(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137320
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240927BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/525
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048797
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】進藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 敦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA05
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA09
5H050EA01
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制可能な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】ここに開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備える。前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層とを備える。前記正極活物質層は、正極活物質と、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極添加剤と、を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層とを備え、
前記正極活物質層は、正極活物質と、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極添加剤と、を含有する、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極添加剤の前記正極活物質層中の含有割合が、1質量%~10質量%である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極添加剤の前記正極活物質層中の含有割合が、1質量%~5質量%である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質が、層状構造のリチウム複合酸化物であり、
前記リチウム複合酸化物がNiを含有する、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記正極添加剤が、ジチオリン酸のアルカリ金属塩である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極は、典型的には、正極活物質を含有する正極活物質層を備える。非水電解質二次電池の性能向上を目的として、正極活物質表面に被膜を形成する添加剤を、正極活物質層に含有させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、正極活物質層にチオリン酸エステルまたはチオリン酸エステル塩を含有させることにより、非水電解質二次電池のサイクル特性が向上することが記載されている。例えば、特許文献2には、正極活物質層にリン酸リチウムを含有させることにより、高電位の正極活物質を用いた場合に、非水電解質二次電池の出力特性とサイクル特性とが向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-352804号公報
【特許文献2】特開2016-062644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術においては、非水電解質二次電池の高温保存特性に改善の余地があること、具体的には、非水電解質二次電池が長期高温下に置かれた際の抵抗増加の抑制に改善の余地があることを見出した。
【0006】
そこで本発明は、長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制可能な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備える。前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層とを備える。前記正極活物質層は、正極活物質と、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極添加剤と、を含有する。
【0008】
このような構成によれば、長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制可能な非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0012】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明について詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0013】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解質80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。なお、
図1は、非水電解質80の量を正確に表すものではない。
【0014】
捲回電極体20は、
図1および
図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0015】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0016】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0017】
正極活物質層54は、正極活物質と、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極添加剤と、を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0018】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0019】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0020】
リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸マンガン鉄リチウム等が挙げられる。
【0021】
これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
リチウムイオン二次電池100に初期充電を施すことによって、正極添加剤が分解し、正極活物質表面に、正極添加剤由来の被膜が形成される。この初期充電は、一般的に、正極添加剤の分解開始電位以上の電圧で行われる。しかしながら、初期充電の際だけ、正極添加剤の分解開始電位以上の電圧をリチウムイオン二次電池に印加できればよいため、リチウムイオン二次電池の一般的な使用態様における正極活物質の上限電位は、正極添加剤の分解開始電位より低くてもよい。
【0023】
電池特性、および初期充電時の結晶構造の安定性の観点から、正極活物質としては、層状構造を有するリチウム複合酸化物が好ましい。リチウム複合酸化物は、Niを含有することが好ましい。したがって、正極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物が好ましく、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物がより好ましい。
【0024】
リチウム複合酸化物のLi以外の金属元素の合計に対するNiの割合は、20モル%~60モル%が好ましく、30モル%~50モル%が好ましい。
【0025】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。なお、正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0026】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、例えば80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは87質量%以上である。
【0027】
正極添加剤は、リチウムイオン二次電池100に初期充電を施した際に、正極活物質表面に被膜を形成する成分である。本実施形態においては、正極添加剤として、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられる。
【0028】
チオリン酸塩は、下記式(1)で表されるチオリン酸アニオンと、カチオンとの塩である。ジチオリン酸塩は、下記式(2)で表されるジチオリン酸アニオンと、カチオンとの塩である。チオリン酸塩およびジチオリン酸塩は、典型的には無機塩であり、よって典型的には有機基を含まない。チオリン酸アニオンおよびジチオリン酸アニオンはそれぞれ3価のアニオンであり、カチオンは、1価、2価、または3価のカチオン(特に金属カチオン)である。
【0029】
【0030】
チオリン酸アニオンおよびジチオリン酸アニオンが、被膜形成に大きく寄与するために、カチオンの種類は特に限定されない。カチオンの例としては、Li+、Na+、K+等のアルカリ金属カチオン;Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等のアルカリ土類金属カチオン;Zn2+等の第12族元素カチオン;Al3+等の第13族元素カチオンなどが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属カチオンが好ましい。
【0031】
入手が容易であるという観点から、チオリン酸塩としては、チオリン酸ナトリウムが特に好ましい。同様に、入手が容易であるという観点から、ジチオリン酸塩としては、ジチオリン酸ナトリウムが特に好ましい。電池性能の観点からは、チオリン酸塩としては、チオリン酸リチウムが特に好ましい。同様に、電池性能の観点からは、ジチオリン酸塩としては、ジチオリン酸リチウムが特に好ましい。
【0032】
より小さい初期抵抗、およびより高い高温保存特性の観点からは、正極添加剤としては、ジチオリン酸塩が好ましく、ジチオリン酸のアルカリ金属塩がより好ましい。
【0033】
チオリン酸塩およびジチオリン酸塩は、正極添加剤としては、分解開始電位が比較的低い。例えば、Li3PO3の分解開始電位が4.50V(vsLi+/Li)であるのに対し、チオリン酸ナトリウム(Na3PSO3)の分解開始電位は4.35V(vsLi+/Li)であり、またジチオリン酸ナトリウム(Na3PS2O2)の分解開始電位は4.25V(vsLi+/Li)である。このため、リチウムイオン二次電池100を初期充電した際に、効率よくこれらを分解することができ、質の高い被膜を正極活物質層表面に形成することができる。その結果、リチウムイオン二次電池100が長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制することができる。
【0034】
正極活物質層54中の上記正極添加剤の含有割合は、大きい方が、リチウムイオン二次電池100が長期高温下に置かれた際の抵抗増加抑制効果が高くなる。そのため、正極活物質層54中の上記正極添加剤の含有割合(すなわち、正極活物質層の全成分の合計質量に対する上記正極添加剤の質量割合)は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。一方、上記正極添加剤の含有割合が大きいと、初期抵抗が増加する傾向にある。そのため、正極活物質層54中の上記正極添加剤の含有割合は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0035】
正極活物質層54は、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のみを正極添加剤として含有していてもよいし、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、他の正極添加剤をさらに含有していてもよい。
【0036】
正極活物質層54は、上記の正極活物質および正極添加剤以外の成分(すなわち、任意成分)を含有していてもよい。当該任意成分の例としては、導電材、バインダ等が挙げられる。導電材としては、例えば、カーボンブラック(例、アセチレンブラック)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト等の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。導電材としてCNTを用いる場合、正極活物質層54は、CNTの分散剤をさらに含有していてもよい。
【0037】
正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、0.5質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0038】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0039】
正極シート50は、正極活物質層非形成部分52aと正極活物質層54との境界部に絶縁層(図示せず)を含有していてもよい。当該絶縁層は、例えば、セラミック粒子等を含有する。
【0040】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0041】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0042】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0043】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0044】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0045】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0046】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0047】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0048】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。セパレータ70のガーレー試験法によって得られる透気度は特に限定されないが、好ましくは350秒/100cc以下である。
【0049】
非水電解質80は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類とエステル類とが好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0051】
なお、上記非水電解質80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0052】
以上のように構成されるリチウムイオン二次電池100に対して、正極添加剤の分解開始電位以上の電圧まで初期充電することにより、長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制することができる。したがって、以上の構成によれば、耐久性に優れるリチウムイオン二次電池100を提供することができる。
【0053】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。具体的な用途としては、パソコン、携帯電子機器、携帯端末等のポータブル電源;電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源;小型電力貯蔵装置の蓄電池などが挙げられ、なかでも、車両駆動用電源が好ましい。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0054】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、リチウムイオン二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。
【0055】
本実施形態に係る二次電池は、公知方法に従ってリチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池として構成することができる。
【0056】
以下、本発明に関する実施例を詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0057】
〔実施例1~9および比較例1~4〕
正極活物質粉末としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=90:5:5の質量比で混合した。そこに、表1に示す正極添加剤を、正極活物質層における含有割合が表1に示す量になるように添加し、N-メチルピロリドン(NMP)と混合した。これにより、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔の両面に塗布した後乾燥して、正極活物質層を形成した。このときのその両面の合計目付量は、15mg/cm2であった。次いで、正極活物質層を、その密度が2.5g/cm3になるように圧延プレス処理することにより、正極シートを得た。
【0058】
負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=97:2:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔の両面に塗布した後乾燥して、負極活物質層を形成した。このときのその両面の合計目付量は、9mg/cm2であった。次いで、負極活物質層を、その密度が1.2g/cm3になるように圧延プレス処理することにより、負極シートを得た。
【0059】
また、セパレータとしてポリオレフィン多孔質膜を用意した。作製した正極シートと負極シートとを、セパレータを介して積層して積層型電極体を作製した。この電極体に端子類を取り付け、アルミニウム製の電池ケースに収容した。
【0060】
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、25:40:35の体積比で含む混合溶媒を用意した。この混合溶媒に、LiPF6を1.1mol/Lの濃度で溶解させることにより、非水電解質を調製した。調製した非水電解液を電池ケースに注液した後、電池ケースを封止して、各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
<活性化処理>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を、25℃の恒温槽内に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池を、0.1Cの電流値で、所定の上限電圧まで定電流充電した後、3.0Vまで定電流放電した。この所定の上限電圧は、表1に示す正極電位(vsLi+/Li)となる電圧とした。この充放電を2回行った。次に、各評価用リチウムイオン二次電池を3.7Vの電圧に調整した後、60℃の恒温槽内に置き、12時間エージング処理を行った。以上のようにして各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池の活性化処理を行った。
【0062】
<初期特性評価>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、0.1Cの電流値で、上記所定の上限電圧まで定電流充電した後、3.0Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定し、初期容量とした。
【0063】
この初期容量をSOC100%として、25℃で各評価用リチウムイオン二次電池をSOC50%に調整した。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を-10℃の恒温層内に置き、10Cの電流値で10秒間放電を行った。このときの電圧変化量ΔVを測定し、この電圧変化量ΔVと電流値とを用いて、各評価用リチウムイオン二次電池の出力抵抗を、初期抵抗として算出した。結果を表1に示す。
【0064】
<高温保存特性評価>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、25℃の温度環境下でSOC80%に調整した。この各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の恒温層内に置き、60日間保存した。その後、初期抵抗と同じ方法により、保存後の出力抵抗を測定した。式:(高温保存後の出力抵抗/初期抵抗)×100より、抵抗増加率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すように、実施例1~9では、正極添加剤として、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩を用いた。比較例1では、正極添加剤を用いなかった。比較例2では、正極添加剤として、従来技術であるLi3PO4を用いた。比較例3では、正極添加剤として、Li2CO3を用いた。比較例4では、正極添加剤として、従来技術のチオリン酸エステルであるトリメチルチオホスフェイトを用いた。
【0067】
表1の結果が示すように、実施例1~9は、比較例1~4に比べて、高温保存後の抵抗増加が顕著に小さかった。よって、ここに開示される非水電解質二次電池によれば、長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制可能であることがわかる。
【0068】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0069】
すなわち、ここに開示される非水電解質二次電池は、以下の項[1]~[5]である。
[1]正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層とを備え、
前記正極活物質層は、正極活物質と、チオリン酸塩およびジチオリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の正極添加剤と、を含有する、
非水電解質二次電池。
[2]前記正極添加剤の前記正極活物質層中の含有割合が、1質量%~10質量%である、項[1]に記載の非水電解質二次電池。
[3]前記正極添加剤の前記正極活物質層中の含有割合が、1質量%~5質量%である、項[1]または[2]に記載の非水電解質二次電池。
[4]前記正極活物質が、層状構造のリチウム複合酸化物であり、
前記リチウム複合酸化物がNiを含有する、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
[5]前記正極添加剤が、ジチオリン酸のアルカリ金属塩である、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【符号の説明】
【0070】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解質
100 リチウムイオン二次電池