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特開2024-137227電解質、電極添加剤、電極、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-電解質、電極添加剤、電極、及びリチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-電解質、電極添加剤、電極、及びリチウムイオン二次電池 図2
  • 特開-電解質、電極添加剤、電極、及びリチウムイオン二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137227
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電解質、電極添加剤、電極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048670
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 遼平
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA13
5H050EA12
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、該負極の劣化も抑制できるリチウムイオン二次電池を製造可能な電解質、電極添加剤、及び電極の提供。
【解決手段】電解質は、
Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12(1)(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有し、平均粒径が5μm以下であるガラスセラミックス粉体、
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12(2)で表されるガーネット型酸化物粉体、及び
LiLaTiO(3)(0<x<2、0<y<3である)
で表されるペロブスカイト型酸化物粉体から選択されるリチウムイオン伝導性材料と、比誘電率が50.0以下である混合溶媒を含む電解液と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12 (1)
(式(1)中、Aは、Al、Ga、及びYからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Tは、Ti、Ge、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有し、平均粒径が5μm以下であるガラスセラミックス粉体、
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12 (2)
(式(2)中、Aは、Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Bi、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも1種であり、
1.4≦X<2である)
で表されるガーネット型酸化物粉体、及び
LiLaTiO (3)
(式(3)中、0<x<2、0<y<3である)
で表されるペロブスカイト型酸化物粉体から選択されるリチウムイオン伝導性材料と、
比誘電率が50.0以下である混合溶媒を含む電解液と、
を含む、電解質。
【請求項2】
前記混合溶媒の比誘電率が、40.0以下である、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記混合溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項4】
前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の電解質。
【請求項5】
前記鎖状カーボネートが、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の電解質。
【請求項6】
イオン伝導性ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項7】
正極、負極、及び請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池の電極に用いられる添加剤であって、
Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12 (1)
(式(1)中、Aは、Al、Ga、及びYからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Tは、Ti、Ge、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有し、平均粒径が5μm以下であるガラスセラミックス粉体、
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12 (2)
(式(2)中、Aは、Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Bi、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも1種であり、
1.4≦X<2である)
で表されるガーネット型酸化物、及び
LiLaTiO (3)
(式(3)中、0<x<2、0<y<3である)
で表されるペロブスカイト型酸化物から選択されるリチウムイオン伝導性材料と、
比誘電率が50.0以下である混合溶媒と、
を含む、電極添加剤。
【請求項9】
前記混合溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む、請求項8に記載の電極添加剤。
【請求項10】
前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の電極添加剤。
【請求項11】
前記鎖状カーボネートが、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の電極添加剤。
【請求項12】
イオン伝導性ポリマーをさらに含む、請求項8に記載の電極添加剤。
【請求項13】
活物質及び請求項8~12のいずれか一項に記載の電極添加剤を含む電極。
【請求項14】
活物質及び請求項8~12のいずれか一項に記載の電極添加剤を含む電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質、電極添加剤、及び電極に関する。さらに、本発明は、電解質、電極添加剤、又は電極を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車用電源、携帯端末用電源などの用途で、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池が広く用いられている。現在市販されているリチウムイオン二次電池の多くは、高いエネルギー密度を有するために有機溶媒などの液体の電解質(電解液)が一般的に使用されている。この電解液は、炭酸エステルや環状エステルなどの非水性溶媒などにリチウム塩を溶解させて用いられている。
【0003】
しかし、このような可燃性の有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池においては、漏液や発熱による発火などの問題があり、様々な改良が試みられている。そのうちのひとつとして、ポリマー電解質を用いたリチウム二次電池がある。ポリマー電解質を用いたリチウム二次電池においては、ポリマー電解質中に液体の電解液が保持されるため、電解液の量を低減させ、漏液しにくくすることが可能となる。
【0004】
このようなポリマー電解質はリチウムイオン伝導性が低いことから、この問題の解決のために、リチウムイオン伝導性の無機化合物をポリマー電解質にさらに配合することが提案されている。例えば、特許文献1では、リチウムイオン伝導性のガラスセラミックス粉体を含有する媒体中に非水系電解液を含浸してなるガラスセラミックス複合電解質が提案されている。
【0005】
また、別のタイプのポリマー電解質を用いたリチウムイオン二次電池として、例えば特許文献2では、エネルギー密度向上のため、負極に金属リチウムを配した金属リチウムイオン二次電池も提案されている。
【0006】
また、そもそもの有機電解液と電極活物質との化学反応によるリチウムイオン二次電池の発熱発火に対する解決策として、特許文献3では、高温環境下において保存されたり、充放電を繰り返しても高い容量が維持される電極として、電極に特定量のリチウムイオン伝導性の無機固体電解質を含むという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-15164号公報
【特許文献2】特開2017-191766号公報
【特許文献3】特開2008-117542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載のガラスセラミックス複合電解質を用いたリチウムイオン二次電池であっても、出入力特性に改善の余地があった。また、特許文献2に記載の複合固体電解質を用いた金属リチウムイオン二次電池であっても、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加及び金属リチウム負極の劣化については改善の余地があった。さらに、特許文献3に記載の特定量のガラスセラミックスを含んだ電極によって高温環境下における信頼性の高いリチウムイオン二次電池が提案されたが、出入力特性についてはさらなる改善の余地があった。なお、本発明において出入力特性とは、リチウムイオン二次電池の充放電評価において、放電カットオフ電圧に達した際の低電流放電時の容量に対する高電流放電時の容量または充電カットオフ電圧に達した際の低電流充電時の容量に対する高電流充電時の容量のことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、これらの課題は、電極または電解質において、特定のリチウムイオン伝導性材料と、特定の混合溶媒を含む電解液とを配合することによって、リチウムイオン伝導性材料の粉末が外部電場によって電解液中で分極することでリチウム塩に作用して、リチウム塩の解離度を向上させて、電極反応に関与するリチウムイオンの数を増加させることによって、電極の挿入脱離反応を促進させることやリチウム金属の溶解析出反応を促進させることで、解決できることを知見した。本発明者は、当該知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12 (1)
(式(1)中、Aは、Al、Ga、及びYからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Tは、Ti、Ge、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有し、平均粒径が5μm以下であるガラスセラミックス粉体、
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12 (2)
(式(2)中、Aは、Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Bi、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも1種であり、
1.4≦X<2である)
で表されるガーネット型酸化物粉体、及び
LiLaTiO (3)
(式(3)中、0<x<2、0<y<3である)
で表されるペロブスカイト型酸化物粉体から選択されるリチウムイオン伝導性材料と、
比誘電率が50.0以下である混合溶媒を含む電解液と、
を含む、電解質。
[2] 前記混合溶媒の比誘電率が、40.0以下である、[1]に記載の電解質。
[3] 前記混合溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む、[1]または[2]に記載の電解質。
[4] 前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[3]に記載の電解質。
[5] 前記鎖状カーボネートが、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[3]または[4]に記載の電解質。
[6] イオン伝導性ポリマーをさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の電解質。
[7] 正極、負極、及び[1]~[6]のいずれかに記載の電解質を備えるリチウムイオン二次電池。
[8] リチウムイオン二次電池の電極に用いられる添加剤であって、
Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12 (1)
(式(1)中、Aは、Al、Ga、及びYからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Tは、Ti、Ge、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有し、平均粒径が5μm以下であるガラスセラミックス粉体、
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12 (2)
(式(2)中、Aは、Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Bi、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも1種であり、
1.4≦X<2である)
で表されるガーネット型酸化物、及び
LiLaTiO (3)
(式(3)中、0<x<2、0<y<3である)
で表されるペロブスカイト型酸化物から選択されるリチウムイオン伝導性材料と、
比誘電率が50.0以下である混合溶媒と、
を含む、電極添加剤。
[9] 前記混合溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む、[8]に記載の電極添加剤。
[10] 前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[9]に記載の電極添加剤。
[11] 前記鎖状カーボネートが、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種である、[9]または[10]に記載の電極添加剤。
[12] イオン伝導性ポリマーをさらに含む、[8]~[11]のいずれかに記載の電極添加剤。
[13] 活物質及び[8]~[12]のいずれかに記載の電極添加剤を含む電極。
[14] 活物質及び[8]~[12]のいずれかに記載の電極添加剤を含む電極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、出入力特性を改善し、金属リチウムイオン二次電池においては充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制できるリチウムイオン二次電池を製造可能な電解質、電極添加剤、及び電極を提供することができる。さらに、本発明は、出入力特性を改善し、金属リチウムイオン二次電池においては充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例5、比較例7、及び比較例8の充放電サイクル前後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗の測定結果を示す図である。
図2】実施例6、比較例9、及び比較例10の充放電サイクル前後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗の測定結果を示す図である。
図3】比較例11、比較例12、及び比較例13の充放電サイクル前後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電解質)
本発明による電解質は、リチウムイオン伝導性材料と、電解液とを含むものであり、イオン伝導性ポリマーをさらに含んでもよい。以下、各成分について詳述する。
【0014】
(リチウムイオン伝導性材料)
本発明で用いるリチウムイオン伝導性材料は、下記で詳述するガラスセラミックス粉体、ガーネット型酸化物粉体、およびペロブスカイト型酸化物粉体から選択される少なくとも1種である。
【0015】
(ガラスセラミックス粉体)
リチウムイオン伝導性の結晶は、イオン伝導を阻害する結晶粒界を含まない結晶であるとイオン伝導の点で有利である。特にガラスセラミックスは、イオン伝導を妨げる空孔や結晶粒界をほとんど有しないので、イオン伝導性が高く、かつ化学的な安定性に優れる。また、製造の容易性やコストの観点でもリチウムイオン伝導性のガラスセラミックス粉体は有利である。
【0016】
ここで、ガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、非晶質固体と結晶からなる材料を言い、さらに、ガラス相すべてを結晶相に相転移させた材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものを含む。尚、100%結晶化させた材料であってもガラスセラミックスの場合は結晶の粒子間や結晶中に空孔がほとんどない。これに対し、一般にいわれるセラミックスや焼結体はその製造工程上、結晶の粒子間や結晶中の空孔や結晶粒界の存在が避けられず、本発明のガラスセラミックスとは区別することができる。特にイオン伝導に関しては、セラミックスの場合は空孔や結晶粒界の存在により、結晶粒子自体が有する伝導度よりもかなり低い値となってしまう。ガラスセラミックスは結晶化工程の制御により結晶間の伝導度の低下を抑えることができ、結晶粒子自体が本質的に有する伝導度と同程度の伝導度を得ることが容易となる。
【0017】
本発明で用いるガラスセラミックス粉体は、下記式(1):
Li1+x+2y+zCa2-(x+y)Si3-z12 (1)
(式(1)中、Aは、Al、Ga、及びYからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Tは、Ti、Ge、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、
0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y≦1、0≦x+2y+z≦2である)
で表される主結晶相を有するものである。
【0018】
上記式(1)中、Xは、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上である。Xがこれらの数値以上であれば、リチウムの量を増やして伝導度を上げることができる。また、Xは、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.6以下である。Xがこれらの数値以下であれば、ガラスセラミックス粉体の安定な結晶構造を維持し、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
yは、好ましくは0.025以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。yがこれらの数値以上であれば、リチウムの量を増やして伝導度を上げることができる。また、yは、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。yがこれらの数値以下であれば、ガラスセラミックス粉体の安定な結晶構造を維持し、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
zは、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上である。zがこれらの数値以上であれば、リチウムの量を増やして伝導度を上げることができる。また、zは、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.7以下である。zがこれらの数値以下であれば、ガラスセラミックス粉体の安定な結晶構造を維持し、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0019】
上記式(1)中、好ましい態様の1つとしては、AはAlであり、TはTiである。例えば、Li1+x+yAlTi2-xSi3-y12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)が主結晶相であるガラスセラミックスは、酸化物換算のmol%で、
LiO:10~25%、
Al:0~15%、
TiO:25~50%、
SiO:0~15%、
:26~40%
の各成分を含有するガラスを溶融、急冷することでガラスを得た後、このガラスを熱処理し、結晶を析出させることによって得ることができる。
【0020】
ガラスセラミックス粉体の平均粒子径(D50)の上限値は、5μm以下であり、好ましくは4μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。平均粒子径の上限値をこれらの数値以下とすることで、ガラスセラミックス粉体の比表面積が増大し、電解液と接触する面積が増加することで、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
また、ガラスセラミックス粉体の平均粒子径(D50)の下限値は、0.01μm以上であり、好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上である。平均粒子径の下限値をこれらの数値以上とすることで、電極内への分散性、電極材料同士の結着性を良好にすることができる。
本発明における平均粒子径はガラスセラミックス粉体を固形分濃度が概ね0.05wt%となるように超音波バスを用いてエタノールあるいはNMPに分散させて、レーザー回折法によって測定した時のD50(累積50%径)の値であり、具体的には日機装株式会社製の粒度分析計マイクロトラックMT3300EXIIによって測定した値を用いることができる。なお、平均粒子径は体積基準で表わした値である。
【0021】
ガラスセラミックス粉体のイオン伝導度は、好ましくは1×10-5S/cm以上であり、より好ましくは1×10-4S/cm以上であり、さらに好ましくは1×10-3S/cm以上である。イオン伝導度の下限値をこれらの数値以上とすることで、リチウムイオン伝導性材料の粉末が外部電場によって電解液中で分極することでリチウム塩に作用して、リチウム塩の解離度を向上させて、電極反応に関与するリチウムイオンの数を増加させることによって、電極の挿入脱離反応を促進させることやリチウム金属の溶解析出反応を促進し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
本発明におけるイオン伝導度は、ポテンショ/ガルバノスタット(Bio-Logic Science Instrμments社製のSP-300)を使用してインピーダンス(1MHz~0.1Hz、±10mV、25℃)を測定し、インピーダンスの測定結果よりサンプルの抵抗R(Ω)を計測し、サンプルの厚みL(cm)と電極面積S(cm)との関係から、以下の計算式よりイオン伝導度σ(Scm-1)を算出した値である。
【数1】
【0022】
ガラスセラミックス粉体の比表面積の下限値は、好ましくは1m/g以上であり、より好ましくは3m/g以上であり、さらに好ましくは5m/g以上であり、さらにより好ましくは7m/g以上であり、最も好ましくは10m/g以上である。比表面積の下限値をこれらの数値以上とすることで、電解液と接触する面積が増加し、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
また、ガラスセラミックス粉体の比表面積の上限値は、好ましくは200m/g以下であり、より好ましくは100m/g以下であり、さらに好ましくは80m/g以下である。比表面積の上限値をこれらの数値以下とすることで、電極内への分散性を良好にし、電極材料同士の結着性を良好にすることができる。
本発明における比表面積は、MOUNTECH社製全自動比表面積計Macsorb HM-1201を用いてBET一点法によって2回測定した値の平均値を表わした値である。
【0023】
(ガーネット型酸化物粉体)
本発明で用いるガーネット型酸化物粉体は、下記式(2):
Li5+XLa(Zr,A2-X)O12 (2)
(式(2)中、Aは、Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Bi、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも1種であり、
1.4≦X<2である)
で表されるものである。上記式(2)で表されるガーネット型酸化物粉体は、イオン伝導性が高いため、ガラスセラミックス粉体と同様に、リチウムイオン伝導性材料の粉末が外部電場によって電解液中で分極することでリチウム塩に作用して、リチウム塩の解離度を向上させて、電極反応に関与するリチウムイオンの数を増加させることによって、電極の挿入脱離反応を促進させることやリチウム金属の溶解析出反応を促進し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0024】
(ペロブスカイト型酸化物粉体)
本発明で用いるペロブスカイト型酸化物粉体は、下記式(3):
LiLaTiO (3)
(式(3)中、0<x<2、0<y<3である)
で表されるものである。上記式(3)で表されるペロブスカイト型酸化物粉体は、イオン伝導性が高いため、ガラスセラミックス粉体と同様に、リチウムイオン伝導性材料の粉末が外部電場によって電解液中で分極することでリチウム塩に作用して、リチウム塩の解離度を向上させて、電極反応に関与するリチウムイオンの数を増加させることによって、電極の挿入脱離反応を促進させることやリチウム金属の溶解析出反応を促進し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0025】
リチウムイオン性伝導性材料の配合量は、電解質の全量に対して、好ましくは5質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上85質量%以下である。リチウムイオン性伝導性材料の配合量が上記数値範囲内であれば、電解質の構造を維持しつつ、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0026】
(電解液)
本発明で用いる電解液は、特定の混合溶媒を含み、特定の組成を有するリチウム塩をさらに含んでもよい非水系電解液である。
【0027】
(混合溶媒)
本発明で用いる混合溶媒は比誘電率が50.0以下であれば、従来公知の電解液用の有機溶媒を混合して用いることができる。混合溶媒の比誘電率は好ましくは40.0以下であり、好ましくは30.0以下であり、また、1.0以上であってもよく、5.0以上であってもよく、10.0以上であってもよい。混合溶媒の比誘電率が上記数値範囲内であれば、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。混合溶媒の比誘電率は、用いる有機溶媒の種類及びその配合比を適宜選択することにより、所望の範囲内に調節することができる。
なお、本発明においては、混合溶媒の比誘電率および粘度は、文献値(電池ハンドブック 平成22年2月10日出版、電気化学会 電池技術委員会 編集、株式会社オーム社発行、P534)に記載された単一溶媒の比誘電率および粘度を体積混合則に則り計算した値である。
【0028】
混合溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含むことが好ましい。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これらの環状カーボネートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネート等が挙げられる。これらの鎖状カーボネートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
例えば、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも1種と、鎖状カーボネートとしてジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの少なくとも1種とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0029】
混合溶媒の配合量は、電解質の全量に対して、好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下である。混合溶媒の配合量が上記数値範囲内であれば、電解質の形状を維持しつつ、電解液のイオン伝導性を高めながら、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0030】
(リチウム塩)
本発明で用いるリチウム塩は、下記式(4):
LiMF(C (4)
(式(4)中、Mは、P、B、Sb、Ta、及びNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、
Mが、P、Sb、Ta、又はNbの場合、m+n=6、3≦m≦6、0≦n≦3であり、
Mが、Bの場合、m+n=4、2≦m≦4、0≦n≦2である)
で表されるリチウム塩を含むものである。
【0031】
上記式(4)中、Mが、P、Sb、Ta、又はNbの場合、mは、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは4.0以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。また、mは、好ましくは5.5以下であり、より好ましくは5.9以下であり、さらに好ましくは5.8以下である。
Mが、Bの場合、mは、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3.0以上であり、さらに好ましくは3.5以上である。また、mは、好ましくは3.95以下であり、より好ましくは3.9以下であり、さらに好ましくは3.8以下である。
mがこれらの数値範囲内のリチウム塩は解離度が高いリチウム塩であり、加水分解を生じてHFを発生しやすい塩であるといえる。本願発明においてこれらの塩を利用する場合、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
Mが、P、Sb、Ta、又はNbの場合、nは、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上である。また、nは、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下であり、さらに好ましくは1.0以下である。
Mが、Bの場合、nは、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.2以上である。また、nは、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.0以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。
nがこれらの数値範囲内であれば、加水分解に対して安定性が高いため、本願発明においてこれらの塩を利用する場合、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0032】
上記式(4)で表されるリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiSbF、LiTaF、LiNbF、LiBF(C)、及びLiPF(C等が挙げられる。これらのリチウム塩の中でも、出入力特性を改善し、電解液のイオン伝導性が高く、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる点で、LiPF、LiBF、及びLiSbF等が好ましい。これらのリチウム塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
リチウム塩の配合量は、電解質の全量に対して、好ましくは2質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上20質量%以下である。リチウム塩の配合量が上記数値範囲内であれば、電解質の形状を維持しつつ、出入力特性を改善し、電解液のイオン伝導性を高め、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上することができる。
【0034】
(イオン伝導性ポリマー)
本発明で用いるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されず、従来公知のリチウムイオン伝導性を有するポリマーを用いることができるが、リチウム塩と有機溶媒からなる電解液を膨潤して高いイオン伝導性を有するポリマーが好ましい。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリアセチレン、ポリジメチルシロキサン、及びポリ(ビニレンカーボネート-コ-アクリロニトリル)等が挙げられる。これらのイオン伝導性ポリマーの中でも、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン、ポリアクリロニトリル等が好ましい。これらのイオン伝導性ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
イオン伝導性ポリマーの配合量は、電解質の全量に対して、好ましくは5質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは7質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下である。イオン伝導性ポリマーの配合量が上記数値範囲内であれば、電解質の形状を維持しつつ、電解質が高いイオン伝導度を示し、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、性能維持率を向上できる。
【0036】
電解質はリチウムイオン伝導性材料、イオン伝導性ポリマー、及びイオン伝導性ポリマーが溶解する溶剤を混合したスラリーをシート状に成型して、溶剤を乾燥させることで自己支持膜を得ることができる。あるいは、スラリーを直接電極上にコートして電解質層を成型することができる。リチウムイオン伝導性材料及びイオン伝導性ポリマーからなる自己支持膜又は電極上にコートされた電解質層は溶剤を十分乾燥させたうえで、リチウム塩及び有機溶媒からなる電解液を含浸させ膨潤させることで、電解質の形状を維持しつつ、高いイオン伝導度を示すことができる。
【0037】
自己支持膜又は電極上にコートされた電解質層の厚みは、好ましくは1μm以上50μm以下であり、より好ましくは2μm以上40μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上30μm以下である。電解質の厚みが上記数値範囲内であれば、電解質の形状を維持できる強度をもち、高いイオン伝導度を示すことができる。
【0038】
(リチウムイオン二次電池)
本発明におけるリチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び上記の電解質を備えるものである。各電極は、活物質を有するものであり、電極用添加剤をさらに含んでもよい。以下、各構成について詳述する。
【0039】
(正極)
正極は、特に限定されず、従来公知のリチウムイオン二次電池用の正極を用いることができる。正極は、正極活物質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備えるものである。正極は、負極に対向するように配置されている。
【0040】
正極集電体は、正極活物質層の集電を行うものである。正極集電体の種類としては、特に限定されるものではないが、アルミニウム箔等の金属箔、アルミニウム製穿孔箔等の金属製穿孔箔、エキスパンドメタル、及び発泡金属板等が挙げられる。正極集電体の材料は、特に限定されないが、アルミニウム、ステンレス鋼及びチタン等が挙げられる。正極集電体の形状及び作製方法は、特に限定されず、任意の形状及び製造方法でよい。
【0041】
正極活物質層は、正極活物質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、正極活物質と導電剤とバインダとを有するものである。
【0042】
正極活物質は、充電過程においてリチウムイオンが脱離し、放電過程において負極活物質層中の負極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される物質である。正極活物質としては、このようにリチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能な物質であれば特に限定されないが、例えば、反応種であるリチウムイオンを含有するリチウム含有化合物が好ましい。リチウム含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン置換コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム等が挙げられる。
【0043】
導電剤は、正極活物質層の導電性を向上させるものである。導電剤としては、特に限定されないが、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、及び黒鉛等が挙げられる。
【0044】
バインダは、正極活物質層中の正極活物質や導電剤等を結着させるものである。バインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリアクリル酸、ポリイミド、及びポリアミド等が挙げられる。
【0045】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体の正極と対向する対向面に設けられた負極活物質層とを有るものである。
【0046】
負極集電体は、負極活物質層の集電を行うものである。負極集電体の種類は、特に限定されないが、例えば、銅箔等の金属箔、銅製穿孔箔等の金属製穿孔箔、エキスパンドメタル、及び発泡金属板等が挙げられる。負極集電体の材料は、特に限定されず、例えば、銅、ステンレス鋼、及びチタン等が挙げられるが、銅等が好ましい。負極集電体の形状及び作製方法は、特に限定されず、任意の形状及び製造方法でよい。
【0047】
負極活物質層は、負極活物質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、負極活物質と導電剤とバインダとを有するものである。
【0048】
負極活物質は、充電過程において正極活物質層中の正極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入され、放電過程においてリチウムイオンが脱離する物質である。負極活物質としては、このようにリチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能な物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、天然黒鉛に乾式のCVD法若しくは湿式のスプレー法により被膜を形成した複合炭素質材料、エポキシやフェノール等の樹脂材料若しくは石油や石炭から得られるピッチ系材料を原料として焼成により作製される人造黒鉛、シリコン(Si)、シリコンを混合した黒鉛、難黒鉛化炭素材、チタン酸リチウム、チタンニオブ酸化物負極が挙げられる。また、充電過程においてリチウムイオンが析出し、放電過程においてリチウムイオンが溶解する金属リチウム等を負極として使用することもできる。
【0049】
導電剤及びバインダについては、正極活物質層に用いる導電剤及びバインダと同様のものを用いることができる。
【0050】
(電極添加剤)
リチウムイオン二次電池の電極に用いられる添加剤は、上記の正極又は負極に添加されるものである。電極添加剤は、リチウムイオン伝導性材料と、混合溶媒とを含み、リチウム塩及びイオン伝導性ポリマーをさらに含んでもよい。電極添加剤に用いるリチウムイオン伝導性材料、混合溶媒、リチウム塩、及びイオン伝導性ポリマーは、上述の電解質に用いるリチウムイオン伝導性材料、混合溶媒、リチウム塩、及びイオン伝導性ポリマーと同様のものを用いることができる。このような電極添加剤を用いることで、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、電池の性能維持率を向上することができる。
【0051】
電極添加材の配合量は 電極の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以上10質量%以下である。電極添加材の配合量が上記数値範囲内であれば、出入力特性を改善し、充放電サイクル後の金属リチウム負極と電解質界面の抵抗増加を抑制でき、金属リチウム負極の劣化も抑制でき、電池の性能維持率を向上することができる。
【実施例0052】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0053】
(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス粉体の製造例1)
原料としてHPO、Al(PO、LiCO、SiO、TiOを使用し、これらを酸化物換算のmol%でPを35.0%、Alを7.5%、LiOを15.0%、TiOを38.0%、SiOを4.5%といった組成になるように秤量して均一に混合した。続いて、この混合物を白金ポットに入れ、電気炉中1500℃でガラス融液を撹拌しながら4時間加熱熔解した。その後、ガラス融液を流水中に滴下させることにより、フレーク状のガラスを得て、このガラスを950℃で12時間の熱処理により結晶化を行うことにより、目的のガラスセラミックスを得た。析出した結晶相は粉末X線回折法により、Li1+x+yAlTi2-xSi3-y12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)が主結晶相であることが確認された。また、このガラスセラミックスのイオン伝導度は1.0×10-3S/cm程度であった。
【0054】
得られたガラスセラミックスのフレークをそれぞれラボスケールのジェットミルにより粉砕して、ジルコニア製の回転ローラーにより分級を行い、平均粒子径(D50)20μmのガラスセラミックスを得た。得られたガラスセラミックスを乾式のビーズミルで平均粒子径(D50)1μmまで粉砕した。続いて、同条件下で粉砕時間を延長し、平均粒子径(D50)0.4μmまで粉砕し、噴霧乾燥することでガラスセラミックス粉体1を得た。
【0055】
(非水系電解液の製造例1)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1の質量比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解して、非水系電解液1を得た。
【0056】
(非水系電解液の製造例2)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を3:7の質量比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解して、非水系電解液2を得た。
【0057】
(非水系電解液の製造例3)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の質量比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解して、非水系電解液3を得た。
【0058】
(非水系電解液の製造例4)
プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の質量比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解して、非水系電解液4を得た。
【0059】
(非水系電解液の製造例5)
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の質量比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解して、非水系電解液5を得た。
【0060】
上記で製造した非水系電解液について、比誘電率及び粘度を単一溶媒の値から体積混合則で計算し、表1に示した。
【表1】
【0061】
[試験例1]
(正極の製造例1-1)
ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して、Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O(NCM622):AB:PVdF:ガラスセラミックス粉体1=96.5:1.5:1.5:0.5の重量配合比で、NMPを溶剤として混合して、正極用スラリー1-1を得た。
【0062】
得られた正極用スラリー1-1を20μmのアルミ集電箔にブレードコーターで塗工した後、120℃で乾燥した。電極の目付容量は3.5mAh/cmであった。ロールプレス機で圧密化し、66μm、密度3.5g/cmに調節した。続いて、トムソン打ち抜き機で30mm×40mmのサイズに切断し、ガラスチューブオーブンを用いて160℃で24時間真空乾燥して、正極1-1を製造した。
【0063】
(正極の製造例1-2)
ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して、NCM622:AB:PVdF=97:1.5:1.5の重量配合比で、NMPを溶剤として混合して、正極用スラリー1-2を得た。
【0064】
得られた正極用スラリー1-2を20μmのアルミ集電箔にブレードコーターで塗工した後、120℃で乾燥した。電極の目付容量は3.5mAh/cmであった。ロールプレス機で圧密化し、66μm、密度3.5g/cmに調節した。続いて、トムソン打ち抜き機で30mm×40mmのサイズに切断し、ガラスチューブオーブンを用いて160℃で24時間真空乾燥して、正極1-2を製造した。
【0065】
(負極の製造例1-1)
32mm×42mmに切断した15μmの金属リチウム箔を15μmの銅集電箔に貼り付けて、負極1-1を製造した。
【0066】
(セパレータの製造例)
PPセパレータ(CSTech製、P2010H)をトムソン打ち抜き機で40mm×50mmのサイズに切断し、ガラスチューブオーブンを用いて60℃で24時間真空乾燥した。
【0067】
(リチウムイオン二次電池のセルの製造例)
[実施例1]
上記で製造した正極1-1と負極1-1の電極面を向かい合わせて、その間にセパレータを挟み込んで、アルミラミネートで包み、上記で得られた非水系電解液1を0.3ml注液して30秒間の真空含浸した後に封をして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0068】
[比較例1]
正極1-1の代わりに正極1-2を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0069】
[実施例2]
非水系電解液1の代わりに非水系電解液2を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0070】
[比較例2]
正極1-1の代わりに正極1-2を用いた以外は実施例2と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0071】
[実施例3]
非水系電解液1の代わりに非水系電解液3を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0072】
[比較例3]
正極1-1の代わりに正極1-2を用いた以外は実施例3と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0073】
[実施例4]
非水系電解液1の代わりに非水系電解液4を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0074】
[比較例4]
正極1-1の代わりに正極1-2を用いた以外は実施例4と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0075】
[比較例5]
非水系電解液1の代わりに非水系電解液5を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0076】
[比較例6]
正極1-1の代わりに正極1-2を用いた以外は比較例5と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0077】
(化成処理・ガス抜き)
0.05Cで1サイクル充放電(4.2V-2.5V)した後、ラミネートを一度開封し、再度30秒の真空脱気した後に封をした。
【0078】
(評価方法1)
実施例1~4のセル及び比較例1~6のセルについて、アスカ電子製充放電試験装置を使用して、CC-CV充電(0.2C、4.2V-0.05Cカットオフ)→休止(10分)→CC放電(0.2C又は3C、2.5Vカットオフ)→休止(10分)で充放電(25℃)を実施して、放電容量の比較を行った。評価結果を表2~6に示す。
【0079】
(評価結果1)
ガラスセラミックス粉体を添加した実施例1~4と、ガラスセラミックス粉体を添加していない比較例1~4をそれぞれ比較すると、ガラスセラミックス粉体の添加により、出入力特性が高い結果となった。特に、比誘電率の低い混合溶媒を用いた場合、出入力特性が高い結果となった。
一方、ガラスセラミックス粉体を添加した比較例5と、ガラスセラミックス粉体を添加していない比較例6を比較すると、比誘電率の高い混合溶媒を用いた場合には、ガラスセラミックス粉体の添加による出入力特性の改善が見られなかった。
この結果は、比誘電率の高い混合溶媒はリチウム塩の解離度が高いためガラスセラミックス粉体の分極による解離度向上の効果が得られにくいことを示す。比誘電率の低い混合溶媒は粘度も低くイオン移動性は高い一方で、解離度が低い課題があるが、ガラスセラミックス粉体を用いることによって、イオン移動性が高く解離度も高めることによって、出入力特性を改善することができる。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0080】
[試験例2]
[実施例5]
ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して、ガラスセラミックス粉体1:ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)=1:1の重量配合比で、アセトンとオクタンの混合溶媒(混合比20:1)を溶剤として混合して、スラリー2-1を得た。
【0081】
得られたスラリー2-1をPETフィルム上にブレードコーターで塗工した後、80℃で乾燥した。乾燥後の膜厚は20μmであった。その後、トムソン打ち抜き機でト30mm×30mmのサイズに打ち抜いて、ガラスチューブオーブンを使用して、100℃で真空乾燥させた。続いて、それを非水系電解液2(混合溶媒EC:EMC=3:7、比誘電率28.7)に5時間漬け込み、集電リードとして使用する銅箔を貼り付けた20mm×20mmのサイズのリチウム箔を電解質両面に挟み込み、アルミラミネートフィルムを使用して真空封止して、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0082】
[比較例7]
ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンを、アセトンとオクタンの混合溶媒(混合比20:1)を溶剤として混合して、スラリー2-2を得た。
【0083】
スラリー2-1の代わりにスラリー2-2を用いた以外は、実施例5と同様にしてリチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0084】
[比較例8]
PPセパレータ(CSTech製、P2010H)をトムソン打ち抜き機で30mm×30mmのサイズに打ち抜いて、ガラスチューブオーブンを用いて60℃で真空乾燥させた。続いて、それを非水系電解液2に5時間漬け込み、集電リードとして使用する銅箔を貼り付けた20mm×20mmのサイズのリチウム箔を電解質両面に挟み込み、アルミラミネートフィルムを使用して真空封止して、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0085】
[実施例6]
非水系電解液2の代わりに非水系電解液1(混合溶媒EC:DEC=1:1、比誘電率45.9)を用いた以外は、実施例5と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0086】
[比較例9]
非水系電解液2の代わりに非水系電解液1を用いた以外は、比較例7と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0087】
[比較例10]
非水系電解液2の代わりに上記の非水系電解液1を用いた以外は、比較例8と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0088】
[比較例11]
非水系電解液2の代わりに非水系電解液5(混合溶媒EC:PC:DEC=1:1:1、比誘電率51.7)を用いた以外は、実施例5と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0089】
[比較例12]
非水系電解液2の代わりに非水系電解液3を用いた以外は、比較例7と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0090】
[比較例13]
非水系電解液2の代わりに上記の非水系電解液3を用いた以外は、比較例8と同様にして、リチウムイオン二次電池のセルを製造した。
【0091】
(評価方法2)
実施例5~6、比較例7~13のリチウムイオン二次電池のセルについて、ポテンショ/ガルバノスタット(Bio-Logic Science Instrμments社製のSP-300)を使用して、インピーダンス(1MHz~0.1Hz、 ±10mV、25℃)を測定した。続いて、各セルについて、アスカ電子製充放電試験装置を使用して、充放電サイクル(電流密度50μA/cm、充電15分放電15分、200サイクル(計100時間)、25℃)を実施し、その後、再度ポテンショ/ガルバノスタットを使用してインピーダンスを測定した。インピーダンスの結果からコールコールプロットを得ると2つの円弧が確認できた。Zviewでフィッテイングして低周波側の円弧をリチウム金属と電解質界面の反応抵抗と帰属して比較をおこなった。
【0092】
(評価結果2)
測定結果を図1~3に示した。
ガラスセラミックス粉体と、混合溶媒を含む電解液とを含む電解質において、図1(実施例5、比較例7、8)、図2(実施例6、比較例9、10)、図3(比較例11、12、13)の充放電サイクル前の抵抗を比較すると、比較例7、8に対する実施例5の抵抗低減率および比較例9、10に対する実施例6の抵抗低減率は、比較例12、13に対する比較例11の抵抗低減率よりも高い。
また、図1、2、3における充放電サイクル前後の抵抗増加に着目すると、いずれの電解液を使用した場合でも、ガラスセラミックス粉体と、混合溶媒を含む電解液とを含む電解質においては充放電サイクル前後の抵抗増加の抑制効果がみられている。一方で、図1(比較例7、8)、図2(比較例9、10)で見られるように、混合溶媒の比誘電率が低い程、充放電サイクル後に抵抗が増加しやすいため、比誘電率が低い混合溶媒に対し、ガラスセラミックス粉体を用いることが充放電サイクル前後の抵抗増加をとくに抑制するといえる。対して、図3(比較例12、13)で見られるように、混合溶媒の比誘電率が高い場合、充放電サイクル後に抵抗は増加しにくいが、ガラスセラミックス粉体を用いても、充放電サイクル前後の抵抗増加を抑制するという効果が得られにくい。さらに、混合溶媒の比誘電率が高い場合には、混合溶媒の粘度が高いため、リチウムイオンの移動性が低いという問題点がある。
これは、比誘電率の低い混合溶媒は粘度が低い傾向になるためリチウムイオンの移動性が高い(特に低温)一方で、混合溶媒の比誘電率が低いためリチウムイオンの解離度が低く、リチウム金属表面への析出(充電)/溶出(放電)が速やかに行われず、周囲の電解液がリチウム金属によって還元分解されてしまうことによる。さらに繰り返し充放電するとリチウム金属表面に被膜が堆積し、反応性を劣化させてしまうが、ガラスセラミックス粉体を使用することによって、溶媒の粘度が低いものでもリチウムイオンの解離度を高めてリチウム金属の劣化も抑制できるため、電解液の設計にバリエーションをもたせる効果が期待できる。
一般的に、混合溶媒の比誘電率によるリチウムイオンの解離度と混合溶媒の粘度によるリチウムイオンの移動性はトレードオフの関係にあり、電解液設計が電池特性の制約になっていることに対し、ガラスセラミックス粉体の使用によってこの制約を取り払うことができるものである。
図1
図2
図3