(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137242
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】複合半透膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/64 20060101AFI20240927BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D71/64
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048687
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】壷井 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 長久
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA41
4D006HA61
4D006MA03
4D006MA09
4D006MB09
4D006MC54
4D006NA44
4D006NA45
4D006NA49
4D006NA59
(57)【要約】
【課題】有機溶媒含有液を継続的に十分な処理能で脱塩可能な複合半透膜を製造する技術を提供する。
【解決手段】複合半透膜の製造方法が、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成する多孔質支持層形成ステップと、前記多孔質支持層に、架橋成分と親水化剤とを含む水溶液を接触させることにより前記ポリエーテルイミドを架橋させる架橋ステップと、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成する分離機能層形成ステップとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成する多孔質支持層形成ステップと、
前記多孔質支持層に、架橋成分と親水化剤とを含む水溶液を接触させることにより前記ポリエーテルイミドを架橋させる架橋ステップと、
前記多孔質支持層上に分離機能層を形成する分離機能層形成ステップと、を含む複合半透膜の製造方法。
【請求項2】
架橋ステップが、前記多孔質支持層を前記水溶液に浸漬させた後、熱処理することを含む、請求項1に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を、60℃以上200℃以下の温度で行う、請求項2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
前記親水化剤が、強酸基を有する有機酸である、請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項5】
前記親水化剤が、カンファスルホン酸(CSA)及びパラトルエンスルホン酸(pTSA)の1以上を含む、請求項4に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項6】
前記親水化剤の濃度が、3質量%以上15質量%以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記架橋成分が、前記ポリエーテルイミド中のイミド環と反応可能な2以上の官能基を含む架橋成分を含む、請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項8】
前記架橋成分が、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、及び1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン);
p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ジアミン、及びトリエチレングリコールジアミン;並びに
ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、及びジメチルエチレンジアミンを含む群から選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項9】
前記架橋ステップ後、前記多孔質支持層を洗浄する洗浄ステップを含む、請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項10】
前記分離機能層形成ステップが、前記多孔質支持層の表面上で多官能アミン及び酸クロライドと反応させることによって、架橋ポリアミド分離機能層を形成することを含む、請求項1又は2に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合半透膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業排水処理の分野等で、有機溶媒を含有する排水の膜分離に係る技術の重要性は知られており、分離膜の構成材料として耐有機溶媒性の高い材料が検討されている。例えば、特許文献1には、所定構造のポリエーテルイミドからなる微多孔性膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の膜構成材料では、溶媒の種類によっては耐性が十分でないものもあり、様々な有機溶媒に対応可能な材料が求められている。また、特許文献1に記載の微多孔性膜はシリカやバクテリアの濾過用の膜であり、同文献では、脱塩処理までを考慮した分離膜の構成、及びその製造条件までは検討されていない。
【0005】
よって、本発明の一態様は、耐有機溶媒性が高く且つ十分な脱塩機能を備えた分離膜を製造する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成する多孔質支持層形成ステップと、前記多孔質支持層に、架橋成分と親水化剤とを含む水溶液を接触させることにより前記ポリエーテルイミドを架橋させる架橋ステップと、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成する分離機能層形成ステップと、を含む複合半透膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、耐有機溶媒性が高く且つ十分な脱塩機能を備えた分離膜を製造する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による複合半透膜の模式的な断面図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態による複合半透膜の製造方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の製造方法により製造される分離膜は複合半透膜である。
図1に、複合半透膜10の構成を模式的に示す。
図1に示すように、複合半透膜10は、多孔質支持層2と、多孔質支持層2上に設けられた分離機能層(活性層若しくはスキン層ともいう)1とを備えている。また、多孔質支持層2は基材3の上に形成されていてもよい。複合半透膜10における分離機能層1は最上に配置された極薄い層(0.01μm以上1μm以下)であり、複合半透膜10の分離処理が主として行われる層である。多孔質支持層2は、主として上記分離機能層1を支持する役割を果たす。また、基材3は、多孔質支持層2をさらに支持する部分である。なお、本明細書において、「半透膜」とは、被処理液の一部の成分を透過させ、それ以外の成分を透過させない膜を指す。また、複合半透膜における「複合」とは、異なる機能又は構成を有する複数の層が積層されてなることを意味する。
【0010】
図2に、本実施形態による製造方法のフロー図を示す。
図2に示すように、本形態による製造方法は、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成する多孔質支持層形成ステップ(S10)と、前記多孔質支持層に、架橋成分と親水化剤とを含む水溶液を接触させることにより前記ポリエーテルイミドを架橋させる架橋ステップ(S20)と、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成する分離機能層形成ステップ(S30)とを有していてよい。以下、各ステップについて詳説する。
【0011】
<多孔質支持層形成ステップ(S10)>
多孔質支持層形成ステップ(S10)では、
図1に示すように基材3上に、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層2を形成できる。
【0012】
本形態で用いられる基材としては、繊維平面構造体、具体的には、織物、編物、不織布等を用いることができる。このうち、不織布が好ましい。不織布は、スパンボンド法、スパンレース法、メルトブロー法、カーディング法、エアレイ法、湿式法、ケミカルボンディング法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェット法、ステッチボンド法、エレクトロスピニング法等によって作製されたものであってよい。また、不織布を構成する繊維の種類は限定されないが、合成繊維であると好ましい。繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ナイロン6、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、又はこれらのコポリマーであってよい。これらのうち、安価且つ寸法安定性及び成形性が高いこと、また耐油性が高いことから、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを用いることが好ましい。
【0013】
多孔質支持層形成ステップ(S10)にて形成される多孔質支持層は、ポリエーテルイミドを含む。本明細書において「ポリエーテルイミド」とは、芳香族ビス(エーテル無水物)と有機ジアミンとが重合されてなるポリマーであって、例えば
【化1】
で表される構成単位を有するポリマーであってよい。上式(1)において、nは、1以上8以下の整数であってよく、好ましくは2以上6以下、より好ましくは3以上5以下であってよい。また、-C
nH
2n-は、鎖式又は脂環式のアルキレン基であってよく、鎖式アルキレン基の場合には、直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。
【0014】
また、式(1)中の2つのフタルイミド部分(フタルイミドにおける窒素に結合する水素及びベンゼン環炭素に結合する水素を取り除いた式で表される部分)に関し、このフタルイミド部分のベンゼン環への「O」の結合位は、それぞれ独立して任意であってよく、好ましくはそれぞれ独立して3位又は4位であってよい。すなわち、上式(1)の構成単位中、
【化2】
で表される部分において、それぞれ独立して、「O」は、ベンゼン環の3位又は4位に結合していてよい。
【0015】
また、式(1)中の2つのフェノール部分(フェノールにおける水酸基の水素及びベンゼン環炭素に結合する炭素を取り除いた部分)に関し、このフェノール部分におけるベンゼン環への「O」の結合位は、それぞれ独立して独立して任意であってよく、好ましくはそれぞれ独立して3位又は4位であってよい。すなわち、上式(1)の構成単位中、
【化3】
で表される部分において、それぞれ独立して、「O」はベンゼン環の3位又は4位に結合されていてよい。
【0016】
さらに、式(1)中のジアミン由来の部分(ジアミン中の各アミノ基の2つの水素を取り除いた部分)に関し、このジアミン部分におけるNの結合位は3位又は4位であってよい。すなわち、
【化4】
で表される部分において、ベンゼン環に結合する2つのNの結合位置の関係は、3位又は4位、すなわちメタ位又はパラ位であってよい。
【0017】
さらに、上式(1)で表される構造単位は、
【化5】
であってよい。本明細書においては、式(5)で表されるポリマーを、狭義のポリエーテルイミドと呼ぶ場合がある。
【0018】
なお、上式(1)又は上式(5)の構成単位数は、好ましくは10以上400以下、より好ましくは30以上150以下であってよい。また、多孔質支持層に含まれる上述のポリマー(広義のポリエーテルイミド)の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上500,000以下、より好ましくは10,000以上50,000以下であってよい。重量平均分子量が上記の範囲であることで、適度な加工性が得られるとともに、多孔質支持層、ひいては複合半透膜の強度を向上することができる。用いられるポリマーの比重は1.2以上1.3以下であってよい。
【0019】
ポリエーテルイミドの具体例としては、SHPP US社製の「Ultem(登録商標)」シリーズであるUltem1000、4000、CRS5000、6000、9000等が挙げられ、このうちUltem1000が好ましい。
【0020】
多孔質支持層形成ステップ(S10)における、多孔質支持層の形成方式は、特に限定されず、非溶媒誘起相分離法(NIPS)、熱誘起溶媒相分離(TIPS)等を用いることができる。但し、均一で幅広の多孔質層を製造できることから非溶媒誘起相分離法(NIPS)を用いることが好ましい。より具体的には、式(1)で表されるポリエーテルイミドを溶媒に溶解して製膜溶液を得た後、製膜溶液を、不織布等の基材に、ナイフコーター等によって塗布する。その後、塗布された溶液中のポリエーテルイミドを凝固させ、残存溶液を除去する。
【0021】
多孔質支持層形成ステップ(S10)を非溶媒誘起相分離法により行う場合、ポリエーテルイミドを溶媒に溶解させる際、均一な製膜溶液を調製でき、また良好なミクロ相分離が得られることから、用いる溶媒は水溶性であり且つ高沸点のものが好ましい。例えば、用いられる溶媒は、沸点130℃以上250℃以下の水溶性溶媒であると好ましい。溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N-メチルピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。
【0022】
上記の製膜溶液の製造の際には、上記溶媒に加えて、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の水溶性ポリマー、グリセリン、ジエチレングリコール、水、アセトン、1,3-ジオキソラン等を、開孔剤として添加することができる。開孔剤を所定量添加することにより、多孔質支持層の気孔率、孔径等を調整することができる。
【0023】
なお、多孔質支持層を形成する材料には、ポリエーテルイミド以外の成分、例えばポリエーテルイミド以外のポリマー、添加剤等が含まれていてもよい。添加剤としては、コロイダルシリカ、ゼオライト等の機能粒子が挙げられる。その場合、多孔質支持層中のポリエーテルイミドの含有量は90質量%以上であると好ましく、95質量%以上であるとより好ましい。そして、多孔質支持層はポリエーテルイミドから実質的になる、若しくはポリエーテルイミドからなることが好ましい。なお、本明細書において、所定成分「から実質的になる」とは、所定成分以外の、製造時に不可避的に生成又は混入する成分の含有が許容されることを意味する。
【0024】
また、多孔質支持層形成ステップ(S20)にて形成される多孔質支持層は、全体として均質な層であることが好ましい。本明細書において、均質な層とは、多孔質層が単相から構成されていること、すなわち、分離した複数の島状のポリマー相が当分野の通常の方法で観察されないことを指す。
【0025】
<架橋ステップ(S20)>
多孔質支持層形成ステップ(S10)の後、架橋ステップ(S20)にて、多孔質支持層、具体的には多孔質層を形成するポリエーテルイミドを架橋する。ポリエーテルイミドを架橋することで耐有機溶媒性、特に非プロトン性極性溶媒(後述)に対する耐性が高まる。架橋には、架橋成分を含む液を、従前のステップで形成された多孔質支持層の側に付着させることによって行うことができる。
【0026】
架橋ステップ(S20)では、上記の多孔質支持層形成ステップ(S10)にて得られた基材と多孔質支持層とからなる構造体の、多孔質支持層側に、架橋成分の溶液(架橋成分溶液)を接触若しくは付着させる。例えば、上記の基材と多孔質支持層とからなる構造体の、少なくとも多孔質支持層の部分を、架橋成分溶液中に浸漬させてもよいし、構造体の多孔質支持層側に、架橋成分溶液を塗布してもよい。
【0027】
架橋ステップ(S20)で用いられる架橋成分は、ポリエーテルイミドの分子同士を架橋させて架橋ポリエーテルイミドを形成できる成分である。架橋成分は、2以上の求核基を有する化合物、より具体的には、ポリエーテルイミドのイミド環と反応可能な2以上の官能基を有する化合物であってよく、好ましくは2以上のアミノ基を有する化合物、すなわちジアミン又はポリアミンであってよい。
【0028】
上記架橋成分としては、2以上の求核基を有する、炭化水素化合物、ポリエーテルアミン類、ポリエチレンイミン類、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0029】
炭化水素化合物としては、炭化水素の2以上の水素がアミノ基で置換された化合物であってよく、例えば、、
H2N-R1-NH2・・・(6)
〔式中、R1は、炭素数2以上20以下の鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基である〕で表されるか、又は
H2N-R2-Ar-R3-NH2・・・(7)
〔式中、Arは、置換又は無置換の炭素数6以上10以下のアリーレン基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して、単結合又はアルキレン基であり、且つR2及びR3の炭素数の合計が2以上10以下である〕で表される化合物であってよい。なお、Arが置換されたアリーレン基である場合、置換基は炭素数1以上3以下のアルキル基であってよい。
【0030】
上記架橋成分が、式(6)又は式(7)を有するジアミンであることで、架橋反応中、ジアミン架橋成分が比較的柔軟に動くことができ、ポリエーテルイミド同士の架橋反応が促進される(架橋点を増やすことができる)ので、耐有機溶媒性をより一層向上でき、塩と有機溶剤との両方の長期間にわたる継続的な除去が可能な分離膜を提供できる。また、架橋後ポリエーテルイミド中のポリマー同士の距離も適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性(硬度、弾性等)が得られると考えられる。
【0031】
上式(6)及び(7)より明らかであるように、架橋成分は、脂肪族ジアミンであっても芳香族ジアミンであってもよい。
【0032】
架橋成分が脂肪族ジアミンである場合、式(6)中のR1は、好ましくは炭素数3以上20以下、より好ましくは炭素数4以上8以下、さらに好ましくは炭素数5以上7以下のアルキレン基であってよい。炭素数の上記下限により、架橋反応中、ジアミン架橋成分が柔軟に動くことができ、ポリエーテルイミド同士の架橋反応が促進されるという上記効果を向上できる。また、炭素数の上記上限により、架橋後ポリエーテルイミド中のポリマー同士の距離が適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性が得られるという上記効果を向上できる。また、R1は、鎖式アルキレン基又は脂環式アルキレン基であってよく、鎖式アルキレン基の場合には直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。但し、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、直鎖アルキレン基が好ましい。
【0033】
架橋成分が脂肪族ジアミンである場合、その具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン)等が挙げられる。
【0034】
架橋成分が芳香族ジアミンである場合、式(7)中のR2及びR3の炭素数の合計は、好ましくは炭素数3以上9以下、より好ましくは炭素数4以上8以下、さらに好ましくは炭素数5以上7以下のアルキレン基であってよい。炭素数の合計の上記下限により、架橋反応中、ジアミン架橋成分が柔軟に動くことができ、ポリマー同士の架橋反応が促進されるという上記効果を向上できる。また、炭素数の合計の上記上限により、架橋後ポリエーテルイミド中のポリマー同士の距離が適度に保たれ、多孔質支持層を構成するポリマーとしての適度な特性が得られるという上記効果を向上できる。また、R2及びR3は、直鎖のアルキレン基であっても分枝のアルキレン基であってもよい。但し、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、R2及びR3のいずれかが、好ましくは両方が、直鎖アルキレン基であってよい。
【0035】
式(7)で示される芳香族ジアミンは、アリーレン基の存在によって、架橋後のポリエーテルイミドにおける架橋部分の耐有機溶媒性が向上し、それにより多孔質支持層の耐有機溶媒性を向上できるという観点からは好ましい。式(7)中のArは、好ましくは置換若しくは無置換のフェニレン基であり、より好ましくは置換若しくは無置換のp-フェニレン基であってよい。Arがフェニレン基であると、架橋反応中のジアミン架橋成分の柔軟な動きを過度に阻害することなく、ポリエーテルイミド同士の架橋反応を維持できると共に、化学的に安定であるため上述の架橋後ポリエーテルイミドにおける架橋部分の耐有機溶媒性もより向上できる。なお、架橋成分が柔軟に動くことができるという観点では、Arは無置換のアリーレン基であることが好ましい。
【0036】
架橋成分が芳香族ジアミンである場合、その具体例としては、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン等が挙げられる。
【0037】
さらに、架橋成分がポリエーテルアミン類である場合、エチレンオキサイド(EO)及び/又はプロピレンオキサイド(PO)を主骨格として有する、2以上のアミノ基を有する化合物であってよい。ポリエーテルアミン類又はその誘導体の例としては、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ジアミン、トリエチレングリコールジアミン等が挙げられる。また、ポリエチレンイミン類又はその誘導体の例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ジメチルエチレンジアミン等が挙げられる。なお、架橋成分がポリエチレンイミン類である場合には、化合物中の窒素原子数が6以上であると好ましい。
【0038】
なお、架橋ステップ(S20)で使用される架橋成分は、1種単独であってもよいし、2種以上組み合わせられてもよい。後者の場合、脂肪族ジアミンと芳香族ジアミンとを組み合わせてもよい。
【0039】
架橋成分溶液中の架橋成分の含有量は、架橋成分溶液の全量に対し、好ましくは0.5質量以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上15質量%以下であってよい。架橋成分の溶液の濃度を0.5質量%以上とすることで、十分な架橋を形成でき、多孔質支持層の耐有機溶媒性を向上できる。また、架橋成分の溶液の濃度を25質量%以下とすることで、多孔質支持層の、透水性を含む膜性能が維持される。
【0040】
さらに、架橋ステップ(S20)にて用いられる架橋成分溶液は、上記の架橋成分に加え、親水化剤を含有する。親水化剤は、架橋成分とポリエーテルイミドとの架橋反応を阻害することなく、架橋後ポリエーテルイミド多孔質支持層の表面を親水化できる(親水性を高める)機能を有する剤である。また、親水化剤は、架橋前のポリエーテルイミドを膨潤させないものが好ましい。例えば、親水化剤は、1分子中に親油基と親水基とを有する化合物であってよく、例えば、強酸基を有する有機酸であってよい。よって、親水化剤に含まれる親水基としては、水に溶けて解離する強酸基、例えば、芳香族スルホン酸、脂肪族スルホン酸、脂環式スルホン酸、トリフルオロ酢酸、硝酸、塩酸、硫酸等に由来する酸性基が挙げられる。親水化剤は、特に、スルホン酸基を有する有機酸であると好ましい。また、親水化剤に含まれる親油性基としては、炭素数5以上50以下の置換又は非置換の炭化水素基であってよい。親水化剤としては、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素、又はスルホン酸基を有する脂環式炭化水素が好ましい。そして、親水化剤の具体例としては、カンファスルホン酸(CSA)、パラトルエンスルホン酸(pTSA)等が挙げられる。
【0041】
架橋ステップ(S20)後、後続の分離機能層形成ステップ(S30)を行うが、分離機能層の適切な形成のためには、架橋後の多孔質支持層の表面の親水性が高くなっていることが好ましい。本形態では、上述のように架橋ステップ(S20)で使用される架橋成分溶液に親水化剤が加えられていることで、架橋後の多孔質のポリエーテルイミド層に高い親水性が付与される。そのため、架橋後の多孔質支持層に最初に塗布される多官能アミン水溶液(後述)に対する濡れ性が向上し、所望の分離機能層の形成を行うことができる。
【0042】
上記の親水化剤の、架橋成分溶液の全量に対する含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であってよい。親水化剤の含有量が3質量%以上であることで、上述の多孔質支持層の表面を親水化するという作用を向上できる。また、親水化剤の含有量が15質量%以下であることで、分離機能層形成ステップ(S30)における反応を阻害することなく所望の分離機能層の形成を行うことができる。
【0043】
架橋ステップ(S20)では、上述のように多孔質支持層を架橋成分溶液に接触させた後、熱処理を施すこともできる。熱処理を施すことで架橋速度が増すので、架橋ステップ(S20)にかかる時間を短縮でき、ひいては製造時間の短縮が可能となる。また、熱処理を行った場合、多孔質支持層の表面から水性成分が揮発することで表面の親水性が低下することもあるが、本形態では、多孔質支持層に適用される架橋成分溶液に上述の親水化剤が添加されていることで、そのような表面の親水性の低下も防止できる。よって、製造時間の短縮ができると共に、適切な分離機能層の形成が可能となり、ひいては適切な脱塩機能を有する複合半透膜を得ることができる。
【0044】
架橋ステップ(S20)において、架橋成分溶液の適用後に熱処理を施す場合、熱処理の温度は、好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは80℃以上150℃以下であってよい。熱処理の温度を60℃以上とすることで、架橋速度を高めることができ、製造時間の短縮に寄与できる。また、熱処理の温度を200℃以下とすることで、多孔質支持層に熱収縮等の変性が生じることを防止できる。上記熱処理のための時間は、好ましくは30秒以上60分以下、より好ましくは1分以上40分以下であってよい。
【0045】
なお、多孔質支持層に架橋成分溶液を接触させる時間、例えば多孔質支持層を架橋成分溶液に浸漬させる時間は、架橋成分の種類、濃度、熱処理の有無等の条件によって異なるが、好ましくは5秒以上180分以下、より好ましくは30秒以上120分以下、さらに好ましくは1分以上90分以下であってよい。多孔質支持層をジアミン架橋成分の溶液に浸漬させる時間を上記範囲とすることで、十分な架橋を形成でき、架橋後ポリエーテルイミドの耐有機溶媒性を向上できると共に、得られる多孔質支持層の透水性が維持され、また生産性も向上できる。また、上述の熱処理を施す場合には、多孔質支持層に架橋成分溶液を接触させる時間を短縮することができる。熱処理の条件にもよるが、多孔質支持層に架橋成分溶液を接触させる時間は、例えば、60分以下、30分以下、10分以下、又は5分以下とすることもできる。
【0046】
また、多孔質支持層に架橋成分溶液を接触させる際の温度は、好ましくは10℃以上70℃以下、より好ましくは15℃以上40℃以下であってよい。架橋工程の温度を上記範囲とすることで、溶液の凍結を防止すると共に、溶媒の蒸発を防止できる。
【0047】
なお、架橋ステップ(S20)後、分離機能層形成ステップ(S30)を行うが、分離機能層形成ステップ(S30)の前に、残存する余分な成分(架橋成分及び/又は親水化剤)を除去するため、洗浄ステップがあってもよい。洗浄ステップでは、少なくとも架橋された多孔質支持層を、水及び低級アルコールの1以上の洗浄液で洗浄する。例えば、少なくとも架橋された多孔質支持層を、水及び低級アルコールの1以上の洗浄液に浸漬させる。低級アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等であってよく、イソプロピルアルコールが好ましい。その際、洗浄液を40℃以上80℃以下に加温してもよい。また、多孔質支持層を洗浄液に浸漬させる場合には、その浸漬時間は、30分以上120分以下であってよい。
【0048】
<分離機能層形成ステップ(S30)>
分離機能層形成ステップ(S30)では、上述のように基材上に形成された架橋ポリエーテルイミド多孔質支持層の表面に、多官能アミン化合物の溶液を塗布し(S31)、さらに酸ハライド化合物の溶媒溶液に接触させる(S32)。これにより、多官能アミンと酸ハライドとの界面重合が進行して、架橋ポリアミド分離機能層を形成できる。
【0049】
多官能アミン(2以上の反応性アミン基を有する化合物)は、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン、又はその組合せであってよい。芳香族多官能アミンの具体例としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン等、或いはこれらのN-アルキル化物、例えばN,N-ジメチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジメチルp-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルp-フェニレンジアミンが挙げられ、中でもm-フェニレンジアミンが好ましい。また、脂肪族多官能アミンは、鎖式又は脂環式多官能アミンであってよい。脂肪族多官能アミンの具体例としては、エチレンジアミン及びエチレンジアミン誘導体、1,6-ジアミノヘキサン等の鎖状ジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサン等の環状ジアミン、ピペラジン及びピペラジン誘導体が挙げられる。ピペラジン誘導体の例としては、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、エチレンジアミン等が挙げられ、中でもピペラジンが好ましい。上述の多官能アミンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
なお、分離機能層の形成の際に、m-フェニレンジアミン等の芳香族多官能アミンを用いた場合には、1価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。また、ピペラジン等の脂肪族多官能アミンを用いた場合には、2価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。
【0051】
酸ハライド化合物としては、上記多官能アミンとの反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されないが、一分子中に2個以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であると好ましい。酸ハライド化合物の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪酸のハライド化合物、フタル酸、イソフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸等の芳香族酸の酸ハライド化合物を用いることができる。これらの酸ハライド化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
多官能アミンが多孔質支持層に塗布される(S31)と、多孔質支持層に含まれるポリエーテルイミド内の環イミド構造が開環して、結合し、アミド結合(-CO-NH-)を形成し得る。そして、さらに酸ハライドの溶液を接触させると(S32)、多官能アミンに残っているアミノ基とトリメシン酸トリクロライドとが反応して、さらなるアミド結合(-CO-NH-)が形成される。このように、多官能アミンを用いることで、ポリエーテルイミドと酸ハライドとが多官能アミンを介して結合した状態を得ることができる。これにより、多孔質支持層と分離機能層との間での結合が強固になり、複合半透膜使用中の層間剥離やリークスポットの発生を防止できる。
【0053】
なお、多孔質支持層への多官能アミンの溶液の塗布(S31)において使用される、多官能アミンの溶液の濃度は、0.5質量%以上15質量%以下であってよい。当該濃度は、多官能アミンが芳香族多官能アミンである場合には、好ましくは1.8質量%以上15質量%以下、より好ましくは1.8質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.8質量%以上13質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下であってよい。また、上記濃度は、多官能アミンが脂肪族多官能アミンである場合には、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上10質量%以下であってよい。
【0054】
さらに、多官能アミンの溶液のpHは、好ましくは6.5以上13.5以下、より好ましくは7以上13以下であってよい。多官能アミンの溶液のpHは、当該溶液に、例えば、塩酸等の酸及び/又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することによって適宜調整することができる。
【0055】
本形態の製造方法によって製造された複合半透膜は、架橋ステップ(S20)に使用される架橋成分溶液が親水化剤を含有していることで、分離機能層形成ステップ(S30)において架橋ポリアミド分離機能層が適切に形成される。そのため、得られる複合半透膜は、架橋ステップ(S20)の処理方法に関わらず、例えば熱処理を行ったとしても、良好な塩分離機能を備えている。また、架橋ステップ(S20)にて、多孔質支持層のポリエーテルイミドが架橋されるので、多孔質支持層の有機溶媒に対する耐性が向上する。
【0056】
本形態により得られる複合半透膜は、有機溶媒を含有する液の処理に好適である。ここで、有機溶媒には、非極性溶媒、プロトン性溶媒、及び非プロトン性極性溶媒が含まれていてよいが、本形態による複合半透膜は、特に非プロトン性極性溶媒に対する耐性、とりわけ比誘電率が6以上64以下である溶媒に対する耐性に優れる。また、上記非プロトン性極性溶媒は、多孔質支持層の形成のベースとされている架橋前ポリマー(広義のポリエーテルイミド)の溶解能が高い溶媒であってよい。
【0057】
非プロトン性極性溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジクロロメタン(DCM)、炭酸プロピレン(PC)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等が挙げられる。このうち、本形態による複合半透膜は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、酢酸エチル(EtOAc)、及びアセトンの1以上に対する耐性、特にジメチルアセトアミド(DMAc)に対する耐性が高い。
【0058】
なお、非極性溶媒の例としては、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。プロトン性溶媒の例としては、ギ酸、IPA、エタノール、メタノール、酢酸等が挙げられる。
【0059】
さらに、本形態によって構成された複合半透膜は、上述の有機溶媒を含有する液から有機溶媒を分離する性能(有機溶媒阻止性能)にも優れ、特に非プロトン性極性溶媒を含有する被処理液から非プロトン性極性溶媒を分離する性能に優れる。ここで、阻止性能は、複合半透膜による溶質の阻止率及び透水性を含む。本形態による複合半透膜は、有機溶媒及び塩の両方に対する高い阻止率を実現できるので、様々な産業排水から再生水を得るプロセスにおいて、好適に利用できる。被処理液に含まれている有機溶媒と塩とを一段階で除去できるため、処理設備の複雑化・処理プロセスの煩雑化を回避できる。
【0060】
本形態で得られる複合半透膜は、有機溶媒を含む被処理液の脱塩処理、特に非プロトン性極性溶媒を含む被処理液の脱塩処理に好適に用いられる。このような被処理液の例としては、石油精製プラント、石油化学プラント、火力発電所、自動車製造工場、油脂製造工場、食品製造工場等で生じる排液、家庭で生じる排液、有機溶媒を含む海水、又はこれらを前処理して得られた液が挙げられる。
【0061】
なお、本形態で得られる複合半透膜は、平膜状に構成することが好ましい。また、本形態による平膜状の複合半透膜は、当該複合半透膜を集水管の外側に渦巻き状に巻き付けて構成されるスパイラル型の膜モジュールにおいて好適に用いることができる。また、ディスクチューブ型の平膜モジュールにも適用することができる。
【0062】
なお、本形態の製造方法により得られる複合半透膜は、長時間にわたり圧力が掛かっても変形しにくい性質、すなわち優れた耐圧性を有する。逆浸透法による高い操作圧力、例えば1~12MPaという操作圧力での運転にも十分対応することができる。より具体的に言えば、複合半透膜のうち、多孔質支持層と分離機能層とからなる部分の圧縮率、つまり所定時間にわたる所定圧力での加圧によって圧縮されて減少した厚み分(初期厚みから加圧後の厚みを引いた値)の、初期厚みに対する割合も小さい。例えば、本形態による複合半透膜では、2時間にわたり5.5MPaの操作圧力で被処理液を処理した場合の圧縮率は20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下となり得る。
【0063】
複合半透膜の使用前の多孔質支持層の空隙率(気孔率)は、40%以上70%以下であると好ましく、55%以上65%以下であるとより好ましい。上記範囲の空隙率を有することで、逆浸透膜として適切な塩阻止性能及び透水性が得られるとともに、複合半透膜の耐圧性及び強度を向上できる。さらに、長時間又は高圧の圧力付与によって複合半透膜が圧縮されて厚みが小さくなった状態でも、高い透過性能を維持できる。
【0064】
多孔質支持層の表面における平均孔径は、5nm以上50nm以下であると好ましく、7nm以上20nm以下であるとより好ましい。上記の平均孔径によって、逆浸透膜として、適切な塩阻止性能及び透水性を得ることができる。
【0065】
また、複合半透膜全体の厚みは、60μm以上250μm以下であってよい。多孔質層の厚みは、10μm以上100μm以下とすることができる。分離機能層の厚みは、0.01μm以上1μm以下とすることができる。また、基材の厚みは、50μm以上200μm以下とすることができる。
【0066】
なお、本発明の一形態は、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成する多孔質支持層形成ステップと、前記多孔質支持層に架橋成分と親水化剤とを含む水溶液を接触させることにより前記ポリエーテルイミドを架橋させる架橋ステップと、前記多孔質支持層上に分離機能層を形成する分離機能層形成ステップと含む製造方法によって製造された複合半透膜であってよい。
【実施例0067】
以下、実施例に基づき本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
ポリエーテルイミド(SHPP US社製「Ultem1000」、重量平均分子量:32,000)20質量部、N,N-ジメチルアセトアミド51質量部、1,3-ジオキソラン29質量部を50℃で加熱溶解し、均一な製膜用溶液を調製した。当該製膜用溶液を、室温まで冷却した後、ポリエステル製不織布基材(厚み0.1mm、密度0.7g/cm3)に、コーターギャップ150μmに調整した製膜装置を用いて、含浸塗布した。200mmの空走距離を経て、40℃の凝固液(水)中に浸潰して凝固させ、さらに70℃の水洗槽中で洗浄した。
【0069】
このようにして得られた基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を、架橋成分水溶液で満たした液槽中に上記膜の支持膜層側のみに接触させるようにして、25℃で1時間にわたり浸漬させた。上記架橋成分水溶液は、ヘキサメチレンジアミン(HDA)を3.0質量%で、且つ親水化剤としてカンファスルホン酸(CSA)を6質量%で含有する水溶液であった。上記浸漬後、膜を液槽から取り出し、さらにオーブン(ADVANTEC社製「DRM620DA」)に入れて130℃で30分間加熱した。加熱終了後、オーブンから取り出した膜を水で洗浄した。これにより、架橋処理後の膜が得られた。
【0070】
さらに、上記の架橋処理後の膜の多孔質支持層の表面に、m-フェニレンジアミンの3.0質量%水溶液を接触させ、その後、余剰のm-フェニレンジアミン水溶液を除去した。そして、多孔質層の上記m-フェニレンジアミン水溶液を接触させた側を、トリメシン酸トリクロライド(芳香族酸ハライド化合物)0.1質量%及びイソフタル酸クロリド0.13質量%を含有するナフテン溶液に30秒間接触させた。これにより、多孔質層上に架橋ポリアミド層(分離機能層)が形成された。その後、140℃の乾燥機にて乾燥させることによって、基材、多孔質層、及び分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を得た。
【0071】
(実施例2)
基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を架橋成分水溶液に浸漬させた後、加熱を行わずに洗浄したこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0072】
(実施例3)
基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を架橋成分水溶液に浸漬させる時間を5分間としたこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0073】
(実施例4)
基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を架橋成分水溶液に浸漬させる時間を5分間としたこと以外は実施例2と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。すなわち、浸漬時間5分の後、加熱を行わずに膜を洗浄した。
【0074】
(比較例1)
基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を浸漬させる架橋成分水溶液として、ヘキサメチレンジアミン(HDA)の3.0質量%水溶液を用いたこと、すなわち親水化剤を含まない架橋成分水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして処理を行い、複合半透膜を得た。
【0075】
(比較例2)
基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる膜を得た後、多孔質支持層の架橋を行うことなく、分離機能層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0076】
各例の複合半透膜を、以下のように評価した。
【0077】
<膜性能評価>
得られた複合半透膜が、逆浸透膜としての十分な性能を有しているかを評価した。膜評価用装置(日東電工株式会社製フロー式平膜テストセル、メンブレンマスターC70-F、有効透過面積は32.5cm2)に設置した。3.2質量%のNaCl水溶液を用い、25℃、供給流量5L/分、圧力5.5MPaで、クロスフロー方式で1時間運転した。供給側と透過側とでNaClの濃度を測定して、塩阻止率(%)を算出した。また、上記の阻止率評価において、供給水の膜透過水量を測定し、分離膜1平方メートル当たり1日の透水量に換算した値を透過流束(m3/m2/d)とした。評価基準は以下の通りとした。
〇:塩阻止率が99(%)以上、且つ透過流束が0.3(m3/m2/d)以上であった。
×:塩阻止率が99(%)未満、又は透過流束が0.3(m3/m2/d)未満であった。
【0078】
<耐有機溶媒性評価>
さらに、得られた複合半透膜の耐有機溶媒性を評価した。複合半透膜全体を、N,N-ジメチルアセトアミド100質量%に、25℃で1時間にわたり浸漬させたた後、その状態を目視で観察した。評価基準は以下の通りとした。
〇:多孔質支持層の全て又はほとんど溶解しなかった。
△:多孔質支持層の一部が溶解していた。
×:多孔質支持層がほとんど又は全て溶解していた。
【0079】
結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1に示すように、多孔質支持層におけるポリエーテルイミドを架橋して架橋ポリエーテルイミドを形成する架橋ステップに際し、架橋成分水溶液に親水化剤することで(実施例1~実施例4)、十分な脱塩性能を有する複合半透膜が得られることが分かった。これに対し、上記架橋ステップにおいて架橋成分水溶液に親水化剤を添加していなかった例(比較例1)では、得られた複合半透膜は十分な膜性能を備えていなかった。なお、架橋ステップを経ずに作製された複合半透膜(比較例2)は、架橋ステップを経て得られた複合半透膜に比べて耐有機溶媒性に劣ることが分かった。
【0082】
また、架橋ステップを行うことで、十分な膜性能及び耐有機溶媒性が得られることが分かった(実施例1~実施例4)。さらに、浸漬時間が5分であっても、加熱を行うことで十分な膜性能及び耐有機溶媒性の向上が得られることが分かった(実施例3)。すなわち、同等以上の膜性能及び耐有機溶媒性を有する膜を得ようとした場合、加熱によって製造時間が短縮されると言える。