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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137144
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】組成物および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 267/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C07C267/00 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048544
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 友哉
(72)【発明者】
【氏名】倉田 直輝
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC59
4H006AD11
4H006BC51
4H006BC52
(57)【要約】
【課題】一時的に高温環境下(例えば、90℃で3時間など)におかれた場合でも、重合性二重結合含有カルボジイミドの重合を抑制可能な組成物、および方法を提供する。
【解決手段】重合性二重結合含有カルボジイミド(A)と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含む組成物(X):
式(1)中、R1およびR2は、水素原子、または置換基を有してもよい炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含む組成物(X):
【化1】
式(1)中、R1およびR2は、水素原子、または置換基を有してもよい炭化水素基である。
【請求項2】
前記重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が下記式(2)で表される化合物(A1)である、請求項1に記載の組成物(X):
【化2】
【請求項3】
前記R3はメチル基であり、R4は、分岐を有し、かつ、環を有さないアルキル基であり、mは2である、請求項2に記載の組成物(X)。
【請求項4】
前記組成物(X)100質量%に対して、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量が3.0質量%以下である、請求項3に記載の組成物(X)。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物(X)を減圧下で蒸留する、前記重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製方法。
【請求項6】
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含む組成物(X)を準備する工程(I)と、
前記組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)と
を含む、重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の製造方法。
【化3】
式(1)中、R1およびR2は、水素原子、または、置換基を有してもよい炭化水素基である。
【請求項7】
前記工程(I)は、重合性二重結合含有イソシアネートとH2N-Rで表わされるアミン(ただし、Rは置換基を有してもよい炭化水素基である。)との反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ia)を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程(Ia)は、
前記重合性二重結合含有イソシアネートと前記アミンとを反応させて、前記粗生成物を準備する工程(Ia-1)と、
前記粗生成物に、前記化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ia-2)と
を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(I)は、重合性二重結合含有アミンとR-NCOで表わされるイソシアネート(ただし、Rは置換基を有してもよい炭化水素基である。)との反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ib)を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程(Ib)は、
前記重合性二重結合含有アミンと前記イソシアネートとを反応させて、前記粗生成物を準備する工程(Ib-1)と、
前記粗生成物に、前記化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ib-2)と
を含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンは、機械的強度、剛性、耐熱性、耐油性、透明性、低温での耐衝撃性等に優れており、これらの特性を利用して、フィルム、シート、ボトル等の包装材料・被覆材料、又は壁紙等の装飾材料として広く用いられている。しかし、ポリオレフィンは分子中に極性基を含まないため、極性樹脂との相溶性や、金属、ガラス、紙、または、前記極性樹脂などとの接着性が乏しく、これらの材料とブレンドして利用すること、および、これらの材料に積層して利用することが制限されていた。
【0003】
このような問題を解決するために、ポリオレフィンに極性基含有モノマーをグラフトして、前記相溶性や接着性を向上させる方法が広く用いられている。前記極性基含有モノマーとして、重合性二重結合とカルボジイミド基を含有する化合物が知られている。
【0004】
重合性二重結合とカルボジイミド基とを含有する化合物(以下、「重合性二重結合含有カルボジイミド」と記載することがある。)の製造方法については、いくつかの方法が知られている。例えば、特許文献1には、重合性二重結合を含むイソシアネート化合物と、イソシアネート基を分子内に有する化合物を特定の触媒の共存下で脱炭酸反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミドを製造する方法が記載されている。特許文献2には、重合性二重結合を含むイソシアネート化合物とアミンとを反応させて尿素誘導体を合成し、得られた尿素誘導体を脱水することにより、重合性二重結合含有カルボジイミドを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-048127号公報
【特許文献2】米国特許第5371148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
重合性二重結合含有カルボジイミドは、加熱すると容易に重合性二重結合の重合が起こるが、特許文献1、2のいずれの方法であっても、精製の過程などでこのような重合を抑制することは困難であった。このため、例えば、製造した重合性二重結合含有カルボジイミドを精製するための蒸留の際に、重合性二重結合の重合が起こることで蒸留の後に残る釜残が固化してしまい、釜残の除去が難しいという問題があった。また、重合性二重結合の重合が起こると、このような重合が起こらなければ精製できたはずの重合性二重結合含有カルボジイミドが得られなくなるので、重合性二重結合含有カルボジイミドの収率も低下してしまう。
【0007】
本発明は、一時的に高温環境下(例えば、90℃で3時間など)におかれた場合でも、重合性二重結合含有カルボジイミドの重合を抑制可能な組成物、および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。本発明の構成例は、以下の[1]~[10]に示す通りである。
なお、本明細書では、数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0009】
[1] 重合性二重結合含有カルボジイミド(A)と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含む組成物(X):
【化1】
式(1)中、R1およびR2は、水素原子、または置換基を有してもよい炭化水素基である。
【0010】
[2] 前記重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が下記式(2)で表される化合物(A1)である、[1]に記載の組成物(X):
【化2】
【0011】
[3] 前記R3はメチル基であり、R4は、分岐を有し、かつ、環を有さないアルキル基であり、mは2である、[2]に記載の組成物(X)。
【0012】
[4] 前記組成物(X)100質量%に対して、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量が3.0質量%以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物(X)。
【0013】
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の組成物(X)を減圧下で蒸留する、前記重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製方法。
【0014】
[6] 重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物と、下記式(1)で表される化合物(B)とを含む組成物(X)を準備する工程(I)と、
前記組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)と
を含む、重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の製造方法。
【化3】
式(1)中、R1およびR2は、水素原子、または、置換基を有してもよい炭化水素基である。
【0015】
[7] 前記工程(I)は、重合性二重結合含有イソシアネートとH2N-Rで表わされるアミン(ただし、Rは置換基を有してもよい炭化水素基である。)との反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ia)を含む、[6]に記載の製造方法。
【0016】
[8] 前記工程(Ia)は、
前記重合性二重結合含有イソシアネートと前記アミンとを反応させて、前記粗生成物を準備する工程(Ia-1)と、
前記粗生成物に、前記化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ia-2)と
を含む、[7]に記載の製造方法。
【0017】
[9] 前記工程(I)は、重合性二重結合含有アミンとR-NCOで表わされるイソシアネート(ただし、Rは置換基を有してもよい炭化水素基である。)との反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ib)を含む、[6]に記載の製造方法。
【0018】
[10] 前記工程(Ib)は、
前記重合性二重結合含有アミンと前記イソシアネートとを反応させて、前記粗生成物を準備する工程(Ib-1)と、
前記粗生成物に、前記化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ib-2)と
を含む、[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、一時的に高温環境下(例えば、90℃で3時間など)におかれた場合でも、重合性二重結合含有カルボジイミドの重合を抑制可能な組成物、および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1で得られた組成物(X1)を加熱する前の写真である。
図2】実施例1で得られた組成物(X1)を窒素雰囲気下で90℃に保ったまま3時間保持し、さらに120℃で3時間保持した後の写真である。
図3】比較例1で得られた組成物(CX1)を窒素雰囲気下で90℃に保ったまま3時間保持した後の写真である。
図4】比較例2で得られた組成物(CX2)を窒素雰囲気下で90℃に保ったまま3時間保持した後の写真である。
図5】比較例3で得られた組成物(CX3)を窒素雰囲気下で90℃に保ったまま3時間保持した後の写真である。
図6】N-tert-ブチル-N’-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミドの粗生成物を、重合禁止剤を添加せずに窒素雰囲気下で90℃に3時間保持した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪組成物(X)≫
本発明に係る組成物(X)は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)と、特定の化合物(B)とを含む。
【0022】
<重合性二重結合含有カルボジイミド(A)>
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、カルボジイミド基(-N=C=N-)と重合性二重結合とを有する。重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、好ましくは、重合性二重結合とカルボジイミド基とをそれぞれ1つずつ有する化合物である。例えば、Rxが重合性二重結合を含む基であり、Ryが重合性二重結合を含まない基であるとすると、好ましい重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、以下の式(1)で示す構造を有する。
Rx-N=C=N-Ry (1)
【0023】
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、より好ましくは、以下の式(2)で表される化合物(A1)である。以下の記載では、式(2)で表される化合物のことを、「(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)」と記載することがある。
なお、本明細書において(メタ)アクリロイルは、アクリロイルおよびメタクリロイルの総称で用いており、アクリロイルでもメタクリロイルでもよい。同様に、(メタ)アクリロイルオキシは、アクリロイルオキシおよびメタクリロイルオキシの総称で用いており、アクリロイルオキシでもメタクリロイルオキシでもよい。
【0024】
【化4】
なお、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)は式(2)の構造を有するので、式(1)のRxがH2C=CR3-C(=O)-O-(CH2m-であり、式(1)のRyがR4である場合に相当する。
【0025】
式(2)中、R3は水素原子またはメチル基であり、R3はメチル基が好ましい。(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)の中でも、式(2)においてR3がメチル基である化合物(すなわち、メタクリロイルオキシアルキルカルボジイミド)は、極性基を有する基材に対する接着強度に優れる変性ポリオレフィンの生成に使用されやすい。
【0026】
式(2)中、R4は置換基を有してもよい炭化水素基である。該炭化水素基の具体例としては、置換基を有してもよいアルキル基またはアリール基が挙げられる。該置換基を有してもよいアルキル基は、鎖状(直鎖であってもよく、分岐を有していてもよい)であってもよいし、脂環を含んでいてもよい。
前記置換基を有してもよい炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。
前記炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のカルボン酸エステル基、炭素数1~8のスルホン酸エステル基、炭素数1~8のカルボニル基、炭素数1~8のアミド基、炭素数1~8のアミノ基、炭素数1~8のスルフィド基、炭素数1~8のリン酸エステル基、炭素数1~8のアルキルシリル基、炭素数1~8のアルコキシシリル基が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、前記R4としては、分岐を有し、かつ、環を有さないアルキル基であることが好ましく、分岐を有し、かつ、環を有さない炭素数3~7のアルキル基であることがより好ましい。前記R4が分岐を有し、かつ、環を有さないアルキル基であるという要件を満たす(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)は、ポリエステルなどの極性基を有する基材に対する接着強度に優れる変性ポリオレフィンの生成に使用されやすい。
【0028】
前記分岐を有し、かつ、環を有さないアルキル基の好適例としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、1-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、2-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、3-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、4-メチルペンチル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-メチルヘキシル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,2,3-トリメチルブチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、2-メチルヘキシル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2,3,3-トリメチルブチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,1,2-トリメチルブチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルプロピル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、3-メチルヘキシル基、3,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、1-エチル-2-メチルブチル基、1-エチル-3-メチルブチル基、1-エチル-2,2-ジメチルプロピル基、2-エチルペンチル基、2-エチル-3-メチルブチル基、1-エチル-1-メチルブチル基、1-エチル-1,2-ジメチルプロピル基、3-エチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、2,2-ジエチルプロピル基、1-プロピルブチル基、ジイソプロピルメチル基、1-イソプロピルブチル基が挙げられる。
【0029】
式(2)中、mは2以上の整数であり、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)の溶媒等への溶解性、入手しやすさ、ポリオレフィンなどのポリマーの変性に使用するモノマーとしての扱いやすさ等の点から、好ましくは2~6の整数であり、より好ましくは2~4の整数であり、特に好ましくは2である。
【0030】
(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)は、以上で説明した構造の中でも、R4が分岐を有するが環を有さないアルキル基であり、かつ、mが2の場合が特に好ましい。このような化合物において、R4は、好ましくはtert-ブチル基である。すなわち、特に好ましい(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)としては、N-tert-ブチル-N’-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミドが挙げられる。
【0031】
<重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造方法>
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を、式(1)に示すように、Rx-N=C=N-Ryと表わすとする(ただし、Rxは重合性二重結合を含む基であり、Ryは重合性二重結合を含まない基である)。この場合、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、Rxで表される基を含むイソシアネート化合物と、Ryで表される基を含むアミンとを反応させて尿素誘導体を合成し、得られた尿素誘導体を脱水することにより製造され得る。例えば、Rxで表される基を有するイソシアネートと、H2N-Ryで表わされるアミンとの反応により、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が合成され得る。
同様に、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、Rxで表される基を含むアミンと、Ryで表される基を含むイソシアネートとを反応させて尿素誘導体を合成し、得られた尿素誘導体を脱水することにより製造され得る。例えば、Rxで表される基を有するアミンと、Ry-NCOで表わされるイソシアネートとの反応により、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が合成され得る。
【0032】
Rxで表される基を含むイソシアネートとRyで表される基を含むアミンとの反応条件、および、Rxで表される基を含むアミンとRyで表される基を含むイソシアネートとの反応条件は、カルボジイミド化合物を尿素誘導体から合成する際の条件として公知のものを採用可能である。例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、米国特許第5371148号に記載の条件および該条件に準じる条件で合成され得る。例えば、Rxで表される基を含むイソシアネートと、Ryで表される基を含むアミンとの反応の際に、触媒を使用しなくてもよく、また、触媒を使用してもよい。同様に、Rxで表される基を含むアミンとRyで表される基を含むイソシアネートとの反応の際に触媒を使用しなくてもよく、また、触媒を使用してもよい。
【0033】
さらに、尿素誘導体経由の合成方法以外の他の公知の方法により、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が合成されてもよい。例えば、Rxで表される基を含むイソシアネートと、Ryで表される基を含むイソシアネートとを、有機リン系触媒の共存下で脱炭酸反応させることにより、合成してもよい。例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、特開2005-048127号公報に記載の条件および該条件に準じる条件で合成され得る。
【0034】
なお、いずれかの製造方法により得られた重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含み、さらに、溶媒などの重合性二重結合含有カルボジイミド(A)以外の夾雑物を含む粗生成物は、後述する「重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物」に相当する。
【0035】
<化合物(B)>
化合物(B)は、以下の式(3)で表される化合物である。
【0036】
【化5】
式(3)中、R1およびR2は、水素原子、または、置換基を有してもよい炭化水素基である。すなわち、化合物(B)は、フェノチアジンまたはフェノチアジン誘導体である。
【0037】
好ましくは、式(3)中において、R1は、水素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、および、炭素原子数6~9のアリール基から選択される基である。好ましくは、R2は、水素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、および、炭素原子数6~9のアリール基から選択される基である。R1、R2が炭素原子数1~9のアルキル基である場合、飽和アルキル基と不飽和アルキル基のいずれであってもよく、また、直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状のいずれであってもよい。
【0038】
更に、R1、R2が炭素原子数1~9のアルキル基または炭素原子数6~9のアリール基である場合、炭素原子数1~9のアルキル基または炭素原子数6~9のアリール基に含まれる水素原子の一部、または全部がハロゲン原子やアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アミノ基等の有機基で置換されていてもよい。
【0039】
1、R2となり得る炭素原子数1~9のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-ペンテニル基、クロロブチル基、クロロペンチル基、2-エチルヘキシル基、2-メトキシブチル基、クロロシクロブチル基、クロロシクロペンチル基等が挙げられる。
【0040】
1、R2となり得る炭素原子数6~9のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クミル基、ベンジル基、フェネシル基、シナミル基、シクロアリール基、ヘテロアリール基、モノクロロベンジル基、ジクロロベンジル基、モノメチルベンジル基等が挙げられる。
【0041】
これらのうちでも、R1、R2が共に水素原子であるか、R1、R2が共にt-ブチル基であるか、R1、R2が共にオクチル基であるか、または、R1、R2が共にクミル基であることが好ましい。これらの条件を満たす化合物(B)は、溶媒への溶解性、入手しやすさ、取り扱いのしやすさ等の点で、好ましい。
【0042】
なお、R1、R2は、同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
又、R1、R2の置換位置は、3位、及び7位である。このように置換位置を3位、および7位とすることにより、重合性二重結合含有カルボジイミドの重合を抑制する効果が大きくなりやすい。
【0044】
式(3)で示される化合物としては、具体的には、フェノチアジン、3,7-ジメチルフェノチアジン、3,7-ジエチルフェノチアジン、3,7-ジプロピルフェノチアジン、3,7-ジ-n-ブチルフェノチアジン、3,7-ジ-tert-ブチルフェノチアジン、3,7-ジペンチルフェノチアジン、3,7-ジヘキシルフェノチアジン、3,7-ジヘプチルフェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、3,7-ジノニルフェノチアジン、3,7-ジシクロブチルフェノチアジン、3,7-ジシクロペンチルフェノチアジン、3,7-ジシクロヘキシルフェノチアジン、3,7-ジシクロヘプチルフェノチアジン、3,7-ジシクロオクチルフェノチアジン、3,7-ジシクロノニルフェノチアジン、3,7-ジ-tert-ブチルフェノチアジン、3,7-ジ(2-エチルヘキシル)フェノチアジン、3,7-ジフェニルフェノチアジン、3,7-ジトリルフェノチアジン、3,7-ジキシリルフェノチアジン、3,7-ジクミルフェノチアジン、3,7-ジベンジルフェノチアジン、3,7-ジフェネシルフェノチアジン、3,7-ジシナミルフェノチアジン等が挙げられる。
【0045】
これらのうちでも、フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、3,7-ジ-tert-ブチルフェノチアジン、および3,7-ジクミルフェノチアジンが、溶媒への溶解性、入手しやすさ、取り扱いのしやすさ等の点で好ましい。
【0046】
<化合物(B)の製造方法>
化合物(B)がフェノチアジンである場合、化合物(B)は公知の製造方法により製造されたフェノチアジンであり、また、市販品であってもよい。
化合物(B)がフェノチアジン誘導体である場合、化合物(B)は、公知の製造方法により得られたフェノチアジンに、置換基を有していてもよい炭化水素基を導入する方法、あるいはイオウとアルキル化ジフェニルアミン又はアリール化ジフェニルアミンとを、触媒の存在下で反応させる方法で得ることができる。なお、化合物(B)がフェノチアジン誘導体である場合においても、該化合物(B)は市販品であってもよい。
【0047】
<組成物(X)>
組成物(X)中の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の含有量は、組成物(X)100質量%に対して、好ましくは50~99.999質量%、より好ましくは60~99.995質量%、さらに好ましくは70~99.99質量%である。組成物(X)中の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の含有量が前記範囲にあると、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製を効率的に行うことができる。
組成物(X)中の化合物(B)の含有量は、組成物(X)100質量%に対して、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.005~5質量%、さらに好ましくは0.01~1質量%である。組成物(X)中の化合物(B)の含有量が前記範囲にあると、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の重合を抑制する効果を得ることができ、かつ、組成物(X)をそのままポリオレフィンの変性に使用することができる。
【0048】
化合物(B)は、重合禁止剤として作用するため、組成物(X)に前記範囲の化合物(B)があると、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が、一時的に不活性ガス雰囲気または減圧下、あるいは、減圧された不活性ガス雰囲気下の高温環境に置かれたとしても、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の重合を抑制する。なお、本明細書において、減圧下の環境は、好ましくは0.01~1000Pa、より好ましくは0.1~500Pa、特に好ましくは1~300Pa程度の環境である。
本明細書において、高温環境は、通常30~300℃、好ましくは40~250℃、より好ましくは50~200℃である。また、組成物(X)は、通常0.1~24時間、好ましくは0.5~20時間、より好ましくは1~15時間程度、不活性ガス雰囲気または減圧下、あるいは、減圧された不活性ガス雰囲気下で前記高温環境にさらされても重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の重合が抑制できる。
【0049】
ところで、これまでに重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製の際には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチル-カテコール、4-メトキシフェノールなどの重合禁止剤を用いても、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の重合が抑制できず、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の蒸留後の釜残に固形物が発生する、という問題があった。これは、これらの重合禁止剤が重合性二重結合含有カルボジイミド(A)に含まれるカルボジイミド基と反応してしまうため、重合性二重結合の重合抑制に十分な量の重合禁止剤が系内に残らないためである、と推測される。また、これらの重合禁止剤の添加量を増やすと、精製により得られた重合性二重結合含有カルボジイミド(A)に重合禁止剤が混入した場合に、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)をグラフト変性に使用しようとしても、グラフト化に悪影響を与えるおそれがある。
一方、本発明に係る組成物(X)では、化合物(B)を含めることにより、化合物(B)が重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の重合禁止剤として作用する。これは、化合物(B)と重合性二重結合含有カルボジイミド(A)中のカルボジイミド基との反応が比較的起こりづらく、系内に、重合性二重結合の重合を阻害可能な程度の濃度で化合物(B)が存在するためである、と推測される。また、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)100質量%に対して、100000ppm以下の化合物(B)が含まれた組成物(X)を精製せずに、ポリオレフィンのグラフト変性に使用した場合であっても、グラフト変性での悪影響が発生しない。
【0050】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用する場合、組成物(X)中の化合物(B)の含有量は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の質量を基準とした質量比で、好ましくは10~100000ppm、より好ましくは50~50000ppm、特に好ましくは100~10000ppmである。
【0051】
<その他の成分>
組成物(X)は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分の具体例としては、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の粗生成物中に含まれる夾雑物、グラフト変性の溶媒として用いられるトルエン、キシレン等が挙げられる。なお、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の粗生成物中に含まれる夾雑物としては、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造の際に使用された溶媒などが挙げられる。
その他の成分を含む場合、その他の成分の配合量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができる。
【0052】
組成物(X)は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の中でも、重合性二重結合とカルボジイミド基を1つずつ有する化合物の精製に用いられることがある。また、前述のように、ポリオレフィンのグラフト変性に組成物(X)が使用される場合もある。これらの場合、組成物(X)中には、例えば、重合性二重結合を複数有する化合物、およびカルボジイミド基を複数有する化合物の含有量が少ないことが好ましい。重合性二重結合を複数有する化合物として、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドが挙げられる。
【0053】
組成物(X)が(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)の精製に使用される場合、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量は、組成物(X)100質量%に対して、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは組成物(X)がN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドを実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」とは、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの量が、好ましくは組成物(X)の10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であることを意味する。特に好ましくは、組成物(X)は、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドを含まない。組成物(X)にN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドが含まれる場合、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量の下限値は、通常、組成物(X)100質量%に対して、0.5ppmである。N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量が前記上限値以下であると、効率的に(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)が得られる。
【0054】
なお、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)以外の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)であって、重合性二重結合とカルボジイミド基を1つずつ有するものが精製対象となる場合でも、組成物(X)中のN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量の好ましい範囲は、精製対象が(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)である場合と同様であり、より好ましくは、組成物(X)は、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドを含まない。
【0055】
さらに、組成物(X)がポリオレフィンのグラフト変性に使用される場合についても、組成物(X)中のN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量の好ましい範囲は、組成物(X)が(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミド(A1)の精製に使用される場合と同様である。また、組成物(X)がポリオレフィンのグラフト変性に使用される場合についても、組成物(X)はN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドを含まないことがより好ましい。N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量が前記上限値以下であると、ポリオレフィンのグラフト変性の際に、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの共存による悪影響がない。
【0056】
組成物(X)中のN,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドの含有量が少ないことが好ましい場合、N,N'-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボジイミドが生成しづらいことから、組成物(X)中の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が尿素誘導体経由で製造されることが好ましい。ここで、尿素誘導体経由での重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造には、重合性二重結合を含む基を有するイソシアネートと重合性二重結合を含まないアミンとの反応による製造と、重合性二重結合を含む基を有するアミンと重合性二重結合を含まないイソシアネートとの反応による製造とが含まれる。また、尿素誘導体経由で重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を製造する場合、触媒を使用しなくてもよいため、触媒が組成物(X)に残存しないことが望ましい場合には、尿素誘導体経由で重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が製造されることが好ましい。
【0057】
<組成物(X)の製造方法>
[方法1:重合性二重結合含有カルボジイミド(A)合成後に化合物(B)を添加]
組成物(X)は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物に化合物(B)および、必要により前記その他の成分を添加することにより製造され得る。ここで、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物は、脱炭酸法で製造されてもよく、また、尿素誘導体経由で製造されてもよい。なお、尿素誘導体経由の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造は、重合性二重結合を含む基を有するイソシアネートと重合性二重結合を含まないアミンとの反応により行われてもよく、また、重合性二重結合を含む基を有するアミンと重合性二重結合を含まないイソシアネートとの反応により行われてもよい。
【0058】
[方法2:化合物(B)を混合した原料物質を用いた合成]
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の原料物質のいずれかに化合物(B)および、必要により前記その他の成分を添加し、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の原料物質、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を用いて重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の合成に使用することにより、組成物(X)を製造することも可能である。例えば、脱炭酸法により重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が製造される場合、重合性二重結合含有イソシアネート、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、イソシアネート化合物と反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。また、イソシアネート化合物、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、重合性二重結合含有イソシアネートと反応させて、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。
【0059】
また、重合性二重結合含有イソシアネートが出発物質として選択されて、尿素誘導体経由で重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が製造される場合、重合性二重結合含有イソシアネート、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、アミンと反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。同様に、アミン、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、重合性二重結合含有イソシアネートと反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。
さらに、重合性二重結合含有アミンが出発物質として選択されて、尿素誘導体経由で重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が製造される場合、重合性二重結合含有アミン、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、イソシアネートと反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。同様に、イソシアネート、化合物(B)および、必要により前記その他の成分の混合物を、重合性二重結合含有アミンと反応させることにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を合成することで、組成物(X)を製造できる。
【0060】
なお、前記のいずれの方法により組成物(X)が製造される場合であっても、組成物(X)を製造する工程は、後述する組成物(X)を準備する工程(I)に相当する。
【0061】
<組成物(X)の用途>
組成物(X)は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製、ポリオレフィンのグラフト変性等に使用され得る。
【0062】
≪重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製方法≫
組成物(X)を蒸留することにより、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が精製される。ここで、蒸留の際の条件は、蒸留温度は通常30~300℃、好ましくは40~250℃、より好ましくは50~200℃であり、蒸留時の圧力は通常0.01~1000Pa、好ましくは0.1~500Pa、より好ましくは1~300Paであり、蒸留時間は通常0.1~24時間、好ましくは0.5~20時間、より好ましくは1~15時間程度である。
【0063】
≪重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の製造方法≫
重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の製造方法は、組成物(X)を準備する工程(I)と、組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)とを含む。
【0064】
<重合性二重結合含有カルボジイミド精製物>
重合性二重結合含有カルボジイミド精製物とは、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物よりも、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の含有量が高いものである。例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド精製物中の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の含有量は、重合性二重結合含有カルボジイミド精製物100質量%に対して、好ましくは95~100質量%、より好ましくは98~100質量%である。
【0065】
<重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の製造方法>
重合性二重結合含有カルボジイミド精製物は、組成物(X)を準備する工程(I)の後に、前記組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)を行うことにより、製造される。
【0066】
<重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物>
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含み、溶媒などの重合性二重結合含有カルボジイミド(A)以外の夾雑物を含む。例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物中の重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の含有量は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物100質量%に対して、好ましくは50質量%以上95質量%未満、より好ましくは60質量%以上95質量%未満、特に好ましくは70質量%以上95質量%未満である。
【0067】
<重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物の製造方法>
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造により得られる。ここで、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造は、重合性二重結合含有イソシアネートとアミンとの反応により得られた尿素誘導体を脱水することにより製造されてもよく、また、重合性二重結合含有アミンとイソシアネートとの反応により得られた尿素誘導体を脱水することにより製造されてもよい。さらに、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)は、重合性二重結合含有イソシアネートと重合性二重結合を含まないイソシアネートとの間の脱炭酸を伴う縮合反応により製造されてもよい。
【0068】
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造過程で化合物(B)が重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の原料物質に配合される場合には、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物は組成物(X)でもある。
【0069】
一方、化合物(B)を含まない原料物質を用いて重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が合成される場合、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の合成により、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物であって、化合物(B)が含まれないものが製造される。
【0070】
<組成物(X)を準備する工程(I)>
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が尿素誘導体経由で製造される場合、組成物(X)を準備する工程(I)は、重合性二重結合含有イソシアネートと、H2N-Rとの反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ia)か、重合性二重結合含有アミンとR-NCOで表わされるイソシアネートとの反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ib)を含む(ただし、工程(Ia)と(Ib)のいずれにおいても、Rは重合性二重結合を含まないが置換基を有してもよい炭化水素基である。)。
【0071】
また、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)が脱炭酸法経由で製造される場合、組成物(X)を準備する工程(I)は、重合性二重結合含有イソシアネートと重合性二重結合を含まないイソシアネートとの間の脱炭酸を伴う縮合反応を用いて、前記粗生成物を準備する工程(Ic)を含む。
【0072】
組成物(X)を準備する工程(I)に、前記工程(Ia)~(Ic)のいずれが含まれる場合においても、組成物(X)を準備する方法としては、
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の合成後に化合物(B)を添加する方法(方法1)と、
化合物(B)を混合した原料物質を用いて重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の合成を行う方法(方法2)
の両方が使用され得る。
【0073】
重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造過程で化合物(B)が重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の原料物質に配合される場合(すなわち、前記方法2が用いられる場合)、組成物(X)は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物として準備される。このため、組成物(X)を準備する工程(I)は、化合物(B)を含む原料物質を用いて、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を製造する工程となる。
【0074】
一方、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の製造過程で化合物(B)が重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の原料物質に配合されない場合(すなわち、前記方法1が用いられる場合)、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物には、化合物(B)が含まれない。このため、組成物(X)を準備する工程(I)には、前記粗生成物に、前記化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程が含まれる。
【0075】
例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物であって、化合物(B)を含まないものが、重合性二重結合含有イソシアネートを出発物質として選択した尿素誘導体経由(すなわち前記工程(Ia))で製造される場合、組成物(X)を準備する工程(I)には、
・重合性二重結合含有イソシアネートとアミンとを反応させて、粗生成物を準備する工程(Ia-1)、および、
・粗生成物に化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ia-2)
が含まれる。
【0076】
例えば、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物であって、化合物(B)を含まないものが、重合性二重結合含有アミンを出発物質として選択した尿素誘導体経由(すなわち前記工程(Ib))で製造される場合、組成物(X)を準備する工程(I)には、
・重合性二重結合含有アミンと前記イソシアネートとを反応させて、粗生成物を準備する工程(Ib-1)、および、
・粗生成物に化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ib-2)
が含まれる。
【0077】
また、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)を含む粗生成物であって、化合物(B)を含まないものが、脱炭酸法で製造される場合、組成物(X)を準備する工程(I)には、
・重合性二重結合含有イソシアネートとイソシアネートとを反応させて、前記粗生成物を準備する工程(Ic-1)、および、
・前記粗生成物に、化合物(B)を添加して前記組成物(X)を得る工程(Ic-2)
が含まれる。
【0078】
<組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)>
組成物(X)を減圧下で蒸留する工程(II)で行われる蒸留の条件は、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の精製方法として説明した蒸留の条件と同様である。
【0079】
<重合性二重結合含有カルボジイミド精製物の用途>
重合性二重結合含有カルボジイミド精製物は、ポリオレフィンのグラフト変性、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)の単独重合、重合性二重結合含有カルボジイミド(A)と他の重合性二重結合含有モノマーとの共重合等に使用され得る。
【実施例0080】
<原材料>
・「重合性二重結合含有カルボジイミド(A-1)」:下記合成例1で得られたN-tert-ブチル-N’-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミド
・「化合物(B1)」:フェノチアジン(富士フイルム和光純薬(株)製)
【0081】
<合成例1:N-tert-ブチル-N’-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミドの合成(粗生成物の製造)>
2Lのガラス容器に、tert-ブチルアミン62.7gと、ピリジン680gとを装入し、容器内を窒素置換した。3枚傾斜翼を用い、撹拌速度150rpmで撹拌しながら、氷浴で内温4℃まで冷却し、2-イソシアナトエチルメタクリレート133.8gを25分かけて滴下した。滴下中の内温は4~17℃であった。滴下後に氷浴を外し、1時間撹拌した後、p-トルエンスルホニルクロリド180gを40分かけて装入した。この時の内温は26~31℃であった。21時間撹拌した後、水780gを30分かけて装入した。
その後、分液ロートを用い、酢酸エチル546gとヘキサン234gの混合液を加え、分液し、水層から有機層を抽出する操作を5回繰り返した。得られた有機層に水624gを加え、分液し、水層を廃棄する操作を5回繰り返した。得られた有機層に硫酸ナトリウム47gを装入し、16時間静置した。硫酸ナトリウムをろ過で除去し、エバポレーターで溶媒を留去した後、油回転真空ポンプを用いて100Paまで減圧にし、50℃で1.5時間保持してさらに溶媒を留去することにより、粗生成物179gを得た。なお、粗生成物からは、N,N’-ジ[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミドは検出されなかった。
【0082】
<実施例1>
〔調製例1:組成物(X1)の調製〕
合成例1で得られた粗生成物3gに、フェノチアジンを3mg配合することで、組成物(X1)を調製した。なお、組成物(X1)には、組成物(X1)の0.1質量%のフェノチアジンが含まれている。得られた組成物(X1)の写真を図1に示す。
【0083】
〔組成物(X1)の加熱試験(90℃)〕
組成物(X1)を入れた試験管を3方コックで密閉し、脱気後、窒素装入することにより、組成物(X1)を窒素雰囲気下にした。その後、予め90℃に昇温しておいたオイルバスに、組成物(X1)を入れた試験管を漬けた状態で3時間置き、3時間経過後に該試験管をオイルバスから取り出して空冷した。オイルバスから取り出して30分経過後に、試験管内の様子を確認したところ、組成物(X1)には、析出物は発生していなかった。
【0084】
〔組成物(X1)の加熱試験(120℃)〕
90℃での加熱試験が終わった後の組成物(X1)を、予め120℃に昇温しておいたオイルバスに漬け、3時間置いた。3時間経過後に該試験管をオイルバスから取り出して空冷した。オイルバスから取り出して30分経過後に、試験管内の様子を確認したところ、組成物(X1)には、析出物は発生していなかった。120℃での加熱試験後の組成物(X1)の写真を図2に示す。
【0085】
<比較例1>
〔調製例2:組成物(CX1)の調製〕
フェノチアジンの代わりに2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを用いた以外は調製例1と同様に調製して、組成物(CX1)を得た。得られた組成物(CX1)は、組成物(X1)と同様に透明で析出物は含まれていなかった。
【0086】
〔組成物(CX1)の加熱試験(90℃)〕
組成物(CX1)をサンプルとして用いた他は、実施例1と同様に90℃での加熱試験を行った。試験管内の内容物は白色の固形物となっていた。組成物(CX1)の90℃での加熱試験後の写真を図3に示す。
【0087】
<比較例2>
〔調製例3:組成物(CX2)の調製〕
フェノチアジンの代わりに4-t-ブチルカテコールを用いた以外は調製例1と同様に調製して、組成物(CX2)を得た。得られた組成物(CX2)は、組成物(X1)と同様に透明で析出物は含まれていなかった。
【0088】
〔組成物(CX2)の加熱試験(90℃)〕
組成物(CX2)をサンプルとして用いた他は、実施例1と同様に90℃での加熱試験を行った。試験管内の内容物は白色の固形物となっていた。組成物(CX2)の90℃での加熱試験後の写真を図4に示す。
【0089】
<比較例3>
〔調製例4:組成物(CX3)の調製〕
フェノチアジンの代わりに4-メトキシフェノールを用いた以外は調製例1と同様に調製して、組成物(CX3)を得た。得られた組成物(CX3)は、組成物(X1)と同様に透明で析出物は含まれていなかった。
【0090】
〔組成物(CX3)の加熱試験(90℃)〕
組成物(CX3)をサンプルとして用いた他は、実施例1と同様に90℃での加熱試験を行った。試験管内の内容物は白色の固形物となっていた。組成物(CX3)の90℃での加熱試験後の写真を図5に示す。
【0091】
<比較例4>
〔合成例1で得られた粗生成物の加熱試験(90℃)〕
合成例1で得られたN-tert-ブチル-N’-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]カルボジイミドの粗生成物1gを試験管に取り、サンプルとした。すなわち、比較例4のサンプルには重合禁止剤が添加されていない。
合成例1で得られた粗生成物をサンプルとして用いた他は、実施例1と同様に90℃での加熱試験を行った。試験管内の内容物は白色の固形物となっていた。粗生成物の90℃での加熱試験後の写真を図6に示す。
【0092】
〔調製例5:組成物(X2)の調製〕
合成例1で得られた粗生成物156gに、フェノチアジンを0.156g配合することで、組成物(X2)を調製した。
【0093】
〔組成物(X2)の減圧蒸留〕
フラスコに組成物(X2)と、撹拌子とを装入し、フラスコ上部にト字管を取り付けた。ト字管の上部から温度計を挿入し、側管にリービッヒ冷却器を取り付けた。リービッヒ冷却器に減圧用の連結管を取り付け、連結管に留出物の受器と油回転真空ポンプとを取り付けた。マグネチックスターラーを用いて撹拌子を回転させ、フラスコ内の液体を撹拌しながら、油回転真空ポンプで減圧にした。フラスコをオイルバスに浸漬し、徐々に昇温した。オイルバスの温度92℃になったところで精製物の留出が始まり、この時のフラスコ上部の温度は73℃、圧力16Paであった。その後、オイルバスを徐々に昇温し、オイルバスの温度92~105℃、フラスコ上部の温度66~79℃、圧力13~17Paで2時間15分かけて精製物109gを得た。フラスコ内の釜残は流動性があり、撹拌子で撹拌可能であった。また、フラスコ内の釜残には析出物は発生していなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6