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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137224
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】立体表示装置及び立体表示方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 30/50 20200101AFI20240927BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240927BHJP
   H04N 13/398 20180101ALI20240927BHJP
   H04N 13/388 20180101ALI20240927BHJP
【FI】
G02B30/50
G02B26/10 C
H04N13/398
H04N13/388
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048667
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 鉄二
【テーマコード(参考)】
2H045
2H199
【Fターム(参考)】
2H045AA01
2H045AB01
2H045BA12
2H045BA20
2H199BA22
2H199BA48
2H199BA49
2H199BB02
2H199BB22
2H199BB45
2H199BB60
(57)【要約】
【課題】立体像の状態を観察される状況に応じて制御する。
【解決手段】立体表示装置は、レーザー光源と、レーザー光を所定の径のコリメート光に変換する変換部と、レーザー光が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質が含まれる描画空間を走査対象範囲として、コリメート光が収束する焦点距離と、コリメート光が出射される光軸方向とを変化させることにより、レーザー光の集光位置を三次元走査する走査部と、描画空間を観察する観察者と、描画空間との距離を検出する距離検出部と、距離とレーザー光の強度との対応関係を、距離補正情報として記憶する記憶部から、距離補正情報を取得する距離補正情報取得部と、描画空間内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、検出された距離に対応する距離補正情報とに基づいて、走査部が走査するレーザー光の集光位置における強度を制御する強度制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射するレーザー光源と、
出射されたレーザー光を所定の径のコリメート光に変換する変換部と、
レーザー光が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質が含まれる描画空間を走査対象範囲として、前記コリメート光が収束する焦点距離と、前記コリメート光が出射される光軸方向とを変化させることにより、前記レーザー光の集光位置を三次元走査する走査部と、
前記描画空間を観察する観察者と、前記描画空間との距離を検出する距離検出部と、
前記距離と前記レーザー光の強度との対応関係を、距離補正情報として記憶する記憶部から、前記距離補正情報を取得する距離補正情報取得部と、
前記描画空間内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、検出された前記距離に対応する前記距離補正情報とに基づいて、前記走査部が走査する前記レーザー光の前記集光位置における強度を制御する強度制御部と、
を備える立体表示装置。
【請求項2】
前記強度制御部は、前記光軸方向に沿った前記蛍光物質が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、前記強度を制御する
請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項3】
前記描画空間の周囲環境の照度を検出する照度検出部と、
前記照度と前記レーザー光の強度との対応関係を、照度補正情報として記憶する記憶部から、前記照度補正情報を取得する照度補正情報取得部と、
をさらに備え、
前記強度制御部は、検出された前記照度に対応する前記照度補正情報にさらに基づいて、前記レーザー光の強度を制御する
請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項4】
前記蛍光物質は、照射されるレーザー光の強度の変化に対して、自発光の強度が変化する第1の領域と、自発光の強度が前記第1の領域の自発光の強度の変化よりも緩く自発光の強度が変化する第2の領域とを有し、
前記強度制御部は、前記集光位置における前記レーザー光の強度を、当該集光位置にある前記蛍光物質が前記第2の領域になる強度にすることにより、当該集光位置から前記光軸方向に離れた位置にある前記蛍光物質を発光させる
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体表示装置。
【請求項5】
前記レーザー光の空間周波数分布を変化させることにより、前記集光位置から前記光軸方向に沿った前記レーザー光の強度に周期的分布を与える変調部
をさらに備え、
前記強度制御部は、前記変調部が与える前記周期的分布によって生じる、前記光軸方向に沿った前記蛍光物質が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、制御する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体表示装置。
【請求項6】
レーザー光を出射することと、
出射されたレーザー光を所定の径のコリメート光に変換することと、
レーザー光が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質が含まれる描画空間を走査対象範囲として、前記コリメート光が収束する焦点距離と、前記コリメート光が出射される光軸方向とを変化させることにより、前記レーザー光の集光位置を三次元走査することと、
前記描画空間を観察する観察者と、前記描画空間との距離を検出することと、
前記距離と前記レーザー光の強度との対応関係を、距離補正情報として記憶する記憶部から、前記距離補正情報を取得することと、
前記描画空間内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、検出された前記距離に対応する前記距離補正情報とに基づいて、前記レーザー光の前記集光位置における強度を制御することと、
を有する立体表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体表示装置及び立体表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空中に映像を表示する立体表示装置について、様々な方法が提案されている。このような従来の立体表示装置の例として、レーザーを集光してプラズマを発生させることでvoxel(空間的な画素)を形成し、空中に映像を表示する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-206588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
立体表示装置は、明るさやコントラスト、解像度などの像の状態を立体像が観察される状況に応じて変化させることができれば、より鮮明な立体像を提示することができる。しかしながら、従来の立体表示装置では、立体像の状態を観察される状況に応じて制御することができないという課題があった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、立体像の状態を観察される状況に応じて制御することができる立体表示装置及び立体表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の一態様は、レーザー光を出射するレーザー光源と、出射されたレーザー光を所定の径のコリメート光に変換する変換部と、レーザー光が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質が含まれる描画空間を走査対象範囲として、前記コリメート光が収束する焦点距離と、前記コリメート光が出射される光軸方向とを変化させることにより、前記レーザー光の集光位置を三次元走査する走査部と、前記描画空間を観察する観察者と、前記描画空間との距離を検出する距離検出部と、前記距離と前記レーザー光の強度との対応関係を、距離補正情報として記憶する記憶部から、前記距離補正情報を取得する距離補正情報取得部と、前記描画空間内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、検出された前記距離に対応する前記距離補正情報とに基づいて、前記走査部が走査する前記レーザー光の前記集光位置における強度を制御する強度制御部と、を備える立体表示装置である。
【0007】
[2]また、本発明の一態様は、上記[1]に記載の立体表示装置において、前記強度制御部は、前記光軸方向に沿った前記蛍光物質が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、前記強度を制御する。
【0008】
[3]また、本発明の一態様は、上記[1]に記載の立体表示装置において、前記描画空間の周囲環境の照度を検出する照度検出部と、前記照度と前記レーザー光の強度との対応関係を、照度補正情報として記憶する記憶部から、前記照度補正情報を取得する照度補正情報取得部と、をさらに備え、前記強度制御部は、検出された前記照度に対応する前記照度補正情報にさらに基づいて、前記レーザー光の強度を制御する。
【0009】
[4]また、本発明の一態様は、上記[1]に記載の立体表示装置において、前記蛍光物質は、照射されるレーザー光の強度の変化に対して、自発光の強度が変化する第1の領域と、自発光の強度が前記第1の領域の自発光の強度の変化よりも緩く自発光の強度が変化する第2の領域とを有し、前記強度制御部は、前記集光位置における前記レーザー光の強度を、当該集光位置にある前記蛍光物質が前記飽和領域になる強度にすることにより、当該集光位置から前記光軸方向に離れた位置にある前記蛍光物質を発光させる。
【0010】
[5]また、本発明の一態様は、上記[1]に記載の立体表示装置において、前記レーザー光の空間周波数分布を変化させることにより、前記集光位置から前記光軸方向に沿った前記レーザー光の強度に周期的分布を与える変調部をさらに備え、前記強度制御部は、前記変調部が与える前記周期的分布によって生じる、前記光軸方向に沿った前記蛍光物質が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、制御する。
【0011】
[6]本発明の一態様は、レーザー光を出射することと、出射されたレーザー光を所定の径のコリメート光に変換することと、レーザー光が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質が含まれる描画空間を走査対象範囲として、前記コリメート光が収束する焦点距離と、前記コリメート光が出射される光軸方向とを変化させることにより、前記レーザー光の集光位置を三次元走査することと、前記描画空間を観察する観察者と、前記描画空間との距離を検出することと、前記距離と前記レーザー光の強度との対応関係を、距離補正情報として記憶する記憶部から、前記距離補正情報を取得することと、前記描画空間内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、検出された前記距離に対応する前記距離補正情報とに基づいて、前記レーザー光の前記集光位置における強度を制御することと、を有する立体表示方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、立体像の状態を観察される状況に応じて制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の立体表示装置の構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態の立体表示装置の動作の流れの一例を示す図である。
図3】本実施形態の蛍光物質の発光強度特性の一例を示す図である。
図4】本実施形態の蛍光物質の発光状態の一例を示す図である。
図5】本実施形態の収束光の走査の一例を示す図である。
図6】本実施形態の収束光の走査の他の一例を示す図である。
図7】本実施形態の記憶部に記憶される距離補正情報の一例を示す図である。
図8】本実施形態の記憶部に記憶される照度補正情報の一例を示す図である。
図9】本実施形態の記憶部に記憶される制御テーブルの一例を示す図である。
図10】本実施形態の制御部による制御モードの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様に係る立体表示装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限られない。また、本願でいう「XXに基づいて」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づいて」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、各構造における縮尺および数等を、実際の構造における縮尺および数等と異ならせる場合がある。
以下、図1から図10を参照しながら、実施形態について説明する。
【0015】
[立体表示装置1の機能構成]
図1は、本実施形態の立体表示装置1の構成の一例を示す図である。立体表示装置1は、蛍光物質21が含まれる描画空間2を走査対象範囲としてレーザー光Lを走査することにより、描画空間2に立体像を表示する装置である。
描画空間2とは、内部に蛍光物質21を保持することができる空間である。一例として、描画空間2とは、内部に粉末状の蛍光物質21が封入された、円筒形状の透明な壁を有する円筒容器の内部空間である。この場合、描画空間2は、中空の領域である。他の一例として、描画空間2とは、蛍光物質21が練りこまれた透明樹脂で形成された物体である。この場合、描画空間2は、中実の領域である。
つまり、描画空間2の「空間」とは、三次元に広がる領域であればよく、中空であるか忠実であるかを問わない。また、描画空間2は、気体、液体、固体のいずれで構成されていてもよい。
【0016】
立体表示装置1は、光源部10と、出射部20と、記憶部30と、距離検出部40と、照度検出部50と、制御部60を備える。
【0017】
光源部10は、レーザー光源110と、変換部120とを備える。
レーザー光源110は、レーザー光Lを出射する。レーザー光源110は、一例として、紫外線レーザーや、波長405nmの小型レーザーダイオードなどであってもよい。以下の説明において、レーザー光源110が出射するレーザー光Lのことを光源光L1ともいう。
【0018】
レーザー光源110から出射される光源光L1は、平行光ではなく、レーザー光源110を頂点にした円錐状に広がって進む性質を有している。
レーザー光源110から出射された直後の光源光L1は、径が十分に小さい。一方、レーザー光源110から離れた位置の光源光L1は、出射された直後の光源光L1に比べて拡径している。このため、レーザー光源110から出射された直後の光源光L1は、径方向の単位面積当たりのエネルギーが比較的高い。また、レーザー光源110から離れた位置の光源光L1は、径方向の単位面積当たりのエネルギーが比較的低い。
【0019】
変換部120は、コリメートレンズ121を備えている。コリメートレンズ121は、円錐状に広がって進む光源光L1を、所定の径の平行光に変換する。以下の説明において、コリメートレンズ121によって平行光に変換されたレーザー光Lのことを、コリメート光L2ともいう。すなわち、変換部120は、出射された光源光L1を所定の径のコリメート光L2に変換する。
コリメート光L2は、上述したように、径方向の単位面積当たりのエネルギーが比較的低い状態の光源光L1を平行光に変換した光である。したがって、コリメート光L2は、径方向の単位面積当たりのエネルギーが比較的低い。
【0020】
出射部20は、光源部10から入射するコリメート光L2を収束させて、収束させたコリメート光L2を描画空間2の内部の集光位置23に導光する。以下の説明において、出射部20が収束させたコリメート光L2のことを収束光L3ともいう。出射部20が出射する収束光L3の進行方向を光軸AXともいう。
【0021】
上述したように、収束光L3は、コリメート光L2を収束(つまり、縮径)させた光である。したがって、収束光L3は、コリメート光L2に比べ、径方向の単位面積当たりのエネルギーが比較的高い。収束光L3の径方向の単位面積当たりのエネルギーは、最も収束(縮径)した位置において、最も高くなる。
つまり、収束光L3が蛍光物質21に入射するエネルギーは、最も収束(縮径)した位置において最も高い。
【0022】
出射部20は、変調部220と、収束部230と、走査部240とを備える。
変調部220は、例えば、空間位相変調器221や二次元回折格子222を備えており、コリメート光L2の空間周波数分布を変化させる。この結果、出射部20から出射される収束光L3の光軸AXの方向のレーザー光Lの強度に周期的分布が生じる。
すなわち、変調部220は、コリメート光L2の空間周波数分布を変化させることにより、集光位置23から光軸AXの方向(光軸方向)に沿った収束光L3(レーザー光L)の強度に周期的分布を与える。なお、図1では空間位相変調器221は透過型で描かれているが、反射型であってもよい。透過型の空間光変調器と反射型の空間光変調器は、出力光に対する入射光(読み出し光)の方向で区別される。透過型の空間光変調器は、入射光(読み出し光)が空間光変調器を透過し出力光を照射し、反射型の空間光変調器は入射光(読み出し光)が空間光変調器を反射し出力光を照射する。
【0023】
収束部230は、収束レンズ231を備えている。収束レンズ231は、透過するレーザー光Lが収束する位置(つまり、焦点距離)を、制御部60の制御に基づいて変更することができる。
【0024】
走査部240は、走査鏡241(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラーなど)を備えており、収束部230が収束させるレーザー光Lの出射方向を変化させる。
ここで、走査部240が描画空間2を走査する方向について、XYZの三次元直交座標系を用いて説明する。
三次元直交座標系のX軸およびY軸は、出射部20から描画空間2を見込んだ場合の画角を表す。X軸は、描画空間2の水平方向(図1の左右方向)を示す。Y軸は、描画空間2の垂直方向(図1の上下方向)を示す。走査部240は走査鏡241の方向を変化させることによって、描画空間2のXY平面内の任意の位置に向けて、収束光L3を出射することができる。つまり、走査部240は、収束光L3をXY平面において二次元走査する二次元走査部である、ともいえる。
三次元直交座標系のZ軸は、出射部20から描画空間2を見込んだ場合の奥行を表す。上述した収束部230は、収束光L3の収束位置(収束レンズ231の焦点距離)を変化させることにより、収束光L3の集光位置23を、Z軸方向に変化させることができる。
つまり、収束部230と、走査部240とを合わせて、収束光L3をXYZ空間において三次元走査する三次元走査部である、ともいえる。以下の説明において、走査部240が、収束部230と走査部240とを合わせた三次元走査部のことを指す場合もある。
【0025】
すなわち、走査部240は、光源光L1が照射されることにより励起されて自発光する蛍光物質21が含まれる描画空間2を走査対象範囲として、収束光L3が収束する焦点距離と、収束光L3が出射される光軸AXの方向とを変化させることにより、レーザー光Lの集光位置23を三次元走査する。
【0026】
なお、本実施形態において、走査部240は、レーザー光L(コリメート光L2または収束光L3)の出射光量を調整する光量調整部(例えば、絞り)や、レーザー光Lの出射を遮る遮断部(例えば、シャッター)を備えていてもよい(いずれも不図示)。これら光量調整部や遮断部は、収束部230および走査部240と同期制御されることにより、描画空間2内の任意の位置に収束光L3の集光位置23を制御する。
【0027】
距離検出部40は、TOF(Time of Flight)センサなどによる既知の測距機能を備えており、描画空間2を観察する観察者400と、描画空間2との距離Dを検出する。また、距離検出部40は、カメラなどであってもよい。
【0028】
照度検出部50は、照度計などによる既知の照度検出機能を備えており、描画空間2の周囲環境の照度を検出する。ここで、描画空間2の周囲環境の照度とは、描画空間2が室内に置かれている場合には、例えば、当該部屋の明るさであり、描画空間2が室外の解放空間に置かれている場合には、例えば、当該空間の明るさである。
なお、ここで「照度」とは、単位が[lx(ルクス)]である物理量であってもよいし、「光束」や「光度」などの光の強さに関する物理量を含んだ広義の明るさであってもよい。以下の説明において、「照度」と記載した場合には、単に「明るさ」の意味も含む。
【0029】
記憶部30は、例えば、半導体記憶装置や磁気記憶装置などによる既知の記憶機能を備えており、制御部60が利用する種々の情報を記憶する。
例えば、記憶部30には、距離補正情報310が記憶されている。距離補正情報310とは、距離Dと収束光L3(レーザー光L)の強度との対応関係を示す情報である。
【0030】
制御部60は、例えば、CPUやコンピュータ装置であり、記憶部30に記憶されているプログラムおよびデータに基づいて、所定の機能を提供する。制御部60は、その機能部として、距離補正情報取得部610と、強度制御部620と、照度補正情報取得部630と、位相制御部640とを備える。
【0031】
距離補正情報取得部610は、記憶部30から距離補正情報310を取得する。すなわち、距離補正情報取得部610は、距離Dとレーザー光L(例えば、収束光L3)の強度との対応関係を、距離補正情報310として記憶する記憶部30から、距離補正情報310を取得する。
【0032】
強度制御部620は、記憶部30に記憶されている描画データに基づいて、出射部20が出射するレーザー光Lの強度を制御する。描画データとは、描画空間2内の三次元位置ごとの像の明るさを示す情報である。つまり、描画データは、立体像22を表示するための情報である。
すなわち、強度制御部620は、描画空間2内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、距離検出部40によって検出された距離Dに対応する距離補正情報310とに基づいて、走査部240が走査する収束光L3(レーザー光L)の集光位置23における強度を制御する。
本実施形態の強度制御部620は、描画空間2と、観察者400との間の距離Dに基づいて、レーザー光Lの強度を制御することにより、観察者400にとって見やすい立体像を形成させる。
【0033】
照度補正情報取得部630は、記憶部30から照度補正情報320を取得する。すなわち、照度補正情報取得部630は、照度とレーザー光Lの強度との対応関係を、照度補正情報320として記憶する記憶部30から、照度補正情報320を取得する。
強度制御部620は、検出された照度に対応する照度補正情報320にさらに基づいて、レーザー光Lの強度を制御する。
すなわち、強度制御部620は、描画空間2内の位置ごとの発光強度を示す描画データと、照度検出部50によって検出された照度に対応する照度補正情報320とに基づいて、走査部240が走査する収束光L3(レーザー光L)の集光位置23における強度を制御する。
照度検出部50によって検出された照度は、描画空間2の周囲環境の明るさを示している。本実施形態の強度制御部620は、描画空間2の周囲環境の明るさに基づいて、レーザー光Lの強度を制御することにより、観察者400にとって見やすい立体像を形成させる。
【0034】
位相制御部640は、変調部220が備える空間位相変調器221や二次元回折格子222によるコリメート光L2の空間周波数分布の変調状態を制御することにより、集光位置23における収束光L3の位相を制御する。
【0035】
[立体表示装置1の動作]
次に、図2を参照して、立体表示装置1の動作の流れの一例について説明する。
図2は、本実施形態の立体表示装置1の動作の流れの一例を示す図である。
(ステップS10)制御部60は、記憶部30から描画データを取得する。上述したように、描画データとは、立体像22を表示するための情報である。
(ステップS20)制御部60は、距離検出部40から距離情報を取得する。上述したように、距離情報とは、距離検出部40が検出した描画空間2と観察者400との間の距離Dを示す情報である。
(ステップS30)制御部60は、照度検出部50から照度情報を取得する。上述したように、照度情報とは、照度検出部50が検出した描画空間2の周囲環境の明るさを示す情報である。
【0036】
(ステップS40)制御部60は、記憶部30からレーザー光Lの強度の補正情報を取得する。具体的には、距離補正情報取得部610は、記憶部30から距離補正情報310を取得する。照度補正情報取得部630は、記憶部30から照度補正情報320を取得する。
(ステップS50)制御部60は、レーザー光源110を制御することにより、レーザー光Lの出射強度を制御する。ここで、図3を参照して、蛍光物質21の発光強度特性の一例について説明する。
【0037】
図3は、本実施形態の蛍光物質21の発光強度特性の一例を示す図である。同図には、第1の蛍光物質の発光強度特性F1と、第2の蛍光物質の発光強度特性F2とを重ねて示している。同図の横軸は、蛍光物質21に入射するレーザー光L(つまり、励起光)の強度を示し、縦軸は、励起光によって励起された蛍光物質21が発光する強度(つまり、蛍光物質21の発光強度)を示す。第1の蛍光物質とは、例えば、量子ドット(QD;Quantum Dot)分散体である。QD分散体とは、量子ドットを有機溶媒(例えば、トルエン)中、気体中、あるいは固体中に、所定の体積濃度で散在させたものである。第2の蛍光物質とは、例えば、多光子吸収体である。第2の蛍光体物質はQD分散体であってもよい。量子ドットはCdS、CdSe、CdTe、ZnCdSe/ZnS、Cdフリーペロブスカイトなど様々な材料が利用可能である。量子ドットのほかにYAG、CASN、CSO、SBCAなど公知の様々な蛍光材料が利用可能である。
【0038】
第1の蛍光物質は、励起光の強度が0(ゼロ)から閾値th1までの間において、蛍光物質21の発光強度が単調増加し、閾値th1において発光強度E1になる。第1の蛍光物質は、励起光の強度が閾値th1を超えると、蛍光物質21の発光強度が増加しなくなる。つまり、第1の蛍光物質は、変曲点IP1を境に、変化領域(第1の領域)と飽和領域(第2の領域)とを有する、発光強度特性F1を有する。
すなわち、第1の蛍光物質の場合、蛍光物質21は、照射されるレーザー光Lの強度の変化に対して、自発光の強度が変化する変化領域と、自発光の強度が変化しない飽和領域とを有する。ただし、飽和領域の自発光の強度は変化しないとしたがこれに限定されず、少量の変化は許容される。つまり、飽和領域は自発光の強度が変化領域の自発光の強度の変化よりも緩く自発光の強度が変化すればよい。
【0039】
第2の蛍光物質は、励起光の強度が0(ゼロ)から閾値th2までの間において、蛍光物質21の発光強度が増加せず、閾値th2を超えると発光強度が単調増加する、発光強度特性F2を有する。なお、第2の蛍光物質(多光子吸収体)を使用する場合には、レーザー光源110には、超短パルス赤外レーザーを利用可能である。
【0040】
図4は、本実施形態の蛍光物質21の発光状態の一例を示す図である。同図(A)は、収束光L3の集光位置23の一例を示す。同図(B)は、集光位置23における蛍光物質21の発光状態の第1の例を示す。同図(C)は、集光位置23における蛍光物質21の発光状態の第2の例を示す。
【0041】
レーザー光Lは、収束光L3として出射されると、集光位置23における単位体積当たりのエネルギーが、集光位置23以外の空間における単位体積当たりのエネルギーに比べて高くなる。
本実施形態の立体表示装置1は、集光位置23以外の空間では蛍光物質21が発光しない程度の強度であり、かつ、集光位置23では蛍光物質21が発光する程度の強度のレーザー光Lを出射する。このように構成された立体表示装置1によれば、図4(B)に示すように、集光位置23の蛍光物質21を発光させ、集光位置23以外の空間の蛍光物質21を発光させないように制御することで、描画空間2に立体像22を描画することができる。同図(B)に示す一例では、発光点P1を描くことができる。
【0042】
ここで、蛍光物質21が、上述した第1の蛍光物質のように飽和特性(発光強度特性F1)を有する場合について説明する。蛍光物質21が、飽和特性を有する場合、上述した閾値th1よりも強い励起光を照射したとしても、より明るく発光することはない。
一方、閾値th1よりも強い励起光が照射されると、集光位置23にある複数の蛍光物質21のうち、飽和している蛍光物質21の付近(具体的には光軸AX上のZ方向にずれた位置)にある蛍光物質21が発光する場合がある。
同図(C)に示すように、レーザー光Lの強度を閾値th1よりも強くすると、集光位置23のうち、レーザー光Lが十分に収束(縮径)されている発光点P1に加えて、レーザー光Lが十分に収束(縮径)されていない発光点P2および発光点P3も描くことができる。
【0043】
本実施形態の強度制御部620は、集光位置23におけるレーザー光Lの強度を、当該集光位置23にある蛍光物質21が飽和領域になる強度にすることにより、当該集光位置23から光軸AXの方向(光軸方向)に離れた位置にある蛍光物質21を発光させることができる。
【0044】
なお、蛍光物質21が、第2の蛍光物質(例えば、多光子吸収体)である場合がある。この場合には、蛍光物質21は、吸収した光子の数に応じて発光する。強度制御部620は、レーザー光Lの強度を制御することにより、蛍光物質21が吸収する光子の数を変化させることにより、蛍光物質21の発光位置を制御することもできる。
【0045】
(ステップS60)図2に戻り、制御部60の位相制御部640は、収束光L3の位相を制御する。上述したように、集光位置23におけるレーザー光Lの強度(より正確には、レーザー光Lの空間内の強度分布)を変化させることにより、集光位置23における蛍光物質21の発光状態を制御することができる。位相制御部640は、収束光L3の位相を制御することにより、集光位置23において、光軸AX方向に1点のみ発光させたり(上述した発光点P1)、光軸AX方向に複数の点(例えば3点)を発光させたり(上述した発光点P1~P3)することができる。
【0046】
以下の説明において、光軸AXの1点を発光させる場合を「1点描画」と、光軸AXの2点を発光させる場合を「2点描画」と、光軸AXの3点を発光させる場合を「3点描画」いう。
【0047】
すなわち、強度制御部620は、変調部220が与える周期的分布によって生じる、光軸AXの方向(光軸方向)に沿った蛍光物質21が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、制御する。
【0048】
(ステップS70)制御部60は、収束部230の収束レンズ231及び走査部240の走査鏡241を制御する(つまり、走査部を駆動する)ことにより、収束光L3の集光位置23を制御する。
【0049】
図5は、本実施形態の収束光L3の走査の一例を示す図である。制御部60は、1回目の照射(第1スキャンSC1)からn回目の照射(第nスキャンSCn)によって、収束光L3の光軸AXをX軸方向に順次移動させて2点描画をしている状況を示す。第1の集光位置において2点描画を行うと、発光点P21および発光点P31を発光させることができる。第2の集光位置において2点描画を行うと、発光点P22および発光点P32を発光させることができる。
【0050】
図6は、本実施形態の収束光L3の走査の他の一例を示す図である。制御部60は、1回目の照射(第1スキャンSC1)からn回目の照射(第nスキャンSCn)によって、収束光L3の光軸AXをX軸方向に順次移動させて2点描画をしている状況を示す。本図の一例では、複数の集光位置23が図5に示した場合に比べてZ軸方向に互いに近接している。この状態で2点描画を行うと、第1の集光位置における発光点P21と、第2の集光位置における発光点P22とが、Z軸方向において近接する。その結果、図5に示した場合に比べ、体積当たりの発光点Pの数(つまり、発光点Pの体積密度)が高くなる。
このように、本実施形態の制御部60は、レーザー光Lの強度や位相を制御することにより、光軸AX方向の発光点Pの数を自在に制御することができる。このような制御部60を備える立体表示装置1によれば、立体像22の描画の状態(例えば、立体像22の明るさ、コントラスト、空間解像度など)を自在に制御することができる。
【0051】
制御部60は、レーザー光Lの強度(レーザー出力)と、空間位相変調器221による位相制御とを組み合わせることにより、上述した「1点描画」「2点描画」および「3点描画」を実現してもよい。また、制御部60は、距離検出部40によって検出した距離Dや、距離Dと照度検出部50によって検出した照度との組み合わせに応じて、「1点描画」「2点描画」および「3点描画」を選択してもよい。制御部60は、記憶部30にあらかじめ記憶されている距離補正情報310や照度補正情報320に基づいて制御を行う。
【0052】
図7は、本実施形態の記憶部30に記憶される距離補正情報310の一例を示す図である。距離補正情報310の一例として、距離D「50cm未満」に対して制御モード「モードA」が対応付けられ、距離D「50cm以上100cm未満」に対して制御モード「モードB」が対応付けられ、距離D「100cm以上」に対して制御モード「モードC」が対応付けられている。
【0053】
図8は、本実施形態の記憶部30に記憶される照度補正情報320の一例を示す図である。照度補正情報320の一例として、距離Dと周囲環境の照度(明るさ)との組み合わせによって、「モードA」「モードB」および「モードC」のいずれかの制御モードが対応付けられている。
【0054】
制御部60は、距離検出部40が検出した距離Dと、距離補正情報310との組み合わせを参照して、制御モードを選択する。または、制御部60は、距離検出部40が検出した距離Dと、照度検出部50が検出した描画空間2の周囲環境の照度(明るさ)、および照度補正情報320との組み合わせを参照して、制御モードを選択する。
【0055】
図9は、本実施形態の記憶部30に記憶される制御テーブル330の一例を示す図である。制御テーブル330では、上述した各制御モード(例えば、モードA、モードB、モードC)と、レーザー光Lの強度(レーザー出力)及び空間位相変調器221による位相制御の状態(例えば、1輝点制御、2輝点制御、3輝点制御)とが対応付けられている。
【0056】
制御部60は、制御テーブル330を参照して、制御モードに応じたレーザー光Lの強度(レーザー出力)及び空間位相変調器221による位相制御の状態に基づいて、レーザー光源110や空間位相変調器221を制御する。
【0057】
図10は、本実施形態の制御部60による制御モードの一例を示す図である。制御部60は、描画空間2(つまり、表示器)と観察者400との距離Dと、描画空間2の周囲環境の照度(明るさ)との組み合わせによって、上述したモードA、モードB、モードCのいずれかを選択して、光軸AX上の蛍光物質21の発光位置の数(つまり、発光数)を制御する。
【0058】
すなわち、強度制御部620は、光軸AXの方向(つまり、光軸方向)に沿った蛍光物質21が発光する発光位置の数を、少なくとも3種類の異なる数にして、強度を制御する。
【0059】
例えば、立体表示装置1は、立体像22を明るさよりも高精細さを優先して表現したい場合は「1点描画」によって描画する。
また例えば、立体表示装置1は、立体像22を高精細さよりも明るさを優先して表示する場合は、「2点描画」または「3点描画」によって描画する。
また例えば、立体表示装置1は、描画空間2内における立体像22の表示寸法(サイズ)に応じて、「1点描画」「2点描画」または「3点描画」を切り替えて描画することもできる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の立体表示装置1によれば、距離検出部40や照度検出部50の検出結果に基づいて、光軸AX上の蛍光物質21の発光位置の数(つまり、発光数)を制御する。すなわち、本実施形態の立体表示装置1によれば、立体像の状態を観察される状況に応じて制御することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…立体表示装置、2…描画空間、10…光源部、20…出射部、21…蛍光物質、22…立体像、23…集光位置、30…記憶部、40…距離検出部、50…照度検出部、60…制御部、110…レーザー光源、120…変換部、220…変調部、230…収束部、240…走査部、610…距離補正情報取得部、620…強度制御部、630…照度補正情報取得部、640…位相制御部
図1
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