(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013718
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】N-ビニルラクタム系共重合体及びその共重合体を含む組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 226/06 20060101AFI20240125BHJP
D01F 6/40 20060101ALI20240125BHJP
C08F 220/44 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08F226/06
D01F6/40
C08F220/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116026
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】清水 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 一裕
【テーマコード(参考)】
4J100
4L035
【Fターム(参考)】
4J100AM02Q
4J100AQ06P
4J100CA04
4J100DA36
4J100DA61
4J100FA03
4J100FA21
4J100JA11
4L035AA04
4L035BB03
4L035GG01
4L035JJ25
4L035MB17
(57)【要約】
【課題】
繊維の用途において、優れた吸湿性を付与することができるN-ビニルラクタム系共重合体及びその共重合体を含む組成物を提供する。
【解決手段】
N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び、
ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、
リン原子含有化合物由来の構造単位を有する
N-ビニルラクタム系共重合体。
【請求項2】
N-ビニルラクタム系共重合体の総量を100質量%とした場合、
前記構造単位(a)の含有量が15~99質量%である
請求項1に記載のN-ビニルラクタム系共重合体。
【請求項3】
重量平均分子量が、1万以上60万以下である
請求項1に記載のN-ビニルラクタム系共重合体。
【請求項4】
請求項1に記載のN-ビニルラクタム系共重合体を含む吸湿性付与剤。
【請求項5】
リン原子含有化合物の存在下、
N-ビニルラクタム系単量体(A)、及び、
ニトリル系単量体(B)を添加する工程を含み、
前記N-ビニルラクタム系単量体(A)が、
前記ニトリル系単量体(B)よりも、
先に全量の添加が完了する
N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法。
【請求項6】
N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び
ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、
リン原子含有化合物由来の構造単位を有する
N-ビニルラクタム系共重合体と、
全構造単位の総量を100質量%とした場合、
アクリロニトリルに由来する構造単位を
35質量%以上含む
アクリロニトリル系共重合体を、
含む組成物。
【請求項7】
以下の二つの工程を含む、アクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法。
1)N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及びニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体、及び、
全構造単位の総量を100質量%とした場合、アクリロニトリルに由来する構造単位を
35質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体を
溶媒に溶解させて、組成物溶液を調整する工程
2)前記組成物溶液を、前記溶媒以外の他の液体と接触させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維の用途において、優れた吸湿性を付与することができるN-ビニルラクタム系共重合体、及び、その製造方法、更に、N-ビニルラクタム系共重合体を含む組成物、及び、その組成物の製造方法、それらに加えて、アクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の衛生・快適性志向から、繊維に吸湿性、抗菌・防臭性、保温性、発熱性、柔軟性等の機能を付与することが求められ、種々の技術が開発されている。例えば、合成繊維に対して機能性を付与する方法としては、繊維化の工程の段階で機能性成分を練り込む技術が開発されている。繊維化工程後の糸や織物の段階で機能性を付与する方法も開発されており、このような方法は、合成繊維、天然繊維等の繊維の種類を問わず適用することができ、特許文献1には、繊維に繊維処理剤をコーティングすることによって風合い等を付与する技術が開示されている。また、特許文献2、3には、カルボキシル基含有重合体(A)及び多価オキサゾリン化合物(B)を用いたセルロース系基材加工用樹脂組成物が開示されている。特許文献4には、多価アルコール、及びポリカルボン酸を含有する繊維処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-280652号公報
【特許文献2】特開2000-129144号公報
【特許文献3】特開2000-119968号公報
【特許文献4】特開2016-79530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、種々の繊維処理剤が開示されているが、従来の繊維処理剤は、繊維加工時の十分な耐熱性がなく、吸湿性との両立の点で十分でなく改善の余地があった。
【0005】
本開示は、前記現状に鑑みてなされたものであり、繊維の用途において、優れた吸湿性を付与することができるN-ビニルラクタム系共重合体、及び、その製造方法、更に、N-ビニルラクタム系共重合体を含む組成物、及び、その組成物の製造方法、それらに加えて、アクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、
N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、繊維の用途において、優れた吸湿性を付与することができるN-ビニルラクタム系共重合体、及び、その製造方法、更に、N-ビニルラクタム系共重合体を含む組成物、及び、その組成物の製造方法、それらに加えて、アクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0009】
なお、これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
〔N-ビニルラクタム系共重合体〕
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体であれば特に限定はない。
【0011】
前記N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)は、N-ビニルラクタム系単量体を重合反応することにより、単量体由来の構造単位が、前記構造単位(a)として、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体に含まれれば特に限定はない。
別の表現では、N-ビニルラクタム系単量体とは、N-ビニルラクタム系単量体に由来する構造単位の前駆体である。
前記N-ビニルラクタム系単量体としては、環状のラクタム環を有する単量体であり、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-4-ブチルピロリドン、N-ビニル-4-プロピルピロリドン、N-ビニル-4-エチルピロリドン、N-ビニル-4-メチルピロリドン、N-ビニル-4-メチル-5-エチルピロリドン、N-ビニル-4-メチル-5-プロピルピロリドン、N-ビニル-5-メチル-5-エチルピロリドン、N-ビニル-5-プロピルビロリドン、N-ビニル-5-ブチルピロリドン、N-ビニル-4-メチルカプロラクタム、N-ビニル-6-メチルカプロラクタム、N-ビニル-6-プロピルカプロラクタム、N-ビニル-7-ブチルカプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、重合性が良好であり、また、得られる重合体の高温での色調の安定性が良好であり、溶媒への溶解性が良好であることから、N-ビニル-2-ピロリドン、及び/又は、N-ビニルカプロラクタムを用いることが好適である。なお、前記N-ビニルラクタム系単量体は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0012】
前記ニトリル系単量体由来の構造単位(b)は、ニトリル系単量体を重合反応することにより、単量体由来の構造単位が、前記構造単位(b)として、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体に含まれれば特に限定はない。
別の表現では、ニトリル系単量体とは、ニトリル系単量体に由来する構造単位の前駆体である。
前記N-ビニルラクタム系単量体としては、(メタ)アクリロニトリルが挙げられる。
具体的には、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルが挙げられる。
これらの中でも、重合性が良好であることから、アクリルニトリルを用いることが好ましい。
【0013】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、リン原子含有化合物由来の構造単位を有していれば、特に限定はない。
前記リン原子含有化合物由来の構造単位とは、例えば、後述する通り、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の製造時に、連鎖移動剤として次亜リン酸(塩)等のリン化合物を使用することにより、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体にリン原子含有化合物を導入することができる。
【0014】
リン原子は、前記リン原子含有化合物由来の構造単位として、N-ビニルラクタム系共重合体に含まれていれば特に限定なく、リン原子含有化合物由来の構造単位を有することにより、N-ビニルラクタム系共重合体を加熱したときの着色(黄変)を低く抑えることが可能になる。ここで、前記リン原子含有化合物由来の構造単位としては、例えば、次亜リン酸(塩)基(次亜リン酸基又は次亜リン酸塩基を意味する)、亜リン酸(塩)基(亜リン酸基又は亜リン酸塩基を意味する)等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種であることが好適である。より具体的には、ホスホン酸(塩)基、ホスフィン酸(塩)基等が挙げられる。これらの中でも、ホスフィン酸(塩)基が好ましい。すなわち、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、主鎖にホスフィン酸(塩)基を有してもよい。
【0015】
前記塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が挙げられ、好ましくは、金属塩である。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;遷移金属塩;等が例示されるが、アルカリ金属塩が好ましい。
なお、前記リン原子を含む構造単位が、次亜リン酸基、亜リン酸基、又は、これらの金属塩基からなる構造単位である場合には、例えば、重合体の主鎖に、次亜リン酸(塩)基及び/又は亜リン酸(塩)基を形成した後に、酸又は塩基の追加により、所望の酸又は金属塩に変換することも可能である。同様に、イオン交換樹脂等で処理することにより変換することも可能である。
【0016】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を必須として有している。
N-ビニルラクタム系共重合体の総量を100質量%とした場合、
前記構造単位(a)の含有量が15~99質量%であることが好ましい。より好ましくは40~98質量%であり、更に好ましくは70~97質量%であり、一層好ましくは73~96質量%であり、より一層好ましくは78~92質量%である。
前記構造単位(a)の含有量が、前述の範囲であると、優れた吸湿性を付与することができるという点で好ましい。
【0017】
N-ビニルラクタム系共重合体の総量を100質量%とした場合、前記構造単位(b)の含有量が1~85質量%であることが好ましい。より好ましくは2~60質量%であり、更に好ましくは3~30質量%であり、一層好ましくは4~27質量%であり、より一層好ましくは8~22質量%である。
前記構造単位(b)の含有量が、前述の範囲であると、湿式紡糸による繊維の生産時や繊維製品を洗濯する際に本発明の共重合体が繊維内に留まりやすい傾向にあり、効率的に機能付与できる点で好ましい。また、アクリロニトリル系重合体との組成物を加熱したときの着色(黄変)を低く抑えられ、かつ、熱分解による分子量低下を抑制できる傾向がある点で好ましい。
【0018】
前記リン原子含有化合物由来の構造単位を有する本開示のN-ビニルラクタム系共重合体において、前記リン原子含有化合物由来の構造単位の含有割合は、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の全質量100質量%に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.1質量%以上である。また、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7質量%以下であり、更に好ましくは6質量%以下である。リン原子含有化合物を上記の範囲で含むことにより、例えば、繊維などの改質剤に使用した場合に、高温条件下での黄変を抑制することができ、また、熱分解による分子量低下を抑制することで、繊維の強度低下も抑制することができる。なお、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の全質量に対する、リン原子含有化合物由来の構造単位の質量%を計算する場合も、前述した場合に該当するときには、ナトリウム塩換算で計算するものとする。本開示のN-ビニルラクタム系共重合体に含まれる前記リン原子含有化合物由来の構造単位の量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)、及び、リン原子含有化合物由来の構造単位以外のその他の単量体由来の構造単位(e)を含んでもよい。その他の単量体由来の構造単位に対する前駆体としての単量体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、2-メチレングルタル酸、及びこれらの塩等の(メタ)アクリル酸塩以外のカルボキシル基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキル基のエステルである、アルキル(メタ)アクリレート類;メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート又はその4級化物等のアミノ基含有アクリレート;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;マレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体及びこれらの塩;ビニルホスホン酸、(メタ)アリルホスホン酸等のホスホン酸基を有する単量体;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール等のその他官能基含有単量体類;ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、モノアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の不飽和アルコールにアルキレンオキシドが1~300モル付加した構造を有する単量体等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;等が挙げられる。これらのその他の単量体についても、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、カルボン酸塩、及び、スルホン酸塩、ホスホン酸塩の(塩)の記載は、前述の塩と同じである。好ましい形態についても同じである。
【0020】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体に、前記その他の構造単位(e)が含まれる場合、前記構造単位(a)、前記構造単位(b)、前記リン原子含有化合物由来の構造単位、及び、その他の構造単位(e)の総量を100質量%にすると、前記構造単位(e)の含有量は20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下、更により好ましくは5質量%以下である。特に好ましくは0質量%である。
【0021】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、後述する製造方法により作ることができるが、得られる本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、製造方法により、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体であってもよい。商業的な生産効率の観点から好ましくは、ランダム共重合体である。
また、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体が、ランダム共重合体であると、湿式紡糸による繊維の生産時や繊維製品を洗濯する際に本発明の共重合体が繊維内に留まりやすい傾向にあり、効率的に機能付与できるという点で好ましい。
【0022】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、重量平均分子量が1万以上60万以下であれば特に限定はない。より好ましくは5万以上45万以下であり、更に好ましくは6万以上35万以下であり、一層好ましくは7万以上30万以下であり、より一層好ましくは8万以上25万以下である。
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、重量平均分子量が1万以上であれば湿式紡糸による繊維の生産時や繊維製品を洗濯する際に本発明の共重合体が繊維内に留まりやすい傾向にあり、効率的に機能付与できる点で好ましい。また、重量平均分子量が60万以下であれば溶媒に溶解時の取り扱い性に優れるという点で好ましい。
なお、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の重量平均分子量の値としては、後述する実施例に記載の手法により測定される値を採用するものとする。
【0023】
〔N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法〕
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法は、原料となる単量体を重合反応する重合工程を含む。
【0024】
<単量体成分>
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、前述した通り、N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、ニトリル系単量体由来の構造単位(b)、及び、リン原子含有化合物由来の構造単位を必須としている。
前記構造単位(a)に相当する単量体は、単量体(A)と表すことができる。また、前記構造単位(b)に相当する単量体は、単量体(B)と表すことができる。
前記単量体(A)、及び、前記単量体(B)については、前述した通りであり、好ましい形態についても同じである。
また、リン原子含有化合物由来の構造単位の前駆体であるリン原子含有化合物も前述した通りであり、好ましい形態についても同じである。
更に、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体が、前記その他の単量体由来の構造単位(e)を含む場合、その他の単量体由来の構造単位に相当する単量体は、単量体(E)と表すことができる。前記単量体(E)については、前述した通りである。
【0025】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の前記重合工程に用いる単量体は、前記単量体(A)、及び、前記単量体(B)を必須としていれば特に限定はない。前記単量体(A)及び前記単量体(B)の総量を100質量%とした場合、前記単量体(A)の含有量は15~99質量%であることが好ましい。より好ましくは40~98質量%であり、更に好ましくは70~97質量%であり、一層好ましくは73~96質量%であり、より一層好ましくは78~92質量%である。前記単量体(A)の使用割合が前述の範囲であると、優れた吸湿性を付与することができるという点で好ましい。
【0026】
前記単量体(A)及び前記単量体(B)の総量を100質量%とした場合、前記単量体(B)の含有量が1~85質量%であることが好ましい。より好ましくは2~60質量%であり、更に好ましくは3~30質量%であり、一層好ましくは4~27質量%であり、より一層好ましくは8~22質量%である。
前記単量体(B)の使用割合が、前述の範囲であると、湿式紡糸による繊維の生産時や繊維製品を洗濯する際に本発明の共重合体が繊維内に留まりやすい傾向にあり、効率的に機能付与できる点で好ましい。また、アクリロニトリル系重合体との組成物生産時に黄変が抑制される傾向がある点で好ましい。
【0027】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の前記重合工程に用いる単量体は、前記単量体(A)、及び、前記単量体(B)以外のその他の単量体(E)を用いてもよい。
前記その他の単量体(E)を用いる場合、前記単量体(A)、前記単量体(B)、及び、その他の単量体(E)の総量を100質量%にすると、前記単量体(E)の使用量は20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下であり、更により好ましくは5質量%以下である。特に好ましくは0質量%である。
【0028】
なお、前記全単量体成分中のその他の単量体等の使用割合を計算するときは、その他の単量体が酸基の塩を有する場合は当該酸基の塩を対応する酸基として(酸換算)、アミノ基の塩を有する場合には当該アミノ基の塩を対応するアミノ基として(アミン換算)、計算するものとする。全単量体成分由来の構造単位に対するその他の単量体に由来する構造等を計算する場合、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の全質量に対する、その他の単量体由来の構造単位を計算する場合も同様に、該当する場合には酸換算、アミン換算で計算するものとする。
【0029】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、前記単量体の仕込み方法により、ランダム重合、ブロック重合、グラフト重合による製造することができる。本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、商業的な生産効率の観点からランダム重合で行うことが好ましい。また、ランダム共重合体は湿式紡糸による繊維の生産時や繊維製品を洗濯する際に本発明の共重合体が繊維内に留まりやすい傾向にあり、効率的に機能付与できるという点で好ましい。
【0030】
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の製造時に於ける重合反応は、単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法は、種々の方法に行うことができる。
前記単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法としては、反応容器に前記単量体成分の全てを仕込み、重合開始剤を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に単量体成分の一部を仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に連続してあるいは段階的に(好ましくは連続して)添加することによって共重合を行う方法;反応容器に重合溶媒を仕込み、単量体成分と重合開始剤の全量を添加する方法;単量体の一部を反応容器に仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に(好ましくは連続して)添加することによって共重合を行う方法等が好適である。このような方法の中でも、得られる共重合体の分子量分布及び組成分布を狭くすることができ、繊維などの改質剤に使用した場合、繊維への分散性及び/又は相溶性を向上が期待できることから、重合開始剤と単量体成分を反応容器に逐次添加する方法で共重合を行うことが好ましい。
【0031】
前記単量体(A)、及び、前記単量体(B)の添加方法は、各単量体成分を連続的に反応器に添加することが好ましい。更に、前記単量体(A)が前記単量体(B)よりも先に、全量の添加が完了することが好ましい。
前記単量体(A)が前記単量体(B)よりも先に、全量の添加が完了することで、重合率が向上し、組成分布も狭くすることができるため好ましい。
【0032】
<ラジカル重合開始剤>
前記単量体の重合に際しては、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。本開示の製造方法、特に前記重合工程では、ラジカル重合開始剤として、アゾ系重合開始剤、及び/又は、有機過酸化物を用いることが好ましい。アゾ系重合開始剤とは、アゾ結合を有し、熱等によりラジカルを発生する化合物を言う。
【0033】
本開示で使用可能なアゾ系重合開始剤としては、特に限定されないが、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス-(プロパン-2-カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等が例示される。これらの中でも、N-ビニルラクタム系重合体を効率よく製造できる傾向にあることから、また、得られる重合体の高温での色調が良好になる傾向にあることから、10時間半減温度が30℃以上90℃以下であるものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上70℃以下であるものである。具体的には、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二硫酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス-(プロパン-2-カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)が好ましく、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)がより好ましく、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が最も好ましい。また、カルボキシル基を有するアゾ系重合開始剤(2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等)は、着色に悪影響を及ぼすことがあるので、所望により使用する場合にはなるべく少ない量を使用することが好ましく、使用しないことがより好ましい。
【0034】
本開示で使用可能な有機過酸化物としては、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、ジターシャリーブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシャリーヘキシルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド等のアルキルヒドロペルオキシド;ターシャリーブチルペルオキシアセテート、ジスクシノイルペルオキシド、過酢酸等が例示される。これらの有機過酸化物の中でも、10時間半減温度が30℃以上180℃以下のものが好ましく、より好ましくは10時間半減温度が40℃以上170℃以下のものである。
【0035】
本開示の製造方法、特に前記重合工程で使用するラジカル重合開始剤は、前記アゾ系重合開始剤、前記有機過酸化物から選択される1種または2種以上を必須とすることが好ましいが、その他のラジカル重合開始剤を併用しても構わない。そのような開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等が例示される。
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、前記アゾ系重合開始剤であることが好ましい。
【0036】
前記ラジカル重合開始剤の使用量(複数種使用する場合はその総量)は、特に言及する場合を除き、全単量体成分に対して、0.1質量%~5質量%であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%~3質量%であり、更に好ましくは0.2質量%~1質量%であり、一層好ましくは0.3質量%~0.8質量%である。
前記ラジカル重合開始剤の使用量が0.1質量%以上であると重合体の分子量の調整が容易となる傾向にあり、不純物量が少なく、加熱時の着色がより抑えられる傾向にあるという点で好ましい。また、前記ラジカル重合開始剤の使用量が5質量%以下であると、重合工程における重合開始剤由来のラジカルとニトリル基との反応に由来する着色を抑制できるという点で好ましい。
【0037】
重合開始剤の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、重合開始剤は連続的もしくは段階的に添加することが好ましい。重合開始剤を連続的に添加する場合、その添加速度は変えてもよい。
【0038】
重合開始剤は、溶媒に溶解せずにそのまま添加してもよいが、後述する溶媒に溶解して反応系(重合釜)へ添加することが好ましい。
【0039】
<還元剤>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、限定されないが、例えば、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の分子量を調整するために、還元剤を用いてもよい。使用可能な還元剤は、特に限定されないが、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;上記アルコール化合物以外の水酸基含有化合物;亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、およびこれらの水和物等;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、およびその塩等の重亜硫酸塩(水に溶解して重亜硫酸塩を発生する化合物を含む)等の、低級酸化物およびその塩等が挙げられる。これらの塩は、ナトリウム等の金属塩、アンモニウム塩または有機アミン塩である。上記還元剤は、2種以上用いてもよい。
ナトリウム塩等の金属塩をなるべく低減することが、中空糸膜の製造等の特殊工業用途や、半導体洗浄等の電材用途で用いる場合には好ましい。
【0040】
<連鎖移動剤>
前記重合工程は、リン原子含有化合物の存在下で実施することが好ましい。リン原子含有化合物に連鎖移動することにより、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体にリン原子を含む置換基を効率的に導入することが可能となる。また、効率よく低分子量化できる。リン原子含有化合物およびそれらの好ましい態様は、特に言及する場合を除き、次亜リン酸(塩)、亜リン酸(塩)、リン酸(塩)、次亜リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が例示される。
連鎖移動効率が高いことから、次亜リン酸(塩)、亜リン酸(塩)、次亜リン酸エステルが好ましく、次亜リン酸(塩)であることがより好ましい。リン原子含有化合物を使用する場合には、1種を用いても、2種以上を用いても良い。
【0041】
前記重合工程における、前記リン原子含有化合物の使用量は、単量体(全単量体)の使用量1gに対して、0.1mg以上、100mg以下であることが好ましく、0.5mg以上、70mg以下であることがより好ましく、1mg以上、60mg以下であることが更に好ましい。なお、上記範囲は、前記リン原子含有化合物が塩の場合には、対応するナトリウム塩として質量計算する。例えば、次亜リン酸アンモニウムであれば、対応するナトリウム塩である次亜リン酸ナトリウムとして質量計算する。
前記リン原子含有化合物の反応系(重合釜)への添加方法としては、特に限定はされないが、リン原子含有化合物の全使用量のうち20質量%以上を単量体成分の添加前に反応系(重合釜)に添加することが好ましい。より好ましくは30質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上である。リン原子含有化合物の全使用量のうち20質量%以上を単量体成分の添加前に反応系(重合釜)に添加することで効率的にリン原子含有化合物をポリマーに導入することができる。
【0042】
前記重合工程は、所望に応じて、前記リン原子含有化合物以外の連鎖移動剤(以下、他の連鎖移動剤とも言う)を使用することができる。他の連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸等のチオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン等のハロゲン化物;イソプロピルアルコール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸(塩);亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸(塩);亜ジチオン酸ナトリウム等の亜ジチオン酸(塩);ピロ亜硫酸カリウム等のピロ亜硫酸(塩)などが挙げられる。上記他の連鎖移動剤を使用する場合には、単独で使用されても、2種以上を併用されてもよい。
【0043】
<還元性化合物>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、重合開始剤の分解触媒等として作用する還元性化合物として、重金属イオン(あるいは重金属塩)を使用してもよい。本発明で重金属とは、比重が4g/cm3以上の金属を意味する。重金属の中でも鉄および/または銅が好ましく、上記還元性化合物として、モール塩(Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸銅(I)および/またはその水和物、硫酸銅(II)および/またはその水和物、塩化銅(II)および/またはその水和物等の重金属塩等を用いてもよい。
【0044】
前記重金属イオンを使用する場合、例えば、0.1~10ppmの範囲で使用することができるが、中空糸膜の製造等の特殊工業用途や、半導体洗浄等の電材用途で用いる場合には使用しない方が好ましい。
【0045】
<その他の添加剤>
本開示の製造方法、特に前記重合工程では、重合反応の促進やN-ビニルラクタムの加水分解の防止等を目的として、アンモニアおよび/またはアミン化合物を用いてもよい。アンモニアやアミン化合物は、重合反応において、助触媒として機能する。すなわち、アンモニアおよび/またはアミン化合物が反応系に含まれると、含まれない場合と比較して、重合反応の進行がより一層促進される。また、塩基性pH調節剤としても機能しうる。なお、アンモニアは臭気の原因となり、また着色にも影響を及ぼすため、量を抑えて用いることが好ましい。アンモニアを用いるときは、常温にて気体状の単体としてそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)として用いてもよい。アンモニアおよび/またはアミン化合物の添加は、任意の適切な方法で行うことができ、例えば、重合初期より反応容器内に仕込んでおいてもよいし、重合中に反応容器中に逐次添加してもよい。
【0046】
アミン化合物としては、任意の適切なアミン化合物を採用し得る。具体的には、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。上記アミンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0047】
前記第1級アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、エチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシプロピルアミンが挙げられる。上記第1級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N-メチルエチルアミン、N-メチルプロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチルブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン、N-エチルプロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチルブチルアミン、N-エチルイソブチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、N-メチルビニルアミン、N-メチルアリルアミン等の脂肪族第2級アミン;N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N-メチルトリメチレンジアミン、N-エチルトリメチレンジアミン、N,N’-ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’-ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N-メチルベンジルアミン、N-エチルベンジルアミン、N-メチルフェネチルアミン、N-エチルフェネチルアミン等の芳香族アミン;N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン、N-イソプロピルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-イソブチルエタノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等のジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等の環状アミン;が挙げられる。上記第2級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。
【0049】
前記第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン等のトリアルカノールアミンが挙げられる。上記第3級アミンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの第3級アミンのうち、トリアルカノールアミンが好ましく、中でもトリエタノールアミンが特に好適である。
【0050】
前記アンモニアおよびアミン化合物を使用する場合の使用量は、両者の合計で、N-ビニルラクタム100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.02~1質量部がより好ましい。前述の範囲であれば、反応速度が向上する傾向にあり、反応中のpHの低下に伴うN-ビニルラクタムの加水分解や着色を抑制する効果が得られる。
【0051】
なお、前記重金属塩として銅塩を用い、さらに前記アンモニアを用いる場合、銅のアンミン錯塩が形成し得る。銅のアンミン錯塩としては、例えば、ジアンミン銅塩([Cu(NH3)2]2SO4・H2O、[Cu(NH3)2]Cl等)、テトラアンミン銅塩([Cu(NH3)4]SO4・H2O、[Cu(NH3)4]Cl2等)が挙げられる。
【0052】
<重合溶媒>
前記重合工程は、溶剤の存在下で実施することが好ましい。溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、n-ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール類等から選ばれる1種または2種以上が例示される。溶剤としては、水、イソプロピルアルコールが好ましい。より好ましくは水である。
前記ニトリル系単量体は、水への溶解性が小さいため、有機溶媒を用いて重合反応を行うことが容易であるが、本開示のN-ビニルラクタム系共重合体は、重合工程後、乾燥させて、粉体として取り扱うことが好ましく、上記乾燥工程は、重合工程において有機溶媒を使用する場合、防爆設備が必要となる。重合工程において水を使用する場合には、防爆設備を必要とせず、設備投資にかかるコストを削減することができる。また、重合工程において有機溶媒を使用し、その後水に置換する場合にも、工程時間が延びるため、水を使用する場合には、溶媒を置換する必要がなく、生産性を向上させることができる。
溶媒の使用量としては、単量体100質量%に対して40~1000質量%が好ましい。
【0053】
重合工程は、好ましくは、重合終了後の固形分濃度(溶液のうちの不揮発分の濃度である)が、重合溶液100質量%に対して10~80質量%となるように行うことが好ましく、15~70質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。
【0054】
<その他の重合条件>
重合の際の温度は好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60~105℃であり、さらに好ましくは65~95℃である。重合時の温度が上記範囲であれば、残存単量体成分が少なくなり、効率的に性能が発現するする傾向にある。なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間または昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温または降温)させてもよい。
【0055】
重合時のpHとしては、不純物あるいは副生成物の発生を抑制する観点から、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、11以下が好ましい。
【0056】
反応系内の圧力としては、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、または、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。反応系内の雰囲気としては、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0057】
重合時間は、30分以上、5時間以下であることが好ましい。重合時間が長くなると、重合液の着色が大きくなる傾向にある。重合終了後、重合液に残存する単量体を低減する目的等で、熟成工程(重合後、加温・保温条件下で保持する工程をいう)を設けてもよい。熟成時間は通常、1分以上、4時間以内である。なお、本発明において、「重合時間」とは、特に断らない限り、単量体を添加している時間を表す。熟成時間中に、更に重合開始剤(ブースター)を添加すれば、重合液に残存する単量体を低減できることから好ましい。
【0058】
重合後期においては、単量体の添加終了時間に対し、開始剤の添加終了時間を同じ、もしくは遅らすことが、重合液に残存する単量体を低減することができることから好ましい。
【0059】
<有機酸の添加>
本開示では、重合反応終了後、反応液に有機酸またはその水溶液を添加してもよい(以下、有機酸添加工程とも言う)。この際、重合反応時の反応温度を維持して行うことが好ましい。これにより、残存するN-ビニルラクタムが、酸によって加水分解されるので、未反応の単量体量(すなわち、反応液中における単量体の残存量)を低減することができる。例えば、単量体がN-ビニル-2-ピロリドンであるならば、酸によって2-ピロリドンへと加水分解される。
【0060】
残存単量体量を低減するのに使用可能な有機酸として好ましいものは、有機酸添加時の反応液温度より高い沸点(例えば100℃以上)を有するカルボン酸であり、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸等が挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
有機酸の使用量は、重合反応時のN-ビニルラクタムの使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合後の反応液のpHが好ましくは5以下、より好ましくは3以上、4以下になるようにすればよい。具体的には、有機酸の使用量は、N-ビニルラクタムの使用量に対して、好ましくは100ppm以上、30,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、20,000ppm以下である。
【0062】
<残存単量体量>
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法によると、未反応で残存する単量体量を少なくすることが可能なため好ましい。残存単量体量は、得られた本開示のN-ビニルラクタム系重合体に対して、200ppm以下であることが好ましい。より好ましくは100ppm以下であり、更により好ましくは50ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。残存単量体量が、前述の範囲であると、不純物量が少なく、加熱時の着色が抑制され、臭気も抑制される傾向にあるという点で好ましい。また、残存単量体は電解液溶媒に溶解しやすく電池性能を阻害する懸念があるため、残存単量体量を低減することで電池性能を阻害しない点で好ましい。
【0063】
<単量体由来の不純物量>
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法によると、単量体由来の不純物量を少なくすることが可能なため好ましい。単量体由来の不純物は、例えば、単量体がN-ビニル-2-ピロリドンであるならば、2-ピロリドンである。単量体由来の不純物量は、得られた本開示のN-ビニルラクタム系重合体に対して、5000ppm以下であることが好ましい。より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは2000ppm以下であり、特に好ましくは1500ppm以下である。単量体由来の不純物量が、前述の範囲であると、加熱時の着色が抑制され、臭気も抑制される傾向にあるという点で好ましい。また、不純物は電解液溶媒に溶解しやすく電池性能を阻害する懸念があるため、不純物量を低減することで電池性能を阻害しない点で好ましい。
【0064】
<乾燥工程>
重合工程で得られたN-ビニルラクタム系共重合体溶液から、N-ビニルラクタム系共重合体を得るには、乾燥する工程を行っても良い。乾燥工程は、粉体化等を行う工程であり、粉砕工程も含む。乾燥や粉砕は、公知の一般的方法で行えばよく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、ベルト式乾燥等により、粉末を得ることができる。常圧で加熱乾燥する場合は、乾燥温度は100~250℃程度、乾燥時間は0.2~180分程度が好ましい。減圧下で乾燥する場合は、減圧度に応じて乾燥温度を適宜選択すればよい。重量平均分子量が60万以下のN-ビニルラクタム系共重合体溶液を乾燥する場合は、噴霧乾燥が好ましい。
【0065】
<その他の工程>
本開示の製造方法は、重合工程を必須とし、任意で、前記有機酸添加工程、乾燥工程等を含んでも良いが、その他の工程を任意で含んでも良い。例えば、精製工程、脱塩工程、濃縮工程、希釈工程、pH調整工程等を含んでいてもよい。反応液(重合液)を陽イオン交換樹脂で処理することにより、得られるN-ビニルラクタム系共重合体溶液の色調を改善することができる。陽イオン交換樹脂で処理する工程は、重合中(重合工程と並行して)または重合後に行うことができる。重合反応中における陽イオン交換樹脂による処理は、任意の適切な方法で処理し得る。好ましくは、単量体成分の重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加することにより行う。具体的には、例えば、重合反応が行われている反応容器中へ陽イオン交換樹脂を添加して微細に懸濁させ、その後に濾過する方法が挙げられる。陽イオン交換樹脂による処理の時間は、任意の適切な時間を採用し得る。好ましくは1分~24時間であり、より好ましくは3分~12時間であり、さらに好ましくは5分~2時間である。本開示の製造方法は、上記その他の工程を1つも含まなくても良いが、1つまたは2つ以上を含んでも良い。
【0066】
〔組成物〕
本開示の組成物は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及び
ニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体と、
全構造単位の総量を100質量%とした場合、アクリロニトリルに由来する構造単位を35質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体を、含む組成物であれば特に限定はない。
【0067】
本開示のアクリロニトリル系共重合体は、全構造単位の総量を100質量%とした場合、アクリロニトリルに由来する構造単位を35質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体であれば特に限定はない。
本開示のアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリル(単量体)とその他の単量体を共重合して得られる共重合体である。但し、前記N-ビニルラクタム系単量体の含有量が0質量%以上15質量%未満の共重合体である。
前記その他の単量体としては、アクリル酸メチル、スルホン酸基含有ビニル単量体等が挙げられる。
前記スルホン酸基含有ビニル単量体としては、メタクリルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸並びにこれらのナトリウム塩等の金属塩類及びアミン塩類等を用いることができる。前記スルホン酸基含有ビニル単量体は一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、難燃性の付与を行う場合は、塩化ビニル、塩化ビニリデンを単量体として用いて、本開示のアクリロニトリル系共重合体としてもよい。
本開示のアクリロニトリル系共重合体で、アクリロニトリルに由来する構造単位を35質量%以上、85質量%未満含有する共重合体を繊維状に加工すると、モダクリル繊維と称することができ、アクリロニトリルに由来する構造単位を85質量%以上含有する共重合体を繊維状に加工すると、アクリル繊維と称することができる。
【0068】
本開示のアクリロニトリル系共重合体は、前述した通り、全構造単位の総量を100質量%とした場合、アクリロニトリルに由来する構造単位を35質量%以上含めば特に限定はない。より好ましくは45質量%以上であり、更に好ましくは70質量%であり、特に好ましくは85質量%以上である。
本開示のアクリロニトリル系共重合体に占めるアクリロニトリルに由来する構造単位が、前述の範囲であると、得られた繊維が良好な強度を有し、紡績工程での工程通過性も良好で、品質に優れた紡績糸が得られるという点で好ましい。
【0069】
本開示の組成物は、前記N-ビニルラクタム系共重合体、及び、前記アクリロニトリル系共重合体を必須として含めば、特に限定はなく、その他の重合体、添加剤や溶媒等を含んでもよい。
本開示の組成物の総量を100質量%とした場合、前記N-ビニルラクタム系共重合体と前記アクリロニトリル系共重合体との質量比は、0.1:99.9~30:70が好ましい。より好ましくは1:99~25:75であり、更に好ましくは2:98~20:80であり、一層好ましくは3:97~15:85であり、より一層好ましくは4:96~12:88である。
【0070】
〔アクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法〕
本開示のアクリル繊維又はモダクリル繊維の製造方法は、以下の二つの工程を含んだ製造方法であれば特に限定はない。
工程1)N-ビニルラクタム系単量体由来の構造単位(a)、及びニトリル系単量体由来の構造単位(b)を有し、リン原子含有化合物由来の構造単位を有するN-ビニルラクタム系共重合体、及び、全構造単位の総量を100質量%とした場合、アクリロニトリルに由来する構造単位を35質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体を溶媒に溶解させて、組成物溶液を調整する工程
工程2)前記組成物溶液を、前記溶媒以外の他の液体と接触させる工程
【0071】
本開示に於ける工程1)は、溶媒に、前記N-ビニルラクタム系共重合体、及び、前記アクリロニトリル系共重合体を溶解させて組成物溶液とする工程である。溶解方法は特に限定はなく、公知技術の各種の方法で行えばよい。
前記溶媒は、液温20℃に於いて、前記N-ビニルラクタム系共重合体、及び、前記アクリロニトリル系共重合体を溶解させることができる液体を意味する。
前記溶媒としては、ジメチルスルホキサイド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
これらの中でも、ジメチルスルホキサイド溶媒であれば、湿式紡糸時の製糸性に優れるという点で好ましい。
【0072】
本開示に於ける工程2)は、前記工程1)で調整した組成物溶液を、前記溶媒以外の他の液体に接触させる工程である。
前記工程2)を経ることにより、固形物が析出してくる。このことを利用して、湿式紡糸により、本開示のアクリル繊維又はモダクリル繊維を得ることができる。
【0073】
前記工程2)で用いる前記溶媒以外の他の液体とは、液温20℃に於いて、前記アクリロニトリル系共重合体の溶解度が低く、析出させることができる溶媒を意味する。
前記溶媒以外の他の液体としては、ジメチルスルホキサイド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドの水溶液等が挙げられる。
これらの中でも、前記工程1)で用いた溶媒の水溶液であれば、回収後の再利用が容易であるという点で好ましい。
【0074】
また、本開示のアクリル繊維又はモダクリル繊維は、前記工程1)で調整した組成物溶液を用いて、工程2)で、湿式紡糸後、湿熱処理を行うことで得ることができる。
【0075】
〔N-ビニルラクタム系共重合体の用途〕
本開示のN-ビニルラクタム系共重合体、及び/又は、本開示の組成物は、特に限定されないが、中空糸膜の製造助剤、半導体用洗浄剤、接着剤や粘着剤用添加剤、電子部品製造用助剤、洗剤添加剤、化粧料用添加剤、増粘剤、インク添加剤、顔料分散剤、電池用正極・負極材料の分散剤、無機粒子の分散剤、親水化剤、塗料組成物用添加剤、表面処理剤、樹脂改質剤、無機物質のバインダー、セラミックバインダー、無機組成物用添加剤、繊維処理剤、機能性繊維用添加剤等の各種用途に使用することができる。
特に、各種繊維に混錬して用いると、繊維加工時の耐熱性に優れ、着色も少なく、各種繊維への吸湿付与性付与剤として、優れた性能を発揮するため好ましい。
【実施例0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
<重量平均分子量の測定(GPC)>
装置:東ソー株式会社製 HLC-8320GPC
検出器:RI
カラム:昭和電工株式会社製 Shodex KD-806M(2本直列に接続)、KD-G 4A
カラム温度:40℃
流速:0.8ml/min
検量線:Polystyrene Standards(Mp=3242000、990500、483400、215000、74800、10110)を使用し、Mpと溶出時間を基礎に3次式で作成。
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(0.1%LiBr含有).
【0078】
<リン原子含有化合物の含有量分析(イオンクロマト分析)>
リン原子含有化合物の含有量は、下記条件にてイオンクロマト分析を行った。
装置:東ソー株式会社製IC-2010
検出器:電導度検出器
カラム:ShodexICSI-904E
ガードカラム:ShodexICSI-90
カラム温度:25℃
溶離液:0.1質量%炭酸水素ナトリウム水溶液
流速:1.2mL/分
注入量:100μL
本測定により未反応のリン原子含有化合物量を算出し、添加量から減算することで、分子中に含まれるリン原子含有化合物由来の構造単位の割合を算出した。
【0079】
<共重合体の耐熱黄変試験(YI)>
各共重合体を、50℃の減圧乾燥機で12時間乾燥後、窒素雰囲気下260℃で60分間加熱し、デシケータ内で空冷した。得られたサンプルを粉砕した後、以下の条件で色差計を用い、JIS K7373記載の計算式でYIを算出した。
装置:日本電色工業社製「色差計SE-2000」
方法:加熱前後のサンプルを石英セルに敷き、遮光下「反射モード」にて測定する。
得られたYIの結果より、以下のように判定した。
◎:YI25未満
〇:YI25以上30未満
△:YI30以上40未満
×:YI40以上
【0080】
<共重合体の耐熱性>
共重合体の耐熱黄変試験前後の重量平均分子量を測定し、以下の計算式で共重合体の耐熱性を評価した。
耐熱性=Mw2/Mw1
Mw1:重量平均分子量(共重合体の耐熱黄変試験前)
Mw2:重量平均分子量(共重合体の耐熱黄変試験後)
得られた耐熱性の結果より、以下のように判定した。
◎:耐熱性が0.97以上
〇:耐熱性が0.93以上0.97未満
△:耐熱性が0.85以上0.93未満
×:耐熱性が0.85未満
【0081】
<共重合体の吸湿性>
共重合体を110℃で2時間乾燥した質量(X)を測定した。その後、上記共重合体を20℃、65%RHに調節された環境下に24時間静置後の質量(Y)を測定した。次いで、上記共重合体を30℃、90%RHに調節された環境下に24時間放置後の質量(Z)を測定した。
以下の計算式で共重合体の吸湿率を算出した。
吸湿率(%)={(Z-X)/X-(Y-X)/X}×100
得られた吸湿率の結果より、以下のように判定した。
◎:吸湿率25%以上
〇:吸湿率20%以上25%未満
△:吸湿率15%以上20%未満
×:吸湿率15%未満
【0082】
<フィルムのb*値測定>
装置:日本電色工業社製「色差計SE-2000」
測定モード:透過
【0083】
<樹脂組成物の吸湿性>
共重合体の代わりに樹脂組成物を用いた以外は共重合体の吸湿性試験と同様の手順により、樹脂組成物の吸湿率を算出した。
共重合体無添加時と比較し、吸湿率向上程度により、以下のように判定した。
◎:吸湿率の向上が1%以上
×:吸湿率の向上が1%未満
【0084】
<製造例1>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:143.0g、5重量%次亜リン酸ナトリウム・一水和物の水溶液(以下、「5%SHP」と称する):31.1g、1重量%水酸化ナトリウム水溶液(以下、「1%NaOH」と称する):2.2gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、N-ビニルピロリドン(以下、「NVP」と称する):79.9gを30分間と更に続いて319.6gを150分間と2段階の供給速度で、9重量%2、2’- アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)の2-プロパノール溶液(以下、「9%V-65」と称する):8.2gを30分間と更に続いて24.7gを180分間と2段階の供給速度で、5%SHP:31.1gを180分間、脱イオン水:215.8gを210分間、アクリロニトリル(以下、「AN」と称する):44.4gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、5%SHP、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:100.0gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(A―1)を得た。該共重合体水溶液(A-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(A-2)を得た。得られた共重合体の粉体(A-2)の重量平均分子量は18.8万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は1581ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は4230ppmであった。
【0085】
<製造例2>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:179.9g、4%SHP:34.9g、1%NaOH:2.8gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、NVP:100.6gを30分間と更に続いて402.2gを150分間と2段階の供給速度で、9%V-65:10.3gを30分間と更に続いて24.2gを180分間と2段階の供給速度で、4%SHP:34.9gを180分間、脱イオン水:294.8gを210分間、AN:55.9gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、4%SHP、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)した後、5重量%マロン酸水溶液(以下、「5%マロン酸」と称する):109.1gと脱イオン水:10.9gを添加した。この後、さらに60分間71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:239.5gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(B―1)を得た。該共重合体水溶液(B-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(B-2)を得た。得られた共重合体の粉体(B-2)の重量平均分子量は23.4万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は1757ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は2393ppmであった。
【0086】
<製造例3>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:157.6g、5%SHP:30.3g、1%NaOH:2.2gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、NVP:88.1gを30分間と更に続いて303.3gを155分間と2段階の供給速度で、9%V-65:9.1gを30分間と更に続いて21.2gを180分間と2段階の供給速度で、5%SHP:30.3gを185分間、脱イオン水:250.1gを210分間、AN:97.8gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、5%SHP、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:110.0gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(C―1)を得た。該共重合体水溶液(C-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(C-2)を得た。得られた共重合体の粉体(C-2)の重量平均分子量は20.3万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は1181ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は3966ppmであった。
【0087】
<製造例4>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:159.1g、4%SHP:43.2g、1%NaOH:2.2gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、NVP:88.9gを30分間と更に続いて306.2gを155分間と2段階の供給速度で、9%V-65:9.1gを30分間と更に続いて21.4gを180分間と2段階の供給速度で、4%SHP:43.2gを185分間、脱イオン水:228.0gを210分間、AN:98.8gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、4%SHP、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)した後、88重量%ギ酸水溶液(以下、「88%ギ酸」と称する):4.0gと脱イオン水:4.0gを添加した。この後、さらに30分間71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:241.9gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(D―1)を得た。該共重合体水溶液(D-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(D-2)を得た。得られた共重合体の粉体(D-2)の重量平均分子量は23.7万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は1433ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は4378ppmであった。
【0088】
<製造例5>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:150.0g、4%SHP:29.1g、1%NaOH:2.1gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、NVP:83.8gを30分間と更に続いて288.6gを155分間と2段階の供給速度で、9%V-65:8.6gを30分間と更に続いて20.2gを180分間と2段階の供給速度で、4%SHP:29.1gを185分間、脱イオン水:236.4gを210分間、AN:93.1gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、4%SHP、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)した後、5%マロン酸:90.9gと脱イオン水:9.1gを添加した。この後、さらに60分間71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:209.1gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(E―1)を得た。該共重合体水溶液(E-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(E-2)を得た。得られた共重合体の粉体(E-2)の重量平均分子量は18.7万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は1480ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は2670ppmであった。
【0089】
<製造例6>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:373.9g、25%SHP:9.0g、48%NaOH:0.14gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら90℃まで昇温した。次いで攪拌しながら90℃の重合反応系中に、NVP:500.0gを360分間、10重量%2、2’- アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩水溶液(以下、「10%V-50」と称する):27.0gを390分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。それぞれの成分の滴下は、一定の滴下速度で連続的に行った。NVPの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を90℃に保持(熟成)した後、88%ギ酸:8.5を添加した。この後、さらに60分間90℃に保持(熟成)した後、48%NaOH:3.6gを添加した。この後、さらに60分間90℃に保持(熟成)し、重合を完結させることで共重合体水溶液(F―1)を得た。該共重合体水溶液(F-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(F-2)を得た。得られた共重合体の粉体(F-2)の重量平均分子量は9万であった。また、粉体中に含まれる未反応の次亜リン酸ナトリウム(無水物)の含有量は15ppmであったことから、共重合体中における次亜リン酸ナトリウム(無水物)由来の含有量は4135ppmであった。
【0090】
<製造例7>
還流冷却器、撹拌機、窒素導入管、温度センサーを備えた容量2.5LのSUS製反応容器に、脱イオン水:144.7g、10重量%チオグリセロール水溶液(以下、「10%チオグリセロール」と称する):94.3g、1%NaOH:2.0gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら71℃まで昇温した。次いで攪拌しながら71℃の重合反応系中に、NVP:80.9gを30分間と更に続いて278.5gを155分間と2段階の供給速度で、9%V-65:8.3gを30分間と更に続いて19.5gを180分間と2段階の供給速度で、10%チオグリセロール:94.3gを185分間、脱イオン水:128.8gを210分間、AN:89.8gをNVPの滴下開始10分後から200分間、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。AN、10%チオグリセロール、脱イオン水の滴下は一定の滴下速度で連続的に行った。また、AN以外の滴下はNVPの滴下と同時に開始した。ANの滴下終了後、さらに60分間、上記反応液を71℃に保持(熟成)した後、5%マロン酸:87.8gと脱イオン水:8.8gを添加した。この後、さらに60分間71℃に保持(熟成)し、重合を完結させた。重合の完結後、反応溶液に脱イオン水:212.2gを攪拌下、滴下することで共重合体水溶液(G―1)を得た。該共重合体水溶液(G-1)を減圧条件下、90℃の真空乾燥機にて乾燥させ、その後乾燥物をラボミルサーにて粉砕することで共重合体の粉体(G-2)を得た。得られた共重合体の粉体(G-2)の重量平均分子量は38.8万であった。
【0091】
<実施例1-5、比較例1、2>
製造例1-7で得られた共重合体の粉末を評価した結果を示す。
【0092】
【0093】
<実施例6>
製造例1で得られた共重合体の粉体(A-2)をジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と称する。)に溶解させ、10質量%の溶液(A-3)を得た。次に、市販のアクリル繊維(色染社製染色試験用繊維「アクリルモスリン」)をDMSOに溶解させ、10質量%の溶液(S)を得た。溶液(A-3)と溶液(S)を1:9の割合で混合した溶液(A-4)を減圧条件下で110℃1時間乾燥し、続けて減圧条件下で120℃15時間乾燥し、更に続けて減圧条件下で130℃2.5時間乾燥することで厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムのb*値、吸湿率の評価結果を下表に示す。なお、吸湿率の評価に必要な共重合体無添加品は溶液(S)を上記条件で乾燥することで得られたフィルムを用いた。
また、溶液(A-4)を62質量%DMSO/水混合溶液中に吐出し、延伸することで本発明の共重合体を含有する繊維が得られることも確認した。
【0094】
<実施例7―10、比較例3-4>
共重合体の粉体(A-2)の代わりに共重合体の粉末(B-2)~(G-2)を用いた以外は実施例6と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムのb*値、吸湿率の評価結果を下表に示す。
【0095】