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  • 特開-水処理剤組成物および水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137300
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】水処理剤組成物および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/80 20060101AFI20240927BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240927BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
A01N43/80 102
A01P3/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 510E
C02F1/50 520A
C02F1/50 520K
C02F1/50 532D
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 540C
C02F1/50 532C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048769
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】木田 樹生
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA04
4H011BB10
4H011BC09
4H011DA13
4H011DF03
(57)【要約】
【課題】イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物とをpH中性領域~弱酸性領域で一剤化した水処理剤組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体と、アゾール化合物と、を含み、pHが7以下である、水処理剤組成物である。
(式中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体と、アゾール化合物と、を含み、pHが7以下であることを特徴とする水処理剤組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の水処理剤組成物を用いて水系の処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水系における菌数抑制などに用いることができる水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水などの工業用水システムや製紙工程などにおける生物付着を抑制するための殺菌剤として、有機系菌数抑制剤よりも酸化力がある、すなわち即効効果の高い、無機系菌数抑制剤が用いられている場合が増えている。酸化力の高い無機系菌数抑制剤としては、主に次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩が使用され、より効果を高めるため、次亜臭素酸ナトリウムなどの次亜臭素酸塩が使用されることもある。次亜臭素酸塩は不安定であるため、例えば、臭化ナトリウムなどの臭素塩と次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩とを、使用する直前に混合し、系内で次亜臭素酸ナトリウムを生成させる手法が多く採られてきた。
【0003】
これらの無機系菌数抑制剤と、銅合金などの銅系金属用の防食剤であるアゾール化合物とを使用する場合、複数の薬液管理が必要となる問題があった。また、これらを適切な比率で水系に供給する必要があり、例えば酸化力の高い無機系菌数抑制剤がアゾール化合物と比べて過剰に添加された場合、その酸化力によりアゾール化合物やスケール分散剤が分解し、水処理基剤の供給バランスが崩れる問題や、無機系菌数抑制剤とアゾール化合物とを一剤化しようとすると、アゾール化合物が容易に酸化分解し、また無機系菌数抑制剤自体も失活するため、一剤化には困難が伴っていた。
【0004】
これらの問題の解決方法として、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物と、アゾール化合物と、をpH13.2以上で配合することによって一剤化して水処理剤組成物を得る方法が見出されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この解決方法では溶液がpH13.2以上の高アルカリとなる。そのため、有機系菌数抑制剤の中で高い菌数抑制効果があるイソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物との一剤化が改めて見直されるが、イソチアゾリノン系菌数抑制剤のpHが中性領域~アルカリ性領域での一剤化は極めて困難であり、むしろ低pHでの安定化技術が図られており、例えば特許文献2では、pH1.5以下で安定化を図っている。
【0006】
このように、イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物とを一剤化するにはpH酸性領域で一剤化する必要があり、pH中性領域で一剤化しようとすると、イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物が分解してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6145360号公報
【特許文献2】特許第5159072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物とをpH中性領域~弱酸性領域で一剤化した水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体と、アゾール化合物と、を含み、pHが7以下である、水処理剤組成物である。
【化1】
(式中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を表す。)
【0010】
本発明は、前記水処理剤組成物を用いて水系の処理を行う、水処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物とをpH中性領域~弱酸性領域で一剤化した水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例6における殺菌試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<水処理剤組成物>
本実施形態に係る水処理剤組成物は、下記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体と、アゾール化合物と、を含み、pHが7以下である組成物である。
【化2】
(式中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を表す。)
【0015】
本発明者らが鋭意検討した結果、イソチアゾリノン系菌数抑制剤として4位が選択的に臭素化された4-ブロモイソチアゾリノン誘導体と、アゾール化合物と、を配合することによって、pH中性領域~弱酸性領域での一剤化が可能となることを見出した。
【0016】
上記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体(以下、「一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体」を単に「4-ブロモイソチアゾリノン誘導体」と呼ぶ場合がある。)においてRで表される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、シクロノニル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、シクロウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基などの、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。収率が良い点で、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0017】
水処理剤組成物中の4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の含有量としては、例えば、0.01~10質量%の範囲であり、0.1~10重量%の範囲であることが好ましい。水処理剤組成物中の4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の含有量が0.01質量%未満であると、菌数抑制効果が小さくなる場合があり、10質量%を超えると、水処理剤組成物の皮膚刺激性が強くなり、取り扱いに問題が生じる場合がある。
【0018】
アゾール化合物としては、主に銅や銅合金などの銅系金属などの金属防食剤として機能するアゾール化合物が挙げられ、例えば、1,2,4-トリアゾール、1-メチル-1,2,4-トリアゾール、3-メチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジエチル-1,2,4-トリアゾール、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール、3-フェニル-1,2,4-トリアゾール、1,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、1,3-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-オン、5-メチル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、3-メチル-1,2,4-トリアゾール-5-オン、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、5-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール-5-オン、ウラゾール、1-フェニルウラゾール、4-フェニルウラゾール、ベンゾトリアゾール、1-メチルベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5,6-メチルベンゾトリアゾール、2-フェニルベンゾトリアゾール、1-オキシベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-t-アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、1-ナフチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、5-ブロモベンゾトリアゾール、5-ニトロベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。これらのうち、流通量やコストなどの点から、ベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾールが好ましい。
【0019】
水処理剤組成物中のアゾール化合物の含有量としては、例えば、0.01~10質量%の範囲であり、0.1~5重量%の範囲であることが好ましい。水処理剤組成物中のアゾール化合物の含有量が0.01質量%未満であると、銅などの金属に対する腐食抑制効果が小さくなる場合があり、10質量%を超えると、処理水にTOC成分が含まれるなどの環境負荷を与える場合がある。
【0020】
4-ブロモイソチアゾリノン誘導体とアゾール化合物とを一剤化する場合、pH管理が非常に重要であり、本実施形態に係る水処理剤組成物のpHは、7以下であり、4以上7以下であることが好ましい。pHが7を上回る場合、4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の安定性が悪化し、加えてアゾール化合物の安定性も悪化するため、一液化が困難となり、4未満であると水処理剤組成物の酸性度が強くなるため皮膚刺激性が強くなり、取り扱いに問題が生じる場合がある。
【0021】
組成物のpH調整には、所定のpHとなるように調整できればよく、特に制限はないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの酸や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリなどのpH調整剤を用いればよい。
【0022】
水処理剤組成物は、上記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体、アゾール化合物、pH調整剤の他に、アクリル酸系ポリマーやマレイン酸系ポリマーなどのスケール分散剤、重金属やリン酸塩などの防食剤、リチウム塩や蛍光物質などのトレーサー成分などの他の成分を含んでもよい。
【0023】
上記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体は、例えば、式(2)
【化3】
(式中、Rは、式(1)と同じである。)で示されるイソチアゾリノン化合物またはその化学的に許容される塩を、水溶媒中または水溶媒と有機溶媒との混合溶媒中で臭素化剤を用いて臭素化することにより得ることができる。
【0024】
イソチアゾリノン化合物(2)の化学的に許容される塩としては、特に制限されないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。入手が容易である点で、塩酸塩が好ましい。
【0025】
臭素化に用いる有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、またはトルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒などが挙げられる。収率が良い点で、芳香族系溶媒を用いることが好ましく、クロロベンゼンまたはo-ジクロロベンゼンを用いることがより好ましい。
【0026】
水の量は、例えば、原料に対する重量比で、0.1から10の範囲とすればよい。臭素化反応を水と有機溶媒との混合溶媒中で実施する場合、水と有機溶媒との混合比は特に制限はないが、例えば、容量比で、水:有機溶媒=1:10から10:1の範囲から適宜選ばれた混合比で実施すればよい。
【0027】
臭素化反応で使用する臭素化剤としては、臭素、臭素-1,4-ジオキサンコンプレックス、N-ブロモスクシンイミド(以下、NBSと表記することもある。)、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン(以下、DBHと表記することもある。)、トリブロモイソシアヌル酸、ジブロモイソシアヌル酸(以下、DBIということもある)、ブロモイソシアヌル酸一ナトリウム、三臭化テトラブチルアンモニウム、ブロモトリクロロメタン、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタン、四臭化炭素、トリメチルフェニルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、テトラプロピルアンモニウムノナブロミド、ピリジニウムブロミドペルブロミド、ブロモクロム酸ピリジニウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリブロミド、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン三臭化水素塩、N-ブロモフタルイミド、N-ブロモサッカリン、N-ブロモアセトアミド、三臭化ホウ素、三臭化リン、ブロモジメチルスルホニウムブロミド、5,5-ジブロモメルドラム酸、2,4,4,6-テトラブロモ-2,5-シクロヘキサジエノン、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファート、トリメチルシリルブロミド、スルフリルブロミド、臭化水素などが挙げられる。入手が容易であり、収率が良い点で、臭素、N-ブロモスクシンイミドまたは1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントインが好ましく、臭素がより好ましい。
【0028】
臭素化剤の使用量は、原料であるイソチアゾリノン化合物(2)またはその化学的に許容される塩の量に対して例えば0.5から2モル当量とすればよく、選択性および収率が良い点で0.8から1.5モル当量であることが好ましい。
【0029】
イソチアゾリノン化合物(2)またはその化学的に許容される塩に臭素化剤と接触させる方法に特に制限はなく、例えば、水溶媒中または水溶媒と有機溶媒との混合溶媒中でイソチアゾリノン化合物(2)またはその化学的に許容される塩に臭素化剤を添加して、メカニカルスターラーなどの撹拌装置を使用して混合すればよい。
【0030】
臭素化反応は、0℃から溶媒還流温度の範囲から適宜選ばれた反応温度で実施することができるが、選択性や収率が良い点で、0℃から80℃の範囲から選ばれる反応温度で実施することが好ましい。反応時間は、例えば、1から48時間とすればよい。
【0031】
臭素化反応終了後に、抽出、濃縮、再結晶、スラリー洗浄、ろ過などの一般的な後処理操作を行ってもよい。
【0032】
<水処理方法>
本実施形態に係る水処理方法は、上記水処理剤組成物を用いて水系の処理を行う方法である。例えば、所定量の上記水処理剤組成物を水系に添加すればよい。
【0033】
水系における4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の量は、例えば、処理する水の量に対して0.1~1000mg/Lの範囲とすればよく、1~100mg/Lの範囲とすることが好ましい。4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の量が処理する水の量に対して0.1mg/L未満であると、菌数抑制効果が得られない場合があり、1000mg/Lを超えると、水系の皮膚刺激性が強くなり、作業性に問題が生じる場合がある。
【0034】
水系におけるアゾール化合物の量は、例えば、処理する水の量に対して0.01~100mg/Lの範囲とすればよく、0.1~10mg/Lの範囲とすることが好ましい。アゾール化合物の量が処理する水の量に対して0.01mg/L未満であると、銅などの金属に対する腐食抑制効果が得られない場合があり、100mg/Lを超えると、処理水にTOC成分が含まれるなどの環境負荷を与える場合がある。
【0035】
4-ブロモイソチアゾリノン誘導体は高温下でも安定であり、水系の水温が20℃以上、好ましくは20℃以上70℃以下、より好ましくは30℃以上70℃以下、さらに好ましくは40℃以上70℃以下の範囲であるときにより効果的である。実使用温度も70℃以下であることが考えられ、水系の水温が70℃を超えると、4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の安定性が低下する場合がある。
【0036】
水系のpHは、例えば、7以下であり、4以上7以下であることが好ましい。水系のpHが7を上回る場合、4-ブロモイソチアゾリノン誘導体の安定性が悪化し、加えてアゾール化合物の安定性も悪化する場合があり、4未満であると水系の酸性度が強くなるため皮膚刺激性が強くなり、作業性に問題が生じる場合がある。
【0037】
水系のpH調整には、所定のpHとなるように調整できればよく、特に制限はないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの酸や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリなどのpH調整剤を用いればよい。
【0038】
本実施形態に係る水処理剤組成物は、冷却水や逆浸透膜処理の濃縮水(RO濃縮水)などの工業用水システムの水処理や、生物付着汚染の進んだ配管洗浄などの水系における菌数抑制などに用いることができる。
【0039】
本実施形態に係る水処理方法において、上記一般式(1)で表される4-ブロモイソチアゾリノン誘導体、アゾール化合物、pH調整剤の他に、アクリル酸系ポリマーやマレイン酸系ポリマーなどのスケール分散剤、重金属やリン酸塩などの防食剤、リチウム塩や蛍光物質などのトレーサー成分などの他の成分を含んでもよい。
【実施例0040】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[4-ブロモ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの調製]
2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(50重量%水溶液,2.00g,8.68mmol)に水(4.40g)を加えた後、臭素(0.530mL,10.4mmol)を10分間かけて滴下した。この混合溶液を室温(18~28℃)で1.5時間撹拌した。反応溶液に20重量%炭酸ナトリウム水溶液を加えて中和した後、酢酸エチル(10mL×3回)で抽出し、各有機層を飽和食塩水(各1mL)で洗浄した。合一した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下に濃縮することにより、目的物の粗生成物(1.68g)を得た。
【0042】
得られた粗生成物に酢酸エチル(約2mL)を加え、加温して溶解させた後、室温まで冷却し、析出した固体をろ別することにより、4-ブロモ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(一般式(1)においてR=CH、CAS No.26529-99-7、「4-BMI」と呼ぶ)の白色固体(1.44g,収率:86%,純度:99.9%)を得た。H-NMR(400MHz,CDCl):δ8.07(s,1H),3.42(s,3H)。
【0043】
H-NMRの測定には、Bruker ASCEND HD(400MHz;BRUKER製)を用いた。H-NMRは、重クロロホルム(CDCl)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。化合物の純度は測定したH-NMRの積分比から算出した。また、試薬類は市販品などを用いた。
【0044】
<実施例1~5、比較例1,2>
[製剤安定性試験]
イソチアゾリノン誘導体として上記のように得た4-BMIまたは5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(「5-CMI」と呼ぶ。)を用い、アゾール化合物としてベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾールを用いて、水処理剤組成物を調製し、製剤安定性試験を実施した。5-CMIは、「ケーソンWT」(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン約10質量%含有、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン約4質量%含有)を用いた。
【0045】
水処理剤組成物は、純水にpH調整剤を任意に配合し、表1に示す配合量で全ての成分を配合した段階で組成が100質量%となるように、適宜調整した。また、製剤化直後にガラス式電極法にて水処理剤組成物のpHを測定した。
【0046】
pH調整剤は、所定のpHとなるように、酸としては塩酸を用い、アルカリとしては水酸化ナトリウムを用いた。
【0047】
製剤安定性試験は、50℃の恒温槽に、ガラス瓶に内包した水処理剤組成物を静置させ、5日経過後の有効成分を測定した。有効成分であるイソチアゾリノン化合物およびアゾール化合物の残留率(%)は各組成物を50℃、5日間後に、初期のイソチアゾリノン化合物およびアゾール化合物の濃度に対する残留割合で示している。イソチアゾリノン化合物およびアゾール化合物の濃度の測定には、日立ハイテクサイエンス社製、高速液体クロマトグラフ、Chromaster5000シリーズを用いた。結果を表1に示す。
【0048】
製剤安定性の総合判定は次のような基準に基づいて行った。
【0049】
(判定基準)
○:イソチアゾリノン化合物の残留率が90%以上 かつ アゾール化合物の残留率が90%以上
△:イソチアゾリノン化合物の残留率が70%以上 かつ アゾール化合物の残留率が70%以上
×:イソチアゾリノン化合物の残留率が70%未満 又は アゾール化合物の残留率が70%未満
【0050】
【表1】
【0051】
表1において、イソチアゾリノン化合物およびアゾール化合物の安定性に相違が生じた原因を明確に掴んではいないが、次亜塩素酸塩の水溶液に臭化物ナトリウムを反応させて生じる次亜臭素酸塩の水溶液のpHが元のpHよりも上がる傾向があるという知見から、4-BMIが有機臭素系菌数抑制剤であるため、5-CMIのような有機塩素系菌数抑制剤よりも、なんらかの理由でpH上限の許容性、すなわちpH弱酸~中性に許容性があり、加えて、その安定した有機物である有機臭素系菌数抑制剤の存在が同じく有機物であるアゾール化合物に対しても親和性の観点より安定性に寄与したため、本来pHが弱酸~中性での溶解度が下がる傾向にあるアゾール化合物の安定性にも寄与したと推定する。
【0052】
<実施例6>
下記試験条件で、4-BMIの殺菌性能を確認した。試験水1Lに、所定濃度の薬品を投入し、所定時間撹拌後の菌数(CFU/mL)を測定した。菌数は、菌数測定キット(三愛石油製、バイオチェッカーTTC)を使用して測定した。総菌数[log(CFU/mL)]の測定結果を図1に示す。
【0053】
・試験水:相模原井水を次亜塩素酸によって殺菌した後、砂ろ過および活性炭処理し、ブイヨンを添加し、30℃で3日間培養した、菌数が10の7乗の菌液
・薬品:4-BMI
・薬品濃度:5、10mg/L as solid
・試験温度:30℃
・サンプリング時間:5時間、24時間、48時間
【0054】
図1より、4-BMIはわずか5時間で殺菌性能を示す即効性だけでなく、48時間後である長時間後も高い殺菌性能を示すことから、4-BMIは安定かつ高い殺菌性能を示すと言える。
【0055】
[殺菌試験]
模擬水に実施例1~5で調製した水処理剤組成物を添加して、下記試験条件で殺菌力を比較した。結果を表2に示す。
【0056】
(試験条件)
・試験水:相模原井水に普通ブイヨンを添加し、一般細菌数が10CFU/mLとなるよう調整した模擬水
・薬剤:実施例1~5で調製した組成物を、有効ハロゲン濃度(有効塩素換算濃度)として1mg/Lとなるよう添加(有効ハロゲン濃度の測定方法:残留塩素測定装置(Hach社製、「DR-4000」)を使用してDPD法により測定)
【0057】
(評価方法)
・薬剤添加後24時間後の一般細菌数を、菌数測定キット(三愛石油製、バイオチェッカーTTC)を使用して測定
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、実施例1~5で調製した組成物により、良好な菌数抑制効果が得られた。
【0060】
このように、実施例によって、イソチアゾリノン系菌数抑制剤とアゾール化合物とをpH中性領域~弱酸性領域で一剤化した水処理剤組成物が得られた。また、その水処理剤組成物を用いることによって、水系において菌数を抑制することができた。
図1