(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137253
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240927BHJP
E02F 3/43 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E02F9/22 E
E02F3/43 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048700
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 稔生
(72)【発明者】
【氏名】堤 芳明
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲二
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA03
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB05
(57)【要約】
【課題】掘削位置や積込位置が変わった場合にも、運搬車両から離脱する後進操作時に、移動距離を再設定する必要が無く、荷役装置の動作を自動制御することができる作業車両を提供する。
【解決手段】本発明のホイールローダ100は、荷役装置2を制御するコントローラ200を備えており、コントローラ200は、運搬車両からの後進操作時に、バケット10が第1設定高さよりも高い位置にある場合は、距離計測センサ53で計測した移動距離である第1距離計測値に基づいて、バケット10をダンプ位置から第1設定高さまで下げるように制御し、バケット10の高さが第1設定高さまで到達すると、車速センサ52で計測した車速から算出される移動距離である第2距離計測値に基づいて、バケット10を第1設定高さから掘削姿勢である第2設定高さまで下げるように制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、前記車体の前部に上下方向へ回動可能に設けられたリフトアームと、前記リフトアームの先端側にダンプもしくはチルト動作可能に設けられたバケットと、前記リフトアーム及び前記バケットを含む荷役装置の動作を制御するコントローラと、を備えた作業車両において、
前記車体の前部に取り付けられた距離計測センサと、
前記車体の車速を検出する車速センサと、を有し、
前記コントローラは、
前記車体を運搬車両から離脱する後進操作時において、
前記バケットの高さが第1設定高さを超えていると判定した場合に、前記距離計測センサで計測した前記運搬車両からの移動距離である第1距離計測値に基づいて前記バケットをダンプ位置から前記第1設定高さまで下げる第1制御を行い、
前記バケットの高さが前記第1設定高さ以下であると判定した場合に、前記車速センサで計測した車速から算出される移動距離である第2距離計測値に基づいて前記バケットを前記第1設定高さから第2設定高さまで下げる第2制御を行う、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記距離計測センサは、前記車体の前部における前記リフトアームの回動支点の近傍位置よりも低い位置に設置されている、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、前記バケットが積荷を放出した状態であると判定した場合に限り、前記荷役装置の前記第1制御及び前記第2制御を行う、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1に記載の作業車両において、
前記距離計測センサは、ミリ波レーダ、ライダー、ステレオカメラの何れかである、
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両の一例であるホイールローダの一般的な作業として、掘削作業後に掘削した積荷をダンプトラック等の運搬車両に積み込む作業がある。この作業では、運搬車両にバケットの積荷を投入した後、運搬車両から離脱する後進時に、バケットやリフトアーム等で構成される荷役装置を投入姿勢から掘削姿勢に変更する操作が行われる。その際に、オペレータは、ホイールローダの後進操作と荷役装置の姿勢操作という異なる2種類の操作を必要とするため、荷役装置の動作を一部自動化してオペレータの負担を低減するという技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ホイールローダの作業状態を検出する作業状態検出手段と、作業状態検出手段で検出された作業状態に応じて、作業機の目標位置及びホイールローダの移動距離との関係を設定する目標設定手段と、ホイールローダの移動距離を検出する移動距離検出手段と、移動距離検出手段で検出された移動距離に応じて求められた作業機の目標位置にブーム及びバケットを移動させる作業機制御手段と、を備えたホイールローダが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載のホイールローダでは、車体から運搬車両(ダンプトラック)までの移動距離を設定すると共に、設定された移動距離と作業機(荷役装置)の目標位置との関係を設定しておき、積荷の投入後に車体を運搬車両から起点位置まで離脱させる後進操作時に、車速センサ(移動距離検出手段)で検出される距離に応じて、作業機のバケット及びブームを自動制御して目標位置に移動させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のホイールローダは、運搬車両とホイールローダ間の移動距離を事前に設定して自動制御するという技術であるため、運搬車両に対するホイールローダの起点位置が変わると、その都度、移動距離の設定を変える必要がある。特に、掘削現場では作業の進捗に応じて掘削位置が変化する。また、運搬車両毎に運搬車両の停止位置が異なると、掘削した積荷を積み込む積込位置が変化する。そのため、特許文献1に記載の技術では、掘削位置や積込位置を設定し直す必要に迫られる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、掘削位置や積込位置が変わった場合にも、運搬車両から離脱する後進操作時に、移動距離を再設定する必要が無く、荷役装置の動作を自動制御することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、代表的な本発明は、車体と、前記車体の前部に上下方向へ回動可能に設けられたリフトアームと、前記リフトアームの先端側にダンプもしくはチルト動作可能に設けられたバケットと、前記リフトアーム及び前記バケットを含む荷役装置の動作を制御するコントローラと、を備えた作業車両において、前記車体の前部に取り付けられた距離計測センサと、前記車体の車速を検出する車速センサと、を有し、前記コントローラは、前記車体を運搬車両から離脱する後進操作時において、前記バケットの高さが第1設定高さを超えていると判定した場合に、前記距離計測センサで計測した前記運搬車両からの移動距離である第1距離計測値に基づいて前記バケットをダンプ位置から前記第1設定高さまで下げる第1制御を行い、前記バケットの高さが前記第1設定高さ以下であると判定した場合に、前記車速センサで計測した車速から算出される移動距離である第2距離計測値に基づいて前記バケットを前記第1設定高さから第2設定高さまで下げる第2制御を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る作業車両よれば、掘削位置や積込位置が変わった場合にも、運搬車両から離脱する後進操作時に、移動距離を再設定する必要が無く、荷役装置の動作を自動制御することができる。なお、前述した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの側面図である。
【
図2】ホイールローダのVシェイプ作業を示す説明図である。
【
図3】ホイールローダのダンプ積込み後の動作を示す説明図である。
【
図4】コントローラが有する機能を示すブロック図である。
【
図5】距離計測センサの取り付け位置を示す説明図である。
【
図6】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図8を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る作業車両の一例であるホイールローダ100の側面図である。
図1に示すように、ホイールローダ100は、前フレーム1A及び後フレーム1Bで構成される車体1と、車体1の前部に設けられた荷役装置(フロント作業機)2と、を備えている。ホイールローダ100は、車体1が中心付近で中折れすることにより操舵するアーティキュレート式の作業車両である。前フレーム1Aと後フレーム1Bとは、センタージョイント3によって互いに回動自在に連結されており、不図示のステアリングシリンダの伸縮により後フレーム1Bに対し前フレーム1Aが左右に屈折する。
【0013】
前フレーム1Aには左右一対の前輪タイヤ4Aが設けられ、後フレーム1Bには左右一対の後輪タイヤ4Bが設けられている。なお、
図1では、左右一対の前輪タイヤ4A及び左右一対の後輪タイヤ4Bのうち、左側の前輪タイヤ4A及び左側の後輪タイヤ4Bのみを示している。
【0014】
また、後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室5と、エンジンやコントローラ、油圧ポンプ(
図5参照)等を内部に収容する機械室6と、車体1が転倒しないように荷役装置とのバランスを保 つためのカウンタウェイト7と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室5は前部に、カウンタウェイト7は後部に、機械室6は運転室5とカウンタウェイト7との間に、それぞれ配置されている。
【0015】
荷役装置2は、前フレーム1Aに取り付けられたリフトアーム8と、リフトアーム8を前フレーム1Aに対して上下方向に回動させる一対のリフトアームシリンダ9と、リフトアーム8の先端部に取り付けられたバケット10と、バケット10をリフトアーム8に対して上下方向に回動させるバケットシリンダ11と、リフトアーム8に回動可能に連結されてバケット10とバケットシリンダ11とのリンク機構を構成するベルクランク12と、を有している。なお、
図1では、一対のリフトアームシリンダ9のうち、左側に配置されたリフトアームシリンダ9のみを破線で示している。
【0016】
リフトアーム8は、各リフトアームシリンダ9のロッド9aが伸びることにより上方向に回動し、各リフトアームシリンダ9のロッド9aが縮むことにより下方向に回動する。バケット10は、バケットシリンダ11のロッド11aが伸びることによりチルト(リフトアーム8に対して上方向に回動)し、バケットシリンダ11のロッド11aが縮むことによりダンプ(リフトアーム8に対して下方向に回動)する。
【0017】
ホイールローダ100は、例えば露天掘り鉱山等において、土砂や鉱山物等を掘削してダンプトラック等の運搬車両に積み込む荷役作業を行うための作業車両である。そして、ホイールローダ100が掘削作業と積み込み作業を行う際の方法として、Vシェイプローディングと呼ばれる作業方法が広く知られている。
【0018】
図2は、ホイールローダ100のVシェイプ作業を示す説明図である。
図2に示すように、ホイールローダ100は、まず起点位置から掘削対象となる鉱山300に向かって前進し(矢印X1)、バケット10を鉱山300に突入させた状態でチルトさせることによって削作業を行う。掘削作業が終わると、ホイールローダ100は、掘削した土砂や鉱山物等の積荷をバケット10に積んだ状態で元の起点位置に一旦後退する(矢印X2)。
【0019】
続いて、ホイールローダ100は、バケット10内の積荷の積込先であるダンプトラック(運搬車両)301に向かって前進し(矢印Y1)、ダンプトラック301の手前で停止する。
図2中には、ダンプトラック301の手前で停止している状態のホイールローダ100を破線で示している。ホイールローダ100は、ダンプトラック301への積み込作業が終了すると、バケット10内の積荷を空にした状態で元の起点位置に後退する(矢印Y2)。
【0020】
図3は、ホイールローダ100のダンプ積込み後の動作を示す説明図である。
図3に示すように、ダンプ積込み後の動作では、ホイールローダ100の後進操作と同時に、荷役装置2をバケット10のダンプ姿勢(Z1)から次の掘削姿勢(Z3)に変える下降操作が行われる。この下降操作では、始めにダンプ姿勢のバケット10を水平姿勢に起こし(Z1)、次にバケット10とリフトアーム8が地面と平行となるような姿勢にしてから(Z2)、さらにリフトアーム8を下方向へ回動してバケット10が地面近くの掘削姿勢となるように操作する(Z3)。本実施形態に係るホイールローダ100では、このような荷役装置2の一連の操作を自動化することで、オペレータの負担を軽減するようにしている。
【0021】
本実施形態に係るホイールローダ100は、運転室5内に搭載されたコントローラ200を備えており、このコントローラ200により荷役装置2の操作を自動制御するようにしている。
【0022】
図4は、コントローラ200が有する機能を示すブロック図である。コントローラ200は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、出力I/Fがバスを介して互いに接続された構成となっている。このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された演算プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された演算プログラムを実行することにより、演算プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ200の機能を実現する。
【0023】
なお、本実施形態では、コントローラ200の構成をソフトウェアとハードウェアの組み合わせにより説明しているが、これに限らず、ホイールローダ100の側で実行される演算プログラムの機能を実現する集積回路を用いて構成しても良い。
【0024】
図4に示すように、コントローラ200の入力I/Fには、リフトアーム8の角度を検出するリフトアーム角度センサ50と、ベルクランク12の角度を検出するベルクランク角度センサ51と、車速センサ52と、距離計測センサ53とが接続されている。
【0025】
車速センサ52は、前輪タイヤ4A(または後輪タイヤ4B)が取り付けられているアクスル(車軸)の回転を計測するデバイスであり、車速センサ52の計測値からホイールローダ100の走行速度(車速)が検出される。
【0026】
距離計測センサ53は、ホイールローダ100の前方に位置する対象物までの距離を検出するデバイスであり、例えば、ミリ波レーダが距離計測センサ53として用いられている。ミリ波レーダは、ミリ波帯の電波を用いて対象物との距離を測定するレーダであり、砂埃や雨等の環境下でも対象物を捉えられるという特長を有するため、掘削現場での使用に適している。また、ミリ波レーダの代わりに、レーザを用いて対象物との距離を測定するライダー(赤外線ライダ)や、2つのカメラを用いて対象物との距離を測定するステレオカメラを、距離計測センサ53として使用するようにしても良い。
【0027】
距離計測センサ53は、ホイールローダ100の前方に停止する運搬車両との距離を検出するために、車体1の前部に取り付けられている。
図5は、距離計測センサ53の取り付け位置を示す説明図である。
図5に示すように、距離計測センサ53は前フレーム1Aの前面に設置されており、その前方をリフトアーム8の回動に伴ってバケット10が上下動するため、バケット10によって距離計測センサ53の計測の妨げとなる位置が生じる。そこで、距離計測センサ53の計測範囲を広げるために、距離計測センサ53の設置位置は、リフトアーム8の車体1側における回動支点Pの近傍位置よりも低い位置で、かつ、前フレーム1Aの底面よりも高い位置の間に設定される。本実施形態では、距離計測センサ53を前輪タイヤ4Aのアクスルより若干上方の前フレーム1Aの前面に設置することにより、損傷を防止した上で広範囲の計測を確保するようにしている。
【0028】
図4に戻り、ホイールローダ100は、エンジン54と、油圧ポンプ55と、コントロールバルブ56と、電磁比例弁57と、を備えている。油圧ポンプ55は、エンジン54によって作動されてコントロールバルブ56に圧油を供給する。コントロールバルブ56は、油圧ポンプ55から供給される圧油を荷役装置2のリフトアームシリンダ9とバケットシリンダ11に供給する。なお、
図4において、電磁比例弁57及びコントロールバルブ56は一つずつしか図示されていないが、各シリンダ9,11に対してそれぞれ必要な数の電磁比例弁57及びコントロールバルブ56が設けられている。
【0029】
油圧ポンプ55からコントロールバルブ56を介してリフトアームシリンダ9のボトム室へ作動油が供給されると、一対のリフトアームシリンダ9のロッド9aが伸長する。これにより、一対のリフトアーム8が車体1側の回動支点Pを中心に上方向に回動する。また、油圧ポンプ55からコントロールバルブ56を介してリフトアームシリンダ9のロッド室へ作動油が供給されると、一対のリフトアームシリンダ9のロッド9aが収縮する。これにより、一対のリフトアーム8が車体1側の回動支点Pを中心に下方向に回動する。
【0030】
また、油圧ポンプ55からコントロールバルブ56を介してバケットシリンダ11のボトム室へ作動油が供給されると、バケットシリンダ11のロッド11aが伸長する。これにより、ベルクランク12が揺動し、リフトアームシリンダ9の先端部に支持された回転軸を中心に、バケット10が上方向に回動する(チルト動作)。また、油圧ポンプ55からコントロールバルブ56を介してバケットシリンダ11のロッド室へ作動油が供給されると、バケットシリンダ11のロッド11aが収縮する。これにより、ベルクランク12が揺動し、リフトアームシリンダ9の先端部に支持された回転軸を中心に、バケット10が下方向に回動する(ダンプ動作)。
【0031】
電磁比例弁57は、コントローラ200の出力I/Fに接続されている。電磁比例弁57は、コントローラ200から指令信号に基づいて開閉動作する。電磁比例弁57が開くと、パイロット圧がコントロールバルブ56に供給され、コントロールバルブ56のスプールが所定の方向に移動し、リフトアームシリンダ9及びバケットシリンダ11が伸長または後退動作する。このように、コントローラ200が電磁比例弁57の動作を制御することで、荷役装置2の姿勢が自動的に制御される。
【0032】
コントローラ200は、データ取得部201と、演算部202と、高さ判定部203と、距離計測値選択部204と、荷役操作許可判定部205と、荷役姿勢判定部206と、動作指令部207と、を有する。
【0033】
データ取得部201は、リフトアーム角度センサ50から出力されるリフトアーム8の角度信号と、ベルクランク角度センサ51から出力されるベルクランク12の角度信号と、車速センサ52から出力される車速信号と、距離計測センサ53とから出力される対象物までの距離信号に関するデータをそれぞれ取得する。
【0034】
演算部202は、データ取得部201で取得されるリフトアーム角度センサ50とベルクランク角度センサ51の検出値に基づいて、バケット10を含む荷役装置2の姿勢を算出する。また、コントローラ200の記録媒体(図示せず)には、車体1の後進方向における移動距離と荷役装置2の目標位置との関係を特定するデータ(テーブル)が記憶されており、演算部202は、このデータを参照して、距離計測センサ53で計測した第1距離計測値及び車速センサ52で計測した車速から算出される第2距離計測値に応じた荷役装置2の目標姿勢(目標位置)を算出する。
【0035】
高さ判定部203は、演算部202で算出されたバケット10の高さが所定値(第1設定高さ)を超えているか否かを判定し、その判定結果を距離計測値選択部204に出力する。第1設定高さは、距離計測センサ53の計測がバケット10によって妨げられると予測される高さであり、距離計測センサ53の照射角度や設置位置等に応じて適宜の値に設定される。
【0036】
距離計測値選択部204は、車体1の進行方向が後進の場合に、高さ判定部203の判定結果に応じて、車速センサ52と距離計測センサ53の何れか一方の計測値を選択する。具体的には、距離計測値選択部204は、バケット10の高さが第1設定高さよりも高い位置にある場合は、距離計測センサ53を選択し、距離計測センサ53で計測されるダンプトラック301からの移動距離である第1距離計測値を取得する。また、バケット10の高さが第1設定高さ以下の場合は、距離計測値選択部204は、車速センサ52を選択し、車速センサ52で計測された車速から算出される移動距離である第2距離計測値を取得する。
【0037】
荷役操作許可判定部205は、距離計測センサ53による第1距離計測値が所定閾値の距離に到達したか否かを判定し、第1距離計測値が所定閾値の距離に到達したときに、動作指令部207に対して電磁比例弁57の出力を開始するよう許可信号を出力する。
【0038】
荷役姿勢判定部206は、荷役装置2が目標となる姿勢になったか否かを判定し、バケット角度が水平かつリフトアーム角度が所定の値になったときに、動作指令部207に対して電磁比例弁57への出力を停止するよう停止信号を出力する。
【0039】
動作指令部207は、荷役操作許可判定部205から許可信号を受けると、電磁比例弁57に対してコントロールバルブ56を制御するよう指令信号を出力する。その際に、動作指令部207は、第1距離計測値または第2距離計測値に応じて、荷役装置2が演算部202で算出された目標位置(目標姿勢)となるように、電磁比例弁57に指令信号を出力する。これにより、コントロールバルブ56を介してリフトアームシリンダ9とバケットシリンダ11に供給される圧油が自動制御され、荷役装置2の姿勢がバケット10のダンプ姿勢から掘削姿勢へと自動的に変化下する。
【0040】
次に、ダンプ積込み後の後進操作時における荷役装置2の自動制御について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は、コントローラ200で実行される処理の流れを示すフローチャートである。コントローラ200では、運転室5内に設けられた不図示のモードスイッチをオペレータが投入(オン)することにより、以下の処理が実行される。
【0041】
図6に示すように、モードスイッチがオンされると、データ取得部201が、リフトアーム角度センサ50から出力されるリフトアーム8の角度信号と、ベルクランク角度センサ51から出力されるベルクランク12の角度信号と、車速センサ52から出力される車速信号と、距離計測センサ53とから出力される対象物(例えばダンプトラック301)までの距離信号に関するデータをそれぞれ取得する(ステップS1)。
【0042】
演算部202は、データ取得部201で取得されたリフトアーム角度センサ50とベルクランク角度センサ51の検出値に基づいて、バケット10の角度と高さを含む荷役装置2の姿勢を算出する(ステップS2)。
【0043】
高さ判定部203は、演算部202で算出されたバケット10の高さが第1設定高さを超えているか否かを判定する(ステップS3)。高さ判定部203によりバケット10の高さが第1設定高さを超えていると判定された場合(ステップS3でYES)、距離計測値選択部204は、距離計測センサ53を選択し、距離計測センサ53で計測される移動距離である第1距離計測値を取得する(ステップS4)。また、高さ判定部203によりバケット10の高さが第1設定高さ以下であると判定された場合(ステップS3でNO)、距離計測値選択部204は、車速センサ52を選択し、車速センサ52で計測した車速から算出される移動距離である第2距離計測値を取得する(ステップS5)。
【0044】
荷役操作許可判定部205は、距離計測センサ53の計測値に基づいて、車両が後進かつ所定閾値の距離に到達しているか否かを判定する(ステップS6)。車両が所定閾値の距離に到達していないと判断された場合(ステップS6でNO)、ステップS1に戻る。車両が所定閾値の距離に到達していると判断された場合(ステップS6でYES)、荷役操作許可判定部205は、動作指令部207に対して電磁比例弁57の出力を開始するよう許可信号を出力する(ステップS7)。すると、荷役装置2が、演算部202で算出された目標姿勢に基づいて、
図3のZ1に示す姿勢からZ2に示す姿勢を経て、Z3に示す姿勢へと自動的に変化していく。
【0045】
ここで、所定閾値とは、ホイールローダ100がダンプトラック301から後方に若干下がった距離であって、具体的には、荷役装置2の姿勢を変化させたとしてもダンプトラック301と衝突しない距離として予め定められた閾値である。
【0046】
次に、荷役姿勢判定部206は、リフトアーム角度センサ50とベルクランク角度センサ51の検出値に基づいて、荷役装置2が
図3のZ3に示す掘削姿勢になったか否かを判定する(ステップS8)。荷役装置2が掘削姿勢になっていないと判断された場合(ステップS8でNO)、ステップS1に戻る。そして、コントローラ200は、荷役装置2が掘削姿勢になるまで、ステップS1からS8の処理を繰り返す。その間、バケット高さが第1設定高さより高い場合には、距離計測センサ53にて計測された第1距離計測値に基づいて荷役装置2の姿勢が制御され(第1制御)、バケット高さが第1設定高さ以下の場合には、車速センサ52で計測された車速に基づいて算出された第2距離計測値に基づいて荷役装置2の姿勢が制御される(第2制御)。
【0047】
図3を参照して説明を補足すると、Z1に示すようにリフトアーム8が上方向に傾いており、バケット10がダンプ姿勢の状態から、バケット10が水平姿勢に変わり(
図3の矢印A1)、ホイールローダ100が所定閾値まで若干後進した時点から、ホイールローダ100の後進(矢印A2)に伴ってリフトアーム8が略水平となる位置まで自動的に下降し(矢印A3)、バケット10及びリフトアーム8は、
図3のZ2に示す姿勢となる。Z1からZ2までの間は、バケット高さが第1設定高さより高いため、コントローラ200は、ステップS4で選択された距離計測センサ53が計測した第1距離計測値に基づいて、荷役装置2の動作を制御する(第1制御)。この間、距離計測センサ53は、荷役装置2に邪魔されることなくダンプトラック301との距離を計測できる。
【0048】
そして、バケット10の姿勢が
図3のZ2に示す姿勢、即ちリフトアーム8が略水平となる位置になったときときから、ホイールローダ100がさらに後進すると、ホイールローダ100の後進(矢印A4)に伴ってリフトアーム8がさらに下降し(矢印A5)、最終的にZ3に示す掘削姿勢となる。Z2からZ3までの間は、バケット高さが第1設定高さ以下のため、コントローラ200は、ステップS5で選択された車速センサ52で計測された車速から算出された第2距離計測値に基づいて、荷役装置2の動作を制御する(第2制御)。
【0049】
そして、コントローラ200は、荷役装置2が
図3の(Z3)に示す姿勢になったとき、即ちステップS8でYESと判定したら、電磁比例弁57の出力を解除して、荷役装置2の自動制御を終了する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係るホイールローダ100では、掘削位置や積込位置が変わった場合にも、ダンプトラック301から離脱する後進操作時に、移動距離を再設定する必要が無く、荷役装置2の姿勢を確実にダンプ姿勢から掘削姿勢へと自動制御することができ、オペレータの操作負担を低減することができる。
【0051】
特に、ダンプ積込み直後のバケット10の高さは第1設定高さよりも高い位置にあるため(
図3のZ1参照)、まず、距離計測値選択部204により距離計測センサ53が選択される。この場合、距離計測センサ53は、バケット10に邪魔されることなくダンプトラック(運搬車両)までの距離を計測することができる。そして、距離計測センサ53はダンプトラック301との距離を、車速センサ52で計測した車速から算出される距離と比べて正確に計測することができるため、荷役装置2がダンプトラック301と衝突することなく、荷役装置2の姿勢を正確に制御できる。よって、オペレータは、ホイールローダ100の後進に注意を向けておけば良いため、運転の負担が軽減される。
【0052】
また、車両の走行中にスリップが発生したり、積荷の荷重変化に伴って前輪タイヤ4A及び後輪タイヤ4Bのタイヤ径が変動すると、車速センサ52で計測される移動距離に若干の誤差を生じるおそれがある。しかしながら、ホイールローダ100がダンプトラック301から離れる際、まず距離計測センサ53によりダンプトラック301とホイールローダ100との距離を計測することで、車速センサ52による計測精度の誤差の影響を受けることなく荷役装置2の姿勢を制御できる。
【0053】
また、荷役装置2が水平姿勢(
図3のZ2に示す姿勢)になると、ダンプトラック301との距離を計測するためのセンサが距離計測センサ53から車速センサ52に切り換わるため、荷役装置2が距離計測センサ53の計測を妨げる位置にあったとしても、車速センサ52で計測した車速からダンプトラック301との距離を算出できるため、コントローラ200が荷役装置2を確実に掘削姿勢にすることができる。
【0054】
また、ダンプトラック301までの距離を計測する距離計測センサ53が、リフトアーム8の回動支点Pの近傍位置よりも低い位置で、かつ、前フレーム1Aの底面よりも高い位置の間に設置されるようにしたので、距離計測センサ53による計測範囲を十分に確保しつつ、距離計測センサ53の損傷を防止することができる。
【0055】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0056】
例えば、
図6の処理において、ステップS2とステップS3との間に、バケット10が積荷を放出(放土)したか否かを判定する処理を追加し、コントローラ200は、ホイールローダ100の後進時であって、バケット10が積荷を放出していると判定された場合に限り、ステップS3の処理を実行するように構成しても良い。この場合、コントローラ200は、バケット10が積荷を放土したか否かを、バケット10の角度で判定しても良いし、リフトアームシリンダ9の圧力に基づいてバケット10が積荷を放出したか否かを判定することもできる。この構成によれば、万一、バケット10の放土中に荷役装置2が自動制御されることを防止できるので、不慣れなオペレータにとってより使い勝手が良い。
【0057】
例えば、上記実施形態では、Vシェイプローディング中における荷役装置2の自動制御について説明したが、Vシェイプ作業時以外についても、本発明による荷役装置2の自動制御を適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 車体
1A 前フレーム
1B 後フレーム
2 荷役装置
4A 前輪タイヤ
4B 後輪タイヤ
5 運転室
6 機械室
8 リフトアーム
9 リフトアームシリンダ
9a ロッド
10 バケット
11 バケットシリンダ
11a ロッド
12 ベルクランク
50 リフトアーム角度センサ(角度センサ)
51 ベルクランク角度センサ(角度センサ)
52 車速センサ
53 距離計測センサ
54 エンジン
55 油圧ポンプ
56 コントロールバルブ
57 電磁比例弁
100 ホイールローダ(作業車両)
200 コントローラ
201 データ取得部
202 演算部
203 高さ判定部
204 距離計測値選択部
205 荷役操作許可判定部
206 荷役姿勢判定部
207 動作指令部
301 ダンプトラック(運搬車両)
P リフトアームの回動支点