の紙面垂直方向に並べて多数内蔵されている。この板状のステーブ5を鉄皮の内側で上下方向に積み重ねるようにして炉壁2aの周方向に多数並べて配設する。配管材6の上下端は、一般に、鉄皮の外側に突出され、上下のステーブ5の配管材6の上下端と接続される(必ずしも直上・直下の配管材6と接続されるわけではない)。このように連結された配管材6からなる管路1内を冷却水が下方から上方に向けて流通(通水)される。
【0017】
この管路1の上方端は、高炉2の上部(頂部)近傍に設けられている上側ヘッダ10に接続され、管路1の下方端は、高炉2の下部(底部)近傍に設けられている下側ヘッダ9に接続されている。この上側ヘッダ10と下側ヘッダ9が冷却水の給排水設備3に接続されている。この給排水設備3は、上部に配設されて冷却水を貯留するヘッドタンク11と、下部に配設されてヘッドタンク11内の冷却水を加圧するポンプ12と、ポンプ12から吐出される冷却水を冷却するための熱交換器13を備えて構成される。そして、熱交換器13の出側に下側ヘッダ9が接続され、ヘッドタンク11の入側に上側ヘッダ10が接続されている。また、下側ヘッダ9と管路1の間には給水弁(開閉弁)14が介装され、上側ヘッダ10と管路1の間にはドレーンを備えた三方弁15が介装されている。なお、この給排水設備3には、他にも各所に開閉弁が設けられているが、ここでは図示を省略している。
【0018】
管路1を含む給排水設備3には、各管路1において冷却水が漏洩している高さ方向の位置を検出する漏洩高さ位置検出システムが設けられている。この実施形態の漏洩高さ位置検出システムでは、漏洩高さ位置を検出するためのセンサとして、冷却流体である冷却水の供給流量を各管路1毎に検出する供給流量計7と、冷却水の排出流量を各管路1毎に検出する排出流量計8が設けられている。供給流量計7は、給水弁14と管路1の下端の間に取り付けられ、排出流量計8は、三方弁15と管路1の上端の間に取り付けられている。そして、供給流量計7及び排出流量計8の出力は、漏洩高さ位置検出装置4に入力される。漏洩高さ位置検出装置4は、高度な演算処理能力を有するコンピュータシステムで構築される。こうしたコンピュータシステムには、例えば、パーソナルコンピュータが適用可能であるが、その他にも、銑鉄生産ラインで用いられるプロセスコンピュータなどを用いることもできる。
【0019】
図3は、コンピュータシステム内に構築されている漏洩高さ位置検出装置4のブロック図であり、図中の「部」を「ステップ」と読み替えれば、漏洩高さ位置検出方法のロジックともなり得る。この漏洩高さ位置検出装置4は、供給流量計7で検出された管路1への冷却水(流体)の供給流量を読み込む供給流量検出部S1と、排出流量計8で検出された管路1からの冷却水の排出流量を読み込む排出流量検出部S5を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、供給流量検出部S1で読み込まれた冷却水(流体)の供給流量から、管路1からの冷却水の漏洩のない状態における定常時の給水(供給流体)の流量値を検出する定常時供給流量値検出部S2を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、排出流量検出部S5で読み込まれた冷却水(流体)の排出流量から、管路1からの冷却水の漏洩のない状態における定常時の排水(排出流体)の流量値を検出する定常時排出流量値検出部S6を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、供給流量検出部S1で読み込まれた冷却水(流体)の供給流量から、冷却水が管路1から漏洩している状態における漏洩時の給水(供給流体)の流量値を検出する漏洩時供給流量値検出部S3を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、排出流量検出部S5で読み込まれた冷却水(流体)の排出流量から、冷却水が管路1から漏洩している状態における漏洩時の排水(排出流体)の流量値を検出する漏洩時排出流量値検出部S7を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、上記定常時の給水(供給流体)の流量値と上記漏洩時の給水の流量値から給水(供給流体)の流量差を検出する供給流量差検出部S4を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、上記定常時の排水(排出流体)の流量値と上記漏洩時の排水の流量値から排水(排出流体)の流量差を検出する排出流量差検出部S8を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、上記給水(供給流体)の流量差と上記排水(排出流体)の流量差から冷却水(流体)の流量差比を検出する流量差比検出部S9を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、上記給水(供給流体)の流量差と上記排水(排出流体)の流量差から冷却水(流体)の漏洩量を検出する漏洩量検出部S10を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、給水(供給流体)及び排水(排出流体)の流量差比と冷却水(流体)の漏洩高さ位置との相関関係を記憶する漏洩高さ位置-流量差比相関関係記憶部S11を備える。また、この漏洩高さ位置検出装置4は、検出された上記流量差比から上記相関関係に基づいて冷却水(流体)が漏洩している高さ方向の位置を検出(特定)する漏洩高さ位置検出部S12を備える。なお、後述するように、漏洩高さ位置と流量差比の相関関係は、複数の漏洩量毎に記憶されている。
【0020】
次に、この漏洩高さ位置検出装置4(方法)の作用と原理について説明する。本発明者は、管路1から冷却水(流体)が漏洩すると、冷却水の供給流量が増大し、排出流量が減少することに着目した。そして、漏洩のない定常時と漏洩時の給水(供給流体)の流量差や、同じく定常時と漏洩時の排水(排出流体)の流量差が漏洩高さに影響を受けるのではないかと推察した。そこでまず、
図4に示すように、3つの異なる高さS1、S3、S5で、ステーブ5に設けられた排水弁から故意に冷却水を管路1外に流出し、漏洩を模擬した実験を行った。そして、そのときの供給流量計7による給水流量値及び排出流量計8による排水流量値の変化を計測した。
図5には、高さS3から冷却水が漏洩した実験の一部における給水流量値及び排水流量値の経時変化を示す。
図5の実験では、まず排水弁から冷却水を流出しない状態、すなわち漏洩のない状態(定常時)に次いで、高さS3から冷却水を多量に流出して漏洩量の大きい漏洩状態(漏洩時)を模擬的に作成した。その後、再び漏洩のない状態に戻した後、高さS3から冷却水を少量流出して漏洩量の小さい漏洩状態(漏洩時)を模擬的に作成し、三度、漏洩のない状態に戻した。同図から明らかなように、冷却水の漏洩が生じると、給水流量値が増大し、排水流量値が減少する。当然ながら、漏洩量が大きい場合には給水流量値の増大量及び排水流量値の減少量が増大する。
【0021】
同様の実験を、異なる高さS1、S5でも行った。実験結果を表1に示す。表中、実験No.1~3は漏洩量を小さく設定したものであり、実験No.4~6は漏洩量を中程度に設定したものであり、実験No.7~9は漏洩量を大きく設定したものである。また、表中の漏洩時流量差に記載される給水(供給流体)流量差は漏洩時の給水流量値から定常時の給水流量値を減じた値である。同様に、漏洩時流量差に記載される排水(排出流体)流量差は漏洩時の排水流量値から定常時の排水流量値を減じた値である。また、表中の漏洩量(漏水量)は、漏洩時の給水流量値から漏洩時の排水流量値を減じても得られるが、上記給水流量差から排水流量差を減じても得られる。また、表中の流量差比は、上記給水流量差を排水流量差で除した値の絶対値である。流量差比については後段に説明する。
【0022】
【0023】
図6aには、漏洩量が小さい場合の各漏洩高さ位置における給水(供給流体)流量差と排水(排出流体)流量差を、
図6bには、漏洩量が大きい場合の各漏洩高さ位置における給水流量差と排水流量差を示す。共に、排水流量差は、表1の値で表している。図から明らかなように、漏洩高さ位置は給水流量差及び排水流量差に影響を与える。すなわち、漏洩高さ位置が高い場合は、漏洩高さ位置が低い場合と比較して、給水流量差及び排水流量差が共に小さくなる。漏洩高さの変化に対する流量差の変化の程度については、漏洩高さ位置が高い場合、給水流量差は変化の程度が小さいのに対し、排水流量差は変化の程度が大きい。この傾向は、漏洩量の大小に関わらず同様であるが、流量差の値は漏洩量の影響を受ける。また、流量差の大きさは、管路1を流通する冷却水(流体)の流量にも影響を受ける。
【0024】
しかしながら、漏洩高さ位置の変化に対する流量差の変化の傾向は比較的類似しているものの、これだけで漏洩高さ位置を特定(検出)することは困難である。そこで、給水(供給流体)流量差と排水(排出流体)流量差の比、すなわち上記流量差比について漏洩高さ位置との相関関係を調査した。流量差比の定義は前述のとおりである。
図7には、漏洩量毎に、流量差比と漏洩高さ位置の相関関係を示す。図より、それぞれの漏洩量において、漏洩高さ位置が高い場合(S5)は、漏洩高さ位置が低い場合(S1)よりも流量差比が小さくなる傾向が明らかであり、それぞれの漏洩量において流量差比が分かれば漏洩高さ位置を特定できる。したがって、予め実験により流量差比と漏洩高さ位置の相関関係を求めておけば、実際に漏洩が発生した場合に流量差比を検出(算出)することによって漏洩高さ位置を特定することができる。
【0025】
このとき、漏洩量が小さい実験No.2と漏洩量が中程度のNo.5のデータを比較すると、例えば、給水(供給流体)流量差は2.6(L/min)と3.7(L/min)と大きく異なる。これに対し、両者の流量差比は0.93と0.95と、非常に近い値となっており、漏洩高さ位置を特定(検出)するのに流量差比を用いることで、漏洩量の影響を受けにくくなることが分かる。したがって、漏洩量が小さいか中程度の場合には、その範囲で予め求めた流量差比と漏洩高さ位置の相関関係は、比較的広い範囲の漏洩量に対して適用可能であることが分かる。また、表1の実験において実験No.4~6の場合の漏洩量は約9L/minであり、実験の際の管路1における定常時の流量は、
図5からも明らかなように140L/min程度である。すなわち、定常時の流量に対する漏洩量の割合が9/140=0.064(6.4%)以下であれば、その範囲の条件で求めた流量差比と漏洩高さ位置の相関関係を用いて漏洩高さ位置を特定することができる。
【0026】
一方、
図7からも推察されるように、漏洩量が大きい場合には、その漏洩量に対応した条件での流量差比と漏洩高さ位置の相関関係に基づいて漏洩高さ位置を特定(検出)することが好ましい。すなわち、漏洩高さ位置を凡そ特定すればよい場合には、漏洩量が少ない条件で求めた流量差比と漏洩高さ位置の相関関係に基づいて漏洩高さ位置を特定してもよいといえる。しかし、漏洩高さ位置をより正確に特定したい場合には、流量差比と漏洩高さ位置の相関関係を漏洩量に応じて複数求めておき、実際の漏洩時に検出された漏洩量に近い漏洩量における相関関係を用いて漏洩高さ位置を特定することが好ましい。具体的には、例えば実験No.7~9のように、漏洩量が約13L/min(定常時流量の約9%)の場合には、
図7に示す漏洩量大の場合のような相関関係を予め求めておき、検出された漏洩量に近い漏洩量の相関関係を用いて漏洩高さ位置を特定する。
【0027】
したがって、
図3に示す漏洩高さ位置検出装置(方法)4では、定常時の給水(供給流体)と漏洩時の給水の流量差と、定常時の排水(排出流体)と漏洩時の排水の流量差が求められる。更に、これらの流量差を用いて流量差比が求められると共に冷却水(流体)の漏洩量も求められる。漏洩量が小さい場合には、求められた流量差比を用いて、記憶されている流量差比と漏洩高さ位置の相関関係に基づいて漏洩高さ位置が特定(検出)される。流量差比と漏洩高さ位置の相関関係には、漏洩量がパラメータとして記憶されているので、漏洩量が大きい場合には算出された漏洩量の相関関係を用いて、検出された流量差比に応じた漏洩高さ位置が特定される。
【0028】
高炉2に設置されるステーブ5は多数にのぼるため、漏洩高さ位置を厳密に特定できなくても、漏洩高さ位置を或る程度の範囲に特定できるだけでも操業や補修の効率化に寄与する。漏洩高さ位置を凡そ特定できれば、その近傍を詳細に調査することで、漏洩の原因を推定したり、補修の方針を検討したりすることができるようになる。その結果、外部からのステーブ5や配管の補修、更には高炉2を休風してステーブ5を交換することや、漏洩部に流体(冷却水)が流れないように漏洩部の配管を迂回させて通水する、などの対策を行うことができる。
【実施例0029】
内容積4100m
3の高炉2において、
図1と同様に冷却水(流体)の給排水設備3を構成し、
図3の異なる高さS1、S3、S5の位置から排水する試験を行って、
図7に示すような流量差比と漏洩高さ位置の相関関係を漏洩量毎に予め求めた。高炉2の実操業において、冷却水の流量を常時監視したところ、給水(供給流体)流量が定常状態の流量よりも増加し、排水(排出流体)流量が定常状態の流量よりも減少する現象が観察されたので、冷却水の漏洩が発生していると判断した。このとき、給水流量差と排水流量差から得た漏洩量は5.9L/minであり、流量差比は0.8であった。漏洩量5.9L/minは、漏洩のない定常状態での冷却水の流量140L/minの4.2%相当であった。
図7の相関関係において、漏洩量が定常時の流量の6.4%以下の場合は、流量差比と漏洩高さ位置の相関関係に漏洩量は影響しないと考えられる。そのため、
図7の漏洩量小又は漏洩量中の相関関係を用いて、流量差比が0.8に相当する漏洩高さ位置を求めたところ、高さS3と高さS5の中間(すなわち高さS4の位置)で漏洩が発生していると特定(検出)できた。そして、高炉2における高さS4の位置のステーブ5を確認したところ、その位置で、冷却水に炉内ガスが混入していることが認められたことから、高さS4の位置で冷却水の漏洩が発生していることが確認された。このように、この実施形態の漏洩高さ位置検出システムによれば、高炉2に存在する多数の冷却配管、多数のステーブ5がどの高さ位置で漏洩しているかを容易に特定することができる。
【0030】
このように、この実施形態の漏洩高さ位置検出システムでは、予め記憶された供給流体及び排出流体の流量差比と漏洩高さ位置の相関関係に基づいて、検出された給水及び排水の流量差比から冷却水(流体)の漏洩高さ位置を特定(検出)することができる。そのため、オペレータに負担をかけることなく、管路1からの冷却水の漏洩高さ位置を特定することができる。
【0031】
また、管路1からの冷却水(流体)の漏洩高さ位置と給水(供給流体)及び排水(排出流体)の流量差比の相関関係には、管路1からの冷却水の漏洩量がパラメータとして介在している。したがって、この冷却水の漏洩量を相関関係に反映することで、管路1からの冷却水の漏洩高さ位置を可及的に正確に検出することができる。
以上、実施形態に係る漏洩高さ位置検出システムについて説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施形態では、高炉2に設けられたステーブ5からの冷却水の漏洩高さ位置を検出しているが、本発明の漏洩高さ位置検出方法及びその装置は、その他の流体の漏洩高さ位置の検出にも適用可能である。また、同様に、高炉2に限定されず、下方から上方に向けて流体が流通される管路1であれば、如何様な設備や装置にも適用可能である。