(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137215
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】制御装置およびセンサレスベクトル制御補正装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H02P5/46 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048655
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】山口 凜太郎
【テーマコード(参考)】
5H572
【Fターム(参考)】
5H572AA14
5H572DD03
5H572EE04
5H572GG02
5H572HB08
5H572HC01
5H572HC04
5H572HC07
5H572JJ03
5H572JJ17
5H572JJ25
5H572LL01
5H572LL13
5H572MM09
5H572MM11
(57)【要約】
【課題】ブライドルロールの駆動制御において、精度よくセンサレスベクトル制御をすることができる制御装置およびセンサレスベクトル制御補正装置が提供される。
【解決手段】実施形態は、速度フィードバック推定値補正演算手段を備える。速度フィードバック推定値補正演算手段は、ドライブ装置の出力電流を用いて演算された速度フィードバック推定値および速度センサによって検出された速度フィードバック実測値にもとづいて、センサレス速度制御のための補正された速度フィードバック推定値を演算して、センサレス速度制御するドライブ装置に出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブライドルロールと、
前記複数のブライドルロールをそれぞれ駆動する複数の誘導電動機と、
前記複数の誘導電動機のうち、センサ付き速度制御される少なくとも1台の誘導電動機と、
前記複数の誘導電動機のうち、センサレス速度制御される残りの誘導電動機と、
前記少なくとも1台の誘導電動機を制御する少なくとも1台のドライブ装置と、
前記残りの誘導電動機を制御する残りのドライブ装置と、
を含むブライドルロール駆動制御システムの制御装置であって、
前記少なくとも1台のドライブ装置によって検出された少なくとも1つの駆動電流を用いて前記少なくとも1台の誘導電動機のために演算された少なくとも1つの速度フィードバック推定値、前記残りのドライブ装置によって検出された残りの駆動電流を用いて前記残りの誘導電動機のために演算された残りの速度フィードバック推定値、および、前記少なくとも1台の誘導電動機の少なくとも1つの速度フィードバック実測値にもとづいて、前記残りの速度フィードバック推定値の補正値を演算して、補正された残りの速度フィードバック推定値を演算して出力する速度フィードバック推定値補正演算手段を備え、
前記速度フィードバック推定値補正演算手段は、前記少なくとも1つの速度フィードバック実測値と前記少なくとも1つの速度フィードバック推定値との差分を演算し、前記差分の統計演算にもとづいて、前記補正された残りの速度フィードバック推定値を演算する制御装置。
【請求項2】
前記速度フィードバック推定値補正演算手段は、前記差分の算術平均を演算して補正値を演算し、前記残りの速度フィードバック推定値に前記補正値を加算して、前記補正された残りの速度フィードバック推定値を演算する請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
複数のブライドルロールをそれぞれ駆動する複数の誘導電動機をそれぞれ制御する複数のドライブ装置を制御する制御装置にセンサレス速度制御のための速度フィードバック推定値を供給するセンサレスベクトル制御補正装置であって、
前記複数の誘導電動機にそれぞれ対応し得る複数の速度フィードバック実測値をそれぞれ入力可能とし、
前記複数のフィードバック実測値にそれぞれ対応するように設定される複数の速度フィードバック推定値をそれぞれ入力可能とし、
前記複数の速度フィードバック実測値のうち少なくとも1つの速度フィードバック実測値を選択する選択手段と、
前記選択手段によって、選択された前記少なくとも1つの速度フィードバック実測値と、前記複数の速度フィードバック推定値のうち前記少なくとも1つの速度フィードバック実測値に対応する少なくとも1つの速度フィードバック推定値との差分を演算し、前記差分の統計演算をする補正値演算手段と、
を備え、
前記差分の統計演算にもとづいて、前記複数の速度フィードバック推定値のうち前記少なくとも1つの速度フィードバック推定値以外の残りの速度フィードバック推定値の補正値を演算して、補正された残りの速度フィードバック推定値を演算して前記センサレス速度制御のための速度フィードバック推定値として出力するセンサレスベクトル制御補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ブライドルロールの駆動制御システムのための制御装置およびセンサレスベクトル制御補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機を可変速運転するためには、ドライブ装置が用いられることがある。誘導電動機の速度制御あるいはトルク制御を高精度に行う場合には、誘導電動機の回転軸に速度センサを取り付けて、速度フィードバックをドライブ装置の入力信号として使用するセンサ付きベクトル制御がよく用いられる。
【0003】
一方で、高精度な制御が要求されない誘導電動機の場合、誘導電動機の回転軸に速度センサを取り付けずに、ドライブ装置の出力電圧および出力電流から実速度を推定し、速度フィードバック推定値としてベクトル制御を行うセンサレスベクトル制御が用いられる。
【0004】
従来、センサ付きベクトル制御によって駆動される誘導電動機において速度センサが故障した場合に、速度センサが不要な制御方法に切り替える方法が提案されている。たとえば特許文献1には、速度センサが故障したときに、誘導電動機の速度フィードバックを、速度センサによる実測値から、ドライブ装置の出力電圧および出力電流から求められる推定値に切り替えて、センサレスベクトル制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の技術では、速度センサを取り付けた誘導電動機がベクトル制御で駆動されているときに速度センサが故障すると、センサレスベクトル制御に切り替わり、速度フィードバックについては実測値から推定値に切り替わる。しかし、そもそも速度センサが取り付けられないような場合において、この手法は適用することができない。
【0007】
センサレスベクトル制御における速度フィードバックの推定値は、実測値ほど正確ではない。速度フィードバックの推定値は、速度センサで検出した速度フィードバックの実測値と必ずしも一致しない場合があり、零速度などの極低速運転時や、正転と逆転が切り替わるゼロクロスのときには、速度制御精度が低下し、ベクトル制御のずれが生じ、制御系が不安定になる場合がある。
【0008】
ブライドルロールは、切れ目のないストリップが連続して搬送される鉄鋼のプロセスラインに設置される。ブライドルロールは、2台以上のロールによって構成され、ロール表面の摩擦と、ロールへのストリップの巻き付け角度によってストリップを拘束する。そのため、ブライドルロールの速度をストリップの搬送速度とほぼ一致させることができるので、ブライドルロールは、ライン全体の速度マスターとすることができ、高い速度制御精度が要求される。
【0009】
旧式設備の一部あるいは全部を新規設備に更新する更新エンジニアリング業務においては、更新時のブライドルロールやこれらを駆動する誘導電動機の配置等によっては、速度センサの設置が困難な場合がある。また、速度センサの設置数を削減することができれば、更新費用を低減させることも可能になる。そのような場合に対応して、ブライドルロールの速度制御精度を犠牲にすることなくセンサレスベクトル制御を適用したいとの要求は強い。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ブライドルロールの駆動制御において、精度よくセンサレスベクトル制御をすることができる制御装置およびセンサレスベクトル制御補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態は、複数のブライドルロールと、前記複数のブライドルロールをそれぞれ駆動する複数の誘導電動機と、前記複数の誘導電動機のうち、センサ付き速度制御される少なくとも1台の誘導電動機と、前記複数の誘導電動機のうち、センサレス速度制御される残りの誘導電動機と、前記少なくとも1台の誘導電動機を制御する少なくとも1台のドライブ装置と、前記残りの誘導電動機を制御する残りのドライブ装置と、を含むブライドルロール駆動制御システムの制御装置である。前記制御装置は、前記少なくとも1台のドライブ装置によって検出された少なくとも1つの駆動電流を用いて前記少なくとも1台の誘導電動機のために演算された少なくとも1つの速度フィードバック推定値、前記残りのドライブ装置によって検出された残りの駆動電流を用いて前記残りの誘導電動機のために演算された残りの速度フィードバック推定値、および、前記少なくとも1台の誘導電動機の少なくとも1つの速度フィードバック実測値にもとづいて、前記残りの速度フィードバック推定値の補正値を演算して、補正された残りの速度フィードバック推定値を演算して出力する速度フィードバック推定値補正演算手段を備える。前記速度フィードバック推定値補正演算手段は、前記少なくとも1つの速度フィードバック実測値と前記少なくとも1つの速度フィードバック推定値との差分を演算し、前記差分の統計演算にもとづいて、前記補正された残りの速度フィードバック推定値を演算する。
【発明の効果】
【0012】
実施形態によれば、ブライドルロールの駆動制御において、精度よくセンサレスベクトル制御をすることができる制御装置およびセンサレスベクトル制御補正装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る制御装置が適用されたブライドルロール駆動制御システムを例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置の一部であるセンサスベクトル制御補正装置を例示する模式的なブロック線図である。
【
図3】第2の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置を例示する模式的なブロック線図である。
【
図4】第2の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置の使用方法を説明するためのブライドルロール駆動制御システムを例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
まず、ブライドルロール駆動制御システムの構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置が適用されたブライドルロール駆動制御システムを例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、ブライドルロール駆動制御システムは、ブライドルロール2a~2dと、誘導電動機4a~4dと、速度センサ6a、6b、ドライブ装置10a~10dと、制御装置100と、を含む。ブライドルロール2a~2d、誘導電動機4a~4dおよび速度センサ6a、6bは、機械系の装置および機器であり、たとえば圧延ラインに設けられている。ドライブ装置10a~10dおよび制御装置100は、電気制御系の装置および機器であり、たとえば圧延プラントの電気室内等に設けられている。
【0016】
ブライドルロール2a~2dには、ストリップ1がロールから滑らないように巻き付けられている。ブライドルロール2a~2dは、誘導電動機4a~4dによって駆動される。誘導電動機4a~4dは、ドライブ装置10a~10dによってそれぞれ速度制御され、両端のブライドルロールの間でストリップ1を搬送する。
【0017】
ストリップ1は、
図1の矢印で示すように、ブライドルロール2a~2dの順に搬送される。つまり、ブライドルロール2a、2bは、ストリップ1の搬送路の入側に設けられており、ブライドルロール2c、2dは、ストリップ1の搬送路の出側に設けられている。たとえば、ブライドルロール2a~2dの速度は、ほぼ同一になるように設定される。たとえば、ブライドルロール2a~2dの速度が一定に維持されることによって、ブライドルロール間のストリップ1の張力は所望の値に制御される。
【0018】
誘導電動機4a、4bには、速度センサ6a、6bがそれぞれ設けられている。速度センサ6aは、実測した誘導電動機4aの速度フィードバック実測値をドライブ装置10aに出力し、速度センサ6bは、計測した誘導電動機4bの速度フィードバック値をドライブ装置10bに出力する。速度センサ6a、6bは、誘導電動機4a、4bのそれぞれの速度を実測し、実測した速度フィードバック実測値を制御装置100に出力する。
【0019】
制御装置100は、ドライブ装置10a、10bのそれぞれについて、あらかじめ設定された速度基準を、ドライブ装置10a、10bにそれぞれ出力する。
【0020】
誘導電動機4c、4dには、速度センサが設けられていない。つまり、誘導電動機4c、4dは、ドライブ装置10c、10dにより、センサレス速度制御される。一方、速度センサ6a、6bが設けられた誘導電動機4a、4bは、ドライブ装置10a、10bにより、センサ付き速度制御される。
【0021】
ドライブ装置10a~10dの出力には、電流センサが設けられている。電流センサは、ドライブ装置10a~10dが出力する電流値を検出して、検出した電流値を用いて速度フィードバック推定値をそれぞれ演算し、制御装置100に出力する。
【0022】
制御装置100のセンサレスベクトル制御補正装置(速度フィードバック推定値補正演算手段)20は、誘導電動機4a、4bの速度フィードバック実測値(少なくとも1つの速度フィードバック実測値)および誘導電動機4a、4bの速度フィードバック推定値(少なくとも1つの速度フィードバック推定値)にもとづいて、誘導電動機4c、4dのための速度フィードバック推定値(残りの速度フィードバック推定値)の補正値を演算し、補正された速度フィードバック推定値(補正された残りの速度フィードバック推定値)を演算して出力する。ドライブ装置10c、10dは、補正された速度フィードバック推定値およびあらかじめ設定された速度基準にもとづいて、速度指令値を生成して、速度指令値に応じた出力電圧および出力電流を誘導電動機4c、4dにそれぞれ出力する。
【0023】
ドライブ装置10a~10dの構成例について説明する。ドライブ装置10a~10dは、ドライブ部11a~11d、トルク制御器12a~12dと、速度制御器14a~14dと、センサレス制御器16a~16dと、をそれぞれ有する。
【0024】
速度制御器14a、14bは、速度フィードバック実測値および速度基準出力部30から出力された速度基準にもとづいて、電流指令値を演算し、トルク制御器12a、12bにそれぞれ出力する。トルク制御器12a、12bは、電流指令値およびドライブ装置10a、10bが出力した電流値にもとづいて、誘導電動機4a、4bに対する速度指令値を生成して、ドライブ装置10a、10bにそれぞれ出力する。ドライブ装置10a、10bに出力する速度指令値は、速度制御器14a、14bおよびトルク制御器12a、12bによって、演算される。
【0025】
速度制御器14c、14dは、センサレスベクトル制御補正装置20から出力された補正された速度フィードバック推定値および速度基準出力部30から出力された速度基準にもとづいて、電流指令値を演算し、トルク制御器12c、12dにそれぞれ出力する。トルク制御器12c、12dは、電流指令値およびドライブ装置10c、10dが出力した電流値にもとづいて、誘導電動機4c、4dに対する速度指令値を生成して、ドライブ部11c、11dにそれぞれ出力する。
【0026】
トルク制御器12a~12dは、ドライブ部11a~11dに速度指令値を出力する。ドライブ部11a~11dは、速度指令値にもとづいて、誘導電動機4a~4dを駆動するための電圧および電流を出力する。
【0027】
センサレス制御器16a~16dは、ドライブ装置10a~10dが出力する電流値を検出して、検出した電流値を用いて、誘導電動機4a~4dのための速度フィードバック推定値を演算して、制御装置100に出力する。
【0028】
制御装置100は、センサレスベクトル制御補正装置20を備える。制御装置100は、このほか、速度基準出力部30を有している。
センサレスベクトル制御補正装置20の構成について説明する。
図2は、第1の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置を例示する模式的なブロック線図である。
以下の説明では、誘導電動機4a、4bの速度フィードバック実測値を“SP_F1”、“SP_F2”とそれぞれ表記する。また、ドライブ装置10a~10dの出力電流にもとづいて演算された速度フィードバック推定値を“SP_F1_SL”~“SP_F4_SL”とそれぞれ表記する。また、誘導電動機4c、4dの速度制御のために演算された、補正された速度フィードバック推定値を“SP_F3_E”、“SP_F4_E”とそれぞれ表記する。
【0029】
図2に示すように、センサレスベクトル制御補正装置20は、補正演算部22を有する。補正演算部22は、速度フィードバック実測値SP_F1、SP_F2および速度フィードバック推定値SP_F1_SL~SP_F4_SLにもとづいて、補正された速度フィードバック推定値SP_F3_E、SP_F4_Eを演算して、出力する。
【0030】
補正演算部22は、速度フィードバック実測値SP_F1と速度フィードバック推定値SP_F1_SLとの差分ΔSP_F1を入力する。また、補正演算部22は、速度フィードバック実測値SP_F2と速度フィードバック推定値SP_F2_SLとの差分ΔSP_F2を入力する。補正演算部22は、差分ΔSP_F1および差分ΔSP_F2の算術平均を演算し、速度フィードバック推定値のための補正値ΔSP_AVEとして出力する。
【0031】
センサレスベクトル制御補正装置20は、誘導電動機4cの速度制御のための速度フィードバック推定値SP_F3_SLに補正値ΔSP_AVEを加算して、補正された速度フィードバック推定値SP_F3_Eを演算し出力する。センサレスベクトル制御補正装置20は、誘導電動機4dの速度制御のための速度フィードバック推定値SP_F4_SLに補正値ΔSP_AVEを加算して、補正された速度フィードバック推定値SP_F4_Eを演算し出力する。
【0032】
ブライドルロール2a~2dは、ストリップ1で機械的に結合されており、ストリップの張力が制御された状態では、ブライドルロール2a~2dの速度は、ほぼ同じである。つまり、差分ΔSP_F1、ΔSP_F2は、センサ付き速度制御をされた誘導電動機4a、4bについて、速度フィードバック実測値と速度フィードバック推定値のずれを表している。センサレス速度制御されている誘導電動機4c、4dの速度は実測されないが、それぞれの速度フィードバック推定値SP_F3_SL、SP_F4_SLに補正値ΔSP_AVEを加算することによって、速度フィードバック実測値により近い推定値となる。
【0033】
このようにして、センサレスベクトル制御補正装置20は、センサ付き速度制御される誘導電動機の速度フィードバック実測値と速度フィードバック推定値との差分にもとづいて、センサレス速度制御される誘導電動機の速度フィードバック推定値を補正する。そのため、補正された速度フィードバック推定値は、その誘導電動機の速度フィードバック実測値に近い値となり、高精度なセンサレス速度制御を実現することができる。
【0034】
上述の具体例では、4台の誘導電動機4a~4dのうち、搬送路の入側の誘導電動機4a、4bをセンサ付き速度制御で制御するものとしたが、センサ付き速度制御する誘導電動機の位置は、これに限らない。たとえば、搬送路の出側の誘導電動機4c、4dをセンサ付き速度制御としてもよいし、他の組み合わせとしてもよい。
【0035】
また、上述の具体例では、4台の誘導電動機4a~4dのうち、2台の誘導電動機をセンサ付き速度制御としたが、センサ付き速度制御する誘導電動機の台数はこれに限らない。たとえば、任意の位置の3台の誘導電動機をセンサ付き速度制御とし、残りの誘導電動機をセンサレス速度制御としてもよい。本実施形態では、少なくとも1台の誘導電動機をセンサ付き速度制御とすることができればよい。
【0036】
具体的には、センサレスベクトル制御補正装置20の補正演算部22は、以下の式(1)を用いて、速度フィードバック推定値のための補正値ΔSP_AVEを演算することができる。
【0037】
ΔSP_AVE=(1/n)Σ[ΔSP_Fi] (1)
ここで、ΔSP_Fi=SP_Fi-SP_Fi_SL
“n”は、センサ付き速度制御する誘導電動機の台数である。i=1~nであり、“i”は、センサ付き速度制御する誘導電動機を識別する識別番号である。上述の具体例では、i=1は誘導電動機4aを表しており、i=2は誘導電動機4bを表している。
【0038】
式(1)より、センサレスベクトル制御補正装置20は、センサレス速度制御のための補正値を演算することができ、補正された速度フィードバック推定値を出力することが可能である。
【0039】
上述の例では、速度フィードバック推定値の補正値をΔSP_Fiの算術平均としたが、ブライドルロールの数や構成によっては、他の適切な統計演算を用いてもよい。たとえば、ΔSP_Fiの中央値としたり、ΔSP_Fiが所定の範囲外の場合には、外れ値を平均値演算の対象からはずしたりしてもよい。
【0040】
本実施形態に係る制御装置100の効果について説明する。
本実施形態に係る制御装置100は、センサレスベクトル制御補正装置20を備える。センサレスベクトル制御補正装置20は、補正演算部22を有しており、センサ付き速度制御する少なくとも1台の誘導電動機の速度フィードバック実測値とその誘導電動機の速度フィードバック推定値との差分の算術平均を演算し、速度フィードバック推定値の補正値として出力する。この補正値を算出するための速度フィードバック推定値は、センサ付き速度制御された誘導電動機を駆動する電流値にもとづいて演算される。そのため、補正値により補正された速度フィードバック推定値は、センサレス速度制御される誘導電動機の実速度に近い値となる。そのため、センサレス速度制御される誘導電動機が極低速運転時やゼロクロス等の場合であっても、精度よくセンサレス速度制御を行うことが可能になる。
【0041】
(第2の実施形態)
ブライドルロール駆動制御システムが設置されたプラントにおいて、更新エンジニアリング業務が行われることがある。更新エンジニアリング業務とは、電気設備や機械設備等の既存のものの一部または全部を新規に置き換える技術的な作業をいう。このような更新エンジニアリング業務をブライドルロール駆動制御システムについて行う場合において、ブライドルロールを駆動するすべての誘導電動機に速度センサを取り付け等できないことがある。
【0042】
図3は、第2の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置を例示する模式的なブロック線図である。
図4は、第2の実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置の使用方法を説明するためのブライドルロール駆動制御システムを例示する模式的なブロック図である。
【0043】
ブライドルロール駆動制御システムについての更新エンジニアリング業務では、
図3に示すセンサレスベクトル制御補正装置220が用意される。
図3に示すように、センサレスベクトル制御補正装置220は、速度制御する誘導電動機の台数に対応した数の補正された速度フィードバック推定値を出力できるように構成されている。
図3の具体例では、4台の誘導電動機のうちのどの誘導電動機がセンサ付き速度制御でどれがセンサレス速度制御であるかにかかわらず適用することができるように、4つの速度フィードバック推定値SP_F1_E~SP_F4_Eを出力できるように構成されている。
【0044】
具体的には、センサレスベクトル制御補正装置220は、4台の誘導電動機の速度フィードバック実測値SP_F1~SP_F4および速度フィードバック推定値SP_F1_SL~SP_F4_SLのそれぞれの差分ΔSP_F1~ΔSP_F4を演算するように構成されている。より具体的には、センサレスベクトル制御補正装置220は、補正演算部22を有しており、補正演算部22は、上述した式(1)を用いて、速度フィードバック推定値SP_F1_SL~SP_F4_SLのそれぞれのための補正値ΔSP_AVEを演算することができる。センサレスベクトル制御補正装置220は、速度フィードバック推定値SP_F1_SL~SP_F4_SLに補正値ΔSP_AVEを加算して、補正された速度フィードバック推定値SP_F1_E~SP_F4_Eを演算して出力することができる。
【0045】
本実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置220は、好ましくは、選択部224を備えている。選択部224は、更新エンジニアリング時に、更新する速度制御システムの速度センサの設置可否の状況に応じて、補正された速度フィードバック推定値を出力する必要がある系統を選択する。たとえば、センサレスベクトル制御補正装置220は、プログラムモジュールによって構成されており、選択部224による系統の選択は、対応するプログラムモジュールを選択するモジュールである。たとえば、選択される系統は、エンジニアリングツールとして機能するコンピュータ端末上で選択部224を介して、選択され、設定される。選択部224のよる系統の選択は、各入力信号の有無によりハードウェア的に自動判定されるようにしてもよい。たとえば、速度フィードバック実測値SP_F2、SP_F3の入力がされない場合には、選択部224は、センサレスベクトル制御補正装置220は、誘導電動機4a、4dがセンサ付き速度制御であり、誘導電動機4b、4cがセンサレス速度制御であると自動的に判定し、スイッチ等により切り替える。
【0046】
図4には、既設のブライドルロールの速度制御システムを更新する例が示されている。
図4に示すように、この例では、1番目の誘導電動機4aおよび4番目の誘導電動機4dに速度センサの取り付けが困難であり、誘導電動機4a、4dについて、センサレス速度制御を適用するものとする。なお、更新時に誘導電動機4a、4dに配置できない速度センサ6a、6dには、「×」を付している。
【0047】
本実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置220は、センサ付き速度制御する誘導電動機4b、4cとセンサレス速度制御する誘導電動機4a、4dが用いられる更新後のブライドルロール速度制御システムに適用される。
【0048】
更新後のブライドルロール速度制御システムでは、
図1に示したセンサレス制御器16a~16dがドライブ装置10a~10dにそれぞれ追加される。センサレス制御器16a~16dは、
図1の場合と同様に、ドライブ装置10a~10dが出力する電流を入力し、速度フィードバック推定値を演算して、制御装置220に出力するように構成される。
【0049】
センサレスベクトル制御補正装置20には、追加されたセンサレス制御器16a~16dが出力する速度フィードバック推定値SP_F1_SL~SP_F4_SLが入力される。また、センサレスベクトル制御補正装置20には、誘導電動機4bの速度フィードバック実測値SP_F2および誘導電動機4cの速度フィードバック実測値SP_F3が入力される。
【0050】
センサレスベクトル制御補正装置220は、誘導電動機4bについて、速度フィードバック実測値SP_F2と速度フィードバック推定値SP_F2_SLとの差分ΔSP_F2を演算する。また、センサレスベクトル制御補正装置220は、誘導電動機4cについて、速度フィードバック実測値SP_F3と速度フィードバック推定値SP_F3_SLとの差分ΔSP_F3を演算する。
【0051】
センサレスベクトル制御補正装置220は、
図1、2に関連して説明した式(1)を用いて、速度フィードバック推定値の補正値ΔSP_AVEを演算する。
【0052】
センサレスベクトル制御補正装置220は、誘導電動機4a、4dをセンサレス速度制御するように、補正された速度フィードバック推定値SP_F1_E、SP_F4_Eを演算し、速度制御器14a、14dに出力する。
【0053】
このようにして、既設のブライドルロール速度制御システムを更新する場合において、速度センサの取り付けができない状況であっても、精度のよいセンサレス速度制御を行うことができる。
【0054】
本実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置220の効果について説明する。
本実施形態に係るセンサレスベクトル制御補正装置220は、ブライドルロール2a~2dを駆動するすべての誘導電動機4a~4dに対応するように、センサ付き速度制御のための系統を有している。そのため、ブライドルロール速度制御システムの更新時等に速度センサの取り付けができない場合であっても、精度のよいセンサレス速度制御を行うことができる。
【0055】
更新エンジニアリングにおいては、複数のブライドルロールを用いた搬送システムや張力制御システム等が用いられることがある。これらのシステムの更新作業では、作業が進んだ段階でないと、速度センサの取り付け可否の判断が困難な場合が多い。本実施形態では、速度制御システムごとにセンサレスベクトル制御補正装置220を用意することによって、速度制御システムの構成に応じて、センサレス速度制御を行う系統を選択することができる。そのため、更新エンジニアリング業務の進んだ段階においても、センサレスベクトル制御補正装置220を適用して、高精度なセンサレス速度制御を実現することが容易であり、更新エンジニアリング業務に要する作業時間の短縮も可能になる。
【0056】
このようにして、ブライドルロールの駆動制御において、精度のよくセンサレスベクトル制御をすることができるセンサレスベクトル制御補正装置を実現することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
2a~2d…ブライドルロール、4a~4d…誘導電動機、6a~6d…速度センサ、10a~10d…ドライブ装置、11a~11d…ドライブ部、12a~12d…トルク制御器、14a~14d…速度制御器、16a~16d…センサレス制御器、20、220…センサレスベクトル制御補正装置、22…補正値演算部、100、200…制御装置、224…選択部