(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137207
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電極箔、電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20240927BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01G9/00 290D
H01G9/00 290A
H01G9/048 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048638
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】安島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】増子 純
(72)【発明者】
【氏名】持舘 正輝
(72)【発明者】
【氏名】山▲ざき▼ 崇
(72)【発明者】
【氏名】三枝 一大
(57)【要約】
【課題】巻回時に滑らかに湾曲させ易い電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】電極箔1の製造方法は、帯状の箔の表面に拡面部を形成する拡面化ステップ(S01)と、拡面部3を分断する複数のクラック4を、箔の帯の幅方向に延在させる分断ステップ(S03、S06)とを有する。分断ステップ(S03、S06)は、複数回行われ、クラック4の深さを複数回に分けて進展させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の箔の表面に拡面部を形成する拡面化ステップと、
前記拡面部を分断する複数のクラックを形成する分断ステップと、
を有し、
前記分断ステップは、複数回行われること、
を特徴とする電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する分断処理間皮膜形成ステップを有すること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項3】
前記分断処理間皮膜形成ステップは、
前記拡面部に水和酸化皮膜を形成する水和処理、又は電圧印加による皮膜を形成する化成処理、又は両方を含むこと、
を特徴とする請求項2記載の電極箔の製造方法。
【請求項4】
前記拡面化ステップの後、最初の前記分断ステップの前に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する第1の皮膜形成ステップを有すること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項5】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する分断処理間皮膜形成ステップを有し、
前記分断処理間皮膜形成ステップで得られた電極箔の硬度を、前記第1の皮膜形成ステップで得られた電極箔の硬度よりも高くすること、
を特徴とする請求項4記載の電極箔の製造方法。
【請求項6】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に前の前記箔よりも、次の分断ステップの前の前記箔の硬度を高くすること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項7】
前記複数回の分断ステップのうち、n回目の分断ステップの硬度は、n-1回目以前の何れかの分断ステップで分断される前記箔の硬度より高くすること、
を特長とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項8】
前記分断ステップでは、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下の前記クラックを形成すること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項9】
複数の前記分断ステップでは、前回までの前記分断ステップで形成された前記クラックの深さを進展させるとともに、新たな前記クラックを形成すること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項10】
最後の前記分断ステップの後、前記クラックを開閉可能に維持しつつ、前記クラックの内表面に酸化皮膜を形成する化成処理を含むこと、
を特徴とする請求項1記載の電極箔の製造方法。
【請求項11】
請求項1の製造方法で得られた前記電極箔を巻回する巻回ステップを含むこと、
を特徴とする巻回形コンデンサの製造方法。
【請求項12】
帯状の箔と、
前記箔の表面に形成された拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部を分断し、深さが前記箔の表面から前記芯部までの距離に対して70%未満の第1種類目のクラックと、
前記拡面部を分断し、深さが前記箔の表面から前記芯部までの距離に対して70%以上の第2種類目のクラックと、
を備え、
前記第1種類目のクラックの割合は、10%以上50%以下であり、
前記第2種類目のクラックの割合は、50%以上90%以下であること、
を特徴とする電極箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻回形コンデンサの製造方法、当該巻回形コンデンサに用いられる電極箔、及び電極箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、陽極の誘電体皮膜を対向電極と密着させるべく、電解質で空隙を埋めて成り、電解質が液体である非固体電解コンデンサ、電解質が固体である固体電解コンデンサ、電解質として、液体と固体を備えたハイブリッド形電解コンデンサ、電極双方に誘電体皮膜を形成した両極性電解コンデンサが含まれる。
【0003】
これら電解コンデンサは、コンデンサ素子を電解質に含浸させて成り、コンデンサ素子は、アルミニウムなどの弁金属箔に誘電体皮膜を形成した陽極箔と、同種または他の金属の箔によりなる陰極箔とを対向させ、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて構成されている。
【0004】
電解コンデンサとして、小型化と大容量化を両立すべく、巻回形コンデンサの形態が採られる場合がある。巻回形コンデンサのコンデンサ素子は、セパレータを挟んで陽極箔及び陰極箔を重ね合わせ、筒型に巻回して成る。
【0005】
電解コンデンサの静電容量は誘電体皮膜の表面積に比例する。通常、電解コンデンサの電極箔にはエッチング等の拡面化処理が施され、この拡面化処理が施された拡面部には化成処理が施されて、大表面積の誘電体皮膜を有する。近年は、電解コンデンサの静電容量の更なる増大を図るべく、電極箔の表面から一層深部に至るまで拡面化を進展させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電解コンデンサの高容量化、小型化、軽量化などの要請に応えるため、より高倍率の拡面化処理を施し、電極箔の表面積を拡大させている。しかし、この拡面化に伴い箔基材領域が減少するとともに誘電体酸化皮膜の面積が拡大し、結果として、電極箔の脆弱化や硬化が進んでしまう。そうすると、電極箔自体が持つ柔軟性及び延伸性が低下している。
【0008】
柔軟性及び延伸性が低下した電極箔は弓なりに変形できず、電極箔を滑らかに湾曲させながら巻回することは困難となり、局所的に巻回時の曲げ応力が集中して、所々に折れ曲がりが生じてしまう。最悪の場合、電極箔の芯部が破断してしまう。
【0009】
電極箔が所々折れ曲がって巻回されると、コンデンサ素子の径は大きくなる。そのため、巻回形コンデンサの静電容量を維持しようとすると、巻回形コンデンサが大型化する。または、巻回形コンデンサの径を維持しようとすると、巻回形コンデンサの静電容量は低下してしまう。さもなければ、不良品として取り扱い、歩留まりが悪化することになる。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するため、巻回時に滑らかに湾曲させ易い電極箔、その電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本実施形態の電極箔の製造方法は、帯状の箔の表面に拡面部を形成する拡面化ステップと、前記拡面部を分断する複数のクラックを形成する分断ステップと、を有し、前記分断ステップは、複数回行われる。
【0012】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する分断処理間皮膜形成ステップを有するようにしてもよい。
【0013】
前記分断処理間皮膜形成ステップは、前記拡面部に水和酸化皮膜を形成する水和処理、又は電圧印加による皮膜を形成する化成処理、又は両方を含むようにしてもよい。
【0014】
前記拡面化ステップの後、最初の前記分断ステップの前に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する第1の皮膜形成ステップを有するようにしてもよい。
【0015】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に、前記拡面部に酸化皮膜を形成する分断処理間皮膜形成ステップを有し、前記分断処理間皮膜形成ステップで得られた電極箔の硬度を、前記第1の皮膜形成ステップで得られた電極箔の硬度よりも高くするようにしてもよい。
【0016】
前記複数回の分断ステップのいずれかの間に前の前記箔よりも、次の分断ステップの前の前記箔の硬度を高くするようにしてもよい。
【0017】
前記複数回の分断ステップのうち、n回目の分断ステップの硬度は、n-1回目以前の何れかの分断ステップで分断される前記箔の硬度より高くようにしてもよい。
【0018】
前記分断ステップでは、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下の前記クラックを形成するようにしてもよい。
【0019】
複数の前記分断ステップでは、前回までの前記分断ステップで形成された前記クラックの深さを進展させるとともに、新たな前記クラックを形成するようにしてもよい。
【0020】
最後の前記分断ステップの後、前記クラックを開閉可能に維持しつつ、前記クラックの内表面に酸化皮膜を形成する化成処理を含むようにしてもよい。
【0021】
この電極箔の製造方法は、コンデンサ素子を形成する巻回前の電極箔の製造方法である。
【0022】
また、上記目的を達成するため、本実施形態の巻回形コンデンサの製造方法は、前記製造方法で得られた前記電極箔を巻回する巻回ステップを含む。
【0023】
上記目的を達成するため、本実施形態の電極箔は、帯状の箔と、前記箔の表面に形成された拡面部と、前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、前記拡面部を分断し、深さが前記箔の表面から前記芯部までの距離に対して70%未満の第1種類目のクラックと、前記拡面部を分断し、深さが前記箔の表面から前記芯部までの距離に対して70%以上の第2種類目のクラックと、を備え、前記第1種類目のクラックの割合は、10%以上50%以下であり、前記第2種類目のクラックの割合は、50%以上90%以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複数のクラックが巻回時に大きく開き、滑らかに湾曲した巻回が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】電極箔の構造を示し、(a)は長手方向に沿った切断図であり、(b)は上面図である。
【
図2】電極箔のクラックを形成する製造工程を示すフローである。
【
図3】クラックを備えた電極箔の長手方向に沿った断面図であり、巻回後の状態を示す。
【
図4】(a1)は実施例1における最初の分断処理後の断面SEM像であり、(a2)はクラックを強調する太線を追加してある。(b1)は実施例1における次の分断処理後の断面SEM像であり、(b2)はクラックを強調する太線を追加してある。
【
図5】(a1)は実施例1における最初の分断処理後の表面SEM像であり、(a2)はクラックを強調する太線を追加してある。(b1)は実施例1における次の分断処理後の表面SEM像であり、(b2)はクラックを強調する太線を追加してある。
【
図6】実施例1、比較例1及び比較例2の写真である。
【
図7】(a)は分断処理が1回の比較例2の写真であり、(b)は分断処理が2回行われた実施例1の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る電極箔、巻回形コンデンサ及びこれらの製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0027】
(電極箔)
図1に示す電極箔1は、巻回形コンデンサの陽極箔、陰極箔又は両方に用いられる。電極箔1は、低圧用電極箔、中高圧用電極箔、または高圧用電極箔の何れであってもよい。この電極箔1は、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ及び酸化ニオブ等の弁金属の箔を基材とする。この電極箔1は長尺の帯形状を有する。電極箔1の厚み方向中心の芯部2を残して、電極箔1の両面には拡面部3が形成されている。拡面部3には誘電体皮膜5が形成されている。
【0028】
拡面部3は多孔質構造を有する。多孔質構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した紛体間の空隙により成る。芯部2は、電極箔1の拡面部3を除く残部、又は蒸着、焼結等により金属粒子等が付着される基材である。換言すると、例えば未エッチング層又は粉体を蒸着、焼結させる基材が芯部2に相当する。
【0029】
誘電体皮膜5は、拡面部3の凹凸表面に形成されている。誘電体皮膜5は、典型的には、電極箔1の表層に形成される酸化皮膜であり、電極箔1がアルミニウム箔であれば、拡面部3の表面を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体皮膜5は、水和処理と化成処理によって形成される。
【0030】
この電極箔1には、拡面部3の一方又は両方に、複数のクラック4が意図的に形成されている。クラック4は、陰極箔と陰極箔とを対向させて巻回する巻回工程前から形成済みであり、巻回工程前後で塞がれること無く開いている。
【0031】
クラック4は、拡面部3をひび割れさせた割れ目である。クラック4は、電極箔1を帯幅手方向に延在し、拡面部3を横断する。精度良く帯幅手方向に沿う必要はなく、多くのクラック4が帯幅手方向に対して0度以上±45度以下の範囲内にあればよい。クラック4は、電極箔1を完全に横断し、若しくは部分的に横断し、また連続して延び、若しくは断続的に延びる。
【0032】
クラック4の深度は、芯部2を分断するまでに至らなければよい。クラック4の深度は、芯部2に至らない深さ、最深部がちょうど芯部2に到達する深さ、及び最深部が芯部2に食い込む深さの何れであってもよい。全てのクラック4の深さが統一されている必要はない。
【0033】
好ましくは、クラック4は、芯部2に到達する深さ、又は最深部が芯部2に食い込む深さまで進展させる。即ち、拡面部3の厚みが片面において20~100μmであれば、この拡面部3の厚みに合わせて、クラック4は20~100μm程度の深さを有することが好ましい。クラック4が芯部2を破壊しない範囲で深いほど、電極箔1に良好な柔軟性と延伸性を与える。そして、芯部2が座屈したり、破断することが抑制され、また未酸化の金属部分が露出する多数の微細クラックが抑制される。
【0034】
更に好ましくは、深さが2種類のクラック4を形成する。第1種類目のクラック4は、電極箔1の表面から芯部2までの距離に対して70%未満の深さを有し、第2種類目のクラック4は、電極箔1の表面から芯部2までの距離に対して70%以上の深さを有すると好ましい。
【0035】
さらに電極箔1に形成した第1種類目のクラックの割合は、10%以上50%以下であり、第2種類目のクラックの割合は、50%以上90%以下であるようにすると好ましい。このような電極箔1によると、芯部や芯部付近に到達する第2種類目のクラックにより柔軟性を得られ、さらに第2種類目より浅い第1種類目のクラックにより芯部の厚みが確保されるため強度が増し、柔軟性と強度とをバランス良く兼ね備えた電極箔となり、巻回時に湾曲させ易く、断線し難くい効果を得られる。第1種類目のクラックの割合が10%以上50%以下であり、第2種類目のクラックの割合が50%以上90%以下の範囲外となる電極箔は、範囲内の電極箔と比較して柔軟性及び強度が不足する虞がある。
【0036】
また、後述のように、電極箔1に対して分断ステップを複数回に分けて処理する。分断ステップを複数回に分けて処理することで、単数回での処理と比べて溝幅、溝深さ、一本のクラック4が有する両端部の離間距離を所望する値にコントロールし易くなる。特に誘電体皮膜が厚く、柔軟性、延伸性が低い中高圧用途の電極箔に効果的である。
【0037】
また、後述のように、電極箔1は複数回の分断ステップに分けて処理するが、最初の分断部形成ステップでは、一本のクラック4が有する両端部の離間距離は平均40μm以上150μm以下であり、短いものでは10μm程度、長いものでは600μm程度が混在する。好ましくは、クラック4が有する両端部の離間距離は、100μm以上にする。100μm以上の長さのクラック4により、電極箔1の柔軟性及び延伸性はより向上する。
【0038】
後述の次の分断部形成ステップでは、一本のクラック4が有する良端部の離間距離は平均100μmを優に超えており、長いものではミリオーダー程度のものが混在する。
【0039】
クラック4の溝幅は、電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、0を含む50μm以下である。クラック4の溝幅とは、電極箔1の表層付近で計測された、電極箔1の長手方向に沿った長さである。溝幅が0とは、クラック4は開いているが、電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、クラック4の界面が少なくとも部分的に接している状態をいう。
【0040】
また、隣接するクラック4の間隔は、平均ピッチが2.1mm以下であればよく、より望ましくは平均ピッチが250μm以下である。平均ピッチが2.1mm以下であれば、クラック4が未形成の電極箔1と比べて、エリクセン値が大きくなることが確認された。クラック4の平均ピッチを250μm以下とすると、特にエリクセン値が大きくなる。
【0041】
(電極箔の製造方法)
図2は、この電極箔1のクラック4を形成する製造工程を示すフローである。
図2に示すように、まず、帯状の箔の表面に対して拡面化処理を行う(ステップS01)。拡面部3が形成された電極箔1に対して第1の皮膜形成ステップとなる水和処理を施す(ステップS02)。第1の皮膜形成ステップとなる水和処理の後に、最初の分断処理を行う(ステップS03)。最初の分断処理の後、水和処理を施し(ステップS04)、更に化成処理を施す(ステップS05)。ステップS04の水和処理とステップS05の化成処理は、総じて誘電体皮膜を形成する分断処理間皮膜形成ステップである。即ち、ステップS05の化成処理の後、更なる分断処理を行う(ステップS06)。最後に、第三の皮膜形成ステップとなる化成処理を施す(ステップS07)。
【0042】
ステップS01の拡面化処理では、電極箔1に拡面部3を形成する。拡面化処理は、電解エッチング、ケミカルエッチング若しくはサンドブラスト等であり、又は箔体に金属粒子等を蒸着若しくは焼結である。
【0043】
焼結箔の形成方法の一例として、金属粒子組成物を溶媒中に分散したスラリーを金属箔などの集電体上に塗布し、その後、溶媒を乾燥し熱処理により金属粒子組成物を焼結させることで電極層を形成する。この熱処理による金属粒子組成物の焼結が拡面化処理となるが、これに限らず、スラリーを金属箔などの集電体上に塗布し乾燥された状態も拡面化処理に含まれる。
【0044】
電解エッチングとしては塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングが挙げられる。中高圧用途でトンネル状のピットを形成する場合、例えば、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流してピットを形成し、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流してピットを拡径する。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。
【0045】
ステップS02の水和処理では、拡面部3に水和酸化皮膜を形成する。水和酸化皮膜は、疑似ベーマイト層とも呼ばれる。この水和酸化皮膜は、弁作用金属がアルミニウムであれば、Al2O3・xH2Oである。水和処理では、拡面化した電極箔1を80℃以上又は沸騰した純水に浸漬する。浸漬時間は、水和酸化皮膜の目的の厚みに応じ、耐電圧と静電容量とのバランスにより決すればよい。水和処理により拡面部3の硬度が上がり、電極箔1は割れ易く、伸び難くなる。
【0046】
ステップS03及びステップS06の分断処理では、電極箔1をシャフトに巻き付けて走行させる。ステップS03とステップS06の分断処理では、電極箔1に掛ける荷重が異なる。即ち、ステップS03とステップS06の分断処理では、ローラ硬度、ローラの表面粗さ、ローラの径、ローラに入る電極箔1とローラから出る電極箔1とが成すラップ角度及び電極箔1を引っ張るテンションの少なくとも1種類以上が異なる。
【0047】
また、ステップS03とステップS06の分断処理の相違点として、ステップS03における最初の分断処理は、第1の皮膜形成ステップであるステップS02の水和処理の後に行う。一方、ステップS06における次の分断処理は、分断処理間皮膜形成ステップであるステップS04の水和処理とステップS05の化成処理の後に行う。
【0048】
この際、分断処理間皮膜形成ステップによってステップS06の分断処理をする前の電極箔の硬さは、ステップS03の分断処理をする前の電極箔の硬さより硬いことが好ましい。つまり、複数回の分断処理においてn回目の分断処理はn-1回目以前の何れかの分断処理をする前の電極箔の硬度より高くすることが好ましい。電極箔は硬くなるにつれて、分断処理の際に深いクラックが形成される傾向がある。しかしながら、最初の分断処理の段階から電極箔の硬度が高過ぎると、分断処理によって電極箔が断線する虞がある。よって、段階を踏んで電極箔の硬度を上げる皮膜形成ステップを行い分断処理をすることで、電極箔は、より割れ易く、より伸び難くなる。
【0049】
尚、クラック4は、両面の拡面部3に各々形成されることが望ましい。もっとも、巻回時の電極箔1の伸びの観点から、少なくとも、電極箔1の巻回時に箔外側になって張力を受ける拡面部3に形成されるとよい。
【0050】
ステップS04の水和処理とステップS05の化成処理では、ステップS04の水和処理としてステップS02と同様の処理により水和酸化皮膜を形成し、その後、ステップS05の化成処理として数十V程度(10V以上、100V未満)の化成処理により水和酸化皮膜を変質させて、結晶性酸化物である例えばγ-アルミナ等の誘電体皮膜5を形成する。化成処理では、未酸化の弁作用金属との境界面から水和酸化皮膜と弁作用金属の両面に向けて成長させ、水和酸化皮膜を誘電体皮膜5に変質させていく。ステップS07の化成処理は、最後の皮膜形成ステップであり、クラック4の内表面に誘電体皮膜5を形成するとともに電極箔の製品耐電圧を確保する。例えば、製品耐電圧が中高圧であれば200V以上の電圧で化成処理を行うことが望ましい。
【0051】
但し、誘電体皮膜5によってクラック4を塞がず、クラック4は開閉可能のままとする。クラックを開閉可能に維持しておくことで、電極箔の巻回時にクラックが率先して開く。そのため、巻回時に電極箔に応力集中が起こり難くなる。
【0052】
化成処理では、ハロゲンイオン不在の化成液中で陽極箔に電圧印加する。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。印加電圧は、目的の耐電圧に応じればよい。
【0053】
尚、分断処理間皮膜形成ステップでは、水和処理と化成処理は行わず、電圧を印加するだけでもよい。または、分断処理間皮膜形成ステップでは、水和処理と化成液に浸漬せずに電圧を印加する処理とを行うようにしてもよい。
【0054】
このように、最初の分断処理の段階では、ローラに巻き付けたときに曲げ応力を分担するクラック4がない。そのため、最初の分断処理の前に数十V程度(10V以上、100V未満)の化成処理を行い、電極箔1の硬度を上げ、柔軟性及び延伸性を低下させてしまうと、電極箔1の芯部2を座屈させ易くなり、巻回前に電極箔1を折り曲げてしまう。
【0055】
そこで、最初の分断処理の前は、第1の皮膜形成ステップであるステップS02の水和処理、熱処理又は10V未満程度の化成処理によって拡面部3の硬度を少し上げることで、拡面部3を割り易くし、電極箔1を伸び難くしてから、最初の分断処理を行っている。第1の皮膜形成ステップであるステップS02の水和処理も行わず、最初の分断処理を行う場合、電極箔1が延伸し易く、電極箔1の静電容量が低下してしまう。
【0056】
また、最初の分断処理で目標深度のクラック4を形成する場合、電極箔1に大きな荷重を掛ける必要があり、電極箔1が延伸してしまう。延伸した電極箔1は、拡面率が低下し、クラック4の溝幅が拡がるので、静電容量の低下を招く。そのため、最初の分断処理では、電極箔1が伸びない範囲でクラック4を形成する。例えば、目標深度の50%程度の深さのクラック4を形成するようにすればよい。
【0057】
電極箔1が伸びない範囲とは、最初の分断処理では最大で伸び率が1.0%前後が好ましい。伸び率が1.3%を超えると、最初の分断処理の時点で静電容量が1%以上低下する。従って、電極箔1の伸び率が1.0%前後以下となるように、例えばローラ径等を変更し、最初の分断処理で形成するクラック4の深度を調整する。
【0058】
尚、分断処理が1回のみの場合、電極箔1の芯部2を座屈させず、電極箔1を伸ばさない範囲で発生させたクラック4は浅く、巻回時の曲率を大きくできない。換言すると、電極箔1を密に巻回できない。そこで、ステップS06における次の分断処理を行い、クラック4を深さ方向に進展させている。
【0059】
ステップS03の分断処理では、一本のクラック4が有する両端部の離間距離は平均40μm以上150μm以下であり、短いものでは10μm程度、長いものでは600μm程度が混在する。(好ましくは、クラック4が有する両端部の離間距離は、100μm以上にする。100μm以上の長さのクラック4により、電極箔1の柔軟性及び延伸性はより向上する。)
【0060】
このステップS06における次の分断処理では、曲げ応力を分担するクラック4が既に存在している。そこで、分断処理間皮膜形成ステップを追加し、電極箔の硬さを更に上げ、前記ステップS02の第1の皮膜形成ステップで得られた電極箔の硬度よりも高くする。そして、最初の分断処理で形成されたクラック4の深度を目標まで進展させる。
【0061】
このステップS06の分断処理では、クラック4を深さ方向に進展させるのみならず、最初の分断処理で断続的であったクラック4を繋ぎ、また一部のみに形成されていたクラック4を電極箔1の帯幅手方向に進展させる。帯幅手方向に延びたクラック4は、巻回時の新たな割れの抑制効果を高める。
【0062】
ステップS06の分断処理では、一本のクラック4が有する両端部の離間距離は平均100μmを優に超えており、長いものではミリオーダー程度のものが混在する。
【0063】
尚、電極箔1の延伸により静電容量が低下する理由は、電極箔1の延伸に伴うクラック4の溝幅拡大にある。クラック4の溝幅が拡大すると、誘電体皮膜5の表面積が減少し、静電容量の低下が起る。クラック4の溝幅が50μm以下の範囲に収まると、クラック4によって電極箔1の柔軟性及び延伸性を向上させつつ、静電容量の低下を抑制することができる。
【0064】
また、複数回の分断処理を行うと、電極箔1の帯長手方向の辺に発生するフリルが低減し、平坦度が向上する。そのため、電極箔1を密に巻回できる。同じ体積でも、収容されている電極箔1は長くなるため、巻回形コンデンサの静電容量は向上する。
【0065】
また、分断ステップを複数回に分けて処理することで、単数回での処理と比べて溝幅、溝深さ、一本のクラック4が有する両端部の離間距離を所望する値にコントロールし易くなる。
【0066】
尚、ローラによる分断処理は、電極箔1に対して一方の面及び又は両面に施してもよい。また、電極箔1の一方の面のみに分断処理を施す場合、ローラに巻回する電極箔1の向きと、巻回形コンデンサを形成する際の電極箔1の巻回向きとは同じにする。即ち、電極箔1の内径側の面と外径側の面を、分断処理とコンデンサ素子を形成するための巻回とで同じに揃える。
【0067】
ローラによる分断処理の好ましい形態は、まず、電極箔1に対して最初の分断処理(ステップS03)として、一方の面に分断処理を施した後に他方の面の分断処理を施す。これにより、電極箔の両面に最初の分断処理が施される。その後に分断処理間皮膜形成ステップ(ステップS04及び又はステップS05)を施し、二回目の分断処理(ステップ06)として、一方の面に分断処理を施した後に他方の面の分断処理を施す。これにより、電極箔の両面に二回目の分断処理が施される方法が生産性を考慮すると好ましい。
【0068】
尚、第1の皮膜形成ステップと分断処理間皮膜形成ステップとが無くとも、分断ステップを複数回行うことで、巻回時に滑らかに湾曲させ易くなる。もっとも、第1の皮膜形成ステップと分断処理間皮膜形成ステップを行うことで、箔の強度が段々と高くなり、箔を折り曲げてしまうことなく、深い分断部を形成することが容易となる。また、分断処理間皮膜形成ステップのみであっても、更に、巻回時に滑らかに湾曲させ易くなる。もっとも、第1の皮膜形成ステップと分断処理間皮膜形成ステップを行うことで、箔を折り曲げるリスクが更に低下し、深い分断部を形成することがより容易となる。
【0069】
(巻回形コンデンサ)
巻回形コンデンサの代表例としては電解コンデンサであり、電解コンデンサとしては、電解質が液体であり、陽極箔に誘電体皮膜を形成した非固体電解コンデンサ、電解質が固体であり、陽極箔に誘電体皮膜を形成した固体電解コンデンサ、電解質として、液体と固体を備えたハイブリッド形電解コンデンサ、及び陽極箔と陰極箔の双方に誘電体皮膜を形成した両極性電解コンデンサが挙げられる。
【0070】
巻回形の電解コンデンサは、電解液が含浸したコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、陽極端子及び陰極端子を引き出して封口体で封止し、エージング処理することで製造される。コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔をセパレータを介して重ね合わせて巻回した巻回体である。陽極箔、陰極箔又は両方に電極箔1が用いられる。セパレータは、紙や合成繊維等であり、陽極箔と陰極箔のショートを阻止する。
【0071】
図3は、コンデンサ素子を形成するための巻回後における電極箔1の状態を示す模式図である。この電極箔1では、複数のクラック4が曲げ応力を分担して引き受け、各クラック4に曲げ応力が分散する。クラック4は複数回の分断処理によって深く進展しており、巻回の曲率が大きくても、クラック4が大きく開いて滑らかに湾曲する。そのため、芯部2が座屈したり、破断するような応力が電極箔1にかかることが抑止される。
【0072】
また、クラック4を複数回の分断処理に分けて形成しているため、電極箔1の伸びが抑制され、拡面率が下がらず、またクラック4の溝幅が拡がらず、巻回形コンデンサの静電容量低下が抑えられている。
【実施例0073】
(実施例1)
この実施形態を示す電極箔1を次のように作製した。まず、基材として厚みが120μm、幅が10mm、長さが55mm、純度99.9重量%以上のアルミニウム箔を用いた。そして、拡面化処理により、このアルミニウム箔の両面に拡面部3を形成した。具体的には、アルミニウム箔を、液温70℃の塩酸濃度が1mol/L及び硫酸濃度が3mol/Lの酸性水溶液中酸性水溶液に浸し、直流電解、電流密度0.50A/cm2の定電流を基材に約20秒間流した。その後、液温90℃の硝酸濃度が1mol/Lの酸性水溶液に浸し、直流電解、電流密度0.40A/cm2の定電流を90秒間流す処理を行った。
【0074】
拡面部3が形成された電極箔1は、水和処理が施された。水和処理において、電極箔1は95℃の蒸留水に30分間浸漬された。これにより、拡面部3の凹凸表面には水和酸化皮膜が生成された。この水和処理の後、最初の分断処理が施された。最初の分断処理では、φ6mmのシャフトに対して当該シャフトと電極箔の接触する領域の広さを示すラップ角度を180度として電極箔1を押し付けた。これにより、拡面部3にクラック4を発生させた。尚、電極箔1の長さは、最初の分断処理により1.0%前後延伸した。
【0075】
最初の分断処理の後、同一内容の水和処理を再び施した後、化成処理を施した。
化成処理は、液温95℃、40g/Lのホウ酸水溶液中に浸漬し、0.50A/cm2の定電流密度を流しながら、30Vの電圧を印加した。電圧印加は約20分であり、耐電圧が約30V相当の誘電体皮膜5が形成された。
【0076】
この化成処理の後、再び分断処理を施した。2回目の分断処理では、φ10mmのシャフトに対して180度のラップ角度で電極箔1を押し付けた。これにより、拡面部3のクラック4を深く進展させ、拡面部3のクラック4の長さを進展させた。2回目の分断処理を行った後は、再び化成処理を行い、クラック4の内表面にも誘電体皮膜5を形成した。
【0077】
尚、電極箔1の長さは、次の分断処理により、分断処理未実施の場合と比べて更に0.3~0.4%延伸した。2回の分断処理を経た電極箔1の長さは、分断処理未実施の場合と比べて1.37%延伸した。
【0078】
(比較例)
この実施例1に対して比較例1及び比較例2の電極箔を作製した。比較例1の電極箔には分断処理は未実施であり、クラック4は未形成である。比較例1では、拡面化処理の後、水和処理と化成処理が行われた。比較例1の水和処理及び化成処理は実施例1の水和処理と化成処理と同一である。
【0079】
比較例2の電極箔に対する分断処理は1回のみとした。この分断処理の前に水和処理を施し、分断処理が終わった後に更に水和処理を施してから、化成処理を行った。比較例2の分断処理は、実施例1の最初の分断処理と同一である。比較例1及び比較例2の水和処理及び化成処理は実施例1の水和処理と化成処理と同一である。1回の分断処理を経た比較例2の電極箔の長さは、分断処理未実施の場合と比べて0.80%延伸した。
【0080】
(SEM観察)
最初の分断処理が終わった後、走査電子顕微鏡を用い、実施例1の電極箔1の断面を倍率350倍で観察した。その結果を
図4の(a1)及び(a2)に示す。
図4の(a1)は実施例1における最初の分断処理後の断面SEM像であり、(a2)はクラック4を強調する太線を追加してある。
図4の(a1)及び(a2)に示すように、最初の分断処理では、クラック4は芯部2に届いておらず、芯部2まで凡そ60%ほどの深さである。但し、芯部2に座屈や破断は見られない。
【0081】
更に、次の分断処理が終わった後、走査電子顕微鏡を用い、実施例1の電極箔1の断面を倍率350倍で観察した。その結果を
図4の(b1)及び(b2)に示す。
図4の(b1)は実施例1における次の分断処理後の断面SEM像であり、(b2)はクラック4を強調する太線を追加してある。
図4の(b1)及び(b2)に示すように、最初の分断処理では芯部2に届いていなかったクラック4は、深さ方向に進展し、拡面部3を厚み方向に完全に割り切って、最深部が芯部2の表面に到達している。但し、芯部2に座屈や破断は見られない。
【0082】
また、最初の分断処理が終わった後、走査電子顕微鏡を用い、実施例1の電極箔1の表面を倍率150倍で観察した。その結果を
図5の(a1)及び(a2)に示す。
図5の(a1)は実施例1における最初の分断処理後の表面SEM像であり、(a2)はクラック4を強調する太線を追加してある。
図5の(a1)及び(a2)に示すように、最初の分断処理では、クラック4は、電極箔1の帯幅手方向に比して短く、両端部間の直線距離が電極箔1の帯幅に対し、最大でも凡そ600μmほどである。但し、芯部2に座屈や破断は見られない。
【0083】
更に、次の分断処理が終わった後、走査電子顕微鏡を用い、実施例1の電極箔1の表面を倍率150倍で観察した。その結果を
図5の(b1)及び(b2)に示す。
図5の(b1)は実施例1における次の分断処理後の表面SEM像であり、(b2)はクラック4を強調する太線を追加してある。
図5の(b1)及び(b2)に示すように、最初の分断処理では短かったクラック4は、帯幅手方向に進展し、断続範囲が少なくなり、連続性が高くなっている。そして、多くのクラック4において、両端部間の直線距離が、電極箔1の帯幅に対して凡そ100μmを超えており、長いものではSEM観察視野の両端(約800μm)を超すものも見受けられる。但し、芯部2に座屈や破断は見られない。
【0084】
(柔軟性試験)
同長及び同幅の実施例1、比較例1及び比較例2の片端部を固定し、他端部を自由端とし、自重で垂れ下がる実施例1、比較例1及び比較例2を写真撮影した。その結果を
図6に示す。
図6において、手前が実施例1の電極箔1であり、真ん中が比較例2であり、奥が比較例1である。
【0085】
比較例2は1回の分断処理が行われ、クラック4を有する。従って、比較例2は、分断処理が未実施の比較例1と比べ、より湾曲して垂れ下がっている。即ち、比較例2は比較例1よりも柔軟性が高くなって、滑らかに湾曲できる曲率が大きくなっている。実施例1は2回の分断処理が行われ、クラック4が拡面部3の深部に達している。従って、実施例1は、比較例2よりも湾曲して垂れ下がっている。即ち、実施例1は比較例2よりも更に柔軟性が高くなって、滑らかに湾曲できる曲率が大きくなっている。
【0086】
このように、複数回の分断処理を行うことで、クラック4は、電極箔1のより深部に進展する。そして、複数回の分断処理を行うことで、電極箔1の柔軟性は増加し、電極箔1を滑らかに湾曲できる曲率が大きくなること確認された。
【0087】
また、これら実施例1の電極箔1及び比較例2のエリクセン試験を行った。エリクセン試験では、内径33mmを有するダイスとしわ押えで、実施例1の電極箔1及び比較例1並びに比較例2を10kNで挟み込み、球状のポンチ及びたがね状のポンチで押し込んだ。球状のポンチは、直径20mmである。たがね状のポンチは、幅30mmで、先端部が断面視で直径4mm及び半径2mmの球面である。たがね状のポンチは、電極箔1の帯幅手方向に直交させるようにして押し込んだ。ポンチの押し込み速度は0.5mm/minとした。
【0088】
エリクセン試験による柔軟性を下表1に示す。下表1には、比較例2の柔軟性に対する実施例1の柔軟性の向上率も掲載してある。ここで、柔軟性の値は、電極箔1の伸びに対する荷重変化の傾きとして定義した数値である。伸びに対する荷重値の変化が小さければ(傾きが小さければ)、即ち表中の柔軟性の値が小さければ、よりしなやか(柔らかい)であり少ない力で電極箔1が変化することとなる。
(表1)
【0089】
表1に示すように、実施例1は、エリクセン試験によっても比較例2よりも柔軟性が向上していることが確認できる。即ち、クラック4が比較例2よりも深くなり、クラック4が電極箔1の帯幅方向に長く延伸したため、実施例1の電極箔1は比較例2よりも高い柔軟性を獲得したものである。
【0090】
(フリルの有無)
分断処理が2回行われた実施例1と、分断処理が1回の比較例2の長辺を写真撮影した。その結果を
図7に示す。
図7の(a)は比較例2の写真であり、(b)は実施例1の写真である。
図7の(a)に示すように、比較例2のフリルの両端間距離は約8mmであった。一方、
図7の(b)に示すように、実施例1のフリルの両端間距離は約40mmであった。これより、実施例1は、比較例2よりもフリルが低減していることが確認できる。尚、フリルの両端間距離とは、換言すれば、2つの山の頂点間の距離又は2つの谷底間距離である。
【0091】
この実施例1と比較例2の長辺付近の平坦度を測定した。平坦度は、フリルの両端間の直線距離に対する、フリルの両端間を形状に沿って測った沿面距離と両端間の直線距離との差分値の割合である。平坦度の測定結果を下表2に示す。
(表2)
【0092】
表2に示すように、実施例1は、平坦度の測定結果からも、比較例2よりも長辺付近の平坦度が増していることが確認できる。従って、電極箔1を密に巻回でき、同じ体積でも収容されている電極箔1は長くなるため、巻回形コンデンサの静電容量は向上する。
【0093】
(エージング評価)
実施例1の電極箔1と比較例2の電極箔を陽極箔として用いて巻回し、コンデンサ素子を作成した。陰極箔にはアルミニウム箔を用いた。陰極箔には、拡面部3を形成し、誘電体皮膜5は形成しなかった。セパレータにはセルロース繊維を用いた。
【0094】
実施例1の電極箔1を用いたコンデンサ素子と比較例1の電極箔を用いたコンデンサ素子には電解液を含浸し、有底筒状の外装ケースに収納し、陽極端子及び陰極端子を引き出して封口体で封止した。電解液は、フタル酸アミジニウム塩のγ―ブチロラクトン溶液を用いた。これにより、実施例1の電極箔1を用いた巻回形コンデンサと比較例2の電極箔を用いた巻回形コンデンサが作製された。
【0095】
作製された両巻回形コンデンサをエージング処理し、エージング処理に要した電気量を測定した。エージング処理では、100℃の温度条件にて定格電圧を印加してエージング処理を行った。このエージング処理の間、陽極端子と陰極端子との間に流れた電流変化を測定した。そして、エージング開始時点の30%まで電流値が減少したときの電気量(C)を測定した。
【0096】
電気量の測定結果を下表3に示す。下表3には、比較例2の電気量を基準にした実施例1の電気量の比率を計算して掲載した。
(表3)
【0097】
表3に示すように、実施例1は比較例2よりもエージング処理で消費された電気量が少なかった。これにより、実施例1では、クラック4が比較例2よりも深くなり、クラック4が電極箔1の帯幅方向に長く延伸したため、比較例2よりも細かなクラックの発生が抑制されたことが確認された。
【0098】
尚、実施例1の巻回形コンデンサは、分断処理中の合計伸び率が比較例2よりも大きかった。しかし、実施例1の巻回形コンデンサは、比較例2よりも曲率を大きくしても滑らかに湾曲させることができ、同一体積内により長い電極箔1を収容出来た。そのため、実施例1の巻回形コンデンサは、比較例2よりも静電容量が向上した。