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特開2024-137230フッ化物イオン電池、フッ化物イオン電池用の負極活物質、及びフッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137230
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池、フッ化物イオン電池用の負極活物質、及びフッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M10/05
H01M4/134
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048673
(22)【出願日】2023-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「電気自動車用革新型畜電池開発/フッ化物電池の研究開発、亜鉛負極電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】野井 浩祐
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK07
5H029AK08
5H029AK11
5H029AK16
5H029AL04
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM11
5H029CJ01
5H029HJ01
5H029HJ13
5H029HJ19
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA11
5H050CA15
5H050CA16
5H050CA17
5H050CA20
5H050CA21
5H050CA25
5H050CB04
5H050CB11
5H050GA05
5H050HA01
5H050HA13
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】本開示は、高い充放電容量を実現することができるフッ化物イオン電池を提供する。
【解決手段】本開示のフッ化物イオン電池は、正極活物質層、負極活物質層、並びに正極活物質層及び負極活物質層の間に形成された電解質層を有する。本開示のフッ化物イオン電池は、負極活物質層が、金属マグネシウム、フッ化マグネシウム、及びフッ化カルシウムバリウムを含有しており、金属マグネシウムのフッ化マグネシウムに対する質量比が0.1~10.0である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層、負極活物質層、並びに前記正極活物質層及び前記負極活物質層の間に形成された電解質層を有するフッ化物イオン電池であって、
前記負極活物質層が、金属マグネシウム、フッ化マグネシウム、及びフッ化カルシウムバリウムを含有しており、
前記金属マグネシウムの前記フッ化マグネシウムに対する質量比が0.1~10.0である、
フッ化物イオン電池。
【請求項2】
CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST基準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率が、1.5以上である、請求項1に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項3】
前記電解質層が、フッ化カルシウムバリウムを有している、請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項4】
充放電容量が100mAh/g以上である、請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項5】
フッ化マグネシウムを含み、
CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST標準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率が、1.5以上である、フッ化物イオン電池用の負極活物質。
【請求項6】
フッ化マグネシウムに機械的衝撃を与えて、CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST標準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率を、1.5以上に変化させることを含む、請求項5に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記機械的衝撃をボールミルによって与える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ボールミルの回転数が300rpm以上である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン電池、フッ化物イオン電池用の負極活物質、及びフッ化物イオン電池用の負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧かつ高エネルギー密度な電池として、例えばリチウムイオン電池が知られている。リチウムイオン電池は、リチウムイオンをキャリアとして用いるカチオンベースの電池である。これに対して、アニオンベースの電池として、フッ化物イオンをキャリアとして用いるフッ化物イオン電池が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Mg元素を含有するMg材料と、少なくとも一種の金属元素(Mg元素を除く)及びF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料とを含有する負極材料を備える、フッ化物イオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-123264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化物イオン電池において、高い充放電容量を実現することが求められている。
【0006】
本開示は、高い充放電容量を実現することができるフッ化物イオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件開示者等は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
正極活物質層、負極活物質層、並びに前記正極活物質層及び前記負極活物質層の間に形成された電解質層を有するフッ化物イオン電池であって、
前記負極活物質層が、金属マグネシウム、フッ化マグネシウム、及びフッ化カルシウムバリウムを含有しており、
前記金属マグネシウムの前記フッ化マグネシウムに対する質量比が0.1~10.0である、
フッ化物イオン電池。
〈態様2〉
CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST基準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率が、1.5以上である、態様1に記載のフッ化物イオン電池。
〈態様3〉
前記電解質層が、フッ化カルシウムバリウムを有している、態様1又は2に記載のフッ化物イオン電池。
〈態様4〉
充放電容量が100mAh/g以上である、態様1~3のいずれか1項に記載のフッ化物イオン電池。
〈態様5〉
フッ化マグネシウムを含み、
CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST標準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率が、1.5以上である、
フッ化物イオン電池用の負極活物質。
〈態様6〉
フッ化マグネシウムに機械的衝撃を与えて、CuKα線を用いて測定した、前記フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST標準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率を、1.5以上に変化させることを含む、態様5に記載の負極活物質の製造方法。
〈態様7〉
前記機械的衝撃をボールミルによって与える、態様6に記載の方法。
〈態様8〉
前記ボールミルの回転数が300rpm以上である、態様7に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い充放電容量を実現することができるフッ化物イオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施例1~5のフッ化物イオン電池の充放電曲線を示すグラフである。
図3図3は、比較例1~4のフッ化物イオン電池の充放電曲線を示すグラフである。
図4図4は、実施例6~10及び比較例5のフッ化物イオン電池の充放電曲線を示すグラフである。
図5図5は、実施例4、6~10及び比較例5のX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。
図6図6は、FWHM比算出用標準CeOのXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
《フッ化物イオン電池》
本開示のフッ化物イオン電池は、正極活物質層、負極活物質層、並びに正極活物質層及び負極活物質層の間に形成された電解質層を有する。本開示のフッ化物イオン電池は、負極活物質層が、金属マグネシウム、フッ化マグネシウム、及びフッ化カルシウムバリウムを含有しており、金属マグネシウムのフッ化マグネシウムに対する質量比が0.1~10.0である。
【0012】
負極活物質層が、フッ化カルシウムバリウムとともに、金属マグネシウム及びフッ化マグネシウムを有し、かつ金属マグネシウムのフッ化マグネシウムに対する質量比を所定の範囲とすることで、この負極活物質層を有するフッ化物イオン電池は、高い充放電容量を実現することができる。
【0013】
この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、以下のように推定される。すなわち、まず、充電時の第1段階目反応として、フッ化マグネシウムが反応してフッ化物イオンを放出するとともに、金属マグネシウムが生成する。次に、第2段階目反応として、第1段階で生成した金属マグネシウムを含む負極活物質層中の金属マグネシウムが、フッ化カルシウムバリウム中のカルシウムやバリウムと合金を生成するとともに、フッ化物イオンを放出する。放電時には、この逆反応によりフッ化物イオンの吸蔵が生じる。つまり、本開示のフッ化物イオン電池が高い充放電容量を実現することができるのは、2段階のフッ化物イオンの放出(充電)及び吸蔵(放電)が起こるため、と考えられる。更に、配合した金属マグネシウムが電子伝導助剤としても機能して、効率的な充放電の進行に寄与するため、本開示のフッ化物イオン電池は高い充放電容量を実現することができると考えられる。
【0014】
図1は本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す模式図である。図1に示されるフッ化物イオン電池1は、正極活物質層20、負極活物質層40、並びに正極活物質層20及び負極活物質層40の間に形成された電解質層30と、正極活物質層20の集電を行う正極集電体10と、負極活物質層40の集電を行う負極集電体50を有する。
【0015】
なお、本開示のフッ化物イオン電池は、液系電池又は固体電池、特には全固体電池であってもよい。なお、本開示に関して、固体電池は、固体電解質を用いる電池を意味している。また、本開示におけるフッ化物イオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。本開示におけるフッ化物イオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型及び角型が挙げられる。
【0016】
〈負極活物質層〉
本開示においては、負極活物質層は、金属マグネシウム、フッ化マグネシウム、及びフッ化カルシウムバリウムを有している。
【0017】
(金属マグネシウム)
本開示において、負極活物質層は金属マグネシウムを有する。
【0018】
負極活物質層における金属マグネシウムの配合割合は、例えば1重量%以上であり、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよい。金属マグネシウムの配合割合は、例えば55重量%以下であり、45重量%以下であってもよく、35重量%以下であってもよい。
【0019】
(フッ化マグネシウム)
本開示において、負極活物質層はフッ化マグネシウム(MgF)を有する。MgFは、負極活物質として機能する。
【0020】
本開示において、CuKα線を用いて測定した、MgFのXRDスペクトルにおける、2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、CeOのXRDスペクトルにおける、2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率(FWHMsam./FWHMref.)は、1.5以上であってよい。
【0021】
結晶性(結晶子サイズ)は、XRD測定におけるピーク半値幅FWHM(full width at half maximum)と相関することが知られている。FWHMが小さいほど、結晶性が高い(結晶子サイズが大きい)。ただし、算出されるFWHMの絶対値は、XRD測定の装置、条件、及び算出方法に依存するため、本開示では、試料(負極活物質層中のMgF)のFWHMsam.と、試料と同様に測定・算出した、標準物質CeO(米国国立標準技術局NIST頒布品)のFWHMref.の比で評価した。FWHMsam./FWHMref.が小さいほど、結晶性が高いことを表す。
【0022】
なお、FWHMはXRDパターン中の各ピークで個々に算出されるが、本開示では、試料である負極活物質層中のMgFに由来するピークのうち、比較的強度が大きく、他のピークとの分離が簡易なピークとして、CuKα線を用いた測定において2θが40.4deg.付近に確認される、MgF(111)面のピークについて、FWHMsam.を算出する。また、標準物質については、2θが47.5deg.付近に確認される、CeO(220)面のピークについて、FWHMref.を算出する。
【0023】
FWHMsam./FWHMref.の値は1.5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。FWHMsam./FWHMref.の値は10.0以下であることが好ましく、9.0以下であることがより好ましい。FWHMsam./FWHMref.が上記範囲内であると、フッ化物イオン電池の充放電容量が向上する。
【0024】
この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、MgF結晶の結晶性を低下させる(結晶子サイズを小さくする)と、MgFの活物質粒子内のフッ化物イオン拡散距離が短くなり、効率的に充放電反応が進行するため、と考えられる。
【0025】
負極活物質層におけるフッ化マグネシウムの配合割合は、例えば1重量%以上であり、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよい。フッ化マグネシウムの配合割合は、例えば55重量%以下であり、45重量%以下でもあってもよく、35重量%以下であってもよい。
【0026】
金属マグネシウムのフッ化マグネシウムに対する質量比(Mg/MgF)は、0.1~10.0であり、好ましくは0.1~5.0である。Mg/MgFが上記範囲内であると、フッ化物イオン電池の充放電容量を大きくすることができる。
【0027】
(負極活物質の製造方法)
フッ化物イオン電池用の負極活物質を製造する本開示の方法は、フッ化マグネシウムに機械的衝撃を与えて、CuKα線を用いて測定した、フッ化マグネシウムのXRDスペクトルにおける2θ=40.4deg.付近ピークの第1FWHM(XRD半値幅)の、NIST標準CeOのXRDスペクトルにおける2θ=47.5deg.付近ピークの第2FWHM(XRD半値幅)に対する比率を、1.5以上に変化させることを含む。
【0028】
機械的衝撃を与える方法としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられ、具体的には、ボールミルが挙げられる。この場合、ボールミルの回転数及び混合時間を調節して、FWHMsam./FWHMref.を制御することができる。
【0029】
ボールミルの回転数は、例えば、300rpm以上であり、好ましくは400rpm以上である。ボールミルの回転数は、例えば、600rpm以下であり、好ましくは500rpm以下である。
【0030】
ボールミルによる混合は、例えば、1時間以上、2時間以上、又は3時間以上の時間にわたって行うことができる。
【0031】
(フッ化カルシウムバリウム)
本開示において、負極活物質層はフッ化カルシウムバリウム(Ca1-xBa)を有する。Ca1-xBaも、負極活物質として機能する。すなわち、Ca1-xBaから自己形成的に負極活物質が生じる。
【0032】
Ca1-xBaは、例えば、フッ化カルシウム(CaF)及びフッ化バリウム(BaF)を含有する混合物に対するメカニカルミリングにより得ることができる。メカニカルミリングの手段としては、例えば、ボールミルによる混合を挙げることができるが、これに限定されない。
【0033】
Ca1-xBaにおけるxは、0<x<1を満たすものであれば特に限定されないが、xは、0.30以上であってもよく、0.35以上であってもよく、0.40以上であってもよい。xは、0.70以下であってもよく、0.65以下であってもよく、0.60以下であってもよい。特に、xが0.45≦x≦0.65を満たす場合、可逆容量が良好になる。
【0034】
負極活物質層におけるCa1-xBaの配合割合は、例えば45重量%以上であり、50重量%以上であってもよく、55重量%以上であってもよい。Ca1-xBaの配合割合は、例えば75重量%以下であり、70重量%以下であってもよく、65重量%以下であってもよい。
【0035】
(その他)
本開示における負極活物質層は、必要に応じて、電子伝導助剤及びバインダーの少なくとも一方を更に含有していてもよい。電子伝導助剤としては、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブが挙げられる。バインダーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0036】
負極活物質層の厚さは特に限定されず、電池の構成によって適宜調整することができる。
【0037】
〈正極活物質層〉
本開示における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、電子伝導助剤及びバインダーの少なくとも一つを更に含有していてもよい。
【0038】
正極活物質は、通常、放電時に脱フッ化する活物質である。正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、及び、これらのフッ化物が挙げられる。正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Ag、Ni、Co、Pb、Ce、Mn、Au、Pt、Rh、V、Os、Ru、Fe、Cr、Bi、Nb、Sb、Ti、Sn、Zn等を挙げることができる。中でも、正極活物質は、Cu、CuF、Fe、FeF、Ag、AgFであることが好ましい。なお、上記zは、0よりも大きい実数である。また、正極活物質の他の例として、炭素材料及びそのフッ化物が挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、コークス及びカーボンナノチューブが挙げられる。また、正極活物質の更に他の例として、ポリマー材料が挙げられる。ポリマー材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン及びポリチオフェンが挙げられる。また、正極活物質の更に他の例として、金属硫化物が挙げられる。金属硫化物としては、例えば、CuS、CuS、FeS、FeSが挙げられる。
【0039】
正極活物質層における正極活物質の含有量は特に限定されないが、容量の観点からは多いことが好ましい。正極活物質の含有量は、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。
【0040】
固体電解質については、本開示の固体電解質層に関する記載を参照することができる。
【0041】
電子伝導助剤及びバインダーについては、本開示の負極活物質層に関する記載を参照することができる。
【0042】
正極活物質層の厚さは特に限定されず、電池の構成によって適宜調整することができる。
【0043】
〈電解質層〉
本開示における電解質層は、正極活物質層及び負極活物質層の間に形成される層である。
【0044】
本開示のフッ化物イオン電池が液系電池である場合には、電解質層は、例えば電解液と、随意のセパレータから構成されていることができる。
【0045】
電解液は、例えば、フッ化物塩及び有機溶媒を含有していることができる。フッ化物塩としては、例えば、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、イオン液体を挙げることができる。無機フッ化物塩の一例としては、XF(Xは、Li、Na、K、Rb、又はCsである)を挙げることができる。有機フッ化物塩のカチオンの一例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアルキルアンモニウムカチオンを挙げることができる。
【0046】
電解液の有機溶媒は、通常、フッ化物塩を溶解する溶媒である。有機溶媒としては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のグライム、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートを挙げることができる。また、有機溶媒として、イオン液体を用いてもよい。
【0047】
セパレータとしては、フッ化物イオン電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではない。セパレータとしては、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルを挙げることができる。
【0048】
本開示のフッ化物イオン電池が固体電池である場合には、電解質層は、例えば固体電解質の層であってよい。この場合、電解質層は必要に応じて更にバインダーを含有していてもよい。
【0049】
固体電解質は、フッ化物イオン電池に用いることができる材料であれば特に限定されないが、無機フッ化物が例示される。無機フッ化物としては、例えば、La、Ce等のランタノイド元素を含有するフッ化物、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素を含有するフッ化物、Pb、Sn等の第14族元素を含有するフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ元素を含有するフッ化物などが挙げられる。固体電解質は、Ca1-xBaであることが好ましい。
【0050】
バインダーについては、本開示の負極活物質層に関する記載を参照することができる。
【0051】
〈その他の構成〉
本開示におけるフッ化物イオン電池は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、負極活物質層の集電を行う負極集電体、及び上述した部材を収容する電池ケースを有することが好ましい。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等が挙げられる。また、電池ケースとしては、従来公知の電池ケースを用いることができる。
【0052】
本開示のフッ化物イオン電池の充放電容量は、負極合材の重量で規格化した比容量として100mAh/g以上であることができる。
【実施例0053】
〈実施例1〉
(負極合材の作製)
原料としてCaF及びBaFを準備し、モル比で、CaF:BaF=50:50となるように秤量した。秤量したCaF及びBaFを、ボールミル装置(フリッチュ社製、遊星型ボールミルプレミアムラインPL-7)を用いたメカニカルミリングにより、乾燥アルゴン雰囲気中、600rpmで20時間にわたって混合し、混合物を反応させることで、粉末状のCa0.5Ba0.5を得た。
【0054】
Mg、MgF、上記Ca0.5Ba0.5、及び電子伝導助剤としてのアセチレンブラック(AB)を、表1に記載の配合比(重量%)で秤量し、ボールミル装置(フリッチュ社製、遊星型ボールミルプレミアムラインPL-7)を用いて、乾燥アルゴン雰囲気中、600rpmで3時間にわたって混合して、粉末状の負極合材を得た。
【0055】
(固体電解質の作製)
原料としてCaF及びBaFを準備し、モル比で、CaF:BaF=60:40となるように秤量した。これらをボールミル装置(フリッチュ社製、遊星型ボールミルプレミアムラインPL-7)を用いたメカニカルミリングにより、乾燥アルゴン雰囲気中、600rpmで20時間にわたって混合し、混合物を反応させることで、粉末状の固体電解質(Ca0.6Ba0.4)を得た。
【0056】
(フッ化物イオン電池の作製)
フッ化物イオン電池の各構成部材として、以下のものを用いた。
・負極集電体:白金箔
・負極活物質層:上記負極合材の粉末10mgを用いて形成された圧粉体
・電解質層:上記固体電解質の粉末100mgを用いて形成された圧粉体
・正極活物質層:鉛板(220mg)
・正極集電体:アルミニウム箔
【0057】
負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層、及び正極集電体をこの順に積層して、全固体フッ化物イオン電池を作製した。
【0058】
〈実施例2~5、比較例1~4〉
負極合材の配合比を、表1に記載のとおり変更したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例2~5、及び比較例1~4の全固体フッ化物イオン電池を作製した。
【0059】
〈充放電試験〉
実施例1~5、及び比較例1~4のフッ化物イオン電池について、密閉容器中で真空引きしつつ、試験温度200℃、電流密度0.05mA/cmで1回充電、放電を行った。充電終止電圧、放電終止電圧はそれぞれ2.7V、1.8Vであった。充放電試験には、周波数応答アナライザ搭載電気化学測定システム(バイオロジック社製、VMP-300高性能電気化学測定システム)を用いた。
【0060】
表1、図2(実施例1~5)及び図3(比較例1~4)に、充放電試験の結果を示す。なお、各試験の充電容量、放電容量は、負極合材の重量で規格化した比容量として示している。
【0061】
【表1】
【0062】
表1、図2及び3に示されるように、Mg/MgFを本開示の範囲内とした実施例のフッ化物イオン電池の充放電容量は大きかった。
【0063】
この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、以下のように推定される。すなわち、まず、充電時の第1段階目反応として、MgFが反応してフッ化物イオンを放出するとともにMgが生成する。次に、第2段階目反応として、第1段階で生成したMgを含む負極合材中のMgが、Ca1-xBa中のCaやBaと合金を生成するとともにフッ化物イオンを放出する。放電時には、この逆反応によりフッ化物イオンの吸蔵が生じる。つまり、2段階のフッ化物イオンの放出(充電)及び吸蔵(放電)が起こることにより、高い充放電容量が得られる、と考えられる。
【0064】
ところで、上記メカニズムでは、Mg/MgFが小さいほど理論容量が高くなると考えられるが、実際の充放電容量はMgを少量含めた組成で最大となった(実施例5)。これに対して、Mgが含まれていても、Mg/MgFが本開示の範囲の下限値未満であると充放電できなくなった(比較例1及び比較例2)。これは、配合したMgが電子伝導助剤としても機能して、少量のMgの配合が効率的な充放電の進行に寄与するため、と推定される。この推定は、Mg/MgFを本開示の範囲より小さくし、かつ電子伝導助剤であるABの割合を増加した比較例3において、実施例に比べて充放電容量の値は小さいものの、充放電が可能になったことによって裏付けられていると考えられる。
【0065】
〈実施例6~10、比較例5〉
負極合材の作製におけるボールミル混合(BM)の回転数及び時間を、表2に記載のとおり変更したことを除いて、実施例4と同様にして、実施例6~10、及び比較例5の全固体フッ化物イオン電池を作製した。
【0066】
〈MgF結晶性の影響〉
充放電容量に対する、負極合材中のMgFの結晶性の影響について調査するために、実施例4、6~10及び比較例5で得られた負極合材に対して、充放電試験及びXRD測定を行った。充放電試験の方法は上記のとおりであり、XRD測定の方法は以下に示すとおりである。
【0067】
(XRD測定)
リガク社製の装置SmartLabを用いて、管電圧45kV、管電流200mAの条件で、CuKα線を照射する集中法により測定した。同条件で、上記標準物質CeOの測定を行った。図4、5に示す得られた各XRDパターンをリガク社製の解析ソフトウェアPDXLを用いて、パターンフィッティング解析処理することで、半値幅FWHMを算出した。結果を表2、図6に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2、図6に示されるように、負極合材中のMgFの結晶性を低下させてFWHMsam./FWHMref.を1.5より大きくした実施例のフッ化物イオン電池の充放電容量は大きかった。
【0070】
この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、MgF結晶の結晶性を低下させる(結晶子サイズを小さくする)と、MgFの活物質粒子内のフッ化物イオン拡散距離が短くなり、効率的に充放電反応が進行するため、と考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1 フッ化物イオン電池
10 正極集電体層
20 正極活物質層
30 電解質層
40 負極活物質層
50 負極集電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6