IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-レーダ装置 図1
  • 特開-レーダ装置 図2
  • 特開-レーダ装置 図3
  • 特開-レーダ装置 図4
  • 特開-レーダ装置 図5
  • 特開-レーダ装置 図6
  • 特開-レーダ装置 図7
  • 特開-レーダ装置 図8
  • 特開-レーダ装置 図9
  • 特開-レーダ装置 図10
  • 特開-レーダ装置 図11
  • 特開-レーダ装置 図12
  • 特開-レーダ装置 図13
  • 特開-レーダ装置 図14
  • 特開-レーダ装置 図15
  • 特開-レーダ装置 図16
  • 特開-レーダ装置 図17
  • 特開-レーダ装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137272
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20240927BHJP
   G01S 13/931 20200101ALN20240927BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALN20240927BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S13/931
H01Q3/26 Z
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048732
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】志水 聖
(72)【発明者】
【氏名】新井 知広
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 友宏
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 修
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA06
5J021AB06
5J021DB01
5J021FA13
5J021HA04
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AD10
5J070AF03
5J070AH35
5J070AK05
(57)【要約】
【課題】補償精度の向上が可能なレーダ装置を、提供する。
【解決手段】レーダ装置は、等間隔に配置された複数の送信アンテナ及び等間隔に配置された複数の受信アンテナと、Ns個の送信回路と、Nr個の受信回路と、制御部と、を備える。Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数である。複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、仮想アンテナの群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれるように配置される。制御部は、少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれるように配置され、
前記制御部は、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号についての比較結果に基づき、異なる前記送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる前記受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置。
【請求項2】
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御部は、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号についての比較結果に基づき、前記仮想アンテナ同士の配線長差分に応じた位相差及び振幅差の少なくとも一つと、異なる前記送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる前記受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複する前記仮想アンテナの組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号の前記比較結果をさらに利用して前記補償処理を実行する請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信回路及び前記受信回路の温度を検出する温度センサ(5)をさらに備え、
前記制御部は、
前記受信信号が前記補償処理に有効か否かを判定し、
前記受信信号が前記補償処理に有効でないと判定された場合に、前記送信回路及び前記受信回路の温度に基づく前記補償処理を実行する請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、一次元的に配置されている請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、少なくとも一方が二次元的に配置されている請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の受信回路に設けられた複数の受信アンテナと、第一の送信アンテナ及び第二の送信アンテナと、位相補償部とを備えたレーダ装置が開示されている。第一の送信アンテナ及び第二の送信アンテナは、受信アンテナの位置が仮想的に重なるように受信アンテナから所定の間隔を空けて設けられる。位相補償部は、仮想的に重なるように設けられた各々の受信アンテナが受信した各々の受信信号の比較結果に基づき、第一および第二の送信アンテナから送信された各々の送信波の反射波の受信回路間の位相差を補償する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-60732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のレーダ装置では、異なる受信回路間の位相差のみが補償され得る。しかし、異なる受信信号における誤差の要因は、受信回路の違い以外にも存在する。したがって、特許文献1のレーダ装置には、補償精度向上の余地がある。
【0005】
本開示の課題は、補償精度の向上が可能なレーダ装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれるように配置され、
制御部は、
少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置である。
【0008】
この第一態様によると、少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、が補償され得る。故に、異なる受信回路間に加え、異なる送信回路間での誤差の補償処理が可能となり得る。したがって、補償精度の向上が可能となり得る。
【0009】
本開示の第二態様は、等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
制御部は、
少なくともNs+Nr-1組の所属組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、仮想アンテナ同士の配線長差分に応じた位相差及び振幅差の少なくとも一つと、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置である。
【0010】
この第二態様によると、少なくともNs+Nr-1組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、仮想アンテナ同士の配線長差分に応じた位相差及び振幅差の少なくとも一つと、が補償され得る。故に、異なる受信回路間に加え、異なる送信回路間での誤差及び配線長差による誤差の補償処理が可能となり得る。したがって、補償精度の向上が可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態におけるレーダ装置の基本構成を示す概略図である。
図2】第一実施形態における送信回路と送信アンテナ、受信回路と受信アンテナの組み合わせ例を示す模式図である。
図3】第一実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図4】第一実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図5】補償処理に利用する仮想アンテナの組の一例を示す表である。
図6】第一実施形態による制御ユニットの機能構成を示すブロック図である。
図7】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
図8】第二実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図9】第二実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図10】第三実施形態における送信回路と送信アンテナ、受信回路と受信アンテナの組み合わせ例を示す模式図である。
図11】第三実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図12】第三実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図13】配線長差と位相誤差の関係を示すグラフである。
図14】補償処理に利用する仮想アンテナの組の一例を示す表である。
図15】第四実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図16】第四実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図17】第五実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図18】第五実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき複数説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する場合がある。また、各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。さらに、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0013】
(第一実施形態)
本開示の第一実施形態に関して、図1図7を用いて説明する。レーダ装置1は、例えば車両等の移動体に搭載される。レーダ装置1は、送信信号を送信して、物体で反射された送信信号を受信信号として受信し、送信信号を反射した物体であるターゲットまでの距離、ターゲットとの相対速度及びターゲットの方位等を、ターゲット情報として検出する。
【0014】
レーダ装置1から出力されたターゲット情報は、例えばCAN(Control Area Network(登録商標))、およびEthernet(登録商標)などの車載ネットワークを介して車載ECU(Electronic control unit)に入力される。車載ECUは、取得した各ターゲットのターゲット情報に基づいて、車両の自動運転や高度運転支援のための各種処理を実行する。
【0015】
ターゲット情報に基づく処理としては、例えば衝突回避処理、警告処理等がある。衝突回避処理は、各ターゲットのターゲット情報に基づいて、ブレーキシステムやステアリングシステム等を制御することにより、ターゲットとの衝突を回避するための車両制御を行う処理である。警告処理は、各ターゲットのターゲット情報に基づいて、ターゲットとの衝突可能性を運転者に警告する処理である。
【0016】
本実施形態のレーダ装置1は、図1の基本構成に示すように、発振器2、複数の送信回路3、複数の送信アンテナTX、複数の受信アンテナRX、複数の受信回路4、温度センサ5、及び制御ユニット6を備えている。レーダ装置1は、複数の送信アンテナTXから送信信号を送信することにより、受信アンテナRXの本数を実本数以上に擬似的に増加させる、所謂MIMO(Multiple-Input-Multiple-Output)方式のレーダである。
【0017】
発振器2は、制御ユニット6からの制御信号を取得し、当該制御信号に応じて変調された変調信号を生成する。変調信号は、例えば、周波数が時間変化する所謂チャープ信号である。変調信号は、送信回路3及び受信回路4の各チャネルに分配されて出力される。以下において、発振器2から送信回路3へと出力される変調信号を送信信号とする。又、発振器2から受信回路4へと出力される変調信号をローカル信号とする。
【0018】
送信回路3及び受信回路4は、それぞれMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)等の半導体集積回路装置を主体に構成されている。送信回路3は、送信アンテナTXと接続され、送信アンテナTXに対して送信信号を出力する。1つのレーダ装置1に搭載される送信回路3の個数をNs個とすると、Nsは2以上の整数である。送信回路3は、接続された送信アンテナTXと同数の増幅器30を備えている。増幅器30は、発振器2から出力された送信信号を増幅して、それぞれ対応する送信アンテナTXに対して出力する。
【0019】
送信アンテナTXは、発振器2から供給された送信信号としての電気信号を、電波信号へと変換して外界へと送信する。送信アンテナTXは、少なくとも1つ以上のアンテナ素子を含んで構成されている。例えば、送信アンテナTXは、平板形状の複数のアンテナ素子を備えるパッチアンテナである。アンテナ素子は、地板が一方の面に設けられた誘導体基板における地板とは反対側の面に、地板と対向するように配置されている。複数のアンテナ素子は、電気信号を供給する給電線により、例えば直列に接続されている。
【0020】
受信アンテナRXは、外界における反射物としてのターゲットにて反射された送信信号を含む電波信号を、受信信号として受信する。受信アンテナRXは、対応する受信回路4に接続されている。送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配置については後述する。
【0021】
受信アンテナRXは、電波信号としての受信信号を、電気信号へと変換して対応する受信回路4に出力する。受信アンテナRXは、例えば送信アンテナTXと同様に、少なくとも1つ以上のアンテナ素子が給電線により直列に接続された、パッチアンテナとされる。
【0022】
受信回路4は、受信アンテナRXと接続され、受信アンテナRXにて受信された受信信号を取得する。1つのレーダ装置1に搭載される受信回路4の個数をNr個とすると、Nrは2以上の整数である。受信回路4は、接続された受信アンテナRXと同数の増幅器40及び信号混合部41を備えている。
【0023】
増幅器40は、受信アンテナにて受信された受信信号を増幅し、信号混合部41へと出力する。信号混合部41は、発振器2からのローカル信号と受信信号とが混合されたビート信号を生成する。生成されるビート信号は、受信信号とローカル信号との周波数差分を表す干渉信号となる。ビート信号は、図示しないローパスフィルタによって受信信号とローカル信号との周波数差分から外れる高域成分をフィルタリングされた状態で、受信信号に関連する信号データとして、制御ユニット6へと出力される。
【0024】
温度センサ5は、レーダ装置1内における温度を検出する。温度センサ5は、例えばサーミスタを備え、サーミスタの抵抗値に応じた温度情報を出力する。温度センサ5は、各送信回路3及び受信回路4の温度情報を検出し、制御ユニット6へと出力する。
【0025】
制御ユニット6は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成されている制御部である。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、例えば、レーダ装置1の制御に特化したECU(Electronic Control Unit)であってもよい。
【0026】
制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、メモリ6aとプロセッサ6bとを、少なくとも一つずつ有している。メモリ6aは、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。ここで記憶とは、センサシステムの起動オフによってもデータが保持される蓄積であってもよいし、センサシステムの起動オフによりデータが消去される一時的な格納であってもよい。プロセッサ6bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいてもよい。又は、プロセッサ6bは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方であってもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリ6aを、有していてもよい。
【0027】
制御ユニット6は、複数の受信回路4から出力された複数のビート信号を処理することで、レーダ装置1に対する反射物の角度を算出する測角処理を実行する。レーダ装置1は、MIMO方式にて受信アンテナRXの本数を擬似的に実本数以上に確保することで、比較的高い角度分解能を確保している。加えて、制御ユニット6は、異なる送信回路3間、異なる受信回路4間にて生じる信号の位相差及び振幅差を補償する補償処理を実行することで、比較的高い測角精度を確保している。
【0028】
上述の補償処理のために、各送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、規定の配置にて実装されている。送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配置について、図2図4に示す具体例を参照しつつ以下説明する。
【0029】
複数の送信アンテナTX及び複数の受信アンテナRXにより、複数の受信アンテナRXに対して、受信アンテナRX間における受信信号の位相差に応じた複数の仮想アンテナVが、送信アンテナTXごとに想定されることになる。各仮想アンテナVの仮想位置は、対応する送信アンテナTXの、他の送信アンテナTXに対する相対位置と、対応する受信アンテナRXの、他の受信アンテナRXに対する相対位置と、によって規定される。
【0030】
送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、送信アンテナTXごとに想定される仮想アンテナV群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路3及び受信回路4の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナVの組である特有組の数が、少なくともNs+Nr-2組となるように、配置されている。
【0031】
一例として、送信アンテナTXが4本、受信アンテナRXが6本実装されたレーダ装置1を想定する。さらにこの例では、送信回路3の個数はNs=2、受信回路4の個数はNr=2であるとする。この場合、図2に示すように、1つの送信回路3におけるチャネル数は少なくとも2、1つの受信回路4におけるチャネル数は少なくとも3となる。以下において、送信回路3の一方を第一送信回路3_1、他方を第二送信回路3_2とする。又、受信回路4の一方を第一受信回路4_1、他方を第二受信回路4_2とする。本実施形態において、複数の回路チップC上に、それぞれ各回路が実装されている。具体的には、第一送信回路3_1と第一受信回路4_1とが同一の第一回路チップC1に実装されている。そして、第二送信回路3_2と第二受信回路4_2とが、同一の第二回路チップC2に実装されているものとする。尚、送信アンテナTXと、対応する送信回路3との間の各配線Wtの配線長は、全て実質同じ長さであるとする。又、受信アンテナRXと、対応する受信回路4との間の各配線Wrの配線長は、全て実質同じ長さであるとする。
【0032】
さらに以下においては、4本の送信アンテナTX及び6本の受信アンテナRXについて、それぞれ異なる符号を付して区別する場合がある。具体的には、第一送信回路3_1と接続された2本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX1_1,TX1_2、第二送信回路3_2と接続された2本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX2_1,TX2_2とする。そして第一受信回路4_1と接続された3本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX1_3、第二受信回路4_2と接続された3本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX2_1,RX2_2,RX2_3とする。
【0033】
この場合、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、上述した仮想アンテナV群の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数が、少なくともNs+Nr-2組、すなわち2組となるように、配置される。本実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXはそれぞれ等間隔に、一次元的に配置されている。ここで一次元的に配置されているとは、1つの基準方向に沿って並ぶように配置されていることを意味する。
【0034】
図3に示す例では、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2は、基準方向としてのX方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2dにて配置されている。さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1,RX2_2,RX2_3,RX1_3は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。
【0035】
仮想アンテナVは、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2ごとに、それぞれ受信アンテナRXの個数分、すなわち6本が想定される。したがって、合計で24本の仮想アンテナVが、想定されることになる。
【0036】
ここで、送信アンテナTX1_1に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV1,V2,V3,V4,V5,V6とする。送信アンテナTX1_2に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV7,V8,V9,V10,V11,V12とする。送信アンテナTX2_1に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV13,V14,V15,V16,V17,V18とする。送信アンテナTX2_2に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV19,V20,V21,V22,V23,V24とする。
【0037】
隣接する送信アンテナTX同士は間隔2dで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される複数の仮想アンテナVは、隣接する送信アンテナTXに対して想定される複数の仮想アンテナVから、相対的に2dずれた仮想位置となる。受信アンテナRXは間隔dで配置されるため、図4に示すように、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が、16組存在することになる。尚、図4では、見易さのため、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、複数の仮想アンテナVは、基準方向(X方向)に延びる仮想線VL上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。すなわち、図4において紙面の左右方向位置が同じ仮想アンテナV同士が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。以下において、仮想位置の重複する具体的な仮想アンテナVの組を、個別の仮想アンテナVごとに付与した符号を利用して(Vn,Vm)と表記する(n,mは自然数)。
【0038】
具体的には、(V3,V7)、(V4,V8)、(V5,V9)、(V5,V13)、(V6,V10)、(V6,V14)、(V9,V13)、(V10,V14)、(V11,V15)、(V11,V19)、(V12,V16)、(V12,V20)、(V15,V16)、(V16,V20)、(V17,V21)、(V18,V22)が、それぞれ仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0039】
以上の組のうち、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で一致しない組の集合としての仮想アンテナV群は、(V6,V10)及び(V18,V22)を除いた14組にて構成されることになる。この仮想アンテナV群の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数は6組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしていることになる。
【0040】
6組の一例としては、(V3,V7)、(V9,V13)、(V11,V15)、(V11,V19)、(V12,V16)、(V17,V21)の組が想定できる。後述の補償部は、これらの組から少なくとも2組の各仮想アンテナVにて取得できる受信信号に基づいて、補償処理を実行する。
【0041】
尚、補償処理に想定される仮想アンテナVの組は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しないのであれば、上述の組以外が想定されてもよい。例えば、(VV4,V8)及び(V5,V9)は、(V3,V7)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複するが、その他の組とは重複しない。したがって、6組のうちの1組として(V4,V8)又は(V5,V9)を想定することは、(V3,V7)を想定することと等価である。
【0042】
尚、制御ユニット6は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない仮想アンテナVの組が、少なくともNs+Nr-2組確保されていれば、それらの組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複する組を、補償処理に利用する組として追加的に想定してもよい。
【0043】
以上の補償処理を含むレーダ装置1の制御のために、プロセッサ6bは、メモリ6aに記憶された、制御プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これにより制御ユニット6は、レーダ装置1を制御するための機能部を、構築する。具体的には、制御ユニット6は、図6に示すように、信号生成部60、AD変換部61、フーリエ変換部62、比較部63、補償部64及び角度取得部65を、機能部として構築する。
【0044】
こうしたプロセッサ6bの機能により、制御ユニット6がレーダ装置1を制御するレーダ制御方法は、図7に示す制御フローに従って実行される。本制御フローは、車両の起動中に繰り返し実行される。尚、本制御フローにおける各「S」は、制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0045】
まずS10にて、信号生成部60が、発振器2から送信信号を出力させる。続くS20では、AD変換部61が、送信アンテナTXから外界に送信された送信信号がターゲットにて反射されて受信アンテナRXにて受信された受信信号に応じたビート信号を、受信回路4から取得する。S30にて、AD変換部61は、ビート信号を所定の時間間隔でサンプリングするA/D変換処理によりデジタル信号へと変換する。続くS40では、フーリエ変換部62が、A/D変換されたビート信号のチャープ毎にFFT(Fast Fourier Transform)処理を実行する。これにより、フーリエ変換部62は、ターゲットまでの距離に対応する周波数の位置にピークを示す周波数スペクトル(距離スペクトル)をチャープ毎に取得する。距離スペクトルは、距離分解能に応じた距離ビンごとの信号強度を示すデータとされる。
【0046】
そして、フーリエ変換部62は、距離スペクトルに対してFFT処理を実行する。すなわち、フーリエ変換部62は、複数のチャープに対する1回目のFFT処理で得られた距離ビンでの位相を時系列で並べた波形に対して、2回目のFFT処理を行う。これにより、ターゲットとの相対速度に対応する位置にピークを示す周波数スペクトル(速度スペクトル)が、速度ビン毎に得られる。以上の二次元FFTにより、フーリエ変換部62は、ターゲットまでの距離及びターゲットの相対速度に応じた位置にピークを示す二次元情報(RVマップ)を、取得する。
【0047】
次に、S50において、比較部63が、RVマップからピークを抽出する。続くS60では、比較部63が、抽出したピークの強度を取得する。そして、S70では、比較部63が、抽出したピークが有効であるか否かを判定する。例えば、比較部63は、ピークの強度が許容強度範囲内である場合に、当該ピークが有効であると判定する。ここで、許容強度範囲は、強度が所定の閾値以上又は閾値より大きい範囲である。有効なピークが存在すると判定されると、本フローはS80へと移行する。
【0048】
S80では、補償部64が、各仮想チャネルにおける有効なピークの位相に基づいて、送信回路3間及び受信回路4間の位相誤差を取得する。
【0049】
位相の補償処理では、補償部64は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しないNs+Nr-2組以上の仮想アンテナVの組ごとに、ビート信号におけるピークの位相差分による線型方程式を定義する。この線型方程式は、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差を未知数として定義される。補償部64は、この線型方程式の解を、相対位相誤差として取得する。ビート信号は、受信信号に関連する信号であるため、ビート信号におけるピークの位相差分は、仮想アンテナV同士の受信信号の比較結果の一例である。
【0050】
相対位相誤差の取得に関して、以下に詳記する。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける位相をθVn(nは自然数)と表記することとする。以下における説明では、簡単のため、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない組としては、図5に示すように、(V9,V13)及び(V11,V15)の2組のみを利用するものとする。さらに、(V9,V13)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複する組み合わせとして、(V10,V14)の1組を付加的に利用するものとする。
【0051】
この場合、(V9,V13)に関するピークの位相差分θV9-θV13は数式(1)、(V10,V14)に関するピークの位相差分θV10-θV14は数式(2)、(V11,V15)に関するピークの位相差分θV11-θV15は数式(3)に示す関係にて定義できる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0052】
尚、以上の数式において、Θ,Θ,Θは、それぞれターゲット起因の位相誤差である。そして、etx1は、第一送信回路3_1にて生じる信号の位相誤差、etx2は、第二送信回路3_2にて生じる信号の位相誤差である。erx1は、第一受信回路4_1にて生じる信号の位相誤差、erx2は、第二受信回路4_2にて生じる信号の位相誤差である。
【0053】
ここで、位相補償においては、送信回路3間の相対位相誤差、及び受信回路4間の相対位相誤差を考慮すればよい。したがって、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差を考慮することとすると、etx1,erx1=0とすることができる。したがって、数式(1)~(3)は、以下の数式(4)~(6)に変形可能である。
【数4】
【数5】
【数6】
【0054】
ここで、数式(4)~(6)を行列形式に変換すると、各組の位相差分と、相対位相誤差とは、以下の数式(7)に表される関係を満たす。
【数7】
【0055】
ここで、数式(7)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の位相差分ベクトルY1である。数式(7)の右辺の第一項は、係数行列A1であり、第二項は位相誤差ベクトルX1である。数式(7)のうち位相差分ベクトルY1は、各ビート信号におけるピークの位相から算出可能である。係数行列A1は、仮想アンテナVの各組の送信回路3及び受信回路4の組み合わせによって規定される定数行列である。したがって、数式(7)は、etx2,erx2を未知数とした連立方程式として解くことが可能である。すなわち、補償部は、数式(7)の解としてのetx2,erx2を、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差として、取得する。
【0056】
続くS90では、補償部64が、各仮想アンテナVにおける有効なピークの振幅に基づいて、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差を取得する。
【0057】
振幅の補償処理では、補償部64は、位相補償処理と同様に、特有組ごとに、ビート信号のピークの振幅差分による線型方程式を、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差を未知数として定義する。補償部64は、この線型方程式の解を、相対振幅誤差として取得する。ビート信号におけるピークの振幅差分は、仮想アンテナV同士の受信信号の比較結果の一例である。
【0058】
以下における説明では、上述の位相補償処理と同様の仮想アンテナVの組を、振幅補償処理においても利用するものとする。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける振幅をAVn(nは自然数)と表記することとする。この場合、(V9,V13)に関するピークの振幅差分AV9-AV13は数式(8)、(V10,V14)に関するピークの振幅差分AV10-AV14は数式(9)、(V11,V15)に関するピークの振幅差分AV11-AV15は数式(10)に示す関係にて定義できる。
【数8】
【数9】
【数10】
【0059】
尚、以上の数式において、G,G,Gは、それぞれターゲット起因の振幅誤差である。そして、Gtx1は、第一送信回路3_1にて生じる信号の振幅誤差、Gtx2は、第二送信回路3_2にて生じる信号の振幅誤差である。Grx1は、第一受信回路4_1にて生じる信号の振幅誤差、Grx2は、第二受信回路4_2にて生じる信号の振幅誤差である。
【0060】
ここで、位相補償と同様に、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差を考慮することとすると、Gtx1,Grx1=0とすることができる。したがって、数式(8)~(10)は、以下の数式(11)~(13)に変形可能である。
【数11】
【数12】
【数13】
【0061】
ここで、数式(11)~(13)を行列形式に変換すると、各組の振幅差分と、相対振幅誤差とは、以下の数式(14)に表される関係を満たす。
【数14】
【0062】
ここで、数式(14)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の振幅差分ベクトルY2である。数式(14)の右辺の第一項は、係数行列A2であり、第二項は振幅誤差ベクトルX2である。振幅差分ベクトルY2は、各ビート信号におけるピークの振幅から算出可能である。係数行列A1は、仮想アンテナVの各組の送信回路3及び受信回路4の組み合わせによって規定される定数行列である。すなわち、補償部64は、数式(14)の解としてのGtx2,Grx2を、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差として、取得する。
【0063】
そして、S100では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の位相誤差を、補償する。例えば、補償部64は、取得した相対位相誤差を、後述の相対角度取得の際に利用するための補償データとしてメモリ6aに保存する。さらに、S110では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を補償データとしてメモリ6aに保存することで、補償する。
【0064】
一方で、S70にて有効なピークが存在しないと判定されると、本フローはS120へと移行する。S120では、補償部64が、温度センサ5から、各送信回路3及び各受信回路4の温度を取得する。そして、S130では、補償部64が、温度に応じた送信回路3間の位相誤差及び振幅誤差についての補正テーブルを、メモリ6aから読み出す。
【0065】
次に、S140では、補償部64が、取得した温度と補正テーブルとの照合により、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差を取得する。そして、S150では、補償部64が、取得した温度と補正テーブルとの照合により、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を取得する。そして、S160では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差を、補償する。さらに、S170では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を、補償する。
【0066】
S110又はS170の後のS180では、角度取得部65が、ターゲットの相対角度を取得する。具体的には、角度取得部65は、補償後の各仮想アンテナVの受信信号に基づくビート信号から抽出される複数のピークに対してFFT処理を実行することで、仮想アンテナV間の位相差を取得する。仮想アンテナV間の位相差は、ターゲットの相対角度に関連するため、角度取得部65は、取得した位相差を相対角度へと変換することで、相対角度を取得する。
【0067】
この第一実施形態によると、少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号についての比較結果に基づき、異なる送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、が補償され得る。故に、異なる受信回路4間に加え、異なる送信回路3間での誤差の補償処理が可能となり得る。したがって、補償精度の向上が可能となり得る。
【0068】
(第二実施形態)
図8,9に示すように第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態において、送信アンテナTXは、二次元的に配置されている。
【0069】
第二実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの本数は、それぞれ第一実施形態と同数とする。又、送信回路3及び受信回路4の個数も、第一実施形態と同数とする。
【0070】
図8に示す例では、送信アンテナTX1_1,TX2_1は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2dにて配置されている。さらに、送信アンテナTX1_2,TX1_2は、X方向に直交するY方向において一方側から他方側に、この順番で間隔sにて配置されている。又、送信アンテナTX2_1,TX2_2は、Y方向において一方側から他方側に、この順番で間隔sにて配置されている。すなわち、送信アンテナTX1_2,TX2_2は、間隔2dを空けて、送信アンテナTX1_1,TX2_1と平行に配置されている。
【0071】
さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1,RX2_2,RX2_3,RX1_3は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。各アンテナTX,RXの本数が第一実施形態と同様であるため、第二実施形態においても、合計で24本の仮想アンテナVが、図9に示すように、想定されることになる。
【0072】
X方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔2dで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列は、X方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列から、相対的に2dずれた仮想位置となる。さらに、Y方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔sで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列は、Y方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列から、相対的にsずれた仮想位置となる。
【0073】
尚、図9においても、図4と同様に、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、送信アンテナTX1_1,TX2_1に対して想定される複数の仮想アンテナVは、X方向に延びる仮想線VL1上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。又、送信アンテナTX1_2,TX2_2に対して想定される複数の仮想アンテナVは、X方向に延びる仮想線VL2上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。そして、仮想線VL1上の仮想アンテナVの列と、仮想線VL2上の仮想アンテナVの列との間は、Y方向に間隔sだけ離れている。
【0074】
したがって、図9に示すように、送信アンテナTX1_1に対して想定される複数の仮想アンテナVと、送信アンテナTX2_1に対して想定される複数の仮想アンテナVとの間で、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が想定できる。具体的には、(V3,V13)、(V4,V14)、(V5,V15)、(V6,V16)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0075】
同様に、送信アンテナTX1_2に対して想定される複数の仮想アンテナVと、送信アンテナTX2_2に対して想定される複数の仮想アンテナVとの間で、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が想定できる。具体的には、(V9,V19)、(V10,V20)、(V11,V21)、(V12,V22)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0076】
以上の組は、いずれも送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で重複しない組の集合を構成する。この集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数は3組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしている。
【0077】
3組の一例としては、(V3,V13)、(V5,V15)、(V6,V16)の組が想定できる。補償部64は、これらの組から少なくとも2組の各仮想アンテナVにて取得できる受信信号に基づくビート信号を利用して、補償処理を実行する。
【0078】
尚、(V4,V14)、(V9,V19)、(V10,V20)は、(V3,V13)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複するが、その他の組とは重複しない。したがって、3組のうちの1組として(V4,V14)又は(V9,V19)又は(V10,V20)を想定することは、(V3,V13)を想定することと等価である。同様に、3組のうちの1組として(V11,V21)を想定することは、(V5,V15)を想定することと等価であり、(V12,V22)を想定することは、(V6,V16)を想定することと等価である。
【0079】
(第三実施形態)
図10図14に示すように第三実施形態は、第一実施形態の変形例である。
【0080】
第三実施形態のレーダ装置1において、少なくとも1つの送信アンテナTXが、他の送信アンテナTXと配線長が異なる。図10に示す例では、第一送信回路3_1に接続された送信アンテナTX1_2の配線Wt2が、他の送信アンテナTXの配線Wt1よりも配線長が長いものとする。又、受信アンテナRXの各配線Wrの配線長は、いずれも実質同じであるとする。
【0081】
配線長の異なるアンテナが存在する場合、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、送信アンテナTXごとに想定される仮想アンテナV群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路3及び受信回路4の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナVの組である特有組の数が、少なくともNs+Nr-2組となるように、配置されている。
【0082】
且つ、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、仮想位置が重複し配線長が一致しない仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれるように、配置されている。さらに、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、上述した特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する仮想アンテナVの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように、配置されている。
【0083】
本実施形態において、各アンテナTX,RXの配置は、図11に示すように一次元的であり、第一実施形態と実質同じであるとする。この場合、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナVの組の数は6組となるため、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしていることになる。例えばこの6組として、図12に示すように、第一実施形態と同様の(V3,V7)、(V9,V13)、(V11,V15)、(V11,V19)、(V12,V16)、(V17,V21)の組を想定する。この特有組には、異配線長組が含まれている。すなわち、この6組のうち、(V17,V21)を除く5組が、異配線長組であり、少なくとも1組との条件を満たしている。したがって、所属組の総数が6組となり、少なくともNs+Nr-1組との条件を、満たしていることになる。
【0084】
この場合、制御ユニット6は、S80及びS90の処理において、仮想アンテナVの配線長差分に応じた位相誤差及び振幅誤差を、さらに算出する。ここで、仮想アンテナVの配線長は、当該仮想アンテナVに対応する送信アンテナTXから送信回路3までの配線長と、対応する受信アンテナRXから受信回路4までの配線長とを合計した配線長を意味する。ここで配線Wt2のみが配線Wt1より長く、受信アンテナRXの配線Wrは全て実質等長のため、送信アンテナTX1_2について想定される仮想アンテナVの配線長は、送信アンテナTX1_2以外の送信アンテナTXについて想定される仮想アンテナVの配線長より長くなる。
【0085】
一般的に、仮想アンテナVごとの配線長差による位相誤差は、図13に示すように、基準配線長Lo(例えば最も短い配線長)に対する配線長差に応じて線形に増加する。すなわち、配線長差に対する位相誤差は、配線長差にKを乗算した値となる。ここで、配線長差に対する位相誤差の大きさに関連する傾きKは、温度に応じて変化する温度パラメータである。すなわち、本実施形態における送信アンテナTX1_2について想定される仮想アンテナVの配線長LAとすると、配線長差LA-Loから傾きKが算出可能となる。この場合、基準配線長Loは、送信アンテナTX1_2以外の送信アンテナTXについて想定される仮想アンテナVの配線長となる。
【0086】
ここで、送信アンテナTXa_bと受信アンテナRXc_dとの組に対して想定される仮想アンテナVにおける配線長差を、Labcdと表記する(a,b,c,dは自然数)。以下における説明では、簡単のため、所属組としては、図14に示すように、(V3,V7)、(V9,V13)及び(V11,V15)の3組を利用するものとする。配線長差Labcdに起因する位相誤差をeabcdとおくと、図14に示す例において、(V3,V7)に関するピークの位相差分θV3-θV7は数式(15)、(V9,V13)に関するピークの位相差分θV9-θV13は数式(16)、(V11,V15)に関するピークの位相差分θV11-θV15は数式(17)に示す関係にて定義できる。
【数15】
【数16】
【数17】
【0087】
ここで、位相誤差eabcdを、Labcd・Kに置き換えると、上記の数式(15)~(17)は、下記の数式(18)~(20)のように変形できる。
【数18】
【数19】
【数20】
【0088】
これを、行列形式に変換すると、各組の位相差分と、相対位相誤差とは、以下の数式(21)に表される関係を満たす。
【数21】
【0089】
ここで、数式(21)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の位相差分ベクトルY3である。数式(21)の右辺の第一項は、係数行列A3であり、第二項は位相誤差ベクトルX3である。数式(21)のうち位相差分ベクトルY3は、各ビート信号におけるピークの位相から算出可能である。係数行列A3は、仮想アンテナVの各組の送信回路3、受信回路4、及び配線長差の組み合わせによって規定される定数行列である。したがって、数式(21)は、etx2,erx2,Kを未知数とした連立方程式として解くことが可能である。すなわち、補償部64は、数式(21)の解としてのetx2,erx2,Kを、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差、配線長差に応じた相対位相誤差として、取得する。
【0090】
振幅の補償処理では、補償部64は、位相補償処理と同様に、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しないNs+Nr-1組以上の仮想アンテナVの組ごとに、ビート信号のピークの振幅差分による線型方程式を、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差を未知数として定義する。補償部64は、この線型方程式の解を、振幅誤差として取得する。
【0091】
基準配線長Loに対する配線長差による振幅誤差は、位相誤差と同様に、基準配線長に対する配線長差に応じて線形に増加する。配線長差に応じた振幅誤差の増加量は、温度に応じて変化する。すなわち、配線長差に起因する振幅誤差は、配線長差に温度パラメータαを乗算した値となる。
【0092】
配線長差Labcdに起因する振幅誤差をGabcdとおくと、(V3,V7)に関するピークの振幅差分AV3-AV7は数式(22)、(V9,V13)に関するピークの振幅差分AV9-AV13は数式(23)、(V11,V15)に関するピークの振幅差分AV11-AV15は数式(24)に示す関係にて定義できる。
【数22】
【数23】
【数24】
【0093】
ここで、振幅誤差Gabcdを、Labcd・αに置き換えると、上記の数式(22)~(24)は、下記の数式(25)~(27)のように変形できる。
【数25】
【数26】
【数27】
【0094】
ここで、数式(25)~(27)を行列形式に変換すると、各組の振幅差分と、相対振幅誤差とは、以下の数式(28)に表される関係を満たす。
【数28】
【0095】
ここで、数式(28)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の振幅差分ベクトルY4である。数式(28)の右辺の第一項は、係数行列A4であり、第二項は振幅誤差ベクトルX2である。振幅差分ベクトルY4は、各ビート信号におけるピークの振幅から算出可能である。係数行列A4は、仮想アンテナVの各組の送信回路3、受信回路4及び配線長の組み合わせによって規定される定数行列である。すなわち、補償部64は、数式(28)の解としてのGtx2,Grx2,αを、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差、配線長による相対振幅誤差として、取得する。
【0096】
(第四実施形態)
図15,16に示すように第四実施形態は、第一実施形態の変形例である。
【0097】
図16に示すように第四実施形態は、第一実施形態の変形例である。第四実施形態において、送信アンテナTXは、二次元的に配置されている。すなわち、送信アンテナTXは、2つの基準方向について、それぞれ等間隔となるように配置されている。
【0098】
第四実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの本数は、それぞれ第二実施形態と同数とする。又、送信回路3及び受信回路4の個数も、第二実施形態と同数とする。送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配置は、図15に示すように、第二実施形態と実質同じ配置とされる。
【0099】
したがって、図16に示すように、(V3,V13)、(V4,V14)、(V5,V15)、(V6,V16)、(V9,V19)、(V10,V20)、(V11,V21)、(V12,V22)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0100】
以上の組は、いずれも送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で重複しない組の集合を構成する。この集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数は3組となり、少なくともNs+Nr-1組という条件を満たしている。
【0101】
(第五実施形態)
図17,18に示すように第五実施形態は、第一実施形態の変形例である。第五実施形態において、送信アンテナTXは、二次元的に配置されている。
【0102】
第五実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの本数は、それぞれ第二実施形態と同数とする。又、送信回路3及び受信回路4の個数も、第二実施形態と同数とする。
【0103】
図17では、送信アンテナTX1_1,TX2_1は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2dにて配置されている。さらに、送信アンテナTX1_2,TX1_2は、Y方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2sにて配置されている。又、送信アンテナTX2_1,TX2_2は、Y方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2sにて配置されている。すなわち、送信アンテナTX1_2,TX2_2は、間隔2dを空けて、送信アンテナTX1_1,TX2_1と平行に配置されている。
【0104】
さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。そして受信アンテナRX2_2,RX2_3,RX1_3は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1の列と、受信アンテナRX2_2,RX2_3,RX1_3の列は、Y方向に間隔sを空けて配置されている。
【0105】
図18は、図17の配置において想定される仮想アンテナVの仮想配置を示している。X方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔2dで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVのグループは、X方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVのグループから、相対的に2dずれた仮想位置となる。さらに、Y方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔2sで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVのグループは、Y方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVのグループから、相対的に2sずれた仮想位置となる。
【0106】
尚、図18において、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、仮想アンテナV1~V3及び仮想アンテナV13~V15は、仮想線VL1上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。又、仮想アンテナV4~V6及び仮想アンテナV16~V18は、仮想線VL1から間隔sだけ離れて仮想線VL1と平行に延びる仮想線VL2上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。仮想アンテナV7~V9及び仮想アンテナV19~V21は、仮想線VL2から間隔sだけ離れて仮想線VL2と平行に延びる仮想線VL3上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。仮想アンテナV10~V11及び仮想アンテナV22~V24は、仮想線VL3から間隔sだけ離れて仮想線VL3と平行に延びる仮想線VL4上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。
【0107】
したがって、図16に示すように、(V3,V13)、(V6,V16)、(V9,V19)、(V12,V22)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。この中で、(V3,V13)と(V9,V19)は、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複している。又、(V6,V16)と(V12,V22)も同様である。したがって、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない特有組の数は2組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしている。補償部64は、(V3,V13)及び(V9,V19)の少なくとも一方と、(V6,V16)及び(V12,V22)の少なくとも一方と、の受信結果から、送信回路3間の誤差及び受信回路4間の誤差を補償する。
【0108】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0109】
変形例において、制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両に搭載された複数種類のセンサを統括的に制御する、センサ統括ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を統合する、統合ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御における運転タスクを判断する、判断ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を監視する、監視ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を評価する、評価ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の走行アクチュエータを制御する、アクチュエータECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両における情報提示を制御する、HCU(HMI(Human Machine Interface) Control Unit)であってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、例えば車両との間で通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構築する、車両以外のコンピュータであってもよい。
【0110】
変形例においてレーダ装置1の適用される移動体は、例えば自律走行又はリモート走行により荷物搬送若しくは情報収集等の可能な自律装置(autonomous robot)であってもよい。自律装置(autonomous robot)としては、自律走行車(autonomous vehicle)などを含む。ここまでの説明形態の他に上述の実施形態及び変形例は、移動体に搭載可能に構成されてプロセッサ6b及びメモリ6aを少なくとも一つずつ有する制御装置として、処理回路(例えば処理ECU等)又は半導体装置(例えば半導体チップ等)の形態で実施されてもよい。
【0111】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0112】
(技術的思想1)
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれるように配置され、
前記制御部は、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号についての比較結果に基づき、異なる前記送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる前記受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置。
【0113】
(技術的思想2)
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御部(6)と、を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御部は、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号についての比較結果に基づき、前記仮想アンテナ同士の配線長差分に応じた位相差及び振幅差の少なくとも一つと、異なる前記送信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、異なる前記受信回路間の位相差及び振幅差の少なくとも一方と、を補償する補償処理を実行するレーダ装置。
【0114】
(技術的思想3)
前記制御部は、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複する前記仮想アンテナの組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号の前記比較結果をさらに利用して前記補償処理を実行する技術的思想1又は技術的思想2に記載のレーダ装置。
【0115】
(技術的思想4)
前記送信回路及び前記受信回路の温度を検出する温度センサ(5)をさらに備え、
前記制御部は、
前記受信信号が前記補償処理に有効か否かを判定し、
前記受信信号が前記補償処理に有効でないと判定された場合に、前記送信回路及び前記受信回路の温度に基づく前記補償処理を実行する技術的思想1から技術的思想3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【0116】
(技術的思想5)
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、一次元的に配置されている技術的思想1から技術的思想4のいずれか1項に記載のレーダ装置。

(技術的思想6)
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、少なくとも一方が二次元的に配置されている技術的思想1から技術的思想4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【符号の説明】
【0117】
1:レーダ装置、3:送信回路、4:受信回路、5:温度センサ、6:制御ユニット(制御部)、6a:メモリ、6b:プロセッサ、TX:送信アンテナ、RX:受信アンテナ、V:仮想アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18