(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137187
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20240927BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E02F9/24 J
E02F9/22 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048606
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 駿斗
(72)【発明者】
【氏名】中野 真
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 尚生
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 正雄
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA07
2D003CA02
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB08
2D003FA02
2D015GA03
2D015GB01
(57)【要約】
【課題】操作パターンを誤認していることをオペレータに速やかに認識させて、油圧ショベルが意図しない動作で大きく動くのを防止可能な作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械は、下部走行体と、下部走行体に旋回可能に支持された上部旋回体と、上部旋回体に支持された作業装置と、上部旋回体または作業装置の動作を指示する操作信号を操作量に応じて出力する操作装置と、操作装置から出力された操作信号に基づいて、上部旋回体または作業装置の動作を制御するコントローラとを備える。コントローラは、操作信号の出力が開始されてから閾値時間が経過するまでは、操作量に拘わらず予め定められた初期速度で上部旋回体または作業装置の動作を制御する初期制御を実行すると共に、操作信号の出力が開始されてから閾値時間が経過した後には、操作量に対応する速度で上部旋回体または作業装置の動作を制御するメイン制御を実行する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に支持された上部旋回体と、
前記上部旋回体に支持された作業装置と、
前記上部旋回体または前記作業装置の動作を指示する操作信号を操作量に応じて出力する操作装置と、
前記操作装置から出力された前記操作信号に基づいて、前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御するコントローラと、を備えた作業機械において、
前記コントローラは、前記操作信号の出力が開始されてから閾値時間が経過するまでは、前記操作量に拘わらず予め定められた初期速度で前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御する初期制御を実行すると共に、前記操作信号の出力が開始されてから前記閾値時間が経過した後には、前記操作量に対応する速度で前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御するメイン制御を実行することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
動力源となるエンジンを備え、
前記コントローラは、
前記エンジンが始動されてから最初に前記操作信号が出力された場合には、前記初期制御を行い、
前記エンジンが始動されてから最初に前記操作信号が出力され且つ前記操作信号の出力が停止した状態を経て、再び前記操作信号が出力された場合には、前記初期制御を行わずに前記メイン制御を行うことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記エンジンが始動されてから最初に前記操作信号が出力され且つ前記操作信号の出力が停止した状態を経て、再びに前記操作信号が出力された場合に、
前記操作信号の出力が停止している無操作期間が閾値期間以上であるときには、前記初期制御を行い、
前記無操作期間が前記閾値期間未満であるときには、前記初期制御を行わずに前記メイン制御を行うことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記初期制御と前記メイン制御とを切り換えるときには、予め定められた速度パターンに従って、前記上部旋回体または前記作業装置の動作の動作速度を前記初期速度から前記操作量に対応する速度まで増速する過渡期制御を行うことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部走行体、上部旋回体、及び作業装置を備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧ショベルでは、上部旋回体の旋回、ブームの起伏、アームのクラウド及びダンプ、バケットのクラウド及びダンプが、左右の操作レバーの操作によって行われる。
図7は、油圧ショベルの操作パターンの代表例を示す図である。
図7に示すように、左右の操作レバーの操作パターンは、製造メーカ毎または機種毎に異なって設定されていることがある。
【0003】
特許文献1では、運転者が操作レバーを把持してないときに、油圧ショベルの動作によって生じる操作レバーへの慣性力に起因する誤操作を防止するために、オペレータが操作レバーを把持しているか否かを判断し、操作を有効化するか無効化するかを切り替える技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、車体動作に伴う慣性力に起因する誤操作を防止することはできる。しかし、操作レバーの誤操作としては車体動作に起因するものだけでなく、オペレータの誤認に起因する誤操作も存在する。オペレータに誤認に起因する誤操作として、操作レバーの操作パターンの誤認がある。
【0006】
オペレータが操作レバーの操作パターンを誤認したままま、操作レバーを操作してしまった場合、オペレータが操作パターンを誤認していることを速やかに認識し、操作を中止または変更するなどの対応を取らなければ、油圧ショベルが意図しない動作で大きく動いてしまう。
【0007】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、操作パターンを誤認していることをオペレータに速やかに認識させて、油圧ショベルが意図しない動作で大きく動くのを防止可能な作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に支持された作業装置と、前記上部旋回体または前記作業装置の動作を指示する操作信号を操作量に応じて出力する操作装置と、前記操作装置から出力された前記操作信号に基づいて、前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御するコントローラと、を備えた作業機械において、前記コントローラは、前記操作信号の出力が開始されてから閾値時間が経過するまでは、前記操作量に拘わらず予め定められた初期速度で前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御する初期制御を実行すると共に、前記操作信号の出力が開始されてから前記閾値時間が経過した後には、前記操作量に対応する速度で前記上部旋回体または前記作業装置の動作を制御するメイン制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、操作パターンを誤認していることをオペレータに速やかに認識させて、油圧ショベルが意図しない動作で大きく動くのを防止することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図6】旋回制御処理における旋回モータの回転速度の推移の例を示す図である。
【
図7】油圧ショベルの操作パターンの代表例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る油圧ショベル1(作業機械)の実施形態について、図面を用いて説明する。但し、作業機械の具体例は、油圧ショベル1に限定されない。また、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。
【0012】
図1は、油圧ショベル1の側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2により支持された上部旋回体3とを備える。下部走行体2は、無限軌道帯である左右一対のクローラ4を備える。そして、走行モータ5の駆動により、左右一対のクローラ4が独立して回転する。その結果、油圧ショベル1が走行する。但し、下部走行体2は、クローラ4に代えて、装輪式であってもよい。
【0013】
上部旋回体3は、旋回モータ6によって旋回可能に下部走行体2に支持されている。すなわち、旋回モータ6が回転することによって、下部走行体2に対して上部旋回体3が旋回(以下、「旋回動作」と表記する。)する。上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム7と、旋回フレーム7の後部に配置されたカウンタウェイト9と、旋回フレーム7の前方中央に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント作業機10(作業装置)と、旋回フレーム7の前方左側に配置されたキャブ(運転席)20とを主に備える。
【0014】
フロント作業機10は、上部旋回体3に起伏可能に支持されたブーム11と、ブーム11の先端に回動(クラウド、ダンプ)可能に支持されたアーム12と、アーム12の先端に回動(クラウド、ダンプ)可能に支持されたバケット13(アタッチメント)と、ブーム11を駆動させるブームシリンダ14と、アーム12を駆動させるアームシリンダ15と、バケット13を駆動させるバケットシリンダ16とを含む。なお、アタッチメントの具体例はバケット13に限定されず、グラップル、カッタ、破砕機、ブレーカ等でもよい。カウンタウェイト9は、フロント作業機10との重量バランスを取るためのもので、上面視円弧形状を成す重量物である。
【0015】
ブーム11の起伏、アーム12の回動、及びバケット13の回動は、フロント作業機10の作業動作の一例である。また、上部旋回体3の旋回動作及びフロント作業機10の作業動作は、特定動作の一例である。より詳細には、フロント作業機10の作業動作のうち、油圧ショベル1の旋回半径を増加させる作業動作(すなわち、ブーム11の倒伏、アーム12のダンプ、バケット13のダンプ)のみを、特定動作に含めてもよい。また、特定動作を指示する操作レバー23、24の操作を「特定操作」と表記する。
【0016】
キャブ20は、左右方向(車体の幅方向)において、フロント作業機10に隣接して配置されている。より詳細には、キャブ20は、フロント作業機10の左方(左右方向の一方側)に配置されている。但し、キャブ20の配置は前述の例に限定されず、キャブ20は、左右方向におけるフロント作業機10の一方側に配置されていればよい。
【0017】
図2は、キャブ20の内部を示す模式図である。キャブ20には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。
図2に示すように、キャブ20の内部には、オペレータが着席するシート21と、シート21に着席したオペレータが操作する操作装置22とが設置されている。
【0018】
操作装置22は、上部旋回体3及びフロント作業機10を操作するための左右一対の操作レバー23、24と、下部走行体2を操作するための左右一対の走行ペダル25、26とを含む。そして、キャブ20に搭乗したオペレータが操作装置22を操作することによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回動作し、フロント作業機10が作業動作する。
【0019】
操作レバー23、24は、オペレータによって前後左右に倒伏されることによって、後述するコントローラ50(
図4参照)に操作信号を出力する。操作信号は、操作レバー23、24の倒伏方向及び倒伏量(すなわち、操作量)を示す。操作信号は、例えば、電圧値で表されてもよいし、PWM(Pulse Width Modulation)信号のデューティー比で表されてもよい。すなわち、操作レバー23、24は、操作量が大きくなるほど、電圧値またはデューティー比が大きい操作信号を出力する。
【0020】
本実施形態に係る左右一対の操作レバー23、24には、
図7に示す操作パターン1が設定されている。但し、左右一対の操作レバー23、24には、
図7に示す操作パターン2~3が設定されてもよいし、操作パターン1~3と異なる操作パターンが設定されてもよい。また、操作装置22の具体例は前述の例に限定されず、レバー、ステアリングホイール、ペダル、スイッチ等が挙げられる。
【0021】
さらに、操作装置22は、エンジンスイッチ27(
図4参照)を含む。エンジンスイッチ27は、後述するエンジン31(
図3参照)の始動及び停止を指示するオペレータの操作を受け付けて、始動信号及び停止信号をコントローラ50に出力する。エンジンスイッチ27の具体的な形態は特に限定されないが、例えば、キーを差し込んで回動させる形態でもよいし、押しボタンの形態でもよい。
【0022】
図3は、油圧ショベル1の駆動回路を示す図である。
図3に示すように、油圧ショベル1は、エンジン31と、作動油タンク32と、メインポンプ33と、パイロットポンプ34と、方向制御弁35、36、37、38と、パイロット制御弁40a、40b、41a、41b、42a、42b、43a、43bとを主に備える。但し、駆動回路の具体的な構成は、
図3の例に限定されない。
【0023】
エンジン31は、油圧ショベル1を駆動するための駆動力を発生させる動力源である。作動油タンク32は、作動油を貯留する。メインポンプ33は、エンジン31の動力によって回転し、作動油タンク32に貯留された作動油を作動油供給流路L1に圧送する。パイロットポンプ34は、エンジン31の動力によって回転し、作動油タンク32に貯留された作動油をパイロット圧油としてパイロット供給流路L3に圧送する。
【0024】
作動油供給流路L1は、作動油タンク32からメインポンプ33及び方向制御弁35~38を経由して、油圧アクチュエータ6、14~16(
図3では、走行モータ5の図示を省略)に至る作動油の流路である。すなわち、作動油供給流路L1は、メインポンプ33によって圧送された作動油を、油圧アクチュエータ6、14~16に供給する供給流路である。
【0025】
また、油圧アクチュエータ6、14~16は、作動油還流流路L2を通じて作動油タンク32に接続されている。作動油還流流路L2は、油圧アクチュエータ6、14~16から方向制御弁35~38を経由して作動油タンク32に至る流路である。すなわち、作動油還流流路L2は、油圧アクチュエータ6、14~16から排出された作動油を、作動油タンク32に還流させる還流流路である。
【0026】
パイロット供給流路L3は、作動油タンク32からパイロットポンプ34及びパイロット制御弁40a~43bを経由して、方向制御弁35~38のパイロットポート35a~38bに至るパイロット圧油の流路である。すなわち、パイロット供給流路L3は、パイロットポンプ34によって圧送されたパイロット圧油を、パイロットポート35a~38bに供給する流路である。
【0027】
また、パイロットポート35a~38bは、パイロット還流流路L4を通じて作動油タンク32に接続されている。パイロット還流流路L4は、パイロットポート35a~38bからパイロット制御弁40a~43bを経由して作動油タンク32に至る流路である。すなわち、パイロット還流流路L4は、パイロットポート35a~38bから排出されたパイロット圧油を、作動油タンク32に還流させる流路である。
【0028】
方向制御弁35~38は、作動油供給流路L1及び作動油還流流路L2上に配置されている。方向制御弁35~38は、作動油供給流路L1を通じて油圧アクチュエータ6、14~16に供給される作動油の供給量及び供給方向と、作動油還流流路L2を通じて油圧アクチュエータ6、14~16から排出される作動油の排出量とを制御する。
【0029】
より詳細には、方向制御弁35は旋回モータ6に対する作動油の給排を制御し、方向制御弁36はブームシリンダ14に対する作動油の給排を制御し、方向制御弁37はアームシリンダ15に対する作動油の給排を制御し、方向制御弁38はバケットシリンダ16に対する作動油の給排を制御する。なお、方向制御弁35~38の構成は共通するので、以下、方向制御弁38について詳細に説明する。
【0030】
方向制御弁38は、遮断位置Aと、ダンプ位置Bと、クラウド位置Cとの間を移動するスプールを備える。遮断位置Aは、作動油供給流路L1及び作動油還流流路L2を遮断して、バケットシリンダ16への作動油の給排を停止する位置である。ダンプ位置B及びクラウド位置Cは、作動油供給流路L1及び作動油還流流路L2を開放して、バケットシリンダ16に対して作動油を給排する給排位置である。また、ダンプ位置B及びクラウド位置Cは、遮断位置Aを挟んで反対側に位置する。
【0031】
より詳細には、ダンプ位置Bは、バケットシリンダ16のロッド室に作動油を供給し、ボトム室から作動油を排出することによって、バケットシリンダ16を縮小させる位置である。クラウド位置Cは、バケットシリンダ16のボトム室に作動油を供給し、ロッド室から作動油を排出することによって、バケットシリンダ16を伸長させる位置である。また、スプールが遮断位置Aに近づくほど、バケットシリンダ16に対する作動油の給排量が減少する。一方、スプールがダンプ位置Bまたはクラウド位置Cに近づくほど、バケットシリンダ16に対する作動油の給排量が増加する。
【0032】
方向制御弁38のスプール初期位置は、遮断位置Aである。また、方向制御弁38は、パイロットポート38aにパイロット圧油が供給され、パイロットポート38bからパイロット圧油が排出されることによって、遮断位置Aからダンプ位置Bに向かって移動する。また、方向制御弁38は、パイロットポート38bにパイロット圧油が供給され、パイロットポート38aからパイロット圧油が排出されることによって、遮断位置Aからクラウド位置Cに向かって移動する。
【0033】
パイロット制御弁40a~43bは、パイロット供給流路L3及びパイロット還流流路L4上に配置されている。パイロット制御弁40a~43bは、パイロット供給流路L3を通じてパイロットポート35a~38bに供給される作動油の供給量と、パイロット還流流路L4を通じてパイロットポート35a~38bから排出される作動油の排出量とを制御する。パイロット制御弁40a~43bは、コントローラ50の制御に従って供給量を制御する電磁切換弁である。パイロット制御弁40a~43bの構成は共通するので、以下、パイロット制御弁43a、43bについて詳細に説明する。
【0034】
パイロット制御弁43aは、パイロットポート38aと、パイロットポンプ34及び作動油タンク32との間に配置されている。また、パイロット制御弁43aは、供給位置Dと、還流位置Eとの間を移動するスプールを備える。供給位置Dは、パイロットポンプ34から圧送されたパイロット圧油を、パイロットポート38aに供給する位置である。還流位置Eは、パイロットポート38aから排出されたパイロット圧油を、作動油タンク32に還流させる位置である。パイロット制御弁43aのスプールの初期位置は、還流位置Eである。そして、コントローラ50から出力される指令電流が大きくなるほど、スプールが還流位置Eから供給位置Dに近づく。
【0035】
パイロット制御弁43bは、パイロットポート38bと、パイロットポンプ34及び作動油タンク32との間に配置されている。また、パイロット制御弁43bは、供給位置Dと、還流位置Eとの間を移動するスプールを備える。そして、パイロット制御弁43bは、指令電流の大きさに応じてスプールが移動して、供給位置Dもしくは還流位置Eに切換えられる。
【0036】
図4は、油圧ショベル1の制御ブロック図である。
図4に示すように、油圧ショベル1は、CPU51(Central Processing Unit)と、メモリ52とを有するコントローラ50を備える。メモリ52は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、またはこれらの組み合わせで構成される。コントローラ50は、メモリ52に格納されたプログラムコードをCPU51が読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。
【0037】
但し、コントローラ50の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0038】
コントローラ50は、油圧ショベル1全体の動作を制御する。コントローラ50は、エンジンスイッチ27から始動信号が出力された場合にエンジン31を始動し、エンジンスイッチ27から停止信号が出力された場合にエンジン31を停止する。また、コントローラ50は、操作装置22から出力される操作信号に基づいて、エンジン31、メインポンプ33、及びパイロットポンプ34を回転させると共に、パイロット制御弁40a~43bを開閉(指令電流を出力)する。
【0039】
メモリ52には、初回フラグが記憶されている。初回フラグには、エンジン31が始動されてから未だ特定操作がなされていないことを示す“ON(第1値)”、またはエンジン31が始動されてから既に特定操作がなされたことを示す“OFF(第2値)”が設定される。そして、コントローラ50は、エンジンスイッチ27から始動信号が出力された場合に、エンジン31を始動させると共に、初回フラグに“ON”を設定する。
【0040】
図5は、旋回制御処理のフローチャートである。
図6は、旋回制御処理における旋回モータ6の回転速度の推移の例を示す図である。本実施形態では、上部旋回体3の旋回動作を特定動作の例として説明する。但し、特定動作の具体例は旋回動作に限定されず、フロント作業機10の作業動作(典型的には、ブーム11の倒伏、アーム12のダンプ、バケット13のダンプ)であってもよい。コントローラ50は、エンジン31の駆動中において、操作レバー23が左右に倒伏された場合に、
図5に示す旋回制御処理を実行する。
【0041】
まず、コントローラ50は、メモリ52に記憶された初回フラグの設定値を判定する(S11)。そして、コントローラ50は、初回フラグに“ON”が設定されていると判定した場合に(S11:Yes)、操作レバー23の倒伏量に拘わらず、予め定められた初期速度で旋回モータ6を回転させる(S12)。ステップS12は、初期制御の一例である。
【0042】
すなわち、コントローラ50は、エンジン31が始動されてから最初に操作信号が出力された場合に、初期制御を行う。より詳細には、コントローラ50は、旋回モータ6が初期速度で回転するように、パイロット制御弁40a、40bの開度(すなわち、方向制御弁35を通じて旋回モータ6に供給される作動油の流量)を制御する。初期速度は、例えば、操作レバー23の操作量に対応する最低速度より遅い速度に設定される。
【0043】
次に、コントローラ50は、操作レバー23の倒伏が終了(すなわち、操作信号の出力が停止)するか、初期速度での旋回モータ6の回転を開始してからの経過時間が予め定められた閾値時間に達するまで(S13:No&S14:No)、ステップS12の処理を継続する。閾値時間は、例えば、オペレータが操作パターンを誤認したことを認識できる値で、且つ油圧ショベル1の操作性を極端に低下させない値に設定される。
【0044】
次に、コントローラ50は、ステップS12の処理を開始してからの経過時間が閾値時間に達した場合に(S14:Yes)、操作レバー23の操作量に対応する速度(以下、「目標速度」と表記する。)で旋回モータ6を回転させる(S15)。操作レバー23の操作量が大きくなるほど、目標速度も大きくなる。
【0045】
より詳細には、コントローラ50は、旋回モータ6が目標速度で回転するように、パイロット制御弁40a、40bの開度を制御する。そして、コントローラ50は、操作レバー23の倒伏が終了するまで(S16:No)、ステップS15の処理を継続する。ステップS15は、メイン制御の一例である。
【0046】
但し、
図6に示すように、初期速度と目標速度との間に大きな隔たりがある場合において、短時間で初期速度から目標速度に増速すると、旋回モータ6に加わる負荷が大きくなると共に、油圧ショベル1の操作性も悪化する。そこで、コントローラ50は、初期制御及びメイン制御の間(すなわち、初期制御とメイン制御とを切り換えるとき)に、過渡期制御を行う。初期速度と目標速度との差が小さい場合などは、過渡期制御が省略されてもよい。
【0047】
過渡期制御は、予め定められた速度パターンに従って、旋回モータ6の回転速度(動作速度)を初期速度から目標速度まで増速させる制御である。より詳細には、コントローラ50は、速度パターンに従って旋回モータ6が初期速度から目標速度まで増速するように、パイロット制御弁40a、40bの開度を徐々に増大させる。過渡期制御における速度パターンは、例えば、
図6に示す直線パターン(等加速度パターン)でもよいし、二次曲線パターン、指数曲線パターン等でもよい。
【0048】
そして、コントローラ50は、過渡期制御またはメイン制御の実行中に操作レバー23の倒伏が終了した場合に(S16:Yes)、旋回モータ6を停止させ(すなわち、パイロット制御弁40a、40bを還流位置Eに切り替え)、初回フラグに“OFF”を設定し、無操作期間の計測をスタートして(S17)、旋回制御処理を終了する。無操作期間は、特定操作の操作信号の出力が停止している期間を指す。換言すれば、無操作期間は、特定操作の操作信号が前回出力されてから、出力が停止している状態を経て、今回出力されるまでの期間である。
【0049】
また、コントローラ50は、初期制御の実行中に操作レバー23の倒伏が終了した場合に(S13:Yes)、ステップS15~S16の処理を実行せずに、ステップS17の処理を実行して、旋回制御処理を終了する。すなわち、上部旋回体3が初期速度で旋回したことによって、オペレータが操作パターンの誤認に気づいた場合、操作レバー23の倒伏を終了すれば過渡期制御及びメイン制御が実行されない。
【0050】
一方、コントローラ50は、初回フラグに“OFF”が設定されていると判定した場合に(S11:No)、直近に実行されたステップS17、ステップS21で計測をスタートした無操作期間が閾値期間以上か否かを判定する(S18)。閾値期間は、例えば、操作レバー23を操作して操作パターンを認識したオペレータが、操作装置22の操作パターンを失念する可能性がある程度の期間に設定される。
【0051】
そして、コントローラ50は、エンジン31が始動されてから2回目以降に操作信号が出力された場合において(S11:No)、無操作期間が閾値期間以上だと判定した場合に(S18:Yes)、ステップS12以降の処理を実行する。すなわち、コントローラ50は、エンジン31が始動されてから2回目以降に操作信号が出力された場合において、特定操作の操作信号が前回出力されてから今回出力されるまでの無操作期間が閾値期間以上である場合に、初期制御を行う。
【0052】
なお、「2回目に操作信号が出力された」とは、エンジン31が始動されてから最初(1回目)に操作信号が出力され且つ操作信号の出力が停止した状態を経て、再び(2回目)操作信号が出力されたことを指す。以下同様に、操作信号の出力が停止した状態と、操作信号が出力された状態とが繰り返されることによって、「2回目以降に操作信号が出力された」ことになる。
【0053】
一方、コントローラ50は、エンジン31が始動されてから2回目以降に操作信号が出力された場合において(S11:No)、無操作期間が閾値期間未満だと判定した場合に(S18:No)、ステップS12~S14の処理を実行せずに、ステップS19~S20の処理を実行する。ステップS19~S20の処理は、ステップS15~S16と共通する。
【0054】
すなわち、コントローラ50は、エンジン31が始動されてから2回目以降に操作信号が出力された場合において、無操作期間が閾値期間未満である場合に、初期制御を行わずに過渡期制御及びメイン制御を行う。さらに、コントローラ50は、過渡期制御またはメイン制御の実行中に操作レバー23の倒伏が終了した場合に(S20:Yes)、旋回モータ6を停止させ、無操作期間の計測をリセットして(S21)、旋回制御処理を終了する。
【0055】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0056】
例えば、操作パターン1が設定された油圧ショベル1に搭乗したオペレータが、操作パターン2だと誤認して操作レバー23を左に倒伏させる場合を想定する。このとき、オペレータはアーム12をダンプさせるつもりで操作レバーを操作したにも拘わらず、上部旋回体3が左旋回する。すなわち、オペレータが操作パターンを誤認したことによって、油圧ショベル1がオペレータの意図しない動作をすることになる。
【0057】
そこで上記の実施形態によれば、特定操作を開始してから閾値時間が経過するまで、操作レバー23の倒伏量に拘わらず、旋回モータ6が初期速度で回転する。そのため、オペレータが操作パターンを誤認したことに気づくまでの間に、上部旋回体3が大きく旋回するのを防止することができる。また、上部旋回体3が実際に回転するので、操作パターンを誤認したことを、オペレータに速やかに認識させることができる。
【0058】
また、オペレータが操作パターンを誤認するのは、油圧ショベル1に搭乗した直後である場合が多い。そこで上記の実施形態によれば、初回フラグの設定値を判定することによって、操作パターンを誤認する可能性が高いシチュエーションでのみ初期制御を行うことができる。一方、エンジン31が始動されてから2回目以降の特定操作では、初期制御をスキップすることによって、油圧ショベル1の操作性の低下を防止できる。
【0059】
また、エンジン31が始動されてから2回目以降に特定操作がなされた場合でも、特定操作をしない無操作期間が長い(例えば、長時間に亘って走行している)場合には再び操作パターンを誤認する可能性がある。そこで、無操作期間が閾値期間以上か否かによって、初期制御の要否を判定することによって、操作パターンの誤認をオペレータに速やかに認識させる効果と、油圧ショベル1の操作性の低下を防止する効果とを両立することができる。
【0060】
さらに、上記の実施形態によれば、初期制御及びメイン制御の間に過渡期制御を行うことによって、旋回モータ6を初期速度から目標速度まで緩やかに増速させることができる。これにより、旋回モータ6に加わる負荷を軽減できると共に、油圧ショベル1の操作性の悪化も防止することができる。
【0061】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 クローラ
5 走行モータ
6 旋回モータ
7 旋回フレーム
9 カウンタウェイト
10 フロント作業機(作業装置)
11 ブーム
12 アーム
13 バケット
14 ブームシリンダ
15 アームシリンダ
16 バケットシリンダ
20 キャブ
21 シート
22 操作装置
23,24 操作レバー
25,26 走行ペダル
27 エンジンスイッチ
31 エンジン
32 作動油タンク
33 メインポンプ
34 パイロットポンプ
35~38 方向制御弁
35a~38b パイロットポート
40a~43b パイロット制御弁
50 コントローラ
51 CPU
52 メモリ