(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137327
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】突合せ溶接体、及び、突合せ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20240927BHJP
【FI】
B23K26/21 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048808
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤下 公壽
(72)【発明者】
【氏名】北川 純
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA13
4E168BA58
4E168BA82
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制した突合せ溶接体、及び、突合せ溶接方法を提供する。
【解決手段】突合せ溶接体BW1は、第1板材10と第2板材20とを突き合せた突合せ部30を溶接する。突合せ部30において、第1板材10の上面12の端部12a及び第2板材20の上面22の端部22aの少なくとも一方に突起部40が形成されている。第1板材10の板厚t1、第2板材20の板厚t2とすると、突起部40は、上下方向が第1板材10の端部12aから上方向に3×t1以内、突合せ方向が第1板材10の端部12aから第2板材20と離れる方向に2×t1以内の領域である第1領域A1と、上下方向が第2板材20の端部22aから上方向に3×t2以内、突合せ方向が第2板材20の端部22aから第1板材10と離れる方向に2×t2以内の領域である第2領域A2と、からなる突起部形成領域A内に形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材の突合せ面である第1突合せ面と、第2板材の突合せ面である第2突合せ面とを突き合せた突合せ部を溶接する突合せ溶接体であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面の第1突合せ面側端部及び前記第2板材の上面の第2突合せ面側端部の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域と、
からなる突起部形成領域内に形成されている、
突合せ溶接体。
【請求項2】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1の2倍以上であり、
前記突起部は、前記第2板材には形成されておらず、前記第1板材に形成されており、
前記突起部は、前記第1領域内に形成されている、
突合せ溶接体。
【請求項3】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超であり、
前記突起部は、前記第2板材に形成されておらず、前記第1板材に形成されており、
前記突起部の上端は、側面視で、前記第2板材の前記上面と同一高さとなっている、
突合せ溶接体。
【請求項4】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超、且つ、前記第1板材の板厚t1の2倍未満であり、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部と、前記第2板材に形成された第2突起部と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部の上端と前記第2突起部の上端とは、側面視で、同一高さとなっている、
突合せ溶接体。
【請求項5】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超であり、
前記突起部は、前記第1板材に形成されておらず、前記第2板材に形成されており、
前記突起部は、側面視で、前記第1領域及び前記第2領域を跨ぐように形成されている、
突合せ溶接体。
【請求項6】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部と、前記第2板材に形成された第2突起部と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部と前記第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に対称な形状となっている、
突合せ溶接体。
【請求項7】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部と、前記第2板材に形成された第2突起部と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部と前記第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に非対称な形状、且つ、断面積が異なる大きさとなっている、
突合せ溶接体。
【請求項8】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材には形成されておらず、前記第2板材に形成されており、
前記突起部は、側面視で、前記第1領域及び前記第2領域を跨ぐように形成されている、
突合せ溶接体。
【請求項9】
請求項1に記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記第1突起部は、側面視で、前記第2板材と対向して上下方向に延在する対向面と、前記対向面の前記第2板材に遠い側で前記対向面と前記突合せ方向に対向して上下方向に延在する後背面と、を有し、
側面視で、前記対向面は前記第1突合せ面と連続して直線状に上下方向に延在し、前記後背面は上方に向かうにしたがって前記対向面に近づくように傾斜して直線状に上下方向に延在し、前記後背面と前記第1板材の前記上面との成す角は、15度以上である、
突合せ溶接体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、材料が積層造形された成形体である、
突合せ溶接体。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記第1板材と前記第1突起部とは、材料が積層造形された一体の成形体である、
突合せ溶接体。
【請求項12】
第1板材の突合せ面である第1突合せ面と、第2板材の突合せ面である第2突合せ面とを突き合せた突合せ部を溶接する突合せ溶接方法であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面の第1突合せ面側端部及び前記第2板材の上面の第2突合せ面側端部の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域と、
からなる突起部形成領域内に形成されており、
前記突合せ部にレーザを照射して、前記第1突合せ面と前記第2突合せ面とを溶接するレーザ溶接工程を含む、
突合せ溶接方法。
【請求項13】
請求項12に記載の突合せ溶接方法であって、
前記レーザ溶接工程において、前記突合せ部に向かってシールドガスを流通させて、前記第1突合せ面と前記第2突合せ面とを溶接する、
突合せ溶接方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の突合せ溶接方法であって、
前記レーザ溶接工程よりも前に、材料を積層造形して前記突起部を成形する突起部形成工程を含む、
突合せ溶接方法。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の突合せ溶接方法であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記レーザ溶接工程よりも前に、材料を積層造形して前記第1板材と前記突起部とを一体成形する第1板材形成工程を含む、
突合せ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突合せ溶接体、及び、突合せ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも高齢者や障がい者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて車体剛性に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
2つの板材を接合する方法の1つに、2つの板材の端面同士を突き合せ、2つの板材の端面同士を突き合せた突合せ部に高密度エネルギーを有するレーザを照射して、この突合せ部を溶接することによって2つの板材を接合する突合せ溶接が知られている。
【0004】
高密度エネルギーを有するレーザは、焦点位置から離れるにしたがってエネルギー密度が顕著に低下するため、突合せ溶接では、レーザの照射位置を高精度に管理する必要がある。その一方、突合せ溶接では、突合せ部における2つの板材の端面の間に生じる隙間(ギャップ)の精度管理が難しい。そのため、突合せ溶接では、突合せ部を溶接する際に接合不良が生じやすく、また、突合せ溶接後の2つの板材の接合体において、溶接部の強度が低くなりやすい、という課題があった。
【0005】
この課題を解決するための1つとして、突合せ部にフィラーワイヤを配置し、レーザによって突合せ部とともにフィラーワイヤを溶融して突合せ溶接を行う方法が知られている。また、この課題を解決するための他の1つとして、特許文献1には、溶加材(線条体)を第1のレーザで溶融し、第2のレーザ光で母材に入熱させて、突合せ溶接を行う方法が記載されている。また、この課題を解決するための他の1つとして、特許文献2には、突合せ溶接に先立って、突合せ部の溶融を促進させるために突合せ部を予め誘導加熱し、誘導加熱後に突合せ溶接を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-178130号公報
【特許文献2】特開2001-096363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、突合せ部にフィラーワイヤを配置する方法では、フィラーワイヤの位置再現性に課題があり、突合せ部にフィラーワイヤを配置しても、フィラーワイヤの位置ずれにより、接合不良や溶接部の強度低下が生じる場合があった。
【0008】
また、特許文献1に記載の方法では、溶加材・母材に専用のレーザ光を用いるため、それぞれのレーザ光のエネルギー密度を最適化できるが、レーザ光を発生するための発振器及び光学系システムが複数必要となるため、溶接装置が大型化・複雑化するという課題があった。加えて、溶加材を用いているため、溶加材とレーザ光との位置合わせの制御等が難しいという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、誘導加熱を行うための設備が別途必要となり、製造コストが増加してしまうという課題があった。
【0010】
本発明は、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制した突合せ溶接体、及び、突合せ溶接方法を提供する。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様は、
第1板材の突合せ面である第1突合せ面と、第2板材の突合せ面である第2突合せ面とを突き合せた突合せ部を溶接する突合せ溶接体であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面の第1突合せ面側端部及び前記第2板材の上面の第2突合せ面側端部の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域と、
からなる突起部形成領域内に形成されている、
突合せ溶接体である。
【0012】
本発明の第2態様は、
第1板材の突合せ面である第1突合せ面と、第2板材の突合せ面である第2突合せ面とを突き合せた突合せ部を溶接する突合せ溶接方法であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面の第1突合せ面側端部及び前記第2板材の上面の第2突合せ面側端部の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域と、
からなる突起部形成領域内に形成されており、
前記突合せ部にレーザを照射して、前記第1突合せ面と前記第2突合せ面とを溶接するレーザ溶接工程を含む、
突合せ溶接方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態の突合せ溶接体を斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】
図1の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【
図3】
図1の突合せ溶接体の溶接方法におけるレーザ溶接工程を示した図であり、(a)はレーザ照射した状態、(b)はキーホールが生成された状態、(c)はブリッジが生成された状態、(d)は溶接が完了した状態を示した図であり、(e1)はブリッジしたもののアンダーフィルが発生した場合の例、(e2)はブリッジせずに接合不良が発生した場合の例、を示した図である。
【
図4】本発明の第2実施形態の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【
図7】本発明の第5実施形態の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【
図8】本発明の第6実施形態の突合せ溶接体を左方から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の突合せ溶接体、及び、突合せ溶接方法の各実施形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は、符号の向きに見るものとする。また、本明細書等では説明を簡単且つ明確にするために、便宜上、突合せ溶接における突合せ方向を前後方向と定義し、前後方向と垂直且つレーザの照射方向を上下方向、前後方向及び上下方向の双方と垂直な方向を左右方向と定義する。さらに、前後方向において、第1板材10が配置されている側を後側、第2板材20が配置されている側を前側と定義し、上下方向において、レーザが照射される側を上側と定義する。また、左右方向は、前述した前後方向及び上下方向に基づいて、突合せ溶接体の中心から見た方向にしたがって左側及び右側を定義する。図面には、前方をFr、後方をRr、左方をL、右方をR、上方をU、下方をD、として示す。なお、この前後上下左右の各方向は、突合せ溶接体が用いられる製品の前後上下左右の方向等とは無関係である。
【0016】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態の突合せ溶接体BW1について、
図1から
図3を参照しながら説明する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の突合せ溶接体BW1は、第1板材10と第2板材20とを有する。
【0018】
第1板材10は、例えば鉄鋼材等、金属材料からなる金属鋼板である。第1板材10は、板厚t1の板状部材である。第1板材10は、板面が上下方向を向き、第2板材20と接合する第1突合せ面11が前方向を向くようにして水平方向に配置される。本実施形態では、板厚t1は、0.7[mm]である。
【0019】
第2板材20は、第1板材10と同材料からなる金属鋼板である。第2板材20は、板厚t2の板状部材である。第2板材20は、板面が上下方向を向き、第1板材10と接合する第2突合せ面21が後方向を向くようにして水平方向に配置される。本実施形態では、板厚t2は、1.4[mm]である。
【0020】
そして、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを前後方向に突き合わせる。このとき、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とは、少なくとも1点で当接する。一方、第1板材10の第1突合せ面11及び第2板材20の第2突合せ面21は、製造の際に平面度0の完全な平坦面とすることは難しい。そのため、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを突き合せた突合せ部30において、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とは、互いに当接する当接点以外の部分では、前後方向に隙間(ギャップ)が生じる。また、第1板材10と第2板材20とを突き合わせる突合せ装置の精度によっても、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21との間に隙間(ギャップ)が生じる場合がある。本実施形態のように、第1板材10の板厚t1が0.7[mm]、第2板材20の板厚t2が1.4[mm]である場合、このギャップは、一般的に、0.15[mm]程度以下である。
【0021】
突合せ部30において、左右方向から見て、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12a及び第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aの少なくとも一方に、第1板材10及び第2板材20の上方向に突出した突起部40が形成されている。
【0022】
突起部40は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域A1と、上下方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域A2と、からなる突起部形成領域A内に形成されている。
【0023】
本実施形態では、突起部40は、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aに形成された第1突起部41であり、突起部40は、第2板材20には形成されていない。そして、第1突起部41は、第1領域A1内に形成されている。
【0024】
第1突起部41は、左右方向から見て、第2板材20と対向して上下方向に延在する対向面41aと、対向面41aの後方側で対向面41aと前後方向に対向して上下方向に延在する後背面41bと、対向面41aの上端と後背面41bの上端とを接続して前後方向に延在する上面41cと、後背面41bの下端と第1板材10の上面12とを接続して、後方に向かって下方に傾斜しながら前後方向に延在する脚部面41dと、を有する。対向面41aは第1突合せ面11と連続して直線状に上下方向に延在し、後背面41bは上方に向かうにしたがって対向面41aに近づくように傾斜して上下方向に延在し、後背面41bと第1板材10の上面12との成す角θは15度以上となっている。本実施形態では、成す角θは、約75度となっている。上面41cは、略水平方向に延在する。脚部面41dは、第1板材10の上面12との成す角が、後背面41bと第1板材10の上面12との成す角θよりも小さい角度で略直線状に延在する。本実施形態では、第1板材10の上面12との成す角は約15度となっている。
【0025】
本実施形態では、第1突起部41の上端(本実施形態では上面41c)は、第2板材20の上面22と同一高さとなっている。したがって、第1突起部41の高さは、t2-t1、すなわち、1.4[mm]-0.7[mm]=0.7[mm]となっている。
【0026】
突起部40(本実施形態では、第1突起部41)は、材料が積層造形された成形体である。材料を積層造形することによって成形する積層造形法は、三次元形状を造形する方法の1つである。積層造形法は、三次元モデルに基づいて、三次元モデルの連続する断面にそれぞれ対応する材料の層を1層ずつ積層して、三次元形状の部材を作成する製造方法である。積層造形法は、3Dプリンティング技術としても知られている。材料のブロックから削り出して最終製品を作成する従来の切削加工とは異なり、積層造形法は、材料を積層していくことで最終製品を形成するので、複雑な三次元形状を成形することができる。なお、積層造形法は、付加製造法、アディティブマニュファクチャリング、AM技術(additive manufacturing)とも呼ばれている。
【0027】
積層造形法において、積層する材料には、金属、セラミック、樹脂等を用いることができる。本実施形態では、突起部40(本実施形態では、第1突起部41)は、第1板材10及び第2板材20と同材料の金属で形成されている。
【0028】
突起部40(本実施形態では、第1突起部41)は、予め成形された第1板材10に材料を積層造形して形成してもよい。
【0029】
また、材料を積層造形して、第1板材10と突起部40(本実施形態では、第1突起部41)とを一体に成形してもよい。この場合、第1板材10と突起部40(本実施形態では、第1突起部41)とは、材料が積層造形された一体の成形体となる。
【0030】
ここで、突合せ溶接体BW1における突合せ溶接方法について説明する。
【0031】
まず、予め成形された第1板材10に材料を積層造形して突起部40を成形する突起部形成工程を実行する。
【0032】
材料を積層造形して突起部40を成形することによって、板厚t1が小さい第1板材10に対しても、突起部形成領域A内に容易且つ高精度に突起部40を成形できる。さらに、低コストで第1板材10を形成した後に、材料を積層造形して突起部40を成形することができるので、製造コストを低減できる。
【0033】
なお、この突起部形成工程に代えて、材料を積層造形して、第1板材10と突起部40(本実施形態では、第1突起部41)とを一体成形する第1板材形成工程を実行してもよい。
【0034】
材料を積層造形して第1板材10と突起部40(本実施形態では、第1突起部41)とを一体成形することによって、板厚t1が小さい第1板材10に対しても、突起部形成領域A内に容易且つ高精度に突起部40を成形できるとともに、第1板材10に突起部40を接合する工程を省略できる。
【0035】
突起部形成工程又は第1板材形成工程が完了すると、
図3に示すレーザ溶接工程を実行する。レーザ溶接工程では、まず、
図3の(a)に示すように、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを前後方向に突き合わせ、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを突き合せた突合せ部30にレーザを照射する。突合せ部30に照射されるレーザは、例えば、数100[W]から30[kW]程度の光をφ0.1[mm]から0.6[mm]程度に集光した高エネルギービームである。なお、レンズ等の光学系部品を調整、変更、追加等することによって、レーザのビームプロファイル(レーザのエネルギー密度分布)は、適宜変更可能である。
【0036】
すると、
図3の(b)に示すように、第1板材10の突合せ部30近傍部分と、突起部40と、第2板材20の突合せ部30近傍部分と、がレーザによって溶融し、キーホールが生成される。
【0037】
そして、
図3の(c)に示すように、レーザによって溶融した材料がブリッジして一体化し、第1板材10と第2板材20とが突合せ部30で接合する。
【0038】
このとき、ギャップの大きさに対して、溶融する材料の量が少ないと、
図3の(e1)に示すように、突合せ部の最少厚さが第1板材10及び第2板材20のうちの薄い方の厚さよりも小さくなってしまうアンダーフィルが発生して溶接部の強度が低下したり、
図3の(e2)に示すように、レーザによって溶融した材料がブリッジできずに接合不良が発生したりしてしまう。
【0039】
その後、
図3の(d)に示すように、レーザの照射を終了し、レーザによって溶融した材料の温度が低下すると、レーザによって溶融した材料が凝固して、溶接が完了する。
【0040】
本実施形態では、第1板材10の突合せ部30近傍部分、及び、第2板材20の突合せ部30近傍部分に加えて、突起部40がレーザによって溶融するので、溶融した材料がより確実にブリッジし、接合不良や溶接部の強度低下の発生を抑制できる。さらに、突起部40は、第1板材10及び第2板材20の少なくとも一方に形成されており、相対位置が変化しないので、突起部40がレーザによって溶融した材料が、より確実に突合せ部30のキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0041】
また、突起部40が突起部形成領域A内に形成されていることによって、突合せ部30にレーザを照射した際に、突起部40がより確実に溶融する。これにより、突起部40がより確実に溶融してキーホールに流入し、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、突起部40は第2板材20には形成されておらず、第1板材10に第1突起部41が形成されており、第1突起部41は、第1領域A1内に形成されているので、第1板材10と第2板材20とを突き合せる際、第2板材20の板厚t2によらず突起部40が干渉しない。これにより、第1板材10を任意の板厚t2の第2板材20と突合せ溶接することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、第1突起部41の上端(本実施形態では上面41c)が、第2板材20の上面22と同一高さとなっているので、突合せ部30にレーザを照射した際に、より確実に第1突起部41にレーザが照射され、第1突起部41が溶融する。
【0044】
また、レーザを照射する際、焦点が第1突起部41の上端(本実施形態では上面41c)、及び、第2板材20の上面22と同一高さになるようにして照射することが好ましい。これにより、より少ないエネルギーのレーザで、第1突起部41の上端(本実施形態では上面41c)、及び、第2板材20の上面22を溶融させることができる。そして、第1突起部41の後背面41bが、上方に向かうにしたがって対向面41aに近づくように傾斜して上下方向に延在していることによって、レーザの焦点より下方におけるレーザの拡散角度に沿って後背面41bを傾斜させることができる。これにより、より少ないエネルギーのレーザで第1突起部41を確実に溶融させることができるので、製造コストを低減できる。
【0045】
本実施形態では、第1突起部41の後背面41bと第1板材10の上面12との成す角θが15度以上となっているので、第1突起部41が溶融することによって、十分な量の溶融材料がキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0046】
なお、前述したレーザ溶接工程では、突合せ部30に向かってシールドガスを流通させて、第1突合せ面11と第2突合せ面21とを溶接する。シールドガスは、例えば、炭酸ガスや、アルゴンと炭酸ガスとの混合ガスであり、溶接部を酸素や窒素等からシールドして、溶接部に酸化物や窒化物等が生成されることを防ぐためのガスである。シールドガスを流通させて、第1突合せ面11と第2突合せ面21とを溶接することによって、溶接部が脆化することを防止することができる。
【0047】
これにより、シールドガスの流れを利用して、レーザによって溶融した材料を突合せ部30に向かって流動させることができるので、レーザによって溶融した材料をより確実にブリッジさせることができる。
【0048】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態の突合せ溶接体BW2について、
図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。以下、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と第2実施形態の突合せ溶接体BW2との相違点について詳細に説明する。
【0049】
本実施形態では、第2板材20の板厚t2は、第1板材10の板厚t1超、且つ、第1板材10の板厚t1の2倍未満となっている。具体的には、板厚t1は、0.7[mm]となっており、板厚t2は、1.0[mm]となっている。
【0050】
図4に示すように、突起部40は、第1板材10に形成された第1突起部41と、第2板材20に形成された第2突起部42と、を有する。第1突起部41は、第1領域A1内に形成されており、第2突起部42は、第2領域A2内に形成されている。なお、第1実施形態と同様に、第1領域A1は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域であり、第2領域A2は、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である。
【0051】
そして、第1突起部41の上端411と第2突起部42の上端421とは、左右方向から見て、同一高さとなっている。
【0052】
これにより、レーザの照射によって、第1領域A1内に形成された第1突起部41と、第2領域A2内に形成された第2突起部42の双方がより確実に溶融する。そして、板厚差が小さい第1板材10と第2板材20とを突合せ溶接する場合でも、第1突起部41及び第2突起部42の双方が溶融し、十分な量の溶融材料がキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0053】
さらに、第1突起部41の上端411と第2突起部42の上端421とが、左右方向から見て、同一高さとなっているので、突合せ部30にレーザを照射した際に、第1突起部41及び第2突起部42の双方により確実にレーザが照射され、第1突起部41及び第2突起部42の双方がより確実に溶融する。
【0054】
[第3実施形態]
続いて、本発明の第3実施形態の突合せ溶接体BW3について、
図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。以下、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と第3実施形態の突合せ溶接体BW3との相違点について詳細に説明する。
【0055】
本実施形態では、第2板材20の板厚t2は、第1板材10の板厚t1超となっている。具体的には、板厚t1は、0.7[mm]となっており、板厚t2は、1.4[mm]となっている。なお、板厚t2は、板厚t1超であればよく、板厚t1の2倍未満であってもよいし、板厚t1の2倍超であってもよい。
【0056】
図5に示すように、突起部40は、第1板材10には形成されておらず、第2板材20に形成されている。
【0057】
突起部40は、左右方向から見て、第1領域A1及び第2領域A2を跨ぐように形成されている。なお、第1実施形態と同様に、第1領域A1は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域であり、第2領域A2は、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である。
【0058】
したがって、突合せ部30において、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを突き合せた際に生じる前後方向のギャップの上方に、突起部40が配置されることとなる。
【0059】
そのため、突合せ部30にレーザを照射すると、突起部40にレーザが照射され、突起部40が溶融してギャップに流下する。これにより、突合せ部30にレーザを照射した際に、より確実にギャップに溶融材料が供給されるので、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。また、第1板材10に従来の工法で製造された板材を用いることができるので、製造コストを低減できる。
【0060】
[第4実施形態]
続いて、本発明の第4実施形態の突合せ溶接体BW4について、
図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。以下、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と第4実施形態の突合せ溶接体BW4との相違点について詳細に説明する。
【0061】
本実施形態では、第1板材10の板厚t1と、第2板材20の板厚t2とは等しくなっている。具体的には、板厚t1及び板厚t2は、いずれも0.7[mm]となっている。
【0062】
図6に示すように、突起部40は、第1板材10に形成された第1突起部41と、第2板材20に形成された第2突起部42と、を有する。第1突起部41は、第1領域A1内に形成されており、第2突起部42は、第2領域A2内に形成されている。なお、第1実施形態と同様に、第1領域A1は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域であり、第2領域A2は、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である。
【0063】
そして、第1突起部41と第2突起部42とは、左右方向から見て、上下方向を軸に対称な形状となっている。
【0064】
そのため、レーザの照射によって、第1領域A1内に形成された第1突起部41と、第2領域A2内に形成された第2突起部42の双方がより確実に溶融する。これにより、より多くの溶融材料がキーホールに流入するので、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを突き合せた際に生じる前後方向のギャップが大きい場合でも、接合不良や溶接部の強度低下の発生を抑制できる。
【0065】
[第5実施形態]
続いて、本発明の第5実施形態の突合せ溶接体BW5について、
図7を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。以下、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と第5実施形態の突合せ溶接体BW5との相違点について詳細に説明する。
【0066】
本実施形態では、第1板材10の板厚t1と、第2板材20の板厚t2とは等しくなっている。具体的には、板厚t1及び板厚t2は、いずれも0.7[mm]となっている。
【0067】
図7に示すように、突起部40は、第1板材10に形成された第1突起部41と、第2板材20に形成された第2突起部42と、を有する。第1突起部41は、第1領域A1内に形成されており、第2突起部42は、第2領域A2内に形成されている。なお、第1実施形態と同様に、第1領域A1は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域であり、第2領域A2は、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である。
【0068】
そして、第1突起部41と第2突起部42とは、左右方向から見て、上下方向を軸に非対称な形状、且つ、断面積が異なる大きさとなっている。本実施形態では、第2突起部42の方が、第1突起部41よりも断面積が大きくなっている。
【0069】
そのため、レーザの照射によって、第1領域A1内に形成された第1突起部41と、第2領域A2内に形成された第2突起部42の双方が溶融して、キーホールに流入する際、溶融材料は、第1突起部41及び第2突起部42のうち、断面積の大きい方の側、本実施形態では前方から後方へとキーホールに向かって流動する。これにより、レーザの照射によって溶融した材料の流動方向が安定するので、レーザの照射によって溶融した材料をより確実にキーホールに供給でき、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0070】
[第6実施形態]
続いて、本発明の第6実施形態の突合せ溶接体BW6について、
図8を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。以下、第1実施形態の突合せ溶接体BW1と第6実施形態の突合せ溶接体BW6との相違点について詳細に説明する。
【0071】
本実施形態では、第1板材10の板厚t1と、第2板材20の板厚t2とは等しくなっている。具体的には、板厚t1及び板厚t2は、いずれも0.7[mm]となっている。
【0072】
図8に示すように、突起部40は、第1板材10には形成されておらず、第2板材20に形成されている。
【0073】
突起部40は、左右方向から見て、第1領域A1及び第2領域A2を跨ぐように形成されている。なお、第1実施形態と同様に、第1領域A1は、上下方向が、第1板材10の上面22の第1突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t1以内、且つ、前後方向が、第1板材10の上面12の第1突合せ面11側の端部12aから後方向に向かって2×t1以内の領域であり、第2領域A2は、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから上方向に3×t2以内、且つ、前後方向が、第2板材20の上面22の第2突合せ面21側の端部22aから前方向に向かって2×t2以内の領域である。
【0074】
したがって、突合せ部30において、第1板材10の第1突合せ面11と第2板材20の第2突合せ面21とを突き合せた際に生じる前後方向のギャップの上方に、突起部40が配置されることとなる。
【0075】
そのため、突合せ部30にレーザを照射すると、突起部40にレーザが照射され、突起部40が溶融してギャップに流下する。これにより、突合せ部30にレーザを照射した際に、より確実にギャップに溶融金属が供給されるので、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。また、第1板材10に従来の工法で製造された板材を用いることができるので、製造コストを低減できる。
【0076】
以上、本発明の各実施形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0077】
例えば、突起部40は、積層造形法以外の方法で形成されていてもよい。
【0078】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を一例として示しているが、これに限定されるものではない。
【0079】
(1) 第1板材(第1板材10)の突合せ面である第1突合せ面(第1突合せ面11)と、第2板材(第2板材20)の突合せ面である第2突合せ面(第2突合せ面21)とを突き合せた突合せ部(突合せ部30)を溶接する突合せ溶接体(突合せ溶接体BW1~BW6)であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面(上面12)の第1突合せ面側端部(端部12a)及び前記第2板材の上面(上面22)の第2突合せ面側端部(端部22a)の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部(突起部40)が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域(第1領域A1)と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域(第2領域A2)と、
からなる突起部形成領域(突起部形成領域A)内に形成されている、
突合せ溶接体。
【0080】
(1)によれば、第1板材の突合せ部近傍部分、及び、第2板材の突合せ部近傍部分に加えて、突起部がレーザによって溶融するので、溶融した材料がより確実にブリッジし、接合不良や溶接部の強度低下の発生を抑制できる。さらに、突起部は、第1板材及び第2板材の少なくとも一方に形成されており、相対位置が変化しないので、突起部がレーザによって溶融した材料が、より確実に突合せ部のキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
また、突起部が突起部形成領域内に形成されていることによって、突合せ部にレーザを照射した際に、突起部がより確実に溶融する。これにより、突起部がより確実に溶融してキーホールに流入し、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0081】
(2) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1の2倍以上であり、
前記突起部は、前記第2板材には形成されておらず、前記第1板材に形成されており、
前記突起部は、前記第1領域内に形成されている、
突合せ溶接体。
【0082】
(2)によれば、突起部は第2板材には形成されておらず、第1板材に形成されており、突起部は、第1領域内に形成されているので、第1板材と第2板材とを突き合せる際、第2板材の板厚によらず突起部が干渉しない。これにより、第1板材を任意の板厚の第2板材と突合せ溶接することができる。
【0083】
(3) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超であり、
前記突起部は、前記第2板材に形成されておらず、前記第1板材に形成されており、
前記突起部の上端は、側面視で、前記第2板材の前記上面と同一高さとなっている、
突合せ溶接体。
【0084】
(3)によれば、突起部の上端が第2板材の上面と同一高さとなっているので、突合せ部にレーザを照射した際に、より確実に突起部にレーザが照射され、突起部が溶融する。
【0085】
(4) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超、且つ、前記第1板材の板厚t1の2倍未満であり、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部(第1突起部41)と、前記第2板材に形成された第2突起部(第2突起部42)と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部の上端と前記第2突起部の上端とは、側面視で、同一高さとなっている、
突合せ溶接体。
【0086】
(4)によれば、レーザの照射によって、第1領域内に形成された第1突起部と、第2領域内に形成された第2突起部の双方がより確実に溶融する。そして、板厚差が小さい第1板材と第2板材とを突合せ溶接する場合でも、第1突起部及び第2突起部の双方が溶融し、十分な量の溶融材料がキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
さらに、第1突起部の上端と第2突起部の上端とが、左右方向から見て、同一高さとなっているので、突合せ部にレーザを照射した際に、第1突起部及び第2突起部の双方により確実にレーザが照射され、第1突起部及び第2突起部の双方がより確実に溶融する。
【0087】
(5) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第2板材の板厚t2は、前記第1板材の板厚t1超であり、
前記突起部は、前記第1板材に形成されておらず、前記第2板材に形成されており、
前記突起部は、側面視で、前記第1領域及び前記第2領域を跨ぐように形成されている、
突合せ溶接体。
【0088】
(5)によれば、突合せ部において、第1板材の第1突合せ面と第2板材の第2突合せ面とを突き合せた際に生じる前後方向のギャップの上方に突起部が配置されることとなるので、突合せ部にレーザを照射すると、突起部にレーザが照射され、突起部が溶融してギャップに流下する。これにより、突合せ部にレーザを照射した際に、より確実にギャップに溶融材料が供給されるので、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。また、第1板材に従来の工法で製造された板材を用いることができるので、製造コストを低減できる。
【0089】
(6) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部(第1突起部41)と、前記第2板材に形成された第2突起部(第2突起部42)と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部と前記第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に対称な形状となっている、
突合せ溶接体。
【0090】
(6)によれば、第1突起部と第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に対称な形状となっているので、レーザの照射によって、第1領域内に形成された第1突起部と、第2領域内に形成された第2突起部の双方がより確実に溶融する。これにより、より多くの溶融材料がキーホールに流入するので、第1板材の第1突合せ面と第2板材の第2突合せ面とを突き合せた際に生じる突合せ方向のギャップが大きい場合でも、接合不良や溶接部の強度低下の発生を抑制できる。
【0091】
(7) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部(第1突起部41)と、前記第2板材に形成された第2突起部(第2突起部42)と、を有し、
前記第1突起部は、前記第1領域内に形成されており、
前記第2突起部は、前記第2領域内に形成されており、
前記第1突起部と前記第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に非対称な形状、且つ、断面積が異なる大きさとなっている、
突合せ溶接体。
【0092】
(7)によれば、第1突起部と第2突起部とは、側面視で、上下方向を軸に非対称な形状、且つ、断面積が異なる大きさとなっているので、レーザの照射によって、第1領域内に形成された第1突起部と、第2領域内に形成された第2突起部の双方が溶融して、キーホールに流入する際、溶融材料は、第1突起部及び第2突起部のうち、断面積の大きい方の側からキーホールに向かって流動する。これにより、レーザの照射によって溶融した材料の流動方向が安定するので、レーザの照射によって溶融した材料をより確実にキーホールに供給でき、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0093】
(8) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記第1板材の板厚t1と、前記第2板材の板厚t2とは等しく、
前記突起部は、前記第1板材には形成されておらず、前記第2板材に形成されており、
前記突起部は、側面視で、前記第1領域及び前記第2領域を跨ぐように形成されている、
突合せ溶接体。
【0094】
(8)によれば、突合せ部において、第1板材の第1突合せ面と第2板材の第2突合せ面とを突き合せた際に生じる前後方向のギャップの上方に突起部が配置されることとなるので、突合せ部にレーザを照射すると、突起部にレーザが照射され、突起部が溶融してギャップに流下する。これにより、突合せ部にレーザを照射した際に、より確実にギャップに溶融材料が供給されるので、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。また、第1板材に従来の工法で製造された板材を用いることができるので、製造コストを低減できる。
【0095】
(9) (1)に記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記第1突起部は、側面視で、前記第2板材と対向して上下方向に延在する対向面(対向面41a)と、前記対向面の前記第2板材に遠い側で前記対向面と前記突合せ方向に対向して上下方向に延在する後背面(後背面41b)と、を有し、
側面視で、前記対向面は前記第1突合せ面と連続して直線状に上下方向に延在し、前記後背面は上方に向かうにしたがって前記対向面に近づくように傾斜して直線状に上下方向に延在し、前記後背面と前記第1板材の前記上面との成す角(成す角θ)は、15度以上である、
突合せ溶接体。
【0096】
(9)によれば、第1突起部の後背面と第1板材の上面との成す角が15度以上となっているので、第1突起部が溶融することによって、十分な量の溶融材料がキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0097】
(10) (1)から(9)のいずれかに記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、材料が積層造形された成形体である、
突合せ溶接体。
【0098】
(10)によれば、突起部は、材料が積層造形された成形体であるので、板厚が小さい第1板材に対しても、突起部形成領域内に容易且つ高精度に突起部を成形できる。さらに、低コストで第1板材を形成した後に、材料を積層造形して突起部を成形することができるので、製造コストを低減できる。
【0099】
(11) (1)から(9)のいずれかに記載の突合せ溶接体であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記第1板材と前記第1突起部とは、材料が積層造形された一体の成形体である、
突合せ溶接体。
【0100】
(11)によれば、第1板材と突起部とは、材料が積層造形された一体の成形体であるので、板厚が小さい第1板材に対しても、突起部形成領域内に容易且つ高精度に突起部を成形できるとともに、第1板材に突起部を接合する工程を省略できる。
【0101】
(12) 第1板材(第1板材10)の突合せ面である第1突合せ面(第1突合せ面11)と、第2板材(第2板材20)の突合せ面である第2突合せ面(第2突合せ面21)とを突き合せた突合せ部(突合せ30)を溶接する突合せ溶接方法であって、
前記突合せ部において、側面視で、前記第1板材の上面(上面12)の第1突合せ面側端部(端部12a)及び前記第2板材の上面(上面22)の第2突合せ面側端部(端部22a)の少なくとも一方に、前記第1板材及び前記第2板材の上方向に突出した突起部(突起部40)が形成されており、
前記第1板材の板厚をt1、前記第2板材の板厚をt2、とすると、
前記突起部は、
上下方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から上方向に3×t1以内、且つ、前記第1板材と前記第2板材の突合せ方向が、前記第1板材の前記上面の前記第1突合せ面側端部から前記第2板材と離れる方向に向かって2×t1以内の領域である第1領域(第1領域A1)と、
上下方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から上方向に3×t2以内、且つ、前記突合せ方向が、前記第2板材の前記上面の前記第2突合せ面側端部から前記第1板材と離れる方向に向かって2×t2以内の領域である第2領域(第2領域A2)と、
からなる突起部形成領域(突起部形成領域A)内に形成されており、
前記突合せ部にレーザを照射して、前記第1突合せ面と前記第2突合せ面とを溶接するレーザ溶接工程を含む、
突合せ溶接方法。
【0102】
(12)によれば、第1板材の突合せ部近傍部分、及び、第2板材の突合せ部近傍部分に加えて、突起部がレーザによって溶融するので、溶融した材料がより確実にブリッジし、接合不良や溶接部の強度低下の発生を抑制できる。さらに、突起部は、第1板材及び第2板材の少なくとも一方に形成されており、相対位置が変化しないので、突起部がレーザによって溶融した材料が、より確実に突合せ部のキーホールに流入する。これにより、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
また、突起部が突起部形成領域内に形成されていることによって、突合せ部にレーザを照射した際に、突起部がより確実に溶融する。これにより、突起部がより確実に溶融してキーホールに流入し、接合不良や溶接部の強度低下の発生をより確実に抑制できる。
【0103】
(13) (12)に記載の突合せ溶接方法であって、
前記レーザ溶接工程において、前記突合せ部に向かってシールドガスを流通させて、前記第1突合せ面と前記第2突合せ面とを溶接する、
突合せ溶接方法。
【0104】
(13)によれば、シールドガスの流れを利用して、レーザによって溶融した材料を突合せ部に向かって流動させることができるので、レーザによって溶融した材料をより確実にブリッジさせることができる。
【0105】
(14) (12)又は(13)に記載の突合せ溶接方法であって、
前記レーザ溶接工程よりも前に、材料を積層造形して前記突起部を成形する突起部形成工程を含む、
突合せ溶接方法。
【0106】
(14)によれば、材料を積層造形して突起部を成形することによって、板厚が小さい第1板材に対しても、突起部形成領域内に容易且つ高精度に突起部を成形できる。さらに、低コストで第1板材を形成した後に、材料を積層造形して突起部を成形することができるので、製造コストを低減できる。
【0107】
(15) (12)又は(13)に記載の突合せ溶接方法であって、
前記突起部は、前記第1板材に形成された第1突起部を有し、
前記レーザ溶接工程よりも前に、材料を積層造形して前記第1板材と前記突起部とを一体成形する第1板材形成工程を含む、
突合せ溶接方法。
【0108】
(15)によれば、材料を積層造形して第1板材と突起部とを一体成形することによって、板厚が小さい第1板材に対しても、突起部形成領域内に容易且つ高精度に突起部を成形できるとともに、第1板材に突起部を接合する工程を省略できる。
【符号の説明】
【0109】
10 第1板材
12 上面
12a 端部
20 第2板材
22 上面
22a 端部
30 突合せ部
40 突起部
41 第1突起部
41a 対向面
41b 後背面
42 第2突起部
A 突起部形成領域
A1 第1領域
A2 第2領域
BW1~BW6 突合せ溶接体
t1、t2 板厚