(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137218
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】炭酸化スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C04B5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048658
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JL02
4G112JM01
(57)【要約】
【課題】製鋼スラグに対して均一かつ効率的に炭酸化処理を施すことが可能な新たな技術を開示する。
【解決手段】本開示の炭酸化スラグの製造方法は、製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給して炭酸化処理を施すこと、を含み、前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D
1が、前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D
2未満とならないように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化スラグの製造方法であって、
製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給して炭酸化処理を施すこと、を含み、
前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1が前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2が、7.0mm以下である、
炭酸化スラグの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1と、前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2との比D1/D2が、1.00以上1.50以下となるように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理において、前記製鋼スラグの造粒物を円柱状部材に接触させることで、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、製鋼スラグに対して炭酸化処理を施して炭酸化スラグを製造する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所で発生する予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグは、道路の路盤材をはじめ、土木、建築用の材料等に利用されている他、海域においても藻場造成形成の基材或いは施肥材として利用されている。製鋼スラグには、水可溶性の遊離CaO(フリーライム)やCa(OH)2が含有されていることから、製鋼スラグを上記の材料としてそのまま使用すると、河川水や海水などの環境水や雨水と接触した際に、カルシウムイオン及びアルカリ(水酸化物イオン)を溶出し、接触した水が濁りを生じる問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、製鋼スラグに含まれる水可溶性のカルシウム成分を不溶化させる方法のひとつとして、製鋼スラグを二酸化炭素と反応させる炭酸化処理が多く検討されてきた。炭酸化処理においては、製鋼スラグに含まれる水可溶性カルシウム分の遊離CaOやCa(OH)2を二酸化炭素と効率よく反応させてCaCO3を生成させる必要があり、反応を促進するうえで水分の添加が非常に有効である。そのため、製鋼スラグの炭酸化処理では、二酸化炭素を含有する炭酸ガスの供給速度の調整のほか、製鋼スラグに添加する水分や雰囲気の相対湿度の制御等により、炭酸化反応を効率的に進める必要がある。また、炭酸化処理中の撹拌により炭酸化反応が更に促進されることも知られている。
【0004】
一方で、本発明者の知見によると、撹拌を加える炭酸化処理方法では、製鋼スラグを攪拌した際に、水を介してスラグ粒子が造粒し、二酸化炭素を含有するガスが造粒物の内部に浸入し難くなり、炭酸化処理後において、内部が炭酸化していない造粒物が形成される。この場合、運搬時又は施工時等において造粒物の一部が崩壊し、造粒物の内部に存在する炭酸化が進んでいないスラグが露出する可能性があり、アルカリ溶出の懸念がある。また、炭酸化反応を最大限効率化するために製鋼スラグ中の水分を増加させていくと、水分の増加とともに炭酸化処理中及び処理後の造粒物の生成量も増加する。このため、水分の添加量増加に伴う造粒物の生成量増加は、製鋼スラグを均一に炭酸化するうえで阻害要因となっていた。
【0005】
このような問題に対して、いくつかの解決策が見出されている。例えば、特許文献1には、製鋼スラグに対して炭酸化処理を施す前に、乾燥処理を施して、水分量を0.5質量%以上4質量%以下の範囲に調整し、炭酸化処理中の造粒物の形成を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2には、炭酸化処理における撹拌フルード数を一定の範囲に調整することで、炭酸化処理中の造粒物の形成を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-234332号公報
【特許文献2】特開2016-037409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された方法は、水分の添加量に上限があり、炭酸化処理中も水分を制御する必要となる。そのため、水分が少なく、炭酸化反応効率が低く、均一な炭酸化処理も難しいという問題がある。また、特許文献1に開示された方法では、炭酸化処理中の水分を制御するための複雑な機構が必要となる。特許文献2に開示された方法は、造粒物の形成を抑制するために撹拌フルード数が一定の範囲となるよう撹拌するため、本来であれば炭酸化反応に寄与する撹拌速度が制限される。すなわち、水分の添加量増加に伴い造粒物の生成量が増加するという根本的な阻害要因を排除できておらず、炭酸化反応を均一かつ効率的に生じさせることについて、改善の余地がある。
【0008】
以上の通り、製鋼スラグに対して均一かつ効率的に炭酸化処理を施すことが可能な、新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
炭酸化スラグの製造方法であって、
製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給して炭酸化処理を施すこと、を含み、
前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1が前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
<態様2>
態様1の炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2が、7.0mm以下である、
炭酸化スラグの製造方法。
<態様3>
態様1又は2の炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1と、前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2との比D1/D2が、1.00以上1.50以下となるように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
<態様4>
態様1~3のいずれかの炭酸化スラグの製造方法であって、
前記炭酸化処理において、前記製鋼スラグの造粒物を円柱状部材に接触させることで、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する、
炭酸化スラグの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、製鋼スラグに対して、均一かつ効率的に炭酸化処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る炭酸化処理装置について概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、一実施形態に係る炭酸化スラグの製造方法について説明する。一実施形態に係る炭酸化スラグの製造方法は、製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給して炭酸化処理を施すこと、を含む。ここで、本実施形態に係る炭酸化スラグの製造方法は、前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1が前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕することを特徴とする。
【0013】
1.製鋼スラグ
本実施形態において炭酸化処理される製鋼スラグは、製鋼工程において発生する副産物であり、その性状は粉粒体である。製鋼スラグは、例えば、転炉スラグ、電気炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱珪スラグ、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ、二次精錬スラグ及び造塊スラグ等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。製鋼スラグは、これらのスラグの混合物の粉粒体であってもよい。製鋼スラグの粒径は特に限定されるものではないが、炭酸化処理後の用途に応じて粒径が調整されることが望ましい。尚、製鋼スラグの粒径が大き過ぎる場合、炭酸化処理において製鋼スラグの造粒物を解砕する際、粒径の大きい原料粒子の存在によって、それよりも小さい造粒物の圧縮破壊が阻害される場合がある。炭酸化処理において造粒物をより適切に解砕可能とする観点から、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2は、好ましくは9.0mm以下、さらに好ましくは7.0mm以下である。平均粒子径D2の下限は特に限定されない。平均粒子径D2は、例えば、1.0mm以上9.0mm以下であってもよく、2.0mm以上7.0mm以下であってもよい。
【0014】
尚、本願において、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2や、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1は、日本工業規格に定められた「粒子径測定結果の表現(JIS Z 8819)」のモーメント表記法による重み付き体積基準平均径である。
【0015】
2.炭酸化処理
本実施形態においては、上記のような製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給することで、当該製鋼スラグに対して炭酸化処理を施す。本実施形態において、炭酸化処理の条件は、後述する造粒物の解砕が行われることを除き、従来と同様の条件であってよい。例えば、炭酸化処理を促進するため、炭酸化処理前又は炭酸化処理中に製鋼スラグに水が添加され得る。また、製鋼スラグに対して二酸化炭素とともに水分を供給してもよい。炭酸ガスの供給量、製鋼スラグに添加される水分量、炭酸化処理中の相対湿度、炭酸化処理温度、炭酸化処理時間等については、特に限定されるものではない。例えば、製鋼スラグ1kgあたりの炭酸ガスの供給量は、0.1リットル/分以上2.0リットル/分以下であってもよい。また、製鋼スラグ1kgあたりの水分量は、30g以上120g以下であってもよい。また、製鋼スラグに供給される炭酸ガスは、50%以上99.9%以下の二酸化炭素を含んでいてもよく、炭酸化処理雰囲気の水蒸気は1.5vol%以上でもよい。また、炭酸化処理温度は、5℃以上40℃以下であってもよい。また、炭酸化処理時間は、30分以上3.0時間以下であってもよい。
【0016】
3.造粒物の解砕
上述の通り、炭酸化処理においては、炭酸化反応を促進するために、製鋼スラグに対して水分を添加する。ここで、水分が添加された製鋼スラグは、水分を介して容易に造粒する。本発明者の知見によると、炭酸化処理中に製鋼スラグが造粒すると、炭酸化反応を均一かつ効率的に進行させることが困難となる。このような問題を解決するため、本実施形態においては、製鋼スラグの造粒物を解砕しつつ、製鋼スラグの炭酸化処理を進行させる。例えば、製鋼スラグの造粒物に対して機械的エネルギーを付与することで、当該造粒物を解砕することができる。ただし、製鋼スラグの造粒物に対して付与される機械的エネルギーが大き過ぎると、製鋼スラグの造粒物が解砕されるだけでなく、製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕され、炭酸化されていない新生面が露出してしまう。結果として、製鋼スラグの炭酸化処理後にも、炭酸化されていない表面が残存し、カルシウムイオン及びアルカリ(水酸化物イオン)の溶出が懸念される。これに対し、本実施形態においては、製鋼スラグの造粒物を解砕しつつも、製鋼スラグの原料粒子の新生面の露出を抑えるため、製鋼スラグの原料粒子の破砕・粉砕ができるだけ生じないようにする。具体的には、本実施形態においては、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1が、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、製鋼スラグの造粒物を解砕することが重要である。尚、本願にいう「造粒物の解砕」とは、複数のスラグ粒子(原料粒子)から構成された造粒物に対して機械的エネルギーを付与することにより、スラグ粒子同士の凝集を解き、相対的に大きい造粒物が相対的に小さい粒径を有するものへと崩壊・分解する(解される(ほぐされる))現象を意味し、造粒物を構成している製鋼スラグ粒子(原料粒子)そのものを破砕・粉砕することを意味するものではない。このような「造粒物の解砕」を実現するためには、後述するように、製鋼スラグの造粒物を解砕する手段を工夫することが有効である。具体的には、後述する円柱状部材を用いるなどして、造粒物に対して所定の圧下荷重を付加することで、造粒物を「解砕」することができる。
【0017】
上述の通り、本実施形態においては、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1が、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、製鋼スラグの造粒物を解砕することが重要である。すなわち、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1と、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2との比D1/D2は、1.00以上である。当該比D1/D2の上限は、特に限定されるものではない。一実施形態において、当該比D1/D2は、1.00以上1.50以下であってもよい。当該比D1/D2が1.00以上1.50以下である場合、炭酸化処理において、より適切かつ確実に製鋼スラグの造粒物が解砕される。尚、本実施形態においては、炭酸化処理中に製鋼スラグの造粒物の解砕が生じていればよく、炭酸化処理後に造粒が進んで炭酸化スラグの平均粒子径D1が大きくなっても構わない。この点において、本実施形態においては、上記の比D1/D2が1.50を超えることもあり得る。
【0018】
4.造粒物を解砕する手段の具体例
以下、炭酸化処理において、製鋼スラグの造粒物を円柱状部材に接触させることで、製鋼スラグの造粒物を解砕する形態を例示するが、本実施形態において用いられる解砕手段は、以下のものに限定されない。
【0019】
4.1 ドラムミキサー
図1に、一実施形態に係る炭酸化処理装置を概略的に示す。
図1に示される炭酸化処理装置10は、ドラム1の内部に円柱状部材2としてのロール又はロッドを設置したドラムミキサーである。このような炭酸化処理装置10を用いて製鋼スラグの炭酸化処理を行う場合、まず、ドラム1の内部に製鋼スラグを投入する。次に、ドラム1の内部に炭酸ガスを連続導入しつつ、ドラム1の回転により製鋼スラグを撹拌する。撹拌中、円柱状部材2であるロール又はロッドは、ドラムミキサー内部の下部において、ドラム1の回転により回転し続ける。撹拌中に形成された製鋼スラグの造粒物は、ロール又はロッドによって圧縮され、解砕される。
図1に示される炭酸化処理装置10においては、ドラム1の回転数、円柱状部材2であるロール又はロッドの材質、ロール又はロッドのサイズ、及び、ロール又はロッドの数を調整することで、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D
1が、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D
2未満とならないように、製鋼スラグの造粒物を解砕することができる。
【0020】
例えば、ドラム1の回転速度が遅い場合は、造粒物がロール又はロッドの下部に入り込まず、解砕されない。そのため、ドラム1の内部に十分量の製鋼スラグを投入し、撹拌下において、造粒物をドラム1の内部にてある程度激しく流動させる必要がある。望ましくは、下記非特許文献1に記載されたノーマルカスケード域又は放物流下域となるように、ドラムの回転速度を調整する。例えば、フルード数が15×10-3となるようにドラム1を回転させた場合、占積率(ドラム容器内に占める原料の体積割合)を約8~13%に調整することで、ノーマルカスケード域となり、占積率を約14%以上にした場合は放物流下域となる。
【0021】
[非特許文献1]佐藤勝彦:浮選,28(1981),p.99
【0022】
4.2 ミックスマラー混練機
ミックスマラー式の混練装置においても、製鋼スラグの造粒物を解砕しつつ、製鋼スラグの炭酸化処理を行うことができる。ミックスマラー混練機は、撹拌子と連動して回転する円柱状部材としてのホイールにより粉体原料を撹拌する装置であり、液体と粉体とを効率的かつ均一に混ぜ合わせることができる。ただし、均一混合を目的とした当該装置は、ホイールによる圧縮面積が小さく、造粒物の解砕効率が低い。また、原料粒子の破砕・粉砕も同時に生じることが一般的に知られており、通常条件でミックスマラー混練機を用いた場合、製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕される虞がある。そこで、ミックスマラー混練機を利用する場合は、製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕されないように、ホイール寸法や圧下荷重を適切に変更する必要がある。具体的には、ホイール(円柱状部材)のスラグ1kgあたりの圧下荷重の合計が0.5~5.0(kgf/kgスラグ)となるように調整することが好ましい。また、ホイール(円柱状部材)の底面の直径に対する側面長さの比(側面長さ÷底面直径)が0.5~7.0の範囲であることが望ましい。尚、ミックスマラー混練機では、油圧又はバネにより圧下荷重を増加させる装置も存在し、その場合はバネの影響も考慮して圧下荷重を求める必要がある。
【0023】
4.3 円柱状部材についての補足
上述の通り、円柱状部材は、製鋼スラグの炭酸化処理中に生じた造粒物を圧縮し、解砕させるために使用される。
図2に示されるように、円柱状部材2は、両底面が円形であり、かつ、両底面の間に一定の長さ(側面長さ)を有するものであればよい。円柱状部材2は、上述の通り、回転しつつ、その側面が造粒物に接触することで、造粒物の解砕を可能とするものであればよく、この点において「円」とは、真円である必要はなく、楕円なども含む概念である。円柱状部材2は、上述の通り、ロール、ロッド及びホイール等から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0024】
上述の通り、円柱状部材2による機械的圧縮力が高すぎる条件、或いは、円柱状部材2が高速度で激しく原料粒子に衝突する条件では、原料粒子が破砕・粉砕されて、炭酸化されていない製鋼スラグの新生面を大量に生じ、当該新生面がアルカリ溶出の原因となる。一方、円柱状部材2による圧下荷重が低い場合は、造粒物を解砕できず、炭酸化処理効率が低下する問題が生じる。原料粒子の破砕・粉砕を抑制しつつ造粒物を解砕するためには、例えば、円柱状部材2のスラグ1kgあたりの圧下荷重を調整するとよい。円柱状部材2のスラグ1kgあたりの圧下荷重の合計は、例えば、0.5~5.0(kgf/kgスラグ)であることが好ましい。このように圧下荷重を調節することにより、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1が、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように制御することができる。ここで圧下荷重は、本願において定義された概念であり、平面に設置された静止状態の円柱状部材2が垂直方向(重力方向)に加える荷重(力)である。圧下荷重は円柱状部材2の質量に重力加速度を乗じて求められる重力である。
【0025】
円柱状部材2の材質は、円柱状部材2の圧下荷重を適切に制御できるよう決定することが好ましい。円柱状部材2の材質は、特に限定されないが、入手費用、取扱い性、耐摩耗性、耐落下性(耐衝撃性)を考慮すると、望ましくは金属製であり、さらに望ましくは入手費用と耐摩耗性のバランスを考慮して球状黒鉛鋳鉄材を用いるとよい。
【0026】
円柱状部材2の寸法は、圧下荷重や最高速度の他、実際の作業性を考慮して適切に決定することが好ましい。特に限定されないが、底面の直径に対する側面長さの比(側面長さ÷底面直径)が0.5~7.0の範囲であることが望ましい。
【0027】
炭酸化処理装置に備えられる円柱状部材2の数が複数である場合、円柱状部材2同士の衝突により、製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕される場合がある。この点、例えば、炭酸化処理装置として、上記のドラムミキサーを用いる場合、当該ドラムミキサーに備えられる円柱状部材2(ロール又はロッド)の数は、望ましくは2つ以下であり、さらに望ましくは1つである。一方、ミックスマラー混練機の場合、円柱状部材2(ホイール)の数に特に制限はない。
【0028】
尚、撹拌羽等の撹拌子の高速回転によって、製鋼スラグの造粒物を解砕することもあり得る。ただし、この場合は、製鋼スラグが比較的硬質であるため、撹拌子の摩耗速度が速く、摩耗により劣化した撹拌子の交換頻度が高くなる問題がある。そのため、撹拌子の交換に伴う非稼働時間の増加を招き、結果的に処理効率が大きく低下する虞がある。また、撹拌羽等の撹拌子を用いる場合、せん断によって製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕される虞もある。この点、炭酸化処理において、製鋼スラグの平均粒子径を低下させることなく、製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕されて新生面生じることをできるだけ抑制しつつ、造粒物を解砕するためには、撹拌子の高速回転によって造粒物を解砕するよりも、上述のように、製鋼スラグの造粒物を円柱状部材に接触させることで、製鋼スラグの造粒物を解砕するほうがよい。
【0029】
5.炭酸化スラグ
上記の炭酸化処理によって、製鋼スラグの粒子表面を炭酸化して、炭酸化スラグを製造することができる。上述の通り、本実施形態に係る製造方法によれば、炭酸化処理において、製鋼スラグの原料粒子の新生面をできるだけ生じさせることなく、製鋼スラグの造粒物を解砕しながら、製鋼スラグの表面を均一かつ効率的に炭酸化可能である。本実施形態において、炭酸化スラグは、その表面の全体に亘って炭酸化されていることが好ましい。
【0030】
上述の通り、本実施形態において、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1は、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならない。炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1は、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2にもよるが、好ましくは9.0mm以下、さらに好ましくは7.0mm以下である。平均粒子径D1の下限は特に限定されない。平均粒子径D1は、例えば、1.0mm以上9.0mm以下であってもよく、2.0mm以上7.0mm以下であってもよい。
【実施例0031】
以上の通り、本発明の一実施形態について説明した。ただし、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、例えば、上記説明において開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
1.製鋼スラグの用意
炭酸化処理前の製鋼スラグとして、粉砕後に粒径が10mm以下に分級されたもの、及び、7mm以下に分級されたものを用いた。
【0033】
2.炭酸化処理
上記の製鋼スラグに対して炭酸化処理を施すことで、炭酸化スラグを得た。炭酸化処理は、下記表1に示される条件にて実施した。炭酸化処理装置は、ドラムミキサー、ロッドミル試験機及びミックスマラー混練機を用いた。ドラムミキサー、ロッドミル試験機及びミックスマラー混練機のいずれも、バッチ式の撹拌処理装置である。
【0034】
上記の製鋼スラグを撹拌容器(ドラム)へ投入後、撹拌処理前に、当該製鋼スラグへ水分を添加した。水分の添加量について、製鋼スラグの粒径が10mm以下の場合は、製鋼スラグ質量の7mass%、粒径が7mm以下の場合は、製鋼スラグ質量の10mass%に相当する量を添加した。撹拌中、ドラムミキサーはアクリル製のフタを、ロッドミル試験機はステンレス製のフタを取り付け、ボルトで固定し、撹拌処理中に製鋼スラグが容器から漏出しないようにした。ミックスマラー混練機は元来密閉式の撹拌装置であり、原料投入口を閉じて密閉した。
【0035】
ドラムミキサー及びロッドミル試験機を用いた撹拌処理では、フタの中央部に設けられた円形開口部からホースを装入し、炭酸ガス(濃度99.5vol%以上)を14L/minの流速で流入させた。ミックスマラー混練機を用いた撹拌処理では、装置上部の開口部(液体原料投入用)にホースを装入し、炭酸ガス(濃度99.5vol%以上)を30L/minの流速で流入させた。尚、フタに備えられた開口部の寸法について、ドラムミキサーは80mmφ、ロッドミル試験機は30mmφである。撹拌・炭酸化処理は1.0時間実施した。
【0036】
【0037】
3.炭酸化スラグの評価
3.1 pH測定
炭酸化処理前の製鋼スラグ、及び、炭酸化処理後の炭酸化スラグの各々について、pH測定を行った。具体的には、製鋼スラグ又は炭酸化スラグ150gを、1.5Lの純水を注ぎ入れた2.0Lのビーカーに投入後、撹拌棒にて10秒間、手動にて撹拌し、1時間静置した。1時間後、再度撹拌棒にて10秒間手動にて撹拌し、撹拌直後のpHをガラス電極式のpH計にて測定した。撹拌時は1回/秒の撹拌速度でビーカー容器の内面側に沿って撹拌棒を回した。炭酸化処理前の製鋼スラグのpHは、粒径10mm以下のものが11.1、粒径7mm以下のものが11.2となった。
【0038】
3.2 平均粒子径の測定
炭酸化処理前の製鋼スラグ、及び、炭酸化処理後の炭酸化スラグの各々について、平均粒子径を測定した。具体的には、目開きが16.0mm、13.2mm、9.5mm、8.0mm、6.7mm、4.0mm、2.0mm、1.0mm、0.6mm、0.3mm、0.1mm、0.053mmの網篩いを用いて分級、重量測定を行い、日本工業規格「粒子径測定結果の表現(JIS Z 8819)」のモーメント表記法による重み付き体積基準平均径にもとづいて平均粒子径を求めた。
【0039】
4.評価結果
下記表2に、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1、及び、炭酸化処理後の炭酸化スラグのpHを示す。
【0040】
【0041】
表2に示されるように、実施例1~5については、いずれも炭酸化スラグのpHが10.0以下となった。これに対し、比較例3、6及び7は、実施例1~5よりもpHが高く、具体的には、pHが10.3以上となった。比較例3、6及び7については、炭酸化処理後の炭酸化スラグの平均粒子径D1が、炭酸化処理前の製鋼スラグの平均粒子径D2よりも小さくなっており、炭酸化処理において製鋼スラグの原料粒子が破砕・粉砕され、炭酸化処理されていない新生面が多量に生じたものと考えられる。
【0042】
比較例1、2、4及び5は、実施例1~5よりもpHが高く、具体的には、pHが10.2以上となった。比較例1、2、4及び5は、炭酸化処理において製鋼スラグに対して圧下を行っておらず、製鋼スラグの造粒物の解砕が行われず、造粒物内部の炭酸化が進行しなかったものと考えられる。
【0043】
尚、製鋼スラグの炭酸化処理の最中に製鋼スラグの造粒物の解砕が生じていれば、上記実施例1~5と同様の効果が得られることが自明である。この点、例えば、炭酸化処理後に造粒が進行するなどして、炭酸化スラグの平均粒子径D1が大きくなっても構わない。
【0044】
5.まとめ
以上の結果から、以下の(1)及び(2)を満たす炭酸化スラグの製造方法によれば、製鋼スラグに対して均一かつ効率的に炭酸化処理を施すことが可能といえる。
(1)炭酸化スラグの製造方法は、製鋼スラグに対して二酸化炭素を含む炭酸ガスを供給して炭酸化処理を施すこと、を含む。
(2)前記炭酸化処理において、前記炭酸化処理後の前記炭酸化スラグの平均粒子径D1が、前記炭酸化処理前の前記製鋼スラグの平均粒子径D2未満とならないように、前記製鋼スラグの造粒物を解砕する。