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特開2024-137117非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137117
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0566
H01M10/052
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048509
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】田代 勇太
(72)【発明者】
【氏名】山本 英和
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD05
5H017DD06
5H017EE06
5H017EE07
5H017EE09
5H017EE10
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH05
5H017HH08
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ07
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA11
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA04
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA12
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】できるだけ厚みを小さくしながらも、電極合材層の脱落や剥離が起こりやすい電解液への浸漬後においても、電極合材層の集電体からの脱落や剥離を十分に抑制することができる下地層を備えた非水電解質二次電池用負極を提供する。
【解決手段】 集電体と、電極合材層と、これら集電体と電極合材層との間に設けられた導電性の下地層とを備えるものであって、前記下地層が、スチレン-ブタジエン共重合体と、炭素材料と、ポリアクリル酸を少なくとも含み、前記下地層における前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量は50質量%以上90質量%以下であり、前記ポリアクリル酸は、該ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基が中和されていない、又は前記カルボキシ基のうち、アルカリ金属イオンによって中和されている中和カルボキシ基の割合が0%より大きく75%以下であり、前記集電体の片面あたりの前記電極合材層の目付量が10mg/cm以上35mg/cm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
電極合材層と、
これら集電体と電極合材層との間に設けられた導電性の下地層とを備えるものであって、
前記下地層が、スチレン-ブタジエン共重合体と、炭素材料と、ポリアクリル酸を少なくとも含み、
前記下地層における前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、前記下地層100質量%に対して50質量%以上90質量%以下であり、
前記ポリアクリル酸は、該ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基が中和されていない、又は前記カルボキシ基のうちアルカリ金属イオンによって中和されている中和カルボキシ基の割合が0%より大きく75%以下であり、
前記集電体の片面あたりの前記電極合材層の目付量が10mg/cm以上35mg/cm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記下地層の厚みが0.5μm以上5μm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記下地層の厚みが0.5μm以上2μm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度が-30℃以上30℃以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項5】
前記電極合材層が0.5質量%以上10質量%以下のポリテトラフルオロエチレンを含有するものである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項6】
前記ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基が中和されていない、又は前記ポリアクリル酸における中和されたカルボキシ基の割合が0%を超えて50%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
前記炭素材料がファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項8】
正極と、負極と、これら正極と負極との間に設けられたセパレータと、電解液とを備える非水電解質二次電池であって、
前記正極及び/又は前記負極が請求項1~7のいずれか一項に記載された非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
【請求項9】
正極と、負極と、これら正極と負極との間に設けられたセパレータと、電解液とを備える非水電解質二次電池であって、
前記負極が請求項1~7のいずれか一項に記載された非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極及び該電極を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池は、スマートフォンやノート型パソコン等の電源として広く用いられているが、これら電子機器の小型化と軽量化が進むにつれて二次電池にはさらなる高エネルギー密度化が求められている。
また、最近は電気自動車やハイブリッド自動車等の電源としての需要も高まっており、従来のガソリンエンジンと同等の性能を確保するための高エネルギー密度化が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化の方法の一つとして、電極合材層の目付量を増やすことが挙げられる。
【0004】
通常、電極合材層の作製においては、電極合材スラリーを集電箔に塗工、乾燥することによって得ることが一般的であるが、電極合材層の目付量を大きくすると、バインダーが表面にマイグレーションを起こしやすく、集電箔から電極合材層が脱落あるいは剥離しやすくなってしまう。
そのため、目付量の大きい電極合材層の作製では電極合材組成物を乾式で混合、混練し、カレンダープレスなどでシート化した後、集電箔と張り合わせる方法も用いられている。このとき、集電箔から電極合材層が脱落や剥離しないように抑える方法として、以下の特許文献1のように集電箔と電極合材層との間に導電性を有する下地層を設けることが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/196372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、下地層は電極活物質を含む層ではなく、電池のエネルギー密度向上に貢献しない層であるために、高エネルギー密度を実現するためには、下地層の厚みをより薄くすることが求められる。
また、実際の電池構成においては実際の電池構成においては電極が電解液に浸漬させ、電解液が電極に含浸された状態で使用される。このような実際の使用状況における集電箔からの電極合剤層の剥離についてさらに検討を進めた本発明者は、電解液に浸漬された後においては、電解液に浸漬される前の状態よりも、集電体から電極合剤層が剥離しやすくなることを見出した。一方、前述した特許文献1においては、電解液への浸漬後における電極合材層の脱落や剥離については一切検討されていない。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、できるだけ厚みを小さくしながらも、電極合材層の脱落や剥離が起こりやすい電解液への浸漬後においても、電極合材層の集電体からの脱落や剥離を十分に抑制することができる下地層を備えた非水電解質二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下のようなものである。
[1]集電体と、電極合材層と、これら集電体と電極合材層との間に設けられた導電性の下地層とを備えるものであって、
前記下地層が、スチレン-ブタジエン共重合体と、炭素材料と、ポリアクリル酸を少なくとも含み、
前記下地層における前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、前記下地層100質量%に対して50質量%以上90質量%以下であり、
前記ポリアクリル酸は、該ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基が中和されていない、又は前記カルボキシ基のうち、アルカリ金属イオンによって中和されている中和カルボキシ基の割合が0%より大きく75%以下であり、
前記集電体の片面あたりの前記電極合材層の目付量が10mg/cm以上35mg/cm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
[2]前記下地層の厚みが0.5μm以上5μm以下である、[1]に記載の非水電解質二次電池用電極。
[3]前記下地層の厚みが0.5μm以上2μm以下である、[1]に記載の非水電解質二次電池用電極。
[4]前記スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度が-30℃以上30℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極。
[5]前記電極合材層が0.5質量%以上10質量%以下のポリテトラフルオロエチレンを含有するものである、[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極。
[6]前記ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基が中和されていない、又は前記ポリアクリル酸における中和されたカルボキシ基の割合が0%を超えて50%以下である[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極。
[7]前記炭素材料がファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックからなる群より選ばれる1種以上である[1]~[6]の何れに記載の非水電解質二次電池用電極。
「8」正極と、負極と、これら正極と負極との間に設けられたセパレータと、電解液とを備える非水電解質二次電池であって、前記正極及び/又は前記負極が[1]~[7]のいずれかに記載された非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
[9]正極と、負極と、これら正極と負極との間に設けられたセパレータと、電解液とを備える非水電解質二次電池であって、前記負極が[1]~[7]のいずれかに記載された非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記集電体の片面あたりの前記電極合材層の目付量を十分に大きくした電極において、前記下地層の厚みを所望の高エネルギー密度を達成することができる範囲まで十分に小さくした場合であっても電解液浸漬後の電極合材層の脱落や剥離を抑制することができる。
電解液に浸漬された後に集電体から電極合剤層が剥離しやすくなる現象は、特に負極において問題となることを本発明者は見出している。そこで、本発明に係る非水電解質二次電池用負極を備えた非水電解質二次電池とすれば、本発明の効果がより顕著に発揮することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態に係る二次電池の具体的な構成について説明する。
<1.非水電解質二次電池の基本構成>
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータ(separator)と、非水電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池である。
このリチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0011】
(1-1.正極)
前記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された正極合材層とを備えている。
前記正極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、アルミニウム(aluminum)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成されることが好ましい。
前記正極合材層は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。
【0012】
前記正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、例えば、Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01等を挙げることができるが、これ以外にも、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiCoMn等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。なお、前記正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合材層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独で用いても良いし、または複数種混合して用いてもよい。
【0013】
前記導電剤は、前記正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。前記導電剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、繊維状炭素及び、ナノ炭素材料の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。
前記カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック(furnace black)、チャネルブラック(channel black)、サーマルブラック(thermal black)、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等を挙げることができる。
前記繊維状炭素の例としては、炭素繊維等を挙げることができる。
前記ナノ炭素材料の例としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、単層グラフェン、多層グラフェン等を挙げることができる。
前記導電剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合材層に適用可能な含有量であれば良い。
【0014】
前記正極用バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)等のエチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose)若しくはカルボキシメチルセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースの塩等)、又はニトロセルロース(nitrocellulose)等を挙げることができる。前記正極用バインダーは、前記正極活物質及び前記導電剤を前記正極集電体上に結着可能なものであればよく、特に制限されないが、正極合材層の目付量を大きくするという観点から、正極合材層がバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)等のフッ素含有樹脂を含有していることが好ましく、正極合材層中のバインダーの含有量は0.5質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。バインダーの含有量がこの範囲にあるとき、正極合剤層の機械的強度が良好な工程性を確保できる程度に向上し、正極極板のエネルギー密度を高めることができる。
【0015】
(1-2.負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合材層とを備えるものである。
前記負極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されるものであることが好ましい。
【0016】
前記負極合材層は、少なくとも負極活物質を含み、導電剤と、負極用バインダーとをさらに含んでいても良い。
前記負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することが出来るものであれば特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質又はSn系活物質(例えば、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物もしくは複合化物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLiTi12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。負極活物質としては、以上に挙げたもののうち一種類を用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。なお、ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
【0017】
前記導電剤は、前記負極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されず、例えば、前記正極の項で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0018】
前記負極用バインダーとしては、前記負極活物質及び前記導電剤を前記負極集電体上に結着可能なものであればよく、特に制限されない。前記負極用バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)、スチレンブタジエン系共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースの金属塩(CMC)などであってもよい。1種のバインダーが単独で使用されても良いし、2種以上を含有するものとしても良い。
【0019】
(1-3.セパレータ)
セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluorovinylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoro propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0020】
セパレータの表面に、耐熱性を向上させるための無機粒子を含む耐熱層、または電極と接着して電池素子を固定化するための接着剤を含む層があってもよい。前述の無機粒子としては、Al、AlOOH、Mg(OH)、SiOなどがあげられる。接着剤としてはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン重合体の酸変性物、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体などがあげられる。
【0021】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、電解液用溶媒である非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。前記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(butylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methylformate)、酢酸メチル(methylacetate)、酪酸メチル(methylbutyrate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピオン酸プロピル(propyl propionate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(ethylene glycol monopropyl ether)、プロピレンレングリコールモノプロピルエーテル(propylene glycol monopropyl ether)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、前記非水溶媒を2種以上混合して使用する場合、各非水溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0022】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiPF-x(C2n+1)x[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid lithium)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzenesulfonic acid lithium)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、前述したようなリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/l以上1.5mol/l以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することが好ましい。
【0023】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0024】
<2.本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成>
以下に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成について説明する。
【0025】
(2-1.下地層)
前述した負極は、さらに下地層を備えている。
前記下地層は、前記負極集電体と前記負極合材層との間に設けられて、前記負極合材層が脱落又は剥離することを抑えるものである。
【0026】
前記下地層は、炭素材料と、結着剤(下地層用バインダー)と、分散剤とを含有するものである。
前記炭素材料は、下地層の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。前記炭素材料の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、繊維状炭素およびナノ炭素材料の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。
前記カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック(furnace black)、チャネルブラック(channel black)、サーマルブラック(thermal black)、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等を挙げることができる。
前記繊維状炭素の例としては、炭素繊維等を挙げることができる。
前記ナノ炭素材料の例としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、単層グラフェン、多層グラフェン等を挙げることができる。
炭素材料の中でも分散が容易であるカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックの中でも導電性が高いアセチレンブラックを使用することがより好ましい。
前記下地層中の炭素材料の含有量は、1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。炭素材料の含有量が1質量%以上である時前記下地層の導電性が良好となり、5質量%以上である時前記下地層の導電性がより良好となる。一方で炭素材料の含有量を低下させることは、前述した下地層用バインダーや分散剤の含有量を増大させる余地を生むため、前記下地層の良好な接着性の発現や分散性向上につながる。そのため、炭素材料の含有量は35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
前記下地層用バインダーは、下地層に含まれる炭素材料等の各成分を互いに結着させるとともに、該下地層と前記電極集電体又は前記電極合材層とを結着させるものである。具体的に本実施形態に係る下地層用バインダーは、スチレン-ブタジエン共重合体(SBRともいう。)を含むものであり、より具体的にはスチレン-ブタジエン共重合体からなるものである。
スチレン-ブタジエン共重合体とは、共重合体の構成単位がスチレン、およびブタジエンを重合してなる構成が主となっている共重合体のことである。
該下地層と前記電極集電体又は前記電極合材層とを結着させる際、下地層用バインダーが軟化していることによって接着力が発現する。スチレン-ブタジエン共重合体が軟化する温度とは、即ちガラス転移温度である。一般的にスチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度は、PVDF等のフッ素樹脂(融点:177℃)と比べると低いため、接着工程の温度を低減させることができ、製造コスト削減の観点で好ましい。
【0028】
スチレン-ブタジエン共重合体には乳化重合SBRと溶液重合SBRとが存在する。乳化重合SBRは水分散体(エマルション、ラテックスともいう)の状態で得られる。SBRを乳化重合法で合成する際に、乳化剤が処方されることがある。SBRの微粒子を水中で分散安定化させるために、不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物などのモノマーで少量変性されることもある。SBRの微粒子を水中で分散安定化させるために、界面活性剤が添加される場合もある。SBRの微粒子には、異種のポリマーが複合化されていてもよい。複合化されたSBRの微粒子がコアシェル構造や海島構造などの構造を有していても良い。
本実施形態では、下地層用バインダーとして乳化重合されたスチレン-ブタジエン共重合体の水分散体が好ましく用いられる。スチレン-ブタジエン共重合体は、水分散体の状態では粘度が低い。下地層用バインダーの粘度が低いことは、下地層用スラリーの粘度を低下させることに寄与し得る。下地層用スラリーの粘度が低いことは、薄膜塗工を行う上で有利である。乳化重合されたスチレン-ブタジエン共重合体の分子量は、例えば、1万以上3百万以下と比較的大きい。下地層用バインダーの分子量が大きいことは、下地層用バインダーの強度を高め、ひいては下地層の強度を高めることに寄与し得る。下地層の強度が高いことは、塗膜の不良率を下げることに寄与し得る。
【0029】
前述のようにスチレン-ブタジエン共重合体の水分散体には、乳化剤、界面活性剤を初めとした添加剤が含まれ得る。また、不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物などのモノマーで少量変性されていることもあり得る。前記添加剤や前記変性は、スチレン-ブタジエン共重合体の水分散体のpHに影響を与え得る。
下地層用のバインダーと下地層用バインダー以外の材料を混合して下地層用スラリーを作成する場合、下地層用バインダーの水分散体のpHには好ましい範囲が存在する。例えば、下地層用バインダー以外の材料のpHが7未満である場合、下地層用バインダーが強アルカリ性でなく、中性寄りのアルカリ性、より好ましくは中性又は酸性であれば、酸塩基相互作用による下地層用スラリー中での凝集物の形成を抑制することができる。下地層用スラリー中での凝集物の形成を抑制できれば、下地層を塗工する際に、塗工性の低下を抑えることができる。
本実施形態では、後述のように下地層用の分散剤としてポリアクリル酸を用いた。ポリアクリル酸の水溶液はpHが7未満である。前述のような機構で凝集物が形成されることを抑制するため、下地層用バインダーとしては、pH8以下のものが好ましく用いられる。
【0030】
前記スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度は30℃以下であることが好ましく、-30℃以上であることが好ましい。前記スチレン-ブタジエン共重合体がガラス転移温度以上の温度環境にある時、軟化する。前記スチレン-ブタジエン共重合体が十分に軟化することで、負極合材層を下地層に接着させる工程において、良好な接着性が発現する。ガラス転移温度が30℃以下にあるとき、負極合剤層を下地層に接着させるときの熱ロールプレスの温度を例えば120℃を超えるような過度に高い温度にしなくとも良好な接着性が得られる。前記スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度は、-20℃以上20℃以下であることがより好ましく、-15℃以上15℃以下であることが特に好ましい。
【0031】
スチレン-ブタジエン共重合体は、乾燥させた状態で電解液に浸漬すると電解液を取り込み膨潤する。膨潤度が高過ぎる場合、電極合材層と下地層との接着強度が低下することに寄与し得る。そこで、スチレン-ブタジエン共重合体としては、膨潤度が278質量%未満のものが好ましく用いられる。膨潤度が200質量%以下のものがより好ましく、膨潤度が150質量%以下のものがさらに好ましく用いられる。
【0032】
上述したような各性質をみたすスチレン-ブタジエン共重合体の具体例としては、例えば、株式会社ENEOSマテリアルのTRD2001、TRD102A、TRD104A、日本ゼオン社製BM-451B等を挙げることができる。
【0033】
前記下地層によって前記電極合材層の脱落や剥離を十分に防止するために、前記下地層用バインダーの前記下地層中における含有量は50質量%以上であることが好ましい。また、下地層の導電性を十分に確保するためには前記下地層用バインダーの前記下地層中における含有量は90質量%以下であることが好ましい。前記下地層用バインダーの前記下地層中における含有量は55質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
前記分散剤は、前述した炭素材料と下地層用バインダーとを均一に分散させるためのものであり、本実施形態においてはポリアクリル酸がそれに該当する。
ポリアクリル酸は、分子内に複数のカルボキシ基を有しており、これらカルボキシ基がナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンによって中和されている場合がある。
本実施形態で用いるポリアクリル酸は、これらカルボキシ基ができるだけ中和されていないものであることが好ましい。具体的には、ポリアクリル酸が備えるカルボキシ基のうち、中和されているカルボキシ基(中和カルボキシ基)の割合が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、0%(すなわち未中和)であることが特に好ましい。
前記下地層中の前記分散剤の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%
以下であることがさらに好ましい。分散剤が1質量%以上である時、前述した炭素材料と下地層用バインダーとを均一に分散でき、2質量%以上である時、より均一に分散することができる。一方で分散剤の含有量を低下させることは、前述した下地層用バインダーや導電剤の含有量を増大させる余地を生むため、前記下地層の良好な接着性の発現や低抵抗化による電池性能向上につながる。そのため、分散剤の含有量は30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
<3.本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
(3-1.正極の作製方法)
本実施形態に係る正極は、以下のように作製される。
正極活物質、導電剤、及び正極用バインダーを所望の割合で混合したものを、混錬して正極合材塊を作成し、この正極合材塊を圧延して正極合材シートを作成する。この正極合材シートを熱ロールプレスなどによって正極集電体に積層する乾式法によって、正極が作製される。なお、正極合材シートを正極集電体に乾式法で積層する工程に用いる製造装置は、特に限定されない。正極合材シートを正極集電体に積層する工程に用いる製造装置としては、ロールプレス装置、熱ロールプレス装置、ドライラミネーター、カレンダー加工装置、ヒートプレス装置等が考えられる。前記積層する工程で、例えば、熱ロールプレス装置を用いる場合、熱ロールプレス装置のプレスロール温度は、正極合剤に使用する材料等によって適宜変更可能であるが、20℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上120℃以下であることがより好ましく、40℃以上80℃以下であることが特に好ましい。また、プレスロールの回転速度は、分速0.1m以上10m以下であることが好ましく、0.1m以上5m以下であることがより好ましく、0.1m以上1.0m以下であることが特に好ましい。前記プレスロールの温度や前記ロールの回転速度を始めとした各種パラメータは、用いられる熱ロールプレス装置によって好適な範囲が異なる可能性があり、それぞれの熱ロールプレス装置に応じて前記パラメータを調節可能であることは言うまでもない。正極合材シートの積層時には、正極集電体の片面あたりの正極合材層の目付量が15mg/cm以上70mg/cm以下となるように調整する。正極集電体の片面あたりの正極合剤層の目付量は、25mg/cm以上70mg/cm以下であることがより好ましく、30mg/cm以上50mg/cm以下であることが特に好ましい。
【0036】
(3-2.負極の作製方法)
まず、前述した下地層に含有される各成分を水等の溶媒に懸濁してスラリー状にした下地層スラリーを調整し、この下地層スラリーを、正極集電体上に塗布乾燥することによって下地層を形成する。この時、下地層スラリーの塗工量は、乾燥後の下地層の厚みが、例えば、0.5μm以上5μm以下の厚みとなるようにする。乾燥後の下地層の厚みは、0.5μm以上2μm以下とすることがより好ましく、0.5m以上1.5μm以下とすることが特に好ましい。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法、リバースロールコーター(reverse roll coater)、スリットダイコーター(slit die coater)等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。
次に、負極活物質、導電剤、及び負極用バインダーを所望の割合で混合したものを、混錬して負極合材塊を作成し、この負極合材塊を圧延して負極合材シートを作成する。この負極合材シートを熱ロールプレスなどによって前記下地層上に積層する乾式法によって、負極が作製される。なお、負極合材シートを下地層に乾式法で積層する工程に用いる製造装置は、特に限定されない。負極合材シートを下地層に積層する工程に用いる製造装置としては、ロールプレス装置、熱ロールプレス装置、ドライラミネーター、カレンダー加工装置、ヒートプレス装置等が考えられる。前記積層する工程で、例えば、熱ロールプレス装置を用いる場合、熱ロールプレス装置のプレスロール温度は、負極合材層に使用する材料等によって適宜変更可能であるが、20℃以上150℃以下であることが好ましく、40℃以上120℃以下であることがより好ましく、60℃以上100℃以下であることが特に好ましい。また、プレスロールの回転速度は、分速0.1m以上10m以下であることが好ましく、0.1m以上5m以下であることがより好ましく、0.1m以上1.0m以下であることが特に好ましい。前記プレスロールの温度や前記ロールの回転速度を始めとした各種パラメータは、用いられる熱ロールプレス装置によって好適な範囲が異なる可能性があり、それぞれの熱ロールプレス装置に応じて前記パラメータを調節可能であることは言うまでもない。負極合材シートの積層時には、負極集電体の片面あたりの負極合材層の目付量が10mg/cm以上35mg/cm以下となるように調整する。
また、負極合材層を構成する材料を混合したものを、負極スラリー用溶媒に分散させることで、負極スラリーを作製する。次いで、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させることで、負極合材層を形成するものとしてもよい。このように負極合材層を塗工・乾燥によって形成する場合には、プレス機により負極合材層を前述した所望の密度となるようにプレスするものとしても良い。
【0037】
(3-3.非水電解質二次電池の作製方法)
次いで、セパレータを正極及び負極で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔や正極及び負極の空隙に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0038】
<4.本実施形態による効果>
以上のように構成した非水電解質二次電池によれば、負極合材層の目付量を大きくし、かつ下地層の厚みをできるだけ小さくすることによって、非水電解質二次電池の高エネルギー密度化を図るとともに、電解液に浸漬した後における負極合材層の脱落や剥離を十分に抑制することができる。
【0039】
<5.本発明に係る他の実施形態>
本発明は、前述した実施形態に限られるものではない。
前述した実施形態では、負極集電体の片面にのみ下地層を形成する場合を説明したが、下地層及び負極合剤層は負極集電体の両面に設けられるものとしても良い。
前記実施形態においては、負極集電体と負極合材層との間に下地層を設ける場合について説明したが、本発明に係る下地層は正極集電体と正極合材層との間に設けられて、正極合材層の脱落や剥離を抑制するものとしても良い。
本発明に係る下地層は、固体電解質層を備えない非水電解質二次電池に限らず、固体電解質層を備える半固体二次電池や全固体二次電池などにも適用可能なものである。
その他、本発明はこれら実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【実施例0040】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<下地層スラリーの作成>
まず、以下の手順で炭素材料分散液を作成し、この分散液を用いて下地層スラリー1~5を作成した。
【0041】
(分散液1の作製)
炭素材料としてアセチレンブラックを使用し、分散剤として中和されていないポリアクリル酸を用いた。アセチレンブラック(65g以上75g以下)と、ポリアクリル酸の水溶液(該水溶液から水を除去した場合の乾固物とした場合のポリアクリル酸の質量が25g以上35g以下)と、水1030gとを入れディスパーを用いて20分間混合した。前記の混合物を吉田工業機械株式会社製NanoVatorにより高圧分散処理した。前記高圧分散処理を3回繰り返し、アセチレンブラックの分散液1を得た。この分散液120℃の乾燥炉で乾固させ秤量した結果、分散液中の乾固物の含有量(固形分濃度)は約8質量%であった。なお、分散液中に含有される炭素材料と分散剤(ポリアクリル酸)の含有量を前述した範囲で変化させた場合であっても、以下の各評価試験における結果は変動しない。
(分散液2~5の作製)
前述の分散剤で用いたポリアクリル酸を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和したこと以外前述と同様の方法で分散液2~5を作成した。作成した分散液の組成を表1に示す。
分散液の作成に用いたポリアクリル酸及びポリアクリル酸の中和物の水溶液のpHを表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
<分散液の分散性の評価>
分散液1~5の分散性を、BYK社製グラインドメーター(0-50μm)を用い評価した。分散液中の凝集物の有無を目視で確認し、凝集物が見られない場合を分散性〇とし、凝集物が見られる場合を分散性×とした。結果を表1に記す。
【0044】
表1によると、分散液の分散剤として用いられるポリアクリル酸のカルボキシ基は未中和、又は中和されている割合が75%以下であれば分散性の優れた分散液を作製可能であることが分かった。本実施形態で炭素材料として用いたアセチレンブラックを初め、導電性の優れる炭素材料は一般に純度が高く、炭素材料の粒子表面のpHは弱アルカリ性となる。分散剤のpHが7未満である時、分散剤が弱アルカリ性である炭素材料表面に効果的に吸着できていると考えられる。
【0045】
(下地層スラリーの作製)
下地層用バインダーとしてスチレンとブタジエンの共重合体(SBRともいう。)、又はアクリルゴム、又はポリフッ化ビニリデン(PVDFともいう。)を用い、共重合体の乾固物の含有量(固形分濃度)が40.0質量%となるように調整した前記共重合体の樹脂微粒子水分散体と、前述した分散液1とを下地層中に含有されるバインダー量が表2に記載されたものとなるように攪拌用容器に投入した。なお、この実施例で使用したSBRのガラス転移温度は7℃であり、アクリルゴムのガラス転移温度は15℃である。前記攪拌用容器をTHYNKY社製自転・公転ミキサーARE-310に装着し、10分間混合し、表2に記載された組成の各下地層スラリーを得た。これら下地層スラリーを乾固させて秤量した結果、下地層スラリー中の乾固物の含有量(固形分濃度)はいずれの下地層スラリーについても全て約15%であった。
【0046】
次に負極合材シートを以下のような手順で作製した。
<負極合材シート1の作製>
天然黒鉛、人造黒鉛、単層カーボンナノチューブ、ポリテトラフルオロエチレンの粉体を質量比48.2:48.2:0.1:3.5で秤量し、乳鉢にて10分間混錬した。混錬後の塊状負極合材を2本のロール間に約100回通し、膜厚約180μm、密度1.2g/cmから密度1.4g/cmの負極合材シートを作製した。前述の2本のロール間に塊状負極合材を約100回通す工程において、2本のロールのギャップは3mmから徐々に狭められ、最終的なギャップは約0.1mmであった。
前記の方法で得られた負極合材シートの合材密度、および負極合材層の目付量をそれぞれ1.6g/cm、17.0mg/cmに調整するため、熱ロールプレスを用いて負極合材シートの圧延を行った。熱ロールの温度を75℃に設定し、ロールの回転速度を分速0.5mに設定した。ロールギャップを30μmに調整し、寸法3.0cm×8.0cmに成形された負極合材シートを長手方向に3回から8回通した。前記圧延工程における総圧は3kNで、線圧は100kN/mであった。作製された負極合材シート1を15.5φで打ち抜き、その重量と膜厚を測定した。得られた重量と膜厚を用いて算出した負極合材密度、および負極合材層の目付量はそれぞれ約1.6g/cm、目付量が約17.0mg/cmであった。
【0047】
(負極合材シート2の作製)
前記圧延工程で、負極合材シートを圧延ロール間に通す回数を増やすことにより負極合材層の目付量を小さくすることができる。前記の圧延工程でロール間に通す回数のみを25から35回と変更することで、負極合材密度が約1.6g/cm、合材層目付量が約10mg/cmの負極合材シート2を作製した。
【0048】
(負極合材シート3の作製)
前記圧延工程で作製した複数の負極合材シートを重ねてさらに圧延することにより負極合材層の目付量を大きくすることができる。合材密度が約1.6g/cm、合材目付量が約17.5mg/cmの負極シート2枚を面直方向に重ね、前記圧延工程でのロールギャップのみを60μmへと変更することで負極合材密度が約1.6g/cm、合材層目付量が約35mg/cmの負極合材シート3を作製した。
【0049】
前述したようにして作製した下地層スラリー及び負極合材シートを用いて、以下の手順で負極を作製した。
<負極の作製>
(実施例1)
下地層スラリーを厚さ約8μmの銅箔(負極集電体)の片面に塗工した。塗工はマイクログラビア塗工機を使用し、下地層の膜厚が1μmとなるよう塗工し、80℃で1分間乾燥して負極集電体上に下地層を形成した。
次に、前記の方法で作製された負極合材シートを、下地層が形成された負極集電体上に、熱ロールプレスを用いて接着した。熱ロールの温度を80℃に設定し、ロールの回転速度を分速0.5mに設定した。ロールギャップを45μmに調整し、集電体上に積層された下地層の上に負極合材シートを乗せ、ロール間に1回通して負極を作製した。なお、各実施例及び比較例で使用しているロールの回転速度条件については、±分速0.2m程度の誤差が生じる場合があるが、製造された負極合材シートの性質への影響はない。また、各実施例及び比較例で使用しているロールギャップの条件についても、±10μm程度の誤差があっても特に問題はない。前記接着工程における総圧は3kNであり、線圧は100kN/mであった。
このようにして作製された負極を真空乾燥機にて145℃で6時間乾燥した。真空乾燥後の負極を15.5φで打ち抜き重量と膜厚を測定した。得られた重量と膜厚を用いて算出した負極合材密度、および負極合材層の目付量はそれぞれ約1.6g/cm、目付量が約17.0mg/cmであった。
【0050】
(実施例2~5および比較例1~4)
以下の表2に記載した下地層スラリーをそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で負極を作製した。ロールギャップは、用いられる負極合材シートの目付量に応じて下記の計算によって得られた値となるよう調整した。
(ロールギャップ)=(用いられる負極合材シートの目付量)÷17×45μm
【0051】
<負極の性能評価試験>
(電解液浸漬後の負極集電体に対する負極合材層の密着性の評価方法)
実施例1~5および比較例1~4で作製した負極を電解液と共にアルミラミネート内に投入し、ラミネータで封をし、60℃の恒温槽の中で3日保存した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネートを20/20/40(体積比)で混合した溶媒に1.15MのLiPFと1.0質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用した。投入した電解液の量は、前記恒温槽内で負極を保存する際、負極全体が前記電解液に十分に浸漬する程度の量であった。3日経った後、前記アルミラミネートを恒温槽から出し、露点-30℃のドライルーム内に移動させた。前記アルミラミネートを開封して負極極板を取り出し、電解液を十分に手早くふき取った。前記負極極板を幅25mm、長さ80mmの短冊状に切り出した。ついで、両面テープを用いて、前記負極の合材層側の面をステンレス板に張り合わせ、密着性評価用サンプルを作製した。剥離試験機((株)島津製作所社製SHIMAZU EZ-S)に前記密着性評価用サンプルを装着し、剥離速度を100mm/分に設定し、長さ60mmの180度における剥離強度を測定した。
【0052】
(電解液浸漬後の負極集電体に対する負極合材層の密着性の評価基準)
前記剥離強度が2.0g重/mm以上の場合は密着性を◎と評価した。1.0g重/mm以上2.0g重/mm未満の場合は密着性を○と、1.0g重/mm未満の場合は密着性を×と評価した。結果を表2に示す。
【0053】
<正極の作製>
(下地層の形成)
比較例1で用いた下地層スラリーを厚さ約12μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗工した。塗工はマイクログラビア塗工機を使用し、下地層の膜厚が1μmとなるよう塗工し、80℃で1分間乾燥して正極集電体上に下地層を形成した。
(正極合材シート1の作成)
LiNi0.8Co0.1Al0.1、アセチレンブラック、ポリテトラフルオロエチレンの粉体を質量比93.0:3.5:3.5で秤量し、乳鉢にて10分間混錬した。混錬後の塊状正極合材を2本のロール間に約100回通し、膜厚約150μm、密度2.9g/cmから密度3.1g/cmの正極合材シートを作成した。前述の2本のロール間に塊状正極合材を約100回通す工程において、2本のロールのギャップは3mmから徐々に狭められ、最終的なギャップは約0.1mmであった。
前記の方法で得られた正極合材シートの正極合材密度、および正極合材層の目付量をそれぞれ3.6g/cm、30.0mg/cmに調整するため、熱ロールプレスを用いて正極合材シートの圧延を行った。熱ロールの温度を40℃に設定し、ロールの回転速度を分速0.5mに設定した。ロールギャップを10μmに調整し、寸法3.0cm×8.0cmに成形された正極合材シートを長手方向に2回通した。次いで、ロールギャップを5μmに調整し、正極合材シートを2回通した。前記圧延工程における総圧は3kNであり、線圧は100kN/mであった。作成された正極合材シートを15.5φで打ち抜き、その重量と膜厚を測定したところ、膜厚が約100μm、正極合材密度が約3.6g/cm、目付量が約30.0mg/cmであった。
【0054】
(正極合材シート2の作製)
前記圧延工程で、正極合材シートを圧延ロール間に通す回数を増やすことにより正極合材層の目付量を小さくすることができる。前記の圧延工程でロール間に通す回数のみを25から35回と変更することで、正極合材密度が約3.6g/cm、合材層目付量が約18mg/cmの正極合材シート2を作製した。
【0055】
(正極合材シート3の作製)
前記圧延工程で作製した複数の正極合材シートを重ねてさらに圧延することにより正極合材層の目付量を大きくすることができる。合材密度が約3.6g/cm、合材目付量が約31mg/cmの正極シート2枚を面直方向に重ね、前記圧延工程でのロールギャップのみを60μmへと変更することで正極合材密度が約3.6g/cm、合材層目付量が約62mg/cmの正極合材シート3を作製した。
【0056】
(正極集電体への正極合材シート1の接着)
前述した方法で作製された正極合材シート1を、下地層を形成した正極集電体上に熱ロールプレスを用いて接着して表2に示す実施例1~5及び比較例1~4の各正極を作成した。
まず、熱ロールの温度を60℃に設定して、ロールの回転速度を分速0.5mに設定した。ロールギャップを60μmに調整し、膜厚1μmで集電体上に塗工された下地層の上に正極合材シートを乗せ、ロール間に1回通した。なお、各実施例及び比較例で使用しているロールの回転速度条件については、±分速0.2m程度の誤差が生じる場合があるが、製造された正極合材シートの性質への影響はない。また、各実施例及び比較例で使用しているロールギャップの条件についても、±10μm程度の誤差があっても特に問題はない。前記接着工程における総圧は3kNであった。このようにして作製された正極を真空乾燥機にて80℃で6時間乾燥した。真空乾燥後の正極を15.5φで打ち抜き重量と膜厚を測定した。得られた重量と膜厚を用いて算出した正極合材密度、および正極合材層の目付量はそれぞれ約3.6g/cm、目付量が約30.0mg/cmであった。
【0057】
(正極集電体への正極合材シート2、3の接着)
正極合材シート2及び3の接着工程は前述した正極合材シート1の工程で、ロールギャップのみを変更することでなされた。ロールギャップは用いられる正極合材シートの目付量に応じて下記の計算によって得られた値となるよう調整した。
(ロールギャップ)=(用いられる正極合材シートの目付量)÷30×60μm
【0058】
<二次電池セルの作製>
実施例1~5および比較例1~4で作製した各負極と正極にそれぞれニッケル線とアルミ線を溶接した後、ポリエチレン製多孔質セパレータを介して負極1枚と正極1枚とを対向させる形で積層させることで、電極積層体を作製した。次いで、アルミラミネートフィルム内に上記の電極積層体を、リード線を外部に引き出した状態で収納し、電解液を注液して減圧封止することで初期充電前二次電池セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネートを20/40/40(体積比)で混合した溶媒に1.15MのLiPFと1.0質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用した。なお、各実施例比較例において正極と負極との目付量のバランスが最適なものとなるように、負極合材シート2と正極合材シート2とを、それぞれを用いて二次電池セルを作製した。なお、後述する実施例2-5においては負極合剤シート2と正極合シート2とを、実施例2-6においては負極合剤シート3と正極合材シート3とをそれぞれ用いて二次電池セルを作成した。
【0059】
<二次電池セルの性能評価試験>
(二次電池のエージング)
実施例1~5および比較例1~4で作製した各負極を用いて前記の方法で作製した二次電池セルは充放電を開始する前に、恒温槽の中で45℃で12時間保存し、次いで25℃で24時間保存した。
【0060】
<二次電池の充放電試験>
実施例1~5および比較例1~4で作製した各負極を用いて前記の方法でエージングした二次電池セルを、充放電装置に接続し、25℃の恒温槽内で充放電試験を行った。初回の充放電は、充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.8Vで、0.1CAで定電流充電後0.05CAになるまで定電圧充電し、0.1CA定電流放電する充放電プログラムを用いて行った。2回目および3回目の充放電は、充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.8Vで、0.2CAで定電流充電後0.05CAになるまで定電圧充電し、0.2CA定電流放電する充放電プログラムを用いてそれぞれ行った。
【0061】
<レート特性評価方法>
前述した充放電試験における二次電池を充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.8Vで、0.33CAで定電流充電後0.05CAになるまで定電圧充電し、0.33CA定電流放を行った際の満放電容量をSOC100%と定めた。充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.8Vで、0.33CAで定電流充電後0.05CAになるまで定電圧充電し、2CA定電流放電した際のSOC10%での放電電圧を測定し、レート特性を評価した。SOC10%での放電電圧が3.8V以上であれば◎、3.5V以上3.8V未満であれば〇、3.5V未満であれば×と評価した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
<評価結果の考察>
表2の結果から、本発明に係る下地層を備えた実施例1~5によれば、負極合材層の目付量が17mg/cmと十分に大きく、下地層の厚みが1μmと十分に小さい場合であっても、下地層用バインダーとしてアクリルゴムを使用した比較例1、2と比較して電解液浸漬後の密着性が著しく向上した負極を提供することができることが分かった。このような結果となった理由としては、下地層がバインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体を含有することにより、従来のアクリルゴムを含有する場合に比べて電解液の下地層への浸透を抑えて下地層の膨潤率を小さくすることができたためではないかと考えられる。
また実施例1~5によれば、バインダーとしてPVDFを用いた比較例4と比べても電解液浸漬後の密着性を大幅に向上できることが分かった。
このような作用メカニズムから実施例1~5の下地層を正極に使用した場合であっても、同様の効果が得られることが十分に推察できる。
また、表2には記載していないが、実施例1~5の負極では電解液浸漬前の密着力についても3gf/mm以上と十分に実用化可能な値が得られた。
【0064】
実施例1~5及び比較例3の結果から、下地層に含まれるバインダーの乾固物質量部が50質量%以上である場合に、電解液浸漬後の密着性を十分に大きくすることができることが分かる。電解液浸漬後の負極合材層の剥離・脱落は二次電池の電気容量の低下、レート性能の低下、寿命特性の低下を引き起こす可能性がある。この点、本発明の実施例1~5で使用した下地層は前述した通り、電解液浸漬後の密着性が十分に大きいため、二次電池の電気容量の向上、レート性能の向上、寿命特性の向上の観点で有利である。
また、実施例1~5の結果から、下地層の乾固物質量においてバインダーの含有量を90質量部以下である場合に優れたレート特性を実現できることが分かる。これは下地層に含まれるバインダーの量を90質量%以下とすることによって下地層中に含有される炭素材料の量が少なくなり過ぎることを避けて、下地層の電気抵抗を十分に小さく抑えることができるからであると推察される。ハイレート放電時の放電電圧が高い場合、ハイレート放電における二次電池が有するエネルギー密度は向上する。この点、本発明の実施例1~5で使用した下地層は前述した通り、レート特性が十分に優れているため、ハイレート放電におけるエネルギー密度の向上の観点で有利である。
【0065】
また、実施例2と同じ組成の下地層を膜厚0.5μm以上5μm以下で塗工し、実施例1と同様の手順で評価した結果を表3に示す。表3の結果によると、膜厚が0.5μm以上5μm以下と非常に小さいながら十分に大きな電解液浸漬後の密着性が得られることがわかった。また、厚みを5μmとした場合であっても電池のレート特性には影響がないことが確認できた。
【0066】
【表3】
【0067】
表4に、実施例2と同じ組成の下地層を用いて、負極合材層の目付量を変えて評価した結果を示す。表4を見ると、合材層の目付量が10mg/cm以上35mg/cm以下と大きな場合でも十分な電解液浸漬後の密着性が得られることがわかった。
【0068】
【表4】
【0069】
なお、実施例1~5においては、分散剤の中和度が50%以下となっていることによって、分散剤が炭素材料に十分吸着し、炭素材料の粒子間で十分に大きな斥力が生じたため炭素材料を下地層スラリー中に十分に分散させることができていると考えられる。以下の表5によると、分散剤の中和度を10、25、50%に変更しても十分な電解液浸漬後の密着性が得られることがわかった。
【0070】
【表5】
【0071】
下地層用バインダーとして用いられるスチレン-ブタジエン共重合体としては、市販品として入手できる様々な種類のものを使用することができるが、これらスチレン-ブタジエン共重合体の水分散体のpHには好適な範囲が存在することがわかった。下地層用バインダーとして用いたスチレン-ブタジエン共重合体の水分散体の種類をSBR2~4の何れかに変更したこと以外は実施例2と同様の方法で下地層用スラリーを作成し、分散性を評価した結果を表6に示す。分散性は、BYK社製グラインドメーター(0-50μm)を用い評価した。分散液中の凝集物の有無を目視で確認し、凝集物が見られない場合を分散性〇とし、凝集物が見られる場合を分散性×とした。
表6によると、スチレン-ブタジエン共重合体の水分散体のpHが8以下である場合、優れた分散性を有する下地層用スラリーが提供できることが分かった。分散性に優れた下地層用スラリーを用いれば、前記スラリーに含まれる凝集物がより小さい、又はより少ないため、膜厚の小さな下地層を塗工するうえで有利である。下地層の膜厚を小さくすることは、二次電池のエネルギー密度向上の観点で有利である。
【0072】
【表6】
【0073】
下地層用バインダーとして用いられるスチレン-ブタジエン共重合体の電解液膨潤度についても、好適な範囲が存在することがわかった。下地層用バインダーとして用いたスチレン-ブタジエン共重合体の水分散体を膨潤度の高いものに変更したこと以外は実施例2と同様の方法で下地層用スラリーを作成し、性能を評価した。評価結果を表7に示す。表7によると、スチレン-ブタジエン共重合体の水分散体の膨潤度が136質量%と小さい場合に電解液浸漬後の密着性良好となった。一方、膨潤度が278質量%と大きい場合においては、電解液浸漬後の密着性が許容範囲内ではあるものの少し低下する結果となった。この結果から、膨潤度の小さな下地層用バインダーを使用することで、下地層への浸透を抑えて下地層の膨潤率を小さく抑えて、密着性をより高く維持することができると考えられる。なお、表中の膨潤度については以下のようにして調べた。
【0074】
<下地層用バインダーの膨潤度評価方法>
下地層用バインダーの水分散体を、フッ素樹脂(PFA)製シャーレに注ぎ、乾燥させ下地層用バインダーのフィルムを作製した。乾燥条件は、室温で2日間乾燥させた後、80℃の乾燥炉で6時間乾燥させ、次いで80℃の真空乾燥炉で6時間乾燥させるものであった。作製した前記フィルムの膜厚は約1mmであった。
前記フィルムを5mm四方に切り、電解液と共にアルミラミネート内に投入し、ラミネータで封をし、60℃の恒温槽の中で3日保存した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネートを20/20/40(体積比)で混合した溶媒に1.15MのLiPFを溶解させたものを使用した。投入した電解液の量は、前記恒温槽内で前記フィルムを保存する際、フィルム全体が前記電解液に十分に浸漬する程度の量であった。3日経った後、前記アルミラミネートを恒温槽から出し、前記フィルムをアルミラミネートから取り出し、電解液を十分に手早くふき取り、重量を測定した。
下記の計算によって、下地層用バインダーの膨潤度を算出した。
膨潤度(質量%)=電解液浸漬後のフィルムの重量÷電解液浸漬前のフィルムの重量×100
【0075】
【表7】