(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013720
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】加工条件設定方法および工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20240125BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20240125BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
B23Q17/09 H
B23Q17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116030
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 良太
(72)【発明者】
【氏名】久保 詩織
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
(72)【発明者】
【氏名】松原 厚
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB09
3C001TA03
3C001TA04
3C001TA06
3C001TB08
3C029CC07
(57)【要約】
【課題】切削加工時のびびり振動を抑制する。
【解決手段】切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法は、切削工具によって工作物に第1試し加工を施しながら、切削工具から工作物に加えられる切削力、および、工作物の複数の計測点での振動を計測する計測工程と、複数の計測点での第1試し加工中の振動の計測結果を用いて、切削位置における工作物の振動を推定する振動推定工程と、第1試し加工中の切削力の計測結果と振動の推定結果とを周波数解析する周波数解析工程と、切削力の周波数解析結果と振動の周波数解析結果とを用いて、切削工具によって工作物に本加工を施す時の工作物上の切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係が表された加工条件選定マップを作成する加工条件選定マップ作成工程と、加工条件選定マップを用いて、振動振幅が予め定められた値以下になるように本加工時の加工条件を設定する設定工程と、を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法であって、
切削工具によって工作物に第1試し加工を施しながら、前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力、および、前記工作物の複数の計測点での振動を計測する計測工程と、
前記複数の計測点での前記第1試し加工中の振動の計測結果を用いて、切削位置における前記工作物の振動を推定する振動推定工程と、
前記第1試し加工中の前記切削力の計測結果と前記振動の推定結果とを周波数解析する周波数解析工程と、
前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて、切削工具によって工作物に本加工を施す時の前記工作物上の切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係が表された加工条件選定マップを作成する加工条件選定マップ作成工程と、
前記加工条件選定マップを用いて、前記振動振幅が予め定められた値以下になるように前記本加工時の前記加工条件を設定する設定工程と、
を有する、加工条件設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工条件設定方法であって、
前記加工条件選定マップ作成工程に先立って、前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて算出される、前記切削位置における前記工作物のコンプライアンスの最大値が予め定められた閾値を超えるか否かを判定し、前記工作物のコンプライアンスの最大値が前記閾値を超えないと判定した場合に、前記加工条件選定マップ作成工程を実行する、加工条件設定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の加工条件設定方法であって、
前記工作物のコンプライアンスの最大値が前記閾値を超えると判定した場合には、前記工作物の剛性を向上させるための対策の実行が可能であるか否かの判定結果を取得し、
前記対策の実行が可能であるとの判定結果を取得した場合には、前記対策が実行された後、前記計測工程に戻り、
前記対策の実行が可能でないとの判定結果を取得した場合には、前記加工条件選定マップ作成工程を実行する、加工条件設定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の加工条件設定方法であって、
前記加工条件選定マップを用いて設定された前記加工条件に従って前記切削工具によって前記工作物に第2試し加工を施し、
前記工作物の強制びびり振動が前記第2試し加工中に発生したか否かの判定結果を取得し、
前記工作物の強制びびり振動が前記第2試し加工中に発生したとの判定結果を取得した場合には、強制びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行する、加工条件設定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の加工条件設定方法であって、
前記加工条件選定マップを用いて設定された前記加工条件に従って前記切削工具によって前記工作物に第2試し加工を施し、
前記工作物の自励びびり振動が前記第2試し加工中に発生したか否かの判定結果を取得し、
前記工作物の自励びびり振動が前記第2試し加工中に発生したとの判定結果を取得した場合には、自励びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行する、加工条件設定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の加工条件設定方法であって、
前記加工条件は、切削工具の1刃あたりの送り量であり、
前記設定工程にて、前記1刃あたりの送り量が一定に保たれる第1条件と、前記第1条件に比べて加工時間が短くなるように加工中に前記1刃あたりの送り量が変更される第2条件との一方を選択して前記本加工時の前記加工条件を設定する、加工条件設定方法。
【請求項7】
切削工具によって工作物に切削加工を施す工作機械であって、
前記切削加工の加工条件を設定する加工条件設定部を備え、
前記加工条件設定部は、
前記切削工具によって前記工作物に第1試し加工を施しながら、前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力、および、前記工作物の複数の計測点での振動を計測し、
前記複数の計測点での前記第1試し加工中の振動の計測結果を用いて、切削位置における前記工作物の振動を推定し、
前記第1試し加工中の前記切削力の計測結果と前記振動の推定結果とを周波数解析し、
前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて、切削工具によって工作物に本加工を施す時の前記工作物上の切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係が表された加工条件選定マップを作成し、
前記加工条件選定マップを用いて、前記振動振幅が予め定められた値以下になるように前記本加工時の前記加工条件を設定する、
工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工条件設定方法および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切削加工を施される被加工物のびびり振動を抑制するために設置される治具の設計を支援する装置が開示されている。この装置は、CAE(Computer Aided Engineering)解析結果を用いて被加工物の加工精度を予測し、所望の加工精度が得られないと予測される場合には、治具の設計データの変更等を使用者に行わせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削加工時にびびり振動が発生すると、加工精度が低下する。そのため、切削加工時のびびり振動を抑制することが求められている。特許文献1では、治具の設計変更によって切削加工時のびびり振動を抑制している。しかしながら、治具の設計変更等が困難な場合や、治具の設置自体が困難な場合がある。そこで、治具の設計変更によらずに、びびり振動を抑制するための技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、切削加工の加工条件を設定する加工条件設定方法が提供される。この加工条件設定方法は、切削工具によって工作物に第1試し加工を施しながら、前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力、および、前記工作物の複数の計測点での振動を計測する計測工程と、前記複数の計測点での前記第1試し加工中の振動の計測結果を用いて、切削位置における前記工作物の振動を推定する振動推定工程と、前記第1試し加工中の前記切削力の計測結果と前記振動の推定結果とを周波数解析する周波数解析工程と、前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて、切削工具によって工作物に本加工を施す時の前記工作物上の切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係が表された加工条件選定マップを作成する加工条件選定マップ作成工程と、前記加工条件選定マップを用いて、前記振動振幅が予め定められた値以下になるように前記本加工時の前記加工条件を設定する設定工程と、を有する。
この形態の加工条件設定方法によれば、切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを用いて加工条件を設定する。そのため、試行錯誤をすることなく、びびり振動の抑制に適した実用的な加工条件を設定できる。したがって、治具の設置が困難な場合や、治具の設計変更が困難な場合であっても、加工条件によってびびり振動を抑制できる。
(2)上記形態の加工条件設定方法において、前記加工条件選定マップ作成工程に先立って、前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて算出される、前記切削位置における前記工作物のコンプライアンスの最大値が予め定められた閾値を超えるか否かを判定し、前記工作物のコンプライアンスの最大値が前記閾値を超えないと判定した場合に、前記加工条件選定マップ作成工程を実行してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、工作物の剛性が確保されている状態で、加工条件を設定できる。そのため、効果的にびびり振動を抑制できる。
(3)上記形態の加工条件設定方法において、前記工作物のコンプライアンスの最大値が前記閾値を超えると判定した場合には、前記工作物の剛性を向上させるための対策の実行が可能であるか否かの判定結果を取得し、前記対策の実行が可能であるとの判定結果を取得した場合には、前記対策が実行された後、前記計測工程に戻り、前記対策の実行が可能でないとの判定結果を取得した場合には、前記加工条件選定マップ作成工程を実行してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、工作物の剛性不足が可能な限り解消されている状態で、加工条件を設定できる。そのため、効果的にびびり振動を抑制できる。
(4)上記形態の加工条件設定方法において、前記加工条件選定マップを用いて設定された前記加工条件に従って前記切削工具によって前記工作物に第2試し加工を施し、前記工作物の強制びびり振動が前記第2試し加工中に発生したか否かの判定結果を取得し、前記工作物の強制びびり振動が前記第2試し加工中に発生したとの判定結果を取得した場合には、強制びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、本加工に先立って強制びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行することで、本加工において強制びびり振動が生じることを抑制できる。
(5)上記形態の加工条件設定方法において、前記加工条件選定マップを用いて設定された前記加工条件に従って前記切削工具によって前記工作物に第2試し加工を施し、前記工作物の自励びびり振動が前記第2試し加工中に発生したか否かの判定結果を取得し、前記工作物の自励びびり振動が前記第2試し加工中に発生したとの判定結果を取得した場合には、自励びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、本加工に先立って自励びびり振動の発生を抑制するための対策案を実行することで、本加工において自励びびり振動が生じることを抑制できる。
(6)上記形態の加工条件設定方法において、前記加工条件は、切削工具の1刃あたりの送り量であり、前記設定工程にて、前記1刃あたりの送り量が一定に保たれる第1条件と、前記第1条件に比べて加工時間が短くなるように加工中に前記1刃あたりの送り量が変更される第2条件との一方を選択して前記本加工時の前記加工条件を設定してもよい。
この形態の加工条件設定方法によれば、第1条件を選択することによって予め定められた加工精度を満足することができ、第2条件を選択することによってさらに加工時間を短期化できる。なお、設定される加工条件は、切削工具の1刃あたりの送り量のほか、切削工具TLの回転速度や、切削工具TLの軸方向(
図1ではZ軸)あるいは半径方向(
図1ではY軸)の切込み量でもよい。
(7)本開示の第2の形態によれば、切削工具によって工作物に切削加工を施す工作機械が提供される。この工作機械は、前記切削加工の加工条件を設定する加工条件設定部を備える。前記加工条件設定部は、前記切削工具によって前記工作物に第1試し加工を施しながら、前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力、および、前記工作物の複数の計測点での振動を計測し、前記複数の計測点での前記第1試し加工中の振動の計測結果を用いて、切削位置における前記工作物の振動を推定し、前記第1試し加工中の前記切削力の計測結果と前記振動の推定結果とを周波数解析し、前記切削力の周波数解析結果と前記振動の周波数解析結果とを用いて、切削工具によって工作物に本加工を施す時の前記工作物上の切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係が表された加工条件選定マップを作成し、前記加工条件選定マップを用いて、前記振動振幅が予め定められた値以下になるように前記本加工時の前記加工条件を設定する。
この形態の工作機械によれば、加工条件設定部は、切削位置と加工条件と振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを用いて加工条件を設定する。そのため、作業員は、試行錯誤をすることなく、びびり振動の抑制に適した実用的な加工条件を設定できる。したがって、治具の設置が困難な場合や、治具の設計変更が困難な場合であっても、加工条件によってびびり振動を抑制できる。
本開示は、加工条件設定方法や、工作機械以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、加工条件設定装置や、加工条件選定マップ作成方法や、加工条件選定マップ作成装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】加工条件設定処理の内容を示す第1のフローチャート。
【
図5】加工条件設定処理の内容を示す第2のフローチャート。
【
図6】コンプライアンスマップの一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における工作機械11の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、工作機械11は、立型マシニングセンタとして構成されている。工作機械11は、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を有している。本実施形態では、X軸は工作機械11の左右方向に沿った座標軸であり、Y軸は工作機械11の前後方向に沿った座標軸であり、Z軸は工作機械11の上下方向に沿った座標軸である。
【0009】
工作機械11は、ベッド20と、サドル30と、テーブル40と、コラム50と、主軸装置60と、切削力センサ70と、3つの振動センサ80A~80Cと、制御装置100とを備えている。
【0010】
サドル30は、ベッド20に支持されている。サドル30は、ベッド20にガイドされながらY軸に沿って移動する。テーブル40は、サドル30に支持されている。テーブル40は、サドル30にガイドされながらX軸に沿って移動する。テーブル40には、工作物WKが固定される。本実施形態では、テーブル40に固定されたクランプ45に工作物WKの下端部が挟持されることによって、工作物WKがテーブル40に固定される。コラム50は、ベッド20に固定されている。主軸装置60は、コラム50に支持されている。主軸装置60は、コラム50にガイドされながらZ軸に沿って移動する。
【0011】
主軸装置60は、主軸65と、主軸モータ67と、回転角センサ69とを備えている。主軸65には、工作物WKに切削加工を施すための切削工具TLが装着される。主軸モータ67は、Z軸に平行な回転軸を中心にして主軸65および切削工具TLを回転させる。主軸モータ67には、例えば、サーボモータを用いることができる。切削工具TLは、中心軸を中心とする略円柱形状を有しており、側面部に少なくとも1つの刃を有している。本実施形態では、切削工具TLは、エンドミルであり、中心軸を中心とする円周方向に沿って等間隔で配置された2つの刃を有している。なお、他の実施形態では、切削工具TLの刃の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。切削工具TLは、例えば、平フライスなどのエンドミル以外のフライス工具でもよい。回転角センサ69は、主軸65の回転角、換言すれば、切削工具TLの回転角を検出する。回転角センサ69によって検出された回転角に関する情報は、制御装置100に送信される。回転角センサ69には、例えば、ロータリーエンコーダを用いることができる。
【0012】
切削力センサ70は、主軸65に設けられている。切削力センサ70は、切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を検出する。切削力センサ70によって検出された切削力に関する情報は、制御装置100に送信される。切削力センサ70には、例えば、切削動力計を用いることができる。
【0013】
3つの振動センサ80A~80Cは、工作物WKに設置されている。各振動センサ80A~80Cは、工作物WKの振動状態を表す物理量を検出する。各振動センサ80A~80Cによって検出された振動状態を表す物理量に関する情報は、制御装置100に送信される。振動状態を表す物理量には、加速度、速度、および、変位が含まれる。本実施形態では、各振動センサ80A~80Cは、工作物WKの加速度を検出する加速度センサである。以下の説明では、振動センサ80A~80Cが設置されている工作物WK上の点のことを計測点MP1~MP3と呼ぶことがある。なお、振動センサ80A~80Cの数は、切削加工中における切削位置での工作物WKの振動を推定するために最低限必要な数であればよい。他の実施形態では、各振動センサ80A~80Cは、加速度センサではなく、工作物WKの変位を検出する変位センサ、あるいは、工作物WKの速度を検出する速度センサでもよい。また、本実施形態では、振動センサ80A~80Cには、接触式の振動センサが用いられているが、他の実施形態では、非接触式の振動センサが用いられてもよい。
【0014】
制御装置100は、CPU101と、メモリ102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えたコンピュータとして構成されている。CPU101は、メモリ102に格納されているコンピュータプログラムを実行することによって、NC制御部110および加工条件設定部120として機能する。
【0015】
NC制御部110は、所定の加工条件に従って主軸モータ67等の工作機械11の各モータを制御することによって、回転している切削工具TLを工作物WKに接触させて、工作物WKに対する切削加工を実行する。以下の説明では、製品を製造するための切削加工を本加工と呼び、本加工に先立って実行される切削加工のことを試し加工と呼ぶ。
【0016】
加工条件設定部120は、切削加工の加工条件を設定する。加工条件には、切削工具TLの回転速度と、切削工具TLの1刃あたりの送り量と、工作物WKへの切削工具TLの半径方向および軸方向の切込み量とが含まれる。加工条件設定部120は、後述する加工条件設定処理を実行することによって、本加工にて用いられる加工条件を設定する。
【0017】
制御装置100には、入力装置105と、表示装置106とが接続されている。入力装置105は、例えば、複数の操作ボタンで構成されている。表示装置106は、例えば、液晶ディスプレイで構成されている。入力装置105と表示装置106とは、タッチパネルとして一体化されてもよい。
【0018】
図2は、支持部材48のレイアウトの一例を示す側面図である。
図3は、支持部材48のレイアウトの一例を示す背面図である。
図2に示すように、工作物WKをテーブル40に固定するためのクランプ45の他に、切削加工時の工作物WKのびびり振動を抑制するための支持部材48が用いられることがある。本実施形態では、支持部材48は、円形断面を有する棒状に形成されている。支持部材48の一端は、工作物WKのうちのクランプ45に挟持されている部分とは異なる部分に接触し、支持部材48の他端は、固定部材49を介してテーブル40に固定されている。
図3に示すように、工作物WKは、例えば、1つの支持部材48によって支持される。工作物WKのうちの支持部材48によって支持されている面とは反対側の面に、切削工具TLによって切削加工が施される。工作物WKのうちの支持部材48によって支持されている面には、振動センサ80A~80Cが設置されている。なお、他の実施形態では、支持部材48は、棒状ではなく、例えば、板状や、ブロック状、あるいは、球面状に形成されてもよい。支持部材48の数は、1つに限られず、2つ以上でもよい。工作物WKの剛性が十分に高い場合には、支持部材48が設けられなくてもよい。
【0019】
図4および
図5は、加工条件設定処理の内容を示すフローチャートである。
図6は、加工条件設定処理において作成されるコンプライアンスマップの一例を示す説明図である。
図7は、加工条件設定処理において作成される加工条件選定マップの一例を示す説明図である。
図4および
図5に示す加工条件設定処理は、本加工時の加工条件を設定するために、加工条件設定部120によって実行される。加工条件設定処理は、例えば、本加工に先立って、入力装置105に設けられた開始ボタンが押下されることにより開始される。なお、加工条件設定処理において実行される方法のことを加工条件設定方法と呼ぶことがある。
【0020】
まず、
図4のステップS110にて、加工条件設定部120は、NC制御部110に試し加工を実行させ、切削力センサ70を用いて試し加工中の各時刻に切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を計測し、振動センサ80A~80Cを用いて試し加工中の各時刻に工作物WK上の各計測点MP1~MP3にて生じる加速度を計測する。本実施形態では、NC制御部110は、
図3に示すように、各振動センサ80A~80Cが設置されている各計測点MP1~MP3の裏側を通る加工経路で、加工開始点SPから加工終了点EPまで工作物WKに試し加工を施す。なお、ステップS110にて実行される試し加工のことを第1試し加工と呼ぶことがある。ステップS110のことを計測工程と呼ぶことがある。
【0021】
ステップS115にて、加工条件設定部120は、各計測点MP1~MP3での加速度の計測結果を用いて、試し加工中の各時刻における加工開始点SPと加工終了点EPとの間の振動を推定する。本実施形態では、加工条件設定部120は、加工開始点SPに最も近い計測点MP1の加速度と加工開始点に2番目に近い計測点MP2の加速度とを用いた線形補外によって、加工開始点SPと加工開始点SPに最も近い計測点MP1との間の加速度を推定する。加工条件設定部120は、隣り合う2つの計測点の加速度を用いた線形補間によって、隣り合う計測点間の加速度を推定する。加工条件設定部120は、加工終了点EPに最も近い計測点MP3の加速度と加工終了点EPに2番目に近い計測点MP2の加速度とを用いた線形補外によって、加工終了点EPと加工終了点EPに最も近い計測点MP3との間の加速度を推定する。なお、他の実施形態では、加工条件設定部120は、線形補間や線形補外ではなく、例えば、ラグランジュ法あるいはスプライン法によって、加工開始点SPと加工終了点EPとの間の振動を推定してもよい。なお、ステップS115のことを振動推定工程と呼ぶことがある。
【0022】
ステップS120にて、加工条件設定部120は、切削力の計測結果と加速度の推定結果とに対して周波数解析を実行する。本実施形態では、加工条件設定部120は、切削力の計測結果と加速度の推定結果とのそれぞれから1刃分の結果を抽出した後、時間領域で表された1刃分の各結果に高速フーリエ変換を施すことによって、周波数領域で表された1刃分の各結果に変換する。1刃分の結果とは、切削工具TLの刃が工作物WKに切り込んでから次に切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むまでの期間の計測結果あるいは推定結果のことを意味する。切削工具TLの刃が工作物WKに接触してから次に切削工具TLの刃が工作物WKに接触するまでの時間のことを切れ刃通過周期と呼ぶことがある。等間隔で配置された複数の刃を有する切削工具TLが用いられる場合、切れ刃通過周期は、例えば、回転角センサ69を用いて計測される切削工具TLの回転周期を切削工具TLの刃数で除すことによって算出できる。なお、加工条件設定部120は、高速フーリエ変換に先立って、1刃分の各結果のデータ数が2のべき乗になるように、1刃分の各結果の端部に所定個数のゼロデータを付加してから高速フーリエ変換を実行してもよい。ゼロデータとは、切削力の値や加速度の値がゼロであることを表すデータである。1刃分の各結果にゼロデータを付加することによって、高速フーリエ変換後の各結果の周波数分解能を高めることができる。なお、ステップS120のことを周波数解析工程と呼ぶことがある。
【0023】
ステップS125にて、加工条件設定部120は、切削力の周波数解析結果と変位の周波数解析結果とを用いて、工作物WK上の切削位置における周波数と工作物WKのコンプライアンスの高さとの関係の分布を表すコンプライアンスマップを作成する。
図6には、コンプライアンスマップの一例が表されている。
図6において、横軸は、工作物WK上の切削位置を表しており、縦軸は、周波数を表しており、色の濃淡は、工作物WKのコンプライアンスの高さを表している。
図6では、色が薄いほどコンプライアンスが高い。コンプライアンスは剛性の逆数であるため、コンプライアンスが高くなるほど剛性は低くなる。加工条件設定部120は、各切削位置および各周波数でのコンプライアンスを算出し、コンプライアンスの算出結果を集約することで、コンプライアンスマップを作成する。本実施形態では、加工条件設定部120は、加速度を(2π×周波数)
2で除すことによって変位を算出し、変位を切削力で除すことによってコンプライアンスを算出する。なお、ステップS125のことをコンプライアンスマップ作成工程と呼ぶことがある。
【0024】
ステップS130にて、加工条件設定部120は、コンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えるか否かを判定する。本実施形態では、所定の閾値は、1.0×10-6m/Nである。
【0025】
ステップS130にてコンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えると判定された場合には、加工条件設定部120は、ステップS140にて、工作物WKの剛性を向上させるための工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、工作物剛性向上対策が可能であるか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定結果を作業員に入力させる。本実施形態における工作物剛性向上対策とは、工作物WKの剛性が不足している部分、あるいは、剛性が不足している部分の周辺部を支持する支持部材48を設置することなどである。作業員は、判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された判定結果を取得する。
【0026】
ステップS140にて工作物剛性向上対策の実行が可能であるとの判定結果が取得された場合には、加工条件設定部120は、ステップS145にて、コンプライアンスマップを表示装置106に表示させる。作業員は、表示装置106に表示されているコンプライアンスマップを参照して工作物剛性向上対策を実行し、工作物剛性向上対策が完了した後、加工条件設定部120は、ステップS110から加工条件設定処理をやり直す。
【0027】
ステップS130にてコンプライアンスマップ中のコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えないと判定された場合には、加工条件設定部120は、
図5のステップS150に処理を進める。ステップS140にて工作物剛性向上対策が可能でないとの判定結果が取得された場合にも、加工条件設定部120は、ステップS150に処理を進める。つまり、工作物WKが所望の剛性を確保できている場合や、剛性が可能な限り高められている場合に、加工条件設定部120は、ステップS150に処理を進める。
【0028】
ステップS150にて、加工条件設定部120は、工作物WK上の各切削位置における工作物WKの振動振幅の予測値の大きさとの関係を表す加工条件選定マップを作成して、表示装置106に表示させる。加工条件選定マップは、切削工具TLの回転速度や切削工具TLの1刃あたりの送り量や工作物WKへの切削工具TLの切込み量などの加工条件を、加工効率向上や加工精度向上などの作業員の目的に応じて選定するために用いられるマップである。
図7には、加工条件選定マップの一例が表されている。
図7において、横軸は、工作物WK上の切削位置を表しており、縦軸は、1刃あたりの送り量を表しており、色の濃淡は、振動振幅の予測値の大きさを表している。
図7では、色が濃いほど振動振幅の予測値が大きい。本実施形態では、ステップS150にて、加工条件設定部120は、まず、切削位置における振動モードより、質量M、減衰係数C、および、ばね定数K等のモーダルパラメータを特定する。加工条件設定部120は、例えば、切削位置ごとに、周波数とコンプライアンスとの関係を表すグラフを作成して、コンプライアンスのピークが所定の閾値を超える周波数を特定する。このときに特定される周波数は複数個であってもよい。特定された周波数ごとのピーク形状に適合する伝達関数をカーブフィッティング処理によって導出して、各振動モードの質量M、減衰係数C、および、ばね定数K等のモーダルパラメータを特定することができる。次に、加工条件設定部120は、切削位置ごとのモーダルパラメータと、任意に設定する加工条件パラメータとから、加工中の振動振幅の予測値を算出する。加工条件設定部120は、例えば、橋本高明・河野大輔・古澤正崇・松原厚、「切削加工システムの動特性の異方性が振動安定性に与える影響」、精密工学会誌 Vol.87 No.2、2021年、p.238~244に示されているような加工中の振動振幅の求め方に倣って、加工中の振動振幅の予測値を算出することができる。そして、加工条件設定部120は、切削位置ごとの振動振幅の予測値の分布を表す加工条件選定マップを作成する。
図7には、ステップS140で工作物剛性向上対策が可能でないと判定された場合の加工条件選定マップの一例が表されている。本実施形態では、加工条件パラメータとして、切削工具TLの外径、刃数、ねじれ角、回転速度、半径方向および軸方向の切込み量、分力比(切削工具TLに作用する法線抵抗と接線抵抗の比)、および、工作物WKの比切削抵抗に任意の値を設定し、振動振幅の予測値の大きさが所定値以下になるように切削工具TLの1刃あたりの送り量を決定することができる。これ以外にも、加工条件設定部120は、振動振幅の予測値の大きさが所定値以下になるように、切削工具TLの半径方向あるいは軸方向の切込み量などの加工条件を決定してもよい。なお、ステップS150のことを加工条件選定マップ作成工程と呼ぶことがある。
【0029】
ステップS155にて、加工条件設定部120は、加工時間の短さよりも加工精度の高さを優先する第1条件F1と、加工精度の高さよりも加工時間の短さを優先する第2条件F2とを選択するための画面を表示装置106に表示させ、第1条件F1と第2条件F2とのうちの一方を作業員に選択させる。加工条件設定部120は、加工条件選定マップを用いて第1条件と第2条件とを生成する。第1条件F1では、加工開始点SPから加工終了点EPまでの全ての切削位置において振動振幅の予測値が所定値以下になるように、1刃あたりの送り量が一定に保たれる。第2条件F2では、加工開始点SPから加工終了点EPまでの全ての切削位置において振動振幅の予測値が所定値以下になり、かつ、第1条件に比べて加工時間が短くなるように、加工開始点SPから加工終了点EPまでの間で1刃あたりの送り量が変更される。なお、ステップS155のことを設定工程と呼ぶことがある。
【0030】
ステップS160にて、加工条件設定部120は、ステップS155にて選択された加工条件を用いて、NC制御部110に第2試し加工を実行させる。
【0031】
ステップS170にて、加工条件設定部120は、第2試し加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、第2試し加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、第2試し加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を作業員に入力させる。作業員は、強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。
【0032】
ステップS170にて第2試し加工中に工作物WKに強制びびり振動が発生したとの判定結果が取得された場合、加工条件設定部120は、ステップS175にて、メモリ102に予め記憶されている強制びびり振動対策案KTを表示装置106に表示させながら、強制びびり振動対策の実行が完了するまで待機する。強制びびり振動対策案KTには、例えば、1刃あたりの送り量を小さくする案や、半径方向と軸方向とのうちの少なくとも一方の切込み量を小さくする案などが含まれる。作業員は、表示装置106に表示されている強制びびり振動対策案KTを参照して、強制びびり振動対策を実行する。強制びびり振動対策が完了した後、作業員は、強制びびり振動対策が完了したことを入力装置105に入力する。入力装置105に強制びびり振動対策が完了したことが入力されると、加工条件設定部120は、ステップS150から加工条件設定処理をやり直す。ステップS170にて第2試し加工中に強制びびり振動が発生しなかったとの判定結果が取得された場合には、加工条件設定部120は、ステップS180に処理を進める。
【0033】
ステップS180にて、加工条件設定部120は、第2試し加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。本実施形態では、加工条件設定部120は、第2試し加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定要求を表示装置106に表示させることによって、第2試し加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を作業員に入力させる。作業員は、自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を入力装置105に入力し、加工条件設定部120は、入力装置105に入力された自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得する。
【0034】
ステップS180にて第2試し加工中に工作物WKに自励びびり振動が発生したとの判定結果が取得された場合、加工条件設定部120は、ステップS185にて、メモリ102に予め記憶されている自励びびり振動対策案JTを表示装置106に表示させながら、自励びびり振動対策の実行が完了するまで待機する。自励びびり振動対策案JTには、例えば、主軸回転速度を変更する案や、半径方向と軸方向とのうちの少なくとも一方の切込み量を小さくする案などが含まれる。作業員は、表示装置106に表示されている自励びびり振動対策案JTを参照して、自励びびり振動対策を実行する。自励びびり振動対策が完了した後、作業員は、自励びびり振動対策が完了したことを入力装置105に入力する。入力装置105に自励びびり振動対策が完了したことが入力されると、加工条件設定部120は、ステップS150から加工条件設定処理をやり直す。なお、強制びびり振動と自励びびり振動との一方のびびり振動の発生を抑制するための対策を実行することで、他方のびびり振動が生じる可能性がある。本実施形態では、ステップS175で強制びびり振動対策が実行された場合には、ステップS150から加工条件設定処理をやり直すので、強制びびり振動および自励びびり振動の両方が生じないことを確認することができる。また、ステップS185で自励びびり振動対策が実行された場合にも、ステップS150から加工条件設定処理をやり直すので、強制びびり振動および自励びびり振動の両方が生じないことを確認することができる。
【0035】
ステップS180にて第2試し加工中に自励びびり振動が発生しなかったとの判定結果が取得された場合や、第2試し加工中に強制びびり振動と自励びびり振動とのいずれかが発生し、びびり振動の対策後に実行される再度の第2試し加工でいずれのびびり振動も発生しなかったとの判定結果が取得された場合には、加工条件設定部120は、加工条件設定処理を終了する。その後、加工条件設定処理のステップS155にて設定された加工条件に従って本加工が実行される。なお、本加工時には、工作物WKから振動センサ80A~80Cが取り外されていてもよい。
【0036】
図8は、本加工後の加工面の表面粗さを示す説明図である。
図8において、横軸は、切削位置を表しており、縦軸は、工作物WKの加工面の表面粗さを表している。
図8には、1刃あたりの送り量の小さな第1条件F1で加工された場合の表面粗さと、1刃あたりの送り量が可変の第2条件F2で加工された場合の表面粗さと、1刃あたりの送り量の大きな第3条件F3で加工された場合の表面粗さとが表されている。第3条件F3は、比較例として示している。第3条件F3での送り量は、第2条件F2での最大送り量と同じであり、加工開始点SPから加工終了点EPまで一定に保たれている。加工面の表面粗さが
図8に破線で表された閾値S以下である場合には、工作物WKが良品と判定され、閾値Sを超える場合には、工作物WKが不良品と判定される。第1条件F1で加工された場合や第2条件F2で加工された場合には、全ての区間で表面粗さが閾値S以下となっている。第3条件F3で加工された場合には、表面粗さが閾値を超える区間がある。
【0037】
以上で説明した本実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、加工条件設定処理において、切削位置における切削条件と振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを用いて加工条件を設定する。そのため、作業員は、試行錯誤をすることなく、びびり振動の抑制に適した実用的な加工条件を設定できる。したがって、支持部材48の設置や変更が困難な場合であっても、加工条件によってびびり振動を抑制できる。
【0038】
また、本実施形態では、加工条件設定部120は、1刃あたりの送り量が一定に保たれる第1条件と、第1条件に比べて加工時間が短くなるように加工中に1刃あたりの送り量が変更される第2条件とのうちの作業員によって選択された一方を、本加工時の加工条件に設定する。そのため、第1条件が選択された場合には加工精度を高めることができ、第2条件が選択された場合には加工時間を短期化できる。
【0039】
また、本実施形態では、加工条件設定部120は、加工条件選定マップの作成に先立って、切削力の周波数解析結果と振動の周波数解析結果とを用いて算出される工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えるか否かを判定し、工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えないと判定した場合に、加工条件選定マップを作成する。そのため、工作物WKの剛性が確保されている状態で、加工条件を設定できる。また、加工条件設定部120は、工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えると判定した場合には、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定結果を取得し、工作物剛性向上対策の実行が可能であるとの判定結果を取得した場合には、工作物剛性向上対策が実行された後、計測工程に戻り、工作物剛性向上対策の実行が可能でないとの判定結果を取得した場合には、現行のまま加工条件選定マップを作成する。そのため、工作物WKの剛性不足が可能な限り解消されている状態で、加工条件を設定できる。したがって、効果的にびびり振動を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態では、加工条件設定部120は、第2試し加工中に強制びびり振動が発生したと判定された場合には、メモリ102に予め記憶されている強制びびり振動対策案KTを表示装置106に表示させる。そのため、強制びびり振動対策案KTを実行することで、本加工における強制びびり振動を抑制できる。また、熟練度の低い作業員であっても、予め用意されている強制びびり振動対策案KTを参照することで、容易に強制びびり振動対策を実行できる。
【0041】
また、本実施形態では、加工条件設定部120は、第2試し加工中に自励びびり振動が発生したと判定された場合には、メモリ102に予め記憶されている自励びびり振動対策案JTを表示装置106に表示させる。そのため、自励びびり振動対策案JTを実行することで、本加工における自励びびり振動を抑制できる。また、熟練度の低い作業員であっても、予め用意されている自励びびり振動対策案JTを参照することで、容易に自励びびり振動対策を実行できる。
【0042】
B.他の実施形態:
(B1)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、工作物WK上の切削位置と1刃あたりの送り量と工作物WKの振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを作成する。これに対して、加工条件設定部120は、例えば、工作物WK上の切削位置と切削工具TLの回転速度と工作物WKの振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを作成してもよいし、工作物WK上の切削位置とZ軸方向における切込み量と工作物WKの振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを作成してもよいし、工作物WK上の切削位置と切削工具TLの半径方向における切込み量と工作物WKの振動振幅の予測値との関係を表す加工条件選定マップを作成してもよい。
【0043】
(B2)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、1刃あたりの送り量が一定に保たれる第1条件と、第1条件に比べて加工時間が短くなるように加工中に1刃あたりの送り量が変更される第2条件とを表示装置106に表示させて、第1条件と第2条件とのうちの一方を作業員に選択させ、第1条件と第2条件とのうち、作業員によって選択された一方を加工条件に設定する。これに対して、加工条件設定部120は、第1条件と第2条件とのいずれか一方を作業員に選択させずに、第1条件と第2条件とのうちの一方を加工条件に設定してもよい。
【0044】
(B3)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、加工条件選定マップの作成に先立って、切削力の周波数解析結果と振動の周波数解析結果とを用いて算出される工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えるか否かを判定し、工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えないと判定した場合に、加工条件選定マップを作成している。これに対して、加工条件設定部120は、工作物WKのコンプライアンスの最大値が所定の閾値を超えるか否かを判定せずに、加工条件選定マップを作成してもよい。
【0045】
(B4)上述した実施形態の工作機械11では、加工条件設定部120は、第2試し加工において強制びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得し、第2試し加工において強制びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合には、強制びびり振動対策案KTを表示装置106に表示させる。さらに、加工条件設定部120は、第2試し加工において自励びびり振動が発生したか否かの判定結果を取得し、第2試し加工において自励びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合には、自励びびり振動対策案JTを表示装置106に表示させる。これに対して、加工条件設定部120は、第2試し加工において強制びびり振動が発生したか否かの判定結果と第2試し加工において自励びびり振動が発生したか否かの判定結果とのうちの少なくとも一方の判定結果を取得しなくてもよい。また、強制びびり振動対策案KTや自励びびり振動対策案JTが予め用意されていなくてもよい。この場合、加工条件設定部120は、第2試し加工において強制びびり振動、あるいは、自励びびり振動が発生したとの判定結果を取得した場合に、判定結果を表示装置106に表示させ、作業員は、例えば、自身のノウハウに基づいて強制びびり振動対策、あるいは、自励びびり振動対策を実行してもよい。
【0046】
(B5)上述した実施形態の工作機械11において、加工条件設定部120が工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かを判定してもよい。例えば、工作物WKやテーブル40を撮像するカメラが工作機械11に設けられ、加工条件設定部120は、カメラを用いて取得された画像を解析することによって、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かを判定してもよい。この場合、工作物剛性向上対策の実行が可能であるか否かの判定を自動化できるので、作業員の負担を軽減できる。
【0047】
(B6)上述した実施形態の工作機械11において、加工条件設定部120が第2試し加工中に強制びびり振動や自励びびり振動が発生したか否かを判定してもよい。例えば、加工面を撮像するカメラ、あるいは、加工面の表面粗さを計測するためのプローブが工作機械11に設けられ、加工条件設定部120は、カメラを用いて取得される画像を解析することや、プローブによる表面粗さの計測結果に基づいて、第2試し加工中に強制びびり振動や自励びびり振動が発生したか否かを判定してもよい。
【0048】
(B7)上述した実施形態では、工作機械11は、立型のマシニングセンタである。これに対して、工作機械11は、立型のマシニングセンタでなくてもよい。工作機械11は、例えば、横型のマシニングセンタや、NCフライス盤でもよい。
【0049】
(B8)上述した実施形態では、加工条件設定部120は、工作機械11の制御装置100に設けられている。これに対して、加工条件設定部120は、例えば、有線通信あるいは無線通信によって制御装置100に接続されているコンピュータ上に設けられてもよい。この場合、加工条件設定部120が設けられたコンピュータのことを加工条件設定装置と呼ぶことがある。
【0050】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
11…工作機械、20…ベッド、30…サドル、40…テーブル、45…クランプ、48…支持部材、49…固定部材、50…コラム、60…主軸装置、65…主軸、67…主軸モータ、69…回転角センサ、70…切削力センサ、80A~80C…振動センサ、100…制御装置、101…CPU、102…メモリ、103…入出力インターフェース、104…内部バス、105…入力装置、106…表示装置、110…NC制御部、120…加工条件設定部、EP…加工終了点、MP1~MP3…計測点、SP…加工開始点、TL…切削工具、WK…工作物