(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137151
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/06 20060101AFI20240927BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240927BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240927BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M4/38 Z
H01M10/052
C22C30/02
H01G11/30
C22C21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048555
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
【テーマコード(参考)】
4G072
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA20
4G072BB05
4G072BB15
4G072DD04
4G072GG02
4G072MM22
4G072MM23
4G072MM38
4G072RR12
4G072TT08
4G072TT09
4G072TT17
4G072UU30
5E078AA03
5E078AB01
5E078BA30
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ12
5H029CJ28
5H029DJ13
5H029DJ16
5H029HJ02
5H029HJ06
5H029HJ09
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB11
5H050FA13
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA06
5H050HA09
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上とを含み、Cu酸化物相を含んでもよく、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であり、SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Alを2at%以上40at%以下の範囲で含み、Cuを5at%以上15at%以下の範囲で含み、水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si相とAl相とAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上とを含み、Cu酸化物相を含んでもよく、
Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であり、
SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Alを2at%以上40at%以下の範囲で含み、Cuを5at%以上15at%以下の範囲で含み、
水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上有する、
多孔質シリコン材料。
【請求項2】
Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Al相とCu相とAlCu化合物相との合計が、10mol%以上40mol%以下である、請求項1に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項3】
Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、下記(1)~(3)のうちの1以上を満たす、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
(1)Cu酸化物相が2mol%以下である。
(2)Al相が5mol%以上35mol%以下である。
(3)AlCu化合物相及びCu相との合計が5mol%以上15mol%以下である。
【請求項4】
抵抗率が10000Ωcm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項5】
水銀圧入法による平均細孔径が100nm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項6】
正極活物質を含む正極と、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料を製造する製造方法であって、
平衡状態図において室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む、
多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項8】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する除去処理を行う、請求項7に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項9】
前記多孔化工程では、下記(4)~(6)のうちの1以上を満たす前記除去処理を行う、請求項8に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
(4)前記除去処理は、0.05mol/L以上1.5mol/L以下の濃度の酸又はアルカリで行う。
(5)前記除去処理は、30℃以下の温度で行う。
(6)前記除去処理は、2時間以上8時間以下行う。
【請求項10】
前記前駆体工程では、アトマイズ法で前記急冷凝固を行う、請求項7に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、AlSiCu合金粉末を塩酸などで処理することにより、Alを完全除去して得られた多孔質シリコン材料が提案されている(例えば、非特許文献1)。この多孔質シリコン材料では、多孔質シリコン材料に銅を組み込むことで、シリコンの良好な電子伝導性を確保し、充放電時の体積膨張を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 455 (2020) 227967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1の多孔質シリコン材料では、銅によって電子伝導性を確保しているが、さらなる抵抗の低減が望まれていた。このため、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した。そして、平衡状態図においてAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れるAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させてシリコン合金の前駆体を作製し、穏和な条件でAl成分を除去してAl成分を適度に残すことに想到した。これにより、例えば、Alを2at%以上40at%以下、Cuを5at%15at%以下の範囲で含み、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であり、抵抗の低い多孔質シリコン材料を得られることを見出し、本開示の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を完成するに至った。なお、Cu相及びCu酸化物相は、酸処理などの除去処理時にAlCu化合物相から生成すると考えられ、抵抗の低減に適した穏和な条件で除去処理すると、これらの相の生成量が8mol%以下になると考えられる。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料は、
Si相とAl相とAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上とを含み、Cu酸化物相を含んでもよく、
Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であり、
SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Alを2at%以上40at%以下の範囲で含み、Cuを5at%以上15at%以下の範囲で含み、
水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上有するものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
上述した多孔質シリコン材料を製造する製造方法であって、
平衡状態図において室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、Al相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させると、AlCu化合物相の周囲にAlとSiとが連結した骨格部分が形成された前駆体が得られる。ここから酸処理でAl成分を選択除去することで前駆体が多孔化されるが、このとき、穏和な条件でAl成分を除去してAl成分を適度に残すと、Si相や、導電相であるAl相、AlCu化合物相、Cu相の配置が好適なものになるなどして、抵抗率をより低減させることができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】4.5at%CuにおけるAl
95.5-xSi
xCu
4.5三元系状態図。
【
図2】融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の模式図。
【
図3】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図4】実験例20~25の多孔質シリコンのX線回折図。
【
図5】Al
72.5Si
25Cu
2.5アトマイズ粉末の酸処理前及びAl成分完全除去後のSEM像。
【
図6】実験例20~23の多孔質シリコンのSEM像。
【
図7】実験例20~32の多孔質シリコンの酸処理時間とAl含有量及びCu溶出量との関係を示すグラフ。
【
図8】実験例20~25,33~38の多孔質シリコンの酸処理時間とAl含有量及びCu溶出量との関係を示すグラフ。
【
図9】実験例20~25の多孔質シリコンの酸処理時間と酸処理後のAl相含有割合との関係を示すグラフ。
【
図10】実験例21,23,24の多孔質シリコンの細孔径分布図。
【
図11】実験例20~25の多孔質シリコンの酸処理時間及び酸処理後のAl相含有割合と細孔率(実測値及び理論値)との関係を示すグラフ。
【
図12】実験例5,6,9~11,15~17,39の多孔質シリコンの酸処理時間と溶解層厚みとの関係を示すグラフ。
【
図13】実験例5,12,15の多孔質シリコンの酸処理前Al含有量と初期溶解速度との関係を示すグラフ。
【
図14】実験例5,6,9~11,15~17,39の多孔質シリコンを用いて検討した、コア部粒子径と溶解速度の関係を示すグラフ。
【
図15】実験例5,6,8~17の多孔質シリコンの導電相割合と抵抗率との関係を示すグラフ。
【
図16】実験例8,14,10,39,40の多孔質シリコンのCu含有導電相割合と抵抗率との関係を示すグラフ。
【
図17】実験例5~8,12~16,39,40の多孔質シリコンのCu含有量とCu含有導電相割合及びCu
2O生成量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、平衡状態図において室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。AlCu化合物相は、例えば、CuAl2相としてもよい。Al-Si-Cu合金の原料は、平衡状態図において室温でCuシリサイド相が現れない組成であるものとしてもよい。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。
【0013】
図1は、4.5at%CuにおけるAl
95.5-xSi
xCu
4.5三元系状態図である。
図2は、融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の模式図である。互いに固溶しない2元系Al-Si状態図(共晶系)において、液相線が極小となる組成(共晶組成)物の融液を冷却凝固させると、Al相とSi相が同時に晶出して繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。この時、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなりナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から例えば酸処理などの除去処理によりAl元素のみを選択除去すれば、共晶組織の特徴を残したSi骨格からなる多孔質材料を得ることができる。本開示では、これにCuを加えたAl-Si-Cu合金からAlを部分除去することで細孔と導電相を伴う複合ナノ多孔体材料を作製する。Al-Si-Cu三元系の状態図でも融液からAlとSiが同時に晶出する共晶組成が存在する。以下、
図1,2を用いて説明する。ここでは、合金融液をガスアトマイズ法で冷却する場合を一例として説明する。ガスアトマイズ法ではノズル先端の穴から高温の融液を高圧ガス中に噴射して冷却する。この時、融液L(
図1(1)、
図2(1))を冷却し、
図1(2)の温度になると、AlとSiが晶出する。ただし、この系では、AlとSiが晶出する共晶温度では、融液Lが完全に固化していないため、融液L中にSiとAlあるいはこれらの凝集体の結晶核が分散した状態が生じる(
図2(2))。更に温度を低下させて、
図1(3)の温度になると、融液Lが凝固してAl
2Cu相が生成するが、この時、SiとAl粒子間に毛管力が働き、Al
2Cu相の周りに、SiとAlとが連結した骨格部分が形成される(
図2(3))。ここから酸処理などの除去処理によりAl
2Cu相(酸処理後Cuとして残留してもよい)およびAl相を選択除去することで多孔体が形成される。この時、骨格部分はSiとAlとが連結して形成されているため、Alを完全に除去してしまうと骨格構造を維持できずに、粒子がバラバラになってしまう(例えば、
図5B参照)。一方、除去処理の条件を適当に調整すると、Al
2Cu(あるいはCu)とAlの一部を残留させることが可能で、AlやCuやAl
2Cuが共存した複合多孔体シリコンを作製できる。CuもAlも電気伝導度が高いため、多孔体シリコンと共存させることで、抵抗率を低減することができる。なお、除去処理では、Al
2Cu相から、Cu相やCu
2O相が生じるが、穏和な条件で除去処理を行うと、Cu相やCu
2O相の生成量が比較的少なくなる。
【0014】
(前駆体工程)
前駆体工程では、室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させ、シリコン合金の前駆体を得る。シリコン合金の前駆体は、例えば、細孔を形成する骨格部分にSi相とAl相とが共存したものとしてもよい。この工程では、SiとAlとCuとの全体を100at%としたときに、Cuを0.1at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを40at%以上90at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いるものとしてもよい。原料組成において、Cuは、0.1at%以上、更には0.5at%以上が好ましく、1at%以上がより好ましい。また、原料組成は、基本組成式Al100-x-ySixCuyにおいて、15≦x≦55、0.1≦y≦15の範囲であることが、より好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si、Cu、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとCuとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Cuの配合比は、例えば、0.1at%以上が好ましく、0.5at%以上としてもよい。また、Cuの配合比は、10at%以下が好ましく、5at%以下としてもよいし、4at%以下としてもよい。Alの配合比は、45at%以上が好ましく、50at%以上としてもよいし、55at%以上としてもよい。また、Alの配合比は、85at%以下が好ましく、80at%以下がより好ましく、75at%以下としてもよい。Siの配合比は、例えば、15at%以上が好ましく、18at%以上がより好ましく、20at%以上や25at%以上としてもよい。また、Siの配合比は、例えば、50at%以下が好ましく、45at%以下がより好ましく、40at%としてもよい。AlやCuをこのような範囲で含むシリコン合金では、より好適な形状、サイズ、空隙率の空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0015】
この工程において、原料を溶融する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶融が好ましいが、いかなる溶融手法を用いても構わない。母合金の作製には、原料粉末の溶解が必要であり、均一な試料を作製するためには高周波溶解がより好ましいが、単純に電気炉などの加熱溶解や、電子ビームなどを用いて溶解してもよい。前駆体工程では、原料から得られた合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、シリコン合金を粒子化する方法は、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法などのうち1以上であるアトマイズ法で粒子化する方法としてもよい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
前駆体工程では、粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。このシリコン合金粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下の範囲であることが好ましく、1μm以上5μm以下の範囲や2μm以上5μm以下の範囲としてもよい。この工程では、分級により、シリコン合金粒子の粒径を100μm以下としたり、10μm以下としたり、5μm以下としてもよい。また、この工程では、分級により、シリコン合金粒子の粒径を0.1μm以上としたり、0.5μm以上としたり、1μm以上としたり、2μm以上としてもよい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0017】
この前駆体工程では、AlとCuとSiとに加えCa、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやCuの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲がより好ましい。
【0018】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去する除去処理を行う。この工程で除去するAl成分としては、例えば、AlやAlCu化合物などが挙げられる。AlCu化合物としてはCuAl2などが挙げられる。この多孔化工程は、Alの減少量(溶出量)が、Alを完全除去した場合のAlの減少量の20%以上90%以下となる条件で行うものとしてもよい。Alの減少量が少ないほど導電率の高い多孔質シリコン材料が得られ、Alの減少量が多いほど細孔率の高い多孔質シリコン材料が得られる傾向がある。Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量の85%以下とすることが好ましく、80%以下とすることが好ましい。また、Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量の30%以上としてもよく、40%以上としてもよい。また、多孔化工程では、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも5at%以上少なくなる条件で行うものとしてもよい。Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも10at%以上少なくしてもよく、20at%以上少なくしてもよい。また、Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも50at%以下少なくしてもよく、45at%以下少なくしてもよく、40at%以下少なくしてもよい。Alの減少量は、例えば、-20at%以上-62at%以下としてもよく、-30at%以上-60at%以下としてもよい。また、多孔化工程は、Cuの減少量(溶出量)が、Cuを完全除去した場合のCuの減少量の30%以下となる条件で行うものとしてもよい。Cuの減少量は、Cuを完全除去した場合のCuの減少量の25%以下としてもよく、20%以下としてもよい。また、Cuの減少量は、Cuを完全除去した場合のCuの減少量の5%以上としてもよく、8%以上としてもよい。また、多孔化工程では、Cuの減少量が、Cuを完全除去した場合のCuの減少量よりも1.5at%以上少なくなる条件で行うものとしてもよい。Cuの減少量は、Cuを完全除去した場合のCuの減少量よりも1.8at%以上少なくしてもよく、2.0at%以上少なくしてもよい。また、Cuの減少量は、Cuを完全除去した場合のCuの減少量よりも2.3at%以下少なくしてもよく、2.2at%以下少なくしてもよい。Cuの減少量は、例えば、-0.1at%以上-0.8at%以下としてもよく、-0.2at%以上-0.6at%以下としてもよい。
【0019】
ここで、Alの減少量及びCuの減少量は、例えば、除去処理前後でSiの量が不変と仮定できる場合には、除去処理前のSiの量(元素比)を基準として、除去処理後のAlやCuの量(元素比)とSiの量(元素比)の比率から、AlやCuの変化量を算出してもよい。具体的には、Alの減少量LA[at%]は、LA=A2×S1/S2-A1の式から求めた値とし、Cuの減少量LC[at%]は、LC=C2×S1/S2-C1の式により求めた値とする。ただし、除去処理前のシリコン合金についてEDXで求めたAl、Si、Cuの元素比をそれぞれA1[at%]、S1[at%]、C1[at%](ただし、A1+S1+C1=100)とし、除去処理後の多孔質シリコン材料についてEDXで求めたAl、Si、Cuの元素比をそれぞれA2[at%]、S2[at%]、C2[at%](ただし、A2+S2+C2=100)とする。なお、例えば、Siは塩酸には溶けないため、塩酸での酸処理により除去処理を行った場合などには、除去処理前後でSiの量が不変と仮定できる。
【0020】
多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やAlCu化合物相を選択的に除去することが好ましい。なお、酸を用いた除去処理を酸処理、アルカリを用いた除去処理をアルカリ処理とも称する。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Al成分を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、0.01mol/L以上としてもよいし、0.02mol/L以上としてもよいし、0.05mol/L以上としてもよい。酸又はアルカリの濃度は、例えば、1.5mol/L以下としてもよいし、1.2mol/L以下としてもよいし、0.5mol/L以下としてもよい。除去処理を行う際の温度は、例えば、40℃未満としてもよいし、35℃以下としてもよいし、30℃以下としてもよい。また、除去処理を行う際の温度は、例えば、0℃以上としてもよいし、5℃以上としてもよいし、10℃以上としてもよい。除去処理を行う時間は、例えば、1時間以上としてもよいし、2時間以上としてもよい。また、除去処理を行う時間は、例えば、24時間以下としてもよいし、12時間以下としてもよいし、8時間以下としてもよいし、6時間以下としてもよい。この除去処理は、シリコン合金を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、必要に応じて撹拌して行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0021】
多孔化工程では、酸やアルカリを用いて除去処理を行う場合、シリコン合金の表面から酸やアルカリが浸透してAl成分が溶解し、Al成分の一部が除去されて多孔化すると考えられる。多孔化工程では、シリコン合金の表面から酸やアルカリが浸透して多孔化した部分の深さを除去処理浸透深さとし、その平均値を平均浸透深さとしたときに、平均浸透深さが100nm以上1500nm以下となる条件で除去処理を行うものとしてもよい。この平均浸透深さは、200nm以上としてもよく、300nm以上としてもよい。また、平均浸透深さは、1250nm以下としてもよく、1000nm以下としてもよい。また、平均浸透深さは、粒子状のシリコン合金を用いた場合、その平均粒径の2%以上45%以下であるものとしてもよい。この平均浸透深さは、平均粒径の3%以上としてもよいし、平均粒径の5%以上としてもよい。また、平均浸透深さは、平均粒径の40%以下としてもよいし、35%以下としてもよい。なお、平均浸透深さは、棒状のシリコン合金を用いた場合には上記平均粒径を平均直径に読み替え、板状のシリコン合金を用いた場合には上記平均粒径を平均厚さに読み替えて定めることができる。
【0022】
多孔化工程では、上述のように、前駆体の表面から所定の深さまでを多孔化させ、それよりも内側は多孔化させなくてもよいし、前駆体の表面から内部まで全体を多孔化させてもよい。多孔化工程では、以下に詳述する多孔質シリコン材料を得るものとしてもよく、以下に詳述する多孔質シリコン材料が得られる条件で行うものとしてもよい。
【0023】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上とを含む。この多孔質シリコン材料は、AlCu化合物相及びCu相のうちの一方を含まなくてもよいが、両方を含むことが好ましい。この多孔質シリコン材料は、Cu酸化物相を含んでもよい。AlCu化合物としては、Al2Cuなどが挙げられる。Cu酸化物としては、Cu2Oなどが挙げられる。
【0024】
この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下である。Cu相及びCu酸化物相は、例えば、前駆体に対して酸処理などの除去処理を行ったときにAlCu化合物相から生じる相であり、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であることは、抵抗率の低減に適した穏和な条件で除去処理が行われたことを示すと考えられる。なお、本開示では、Cu相及びCu酸化物相をまとめて除去処理生成相とも称する。除去処理生成相は、上述の通り8mol%以下であればよいが、6mol%以下としてもよく、4mol%以下としてもよい。この除去処理生成相は、1mol%以上としてもよく、2mol%以上としてもよいし、4mol%以上としてもよい。
【0025】
ここで、多孔質シリコン材料における、Si相、Al相、AlCu化合物相、Cu相、Cu酸化物相の割合は、EDX測定結果とXRD測定結果を併用して、以下のように求めるものとする。まず、EDXによってSiとAlとCuとの全体を100at%としたときのSiの割合[at%]を求め、それを多孔質シリコン材料におけるSi相の割合[mol%]とする。また、EDXによってSiとAlとCuとの全体を100at%としたときのCuの割合[at%]を求めるとともに、XRDによってCu含有相(AlCu化合物相、Cu相、Cu酸化物相)中のAlCu化合物相、Cu相、Cu酸化物相の比率を計算し、Cuの割合[at%]とCu含有相中の各相の比率を用いて多孔質シリコン材料における各相の割合[mol%]を計算する。Al相の割合[mol%]に関しては、全体(100mol%)から、上述のように求めたSi相、AlCu化合物相、Cu相、Cu酸化物相の割合を差し引いて求める。平衡状態図において室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金において、SiはAlやCuとは化合物を形成しないため、上述のように、EDXで求めたSi相の割合をそのまま、Si相の割合として評価することができる。なお、各相の割合をこのように求める理由は、Siが急冷条件の影響で結晶性が低くなりやすく、それにより結晶相の正確な割合を求めることが困難であるためである。
【0026】
この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Al相とCu相とAlCu化合物相との合計が、5mol%以上55mol%以下であるものとしてもよい。Al、Cu及びAlCu化合物は、いずれも導電性を有するため、本開示では、Al相、Cu相及びAlCu化合物相をまとめて導電相とも称する。この導電相は、抵抗を低減する観点からは、より多い方が好ましく、10mol%以上が好ましく、15mol%以上がより好ましく、20mol%以上がさらに好ましい。この導電相は、充放電を行うSi相を確保する観点から、50mol%以下としてもよく、45mol%以下としてもよく、40mol%以下としてもよい。
【0027】
この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu酸化物相が5mol%以下であるものとしてもよい。Cu酸化物相は、絶縁性であり、電子伝導を阻害するおそれがあるため、少ない方が好ましく、4mol%以下が好ましく、2mol%以下がより好ましく、1mol%以下がさらに好ましい。Cu酸化物相は、例えば、0.1mol%以上としてもよいし、0.2mol%以上としてもよいし、0.5mol%以上としてもよい。
【0028】
この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Al相が1mol%以上50mol%以下であるものとしてもよい。Al相は、Siと連結して骨格構造を形成すると考えられるため、骨格構造を維持する観点からは、多い方が好ましく、2mol%以上が好ましく、5mol%以上がより好ましく、10mol%以上がさらに好ましい。Al相は、充放電を行うSi相を確保する観点から、45mol%以下としてもよく、40mol%以下としてもよく、35mol%以下としてもよい。
【0029】
この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、AlCu化合物相とCu相との合計が3mol%以上15mol%以下であるものとしてもよい。本開示では、AlCu化合物相とCu相とをまとめてCu含有導電相と称する。Cu含有導電相は、5mol%以上としてもよく、5.5mol%以上としてもよく、6mol%以上としてもよい。また、Cu含有導電相は、12mol%以下としてもよく、10mol%以下としてもよく、8mol%以下としてもよい。
【0030】
この多孔質シリコン材料は、SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Alを2at%以上40at%以下の範囲で含み、Cuを5at%以上15at%以下の範囲で含む。Al量は、抵抗をより低減する観点からは、多い方が好ましく、5at%以上が好ましく、10at%以上がより好ましく、15at%以上がさらに好ましい。Al量は、充放電を行うSiを確保する観点から、35at%以下としてもよく、30at%以下としてもよい。Cu量は、5.5at%以上としてもよく、6at%以上としてもよい。Cu量は、12at%以下としてもよく、10at%以下としてもよく、8at%以下としてもよく、6at%以下としてもよい。
【0031】
この多孔質シリコン材料は、SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Siを40at%以上90at%以下の範囲で含むものとしてもよい。Si量は、蓄電デバイスの容量を高める観点からは、多い方が好ましく、45at%以上が好ましく、50at%以上がより好ましい。Si量は、結晶構造の維持や抵抗低減の観点から、80at%以下としてもよく、70at%以下としてもよく、60at%以下としてもよい。
【0032】
この多孔質シリコン材料は、SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Oを3at%以上20at%以下の範囲で含むものとしてもよい。O量は、4at%以上としてもよく、5at%以上としてもよい。O量は、15at%以下としてもよく、12at%以下としてもよい。
【0033】
この多孔質シリコン材料は、コア部と、コア部の周囲に存在しコア部よりも多孔化されたシェル部とを有するものとしてもよい。この場合、多孔質シリコン材料は、その表面からコア部に至るまでの距離を多孔化深さとし、その平均値を平均多孔化深さとしたときに、平均多孔化深さが100nm以上1500nm以下であるものとしてもよい。なお、多孔化深さ及び平均多孔化深さは、上述の多孔化工程における浸透深さ及び平均浸透深さに対応する。平均多孔化深さは、200nm以上としてもよく、300nm以上としてもよい。また、平均多孔化深さは、1250nm以下としてもよく、1000nm以下としてもよい。また、平均多孔化深さは、多孔質シリコン材料が粒子状の場合、多孔質シリコン材料の平均粒径の2%以上45%以下であるものとしてもよい。この平均多孔化深さは、平均粒径の3%以上としてもよいし、平均粒径の5%以上としてもよい。また、平均多孔化深さは、平均粒径の40%以下としてもよいし、35%以下としてもよい。なお、平均多孔化深さは、多孔質シリコン材料が棒状の場合には上記平均粒径を平均直径に読み替え、多孔質シリコン材料が板状の場合には上記平均粒径を平均厚さに読み替えて定めることができる。この多孔質シリコン材料においてシェル部は、コア部よりもAl相が少ないものとしてもよい。この多孔質シリコン材料において、コア部では、20000倍の倍率でSEM観察したときに空隙が観察されないものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、その全体にわたってSi相とAl相とが連結された骨格構造を有し、内部ではこの骨格構造で規定された空間にAlが充填された構造を有しているものとしてもよい。骨格は、連結したSi相やAl相の表面にAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上が形成された構造を有していてもよい。
【0034】
この多孔質シリコン材料は、表面から内部まで全体が多孔化した構造を有するものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、その全体にわたってSi相とAl相とが連結された骨格構造を有し、その全体にわたってこの骨格構造で規定された空間が形成されているものとしてもよい。骨格は、連結したSi相やAl相の周囲にAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上が形成された構造を有していてもよい。
【0035】
この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上有する。多孔質シリコン材料では、このような微細な細孔がより多くあることが好ましい。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔が50体積%以上あることがより好ましく、55体積%以上あることが更に好ましく、60体積%以上であるものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔が90体積%以下であるものとしてもよく、80体積%以下であるものとしてもよく、70体積%以下であるものとしてもよい。
【0036】
この多孔質シリコン材料において、細孔率は45体積%以上であることが好ましい。この細孔率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この細孔率は、例えば、50体積%以上であることが好ましく、55体積%以上としてもよく、60体積%以上としてもよい。また、細孔率は、例えば、90体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、70体積%以下としてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0037】
この多孔質シリコン材料において、平均細孔径は、100nm以下であるものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料において、細孔径の範囲は、1nm以上300nm以下であるものとしてもよい。平均細孔径及び細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値とする。平均細孔径は、65nm以下としてもよく、60nm以下としてもよい。また、平均細孔径は、40nm以上としてもよく、50nm以上としてもよい。細孔径の範囲は、例えば、5nm以上としてもよく、10nm以上としてもよく、20nm以上としてもよい。また、この細孔径の範囲は、例えば200nm以下としてもよく、100nm以下としてもよい。細孔径が小さいと細孔がつぶれにくく好ましい。また、細孔径が大きいと、キャリアイオンを吸蔵した際に体積変化をより抑制でき好ましい。
【0038】
この多孔質シリコン材料は、抵抗率が100000Ωcm以下であるものとしてもよい。多孔質シリコン材料の抵抗率は、4端子法により求めた抵抗率とする。多孔質シリコン材料が粉末の場合、多孔質シリコン粉末を200MPaで加圧して圧粉体を作製し、この圧粉体について4端子法により求めた抵抗率を、多孔質シリコン材料の抵抗率とする。この抵抗率は20000Ωcm以下としてもよく、10000Ωcm以下としてもよい。この抵抗率は、5000Ωcm以下が好ましく、2000Ωcm以下がより好ましく、1000Ωcm以下がより好ましく、500Ωcm以下が一層好ましい。
【0039】
多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格を有するものしてもよい。この骨格は、Si相とAl相とが連結した構造を有するものとしてもよい。この骨格は、連結したSi相やAl相の表面にCu相及びAlCu化合物相のうちの1以上が形成された構造を有していてもよい。
【0040】
多孔質シリコン材料は、電極として1GPaの拘束圧を受けた際に、細孔変化量が25体積%よりも小さいことが好ましく、20体積%よりも小さいことがより好ましく、10体積%よりも小さいことが更に好ましい。多孔質シリコン材料は、拘束圧を受けた際に細孔の減少量がより小さいことが、骨格強度の観点から好ましい。
【0041】
この多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Al,Cuの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。
【0042】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の細孔率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の細孔率が減少したものとしてもよい。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、5体積%以上や、10体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、例えば、30体積%以下や、20体積%以下としてもよい。
【0043】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0044】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Ti5O12などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0045】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、CrS2、CrS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0046】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0047】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0048】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0049】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図3は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料の一例である、多孔質シリコン材料20である。多孔質シリコン材料20は、骨格24と、空隙26とを有する。骨格は、Si相21、Al相22、AlCu化合物相及びCu相のうちの1以上であるCu含有導電相23を含んでいる。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料の一例である、多孔質シリコン材料20Bとしてもよい。多孔質シリコン材料20Bも多孔質シリコン材料20と同様に骨格24と空隙26とを有している。多孔質シリコン材料20Bは、コア部28と、コア部28よりも多孔化されたシェル部29とを有する。コア部28では、Al相22やCu含有導電相23が、除去されることなく残留している。シェル部29では、Al相22やCu含有導電相23中のAlCu化合物相が除去されることで、空隙26が形成されており、シェル部29の厚みはD[nm]である。この厚みDを溶解層厚みとも称する。この厚みDは、上述した除去処理浸透深さに相当する。
【0050】
この蓄電デバイスは、初期容量に対する10サイクル後の容量である容量維持率がより高いことが好ましく、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。また、この蓄電デバイスは、10サイクル後の容量がより高いことが好ましく、例えば、1000mAh/g以上が好ましく、1500mAh/g以上がより好ましく、2000mAh/以上がより好ましい。また、この蓄電デバイスは、初期容量がより高いことが好ましく、例えば、1200mAh/g以上が好ましく、2000mAh/g以上がより好ましく、2500mAh/g以上がさらに好ましい。
【0051】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した多孔質シリコン材料を負極活物質とする負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した多孔質シリコン材料を負極活物質とするものとすることができる。
【0052】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Zr2-yTy)O12や、(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Y2-yTy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0053】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO4)4、硫化物のLi3.25Ge0.25P0.75S4、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5CrO3、(La2/3Li3x□1/3-2x)CrO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型と呼ばれるLiCr2(PO4)3、Li1.3M0.3Cr1.7(PO3)4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P2S5(mol%)組成のガラスから得られたLi7P3S11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B2O3、P2O5をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga2S2系、Li2S-GeS2-Ga2S3系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al2S3系、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S5系、Li2S-Al2S3系、LiS-SiS2-Al2S3系、Li2S-SiS2-P2S5系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0054】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0055】
以上詳述したように、本開示は、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、Al相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させると、AlCu化合物相の周囲にAlとSiとが連結した骨格部分が形成された前駆体が得られる。ここから酸処理でAl成分を選択除去することで前駆体が多孔化されるが、このとき、穏和な条件でAl成分を除去してAl成分を適度に残すと、Si相や、導電相であるAl相、AlCu化合物相、Cu相の配置が好適なものになるなどして、抵抗率をより低減させることができると推察される。また、本開示では、導電相の導入に伴う抵抗率の低減により、レート特性および長期サイクル特性の安定化も期待できる。
【0056】
ところで、AlSiCu合金のAl成分を全て除去すると、Si相とAl相とが連結した骨格の構造が維持できず、全体的な細孔構造の維持が難しい。細孔構造が壊れるとSiのナノ粒子凝集体になるが、その場合タッピング密度が低下するという問題がある。これに対し、本開示では、AlSiCu合金のAl成分の一部だけを除去することで、細孔構造を維持したまま、導電相であるAl相、AlCu合金相及びCu相を共存させた材料を簡単に作製することができる、タッピング密度の低下を抑制できるという効果も得られる。
【0057】
また、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することも期待される。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。高容量のSi負極は、充放電時の膨張収縮で集電性が壊れて容量が低下することがある。本開示の多孔質シリコン材料では、ナノ細孔を有し、これが充放電時のシリコンの膨張、収縮に伴う応力を緩和することができる。同時に、Al成分を一部残存させることにより、骨格強度を向上させ、充放電時の膨張、収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れるのを防ぐことができる。このため、更にサイクル特性の改善が見込める。更に、粒子の強度向上によって、合材電極作製時のロールプレス等で細孔が潰れるのを抑制することができる。このため、本開示では、体積の膨張、収縮が緩和され、サイクル特性を向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0058】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0059】
例えば、本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] Si相とAl相とAlCu化合物相及びCu相のうちの1以上とを含み、Cu酸化物相を含んでもよく、
Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Cu相とCu酸化物相との合計が8mol%以下であり、
SiとAlとCuとOとの全体を100at%としたときに、Alを2at%以上40at%以下の範囲で含み、Cuを5at%以上15at%以下の範囲で含み、
水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上有する、
多孔質シリコン材料。
[2] Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、Al相とCu相とAlCu化合物相との合計が、10mol%以上40mol%以下である、[1]に記載の多孔質シリコン材料。
[3] Si相とAl相とAlCu化合物相とCu相とCu酸化物相との全体を100mol%としたときに、下記(1)~(3)のうちの1以上を満たす、[1]又は[2]に記載の多孔質シリコン材料。
(1)Cu酸化物相が2mol%以下である。
(2)Al相が5mol%以上35mol%以下である。
(3)AlCu化合物相及びCu相との合計が5mol%以上15mol%以下である。
[4] 抵抗率が10000Ωcm以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料。
[5] 水銀圧入法による平均細孔径が100nm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料。
[6] 正極活物質を含む正極と、
[1]~[5]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
[7] [1]~[5]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料を製造する製造方法であって、
平衡状態図において室温でAl相とSi相とAlCu化合物相とが現れる組成のAl-Si-Cu合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む、多孔質シリコン材料の製造方法。
[8] 前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する除去処理を行う、[7]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[9] 前記多孔化工程では、下記(4)~(6)のうちの1以上を満たす前記除去処理を行う、[8]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
(4)前記除去処理は、0.05mol/L以上1.5mol/L以下の濃度の酸又はアルカリで行う。
(5)前記除去処理は、30℃以下の温度で行う。
(6)前記除去処理は、2時間以上8時間以下行う。
[10] 前記前駆体工程では、アトマイズ法で前記急冷凝固を行う、[7]~[9]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【実施例0060】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~3,5~12,18,20~29,33~36,39,40が本開示の実施例に相当し、実験例4,13~17,19,30~32,37~38が比較例に相当する。
【0061】
[多孔質シリコン材料の作製]
Al、SiおよびCuの原料を基本組成式Al100-x-ySixCuy(x=10~40、y=1~20、x/y>2)の組成になる様に秤量し、アーク溶融炉で溶融した。溶融前にアーク溶融炉内は8×10-3Pa以下まで減圧後、Arガス置換した。母合金の作製には、原料粉末の溶融が必要であり、均一な試料を作製するために高周波溶融を行った。得られた母合金をAr雰囲気中で1000~1300℃に加熱して溶融し、ガスアトマイズ法を用いて102K/sec以上の速度で急冷凝固処理し平均粒径2μmのAlSiCu合金粉末(アトマイズ粉末)を得た(前駆体工程)。得られた合金を、0.1~3mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、室温(25℃)~60℃の任意の温度で2~12時間酸処理(除去処理)して、Al成分を選択除去した。残渣をろ過フィルターに移し、加圧濾過法により処理後の酸を除去した後で、蒸留水で10回以上洗浄し、同様の加圧濾過法で洗浄水を除去して多孔質シリコンを得た(多孔化工程)。
【0062】
(実験例1~3)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度0.1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間5時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例1とした。酸処理時間を7.5時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例2とした。酸処理時間を10時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例3とした。
【0063】
(実験例4)
平均粒径が5μmのSi粉末(高純度化学製SIE23PB)をそのまま実験例4とした。
【0064】
(実験例5~6)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例5とした。酸処理時間を8時間とした以外は実験例5と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例6とした。
【0065】
(実験例7~8)
母合金組成を上記基本組成式のx=35、y=4の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例7とした。酸処理時間を4時間とした以外は、実験例7と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例8とした。
【0066】
(実験例9~11)
母合金組成を上記基本組成式のx=35、y=5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例9とした。酸処理時間を4時間、8時間とした以外は、実験例9と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例10、実験例11とした。
【0067】
(実験例12~14)
母合金組成を上記基本組成式のx=12.5、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例12とした。酸処理時間を4時間、8時間とした以外は、実験例12と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例13、実験例14とした。
【0068】
(実験例15~17)
母合金組成を上記基本組成式のx=10、y=5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例15とした。酸処理時間を4時間、8時間とした以外は、実験例15と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例16、実験例17とした。
【0069】
(実験例18)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例18とした。
【0070】
(実験例19)
母合金組成を上記基本組成式のx=20、y=0の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度80℃、酸処理時間5時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例19とした。
【0071】
(実験例20~25)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例20とした。酸処理時間を4時間、6時間、8時間、10時間、12時間とした以外は、実験例20と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例21、実験例22、実験例23、実験例24、実験例25とした。
【0072】
(実験例26~28)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度40℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例26とした。酸処理時間を4時間、8時間とした以外は、実験例26と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例27、実験例28とした。
【0073】
(実験例29~32)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度60℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例29とした。酸処理時間を4時間、6時間、8時間とした以外は、実験例29と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例30、実験例31、実験例32とした。
【0074】
(実験例33~35)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度0.1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間5時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例33とした。酸処理時間を7.5時間、10時間とした以外は、実験例33と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例34、実験例35とした。
【0075】
(実験例36~38)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度3mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例36とした。酸処理時間を4時間、6時間とした以外は、実験例36と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例37、実験例38とした。
【0076】
(実験例39~40)
母合金組成を上記基本組成式のx=25、y=2.5の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間4時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例39とした。母合金組成を上記基本組成式のx=35、y=4の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間8時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例40とした。
【0077】
[実験]
(XRD測定及び相構成分析)
酸処理前のアトマイズ粉末及び酸処理後の多孔質シリコン粉末について、X線回折装置(リガク社製UltimaIV)を使用し、Cu管球で、2θ=20°~60°の範囲で、20°/分の速度でX線回折測定を行った。Si相、Al相、Al2Cu相、Cu相、Cu2O相の各相の割合は、アルミナ標準物質を用いて各相のXRDピーク強度比から質量割合で計算した。このX線回折測定結果と、後述のEDXによる元素分析の結果を併用して、上述のように、多孔質シリコン材料におけるSi相、Al相、Al2Cu相、Cu相、Cu酸化物相の割合を算出した。
【0078】
(SEM/EDX測定)
酸処理前のアトマイズ粉末及び酸処理後の多孔質シリコン粉末について、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDX,HITACHI製S-4300)で観察し、組成分析を行った。
【0079】
(細孔分布測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末について、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POREMASTER60GT)で細孔分布を測定した。また、細孔径分布データ中の各サイズの細孔の体積分率の値から平均細孔径を求めた。一般に、多孔質材料の粉末には粒子内の細孔と粒子間の細孔が含まれるが、細孔径分布のデータでは、両者を区別することができない。ここでは、300nm以下の細孔率を粒子内細孔と判断して両者を区別し、粒子内の細孔率及び平均細孔径を求めた。図示は省略するが、細孔径分布では、500~600nmと、100nm付近にピークがあった。酸処理前のアトマイズ粉末の細孔径分布データや、SEMとの比較により100nm付近のピークを粒子内細孔のピークと判断し、両ピークの境界である300nmを基準にして、上述のように300nm以下の細孔を粒子内細孔と判断した。なお、酸処理前の試料と酸処理後の試料の細孔径分布のデータを比較することにより、粒子内の細孔と粒子間の細孔とを区別し、粒子内の細孔率及び平均細孔径を求めてもよい。
【0080】
(抵抗率測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末について、200MPaで加圧し、3×1×1mmの圧粉体を作製して、銀ペーストで銅線を焼き付けて、4端子法により抵抗率を評価した。なお、水銀ポロシメータにより加圧後の細孔率を評価した結果、200MPaでは、細孔率の変化がほとんどなかったため、圧粉体作製時の加圧力を200MPaとした。
【0081】
(電池特性の評価)
酸処理後の多孔質シリコン粉末を用いて電池特性の評価を行った。多孔質シリコン粉末60質量部と、カーボンブラック導電助剤20質量部と、ポリイミドバインダー20質量部とを混合し、N-メチルピロリドン溶媒中で撹拌してスラリーを得た。このスラリーを銅集電箔に塗布した後、NMP溶媒を除去して合材電極を得た。合材電極を直径16mmのパンチでくり抜いて作製した負極電極に、多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ね、電解液を注液することにより、トムセル型小型電池セルを用いてリチウム二次電池を製造した。電解液は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を15体積部、エチレンカーボネート(EC)を15体積部、ジメチルカーボネート(DMC)を30体積部、エチルメチルカーボネート(EMC)を30体積部含む混合溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解したものを使用した。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0.005V~1.5Vの範囲で0.2Cの電流密度による充放電を10サイクル繰り返し行った。なお、多孔質シリコン粉末がリチウムを吸蔵する反応を充電と称し、多孔質シリコン粉末がリチウムを放出する反応を放電と称する。そして、初期容量、10サイクル後容量、容量維持率を求めた。初期容量は、多孔質シリコン粉末の重量あたりの初回放電容量とした。10サイクル後容量は、多孔質シリコン粉末の重量あたりの10サイクル目の放電容量とした。容量維持率は、初期容量に対する、10サイクル後容量の比とした。
【0082】
[結果と考察]
表1~5に、実験例1~40の評価結果をまとめた。表1~5に示すように、実験例1~3,5~12,18,39,40では、100000Ωcm以下の、低い抵抗を実現できることがわかった。実験例20~29,33~36も、同様に、低い抵抗を実現できると推察された。以下、詳細に検討した。
【0083】
多孔質シリコンに含まれる結晶相について検討した。
図4に、実験例20~25の多孔質シリコンのX線回折図を示した。
図4には、酸処理前のアトマイズ粉末のX線回折図も示した。酸処理前のアトマイズ粉末では、含有相として、Si相、Al相およびAl
2Cu相が確認でき、室温における状態図の平衡相(
図1)と一致する結果が得られた。これを、酸処理すると、Al相とAl
2Cu相からAlが徐々に溶解し、Al相のピーク強度が減少するとともに、Al
2Cu相からAlが溶出してCu相が生成していくのが確認された。また、副生成物として微量のCu
2O相の存在も確認された。この母合金組成、酸濃度、酸処理温度では、8時間よりも処理時間を長くするとAl相およびAl
2Cu相のピークが消滅し、ほぼ完全にAlが除去されることが分かった。
【0084】
多孔質シリコンの外観及び組成について検討した。
図5に、Al
72.5Si
25Cu
2.5アトマイズ粉末の酸処理前(
図5A)及びAl成分完全除去後(
図5B)のSEM像を示した。また、
図6に、実験例20~23の多孔質シリコンのSEM像を示した。
図6には、各多孔質シリコンについて、EDXで求めたAl量[at%]及びEDXとXRDとを併用して求めたAl相量[mol%]も示した。8時間の処理では、それよりも短時間で処理を行ったものよりも、粉末の割れが多く見られた。これは、比較的多くのAlが溶出し、細孔構造を維持できないものがあったためと推察された。処理時間6時間以内の場合には、多くの粉末が球状構造を維持していた。これは、Al相の残存量が大きく、細孔構造の破壊が抑制されたためと推察された。この様に、Al-Si-Cu合金から得られる多孔体の構造を維持する観点から、Al相は、5mol%以上残存していることが望ましいと推察された。
【0085】
Al残存量を制御するための条件を検討した。
図7に、実験例20~32の多孔質シリコン(平均直径2μm)の酸処理時間とAl含有量及び銅溶出量との関係を示した。25℃で処理した場合、8時間以内の処理では、処理時間とともにAlの残存量が徐々に減少し、10時間に向けて一定値に収束する傾向が見られた。これは、XRDの測定結果と一致しており、25℃の処理において、8時間以内の酸処理で、Al残存量をある程度制御できることを示していると推察された。他方、40℃以上で処理した場合には、2時間以内にAl残存量が飽和して、Al残存量を制御できないことが分かった。また、Cuに関しても、25℃の処理では、ほとんど溶解しなかったが、40℃以上の処理では、溶解してしまい、Cuの残存量が少なくなることが分かった。
図8に、実験例20~25及び実験例33~38の酸処理時間とAl含有量及び銅溶出量との関係を示した。1mol/Lの塩酸を使用した場合、最初の2時間で半分程度のAlが溶解したがその後緩やかにAlが溶解し、8時間程度で溶解量が飽和した。他方、3mol/Lの塩酸水溶液で処理した場合、2時間程度で大部分のAlが溶解してしまい、残存量が制御できなかった。Cuに関しても同様に、3mol/Lの水溶液で処理した場合には、4時間程度でほぼ完全にCuが溶解してしまった。他方、1mol/Lよりも低い濃度の塩酸で処理した場合には、Cuがほとんど溶解しないことが分かった。25℃、1mol/Lの塩酸で処理した場合、6時間超過の処理で粒子破壊が目立つようになったが、粒子破壊抑制の観点から、酸処理後のAl含有量は、14at%以上が好ましいと推察された。ただし、
図7及び
図8のAl含有量[at%]は、SiとAlとCuとの全体を100at%としたときのAl量[at%]とした。
図9に、実験例20~25の多孔質シリコンの酸処理時間と、酸処理後のAl相含有割合との関係を示した。上述した様に、1mol/Lの塩酸で処理した場合、6時間以内の処理では、粒子構造が維持されており、その場合のAl相の含有量は5mol%程度であった。即ち、粒子破壊抑制の観点から、酸処理後のAl相含有量は、5mol%以上が好ましいと推察された。
【0086】
細孔構造について検討した。
図10に、実験例21,23,24の多孔質シリコンの細孔径分布図を示した。細孔径分布には、粒内細孔のピークと粒間細孔のピークが含まれるが、酸処理時間が短い場合(7時間以内)、これらのピークは完全に分離していた。しかしながら、酸処理時間が長くなるにつれて粒間細孔のピークが小細孔側にシフトするとともに、両者の境界が曖昧になった。特に、8時間を超えると、両ピークの重複が大きくなった。これは、粒子構造の破壊と、微細化粒子の凝集による新たな粒間細孔の形成を示していると推察され、SEMによる微細構造の破壊の傾向と一致していると推察された。細孔分布からピーク分離により粒内細孔を抽出し、その細孔率を求めた(実測値)。更に、EDXにより測定した各元素の割合から、理論細孔率を計算した(理論値)。具体的には、酸処理前後のAlとSiとCuとの元素比を比較することによりAl元素とCu元素の減少量を計算し、Cu及びAlの密度から空孔の体積を求め、酸処理前のAlSiCu合金の平均密度から求めた体積と比較することで理論細孔率を計算した。この場合、酸化による体積増加が生じている可能性があるが、酸化物の生成量が小さいため無視した。
図11に、実験例20~25の多孔質シリコンの酸処理時間及び酸処理後のAl相含有割合と細孔率(実測値及び理論値)との関係を示した。酸処理時間が短い場合、細孔率の実測値は、理論値よりも大きくなる傾向が見られたが、酸処理時間が6時間以上になるとその関係が逆転した(
図11A)。これは、粒子の破壊により粒内細孔が減少することを示していると推察された。また、Al相含有割合が5mol%よりも少ない組成では、粒内細孔率が理論細孔率を下回った(
図11B)。以上より、粒子の細孔構造を維持する観点から、酸処理後のAl相含有量は、5mol%以上が好ましいと推察された(
図12)。
【0087】
酸処理時のAl溶解量の制御について、粒子径の観点から検討した。Al溶解量には、酸濃度、酸処理温度、酸処理時間などが影響するほか、母合金の粒子径も影響する可能性がある。本開示の実施例では、球状のアトマイズ粉末を酸処理したが、その場合、粒子表面から溶解が進み、一定時間後には、多孔化された表面層と多孔化されていない中心部分に分かれると考えられる(
図12Bの酸処理溶解モデル参照)。ここで、アトマイズ法による急冷後の粒子は、Si相、Al相、CuAl
2相に相分離しており、酸処理により、CuAl
2相が更にCu相、Cu
2O相などに変化していくと考えられる。ここでは、粒子の表面から中心に向けてこれらの相の分布が一様であると仮定した。更に酸処理により溶解層(シェル部分)が完全に多孔化されて、その部分の細孔率が全体組成の理論細孔率に一致するとし、各酸処理時間ごとの粒子全体の細孔率から、溶解に伴う溶解層の厚み増加を評価した。
図12に、実験例5,6,9~11,15~17,39の多孔質シリコンの酸処理時間と溶解層厚みとの関係を示した。母合金中のAl含有量が多いほど、溶解層の厚みが薄くなる傾向が見られた。また、溶解層厚みは初期の2時間で急激に増加しその後飽和する傾向が見られた。
図13に、実験例5,12,15の多孔質シリコンの酸処理前Al含有量と初期溶解速度との関係を示した。なお、溶解速度は、溶解層厚みの変化速度とし、初期溶解速度は、酸処理開始から2時間での溶解層厚みの変化速度とした。溶解速度は、酸処理前のAl含有量と相関が見られ、Al含有量が増えるほど、溶解速度が低下した。
図14に、実験例5,6,9~11,15~17,39の多孔質シリコンを用いて検討した、コア部粒子径(未溶解コア部分の直径)と溶解速度の関係を示した。溶解速度は、コア部分の直径に対して直線的に変化することがわかった。
図14では、2μmのアトマイズ粉末を用いたが、
図14を外挿することで、2μm以外のアトマイズ粉末に対しても、溶解速度を予測することができると推察された。なお、
図14では、母合金組成ごとに、酸処理開始から、0~2時間、2~4時間および4~8時間の間に多孔化が進んだシェル部分の厚み変化をAl溶解速度として示した。シェル部分の厚み変化は、
図12に示した溶解層厚みを用いて算出した。
【0088】
多孔質シリコンの抵抗率について検討した。まず、全導電相(Al相、Al
2Cu相、Cu相)の含有量が抵抗率に及ぼす影響を検討した。
図15に、実験例5,6,8~17の多孔質シリコンの導電相割合と抵抗率との関係を示した。導電相は基本的に、抵抗率を低減するので、導電相の割合が増えるほど抵抗率は低下する傾向が見られた。ただし、酸処理時に副生するCu
2O相は抵抗率が高く、電気伝導を阻害すると推察された。Cu
2O相の含有量が2mol%よりも高い場合、導電相の割合が多い組成でも、導電相を含まない多孔体シリコン粉末よりも抵抗率が高い傾向が見られた。従って、Cu
2O相の含有量は、2mol%以下であることが望ましいと推察された。Cu
2O相含有割合が1mol%よりも低い場合は最も抵抗率が低い傾向が見られたが、導電相を含まない場合と比べて1桁以上の抵抗率低減(<10000Ωcm)を実現するためには、導電相が10mol%以上であることが好ましいと推察された。導電相は多いほど、抵抗率が低下する傾向が見られる一方、導電相が増えるとSi相の含有量が減るので、電池の実質的な容量が減ってしまうことが推察された。そのため、導電相は40mol%以下であることが好ましいと推察された。また、Cu含有導電相(CuAl
2相及びCu相)が抵抗率に及ぼす影響を検討した。
図16に、実験例8,14,10,39,40の多孔質シリコンのCu含有導電相割合と抵抗率との関係を示した。Al相およびCu
2O相の割合が比較的近い試料で比較すると、Cu含有導電相の含有量が僅かに増えるだけで抵抗率が急激に低下する傾向が見られた。
図17Aに示すように、Cu含有導電相を増やすためには母合金中のCu元素の割合を増やす必要があると推察された。ただし、Cu元素の割合を増やすと、
図17Bに示すように、酸処理時のCu
2O相の生成量も増えてしまう傾向があることから、Cu
2O相の生成量を2mol%以下に抑制する観点から、Cu元素の割合は15at%以下であることが望ましいと推察された。また、Cu含有導電相量を確保する観点から、Cu元素の割合は5at%以上であることが好ましいと推察された。なお、
図17は、実験例5~8,12~16,39、40の多孔質シリコンのCu含有量とCu含有導電相割合(
図17A)及びCu
2O生成量(
図17B)との関係を示すグラフである。
【0089】
電池特性について検討した。表1,2に示すように、Al相含有量が多い組成ほど容量が低下する傾向が見られた。Al相を40mol%以上含む場合、サイクル特性も低くなった。これはAl相の増加で細孔率が低下したためと思われる。また、Al相含有量が2mol%以下の場合にも若干容量維持率が低下した。これは、細孔構造の破壊による細孔率低下が影響していると推察された。Al相が20mol%程度では、比較的高い容量と、サイクル特性が両立され、より好ましいことがわかった。電池特性をより高める観点から、Al相は2mol%以上40mol%以下が好ましく、5mol%以上35mol%以下がより好ましいと推察された。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、20,20B 多孔質シリコン材料、21 Si相、22 Al相、23 Cu含有導電相、24 骨格、26 空隙、28 コア部、29 シェル部、D 厚み、L 融液。