(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013729
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】応力度測定方法、及び応力度補正式設定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 1/25 20060101AFI20240125BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20240125BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20240125BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01L1/25
G01N23/2055 310
G01N33/38
G01N1/28 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116052
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 滋晃
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】篠口 冴子
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽
(72)【発明者】
【氏名】吉本 正浩
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】阿南 健一
(72)【発明者】
【氏名】本田 中
(72)【発明者】
【氏名】野末 秀和
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001BA25
2G001CA01
2G001FA08
2G001KA07
2G001LA02
2G001RA01
2G001RA04
2G052AA11
2G052AA16
2G052EC11
2G052EC13
2G052GA02
2G052GA19
2G052JA03
2G052JA04
2G052JA07
2G052JA18
2G052JA20
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、コンクリート内の鉄筋を切断することなく非破壊の測定によって鉄筋の応力度を把握する技術を提供することである。
【解決手段】 本願発明の応力度測定方法は、コンクリート内の鋼材にX線を照射することで鋼材の応力度を測定する方法であって、研磨条件決定工程と1次研磨工程、2次研磨工程、X線測定工程、応力度補正工程を備えた方法である。このうち研磨条件決定工程は、1次試験研磨工程と2次試験研磨工程、X線試験測定工程、電流値決定工程、補正式設定工程を有する工程である。また応力度補正工程では、X線測定工程で得られた実測応力度を応力度補正式で補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート内の鋼材にX線を照射することで該鋼材の応力度を測定する方法であって、
研磨条件を決定する研磨条件決定工程と、
応力度補正式を設定する補正式設定工程と、
コンクリートを削ることによって前記鋼材の一部を露出させるコンクリート切削工程と、
露出した前記鋼材の表面を、研磨機を用いて研磨することによって1次研磨面を形成する1次研磨工程と、
前記1次研磨面に対して電解研磨を行うことによって2次研磨面を形成する2次研磨工程と、
前記2次研磨面を、X線応力測定装置を用いて測定することによって実測応力度を得るX線測定工程と、
前記X線測定工程で得られた前記実測応力度を、前記補正式設定工程で設定された前記応力度補正式で補正して決定応力度を求める応力度補正工程と、を備え、
前記研磨条件決定工程は、
コンクリート内の前記鋼材と同等規格の複数の鋼材試料に対して、それぞれ研磨機を用いて研磨することによって1次試験研磨面を形成する1次試験研磨工程と、
前記1次試験研磨工程で形成された複数の前記1次試験研磨面に対して、それぞれ異なる電流値で電解研磨を行うことによって2次試験研磨面を形成する2次試験研磨工程と、
複数の前記鋼材試料をそれぞれ異なる応力状態にするとともに、異なる応力状態ごとの前記2次試験研磨面を、それぞれX線応力測定装置で測定することによって試験応力度を得るX線試験測定工程と、
前記X線試験測定工程で得られた複数の前記試験応力度と、計算又は測定によって得られる論理応力度と、を照らし合わせることによって最適電流値を決定する電流値決定工程と、を有し、
前記補正式設定工程では、前記X線試験測定工程で得られた前記最適電流値に係る応力状態別の前記試験応力度と、前記論理応力度と、に基づいて前記応力度補正式を設定し、
前記2次研磨工程では、前記電流値決定工程で決定された前記最適電流値で電解研磨を行う、
ことを特徴とする応力度測定方法。
【請求項2】
前記補正式設定工程では、前記論理応力度を第1軸、前記試験応力度を第2軸とする応力座標系を設定するとともに、該応力座標系に配置される該論理応力度と該試験応力度との組み合わせに基づいて回帰式を設定するとともに、該回帰式に基づいて前記応力度補正式を設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の応力度測定方法。
【請求項3】
前記研磨条件決定工程は、切削形状を決定する切削形状決定工程を、さらに有し、
前記1次試験研磨工程では、複数種類の前記切削形状を設定するとともに、それぞれの該切削形状となるように研磨し、
異なる前記切削形状に係る前記1次試験研磨面に対して、それぞれ前記最適電流値で電解研磨を行うことによって前記2次試験研磨面を形成し、
前記切削形状決定工程では、異なる前記切削形状に係る前記2次試験研磨面に対して前記X線試験測定工程を行った結果得られる複数の前記試験応力度と、前記論理応力度と、を照らし合わせることによって最適切削形状を決定し、
前記1次研磨工程では、前記最適切削形状となるように研磨する、
ことを特徴とする請求項1記載の応力度測定方法。
【請求項4】
請求項1記載の前記応力度測定方法に用いられる前記応力度補正式を設定する機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
同一の応力状態にされた前記鋼材試料に対して繰り返し前記X線試験測定工程を行った結果得られる複数の前記試験応力度から、当該応力状態における該試験応力度の代表値である応力別試験応力度を算出する代表応力度算出処理と、
異なる応力状態にされた前記鋼材試料に対して前記X線試験測定工程を行った結果得られる複数の前記応力別試験応力度と、前記論理応力度と、に基づいて回帰式を設定するとともに、該回帰式に基づいて前記応力度補正式を設定する応力度補正式設定処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備え、
前記代表応力度算出処理は、同一の応力状態に係る複数の前記試験応力度の平均値、標準偏差、及び標本数に基づく推定式を用いて、前記応力別試験応力度を算出し、
前記応力度補正式設定処理は、前記論理応力度を第1軸、前記試験応力度を第2軸とする応力座標系を設定するとともに、該応力座標系に配置される該論理応力度と前記応力別試験応力度との組み合わせに基づいて前記回帰式を設定する、
ことを特徴とする応力度補正式設定プログラム。
【請求項5】
限界応力度を選出する限界応力度選出処理を、前記コンピュータに実行させる機能をさらに備え、
前記限界応力度選出処理では、前記応力座標系に前記論理応力度と前記応力別試験応力度からなる応力座標を配置するとともに、隣接する該応力座標どうしを連結して線分を生成し、隣接する該線分によって形成される交差角に基づいて前記限界応力度を選出し、
前記応力度補正式設定処理では、前記限界応力度を境界として2以上の種類の前記回帰式を設定するとともに、それぞれの該回帰式に基づいて前記応力度補正式を設定する、
ことを特徴とする請求項4記載の応力度補正式設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリート構造物の健全度評価に関する技術であり、より具体的には、非破壊の測定によってコンクリート内の鋼材(例えば、鉄筋)の応力度を把握することができる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所では数千~数万ボルトの電気が生成されるが、電気抵抗によるロスを避けるため数十万ボルト程度の超高圧にしたうえで送電している。そして、超高圧変電所や一次変電所、二次変電所、配電用変電所などの各変電所で徐々に電圧を下げて工場などに供給し、さらに柱上変圧器などで電圧を下げて家庭に供給している。いずれにしろ、発電所で生成された電気は、電線やケーブルなどを利用した送電線や配電線(以下、これらを総じて「送電線等」という。)を介して利用者に供給される。
【0003】
送電線等には、電力柱に架空される架空送電線等(架空送電線や架空配電線)や、地下に埋設される地中送電線等(地中送電線や地中配電線)があり、このうち地中送電線等は、洞道や亜鉛メッキ鋼管などに収容されたうえで地下に埋設される。洞道内に地中送電線等を収容する場合、通常その洞道は鉄筋コンクリート造とされ、推進工法やシールド工法によって構築される。
【0004】
都市部における道路の地下には、地中送電線用の洞道(以下、単に「地中送電線洞道」という。)のほか、道路トンネルや地下鉄道トンネル、電力線等をまとめて収容する共同溝なども配置されることもあり、これらはいずれも推進工法やシールド工法による鉄筋コンクリート造とされるのが一般的である。地中送電線洞道や道路トンネルといったコンクリート構造物は、コンクリートの耐久性が50年~100年と言われているように、経年に伴って劣化することが知られている。鉄筋コンクリート構造物が相当程度に老朽化するとその表面にはひび割れ等の損傷が生じ、そしてひび割れ等が進行すると必要な耐力が失われるおそれもある。
【0005】
鉄筋コンクリートのひび割れは、乾燥収縮や、コンクリートの内外の温度差、アルカリ骨材反応といった材料に伴うものなど様々な要因によって発生する。また、地下水低下によって構造物上方の地盤に圧密沈下が生じたり、構造物の直上に建築物や高盛土が構築されたりすることによって、鉄筋コンクリート構造物に作用する上載荷重(外力)が設計時の想定よりも増大することもある。その結果、鉄筋コンクリート構造物は、耐力不足に伴うひび割れが生じることもあり、また耐力不足に伴う変形(特に、天端付近の撓み)によって内空面積が減少することもある。
【0006】
そのため、供用中のコンクリート構造物に対しては、定期的に点検を行うのが一般的である。例えば、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定しており、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象としたうえで、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。
【0007】
もちろん、地中送電線洞道についても定期的に点検されている。具体的には、コンクリート表面を目視等によって確認し、そこで異常個所が発見されるとさらに詳細な測定を行って、必要に応じて補強工事(コンクリートの増打ちなど)や補修工事(止水工など)を実施している。そして、異常個所における詳細測定では主に鉄筋の応力度が測定され、その応力度と現状の上載荷重を与条件とした設計計算を行うことによって、地中送電線洞道の健全度を評価している。
【0008】
ところで、供用中の地中送電線洞道の鉄筋応力度を測定する手法としては、従来「鉄筋切断法」が主流とされていた。この鉄筋切断法は、特許文献1にも開示されているように、表面コンクリートを斫り出したうえで鉄筋を切断し、切断前後の鉄筋ひずみを測定することでその応力度を判定する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鉄筋切断法は、実際に鉄筋を切断する破壊検査であり、そのためいわば直接的に鉄筋応力度を判定することができる。しかしながら、供用中にもかかわらず鉄筋を切断するが故に、切断前には炭素繊維等によってあらかじめ補強しておく必要があり、また測定後には新たに鉄筋を接続するとともに斫り出した部分をモルタル等で間詰めしなければならない。このように、鉄筋切断法を行うにあたっては本測定以外にも様々な作業が求められ、しかも本測定においても鉄筋切断という手間がかかる作業が必要である。すなわち鉄筋切断法を採用した場合、相当の測定コストや労力、測定時間が強いられるといった問題があり、そのうえ鉄筋切断を伴うため一時的とはいえ供用中の構造物が不安定な状態になるという問題があった。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、コンクリート内の鉄筋を切断することなく非破壊の測定によって鉄筋の応力度を把握する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、従来、粒子(原子)が緻密配列された鋼材(代表的には自動車鋼板など)に対して採用されていた「X線応力測定」を、粒子が比較的粗い配列である土木用鋼材(例えば、異形棒鋼などの鉄筋)に対しても活用する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0013】
本願発明の応力度測定方法は、コンクリート内の鋼材にX線を照射することで鋼材の応力度を測定する方法であって、研磨条件決定工程と補正式設定工程、1次研磨工程、2次研磨工程、X線測定工程、応力度補正工程を備えた方法である。このうち研磨条件決定工程では研磨条件を決定し、補正式設定工程では応力度補正式を設定する。またコンクリート切削工程ではコンクリートを斫る(削る)ことによって鋼材の一部を露出させ、1次研磨工程では露出した鋼材の表面を研磨機で研磨することによって1次研磨面を形成し、2次研磨工程では1次研磨面に対して電解研磨を行うことによって2次研磨面を形成する。さらにX線測定工程では2次研磨面をX線応力測定装置によって測定することで実測応力度を取得し、応力度補正工程ではX線測定工程で得られた実測応力度を応力度補正式で補正して決定応力度を求める。なお研磨条件決定工程は、1次試験研磨工程と2次試験研磨工程、X線試験測定工程、電流値決定工程を有する工程である。1次試験研磨工程では複数の鋼材試料(コンクリート内の鋼材と同等規格の鋼材)に対してそれぞれ研磨機によって研磨することによって1次試験研磨面を形成し、2次試験研磨工程では1次試験研磨工程で形成された複数の1次試験研磨面に対してそれぞれ異なる電流値で電解研磨を行うことによって2次試験研磨面を形成し、X線試験測定工程では複数の鋼材試料をそれぞれ異なる応力状態にするとともに異なる応力状態ごとの2次試験研磨面をそれぞれX線応力測定装置で測定することによって試験応力度を取得する。そして、電流値決定工程ではX線試験測定工程を行った結果得られる最適電流値に係る応力状態別の試験応力度とX線試験測定工程で得られた複数の試験応力度と論理応力度(計算又は測定によって得られる応力度)を照らし合わせることによって最適電流値を決定する。なお補正式設定工程では、X線試験測定工程で得られた最適電流値に係る応力状態別の試験応力度と論理応力度に基づいて応力度補正式を設定する。また2次研磨工程では、電流値決定工程で決定された最適電流値で電解研磨を行う。
【0014】
本願発明の応力度測定方法は、回帰式に基づいて応力度補正式を設定する方法とすることもできる。この場合、補正式設定工程では、論理応力度を第1軸、試験応力度を第2軸とする応力座標系を設定するとともに、応力座標系に配置される複数の応力座標(論理応力度と試験応力度との組み合わせ)に基づいて回帰式を設定する。
【0015】
本願発明の応力度測定方法は、切削形状(1次試験研磨面を形成した後の形状)を決定する切削形状決定工程をさらに有する方法とすることもできる。この場合、1次試験研磨工程では、複数種類の切削形状を設定するとともにそれぞれの切削形状となるように研磨する。そして異なる切削形状に係る1次試験研磨面に対して、それぞれ最適電流値で電解研磨を行うことによって2次試験研磨面を形成する。切削形状決定工程では、異なる切削形状に係る鋼材試料に対してX線試験測定工程を行った結果得られる複数の試験応力度と論理応力度を照らし合わせることによって最適切削形状を決定する。
【0016】
本願発明の応力度補正式設定プログラムは、本願発明の応力度測定方法に用いられる応力度補正式を設定する機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、代表応力度算出処理と応力度補正式設定処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。このうち代表応力度算出処理は、同一の応力状態にされた鋼材試料に対して繰り返しX線試験測定工程を行った結果得られる複数の試験応力度から、当該応力状態における試験応力度(当該応力状態における試験応力度の代表値)を算出する処理である。また、応力度補正式設定処理は、異なる応力状態にされた鋼材試料に対してX線試験測定工程を行った結果得られる複数の応力別試験応力度と論理応力度に基づいて回帰式を設定するとともに、回帰式に基づいて応力度補正式を設定する処理である。なお、代表応力度算出処理では、同一の応力度に係る複数の試験応力度の平均値、標準偏差、及び標本数に基づく推定式を用いて応力別試験応力度を算出する。また応力度補正式設定処理では、応力座標系を設定するとともに、応力座標系に配置される複数の応力座標(論理応力度と応力別試験応力度との組み合わせ)に基づいて回帰式を設定する。
【0017】
本願発明の応力度補正式設定プログラムは、限界応力度を選出する限界応力度選出処理をコンピュータに実行させる機能をさらに備えたものとすることもできる。この場合、限界応力度選出処理では、応力座標系に応力座標(論理応力度と応力別試験応力度からなる座標)を散布するとともに、隣接する応力座標どうしを連結して線分を生成し、隣接する線分によって形成される交差角に基づいて限界応力度を選出する。この場合、応力度補正式設定処理では、限界応力度を境界として2以上の種類の回帰式を設定するとともに、それぞれの回帰式に基づいて応力度補正式を設定する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の応力度測定方法、及び応力度補正式設定プログラムには、次のような効果がある。
(1)鉄筋を切断することなく、すなわち非破壊の測定によって鉄筋の応力度を把握することができる。その結果、従来技術(例えば、鉄筋切断法)に比して低コスト化と省力化を図ることができ、測定に係る時間も低減することができる。
(2)また、鉄筋切断を要しないことから、供用中のコンクリート構造物が一時的にも不安定化することを回避することができる。
(3)容易かつ迅速に鉄筋の応力度を把握することができることから、コンクリート構造物の健全度を適時に判定することができ、より速やかに対策を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願発明の応力度測定方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図2】本願発明の応力度測定方法のうち事前工程の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図3】研磨機を用いて鉄筋表面を研磨して研磨面を形成する状況を模式的に示すモデル図。
【
図4】電解研磨装置を用いて研磨面を電解研磨する状況を模式的に示すモデル図。
【
図5】鋼板を載荷状態としたうえで研磨面に対してX線応力測定を行っている状況を模式的に示すモデル図。
【
図6】異なる電流値で電解研磨を行った鉄筋に係る理論応力度と試験応力度を示すグラフ図。
【
図7】(a)はコンクリート構造物を斫り出すことで鉄筋が露出した状態を模式的に示す斜視図、(b)は露出した鉄筋の表面を機械研磨することで研磨面が形成された状態を模式的に示す斜視図、(c)は切削形状を決定する「切削角度」を説明する鉄筋の断面図。
【
図8】応力度散布図に基づいて設定された回帰式を示すグラフ図。
【
図9】本願発明の応力度測定方法のうち実測定工程の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図10】本願発明の応力度補正式設定プログラムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の応力度測定方法、及び応力度補正式設定プログラムの実施形態の一例を図に基づいて説明する。なお本願発明は、鉄筋コンクリート内の鉄筋(主に、異形棒鋼)や、鉄骨造コンクリート内の形鋼(例えば、H形鋼や溝形鋼)、鋼コンクリート合成床版内の鋼板など、コンクリート内に埋設された鋼材の応力度を把握する技術である。すなわち本願発明は、コンクリート内に含まれる様々な鋼材に対して実施可能であるが、便宜上ここでは主に鉄筋コンクリート内の鉄筋の例で説明する。
【0021】
1.全体概要
本願発明は、「X線応力測定」によって鋼材の応力度を把握することを技術的特徴の一つとしている。このX線応力測定は、応力が生じている鋼材にX線を当てて投影される円環(デバイ環)の変形の大きさから応力度を測定する手法であり、従来では粒子(原子)が緻密配列された鋼材(代表的には自動車鋼板など)の応力度を測定するために利用するというのが半ば常識であって、粒子が比較的粗い配列である土木用鋼材(例えば、鉄筋や形鋼など)の応力度測定に利用することは考えられなかった。本願発明の発明者らは、土木用鋼材に対するX線応力測定の可能性に着目し、種々の実験や検討を重ねた結果、特定の条件で鋼材を研磨したうえでX線応力測定を行い、さらに測定結果を補正することによって、その可能性が現実的であることを究明した。
【0022】
すなわち、コンクリートを斫り出す(切削する)ことで露出した鋼材に対して、研磨機を用いた研磨(以下、「機械研磨」という。)と電解研磨による2段階の研磨処理を行ったうえで、X線応力測定装置を用いて測定するわけである。ただし機械研磨や電解研磨は、特定の条件(以下、「研磨条件」という。)の下で実施する必要があり、そしてその研磨条件はあらかじめ試験を行うことで決定される。また、X線応力測定装置を用いて測定した測定値(以下、特に「実測応力度」という。)をそのまま利用することは適当でなく、実測応力度を特定の補正式(以下、「応力度補正式」という。)によって補正した値(以下、特に「決定応力度」という。)を実際の鋼材応力度とすることが望ましい。この応力度補正式も、あらかじめ試験を行うことで決定される。
【0023】
2.応力度測定方法
本願発明の応力度測定方法について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の応力度補正式設定プログラムは、本願発明の応力度測定方法に用いられる応力度補正式を設定するプログラムである。したがってまずは本願発明の応力度測定方法について説明し、その後に本願発明の応力度補正式設定プログラムについて詳しく説明することとする。
【0024】
図1は、本願発明の応力度測定方法の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように本願発明の応力度測定方法は、種々の測定条件(特に、研磨条件)を決定するとともに応力度補正式を設定する「事前工程」と、実際に現地でコンクリート内の鋼材を測定する「実測定工程」に大別することができる。そこで、事前工程と実測定工程に分けて説明することとする。
【0025】
(事前工程)
上記したとおり事前工程では、研磨条件を含む測定条件が決定される。そして研磨条件を決定するにあたっては、実際に測定しようとする現地の鋼材(以下、「対象鋼材」)と同等規格の鋼材(以下、「鋼材試料」という。)を用意し、その鋼材試料に対して種々の試験を行ったうえで決定する。当然ながらこれらの試験は、実測定工程と同様の環境(特に、研磨環境)で実施される必要がある。
図1に示すように実測定工程では、対象鋼材に対して機械研磨を行う工程(
図1のStep140)と、機械研磨された部分に対してさらに電解研磨を行う工程(
図1のStep150)の2段階の研磨処理が行われる。そのため事前工程では、機械研磨と電解研磨が実施された鋼材試料を用いて、それぞれの試験が行われる。
【0026】
図2は、事前工程の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように事前工程では、まず用意された鋼材試料に対して機械研磨を行う(
図2のStep111)。具体的には
図3に示すように、ベルトサンダなどの研磨機PMを用いて、鉄筋RB(鋼材試料)の表面を研磨して研磨面PSを形成する。なお便宜上ここでは、事前工程における機械研磨のことを「1次試験研磨」、この1次試験研磨の後に行われる電解研磨のことを「2次試験研磨」ということとし、さらに事前工程と区別するため実測定工程における機械研磨と電解研磨のことをそれぞれ単に「1次研磨」、「2次研磨」ということとする。また、1次研磨と2次研磨によって形成された研磨面PSのことをそれぞれ「1次研磨面」、「2次研磨面」、1次試験研磨と2次試験研磨によって形成された研磨面PSのことをそれぞれ「1次試験研磨面」、「2次試験研磨面」ということとする。
【0027】
鉄筋RB(鋼材試料)に対して1次試験研磨(機械研磨)を行うと、その結果形成された1次試験研磨面に対して2次試験研磨(電解研磨)を行う(
図2のStep112)。具体的には
図4に示すように、研磨面PS(1次試験研磨面)を電解研磨液に浸したうえで、電解研磨装置EPによって所定の電流値(アンペア)の直流電流を流し、これにより研磨面PSの表面が溶かされることで研磨されていく。
【0028】
鉄筋RB(鋼材試料)に対して1次試験研磨と2次試験研磨を行うと、その結果形成された2次試験研磨面に対してX線応力測定を行う(
図2のStep113)。そして、鉄筋RBの理論的な応力度(以下、単に「理論応力度」という。)と、X線応力測定による鉄筋RBの応力度(以下、単に「試験応力度」という。)を照らし合わせることによって、X線応力測定による試験応力度の妥当性を判断する。具体的には
図5に示すように、研磨面PS(2次試験研磨面)が形成された鋼材試料(この図では、鋼板SP)を載荷状態(あるいは無載荷状態)としたうえで、鋼材試料のうち研磨面PSをX線応力測定することで試験応力度を得るとともに、この載荷状態のモデルを用いて研磨面PSにおける理論応力度(無載荷状態の場合は応力度が0)を算出し、これら試験応力度と理論応力度を対比する。なおこの場合の理論応力度は、構造計算によって求めてもよいし、鋼材試料に設置したひずみ計等の値から計算してもよい。また
図5では、鋼材試料として鋼板SPを用いているが、もちろん鋼材試料として鉄筋RBを用いて測定してもよい。
【0029】
ところで、鉄筋RBを構成する粒子どうしは粒子間結合(金属結合)によって引き合っているが、電解研磨を行うとその電解研磨液が粒子間に浸潤し、これにより粒子間結合が弱化する。そして、高い電流値で電解研磨を行うほど粒子間結合の弱化が急速に促進される。一方、低い電流値で電解研磨を行うと粒子間結合の弱化は急速には促進されないものの、適正な研磨面を形成するためには相当の研磨時間を要することとなり、結果的に粒子間結合の弱化は促進される。そこで発明者らは、X線応力測定によって鋼材の応力度を把握するために行う電解研磨には適切な電流値があると推測し、これを確認するために試験を行った。その結果、発明者らの想定どおり、電解研磨の電流値によって試験応力度と理論応力度との近似の程度には顕著な差が生じ、すなわち電解研磨を行う際の最適な電流値(以下、単に「最適電流値」という。)が存在することが分かった。以下、その試験の手順と結果について詳しく説明する。
【0030】
まず複数の鋼材試料を用意し、これらの鋼材試料に対してそれぞれ異なる電流値で電解研磨(もちろん、1次試験研磨後)を行って2次試験研磨面を形成する。次いで、例えば
図5に示す荷重を変化させるなど、2次試験研磨面が形成された鋼材試料を異なる応力状態とし、それぞれの応力状態における鋼材試料の2次試験研磨面に対してX線を測定して試験応力度を取得する。つまり、n種類の電流値で電解研磨を行い(つまりnの鋼材試料を用意したケース)、それぞれの鋼材試料に対してm種類の応力状態とする場合、n×mの試験応力度が得られ、同様にn×mの理論応力度が求められ、しかも対応する試験応力度と理論応力度との組み合わせがn×m組だけ得られるわけである。
【0031】
複数の試験応力度と理論応力度が得られると、第1軸(図では横軸)を論理応力度、第2軸(図では縦軸)を試験応力度とする座標系(以下、「応力座標系」という。)を設定する。そして、対応する論理応力度と試験応力度との組み合わせからなる座標点(以下、「応力座標」という。)をこの応力座標系に散布することによって、
図6に示すグラフ(以下、「応力度散布図」という。)を作成する。
図6は、異なる電流値(この図では4種類)で電解研磨を行った鉄筋RBに係る理論応力度と試験応力度を示すグラフ図である。したがって
図6の中央に破線で示す直線(線分)は、試験応力度と理論応力度が完全に一致したときの状態を示している。
【0032】
図6の応力度散布図を見ると、試験応力度と論理応力度との近似度には4種類の電流値(0.1A、0.5A、1.0A、2.0A)ごとにそれぞれ差が生じており、このうち0.5Aの電流値で電解研磨したケースが最も適正な結果が得られており、すなわち最も試験応力度が論理応力度に近似している(中央の破線に近い)。したがってこのケースでは、実測定工程における電解研磨(2次研磨)は0.5Aの電流値で行うべきであることが理解できる。このように事前工程を行うことによって、電解研磨を行う際の最適電流値を決定することができるわけである(
図2のStep114)。
【0033】
ところでコンクリート内の鋼材は、それぞれ構造物の形状に応じて種々の形状とされる。例えば、ボックスカルバートの壁体内には直線状の鉄筋RBが配置されることが多く、一方、地中送電線洞道など円形断面のトンネルのライニング(覆工コンクリート)には当然ながら曲線状の鉄筋RBが配置される。そして、曲線状の鉄筋RBの表面は塑性状態にあることが知られており、X線応力測定によって鋼材の応力度を把握するためにはこの塑性状態を取り除くことが望ましい。とはいえ、塑性状態を取り除くべく過剰に機械研磨したのでは、応力度を把握したい鉄筋RBの部分まで取り除かれてしまう。そこで発明者らは、X線応力測定によって鋼材の応力度を把握するためには、適切な「切削形状」で機械研磨を行う必要があると考えた。
【0034】
ここで「切削形状」とは、
図7(b)や
図7(c)に示すように、1次研磨面を形成した結果形成される鋼材表面のいわば欠損部の形状である。
図7は、円形断面のコンクリート構造物CO内に配置された曲線状の鉄筋RBの機械研磨を示す図であり、(a)はコンクリート構造物COを斫り出すことで鉄筋RBが露出した状態を模式的に示す斜視図、(b)は露出した鉄筋RBの表面を機械研磨することで研磨面PSが形成された状態を模式的に示す斜視図、(c)は切削形状を決定する「切削角度」を説明する鉄筋RBの断面図である。
図7(b)や
図7(c)に示すように切削形状は、鉄筋RB断面上に設定される切削角CAと、鉄筋RB軸方向に設定される切削長さによって決定される。このうち切削角CAは、断面視した切削形状を決定する諸元であり、例えば
図7(c)に示す鉄筋RBの切削形状は扇型でありこの場合の切削角CAはその中心角とすることができる。
【0035】
発明者らは、X線応力測定によって鋼材の応力度を把握するためには適切な切削形状があることを確認するため、最適電流値の決定と同様、試験を行っている。その結果、発明者らの想定どおり、切削形状に応じて試験応力度と理論応力度との近似の程度には顕著な差が生じ、すなわち機械研磨を行う際の最適な切削形状(以下、単に「最適切削形状」という。)が存在することが分かった。以下、その試験の手順と結果について詳しく説明する。
【0036】
まず複数の鋼材試料を用意し、これらの鋼材試料に対してそれぞれ異なる切削形状(特に、切削角CA)で機械研磨を行って1次試験研磨面を形成したうえで、電解研磨を行って2次試験研磨面を形成する。このとき、最適電流値で電解研磨を行うとよい。次いで、例えば
図5に示す荷重を変化させるなど、2次試験研磨面が形成された鋼材試料を異なる応力状態とし、それぞれの応力状態における鋼材試料の2次試験研磨面に対してX線を測定して試験応力度を取得する。つまり、k種類の切削形状で機械研磨を行い(つまりkの鋼材試料を用意したケース)、それぞれの鋼材試料に対してm種類の応力状態とする場合、k×mの試験応力度が得られ、同様にk×mの理論応力度が求められ、しかも対応する試験応力度と理論応力度との組み合わせがk×m組だけ得られるわけである。
【0037】
複数の試験応力度と理論応力度が得られると、最適電流値の決定と同様、応力座標系に応力座標を散布することによって応力度散布図を作成する。そして、最も試験応力度が論理応力度に近似している(中央の破線に近い)切削形状を最適切削形状として決定する。例えば、切削角CAが90℃となるように機械研磨した鋼材試料と、切削角CAが120℃となるように機械研磨した鋼材試料を比較したところ、切削角CA120℃のケースの方がより適正な結果(試験応力度が論理応力度に近似している)となり、すなわちこの場合は実測定工程における機械研磨(1次研磨)の切削形状は切削角CA120℃で行うべきであることが分かった。このように事前工程を行うことによって、機械研磨を行う際の最適切削形状を決定することができるわけである(
図2のStep115)。
【0038】
最適切削形状で機械研磨(1次試験研磨)を行い、最適電流値で電解研磨(2次試験研磨)を行ったうえで、X線応力測定によって鋼材の応力度を求めたとしても、試験応力度と理論応力度が完全に一致する(
図6の中央破線の状態になる)ことはない。そのため、既述したとおりX線応力測定装置で得られた「実測応力度」をそのまま利用することは適当でなく、実測応力度を「応力度補正式」によって補正した「決定応力度」を実際の鋼材応力度とすることが望ましい。以下、この「応力度補正式」を設定する手順について説明する。
【0039】
まず鋼材試料を用意し、この鋼材試料に対して機械研磨(1次試験研磨)を行うとともに、電解研磨(2次試験研磨)を行う。このとき、最適切削形状で機械研磨を行い、最適電流値で電解研磨を行うとよい。次いで、例えば
図5に示す荷重を変化させるなど、2次試験研磨面が形成された鋼材試料を異なる応力状態とし、それぞれの応力状態における鋼材試料の2次試験研磨面に対してX線を測定して試験応力度を取得する。なお、同一の応力状態における鋼材試料について複数回のX線応力測定を実施して、応力状態ごとに複数の試験応力度を取得するとよい。つまり、鋼材試料に対してm種類の応力状態とし、応力状態ごとにp回のX線応力測定を実施する場合、p×mの試験応力度が得られるとともに、mの理論応力度が求められ、そして対応する試験応力度と理論応力度との組み合わせがp×m組だけ得られるわけである。
【0040】
複数の試験応力度と理論応力度が得られると、最適電流値の決定と同様、応力座標系に応力座標を散布することによって応力度散布図を作成する。そして、この応力度散布図に基づいて、
図8に示すような試験応力度と理論応力度との関係を示す回帰式REを設定する。なおこの図では、直線回帰式を設定しているが、これに限らず2次元以上の曲線回帰式を設定してもよい。また、応力度散布図によっては、1の回帰式REのみを設定することもできるし、2以上の回帰式REを設定することもできる。例えば
図8では、特定の応力度(以下、「限界応力度SC」という。)を境界として2種類の回帰式REを設定している。以下、
図8の例で複数の回帰式REを設定する手順について説明する。
【0041】
同一の応力状態(つまり、理論応力度が一定である状態)における鋼材試料について複数回のX線応力測定を実施した場合、まずは同一の応力状態で得られた複数の試験応力度に基づいて「応力別試験応力度」を算出する。ここで「応力別試験応力度」とは、その応力状態における試験応力度のいわば代表値である。この応力別試験応力度は、従来用いられている種々の統計処理によって求めることができるが、本願発明では特に式(1)によって算出するとよい。
【数1】
ここで、σ
repはその応力状態における応力別試験応力度、σ
aveは同一の応力状態に係る複数の試験応力度の平均値、Sは同一の応力状態に係る複数の試験応力度の標準偏差、nは同一の応力状態に係る複数の試験応力度の標本数、kはあらかじめ定めた定数(例えば、1.386)である。
【0042】
応力別試験応力度が得られると、その応力別試験応力度と理論応力度からなる応力座標を応力座標系に散布することによって応力度散布図を作成する。次いで、隣接する応力座標どうしを連結して線分を設定するとともに、隣接する線分どうしによって形成される交差角(挟角)を求める。そして、最も小さな交差角を構成する応力座標(2つの線分の間の応力座標)を限界応力度SCとして選出したり、n番目までの小さな交差角を構成する応力座標をそれぞれ限界応力度SCとして選出したり、あらかじめ定めた角度閾値を下回る交差角を構成する応力座標をそれぞれ限界応力度SCとして選出したりするなど、交差角に基づいて限界応力度SCを選出する。
図8の例では、最も小さな交差角を構成する応力座標を限界応力度SCとして選出している。そして選出された限界応力度SCを境界として、2以上の回帰式REを設定する。
図8の例では、限界応力度SCよりも小さい応力別試験応力度(あるいは、試験応力度)のグループに基づいて第1の回帰式RE(図では左側)を設定し、限界応力度SCよりも大きな応力別試験応力度(あるいは、試験応力度)のグループに基づいて第2の回帰式RE(図では右側)を設定している。
【0043】
回帰式REが得られると、その回帰式REに基づいて応力度補正式を設定する(
図2のStep120)。例えば、回帰式REをそのまま応力度補正式として設定することもできるし、回帰式REに定数を加えたり、回帰式RE全体に定数を乗じたりすることによって、応力度補正式として設定することもできる。
【0044】
(実測定工程)
研磨条件を決定して応力度補正式を設定すると(すなわち事前工程が完了すると)、実際に現地でコンクリート内の鋼材を測定する「実測定工程」を実施する。以下、この実測定工程について、
図1と
図9を参照しながら説明する。
図9は、本願発明の応力度測定方法のうち実測定工程の主な工程の流れを示すステップ図である。
【0045】
図9(a)に示すように点検によって例えばトンネルのライニングLNにひび割れが発見されると、
図9(b)に示すように当該ひび割れ個所を中心にコンクリートを斫り出すとで対象鋼材(例えば、鉄筋RB)の一部を露出させる(
図1のStep130)。そして、露出した対象鋼材に対して1次研磨を行って1次研磨面を形成する(
図1のStep140)。このとき、事前工程で決定した「最適切削形状」となるように機械研磨を行う。1次研磨を行うと、1次研磨面に対して2次研磨を行って2次研磨面を形成する(
図1のStep150)。このとき、事前工程で決定した「最適電流値」を採用して電解研磨を行う。
【0046】
1次研磨と2次研磨を行うと、
図9(c)に示すようにX線応力測定装置XMで2次研磨面を測定することによって「実測応力度」を取得する(
図1のStep160)。そして、その実測応力度を「応力度補正式」で補正して「決定応力度」を求める(
図1のStep170)。このとき、事前工程で設定された応力度補正式、例えば
図9(d)に示すような回帰式REに基づいて設定された応力度補正式を用いて決定応力度を求める。
【0047】
3.応力度補正式設定プログラム
続いて、本願発明の応力度補正式設定プログラムについて
図10を参照しながら説明する。なお、本願発明の応力度補正式設定プログラムは、ここまで説明した本願発明の応力度測定方法に用いられる応力度補正式を設定するプログラムである。したがって本願発明の応力度測定方法説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の応力度補正式設定プログラム特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.応力度測定方法」で説明したものと同様である。
【0048】
図10は、本願発明の応力度補正式設定プログラムの主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な情報等を、右列にはその処理から生ずる情報等を示している。
【0049】
まず鋼材試料を用意し、この鋼材試料に対して最適切削形状で機械研磨を行うとともに、最適電流値で電解研磨を行う。次いで、例えば
図5に示す荷重を変化させるなど、2次試験研磨面が形成された鋼材試料を異なる応力状態とし、それぞれの応力状態における鋼材試料の2次試験研磨面に対してX線を測定して試験応力度を取得する。このとき、同一の応力状態における鋼材試料について複数回のX線応力測定を実施して、応力状態ごとに複数の試験応力度を取得する。そして、同一の応力状態で得られた複数の試験応力度に基づいて、既述した式(1)によって「応力別試験応力度」を算出する(
図10のStep201)。
【0050】
複数の応力別試験応力度が得られると、対応する論理応力度と応力別試験応力度との組み合わせからなる応力座標を応力座標系に散布することによって、応力度散布図を生成する(
図10のStep202)。そして、この応力度散布図に基づいて、限界応力度SCを選出する(
図10のStep203)。このとき、隣接する線分(隣接する応力座標どうしを連結した線分)によって形成される交差角に基づいて限界応力度SCを選出することができるのは既述したとおりである。
【0051】
限界応力度SCを選出すると、その限界応力度SCを境界として2以上の回帰式REを設定する(
図10のStep204)。例えば
図8に示すように、限界応力度SCよりも小さい応力別試験応力度(あるいは、試験応力度)のグループに基づいて第1の回帰式RE(図では左側)を設定し、限界応力度SCよりも大きな応力別試験応力度(あるいは、試験応力度)のグループに基づいて第2の回帰式RE(図では右側)を設定している。回帰式REが得られると、その回帰式REに基づいて応力度補正式を設定する(
図10のStep205)。例えば、回帰式REをそのまま応力度補正式として設定することもできるし、回帰式REに定数を加えたり、回帰式RE全体に定数を乗じたりすることによって、応力度補正式として設定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明の応力度測定方法、及び応力度補正式設定プログラムは、地中送電線等を収容する地中送電線洞道のほか、道路トンネルや地下鉄道トンネル、共同溝、橋梁のコンクリート床版、コンクリートダムの堤体、コンクリート擁壁など、種々の鉄筋コンクリート構造物に好適に利用することができる。本願発明によれば、供用中の鉄筋コンクリート構造物の補強や補修等を効率よく行うことができ、ひいては鉄筋コンクリート構造物の長寿命化につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0053】
CA 切削角
CO コンクリート構造物
EP 電解研磨装置
LN トンネルのライニング
PM 研磨機
PS 研磨面
RB 鉄筋
RE 回帰式
SC 限界応力度
SP 鋼板