(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137168
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】逐次成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/18 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B21D22/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048579
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】浅野 瞭
(72)【発明者】
【氏名】佐田 和美
(72)【発明者】
【氏名】小山田 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】濱野 智史
(72)【発明者】
【氏名】石崎 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】長井 圭祐
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137AA28
4E137BB01
4E137CA05
4E137DA13
4E137EA16
4E137FA08
4E137FA12
4E137FA22
4E137GA01
4E137GB02
(57)【要約】
【課題】従来の逐次成形方法では、成形部の周囲に微小な凹凸が発生することがあった。
【解決手段】金属板Wに工具Tの先端を押し付けて移動させることにより、金属板Wを厚さ方向に次第に変形させて三次元形状に成形する逐次成形方法において、金属板Wに成形部Fを成形した後、金属板Wにおける成形部Fの外側に生じた微小凹凸Qに対して工具Tの先端を押し付けて移動させることにより、微小凹凸Qを均し成形することにより、微小凹凸を目立たなくして表面精度及び外観品質の向上を実現する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に工具の先端を押し付けて移動させることにより、前記金属板を厚さ方向に次第に変形させて三次元形状に成形する逐次成形方法であって、
前記金属板に凹形状又は凸形状の成形部を成形した後、前記金属板における前記成形部の外側に生じた微小凹凸に対して前記工具の先端を押し付けて移動させることにより、前記微小凹凸を均し成形することを特徴とする逐次成形方法。
【請求項2】
前記微小凹凸のうちの微小凸部を均し成形することを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項3】
前記成形部の成形後、前記微小凸部の歪み量を測定し、測定した前記微小凸部の最低部を前記工具との接触位置に設定して、前記微小凸部を均し成形することを特徴とする請求項2に記載の逐次成形方法。
【請求項4】
前記成形部の成形後、前記微小凸部の歪み量を測定し、その測定値に基づいて前記工具の押し込み量を設定して、前記微小凸部を均し成形することを特徴とする請求項2に記載の逐次成形方法。
【請求項5】
前記金属板における前記成形部に対して、同成形部の周縁部に沿って前記工具を周回移動させ、その周回移動の経路を前記成形部の周縁部から外側に等高線状を成すように広げて、前記微小凹凸を均し成形することを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板に工具を押し付けて移動させることにより、金属板を三次元形状に逐次成形する逐次成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における逐次成形方法としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、金属板の上面側に棒状の工具を配置すると共に、同金属板の下面側に受け具を配置し、ワークホルダを有する昇降可能な支持板を備えた逐次成形装置が記載されている。この逐次成形装置及び方法では、ワークホルダで金属板の周囲を保持し、支持板を下降させながら、金属板に工具を押し付けて移動させることにより、金属板を受け具に沿うように次第に変形させて、三次元形状に成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の逐次成形方法では、成形部の際をクランプしておらず、工具の移動経路が成形部のみに設定されているので、成形部の周囲に微小な凹凸が発生することがあり、例えば、自動車の外板に適用するには表面精度や外観品質が不充分であるという問題点があり、改善が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、成形部の周囲に発生する微小凹凸を目立たなくして表面精度及び外観品質の向上を実現することができる逐次成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる逐次成形方法は、金属板に工具の先端を押し付けて移動させることにより、金属板を厚さ方向に次第に変形させて三次元形状に成形する方法である。この逐次成形方法は、金属板に凹形状又は凸形状の成形部を成形した後、金属板における前記成形部の外側に生じた微小凹凸に対して工具の先端を押し付けて移動させることにより、微小凹凸を均し成形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係わる逐次成形方法は、上記構成を採用したことにより、成形部の周囲に発生した微小凹凸を解消、若しくは目立たない状態にして、表面精度及び外観品質の向上を実現することができ、自動車の外板等への適用に利用価値の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係わる逐次成形方法の第1実施形態において、逐次成形方法に適用可能な逐次成形装置を説明する分解斜視図である。
【
図2】
図1に示す逐次成形装置で逐次成形を行う様子を示す斜視図である。
【
図3】逐次成形時における金属板の変化を示す断面図である。
【
図4】逐次成形時において金属板に生じる負荷を示す平面説明図である。
【
図5】金属板に発生した微小凹凸を示す平面説明図である。
【
図8】均し成形時における工具の移動経路を示す平面説明図である。
【
図10】均し成形を施す他の例の範囲を示す斜視図である。
【
図11】上段が、均し成形時の状態を示す拡大図付きの断面図であり、下段が、均し成形後の状態を示す断面図である。
【
図12】均し成形後の金属板及び成形部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〈第1実施形態〉
図1及び
図2は、本発明に係わる逐次成形方法に適用可能な逐次成形装置を説明する図である。
図1に示す逐次成形装置は、下型1と、下型1との間で金属板Pを挟んで保持するパッド2と、棒状を成す工具Tとを備えている。
【0010】
下型1は、その中央に配置した成形空間1Aと、金属板Wの縁部を位置決めする複数の位置決め具1Bとを備えている。図示例の成形空間1Aは、平面視で矩形の凹形状を成している。したがって、この実施形態において、金属板Wに成形する成形部(
図6中の符号F)は、成形空間1Aに対応した平面視矩形状の凹形状である。
【0011】
図示例の金属板Wは、緩やかに湾曲した曲面状であるが、平面状であっても良い。パッド2は、下型1の成形空間1Aに対応する位置に、上下に開放された開口部2Aを有する。工具Tは、一例として、作業ロボットのハンド部に装着してあり、直交する三軸方向に移動可能であり、さらに、夫々の軸回りに回転可能であっても良い。
【0012】
そして、逐次成形装置は、
図2に示すように、下型1とパッド2との間で金属板Wを挟んで保持し、パッド2の開口部2Aを通して工具Tを金属板Wに押し付けながら移動させることにより、成形空間1Aの内面に沿って金属板Wに凹形状の成形部(
図4~
図6中の符号F)を成形する。より具体的には、金属板Wに工具Tを押し付けて周回移動させ、その後、工具Tのピッチ送り及び周回移動を交互に繰り返すことにより、凹形状を等高線状に成形して、成形空間1A内に押し下げるように金属板Wを次第に変形させ、凹形状の成形部(F)を成形する。
【0013】
ここで、上記の逐次成形においては、金属板Wに工具Tを押し付けた際、
図3中に矢印で示す曲げモーメントにより金属板Wに歪み(微小凹凸)が発生することがある。また、図示例の如く成形空間1Aが平面視矩形状である場合、
図4に示すように、辺に沿う部分では、金属板Wが成形部F側に引っ張られ、コーナー部分では、金属板Wが成形部F側に引っ張られると共に、両側の辺部分からの圧縮応力により肉寄りが生じる。これにより、成形後の金属板Wには、
図5に示すように、成形部F辺に沿う部分には微小凸部Q1が発生し、成形部Fコーナー部分には微小凹部Q2が発生する傾向がある。
【0014】
上記の微小凹凸は、数十~数百マイクロメートルのオーダーであり、金属板Wの強度等に影響を及ぼすものではないが、目視では金属板Wの表面が歪んで見えるので、外観体裁として好ましくない。また、上記の微小凹凸は、
図4及び
図5に示すように、成形部Fの全周に均一に発生するのではなく、異なる大きさで部分的に発生する場合がある。
【0015】
これに対して、逐次成形方法では、金属板Wに成形部Fを成形した後、金属板Wにおける成形部Fの外側に生じた微小凹凸に対して工具Tの先端を押し付けて移動させることにより、微小凹凸を均し成形する。また、上記の逐次成形方法では、より望ましい実施形態として、微小凹凸のうちの微小凸部Q1を均し成形するものとし、その際に、
図6に示すように、微小凸部Q1の歪み量を測定する。
【0016】
上記の逐次成形方法に適用可能な逐次成形装置は、
図6に示す工具Tの制御装置3及び測定器4を含めることができる。制御装置3は、工具Tの駆動制御、すなわち作業ロボットの駆動制御を行う機能を有すると共に、測定器4の測定値が入力される測定演算部3Aを有し、測定演算部3Aのデータに基づいて工具Tの駆動制御を行うことができる。測定器4は、とくに限定されるものではないが、例えば、画像又はレーザ光を用いた非接触式の測定機器や、ダイヤルゲージ等の接触式の測定機器を用いることができる。なお、測定器4は、手作業により測定するものでも構わない。この場合、測定器4は、厳密には逐次成形装置の一構成ではないが、その測定作業は、当該逐次成形方法の一工程である。
【0017】
そして、上記の逐次成形方法では、
図7に示すように、微小凹凸を均し成形を行う。この際、上記の逐次成形方法では、パッド2を使用せずに、下型1上の金属板Wに均し成形を行うが、パッド2の代わりに、下型1との間で金属板Wの周縁部を挟持するクランプ等を用いても良い。
【0018】
また、上記の逐次成形方法では、より好ましい実施形態として、成形部Fの成形後、微小凸部Q1の歪み量を測定し、測定した微小凸部Q1の最低部を工具Tとの接触位置に設定して、微小凸部Q1を均し成形する。これにより、上記の逐次成形方法では、微小凸部Q1の最高部の歪み量を確実に小さくすることができる。
【0019】
さらに、上記の逐次成形方法では、より好ましい実施形態として、成形部Fの成形後、微小凸部Q1の歪み量を測定し、その測定値に基づいて工具Tの押し込み量を設定して、微小凸部Q1を均し成形する。これにより、上記の逐次成形方法では、発生した歪み量の大きさに左右されることなく、微小凸部Q1の歪み量を確実に小さくすることができ、均し成形を繰り返し実施する必要がなくなるので、成形時間の短縮化を実現し得る。
【0020】
さらに、上記の逐次成形方法では、
図8に示すように、金属板Wにおける成形部Fに対して、同成形部Fの周縁部に沿って工具Tを周回移動させ、その周回移動の経路P1~P4が、成形部Fの周縁部から外側に等高線状を成し且つ金属板Wの主面に沿って等間隔で広がるようにして、微小凸部Q1を均し成形する。これにより、上記の逐次成形方法では、微小凹凸が生じた範囲の全域をより確実に且つ効率的に均し成形し得るので、金属板Wの外観品質のさらなる向上を実現する。
【0021】
図8に例示する逐次成形方法では、隣接する経路P1~P4同士の周回方向を互いに逆向きにして均し成形をしており、これにより、金属板Wに与える負荷や残留応力を抑制して、微小凹凸の範囲全域をより確実に均し成形し得る。なお、
図8では、隣接する経路P1~P4同士の間で行うピッチ送りの経路を省略しており、また、4本の経路P1~P4を例示しているが、実際には、均し成形する領域の大きさ等に応じて経路の本数や間隔を設定する。
【0022】
さらに、上記の逐次成形方法では、
図9に示すように、成形部Fの外側領域の全周において、目視検査で確認した面歪みQを含む全領域Aに均し成形を行う。したがって、上記の逐次成形方法では、
図10に示すように、面歪みQが大きい(又は小さい)場合には、その面歪みQを含む全領域Aに均し成形を行う。
【0023】
このようにして、上記の逐次成形方法では、
図11の上段に示すように、金属板Wに生じた微小凹凸のうちの微小凸部Q1が解消され、
図12に示す成形部Fを有する金属板Wが得られる。
【0024】
このとき、上記の逐次成形方法では、微小凸部Q1の歪み量を測定し、同微小凹部Q1を均し成形するので、
図11の下段に示すように、金属板Wに微小凹部Q2が残ることになる。ところが、微小凹凸を目視すると、微小凸部Q1と微小凹部Q2との高低差によって面歪みが顕著に表れることが判る。そこで、上記の逐次成形方法では、微小凹凸のうちの少なくとも微小凸部Q1を解消することで高低差を小さくし、これにより、面歪みの目立たない金属板Wを成形することができる。
【0025】
なお、上記の逐次成形方法では、下型1を用いて微小凹凸の範囲の全領域を均し成形するので、実質的に、微小凹部Q2に対しても均し成形が行われることとなり、これにより、微小凹凸の高低差がさらに小さくなって、面歪みが殆ど目立たない状態になる。
【0026】
上記実施形態で説明した逐次成形方法によれば、成形部Fの周囲に発生した微小凹凸を解消、若しくは目立たない状態にして、表面精度及び外観品質の向上を実現することができる。これにより、上記逐次成形方法で製造した成形部Fを有する金属板Wは、自動車の外板等のように高い外観品質が要求される金属板への適用に極めて有用である。
【0027】
本発明に係わる逐次成形方法は、その構成が上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。また、上記実施形態では、金属板に凹形状の成形部を成形する場合を例示したが、例えば、工具と、金属板の周囲を保持して昇降するクランプ類と、下型とを使用して、金属板に凸形状の成形部を成形する場合にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
F 成形部
P1~P4 周回移動の経路
Q1 微小凸部
Q2 微小凹部
T 工具
W 金属板