(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137241
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/64 20060101AFI20240927BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240927BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240927BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D71/64
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048686
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】壷井 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 長久
【テーマコード(参考)】
4D006
4J043
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA61
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB02
4D006MB06
4D006MB13
4D006MB16
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC35
4D006MC48
4D006MC51
4D006MC55
4D006MC56X
4D006MC59
4D006NA41
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB14
4J043PA15
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA672
4J043UB011
4J043UB021
4J043UB132
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA062
4J043YB02
4J043YB32
4J043ZB13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】様々な有機溶媒を含有し得る被処理液の処理に利用可能な複合半透膜を提供する。
【解決手段】基材と、基材上に設けられた多孔質支持層と、を備え、前記多孔質支持層が、
で表される構成単位を有するポリマーが架橋されたポリマーを含み、架橋成分が、H
2N-R
1-NH
2・・・(2)〔R
1は、C数2~20の鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基〕で表されるか、又はH
2N-R
2-Ar-R
3-NH
2・・・(3)〔Arは、置換/無置換のC数6~10のアリーレン基、R
2及びR
3はそれぞれ、単結合又はアルキレン基、且つR
2及びR
3のC数の合計が2以上10以下〕で表される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた多孔質支持層と、を備え、
前記多孔質支持層が、
【化1】
〔式中、nは1以上8以下の整数であり、フタルイミド部分のベンゼン環へのOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、フェノール部分におけるOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、ジアミン部分におけるNの結合位が3位又は4位である〕で表される構成単位を有するポリマーが、架橋成分により架橋されてなる架橋ポリマーを含み、
前記架橋成分が、
H
2N-R
1-NH
2・・・(2)
〔式中、R
1は、炭素数2以上20以下の鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基である〕で表されるか、又は
H
2N-R
2-Ar-R
3-NH
2・・・(3)
〔式中、Arは、置換又は無置換の炭素数6以上10以下のアリーレン基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、単結合又はアルキレン基であり、且つR
2及びR
3の炭素数の合計が2以上10以下である〕で表される、分離膜。
【請求項2】
前記ポリマーが、
【化2】
で示される構成単位を有するポリエーテルイミドである、請求項1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記架橋成分が、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、p-キシレンジアミン、及びm-キシレンジアミンを含む群から選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
非プロトン性極性溶媒分離用の、請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項5】
前記多孔質層上に、ポリアミドを含む分離機能層をさらに備えている、請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項6】
逆浸透膜である、請求項5に記載の分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体濾過用の分離膜として様々な材料が検討されている。例えば、特許文献1には、芳香族ビス(エーテル無水物)及び有機ジアミンから誘導された所定構造を有するポリマーからなる微多孔性膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分離膜の用途は多岐にわたり、産業排水の処理のためにも広く用いられている。ここで、産業排水には有機溶媒(有機溶剤)が含まれているものが多い。特許文献1には、開示の微多孔性膜の材料が有機溶媒に対してある程度の耐性を有することが示されているものの、有機溶媒の種類によっては耐性が十分でないものもある。よって、様々な有機溶媒を含有し得る排水の処理に利用可能な分離膜が求められている。
【0005】
上記に鑑み、本発明の一態様は、様々な有機溶媒を含有し得る被処理液の処理に利用可能な分離膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による複合半透膜は、基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、を備え、前記多孔質層が、
【化1】
〔式中、nは1以上8以下の整数であり、フタルイミド部分のベンゼン環へのOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、フェノール部分におけるOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、ジアミン部分におけるNの結合位が3位又は4位である〕で表される構成単位を有するポリマーが、架橋成分により架橋されてなる架橋ポリマーを含み、
前記架橋成分が、
H
2N-R
1-NH
2・・・(2)
〔式中、R
1は、炭素数2以上20以下の鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基である〕で表されるか、又は
H
2N-R
2-Ar-R
3-NH
2・・・(3)
〔式中、Arは、置換又は無置換の炭素数6以上10以下のアリーレン基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、単結合又はアルキレン基であり、且つR
2及びR
3の炭素数の合計が2以上10以下である〕で表される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、様々な有機溶媒を含有し得る被処理液の処理に利用可能な分離膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による複合半透膜の模式的な断面図を示す。
【
図2】実施例の一部についてのフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によるピーク強度の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<分離膜(複合半透膜)>
本発明の一形態による分離膜は、液体濾過用の分離膜、すなわち液体中に溶解申しくは分散した固体又は液体の物質を除去することができる膜である。本形態による分離膜は、基材と、当該基材上に設けられた多孔質層とを備えていてよい。また、分離膜は、好ましくは、基材と、当該基材上に設けられた多孔質層と、当該多孔質層上に設けられた分離機能層とを備えた複合半透膜である。その場合、多孔質層は、分離機能層を支持する多孔質支持層となる。
【0010】
図1に、複合半透膜10の構成を模式的に示す。
図1に示すように、複合半透膜10は、基材3と、多孔質支持層2と、多孔質支持層2上に設けられた分離機能層(活性層若しくはスキン層ともいう)1とを備えている。なお、本明細書において、「半透膜」とは、被処理液の一部の成分を透過させ、それ以外の成分を透過させない膜を指す。また、複合半透膜における「複合」とは、異なる機能又は構成を有する複数の層が積層されてなることを意味する。
【0011】
複合半透膜10における分離機能層1は最上に配置された極薄い層(0.01μm以上1μm以下)であり、複合半透膜10の分離処理が主として行われる層である。多孔質支持層2は、主として上記分離機能層1を支持する役割を果たす。また、基材3は、多孔質支持層2をさらに支持する部分である。
【0012】
多孔質支持層は、
【化2】
で表される構成単位を有するポリマーが架橋されてなる、架橋ポリマーを含む。本明細書においては、上式(1)で表される構成単位を有するポリマー(未架橋ポリマー)を、広義のポリエーテルイミドとも呼ぶ場合がある。
【0013】
上式(1)においては、nは、1以上8以下の整数であってよく、好ましくは2以上6以下、より好ましくは3以上5以下であってよい。また、-CnH2n-は、鎖式又は脂環式のアルキレン基であってよく、鎖式アルキレン基の場合には、直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。
【0014】
また、式(1)で表される構造単位には、フタルイミド部分(フタルイミドにおける窒素に結合する水素及びベンゼン環炭素に結合する水素を取り除いた式で表される部分)が2つ含まれている。そして、このようなフタルイミド部分のベンゼン環への「O」の結合位は、それぞれ独立して任意であってよく、好ましくはそれぞれ独立して3位又は4位であってよい。すなわち、上式(1)の構成単位中、
【化3】
で表される部分において、それぞれ独立して、「O」は、ベンゼン環の3位又は4位に結合されていてよい。
【0015】
また、式(1)で表される構造単位には、フェノール部分(フェノールにおける水酸基の水素及びベンゼン環炭素に結合する炭素を取り除いた部分)が2つ含まれている。そして、このようなフェノール部分におけるベンゼン環への「O」の結合位は、それぞれ独立して独立して任意であってよく、好ましくはそれぞれ独立して3位又は4位であってよい。すなわち、上式(1)の構成単位中、
【化4】
で表される部分において、それぞれ独立して、「O」はベンゼン環の3位又は4位に結合されていてよい。
【0016】
さらに、式(1)で表される構造単位には、ジアミン由来の部分(ジアミン中の各アミノ基の2つの水素を取り除いた部分)が含まれている。そして、このようなジアミン部分におけるNの結合位は3位又は4位であってよい。すなわち、
【化5】
で表される部分において、ベンゼン環に結合する2つのNの結合位置の関係は、3位又は4位、すなわちメタ位又はパラ位であってよい。
【0017】
さらに、上式(1)で表される構造単位は、
【化6】
であってよい。本明細書においては、式(6)で表されるポリマーを狭義のポリエーテルイミド、又は単にポリエーテルイミド(PEI)と呼ぶ。
【0018】
なお、上式(1)又は上式(6)の構成単位数は、好ましくは10以上400以下、より好ましくは30以上150以下であってよい。また、多孔質支持層に含まれる上述のポリマー(広義のポリエーテルイミド)の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上500,000以下、より好ましくは10,000以上50,000以下であってよい。重量平均分子量が上記の範囲であることで、適度な加工性が得られるとともに、多孔質支持層、ひいては複合半透膜の強度を向上することができる。用いられるポリマーの比重は1.2以上1.3以下であってよい。
【0019】
また、ポリエーテルイミド(PEI)の具体例として、SHPP US社製の「Ultem(登録商標)」シリーズであるUltem1000、4000、CRS5000、6000、9000等が挙げられ、Ultem1000を好適に用いることができる。
【0020】
さらに、本形態による上述のポリマーは、所定の架橋成分により架橋されてなるポリマー(以下、架橋ポリマー又は架橋後ポリマーという)である。多孔質支持層に用いられるポリマーが架橋されていることで、多孔質支持層、ひいては分離膜(複合半透膜)の耐有機溶媒性、特に非プロトン性極性溶媒(後に詳述)に対する耐性が向上する。そのため、多孔質支持層にリークスポット等のダメージが生じることなく、塩と有機溶剤との両方を継続的に除去することが可能な分離膜を構成できる。すなわち、優れた塩阻止性能及び優れた有機溶剤阻止性能の両方を備えた分離膜を提供することができる。
【0021】
本形態では、上記の所定の架橋成分として、
H2N-R1-NH2・・・(2)
〔式中、R1は、炭素数2以上20以下のアルキレン基である〕で表されるか、又は
H2N-R2-Ar-R3-NH2・・・(3)
〔式中、Arは、置換又は無置換の炭素数6以上10以下のアリーレン基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して、単結合又はアルキレン基であり、且つR2及びR3の炭素数の合計が2以上10以下である〕で表されるものを用いる。なお、Arが置換されたアリーレン基である場合、置換基は炭素数1以上3以下のアルキル基であってよい。
【0022】
上記架橋成分が、式(2)又は式(3)を有するジアミンであることで、架橋反応中、ジアミン架橋成分が比較的柔軟に動くことができ、ポリマー同士の架橋反応が促進される(架橋点を増やすことができる)ので、耐有機溶媒性をより一層向上でき、塩と有機溶剤との両方の長期間にわたる継続的な除去が可能な分離膜を提供できる。また、架橋後ポリマー中のポリマー同士の距離も適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性(硬度、弾性等)が得られると考えられる。
【0023】
上式に示されているように、架橋成分は、脂肪族ジアミンであっても芳香族ジアミンであってもよい。また、式(3)に示されているように、架橋成分には、芳香環に2つのアミノ基がいずれも直接結合した構造のものは含まれない。
【0024】
架橋成分が脂肪族ジアミンである場合、式(2)中のR1は、好ましくは炭素数3以上20以下、より好ましくは炭素数4以上8以下、さらに好ましくは炭素数5以上7以下のアルキレン基であってよい。炭素数の上記下限により、架橋反応中、ジアミン架橋成分が柔軟に動くことができ、ポリマー同士の架橋反応が促進されるという上記効果を向上できる。また、炭素数の上記上限により、架橋後ポリマー中のポリマー同士の距離が適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性が得られるという上記効果を向上できる。また、R1は、鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基であってよく、鎖式アルキレン基の場合には直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。但し、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、直鎖アルキレン基が好ましい。
【0025】
架橋成分が脂肪族ジアミンである場合、その具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、等が挙げられる。
【0026】
架橋成分が芳香族ジアミンである場合、式(3)中のR2及びR3の炭素数の合計は、好ましくは炭素数3以上9以下、より好ましくは炭素数4以上8以下、さらに好ましくは炭素数5以上7以下のアルキレン基であってよい。炭素数の合計の上記下限により、架橋反応中、ジアミン架橋成分が柔軟に動くことができ、ポリマー同士の架橋反応が促進されるという上記効果を向上できる。また、炭素数の合計の上記上限により、架橋後ポリマー中のポリマー同士の距離が適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性が得られるという上記効果を向上できる。また、R2及びR3は、直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。但し、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、R2及びR3のいずれかが、好ましくは両方が、直鎖アルキレン基であってよい。
【0027】
式(3)で示される芳香族ジアミンは、アリーレン基の存在によって、架橋ポリマーにおける架橋部分の耐有機溶媒性が向上し、それにより多孔質支持層の耐有機溶媒性を向上できるという観点からは好ましい。式(3)中のArは、好ましくは置換若しくは無置換のフェニレン基であり、より好ましくは置換若しくは無置換のp-フェニレン基であってよい。Arがフェニレン基であると、架橋反応中のジアミン架橋成分の柔軟な動きを過度に阻害することなく、ポリマー同士の架橋反応を維持できると共に、化学的に安定であるため上述の架橋ポリマーにおける架橋部分の耐有機溶媒性もより向上できる。なお、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、Arは無置換のアリーレン基であることが好ましい。
【0028】
架橋成分が芳香族ジアミンである場合、その具体例としては、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン等が挙げられる。
【0029】
なお、本形態における架橋ポリマーは、上述の架橋成分のうちの1種により架橋されていてもよいし、2種以上組み合わせられた架橋成分により架橋されていてもよい。その場合、脂肪族ジアミンと芳香族ジアミンとを組み合わせてもよい。
【0030】
上述のように、本形態による分離膜は、上述の式(2)又は式(3)で表される所定の架橋成分によって架橋された架橋ポリマーを多孔質支持層に含むことで、有機溶媒に対する耐性が向上するため、有機溶媒を含有する液の処理に好適である。ここで、有機溶媒には、非極性溶媒、プロトン性溶媒、及び非プロトン性極性溶媒が含まれていてよいが、本形態による分離膜は、特に非プロトン性極性溶媒に対する耐性、とりわけ比誘電率が6以上64以下である溶媒に対する耐性に優れる。また、上記非プロトン性極性溶媒は、多孔質支持層の形成のベースとされている架橋前ポリマー(広義のポリエーテルイミド)の溶解能が高い溶媒であってよい。
【0031】
非プロトン性極性溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジクロロメタン(DCM)、炭酸プロピレン(PC)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等が挙げられる。このうち、本形態による分離膜は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、酢酸エチル(EtOAc)、及びアセトンの1以上に対する耐性、特にジメチルアセトアミド(DMAc)に対する耐性が高い。
【0032】
なお、非極性溶媒の例としては、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。プロトン性溶媒の例としては、ギ酸、IPA、エタノール、メタノール、酢酸等が挙げられる。
【0033】
さらに、本形態によって構成された複合半透膜は、上述の有機溶媒を含有する液から有機溶媒を分離する性能(有機溶媒阻止性能)にも優れ、特に非プロトン性極性溶媒を含有する被処理液から非プロトン性極性溶媒を分離する性能に優れる。ここで、阻止性能は、複合半透膜による溶質の阻止率及び透水性を含む。本形態による複合半透膜は、有機溶媒及び塩の両方に対する高い阻止率を実現できるので、様々な産業排水から再生水を得るプロセスにおいて、好適に利用できる。被処理液に含まれている有機溶媒と塩とを一段階で除去できるため、処理設備の複雑化・処理プロセスの煩雑化を回避できる。
【0034】
なお、ジアミン架橋成分の選択において、脂肪族ジアミン(H2N-R1-NH2)と、芳香族ジアミン(H2N-R2-Ar-R3-NH2)とを比較して、R1の炭素数とR2及びR3の炭素数の合計とが同じである場合、塩及び有機溶媒の阻止性能(阻止率、透水性)の向上と言う観点からは、脂肪族ジアミンが好ましく、耐有機溶媒性という観点からは芳香族ジアミンが好ましい。
好ましいと言える。
【0035】
また、本形態により複合半透膜は、長時間にわたり圧力が掛かっても変形しにくい性質、すなわち優れた耐圧性を有する。逆浸透法による高い操作圧力、例えば1~12MPaという操作圧力での運転にも十分対応することができる。より具体的に言えば、複合半透膜のうち、多孔質支持層と分離機能層とからなる部分の圧縮率、つまり所定時間にわたる所定圧力での加圧によって圧縮されて減少した厚み分(初期厚みから加圧後の厚みを引いた値)の、初期厚みに対する割合も小さい。例えば、本形態による複合半透膜では、2時間にわたり5.5MPaの操作圧力で被処理液を処理した場合の圧縮率は20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下となり得る。
【0036】
なお、複合半透膜の使用前の多孔質支持層の空隙率(気孔率)は、40%以上70%以下であると好ましく、55%以上65%以下であるとより好ましい。上記範囲の空隙率を有することで、逆浸透膜として適切な塩阻止性能及び透水性が得られるとともに、複合半透膜の耐圧性及び強度を向上できる。さらに、長時間又は高圧の圧力付与によって複合半透膜が圧縮されて厚みが小さくなった状態でも、高い透過性能を維持できる。
【0037】
多孔質支持層の表面における平均孔径は、5nm以上50nm以下であると好ましく、7nm以上20nm以下であるとより好ましい。上記の平均孔径によって、逆浸透膜として、適切な塩阻止性能及び透水性を得ることができる。
【0038】
多孔質層は、本形態による作用・効果を妨げないのであれば、ポリエーテルイミド以外の成分、例えばポリエーテルイミド以外のポリマー、添加剤等含んでいてもよい。添加剤としては、コロイダルシリカ、ゼオライト等の機能粒子が挙げられる。その場合であっても、多孔質支持層中のポリエーテルイミドの含有量は90質量%以上であると好ましく、95質量%以上であるとより好ましい。そして、多孔質支持層はポリエーテルイミドから実質的になる、若しくはポリエーテルイミドからなることが好ましい。なお、本明細書において、所定成分「から実質的になる」とは、所定成分以外の、製造時に不可避的に生成又は混入する成分の含有が許容されることを意味する。
【0039】
また、多孔質層は、全体として均質な層であることが好ましい。本明細書において、均質な層とは、多孔質層が単相から構成されていること、すなわち、分離した複数の島状のポリマー相が当分野の通常の方法で観察されないことを指す。
【0040】
なお、複合半透膜における基材(
図1の符号3)としては、繊維平面構造体、具体的には、織物、編物、不織布等を用いることができる。このうち、不織布が好ましい。不織布は、スパンボンド法、スパンレース法、メルトブロー法、カーディング法、エアレイ法、湿式法、ケミカルボンディング法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェット法、ステッチボンド法、エレクトロスピニング法等によって作製されたものであってよい。また、不織布を構成する繊維の種類は限定されないが、合成繊維であると好ましい。繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ナイロン6、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、又はこれらのコポリマーであってよい。これらのうち、安価且つ寸法安定性及び成形性が高いこと、また耐油性が高いことから、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを用いることが好ましい。
【0041】
複合半透膜全体の厚みは、60μm以上250μm以下であってよい。多孔質層の厚みは、10μm以上100μm以下とすることができる。分離機能層の厚みは、0.01μm以上1μm以下とすることができる。また、基材の厚みは、50μm以上200μm以下とすることができる。
【0042】
なお、多孔質支持層における式(1)で表されるポリマーが、ジアミン架橋成分により架橋されていることは、赤外分光分析法を用いて、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認できる。例えば、架橋後の多孔質支持層の、分離機能層が配置される面をスキャンして得られたデータを、架橋前のデータ(ブランクデータ)と比較することができる。より具体的には、(i)イミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm-1付近及び/若しくは1780cm-1付近)、又は(ii)アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1660cm-1付近)、或いはその両方を比較する。(i)イミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm-1付近及び/若しくは1780cm-1付近)の強度がブランクデータより小さければ、且つ/又は(ii)アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1660cm-1付近)の強度がブランクデータより大きれば、ジアミド架橋成分による架橋が進んだと判断できる。また、(i)の吸収ピーク強度の減分が大きいほど、且つ/又は(ii)の吸収ピーク強度の増分が大きいほど、より架橋が進んだこと、すなわち、ポリマー1分子に当たりの架橋サイトが多い(架橋密度が大きい)と判定できる。
【0043】
<分離膜(複合半透膜)の製造方法>
上述の複合半透膜は、基材上に、上述の未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成すること(S10)、前記多孔質支持層の前記未架橋ポリマーを上述の架橋成分により架橋すること(S20)、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成すること(S30)によって製造できる。
【0044】
よって、本発明の一形態は、複合半透膜の製造方法であって、基材上に、式(1)で表される未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成すること(S10)、前記多孔質支持層の前記未架橋ポリマーを、式(2)又は式(3)で表される架橋成分により架橋すること(S20)、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成すること(S30)を含む方法であってよい。また、本発明の一形態は、基材上に、式(1)で表される未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成すること(S10)、前記多孔質支持層の前記未架橋ポリマーを、式(2)又は式(3)で表される架橋成分により架橋すること(S20)、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成すること(S30)によって製造された、複合半透膜であってよい。
【0045】
未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成する(S10)の方式は、特に限定されず、非溶媒誘起相分離法(NIPS)、熱誘起溶媒相分離(TIPS)等を用いることができる。但し、均一で幅広の多孔質層を製造できることから非溶媒誘起相分離法(NIPS)を用いることが好ましい。より具体的には、式(1)で表される未架橋ポリマーを溶媒に溶解して製膜溶液を得た後、製膜溶液を、不織布等の基材に、ナイフコーター等によって塗布する。その後、塗布された溶液中のポリマーを凝固させ、残存溶液を除去する。
【0046】
非溶媒誘起相分離法による多孔質支持層の形成(S10)においては、未架橋ポリマーを溶媒に溶解させる際、均一な製膜溶液を調製でき、また良好なミクロ相分離が得られることから、用いる溶媒は水溶性であり且つ高沸点のものが好ましい。例えば、用いられる溶媒は、沸点130℃以上250℃以下の水溶性溶媒であると好ましい。溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N-メチルピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。
【0047】
上記の製膜溶液の製造の際には、上記溶媒に加えて、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の水溶性ポリマー、グリセリン、ジエチレングリコール、水、アセトン、1,3-ジオキソラン等を、開孔剤として添加することができる。開孔剤を所定量添加することにより、多孔質支持層の気孔率、孔径等を調整することができる。
【0048】
未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成した(S10)後、当該多孔質支持層の未架橋ポリマーを、式(2)又は式(3)で表されるジアミン架橋成分を用いて架橋する(S20)。未架橋ポリマーの架橋(S20)は、具体的には、上記の多孔質支持層の形成(S10)により得られた基材と多孔質支持層とからなる構造体の、多孔質支持層側に、ジアミン架橋成分の溶液を付着させることによって行うことができる。例えば、上記の基材と多孔質支持層とからなる構造体の、少なくとも多孔質支持層の部分を、ジアミン架橋成分の溶液中に浸漬させてもよいし、構造体の多孔質支持層側に、ジアミン架橋成分の溶液を塗布してもよい。上記のようにジアミン架橋成分の溶液を多孔質支持層に付着させた後、水又はイソプロピルアルコール等の低級アルコールを含む液によって、場合によっては液を加温して洗浄し、反応しなかった残存アミン架橋成分を除去する。
【0049】
ジアミン架橋成分の溶液は、式(2)又は式(3)で表されるジアミンの水溶液であると好ましい。架橋成分の溶液の濃度は、好ましくは0.5質量以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上15質量%以下であってよい。架橋成分の溶液の濃度を0.5質量%以上とすることで、十分な架橋を形成でき、架橋ポリマーの耐有機溶媒性を向上できる。また、架橋成分の溶液の濃度を25質量%以下とすることで、得られる架橋ポリマー多孔質支持層の透水性を維持できる。
【0050】
よって、本発明の一形態は、未架橋ポリマーを含む多孔質支持層を形成すること(S10)、前記多孔質支持層の前記未架橋ポリマーを架橋すること(S20)、及び前記多孔質支持層上に分離機能層を形成すること(S30)を含み、前記未架橋ポリマーの架橋(S20)が、式(2)又は式(3)で表される架橋成分の濃度0.5質量%以上25質量%以下の溶液を、前記多孔質支持層に付着させることを含む製造方法によって製造された複合半透膜であってよい。
【0051】
多孔質支持層にジアミン架橋成分の溶液を付着させる時間、例えば、多孔質支持層をジアミン架橋成分の溶液に浸漬させる時間は、好ましくは10分以上180分以下、より好ましくは20分以上120分以下、さらに好ましくは30分以上90分以下であってよい。多孔質支持層をジアミン架橋成分の溶液に浸漬させる時間を上記範囲とすることで、十分な架橋を形成でき、架橋ポリマーの耐有機溶媒性を向上できると共に、得られる架橋ポリマー多孔質支持層の透水性が維持され、また生産性も向上できる。なお、多孔質支持層の未架橋ポリマーの架橋(S20)を分離機能層の形成(S30)の後に行う場合(後述)、上記の浸漬時間は、多孔質支持層の未架橋ポリマーの架橋(S20)を分離機能層の形成(S30)の前に行う場合と比べて長く、例えば1時間以上48時間以下、好ましくは12時間以上48時間以下であってよい。
【0052】
また、多孔質支持層にジアミン架橋成分の溶液を付着させる際の温度は、好ましくは10℃以上70℃以下、より好ましくは15℃以上40℃以下であってよい。架橋工程の温度を上記範囲とすることで、溶液の凍結を防止すると共に、溶媒の蒸発を防止できる。
【0053】
上述のように、分離機能層の形成(S30)は、一形態では、未架橋ポリマーの架橋(S20)の後に行うことができる。分離機能層は、好ましくは架橋ポリアミドを含む層であってよく、より好ましくは架橋ポリアミドからなる層であってよい。分離機能層を形成するには(S30)、上述のように基材上に形成された架橋ポリマー多孔質支持層の表面に、多官能アミン化合物の溶液を塗布し(S31)、さらに酸ハライド化合物の溶媒溶液に接触させること(S32)によって行うことができる。これにより、多官能アミンと酸ハライドとの界面重合が進行して、架橋ポリアミドが形成される。
【0054】
多官能アミン(2以上の反応性アミン基を有する化合物)は、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン、又はその組合せであってよい。芳香族多官能アミンの具体例としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン等、或いはこれらのN-アルキル化物、例えばN,N-ジメチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジメチルp-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルp-フェニレンジアミンが挙げられ、中でもm-フェニレンジアミンが好ましい。また、脂肪族多官能アミンは、鎖式又は脂環式多官能アミンであってよい。脂肪族多官能アミンの具体例としては、エチレンジアミン及びエチレンジアミン誘導体、1,6-ジアミノヘキサン等の鎖状ジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサン等の環状ジアミン、ピペラジン及びピペラジン誘導体が挙げられる。ピペラジン誘導体の例としては、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、エチレンジアミン等が挙げられ、中でもピペラジンが好ましい。上述の多官能アミンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
なお、分離機能層の形成の際に、m-フェニレンジアミン等の芳香族多官能アミンを用いた場合には、1価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。また、ピペラジン等の脂肪族多官能アミンを用いた場合には、2価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。
【0056】
酸ハライド化合物としては、上記多官能アミンとの反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されないが、一分子中に2個以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であると好ましい。酸ハライド化合物の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪酸のハライド化合物、フタル酸、イソフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸等の芳香族酸の酸ハライド化合物を用いることができる。これらの酸ハライド化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
多官能アミンが多孔質支持層に塗布される(S31)と、多孔質支持層に含まれるポリエーテルイミド内の環イミド構造が開環して、結合し、アミド結合(-CO-NH-)を形成し得る。そして、さらに酸ハライドの溶液を接触させると(S32)、多官能アミンに残っているアミノ基とトリメシン酸トリクロライドとが反応して、さらなるアミド結合(-CO-NH-)が形成される。このように、多官能アミンを用いることで、ポリエーテルイミドと酸ハライドとが多官能アミンを介して結合した状態を得ることができる。これにより、多孔質支持層と分離機能層との間での結合が強固になり、複合半透膜使用中の層間剥離やリークスポットの発生を防止できる。
【0058】
なお、多孔質支持層への多官能アミンの溶液の塗布(S31)において使用される、多官能アミンの溶液の濃度は、0.5質量%以上15質量%以下であってよい。当該濃度は、多官能アミンが芳香族多官能アミンである場合には、好ましくは1.8質量%以上15質量%以下、より好ましくは1.8質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.8質量%以上13質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下であってよい。また、上記濃度は、多官能アミンが脂肪族多官能アミンである場合には、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上10質量%以下であってよい。
【0059】
さらに、多官能アミンの溶液のpHは、好ましくは6.5以上13.5以下、より好ましくは7以上13以下であってよい。多官能アミンの溶液のpHは、当該溶液に、例えば、塩酸等の酸及び/又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することによって適宜調整することができる。
【0060】
なお、本形態による製造方法において、多孔質支持層の未架橋ポリマーの架橋(S20)及び分離機能層の形成(S30)の工程は、この記載順で行ってもよいし、記載順とは逆の順で行ってもよい。但し、多孔質層の未架橋ポリマーの架橋(S20)の後に分離機能層の形成(S30)を行った方が、ポリマーの架橋を確実に行うことができるので、耐有機溶媒性を高める効果が向上する。
【0061】
<用途等>
本形態による複合半透膜は、平膜状に構成することが好ましい。また、本形態による平膜状の複合半透膜は、当該複合半透膜を集水管の外側に渦巻き状に巻き付けて構成されるスパイラル型の膜モジュールにおいて好適に用いることができる。また、ディスクチューブ型の平膜モジュールにも適用することができる。
【0062】
本形態による複合半透膜は、有機溶媒を含む被処理液の脱塩処理、特に非プロトン性極性溶媒を含む被処理液の脱塩処理に好適に用いられる。このような被処理液の例としては、石油精製プラント、石油化学プラント、火力発電所、自動車製造工場、油脂製造工場、食品製造工場等で生じる排液、家庭で生じる排液、有機溶媒を含む海水、又はこれらを前処理して得られた液が挙げられる。
【0063】
なお、本発明の別の実施形態は、基材と、前記基材上に設けられた多孔質支持層と、を備え、前記多孔質支持層が上記式(1)で表され、
【化7】
〔式中、nは1以上8以下の整数であり、フタルイミド部分のベンゼン環へのOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、フェノール部分におけるOの結合位はそれぞれ独立して3位又は4位であり、ジアミン部分におけるNの結合位が3位又は4位である〕で表される構成単位を有するポリマーが、架橋成分により架橋されてなる架橋ポリマーを含み、前記架橋成分が、2以上の求核基を有する化合物を含む、分離膜であってよい。
【0064】
架橋成分は、式(1)で表されるポリマー中のイミド環と反応可能な2以上の官能基を有する化合物であってよい。さらに、架橋成分は、好ましくは2以上のアミノ基を有する化合物、すなわちジアミン又はポリアミンであってよい。より具体的には、架橋成分としては、上述の式(2)又は式(3)で表される化合物の他、ポリエーテルアミン類、ポリエチレンイミン類、及びこれらの誘導体等も挙げられる。なお、架橋成分がポリエチレンイミンである場合、化合物中の窒素原子数が6以上であると好ましい。
【0065】
本形態における架橋成分として用いられるポリエーテルアミン類は、エチレンオキサイド(EO)及び/又はプロピレンオキサイド(PO)を主骨格として有する、2以上のアミノ基を有する化合物であってよい。ポリエーテルアミン類又はその誘導体の例としては、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ジアミン、トリエチレングリコールジアミン等が挙げられる。また、ポリエチレンイミン類又はその誘導体の例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ジメチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【実施例0066】
以下、実施例に基づき本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
ポリエーテルイミド(SHPP US社製「Ultem1000」、重量平均分子量:32,000)20質量部、N,N-ジメチルアセトアミド51質量部、1,3-ジオキソラン29質量部を50℃で加熱溶解し、均一な製膜用溶液を調製した。当該製膜用溶液を、室温まで冷却した後、ポリエステル製不織布基材(厚み0.1mm、密度0.7g/cm3)に、コーターギャップ150μmに調整した製膜装置を用いて、含浸塗布した。200mmの空走距離を経て、40℃の凝固液(水)中に浸潰して凝固させ、さらに70℃の水洗槽中で洗浄した。このようにして得られた基材及びポリマー多孔質支持層からなる膜を、架橋成分溶液であるヘキサメチレンジアミン(HDA)の3.0質量%水溶液を満たした液槽中に上記膜の支持膜層側のみに接触させ、25℃で1時間にわたり浸漬させた。その後、膜を液槽から取り出して、水で洗浄した。これにより、架橋処理後の膜が得られた。
【0068】
さらに、上記の架橋処理後の膜の多孔質支持層の表面に、m-フェニレンジアミンの3.0質量%水溶液を接触させ、その後、余剰のm-フェニレンジアミン水溶液を除去した。そして、多孔質層の上記m-フェニレンジアミン水溶液を接触させた側を、トリメシン酸トリクロライド(芳香族酸ハライド化合物)0.1質量%及びイソフタル酸クロリド0.13質量%を含有するナフテン溶液に30秒間接触させた。これにより、多孔質層上に架橋ポリアミド層(分離機能層)が形成された。その後、140℃の乾燥機にて乾燥させることによって、基材、多孔質層、及び分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を得た。
【0069】
(実施例2)
基材及びポリマー多孔質支持層からなる膜を、架橋成分溶液に浸漬させる際の浸漬時間を30分としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0070】
(実施例3)
ポリマー多孔質支持層を架橋させるために使用される架橋成分溶液の濃度を1.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0071】
(実施例4)
ポリマー多孔質支持層を架橋させるために使用される架橋成分溶液の濃度を10.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0072】
(実施例5)
ポリマー多孔質支持層を架橋するための架橋成分として、ヘキサメチレンジアミン(HDA)に代えてp-キシレンジアミン(XDA)としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0073】
(実施例6)
ポリマー多孔質支持層を架橋するための架橋成分として、ヘキサメチレンジアミン(HDA)に代えてエチレンジアミン(EDA)としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0074】
(実施例7)
実施例1と同様にして、基材及びポリマー多孔質支持層からなる膜(ポリマー架橋をする前の膜)を形成した後、架橋成分溶液を適用することなく、分離機能層の形成を実施例1と同様の手順で行った。その後、布基材、多孔質層、及び分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を、架橋成分溶液であるヘキサメチレンジアミン(HDA)の3.0質量%水溶液を満たした液槽中で、25℃で24時間にわたり浸漬させた。膜を液槽から取り出して、水で洗浄した。すなわち、ポリマー多孔質支持層の架橋処理を、分離機能層の形成後に行った。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同様にして、基材及びポリマー多孔質支持層からなる膜(ポリマー架橋前膜)を形成した後、架橋成分溶液を適用することなく、分離機能層の形成を実施例1と同様の手順で行い、布基材、多孔質層、及び分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を得た。
【0076】
(比較例2)
ポリマー多孔質支持層を架橋するための架橋成分として、ヘキサメチレンジアミン(HDA)に代えてm-フェニレンジアミン(MPD)としたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0077】
実施例1~実施例7、比較例1、及び比較例2について以下の評価を行った。
【0078】
<耐有機溶媒性評価>
分離機能層形成前の段階での、基材及び架橋ポリマー多孔質支持層からなる膜の耐有機溶媒性を評価した。上記膜全体を、N,N-ジメチルアセトアミド100質量%に、25℃で1時間にわたり浸漬させたた後、その状態を目視で観察した。さらに、最終的に得られた複合半透膜の耐有機溶媒性も、同じ例の別サンプルを用いて同様にして評価した。分離機能層形成前の評価についても、分離機能層形成後の評価(複合半透膜の評価)についても、評価基準は以下の通りとした。
〇:多孔質支持層の全て又はほとんど溶解しなかった
△:多孔質支持層の一部が溶解していた
×:多孔質支持層がほとんど又は全て溶解していた
耐有機溶媒性の評価を表1に示す。
【0079】
【表1】
表1中の濃度(%)は、質量%濃度である。
【0080】
表1に示すように、多孔質支持層を構成するポリマーが処理されていない比較例1に対し、多孔質支持層を構成するポリマーをヘキサメチレンジアミン(HDA)、p-キシレンジアミン(XDA)、又はエチレンジアミン(EDA)で処理した実施例1~実施例7では分離機能層の形成の前でも後でも高い耐有機溶媒性を示すこと、特にヘキサメチレンジアミン(HDA)又はp-キシレンジアミン(XDA)を用いた実施例1~実施例5及び実施例7でより優れた耐有機溶媒性を示すことが分かった。なお、ジアミンであっても、m-フェニレンジアミン(MPD)による処理を行った比較例2では、耐有機溶媒性が得られなかった。
【0081】
<透過流束測定(分離機能層形成前段階での評価)>
分離機能層形成前の段階での、基材及び架橋ポリマー多孔質支持層からなる膜を、膜評価用装置(日東電工株式会社製フロー式平膜テストセル、メンブレンマスターC70-F、有効透過面積は32.5cm2)に設置し、RO水を用いて、供給流量5L/分、圧力0.35MPaで、クロスフロー方式で10分間運転した。供給水の膜透過水量を測定し、分離膜1平方メートル当たり1日の透水量に換算した値を透過流束(m3/m2/d)とした。結果を表2に示す。
【0082】
<塩阻止性能評価(複合半透膜の評価)>
実施例1~実施例7で得られた複合半透膜を、膜評価用装置(日東電工株式会社製フロー式平膜テストセル、メンブレンマスターC70-F、有効透過面積は32.5cm2)に設置した。3.2質量%のNaCl水溶液を用い、25℃、供給流量5L/分、圧力5.5MPaで、クロスフロー方式で1時間運転した。供給側と透過側とでNaClの濃度を測定して、塩阻止率(%)を算出した。また、供給水の膜透過水量を測定し、分離膜1平方メートル当たり1日の透水量に換算した値を透過流束(m3/m2/d)とした。結果を表2に示す。
【0083】
<有機溶媒阻止性能評価(複合半透膜の評価)>
上記の膜評価用装置を用いて、実施例1~実施例7で得られた複合半透膜の有機溶媒阻止性能を評価した。ジメチルアセトアミド(DMAc)、酢酸エチル、及びアセトンの3質量%水溶液を調製し、有機溶媒ごとに、各例の複合半透膜を評価した。いずれの有機溶媒についても、上記装置に各例の複合半透膜を設置して、25℃、供給流量5L/分、圧力3.8MPaで、クロスフロー方式で30分間運転した。供給側と透過側とで有機溶媒の濃度を測定して、有機溶媒阻止率(%)を算出した。また、<塩阻止性能評価>と同様に、透過流束(m3/m2/d)も求めた。結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
表2に示すように、実施例1~実施例7による複合半透膜は、上述の耐有機溶媒性に加えて、塩阻止性能及び有機溶剤阻止性能にも優れることが分かった。特に、脂肪族の架橋成分を用いて製造された複合半透膜(実施例1~実施例4、実施例6及び実施例7)の塩阻止率及び有機溶剤阻止率がより高く、さらに2つのアミノ基間の距離が比較的長い架橋成分(ヘキサメチレンジアミン(HDA))を用いて製造された複合半透膜(実施例1~実施例4及び実施例7)の塩阻止率及び有機溶剤阻止率が特に高いことが分かった。
【0086】
また、多孔質支持層の架橋成分溶液への浸漬時間1時間で製造された複合半透膜(実施例1)は、浸漬時間の短い例(実施例2)よりも塩阻止率及び有機溶剤阻止率がいずれも高いことが分かった。また、架橋成分溶液の濃度がより高い複合半透膜(実施例1、4)が、架橋成分溶液の濃度が低い例(実施例3)よりも塩阻止率及び有機溶剤阻止率がいずれも高いことも分かった。また、実施例1及び実施例7より、多孔質支持層のポリマーに対する架橋成分による処理は分離機能層の形成の前で行っても後で行っても、十分な塩阻止性能及び有機溶剤阻止性能を得ることができるが、分離機能層の形成前の処理(実施例1)の方が、塩阻止率及び有機溶剤阻止率を高める作用に優れることが分かった。
【0087】
なお、実施例1、実施例5、実施例6、及び比較例1における架橋後の膜(分離機能層形成前の膜)をフーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、Spectrum TWO)に取り付けて、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)のATR(全反射)法により700~4000cm
-1の範囲でスキャンした。この際、プリズムはゲルマニウムを用い、入射光の角度を45°とし、スキャン回数16回の多重反射(16回反射)で測定した。得られた結果から、複合半透膜においてもイミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm
-1付近)の強度と、アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1660cm
-1付近)の強度とを抽出して、上記例同士で比較した。
図2(a)及び(b)に、結果を示す。
図2より、実施例1、実施例5、及び実施例6ではいずれも、架橋成分の溶液による処理を行っていない比較例1に対し、イミド由来のピーク強度が減少し、アミド由来のピーク強度が増加しており、多孔質支持層のポリマーが架橋されたことが確認された。また、架橋成分の溶液の濃度が同じ実施例1、実施例5、及び実施例6同士で比較すると、イミド由来のピーク強度の減少、及びアミド由来のピーク強度の増加が、ヘキサメチレンジアミン(HDA)を架橋成分として使用した実施例1において最も大きく、架橋が進んだことが分かった。