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  • 特開-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137120
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240927BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B27/18 J
G01S7/03 246
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048512
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 友菜
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 有加利
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 幸蔵
【テーマコード(参考)】
4F100
5J070
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB10
4F100AK01A
4F100AK07
4F100AK25
4F100AK45
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA23
4F100CA23B
4F100EH46
4F100GB32
4F100JD08
4F100JD08A
4F100JD08B
4F100JG05B
4F100JN28
4F100JN28B
4F100YY00B
5J070AB24
5J070AF03
5J070AK11
(57)【要約】
【課題】電磁波透過性を確保しつつ外観を向上させることができる積層体を提供する。
【解決手段】車両用部品13は、ミリ波を送信及び受信するミリ波レーダ装置12が搭載された車両11に適用され、ミリ波レーダ装置12におけるミリ波の送信方向の前方に配置されてミリ波を透過させる。車両用部品13は、合成樹脂製の基材層14と、金属製のフィラーを塗膜に分散させた発色層16とを備える。発色層16は、ミリ波透過性を有するとともに比誘電率が4.0以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を透過させる積層体であって、
合成樹脂製の基材層と、金属製のフィラーを含有する発色層とを備え、
前記発色層は、電磁波透過性を有するとともに比誘電率が4.0以上であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記発色層の厚さは、3μm以上75μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記発色層に含まれる前記フィラーの量は、2.0%以上であり、
前記発色層の比誘電率は、8.0以上であることを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を透過させる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層体として、例えば特許文献1に示す車両用部品が知られている。こうした車両用部品は、基材と塗膜とを有している。そして、車両用部品の電磁波透過性の確保の観点から、基材及び塗膜の比誘電率は、同等であって且つ3.0以下であることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4158646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような車両用部品において、塗膜に金属製のフィラーを含有させるとともに塗膜の比誘電率を3.0以下にすることによって電磁波透過性を確保すると、塗膜におけるフィラーの含有量が不足する。このため、十分な金属光沢を有した塗膜が形成されなくなるので、外観が悪くなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための積層体の各態様を記載する。
[態様1]電磁波を透過させる積層体であって、合成樹脂製の基材層と、金属製のフィラーを含有する発色層とを備え、前記発色層は、電磁波透過性を有するとともに比誘電率が4.0以上であることを特徴とする積層体。
【0006】
本願発明者は、発色層に含まれるフィラーの量[(発色層に含まれるフィラーの重量/乾燥後の発色層の全重量)×100%]と発色層の比誘電率との間に正の線形関係があることを見出した。このことから、上記構成によれば、電磁波透過性を有する発色層の比誘電率を4.0以上とすることで、発色層のフィラーの含有量が増加するので、外観を向上させることができる。したがって、電磁波透過性を確保しつつ外観を向上させることができる。
【0007】
[態様2]前記発色層の厚さは、3μm以上75μm以下の範囲であることを特徴とする[態様1]に記載の積層体。
上記構成によれば、発色層の厚さを75μm以下とすることで、比誘電率が4.0以上の発色層を使用しても十分に電磁波透過性を確保できる。一方、発色層の厚さを3μm以上とすることで、塗膜の発色が確保されるので、良好な外観を維持できる。したがって、電磁波透過性を十分に確保しつつ良好な外観を維持できる。
【0008】
[態様3]前記発色層に含まれる前記フィラーの量は、2.0%以上であり、前記発色層の比誘電率は、8.0以上であることを特徴とする[態様2]に記載の積層体。
上記構成によれば、発色層に含まれるフィラーの量を2.0%以上にするとともに発色層の比誘電率を8.0以上とすることで、発色層に含まれるフィラーの量をより一層増加させることができる。このため、より一層の外観の向上に寄与できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電磁波透過性を確保しつつ外観を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の車両用部品を示す断面模式図である。
図2】車両用部品における発色層の模式図である。
図3】発色層A~Eにおけるアルミニウム量と比誘電率との関係を示すグラフである。
図4】発色層Aを有した車両用部品及び発色層Eを有した車両用部品のそれぞれにおける基材層の厚さと透過するミリ波の減衰量との関係を算出した結果を示すグラフである。
図5】発色層Aを有した車両用部品及び発色層Eを有した車両用部品のそれぞれにおいて、基材層の厚さを最適化した場合のミリ波の減衰量と基材層の厚さを最適化しない場合のミリ波の減衰量とを比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、積層体を車両用部品に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。また、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。
図1に示すように、車両11の前端部には、電磁波を送信及び受信するレーダ装置の一例として前方監視用のミリ波レーダ装置12が搭載されている。ミリ波レーダ装置12は、電磁波におけるミリ波を車外のうち前方へ向けて送信するとともに、車外の物体に当たって反射されたミリ波を受信する機能を有している。ミリ波とは、波長が1mm~10mmであって周波数が30GHz~300GHzである電波をいう。
【0012】
上述したように、ミリ波レーダ装置12が車両11の前方に向けてミリ波を送信することから、ミリ波レーダ装置12によるミリ波の送信方向は、車両11の後方から前方へ向かう方向である。ミリ波の送信方向における前方は車両11の前方と概ね合致するとともに、ミリ波の送信方向における後方は車両11の後方と概ね合致する。このため、以下の記載では、ミリ波の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等と言うとともに、ミリ波の送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0013】
<車両用部品13>
図1に示すように、ミリ波レーダ装置12の前方には、ミリ波(電磁波)を透過させる積層体の一例としての略板状の車両用部品13が配置されている。車両用部品13は、例えば、車両11のエンブレム、フロントグリル、フロントバンパーなどによって構成される。車両用部品13は、前面が車両11の前方を向くとともに後面が車両11の後方を向くように、起立した状態で配置される。車両用部品13の前面は、車両用部品13の意匠面を構成している。
【0014】
車両用部品13は、合成樹脂製の基材層14と、基材層14の前面に設けられたプライマー層15と、プライマー層15の前面に設けられた発色層16と、発色層16の前面に設けられたクリアコート層17とを備えている。プライマー層15は、下塗り用の塗膜によって構成される。クリアコート層17は、無色透明の上塗り用の塗膜によって構成される。
【0015】
<基材層14>
図1に示すように、基材層14は、ミリ波透過性(電磁波透過性)を持つ合成樹脂材料を用いて例えば射出成形を行うことによって板状に形成されている。基材層14の形成に用いられる合成樹脂材料は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。
【0016】
基材層14の形成に用いられる合成樹脂材料は、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合(ABS)樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン(AES)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)樹脂、ASA樹脂を含むPMMA樹脂などである。
【0017】
<発色層16>
図2に示すように、発色層16は、金属製(本例ではアルミニウム製)の複数のフィラー18を中塗り用の塗膜19に分散させることによって構成される。すなわち、発色層16は、金属製の複数のフィラー18を含有している。フィラー18同士の間には、隙間が形成されている。このため、発色層16は、ミリ波透過性(電磁波透過性)を有している。発色層16は、比誘電率が4.0以上となるように設定される。
【0018】
発色層16の厚さは、3μm以上75μm以下の範囲に設定することが好ましい。発色層16の厚さは、5μm以上75μm以下の範囲に設定することがより好ましい。発色層16の厚さが3μm未満である場合には、発色層16を構成する塗膜19の発色が不足するおそれがある。一方、発色層16の厚さが75μmを超える場合には、発色層16のミリ波透過性が低下するおそれがある。
【0019】
図3に示すように、本願発明者は、発色層16に含まれるフィラー18の量であるアルミニウム量と、発色層16の比誘電率との間に正の線形関係があることを見出した。発色層16に含まれるアルミニウム量(フィラー18の量)は、[(発色層16に含まれるアルミニウム(フィラー18)の重量/乾燥後の発色層16の全重量)×100%]で表される。
【0020】
図3は、互いに色が異なる塗膜19を有した5種類の発色層A~E(発色層16)のそれぞれについて、アルミニウム量と比誘電率との関係を示したグラフである。図3のグラフから、発色層16に含まれるアルミニウム量と、発色層16の比誘電率との間に正の線形関係があることが分かる。
【0021】
図3のグラフから、発色層A~Eは、含まれるアルミニウム量(フィラー18の量)が2.0%以上であって且つ比誘電率が8.0以上の範囲内に全て含まれていることが分かる。このため、車両用部品13において、発色層16に含まれるアルミニウム量は2.0%以上であって、且つ発色層16の比誘電率は8.0以上であることがより好ましい。
【0022】
<基材層14の厚さの設定>
車両用部品13における基材層14の厚さは、1.0mm以上2.5mm以下の範囲に設定することが好ましい。車両用部品13における基材層14の厚さは、2.0mm以上2.5mm以下の範囲に設定することがより好ましい。しかし、車両用部品13は、そのミリ波透過性向上の観点から、用いる発色層A~E(図3参照)に応じて基材層14の厚さを最適化することが最も好ましい。
【0023】
図4は、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のそれぞれにおける基材層14の厚さと透過するミリ波の減衰量との関係を算出した結果を示すグラフである。図4のグラフから、発色層Aを有した車両用部品13におけるミリ波の減衰量が最小となる最適な基材層14の厚さは、2.35mmであることが分かる。図4のグラフから、発色層Eを有した車両用部品13におけるミリ波の減衰量が最小となる最適な基材層14の厚さは、2.10mmであることが分かる。
【0024】
図5は、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のそれぞれにおいて、基材層14の厚さを最適化した場合のミリ波の減衰量と、基材層14の厚さを最適化しない場合のミリ波の減衰量とを比較した結果を示すグラフである。図5では、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のそれぞれにおいて最適化しない場合の基材層14の厚さを、共に2.5mmとした。
【0025】
また、図5では、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のそれぞれにおいて最適化した場合の基材層14の厚さを、図4のグラフからそれぞれ2.35mm及び2.10mmとした。図5のグラフから、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のいずれにおいても、基材層14の厚さを最適化しない場合に、ミリ波の減衰量が要求値である-0.85dB未満となって当該要求値を満たさないことが分かる。
【0026】
また、図5のグラフから、発色層Aを有した車両用部品13及び発色層Eを有した車両用部品13のいずれにおいても、基材層14の厚さを最適化した場合に、ミリ波の減衰量が要求値である-0.85dB以上となって当該要求値を満たすことが分かる。したがって、車両用部品13は、選択した発色層16の塗膜19の色に応じて基材層14の厚さを最適化することで、ミリ波の減衰量が最小限に抑えられる。
【0027】
<車両用部品13の作用>
図1に示すミリ波レーダ装置12からミリ波が送信されると、当該ミリ波は車両用部品13の各層を透過する。この透過したミリ波は、先行車両及び歩行者等を含む車両11の前方の物体に当たって反射された後、再び車両用部品13の各層を透過してミリ波レーダ装置12によって受信される。
【0028】
この場合、車両用部品13における発色層16は、ミリ波透過性を有している。加えて、車両用部品13は、発色層16の比誘電率が4.0以上であるため、発色層16のフィラー18の含有量がより増加する。このため、車両用部品13としての外観が向上する。したがって、車両用部品13におけるミリ波透過性の確保と外観の向上とを両立させることができる。
【0029】
なお、ミリ波レーダ装置12では、送信及び受信された上記ミリ波に基づいて、物体の認識や、当該物体と車両11との距離及び相対速度等の検出が行われる。
<実施形態の効果>
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0030】
(1)車両用部品13は、合成樹脂製の基材層14と、アルミニウム製のフィラー18を塗膜19に分散させた発色層16とを備える。発色層16は、ミリ波透過性を有するとともに比誘電率が4.0以上である。
【0031】
本願発明者は、発色層16に含まれるフィラー18の量[(発色層16に含まれるフィラー18の重量/乾燥後の発色層16の全重量)×100%]と発色層16の比誘電率との間に正の線形関係があることを見出した。このことから、上記構成によれば、ミリ波透過性を有する発色層16の比誘電率を4.0以上とすることで、発色層16のフィラー18の含有量が増加するので、車両用部品13の外観を向上させることができる。したがって、車両用部品13のミリ波透過性を確保しつつ車両用部品13の外観を向上させることができる。すなわち、車両用部品13におけるミリ波透過性の確保と外観の向上とを両立させることができる。
【0032】
(2)車両用部品13において、発色層16の厚さは、3μm以上75μm以下の範囲である。
上記構成によれば、発色層16の厚さを75μm以下とすることで、比誘電率が4.0以上の発色層16を車両用部品13に使用しても十分に車両用部品13のミリ波透過性を確保できる。一方、発色層16の厚さを3μm以上とすることで、塗膜19の発色が確保されるので、良好な外観を維持できる。したがって、車両用部品13のミリ波透過性を十分に確保しつつ車両用部品13の良好な外観を維持できる。
【0033】
(3)車両用部品13において、発色層16に含まれるフィラー18の量は2.0%以上であるとともに、発色層16の比誘電率は8.0以上である。
上記構成によれば、発色層16に含まれるフィラー18の量を2.0%以上にするとともに発色層16の比誘電率を8.0以上とすることで、発色層16に含まれるフィラー18の量をより一層増加させることができる。このため、車両用部品13のより一層の外観の向上に寄与できる。
【0034】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0035】
・発色層16は、複数のフィラー18及び塗料を混ぜた透明樹脂をフィルム状にしたものによって構成してもよい。このようにすれば、車両用部品13において、発色層16を基材層14に直接貼り付けることができるので、プライマー層15及びクリアコート層17を省略できる。
【0036】
・発色層16には、適宜染料などの着色剤を含有させるようにしてもよい。
・車両用部品13において、発色層16に含まれるフィラー18の量は必ずしも2.0%以上である必要はなく、且つ発色層16の比誘電率は必ずしも8.0以上である必要はない。
【0037】
・車両用部品13において、発色層16の厚さは、必ずしも3μm以上75μm以下の範囲である必要はない。
・車外の物体を検出するためのミリ波(電磁波)を送信及び受信するミリ波レーダ装置12は、前方監視用以外にも、後方監視用の装置であってもよい。
【0038】
・レーダ装置は、赤外線(電磁波)を送信及び受信する赤外線レーダ装置であってもよい。
・積層体は、車両用部品13に限らず、民生用部品であってもよい。すなわち、積層体は、車両11以外の電磁波を送信及び受信するレーダ装置が搭載された民生用の製品に適用してもよい。このような民生用の製品としては、例えば、自動掃除ロボット、運搬用または配膳用のロボット、ドローン等が挙げられる。
【0039】
・積層体が車両用部品13と同じ層構造の民生用部品である場合には、基材層14の厚さを1.0mm以上2.5mm以下の範囲に設定するとともに発色層16の厚さを3μm以上75μm以下の範囲に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
11…車両
12…レーダ装置の一例としてのミリ波レーダ装置
13…積層体の一例としての車両用部品
14…基材層
15…プライマー層
16,A~E…発色層
17…クリアコート層
18…フィラー
19…塗膜
図1
図2
図3
図4
図5