(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137163
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】疲労評価方法及び疲労評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240927BHJP
G01N 33/204 20190101ALI20240927BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240927BHJP
【FI】
G06F30/23
G01N33/204
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048574
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】樋口 良太
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中山 英介
(72)【発明者】
【氏名】早川 守
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 岳行
【テーマコード(参考)】
2G024
2G055
5B146
【Fターム(参考)】
2G024AD18
2G024BA12
2G024BA17
2G024FA06
2G055AA03
2G055BA05
2G055BA11
2G055EA08
2G055FA01
5B146AA10
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価方法及び疲労評価プログラムを提供する。
【解決手段】疲労評価方法は、有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程(ステップS4-A)と、せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和を算出する工程(ステップS4-B)と、前記総和に基づいて試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程(ステップS4-C)と、を備える。損傷指数を求める工程(ステップS4-C)では、下記式(1)又は式(2)に基づいて損傷指数Dを求める。
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな総和の値であり、式(2)において、V
iは考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程と、
前記せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和を算出する工程と、
前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程と、を備え、
前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める、疲労評価方法。
【数1】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【請求項2】
予め行われた複数の疲労試験のデータに基づいて、前記複数の疲労試験の各々について、
(A)有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程、
(B)前記せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和を算出する工程、及び
(C)前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程、
を行う工程と、
前記損傷指数と疲労寿命との関係であるマスターカーブを作成する工程と、
上記(A)~(C)と同じ工程によって対象部品の損傷指数を求める工程と、
前記対象部品の損傷指数及び前記マスターカーブに基づいて、前記対象部品の疲労寿命を予測する工程と、を備え、
前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める、疲労評価方法。
【数2】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【請求項3】
有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程と、
前記せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和を算出する工程と、
前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程と、をコンピュータに実行させ、
前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める、疲労評価プログラム。
【数3】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【請求項4】
予め行われた複数の疲労試験のデータに基づいて、前記複数の疲労試験の各々について、
(A)有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程、
(B)前記せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和を算出する工程、及び
(C)前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程、
を行う工程と、
前記損傷指数と疲労寿命との関係であるマスターカーブを作成する工程と、
上記(A)~(C)と同じ工程によって対象部品の損傷指数を求める工程と、
前記対象部品の損傷指数及び前記マスターカーブに基づいて、前記対象部品の疲労寿命を予測する工程と、をコンピュータに実行させ、
前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める、疲労評価プログラム。
【数4】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労評価方法及び疲労評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や鉄道車両部品、橋梁をはじめとした鉄鋼製品の安全性確保・長寿命化が社会的に重要な課題となっており、鉄鋼材料の高疲労強度化が求められている。高疲労強度化を実現するための設計指針を得るためには、高疲労強度化の効果の定量化や疲労寿命の予測技術を確立する必要がある。
【0003】
特開2017-187472号公報には、繰返し荷重が構造物に作用した場合に構造物に生じる疲労損傷を高い精度で評価する疲労評価方法が開示されている。この疲労評価方法は、試験体の試験結果とシミュレーションの結果とを比較して収束条件を満たすか判定し、収束条件を満たさない場合にはシミュレーションの条件を調整し、収束条件を満たす場合にはシミュレーションの条件を確定して、確定したシミュレーションの条件を用いて解析対象の疲労損傷を評価する。
【0004】
特許第2791174号公報には、電子部品はんだ接続寿命評価法が開示されている。この評価法は、電気回路機器のはんだ接続部に発生するせん断ひずみを求める第1工程と、予め有限要素法三次元熱弾性塑性解析から求めた相当ひずみ振幅と上記せん断ひずみとの関係から相当ひずみ振幅を求める第2工程と、予め温度サイクル試験後の破面解析によって求めたき裂進展速度と上記相当ひずみ振幅との関係を示すき裂進展速度式を求める第3工程と、上記相当ひずみ振幅とき裂の長さと寿命サイクル数との関係を示す寿命評価基準式より寿命を求める第4工程とからなる。
【0005】
非特許文献1には、α鉄における疲労き裂の評価のためのミクロ組織のモデル化及び結晶塑性シミュレーションについて記載されている。同文献では、平均せん断ひずみ振幅(average shear strain amplitude)と、疲労指数パラメータ(Fatigue Indicator Parameter)との関係が議論されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-187472号公報
【特許文献2】特許第2791174号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Briffod, T. Shiraiwa and M. Enoki, "Microstructure modeling and crystal plasticity simulations for the evaluation of fatigue crack initiation in α-iron specimen including an elliptic defect", Material Science and Engineering A, Vol. 695(2017), pp. 165-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
疲労特性に優れた鋼材を開発するためには、繰返し負荷が作用する際の応力やひずみの発生を把握し、疲労き裂発生機構を解明する必要がある。材料設計指針の決定においては、結晶粒径分布や結晶方位分布等の組織形態に依存する微視的な応力やひずみを把握し、高疲労強度化を実現するための最適な組織形態を探索する必要がある。また、高疲労強度化を実現できているかを判断するためには、組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価方法が必要となる。
【0009】
本発明の課題は、組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価方法、及び疲労評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態による疲労評価方法は、有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程と、前記せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和を算出する工程と、前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程と、を備え、前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める。
【数1】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【0011】
本発明の別の実施形態による疲労評価方法は、予め行われた複数の疲労試験のデータに基づいて、前記複数の疲労試験の各々について、(A)有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程、(B)前記せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和を算出する工程、及び(C)前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程、を行う工程と、前記損傷指数と疲労寿命との関係であるマスターカーブを作成する工程と、上記(A)~(C)と同じ工程によって対象部品の損傷指数を求める工程と、前記対象部品の損傷指数及び前記マスターカーブに基づいて、前記対象部品の疲労寿命を予測する工程と、を備え、前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める。
【数2】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【0012】
本発明の一実施形態による疲労評価プログラムは、有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程と、前記せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和を算出する工程と、前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程と、をコンピュータに実行させ、前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める。
【数3】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【0013】
本発明の別の実施形態による疲労評価プログラムは、予め行われた複数の疲労試験のデータに基づいて、前記複数の疲労試験の各々について、(A)有限要素法を用いて、複数の結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程、(B)前記せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和を算出する工程、及び(C)前記総和に基づいて前記試験片の損傷の指標である損傷指数を求める工程、を行う工程と、前記損傷指数と疲労寿命との関係であるマスターカーブを作成する工程と、上記(A)~(C)と同じ工程によって対象部品の損傷指数を求める工程と、前記対象部品の損傷指数及び前記マスターカーブに基づいて、前記対象部品の疲労寿命を予測する工程と、をコンピュータに実行させ、前記損傷指数を求める工程では、下記の式(1)又は式(2)に基づいて前記損傷指数Dを求める。
【数4】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな前記総和の値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で前記総和の値がi番目に大きな要素の体積である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図2は、EBSDによる結晶方位解析を行って得られた、試験片中央付近の0.9mm×0.9mmの領域(
図1の領域A)の結晶方位分布である。
【
図3】
図3は、結晶方位解析で得られた結晶粒界の情報をもとに作成した多結晶モデルである。
【
図4】
図4は、「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」(損傷パラメータ)の分布である。
【
図5】
図5は、実験で観察された疲労損傷箇所を示す図である。
【
図6】
図6は、bcc結晶構造のすべり系を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、せん断ひずみの時間変化を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、すべり面と試験片面外方向との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、疲労試験後の試験片の表面近傍の断面を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態による疲労評価方法のフロー図である。
【
図11】
図11は、応力振幅σと疲労寿命Nとの関係を示す図である。
【
図12】
図12は、応力振幅σがσ
1の疲労試験における損傷パラメータdの頻度分布を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、応力振幅σがσ
1、σ
2、…、σ
kの疲労試験における損傷パラメータdの頻度分布を模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、対象部品の損傷パラメータdの頻度分布を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、マスターカーブを用いた疲労寿命の予測方法を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、応力振幅が132MPaのときの損傷パラメータの分布である。
【
図19】
図19は、応力振幅が150MPaのときの損傷パラメータの分布である。
【
図20】
図20は、応力振幅が160MPaのときの損傷パラメータの分布である。
【
図21】
図21は、応力振幅が132MPaのときの損傷パラメータの頻度分布である。
【
図22】
図22は、応力振幅が150MPaのときの損傷パラメータの頻度分布である。
【
図23】
図23は、応力振幅が160MPaのときの損傷パラメータの頻度分布である。
【
図25】
図25は、疲労試験の結果から得たマスターカーブを示す図である。
【
図26】
図26は、結晶粒径の異なる供試材の結晶方位分布である。
【
図27】
図27は、平均結晶粒径が100μmの供試材の解析で使用した解析モデルを示す図である。
【
図28】
図28は、疲労寿命の実験値と予測値とを比較した散布図である。
【
図29】
図29は、仮想材の解析で使用した解析モデルである。
【
図30】
図30は、予測式(A)を用いた疲労寿命の予測結果を示すグラフである。
【
図31】
図31は、式(1)から計算した損傷指数Dを用いて導出したマスターカーブである。
【
図32】
図32は、予測式(A-1)を用いた疲労寿命の予測結果を示すグラフである。
【
図33】
図33は、式(2)から計算した損傷指数Dを用いて導出したマスターカーブである。
【
図34】
図34は、予測式(A-2)を用いた疲労寿命の予測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
微視的な応力やひずみを実験的に評価することが難しい場合、数値シミュレーションが有効な手段となる。結晶塑性解析は結晶学的なすべりに基づいて金属の塑性変形異方性を表現する数値解析手法であり、結晶粒レベルの微視的な応力やひずみを評価することができる。
【0017】
本発明者は、過去に実施された疲労試験をモデル化して結晶塑性解析を実施し、実験で観測された疲労損傷箇所の分布を説明できる物理量(パラメータ)について検討した。
【0018】
解析対象の疲労試験は、極低炭素鋼の供試材から
図1に示す形状の試験片を採取して行われたものである。図中の寸法の単位はmmである。試験片は板状で、紙面に垂直な方向の寸法(厚さ)は1mmである。
図2は、電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶方位解析を行って得られた、試験片中央付近の0.9mm×0.9mmの領域(
図1の領域A)の結晶方位分布である。
図3は、結晶方位解析で得られた結晶粒界の情報をもとに作成した多結晶モデルである。
【0019】
疲労損傷に関連する物理量の候補として、負荷方向応力、最大主応力、負荷方向塑性ひずみ、累計すべり等を検討した。しかし、これらの応力又はひずみが高くなる箇所と実験で観察された疲労損傷部との間には、明確な相関関係は認められなかった。
【0020】
さらに検討を進めた結果、「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」が高くなる箇所と、実験で観察された疲労損傷箇所とがよく一致することを見出した。
図4は、有限要素法(FEM)解析で得られた「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」の分布であり、
図5は、実験で観察された疲労損傷箇所を示す図である。
図5において、ハッチングを付した箇所が疲労損傷箇所である。
【0021】
ここで、「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」について詳しく説明する。
【0022】
結晶塑性解析では、塑性変形がすべり面に沿う特定の方向にせん断(すべり)が生じると仮定して変形解析を行う。
図6は、bcc結晶構造のすべり系を模式的に示す図である。bcc結晶構造の結晶塑性解析では、{110}<111>型の12すべり系と{112}<111>型の12すべり系とを合わせた合計24のすべり系、又はこれに{123}<111>型の24すべり系を加えた合計48のすべり系が用いられることが多い。本解析では、{110}<111>型の12すべり系と{112}<111>型の12すべり系とを合わせた合計24のすべり系を用いた。
【0023】
図7は、せん断ひずみの時間変化を模式的に示す図である。「せん断ひずみ範囲」は、解析最終サイクルにおける、最小荷重時のせん断ひずみと最大荷重時のせん断ひずみとの差の絶対値である。このせん断ひずみ範囲を、上述した24のすべり系の各々について算出する。
【0024】
図8は、すべり面と試験片面外方向との関係を示す図である。せん断ひずみ範囲から、試験片面外方向成分を抽出し、考慮したすべてのすべり系(本解析では24すべり系)での総和を求める。この値が「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」となる。
【0025】
図9は、疲労試験後の試験片の表面近傍の断面を模式的に示す図である。疲労試験後の試験片の表面で観察される突き出し及び入り込み(表面の凹凸)は、結晶面のすべり及び逆すべりによって生じ、き裂発生の原因になると考えられている。せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分は、この突き出し及び入り込みに影響する物理量であると推測できる。
【0026】
以上から、「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和」(以下「損傷パラメータ」と呼ぶ。)を指標として、部品の疲労を評価できることを見出した。
【0027】
本発明者はさらに、この損傷パラメータを用いて、対象部品の疲労寿命を予測する方法を検討した。上述した損傷パラメータは、解析に用いたモデルの要素毎に計算される値である。対象部品の疲労寿命を予測するためには、解析領域全体の損傷の程度を評価することが有効である。
【0028】
解析領域全体の損傷の程度を評価する指標としては例えば、解析領域のうちの所定の領域(例えば、試験片表面に相当する領域)を考慮対象とし、この領域内の損傷パラメータを大きいものから順に要素数の所定割合だけ積算した値(例えば、この領域内における損傷パラメータの上位0.5%の積算値)を用いることができる。
【0029】
さらに検討を進めた結果、このように計算した指標(積算値)は、解析モデルの分割の仕方(要素数や要素の形状)の影響を受けることが分かった。解析モデルの分割の仕方によらずに解析領域全体の損傷の程度を評価するためには、下記の式(1)又は式(2)のように要素数又は要素形状を考慮した損傷指数Dを用いることが有効であることが分かった。
【数5】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな損傷パラメータの値であり、式(2)において、V
iは考慮対象とした領域内の要素の中で損傷パラメータの値がi番目に大きな要素の体積である。
【0030】
本発明は、以上の知見に基づいて完成された。以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0031】
[疲労評価方法]
図10は、本発明の一実施形態による疲労評価方法のフロー図である。この疲労評価方法は、疲労試験のデータを準備する工程(ステップS1)、データの各々を解析する工程(ステップS2)、マスターカーブを作成する工程(ステップS3)、対象部品を解析する工程(ステップS4)、及び、対象部品の疲労寿命を予測する工程(ステップS5)を備えている。
【0032】
本実施形態による疲労評価方法の適用対象は、多結晶体であれば特に限定されないが、好ましくは金属材料であり、さらに好ましくは鉄鋼材料(鉄基合金)である。
【0033】
以下の説明では、「結晶構造に存在する複数のすべり系における、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和」を「損傷パラメータ」と呼ぶ。本実施形態では、この損傷パラメータに基づいて、試験片の損傷の指標である「損傷指数」を算出する。損傷指数の詳細は後述する。本実施形態による疲労評価方法ではまず、予め行われた複数の疲労試験のデータを準備し(ステップS1)、各々について損傷指数を算出し(ステップS2)、損傷指数と疲労寿命との関係であるマスターカーブを作成する(ステップS3)。そして、対象部品についても損傷指数を算出し(ステップS4)、マスターカーブを参照して対象部品の疲労寿命を予測する(ステップS5)。以下、各工程を詳述する。
【0034】
予め行われた複数の疲労試験のデータを準備する(ステップS1)。疲労試験のデータの各々は例えば、試験片形状、評価箇所の結晶方位分布、荷重条件(応力振幅等)、及び疲労寿命(疲労き裂が発生するまでの繰返し数、又は試験片が破断するまでの繰返し数)の情報を含む。
【0035】
結晶方位分布は、疲労試験に使用した試験片をEBSD等によって測定して求めたものであることが好ましいが、同種の材料の結晶方位分布のデータで代用してもよい。また、同一の材料で荷重条件を変えて複数の疲労試験を行う場合、すべての試験片が同一の結晶方位分布を持っていると仮定してもよい。
【0036】
マスターカーブを作成するためには、荷重条件を変えて測定された少なくとも2水準の疲労試験のデータが必要である。疲労試験のデータは、3水準以上あることが好ましい。
【0037】
複数の疲労試験のデータの各々を解析する(ステップS2)。具体的には、複数の疲労試験のデータの各々について、(A)複数の結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程(ステップS2-A)、(B)せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和(すなわち、損傷パラメータ)を算出する工程(ステップS2-B)、及び(C)損傷パラメータに基づいて損傷指数を算出する工程(ステップS2-C)を行う。これらの解析は、例えばFEM解析によって行うことができる。
【0038】
この解析に用いるすべり系として、これらに限定されないが、例えばfcc結晶構造では{111}<110>型の12すべり系を用いることができる。bcc結晶構造の結晶塑性解析では前述のとおり、{110}<111>型の12すべり系と{112}<111>型の12すべり系とを合わせた合計24のすべり系、又はこれに{123}<111>型の24すべり系を加えた合計48のすべり系が用いられることが多い。これらに代えて、例えば{110}<111>型の12すべり系を用いて解析を行ってもよい。
【0039】
また、hcp結晶構造では、例えば下記のすべり系を用いることができる。
【数6】
【0040】
対象とする結晶すべり系の各々について、試験片に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する(ステップS2-A)。せん断ひずみ範囲は、加工硬化によってサイクル毎に変化する。加工硬化を考慮したせん断ひずみ範囲は例えば、D. Pierce, R.J. Asaro, A. Needleman, Acta metall., vol.30(1982), pp.1087-1119に記載された式を用いて求めることができる。疲労試験では数千サイクルから数十万サイクルの繰返し負荷を作用させる場合もあるが、FEM解析によってせん断ひずみ範囲を算出する場合、計算コストの観点から数サイクルで計算を打ち切り、最終サイクルでのせん断ひずみ範囲を算出するのが現実的である。
【0041】
せん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分の総和を算出する(ステップS2-B)。より具体的には、すべり面と全体座標系との関係からせん断ひずみ範囲の試験片面外方向成分(試験片の表面と垂直な方向の成分)を抽出し、ステップS2-Aで考慮した全ての結晶すべり系での総和を算出する。本実施形態では、この総和を「損傷パラメータ」と呼ぶ。この損傷パラメータが大きい箇所は、繰返し負荷によってき裂が発生しやすい箇所であると評価できる。
【0042】
損傷パラメータに基づいて、以下に説明する「損傷指数」を算出する(ステップS2-C)。上述した損傷パラメータは、解析に用いたモデルの要素毎に計算される値である。解析領域全体の損傷の程度を評価する指標として、「損傷指数」を算出する。
【0043】
損傷指数は、解析領域のうちの所定の領域を考慮対象とし、この領域内の損傷パラメータに基づいて算出する。より具体的には、下記の式(1)又は式(2)に基づいて損傷指数Dを求める。
【数7】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域内の要素の数であり、sは0<s≦1の数であり、d
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな損傷パラメータの値であり、式(2)において、V
iは前記考慮対象とした領域内の要素の中で損傷パラメータの値がi番目に大きな要素の体積である。
【0044】
上記のように損傷指数Dを求めることで、解析モデルの分割の仕方によらず、解析領域全体の損傷の程度を評価することができる。
【0045】
考慮対象とする領域は、例えば損傷しやすい(応力が集中しやすい)と予想できる領域であり、具体的には、試験片の最表層に相当する領域、孔、段や溝、欠陥やきずの近傍の領域等である。考慮対象とする領域は、解析対象領域の全域であってもよい。
【0046】
sは、好ましくは1.00未満(100%未満)であり、さらに好ましくは0.05以下(5%以下)であり、さらに好ましくは0.005以下(0.5%以下)であり、さらに好ましくは0.001以下(0.1%以下)である。
【0047】
以上の工程によって、複数の疲労試験のデータの各々について損傷指数が算出される。
【0048】
ステップS2で得られた損傷指数と、疲労試験で得られている疲労寿命とから、損傷指数と疲労寿命の関係であるマスターカーブを作成する(ステップS3)。
【0049】
次に、疲労評価の対象となる対象部品についても、同様に結晶塑性解析を行う(ステップS4)。具体的には、(A)複数の結晶すべり系の各々について、対象部品に繰返し負荷を作用させた際のせん断ひずみ範囲を算出する工程(ステップS4-A)、(B)せん断ひずみ範囲の部品面外方向成分の総和(すなわち、損傷パラメータ)を算出する工程(ステップS4-B)、及び(C)損傷パラメータに基づいて損傷指数を算出する工程(ステップS4-C)を行う。ステップS4-Cにおいても、ステップS2-Cと同様に、式(1)又は式(2)に基づいて損傷指数Dを求める。
【0050】
対象部品は、マスターカーブの作成に用いた試験片と同種の材料からなるものであることが好ましく、同一の化学組成を持った材料からなるものであることがより好ましい。一方、マスターカーブの作成に用いた試験片の結晶方位分布と対象部品の結晶方位分布とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
最後に、ステップS4で得られた対象部品の損傷指数と、ステップS3で得られたマスターカーブとに基づいて、対象部品の疲労寿命を予測する(ステップS5)。
【0052】
図11~
図15を参照して、上述した疲労評価方法の一例を説明する。複数の疲労試験のデータの例として、同一の材料に対して応力振幅σをσ
1、σ
2、…、σ
kに変えて行った疲労試験のデータを考える。
図11は、応力振幅σと疲労寿命(疲労き裂が発生するまでの繰返し数、又は試験片が破断するまでの繰返し数)Nとの関係を示す図(S-N曲線)である。
【0053】
まず、応力振幅σがσ
1の疲労試験のデータに対して上述した結晶塑性解析を行い、解析モデルの各要素について損傷パラメータdを算出する。
図12は、応力振幅σがσ
1の疲労試験における損傷パラメータdの頻度分布を模式的に示す図である。損傷パラメータdに基づいて、応力振幅σがσ
1の疲労試験のデータにおける損傷指数D
1を算出する。
【0054】
応力振幅σがσ
2、…、σ
kの疲労試験のデータに対しても、同様に結晶塑性解析を行って損傷指数D
2、…、D
kを算出する(
図13)。疲労試験で得られている疲労寿命N
1、N
2、…、N
kと損傷指数D
1、D
2、…、D
kとを対応させることによって、疲労寿命を予測するためのマスターカーブが得られる(
図14)。マスターカーブでは、Dは下記のように、Nの関数fで表される。
D=f(N)
【0055】
疲労評価の対象となる対象部品についても、同様の結晶塑性解析を行って、損傷指数D
Xを求める(
図15)。部品の疲労寿命は下記のように、D
Xに対応するNをfの逆関数から求める(
図16)。
N=f
-1(D)
【0056】
以上、本発明の一実施形態による疲労評価方法を説明した。本実施形態によれば、組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価が可能になる。
【0057】
上述した疲労評価方法は、コンピュータプログラムとしても実現可能である。本発明の一実施形態による疲労評価プログラムは、疲労試験のデータを受け付ける工程、データの各々を解析する工程、マスターカーブを作成する工程、対象部品を解析する工程、及び、対象部品の疲労寿命を予測する工程をコンピュータに実行させる。本実施形態によっても、組織形態の疲労損傷への影響を考慮した疲労評価が可能になる。
【実施例0058】
以下、実施例(解析例)によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
過去に実施された疲労試験をモデル化して結晶塑性解析を実施した。解析対象の疲労試験で用いられた供試材は、表1に示す化学組成を有する極低炭素鋼である。
【0060】
【0061】
疲労試験は、この供試材から
図1に示す形状の試験片を採取して行われた。図中の寸法の単位はmmである。試験片は板状で、紙面に垂直な方向の寸法(厚さ)は1mmである。疲労試験の結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
なお、実際に試験を実施した応力振幅は132MPaと160MPaの2水準であり、応力振幅150MPaの疲労き裂発生寿命は前述の2条件の試験結果を内挿した推定値である。
【0064】
試験片全体の結晶粒形状を測定して結晶塑性解析を行うことは、測定作業や計算コストの面から合理的ではない。そのため、試験片中央付近のみを解析対象とした。
図2は、応力振幅132MPaの試験に用いた試験片について、EBSDによる結晶方位解析を行って得られた、試験片中央付近の0.9mm×0.9mmの領域(
図1の領域A)の結晶方位分布である。
図3は、結晶方位解析で得られた結晶粒界の情報をもとに作成した多結晶モデルである。なお、応力振幅150MPa及び160MPaの疲労試験の試験片についてはEBSD解析情報がなかったため、
図3と同じ多結晶モデルを使用することとした。
【0065】
図17は、FEM解析の境界条件を示す図である。試験片表面での疲労損傷の推定を目的とするため、試験片厚さ方向については試験片厚さ1mmのうちの表面から0.05mmの部分のみを取り出し、厚さ方向には同一形状で同一結晶方位の結晶粒が続いていると仮定して解析を行った。総要素数は49575とした。解析領域の左端に対称境界を設定し、右端には疲労試験での応力振幅条件で5サイクル負荷を加えた。
【0066】
FEM解析により、各すべり系のせん断ひずみ範囲(5サイクル目の最大値と最小値との差)を算出した。すべり面と全体座標系との関係から、せん断ひずみ範囲の試験片面外方向(ここではz方向)の成分を抽出し、それらの24すべり系({110}<111>型の12すべり系と{112}<111>型の12すべり系とを合わせた合計24のすべり系)についての総和(損傷パラメータ)を算出した。
【0067】
図18、
図19、及び
図20は、それぞれ応力振幅が132MPa、150MPa、及び160MPaのときの損傷パラメータの分布である。
図18~
図20から、応力振幅が大きくなるにしたがって損傷パラメータが大きくなる箇所が拡がっていくことが分かる。
【0068】
図21、
図22、及び
図23は、それぞれ応力振幅が132MPa、150MPa、及び160MPaのときの損傷パラメータの頻度分布である。
図21~
図23の頻度分布は、解析モデルの全要素のうち、試験片表面に相当する要素(
図24を参照)を対象として求めた。各応力振幅条件での頻度分布から、上位0.5%までの損傷パラメータの総和を損傷指数Dとして求めた。具体的には、下記の式(3)に基づいて損傷指数Dを求めた。
【数8】
式(3)において、Nは考慮対象とした領域(試験片表面に相当する領域)内の要素の数であり、sは0.005(0.5%)であり、d
iは考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな損傷パラメータの値である。
【0069】
この損傷指数Dを各応力振幅条件での疲労寿命Nと対応させることにより、
図25のマスターカーブを得た。このマスターカーブは次式で表される。
D=4.33×10
13・N
-4.28
なお、マスターカーブは上記の関数形に限定されない。
【0070】
他の試験条件での疲労寿命は、結晶塑性解析から損傷指数Dを求め、それに対応する疲労寿命を下記の式(A)に代入して求めることができる。
【数9】
【0071】
この予測式(A)の妥当性を検証するため、他鋼材の疲労試験の解析を行った。供試材は、表1と同じ化学組成で、結晶粒径が異なる極低炭素鋼である。この供試材の結晶方位分布を
図26に示す。この供試材の平均結晶粒径は100μmであるのに対し、
図2で示した供試材の平均結晶粒径は400μmである。この供試材から、
図1と同じ形状の試験片を採取して疲労試験を実施した。試験条件及び試験結果を表3に示す。
【0072】
【0073】
結晶方位解析で得られた結晶粒界の情報をもとに多結晶モデルを作成し、表3の応力振幅条件で結晶塑性解析を行った。
図27に、平均結晶粒径が100μmの供試材の解析で使用した解析モデルを示す。この解析モデルは、要素数が51610であり、基準要素寸法が0.01mmであった。
【0074】
損傷指数Dを求め、式(A)に代入して疲労寿命Nを予測した。結果を
図28に示す。疲労寿命予測で一般的に精度が良いとされている誤差1/2~2倍以内で予測できており、本疲労評価方法の妥当性を確認した。
【0075】
次に、表1と同じ化学組成で、平均結晶粒径が約100μmとなるようにしたまま、結晶粒の形状を変化させた仮想材(仮想材1~5)の疲労寿命予測を行った。結晶方位は適当に割り当てた。
【0076】
図29に、仮想材の解析に用いた解析モデルの一例を示す。この解析モデルは、要素数が8725であり、基準要素寸法が0.002mmであった。
【0077】
予測式(A)を用いた疲労寿命の予測結果を
図30に示す。
図30に示すように、仮想材と供試材とは同鋼種であるにも関わらず、疲労寿命に大きな差異が生じた。
【0078】
これは、供試材の解析に使用した解析モデル(
図27)と仮想材の解析で使用した解析モデル(
図29)との間で、解析領域の大きさや分割数、各要素の形状等に違いがあったことによるものと考えられる。
図25のマスターカーブ及び予測式(A)は、要素数等の影響を考慮していない式(3)から計算した損傷指数Dを用いて導出したものであった。そこで、要素数等の影響を考慮した式(1)及び式(2)を用いて損傷指数Dを計算し、マスターカーブ及び疲労寿命の予測式を導出した。
【数10】
式(1)及び式(2)において、Nは考慮対象とした領域(試験片表面に相当する領域)内の要素の数であり、sは0.005(0.5%)であり、d
iは考慮対象とした領域内の要素の中でi番目に大きな損傷パラメータの値であり、式(2)において、V
iは考慮対象とした領域内の要素の中で損傷パラメータの値がi番目に大きな要素の体積である。
【0079】
図31は、式(1)から計算した損傷指数Dを用いて導出したマスターカーブである。このマスターカーブの逆関数から、下記の予測式(A-1)を得た。
【数11】
【0080】
予測式(A-1)を用いた疲労寿命の予測結果を
図32に示す。
【0081】
図33は、式(2)から計算した損傷指数Dを用いて導出したマスターカーブである。このマスターカーブの逆関数から、下記の予測式(A-2)を得た。
【数12】
【0082】
予測式(A-2)を用いた疲労寿命の予測結果を
図34に示す。
【0083】
図32及び
図34に示すように、式(1)から計算した損傷指数Dを用いて導出した予測式(A-1)、又は式(2)から計算した損傷指数Dを用いて導出した予測式(A-2)を用いることで、試験材と仮想材とで疲労寿命の予測結果がほぼ同程度となった。このように、式(1)又は式(2)から計算した損傷指数Dを用いることで、解析モデルの要素数や要素形状に依存することなく、どのような要素分割の仕方でも疲労寿命を適正に予測することが可能になった。
【0084】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示にすぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。