(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137270
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】タンディッシュ内張り用キャスタブル
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20240927BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B35/66
B22D11/10 310J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048730
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 佳寛
(57)【要約】
【課題】タンディッシュ内張り用キャスタブルにおいて亀裂の発生を抑制する。
【解決手段】耐火原料配合物中に粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトを15質量%以上45質量%以下含有し、かつ、粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトの含有率が10質量%以下(0を含む。)である、タンディッシュ内張り用キャスタブル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物中に粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトを15質量%以上45質量%以下含有し、かつ、粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトの含有率が10質量%以下(0を含む。)である、タンディッシュ内張り用キャスタブル。
【請求項2】
耐火原料配合物の残部として、ムライトを25質量%以上55質量%以下、アルミナを10質量%以上40質量%以下、アルミナセメントを3質量%以上10質量%以下、及びシリカ超微粉を3質量%以上10質量%以下含有する、請求項1に記載のタンディッシュ内張り用キャスタブル。
【請求項3】
粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が20質量%以上40質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載のタンディッシュ内張り用キャスタブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼分野などにおいて用いられる溶融金属容器、特に連続鋳造用タンディッシュの内張りに使用されるタンディッシュ内張り用キャスタブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にタンディッシュの内張りには、アルミナ系原料及びアルミナシリカ系原料を主体としアルミナセメントボンドのキャスタブルが汎用されている。このキャスタブルにおいては、使用中に原料の焼結収縮による亀裂が発生し、この亀裂がタンディッシュ内張り材の寿命のネックとなる問題がある。そのため従前より、残存膨張性を付与する目的で、ろう石、珪石あるいはアンダルサイトの使用が検討されている。
【0003】
特にアンダルサイトは、ろう石及び珪石に比べ緩やかに膨張する点で亀裂発生の抑制効果に優れており、例えば、特許文献1の表3の実施例16には、粒径45μm以上1mm未満のアンダルサイトを10質量%、粒径1mm以上2mm未満のアンダルサイトを15質量%含有するタンディッシュ内張り用キャスタブルが開示されている。
また、特許文献2には、耐火原料の合量100質量%中にアンダルサイトを40質量%以上80質量%以下含有し、かつ、前記アンダルサイトの合量100質量%中に、粒径75μm以下のアンダルサイトを2質量%以上50質量%以下含有するタンディッシュ内張り用キャスタブルが開示されている。
【0004】
これら特許文献1又は特許文献2に開示されたタンディッシュ内張り用キャスタブルにより、亀裂の発生は一定程度抑制されるが、タンディッシュの寿命が尽きる主な原因は、依然として亀裂の発生による内張り材の損傷であり、亀裂発生の更なる抑制が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-131310号公報
【特許文献2】特開2019-98363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、タンディッシュ内張り用キャスタブルにおいて亀裂の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、タンディッシュ内張り材の亀裂は、使用中に1500℃前後になる内張り材表面部と、使用中は600~1000℃程度になる中心部との間の温度差による残存線変化率の差に起因していると考えた。すなわち、タンディッシュは間欠操業のため、常温まで冷却されるが、この冷却時に内張り材の表面部と中心部との残存線変化率の差が大きいほど、表面部に亀裂が発生しやすくなると推定した。そこで、内張り材の高温域と低温域との残存膨張の差を小さくすることに着目し、そのためにアンダルサイトの粒度と含有率について種々検討した結果、粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトを耐火原料配合物中に15質量%以上45質量%以下含有するタンディッシュ内張り用キャスタブルとすることで、高温域と低温域との残存線変化率の差を小さくすることができ、タンディッシュ内張り用キャスタブルの亀裂の発生を大幅に抑制することができることを知見した。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のタンディッシュ内張り用キャスタブルが提供される。
耐火原料配合物中に粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトを15質量%以上45質量%以下含有し、かつ、粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトの含有率が10質量%以下(0を含む。)である、タンディッシュ内張り用キャスタブル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンディッシュ内張り用キャスタブルにおいて冷却時の亀裂の発生を抑制することができ、タンディッシュの寿命を格段に延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においてアンダルサイトは、上述の通り粒径0.075mm以上1mm未満の粒度で使用する。これにより、タンディッシュ内張り材の低温域と高温域との残存線変化率の差を小さくすることができる。アンダルサイトの粒度が粒径0.075mm未満では残存膨張を付与する効果が不十分であり、アンダルサイトの粒度が粒径1mm以上では低温域と高温域での残存線変化率の差が大きくなりすぎる。
【0011】
本発明において粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率は、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で15質量%以上45質量%以下とし、更には20質量%以上40質量%以下とすることもできる。粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が15質量%未満では残存線変化率が不足し、45質量%を超えると残存膨張が大きくなりすぎる。
【0012】
本発明において粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトは使用しなくてもよいが、残存膨張を調整するために10質量%以下であれば使用可能である。粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトの含有率が10質量%を超えると、低温域と高温域との残存線変化率の差が大きくなる。
また、粒径0.075mm未満のアンダルサイトも使用しなくてもよいが、10質量%以下であれば悪影響を及ぼすことなく使用することができる。
【0013】
ここで、本発明においてアンダルサイトとは、そのX線回折においてピーク強度が3番目までに高いもののうちにアンダルサイト(回折面が110面(その近傍を含む。))を含み、かつAl2O3の含有率が50質量%以上75質量%以下、SiO2の含有率が20質量%以上45質量%以下の範囲内にあるものをいい、アンダルサイトを含有する天然鉱物(シリマナイト族鉱物)等から得られるもののほか、アンダルサイトを含有する耐火物(使用後品)を破砕して得られるものも含むものである。
【0014】
本発明のタンディッシュ内張り用キャスタブルにおいて耐火原料配合物の構成は、アンダルサイト以外は従来のタンディッシュ内張り用キャスタブルと同様の構成とすることができ、例えば特許文献2のように、ムライト、アルミナ、アルミナセメント、及びシリカ超微粉を使用することができる。
【0015】
ムライトは、高温まで熱膨張率が安定していること及び耐熱衝撃性に優れることから、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で25質量%以上55質量%以下の含有率で使用することができる。ムライトとしては、耐火物の原料として一般的に使用されているものであれば問題なく使用することができ、例えば電融ムライト、焼結ムライト等である。
【0016】
アルミナは、内張り材の表面に設けられるコーティング材の焼き付きを防止するためとキャスタブルの流動性を確保するために、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で10質量%以上40質量%以下の含有率で使用することができる。アルミナとしては、耐火物の原料として一般的に使用されているものであれば問題なく使用することができ、例えば電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、バンケツ、仮焼アルミナ等である。
【0017】
アルミナセメントは、結合剤として、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で3質量%以上10質量%以下の含有率で使用することができる。アルミナセメントとしては、キャスタブルの結合剤として一般的に使用されているものであれば問題なく使用することができる。
【0018】
シリカ超微粉は、強度向上及び流動性確保のために、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で3質量%以上10質量%以下の含有率で使用することができる。ここで本発明で使用するシリカ超微粉とは、平均粒径が10μm以下の微粒子シリカのことであり、シリカヒューム、ヒュームドシリカ、ホワイトカーボンを総称して指す。シリカヒュームはフェロシリコン、金属シリコン、電融ジルコニアなどの精錬過程で発生する排ガスを集塵して得られる副産物であり、比較的安価に入手が可能である。ヒュームドシリカは四塩化ケイ素を始めとしたケイ素化合物を原料として酸素と水素の火炎中で加水分解して製造される。また、ホワイトカーボンは珪酸ナトリウムの酸又はルカリを用いた分解によって得られる。
【0019】
また本発明において耐火原料配合物は、ろう石や珪石などの、α-石英を鉱物に含む粒径1mm以上の膨張性骨材を含有することもできる。ただし、膨張差による亀裂発生や組織破壊などの問題が顕著に生じないようにするため、その含有率は耐火原料配合物100質量%中に占める割合で2質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、0質量%である、すなわちα-石英を鉱物に含む粒径1mm以上の膨張性骨材を含有しないことが最も好ましい。なお、α-石英を鉱物に含む粒径1mm未満の膨張性原料も微量であれば含有してもよく、その含有率は耐火原料配合物100質量%中に占める割合で3質量%以下とすることができる。
【0020】
更に本発明において耐火原料配合物は、上述の耐火原料以外にシャモット、粘土などを含有することもでき、その含有率は耐火原料配合物100質量%中に占める割合でそれぞれ5質量%以下であれば悪影響を及ぼすことはない。
また本発明において耐火原料配合物は、従来のキャスタブルと同様に、分散剤、硬化調整剤、金属粉、金属繊維、有機繊維等の副原料を適宜含有することができる。
そして本発明のキャスタブルは、従来のキャスタブルと同様に、耐火原料配合物に適量の水を添加して流し込み施工される。
【0021】
ここで、本発明でいう粒径とは、耐火原料粒子を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径0.075mm未満のアンダルサイトとは、篩い目が0.075mmの篩いを通過するアンダルサイトのことで、粒径0.075mm以上のアンダルサイトとは、篩い目が0.075mmの篩い目を通過しないアンダルサイトのことである。
また、本発明でいう平均粒径とは、レーザ回折散乱式粒度分布計で測定された累積曲線の中央累積値(D50)にあたる体積平均粒径をいう。
【実施例0022】
表1に本発明の実施例及び比較例の耐火原料配合物と評価結果を示している。実施例及び比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。なお、表1中、「その他原料」とは分散剤、硬化調整剤、有機繊維等の副原料である。
【0023】
【0024】
<残存線変化率>
残存線変化率はJIS-R2554に準拠して、それぞれ1000℃と1500℃において測定し、それぞれの残存線変化率及びこれらの残存線変化率の差を評価した。具体的には表2の基準により、○(良)、△(可)、×(不良)の3段階で評価した。
【0025】
【0026】
<強度>
強度は圧縮強さにより評価した。具体的には1000℃で3時間焼成後の常温での圧縮強さで評価した。圧縮強さの測定はJIS-R2553に準拠して行った。評価は、以下の基準により、○(良)、△(可)、×(不良)の3段階で評価した。
○(良):35以上、△(可):30以上35未満、×(不可):30未満(単位:MPa)
【0027】
<耐熱衝撃性>
耐熱衝撃性は試験片を1000℃で3時間焼成した後、1500℃の電気炉にて30分強制加熱及び強制空冷を繰り返し、大亀裂が発生したときの繰り返し回数により評価した。大亀裂の判断については、試験片の亀裂の幅をJIS-B7524による隙間ゲージにより確認し、亀裂の幅が0.5mm以上の場合を大亀裂とした。
評価は、以下の基準により、○(良)、△(可)、×(不良)の3段階で評価した。この評価では、大亀裂が発生したときの繰り返し回数が高い方が耐熱衝撃性に優れることを示す。
○(良):13回以上、 △(可):10回以上12回以下、×(不可):9回以下
【0028】
<総合評価>
総合評価は、上記の各評価において、全てが○の場合を◎(優)、△と○の場合を〇(良)、いずれかに×がある場合を×(不良)として評価した。
【0029】
表1中、実施例1~7は、粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が異なる例であるが、いずれも本発明の範囲内にあり、総合評価が◎(優)又は○(良)であり良好な評価結果が得られた。なかでも粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が20質量%以上40質量%以下の範囲内にある実施例2~6は、総合評価が◎(優)であり特に良好な評価結果が得られた。
【0030】
これに対して比較例1は、粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が本発明の下限値を下回る例である。1000℃の残存線変化率が小さすぎ、しかも耐熱衝撃性も不十分であった。
比較例2は、粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が本発明の上限値を上回る例である。1000℃と1500℃での残存線変化率の差が0.5%超と大きく、タンディッシュ内張り材の冷却時に亀裂が発生すると判断された。
【0031】
比較例3は、アンダルサイトとして粒径1mm以上3mm未満の粒度のもののみを使用した例である。1500℃の残存線変化率が大きすぎ、しかも1000℃と1500℃での残存線変化率の差も大きかった。
比較例4は、粒径0.075mm以上1mm未満のアンダルサイトの含有率が本発明の下限値を下回り、かつ粒径1mm以上3mm未満のアンダルサイトの含有率が本発明の上限値を上回る例である。1500℃の残存線変化率が大きすぎた。
比較例5は、アンダルサイトとして粒径0.075mm未満の粒度のもののみを使用した例である。1000℃の残存線変化率が小さすぎた。
【0032】
実施例8及び実施例9は、ムライトの含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。
実施例10及び実施例11は、アルミナの含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。
実施例12及び実施例13は、アルミナセメントの含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。
実施例14及び実施例15は、シリカフラワーの含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。
【0033】
実施例4、比較例3及び比較例5のキャスタブルを実際のタンディッシュで使用したところ、いずれもキャスタブルの亀裂要因で寿命となった。実施例4の使用回数を100とし、比較例3と比較例5の使用回数を指数に換算すると、それぞれ72と79であり、実施例4のキャスタブルが非常に優れていることがわかった。