(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137147
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱交換器の伝熱管用フェルールおよびそのフェルールの組付け方法
(51)【国際特許分類】
F28F 19/02 20060101AFI20240927BHJP
F28F 19/00 20060101ALI20240927BHJP
F28F 9/08 20060101ALI20240927BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F28F19/02 501A
F28F19/00 521
F28F9/08
F28D7/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048549
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 倫宣
(72)【発明者】
【氏名】野中 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】岡城 光弘
(72)【発明者】
【氏名】原 隆之
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA23
3L103BB05
3L103CC27
3L103DD03
(57)【要約】
【課題】伝熱管への固体粒子の付着とそれに伴う伝熱管の閉塞を効果的に抑制し、設備の停止間隔を延長することができる熱交換器の伝熱管用フェルールおよびその組付け方法を提案する。
【解決手段】流体を流通させる伝熱管を備えた熱交換器につき、該熱交換器の該伝熱管の流体入口部に組付けられるフェルールにおいて、該フェルールを、前記伝熱管の内部に挿入される短管部と、該短管部の端部に設けられたフランジ部とを有するもので構成し、前記短管部の少なくとも入側部の内面にガラス化された釉薬層を設ける。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通させる伝熱管を備えた熱交換器につき、該熱交換器の該伝熱管の流体入口部に組付けられるフェルールであって、
前記フェルールは、前記伝熱管の内部に挿入される短管部と、該短管部の端部に設けられたフランジ部とを有し、
前記短管部は、少なくとも入側部の内面に、ガラス化された釉薬層を有することを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルール。
【請求項2】
流体を流通させる伝熱管を備えた熱交換器につき、該熱交換器の該伝熱管の流体入口部に組付けられるフェルールであって、
前記フェルールは、前記伝熱管の内部に挿入される短管部と、該短管部の端部に設けられたフランジ部とを有し、
前記短管部は、少なくとも入側部の内面に、加熱によりガラス化可能な釉薬の塗布層を有することを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルール。
【請求項3】
前記熱交換器は、硫黄分を含む物質を燃焼させて生成された燃焼排ガスを流体として前記伝熱管に流通させる熱交換器であることを特徴とする請求項1または2に記載した熱交換器の伝熱管用フェルール。
【請求項4】
請求項2に記載したフェルールを熱交換器の伝熱管の流体入口部に組付けるに当たり、
短管部の少なくとも入側部の内面に釉薬の塗布層を形成したのち、該フェルールを伝熱管の流体入口部に組付け、次いで、該フェルールを加熱することにより該塗布層をガラス化された釉薬層とすることを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルールの組付け方法。
【請求項5】
請求項2に記載したフェルールを熱交換器の伝熱管の流体入口部に組付けるに当たり、
前記フェルールの短管部を伝熱管の流体入口部に組付けたのち、該短管の少なくとも入側部の内面に釉薬の塗布層を形成し、次いで、該フェルールを加熱することにより該塗布層をガラス化された釉薬層とすることを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルールの組付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の伝熱管の流体入口部に組付けられる伝熱管用フェルールおよびそのフェルールの組付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラーなどの設備、装置に用いられる熱交換器としては、その内部に、流体の入口部近傍および出口部近傍が管板(チューブ・プレート)に固定、支持された複数本の伝熱管を備え、それらの伝熱管の内外で熱交換を行うシェルアンドチューブ型などの熱交換器が広く知られている。
【0003】
伝熱管の入口部は、伝熱管に流体が流入する際に発生する乱流などが原因となり損傷を受けやすく、その部位には伝熱管を保護するためのフェルール(短管)が設けられることが多い。
【0004】
この点に関する先行技術として、例えば、特許文献1には、端部の外周にフランジが突設され、内径が伝熱管の本体部分の内径と略等しくなる保護筒を設けたものが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ガス入口側のチューブ・プレートを被覆するセラミック層を、互いに隣接して配置され、外縁に沿って互いに当接する複数の四角柱状のソケットからなるものとし、各ソケットにチューブ部分に向かって先細りに延在する円錐状の開口を設けるとともに、該チューブ部分を熱交換器の管束の各チューブに差し込んだ構造からなるものが開示されている。
【0006】
ところで、熱交換器の伝熱管では、流体が流入する際に発生する乱流などを原因とする損傷の他に、伝熱管を流通する流体中の固体分や流体中の成分の化学反応によって生成する固体分が伝熱管の内面に付着して伝熱管の流路を閉塞させてしまい、熱交換器において差圧が上昇し安定的した運転が困難となる不具合がある。
【0007】
この場合、上記特許文献1、特許文献2に開示されたような技術では対応できないため、差圧上昇が観測された時点で設備の運転を停止し、閉塞物を除去するか、差圧上昇を回避するために、差圧上昇前に定期的に閉塞物の除去を行っている。
【0008】
なお、上記特許文献2には、ガス入口側を高温腐食と浸食から保護することが課題として掲げられており、ソケット内部の形状が伝熱管の入部に向かって狭くなっていることから流体(ガス)が加速され、固体粒子がソケットの流体流入部に堆積することを防止することができるとされている。しかしながら、ソケットがあってもなくても、伝熱管内の流体の流速は同じであるため、伝熱管内で閉塞が発生する条件では、その閉塞をソケットの設置による流速向上では抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9-292195号公報
【特許文献2】特開平5-306893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、伝熱管への固体粒子の付着とそれに伴う伝熱管の閉塞を効果的に抑制し、設備の停止間隔を延長することができる熱交換器の伝熱管用フェルールおよびその組付け方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、伝熱管が閉塞する原因について詳細に調査を行った。その結果、一般にフェルールとして用いられる耐熱性磁器は多孔質構造であったり表面に凹凸を有することから、ガス中に含まれる微粒子状の固体物質がその内部や凹凸に入り込み付着しやすく、それが伝熱管の内面への付着、成長につながることが主原因であることを見出した。
【0012】
そこで、フェルールに釉薬を塗布して焼成し、その表面に緻密なガラス質の被膜を形成することにより、固体物質の付着を抑制する可能性を検討した。その結果、伝熱管内に挿入されないフランジ部と、伝熱管内に挿入される短管部を有するフェルールにおいて、短管部の入側部の内面に釉薬を塗布してガラス層を形成することにより、固体物質の付着と伝熱管の閉塞を効果的に抑制することができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、流体を流通させる伝熱管を備えた熱交換器につき、該熱交換器の該伝熱管の流体入口部に組付けられるフェルールであって、前記フェルールは、前記伝熱管の内部に挿入される短管部と、該短管部の端部に設けられたフランジ部とを有し、前記短管部は、少なくとも入側部の内面に、ガラス化された釉薬層を有することを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルールである。
【0014】
また、本発明は、流体を流通させる伝熱管を備えた熱交換器につき、該熱交換器の該伝熱管の流体入口部に組付けられるフェルールであって、前記フェルールは、前記伝熱管の内部に挿入される短管部と、該短管部の端部に設けられたフランジ部とを有し、前記短管部は、少なくとも入側部の内面に、加熱によりガラス化可能な釉薬の塗布層を有することを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルールである。
【0015】
上記の熱交換器は、硫黄分を含む物質を燃焼させて生成された燃焼排ガスを流体として前記伝熱管に流通させる熱交換器であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、フェルールを熱交換器の伝熱管の流体入口部に組付けるに当たり、短管部の少なくとも入側部の内面に釉薬の塗布層を形成したのち、該フェルールを伝熱管の流体入口部に組付け、次いで、該フェルールを加熱することにより該塗布層をガラス化された釉薬層とすること、さらに、前記フェルールの短管部を伝熱管の流体入口部に組付けたのち、該短管部の少なくとも入側部の内面に釉薬の塗布層を形成し、次いで、該フェルールを加熱することにより該塗布層をガラス化された釉薬層とすることを特徴とする熱交換器の伝熱管用フェルールの組付け方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、伝熱管に挿入される短管部の少なくとも入側部の内面がガラス化された釉薬層で覆われているため、固体物質の付着を抑制することが可能で、設備の長期にわたる運転を行うことができる。また、フェルール自体の長寿命化も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】燃焼炉が組み合わされた熱交換器を模式的に示した図である。
【
図3】
図2のB-B断面を一部について示した図である。
【
図4】熱交換器の運転日数と差圧の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1は、燃焼炉が組み合わされた熱交換器を模式的に示した図である。また、
図2は、
図1のA-A端面を示した図(図中一点鎖線は、伝熱管を省略して表示したもの)であり、
図3は、
図2のB-B断面を示した図である。
【0020】
本発明にしたがうフェルールは、上掲
図1に示したような熱交換器の伝熱管の流体入口部に取り付けられるものである。
【0021】
図1~3における符号1は、燃焼炉、2は燃焼炉1につながる熱交換器、3は、熱交換器2に設けられた管板、4は、管板3の表面に設けられた耐火物、5は、伝熱管である。伝熱管5は、流体入口部、流体出口部が管板3に固定支持されている。また、
図1~3における符号6は、伝熱管5の流体入口部に組付けられたフェルールである。熱交換器2としては、硫黄分を含む物質を燃焼させて生成された燃焼排ガスを流体として伝熱管5に流通させる熱交換器を用いることができるが、流体は、硫黄分を含む物質を燃焼させて生成された燃焼排ガスに限定されることはない。
【0022】
フェルール6は、アルミナを主成分とするセラミックスからなるものを適用することができ、伝熱管5の内部に挿入される短管部6aと、短管部6aの端部に設けられ、該短管部6aを管板3等固定する際に使用されるフランジ部6bから構成されている。また、7は、短管部6aの内面の少なくとも入側部に設けられた、ガラス化された釉薬層である。
【0023】
上記の構成からなる熱交換器2は、例えば、水等の二次流体を流通させる経路8が設けられており、燃焼炉1から供給される高温の流体(ガス)が伝熱管5を通過するとき、該流体のもつ熱を伝熱管5を介して二次流体に付与することにより熱交換を行うものである。
【0024】
ガラス化された釉薬層7は、釉薬の塗布層を、焼成することによってガラス質に変化させることができる、例えば、ホウケイ酸ナトリウムを含む材料が使用される。また、釉薬は、直接または固体を水に懸濁させた液体の状態でセラミックスや金属に塗布できるものを用いるのが好ましい。
【0025】
本発明にしたがうフェルール6は、素焼きされたセラミックスを基体としてその表面に釉薬を塗布して塗布層を形成しその塗布層を焼成してガラス化された釉薬層7を形成した後、熱交換器2の伝熱管5の流体入口部に組付けるものである。
【0026】
また、釉薬の焼成に十分な高温流体を伝熱管5に流通させる熱交換器2においては、短管部6aの内面の少なくとも入側部に予め釉薬の塗布層を形成しておき、このフェルール6を伝熱管5の流体入口部に設置した後、あるいは、フェルール6を伝熱管4の流体入口部に設置してから短管部6aの少なくとも入側部に釉薬の塗布層を形成し、熱交換器2の伝熱管5に高温流体を流通させることにより、その熱により釉薬の塗布層を焼成してガラス化された釉薬層7を形成することもできる。
【0027】
ガラス化された釉薬層7を上述の如き手順で形成することで、釉薬の焼成とフェルール6の組付けを同時に行うことができ、フェルール6の、熱交換器2への効率的な組付けが可能となる。
【0028】
釉薬を塗布する範囲は、短管部6aの入側部から少なくとも10mmの範囲に塗布するのが有効であり、入側部から20mmの範囲ないし50mmの範囲に塗布することがより効果的である。
【0029】
その理由は、伝熱管5に流通させる流体中に含まれる微粒子状の固体物質等の析出物はフェルール6の短管部6aの入側部で最も析出しやすく、入側部から50mmの範囲で多く析出する傾向があるためである。
【0030】
釉薬の塗布範囲をさらに延長することも可能であるが、塗布範囲がフェルール6の入側部から50mmを超えた奥側まで塗布しても伝熱管5の入口部での閉塞を抑止する効果は飽和してくるため、入側部から50mmを超えた奥までの塗布は任意である。
【0031】
釉薬は、フランジ部6bの表面にも塗布することができ、その場合、フランジ部6bの表面での付着物の生成を抑制できるのでより好ましいが、伝熱管5の閉塞を防止するためにはフランジ部6bの表面よりも短管部6aの入側部をガラス質で覆うことが重要であるので、フランジ部6bにおけるガラス化された釉薬層7の形成は必須ではない。
【0032】
釉薬は、ガラス化された釉薬層7の厚さが、0.1mm以上、3mm以下となるように塗布することが好ましい。ガラス化された釉薬層7の厚さが0.1mm未満では、釉薬を塗布する際にムラが発生しやすく、3mmを越えると釉薬層7の先端で流体(ガス)の流れが乱れるためである。なお、フェルール6の、例えば、短管部6aの入側部においてガラス化された釉薬層7の厚さを厚くし、その奥で薄くすることにより、流体の流れの乱れを抑制することもできる。
【0033】
ガラス化された釉薬層7は、フェルール6の表面の小孔や凹凸を塞いで滑らかな表面を形成するものであり、これによれば、流体中に含まれる微粒子物質を付着させ難くし、それにより伝熱管5の閉塞を抑制する効果を発揮し、熱交換器2の長期運転を可能とする。
【実施例0034】
コークス製造工場において発生した乾留ガスから回収された硫黄を含むスラリーを燃焼させて硫酸を製造する設備に設置される上掲
図1に示すような熱交換器につき、その熱交換器の伝熱管に本発明にしたがうフェルールを組付け、燃焼炉から排出される温度約1050°Cの燃焼排ガスを伝熱管に流通させてフェルールに塗布した釉薬の塗布層を焼成するとともに、熱交換器の入側部と出側部との差圧を計測し、運転開始後の日数と差圧の関係についての調査を行った。その結果を、釉薬の塗布層を有しないフェルールを伝熱管に組付けた熱交換器を用いた場合(比較例1、比較例2)の結果とともに
図4に示す。
【0035】
なお、本実施例に使用した燃焼炉は、硫黄を含むスラリーとコークス炉ガス、燃焼空気、蒸気等を吹き込み、コークス炉ガスと硫黄とを燃焼させて高温のガス(一次流体)を生成するものである。
【0036】
また、本実施例に使用した熱交換器(ボイラー)は、本体(シェル)内径:2700mm、伝熱管の本数:313本、伝熱管の長さ:6000mm程度、処理風量:23000Nm3/h、伝熱管入口部ガス温度:1050℃、出口部ガス温度:440℃以下、運転圧力:ゲージ圧1kPa程度、燃焼排ガス:硫黄の燃焼によって生成されたSO2の他にCO2、H2O、N2、O2などを含むもの、二次流体:水、とする仕様からなるものを用いた。
【0037】
フェルールは、アルミナを主成分とするセラミックスを素焼きした、短管部の長さが160mm程度、短管部の内径が50mm程度、短管部の肉厚が4mm程度、フランジ部の直径が70~80mm程度、フランジ部の厚さが10mm程度、ホウケイ酸ナトリウムを主成分とする釉薬を、フランジ部の表面(ガスと接する表面)を含め、入側部から50mmの長さにわたって厚さ約1mmとなるように塗布して釉薬の塗布層を形成したものを用いた。
【0038】
図4より、比較例1、2では、約60日~100日の間に差圧が1kPaに達し、伝熱管の閉塞が顕著になった。これに対して本発明にしたがうフェルールを備えた熱交換器においては、差圧が1kPaに至ったのは運転開始後165日であり、フェルールにガラス化された釉薬層を設けることで伝熱管の閉塞が顕著になるまでの期間を大幅に延長できることが確認された。また、釉薬の塗布範囲をフェルールの短管部の入側部から10mmまでの範囲とした場合についての調査も併せて行ったが、この場合でも熱交換器の入側部と出側部との差圧が1kPaに達するまでの期間は140日程度であって、十分な効果が期待できるものであった。
本発明によれば、伝熱管への固体粒子の付着とそれに伴う伝熱管の閉塞を効果的に抑制し、設備の停止間隔を延長し得る熱交換器の伝熱管用フェルールおよびその組付け方法を提供することができる。