(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137341
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】固体酸化物形水電解セル用燃料極及び固体酸化物形水電解セル
(51)【国際特許分類】
C25B 11/091 20210101AFI20240927BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240927BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20240927BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20240927BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/037 20210101ALI20240927BHJP
C25B 9/40 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240927BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240927BHJP
【FI】
C25B11/091
H01M8/1213
H01M8/124
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B9/23
C25B11/037
C25B9/40
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/089
C25B11/077
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048832
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 忠司
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA29
4K011AA49
4K011BA06
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB19
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG13
5H126JJ03
5H126JJ04
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】高温の水蒸気に曝されても電極構造の変化が少ない固体酸化物形水電解セル用燃料極、及び、これを備えた固体酸化物形水電解セルを提供すること。
【解決手段】固体酸化物形水電解セル用燃料極は、Ni系粒子と、固体酸化物電解質Aからなる電解質粒子とを備えている。前記電解質粒子は、YがドープされたZrO
2(YSZ)とGdがドープされたCeO
2(GDC)との固溶体、又は、混合物からなる。固体酸化物形水電解セルは、燃料極として、このような固体酸化物形水電解セル用燃料極を用いたものからなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni系粒子と、
固体酸化物電解質Aからなる電解質粒子と
を備え、
前記電解質粒子は、YがドープされたZrO2(YSZ)とGdがドープされたCeO2(GDC)との固溶体、又は、混合物からなる
固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【請求項2】
前記電解質粒子は、次の式(1)で表される平均組成を有する請求項1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
{YyZr1-yO2-δ'}1-z{GdxCe1-xO2-δ}z (1)
但し、
0<x≦0.30、0<y≦0.30、0<z<1.0、
δ、δ'は、それぞれ、電気的中性が保たれる値。
【請求項3】
厚さが15μm以上200μm以下である請求項1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【請求項4】
気孔率が15%以上40%以下である請求項1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【請求項5】
前記Ni系粒子の含有量が30.0mass%以上70.0mass%以下である請求項1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【請求項6】
固体酸化物電解質Cからなる電解質層と、
前記電解質層の一方の面に形成された燃料極と、
前記電解質層の他方の面に形成された空気極と、
前記電解質層と前記空気極との界面に挿入された反応防止層と
を備え、
前記燃料極は、請求項1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極からなる固体酸化物形水電解セル。
【請求項7】
前記空気極の表面に形成された空気極側集電層、及び/又は、
前記燃料極の表面に形成された燃料極側集電層
をさらに備えている請求項6に記載の固体酸化物形水電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形水電解セル用燃料極及び固体酸化物形水電解セルに関し、さらに詳しくは、固体酸化物電解質として、YがドープされたZrO2(YSZ)と、GdがドープされたCeO2(GDC)との固溶体又は混合物を含む固体酸化物形水電解セル用燃料極、及び、これを備えた固体酸化物形水電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を用いた燃料電池である。SOFCのアノード(燃料極)に、H2、CO、CH4などの燃料ガスを供給し、カソード(酸素極)にO2を供給すると、電極反応が進行し、電力を取り出すことができる。電極反応により生成したCO2やH2Oは、SOFC外に排出される。
一方、固体酸化物形水電解セル(以下、これを「SOEC」ともいう)は、SOFCと構造は同じであるが、SOFCとは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、SOECのカソード(燃料極)にH2Oを供給し、電極間に電流を流すと、H2を生成させることができる。
【0003】
SOECは、電解質の一方の面にアノード(空気極)が接合され、他方の面にカソード(燃料極)が接合された単セルを備えている。このようなSOECを構成する部材の材料として、一般的には、以下のような材料が用いられている(非特許文献1~6参照)。
(a)電解質: イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、サマリアドープトセリア(SDC)、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)など。
(b)空気極: ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)など。
(c)燃料極: Ni/YSZ、Ni/SDC、Ni-Fe/SDCなど。
【0004】
また、特許文献1には、
電子伝導性酸化物粒子(例えば、La0.1Sr0.9TiO3(LST))と、イオン伝導性酸化物粒子(例えば、Gd0.1Ce0.9O2(GDC))とを焼結させることにより得られる電極骨格と、
電極骨格の表面に担持された複合電極触媒(例えば、Ni-GDCサーメット)と
を備えた燃料極が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)Ni等の金属と、イオン伝導性酸化物との焼結体からなる従来の燃料極において、金属の酸化による体積膨張と、金属酸化物の還元による体積収縮が繰り返されると、燃料極の骨格が破壊されやすい点、及び、
(B)燃料極の電極骨格を酸化物のみによって構成すると、体積変化がほとんど起こらないために、燃料極の骨格の破壊が回避される点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、燃料極本体と固体電解質膜との間に、NiとYSZとのサーメットからなる活性層が設けられた電気化学セル用基板が開示されている。
同文献には、
(a)活性層の厚さを3μm以上15μm以下とし、
(b)活性層に含まれるNi粒子の平均粒径(dm)及びYSZ粒子の平均粒径(ds)を、それぞれ、0.5μm以上1.0μm以下とし、
(c)dm/dsを0.8~1.2とする
と、燃料極と固体電解質膜との密着性が向上し、固体電解質膜の剥離やクラックが抑制される点が記載されている。
【0007】
SOECの燃料極には、一般に、Ni/YSZサーメットが用いられる。しかし、燃料極には、水素製造の原料となる水蒸気が高温下(700℃以上)で供給される。そのため、燃料極に含まれるNiが容易に酸化され、電極構造が変化する。その結果、電解特性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-137626号公報
【特許文献2】特開2004-362849号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ebbesen, S. D.; Hansen, J. B.; Morgensen, M. B. ECS Trans. 2013, 57, 3217.
【非特許文献2】Jensen, S. H.; Larsen, P. H.; Mogensen, M. Int. J. Hydrogen Energy 2007, 32, 3253.
【非特許文献3】Katahira, K.; Kohchi, Y.; Shimura, T.; Iwahara, H. Solid State Ionics 2000, 138, 91.
【非特許文献4】Languna-Bercero, M. A.; Skinner, S. J.; Kilner, J. A. J. Power Sources 2009, 192, 126.
【非特許文献5】O'Brien, J. E.; Stoots, C. M.; Herring, J. S.; Lessing, P. A.; Hartvigsen, J. J.; Elangovan, S. J. Fuel Cell Sci. Technol. 2005, 2, 156.
【非特許文献6】Sune Dalgaard Ebbesen, Soren Hojgaard Jensen, Anne Hauch, and Morgens Bjerg Morgensen, Chem. Rev. 2014, 114, 1069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、高温の水蒸気に曝されても電極構造の変化が少ない固体酸化物形水電解セル用燃料極を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような固体酸化物形水電解セル用燃料極を備えた固体酸化物形水電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る固体酸化物形水電解セル用燃料極は、
Ni系粒子と、
固体酸化物電解質Aからなる電解質粒子と
を備え、
前記電解質粒子は、YがドープされたZrO2(YSZ)とGdがドープされたCeO2(GDC)との固溶体、又は、混合物からなる。
【0012】
本発明に係る固体酸化物形水電解セルは、
固体酸化物電解質Cからなる電解質層と、
前記電解質層の一方の面に形成された燃料極と、
前記電解質層の他方の面に形成された空気極と、
前記電解質層と前記空気極との界面に挿入された反応防止層と
を備え、
前記燃料極は、本発明に係る固体酸化物形水電解セル用燃料極からなる。
【発明の効果】
【0013】
Ni系粒子と電解質粒子とを含むサーメットを固体酸化物形水電解セルの燃料極に用いる場合において、電解質粒子として、YSZとGDCの固溶体又は混合物を用いると、Niの酸化に起因する電極構造の変化が抑制される。これは、酸素吸蔵能を持つGDC成分がNi系粒子の酸化を抑制するためと考えられる。
【0014】
さらに、電解質粒子に含まれるGDC成分は、酸化物イオン伝導性に加えて、電子伝導性を持つ。そのため、GDC成分を含む燃料極は、GDC成分を含まない従来の燃料極に比べて電極反応点の数及び/又は面積を拡張させることができる。その結果、本発明に係る燃料極の反応抵抗(Rct2)増加速度は、従来の燃料極のそれより低くなり、高い耐久性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Ni/GDC-YSZを燃料極(活性層)に用いた固体酸化物形水電解セルの模式図である。
【
図2】Ni/YSZを燃料極(活性層)に用いた従来の固体酸化物形水電解セルの模式図である。
【
図3】試料No.1、2の水電解セルの模式図である。
【
図4】試料No.1~3の燃料極の反応抵抗(Rct2)増加速度である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[構成1]
Ni系粒子と、
固体酸化物電解質Aからなる電解質粒子と
を備え、
前記電解質粒子は、YがドープされたZrO2(YSZ)とGdがドープされたCeO2(GDC)との固溶体、又は、混合物からなる
固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【0017】
[構成2]
前記電解質粒子は、次の式(1)で表される平均組成を有する構成1に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
{YyZr1-yO2-δ'}1-z{GdxCe1-xO2-δ}z (1)
但し、
0<x≦0.30、0<y≦0.30、0<z<1.0、
δ、δ'は、それぞれ、電気的中性が保たれる値。
【0018】
[構成3]
厚さが15μm以上200μm以下である構成1又は2に記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【0019】
[構成4]
気孔率が15%以上40%以下である構成1から3までのいずれか1つに記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【0020】
[構成5]
前記Ni系粒子の含有量が30.0mass%以上70.0mass%以下である構成1から4までのいずれか1つに記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極。
【0021】
[構成6]
固体酸化物電解質Cからなる電解質層と、
前記電解質層の一方の面に形成された燃料極と、
前記電解質層の他方の面に形成された空気極と、
前記電解質層と前記空気極との界面に挿入された反応防止層と
を備え、
前記燃料極は、構成1から5までのいずれか1つに記載の固体酸化物形水電解セル用燃料極からなる固体酸化物形水電解セル。
【0022】
[構成7]
前記空気極の表面に形成された空気極側集電層、及び/又は、
前記燃料極の表面に形成された燃料極側集電層
をさらに備えている構成6に記載の固体酸化物形水電解セル。
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 固体酸化物形水電解セル用燃料極]
本発明に係る固体酸化物形水電解セル用燃料極(以下、単に「燃料極」ともいう)は、
Ni系粒子と、
固体酸化物電解質Aからなる電解質粒子と
を備えている。
【0024】
[1.1. Ni系粒子]
「Ni系粒子」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が90mass%以上である金属粒子をいう。Ni系粒子に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、95mass%以上である。
Ni系粒子は、燃料極中において、電極触媒及び電子伝導体としての機能を有する。Ni系粒子の組成は、このような機能を奏する限りにおいて特に限定されない。
Ni系粒子としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。これらの中でも、Ni系粒子は、Ni又はNi-Fe合金が好ましい。
【0025】
[1.2. 電解質粒子]
[1.2.1. 定義]
本発明において、「電解質粒子」とは、YがドープされたZrO2(YSZ)とGdがドープされたCeO2(GDC)との固溶体、又は、混合物からなる粒子をいう。
【0026】
燃料極を作製する場合、電解質粒子の原料として、
(a)目的とする平均組成を有する電解質粒子と同一の組成を有する粉末、
(b)目的とする平均組成を有する電解質粒子を生成させることが可能なYSZ粉末とGDC粉末の混合物
などが用いられる。
後者の場合、
(b1)組成が均一な電解質粒子が得られる場合と、
(b2)YSZとGDCとの混合物からなる電解質粒子が得られる場合と
がある。
【0027】
電解質粒子がYSZとGDCとの混合物からなる場合、電解質粒子を構成するYSZ及びGDCは、それぞれ、固相拡散により、原料に用いたYSZ粉末及びGDC粉末とは組成が異なる場合がある。
燃料極に含まれる電解質粒子の履歴は、特に限定されるものではなく、いずれの方法を用いて製造されたものでも良い。
【0028】
[1.2.2. 酸素吸蔵・放出能]
電解質粒子に含まれるGDC成分は、燃料極中において、酸化物イオン伝導体としての機能と、電子伝導体としての機能と、Ni系粒子に含まれるNiの酸化を抑制する機能とを有する。
【0029】
CeO2にドープされたGdは、主として、CeO2に高いイオン伝導性を付与する作用と、CeO2が本来持つ酸素吸蔵・放出能をさらに向上させる作用とがある。さらに、CeO2そのものは、電子伝導体としても機能する。
そのため、Ni系粒子を含む燃料極にGDC成分を含む電解質粒子を添加すると、高い電極活性を維持したまま、Ni系粒子に含まれるNiの酸化が格段に抑制される。Ni系粒子がNi以外の金属元素を含む場合であっても、少なくともNiの酸化を抑制することができれば、電極内に三相界面(TPB)を確保することができる。また、Ni系粒子の一部が酸化した場合であっても、電解質粒子を介して電子が伝導する。
【0030】
次の式(a)に、CeO2の酸素吸蔵・放出反応の反応式を示す。式(a)中、右側に進む反応は酸化反応を表し、左側に進む反応は還元反応を表す。
CeO2-x+(x/2)O2 ⇔ CeO2 …(a)
【0031】
Ceイオンは、周囲の雰囲気中の酸素分圧に応じて、可逆的に3価の状態(還元状態)と、4価の状態(酸化状態)とを取ることができる。そのため、CeO2が酸化雰囲気に曝される時には、CeO2は雰囲気中にある酸素イオンを結晶格子内に取り込む。一方、CeO2が還元雰囲気に曝される時には、CeO2は結晶格子内にある酸素イオンを雰囲気中に放出する。この点は、GDC、及び、GDC成分を含む電解質粒子も同様である。
【0032】
[1.2.3. 組成]
電解質粒子は、次の式(1)で表される平均組成を有するものが好ましい。
{YyZr1-yO2-δ'}1-z{GdxCe1-xO2-δ}z (1)
但し、
0<x≦0.30、0<y≦0.30、0<z<1.0、
δ、δ'は、それぞれ、電気的中性が保たれる値。
【0033】
[A. x]
式(1)中、xは、電解質粒子に含まれるGd及びCeの総モル数に対するGdのモル数の比を表す。xが小さくなりすぎると、電解質粒子の酸素吸蔵能が低下する場合がある。従って、xは、0超である必要がある。xは、好ましくは、0.05以上である。
一方、xが過剰になると、かえって電解質粒子の酸素吸蔵能が低下する場合がある。従って、xは、0.30以下が好ましい。xは、さらに好ましくは、0.25以下である。
【0034】
[B. y]
式(1)中、yは、電解質粒子に含まれるY及びZrの総モル数に対するYのモル数の比を表す。Yは、ZrO2のイオン伝導度を向上させる作用、及び、ZrO2の高温相(正方晶、立方晶)を室温において安定化させる作用がある。このような効果を得るためには、yは、0超である必要がある。yは、好ましくは、0.05以上である。
【0035】
一方、本発明において、電解質粒子のイオン伝導度は主としてYのドープ量(y)により制御される。この場合、電解質粒子に含まれるYSZ成分の組成が8mol%Y2O3-ZrO2(8YSZ)組成の近傍にあるときにイオン伝導度が最も高くなる。そのため、yが過剰になると、かえってイオン伝導度が低下する。従って、yは、0.3以下が好ましい。yは、さらに好ましくは、0.25以下である。
【0036】
[C. z]
zは、電解質粒子に含まれるYSZ成分及びGDC成分の総モル数に対するGDC成分のモル数の比を表す。一般に、zが大きくなるほど、燃料極の耐久性が向上する。このような効果を得るためには、zは、0超である必要がある。zは、好ましくは、0.5以上、0.6以上、あるいは、0.7以上である。
一方、zが過剰になると、還元膨張により機械強度が担保できなくなるおそれがある。従って、zは、1.0未満である必要がある。zは、好ましくは、0.95以下である。
【0037】
[1.3. 燃料極の組成]
「Ni系粒子の含有量」とは、燃料極に含まれる電解質粒子及びNi系粒子の総質量に対するNi系粒子の質量の割合をいう。
【0038】
Ni系粒子の含有量が少なくなりすぎると、セル全抵抗が高くなり、電極反応の効率も低下する。従って、Ni系粒子の含有量は、30mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40mass%以上である。
一方、Ni系粒子の含有量が過剰になると、電解質粒子の含有量が少なくなり、Ni系粒子に含まれるNiの酸化を十分に抑制できなくなる。従って、Ni系粒子の含有量は、70mass%以下が好ましい。
【0039】
[1.4. 気孔率]
燃料極の気孔率は、電解特性に影響を与える。燃料極の気孔率が小さすぎると、ガスの拡散性が低下し、電極反応の効率が低下する。従って、燃料極の気孔率は、15%以上が好ましい。気孔率は、さらに好ましくは、20%以上、あるいは、25%以上である。
一方、燃料極の気孔率が大きくなりすぎると、三相界面が相対的に少なくなり、かえって電極反応の効率が低下する。従って、燃料極の気孔率は、40%以下が好ましい。気孔率は、さらに好ましくは、35%以下、あるいは、30%以下である。
【0040】
[1.5. 厚さ]
燃料極の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。燃料極の厚さが薄くなりすぎると、電極触媒として機能するNi系粒子の総量が少なくなり、電極反応の効率が低下する場合がある。従って、燃料極の厚さは、15μm以上が好ましい。厚さは、さらに好ましくは、25μm以上、30μm以上、40μm以上、あるいは、50μm以上である。
一方、燃料極の厚さを必要以上に厚くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、燃料極の厚さは、200μm以下が好ましい。厚さは、さらに好ましくは、180μm以下、160μm以下、あるいは、140μm以下である。
【0041】
[1.6. 特性: 反応抵抗(Rct2)増加速度]
「反応抵抗(Rct2)増加速度(%/h)」とは、次の式(2)で表される値をいう。
反応抵抗(Rct2)増加速度={R2×100/R1-100}÷100 (2)
但し、
R1は、製造直後の固体酸化物形水電解セル用燃料極の電気化学反応抵抗、
R2は、耐久試験後の固体酸化物形水電解セル用燃料極の電気化学反応抵抗、
「電気化学反応抵抗(Rct2)」とは、固体酸化物形水電解セルに対して参照極を用いて燃料極のインピーダンス測定を行うことにより得られる、燃料極内の3相界面における反応抵抗であって、電極反応に寄与する円弧(第2円弧)の直径、
「耐久試験」とは、表1に示す条件下で100hの水蒸気電解を行う試験。
【0042】
【0043】
従来の燃料極は耐酸化性が低いため、反応抵抗(Rct2)増加速度は20%/hを超える。これに対し、本発明に係る燃料極は耐酸化性が高いため、反応抵抗(Rct)増加速度は従来の燃料極のそれより低くなる。製造条件をさらに最適化すると、反応抵抗(Rct2)増加速度は、15%/h以下、10%/h以下、あるいは、5%/h以下となる。
【0044】
[1.7. 用途]
本発明に係る固体酸化物形水電解用セル燃料極は、水電解セルの燃料極として好適であるが、固体酸化物形燃料電池の燃料極としても用いることもできる。
【0045】
[2. 固体酸化物形水電解セル用燃料極の製造方法]
本発明に係る固体酸化物形水電解セル用燃料極は、
(a)Ni系粒子の原料、及び、電解質粒子の原料を含む原料混合物を用いて成形体を作製し、
(b)得られた成形体を焼結し、
(c)得られた焼結体を還元処理する
ことにより製造することができる。
【0046】
[2.1. 成形体形成工程]
まず、Ni系粒子の原料、及び、電解質粒子の原料を含む原料混合物を用いて成形体を作製する。
【0047】
「Ni系粒子の原料」とは、焼結及び還元後にNi系粒子となる原料をいう。本発明において、Ni系粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。Ni系粒子の原料としては、例えば、NiO粉末、Fe2O3粉末、Fe3O4粉末、金属FeとNiO又は金属Niとの混合物、CoO粉末、Co2O3粉末などがある。
【0048】
「電解質粒子の原料」とは、焼結後に電解質粒子となる原料をいう。電解質粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。電解質粒子の原料としては、例えば、
(a)目的とする組成を有する電解質粉末、
(b)目的とする組成となるように配合されたYSZ粉末とGDC粉末との混合物、
(c)目的とする組成となるように配合された、Yを含む塩と、Zrを含む塩と、Gdを含む塩と、Ceを含む塩(例えば、硝酸塩)との混合物、
などがある。
【0049】
原料混合物中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。原料混合物中に添加されたNi系粒子の原料に含まれる金属酸化物(例えば、NiO粉末)は、焼結体作製後に還元処理される。その際、体積収縮が起こり、焼結体内に気孔が導入される。そのため、造孔材は、必ずしも必要ではない。しかし、原料混合物中に造孔材を添加すると、気孔率の制御の自由度が増大する。
さらに、各原料は、焼結及び還元後に目的とする組成を有する燃料極が得られるように配合するのが好ましい。
【0050】
成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを基材(例えば、焼結後に燃料極側集電層となる成形体、あるいは、焼結後に電解質層となる成形体)の上に積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物を含むスラリーを作製し、基材の表面にスラリーをスクリーン印刷する方法、
などがある。
【0051】
[2.2. 焼結工程]
次に、得られた成形体を焼結させる(焼結工程)。焼結条件は、原料組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。焼結は、通常、大気雰囲気下において、1000℃~1500℃で1時間~5時間行うのが好ましい。
原料混合物中に2種以上の酸化物が含まれている場合、焼結中に固相反応が進行し、所定の組成を有する固溶体が生成する場合がある。また、原料混合物中に造孔材が含まれている場合、焼結時に造孔材が消失し、焼結体内に気孔が形成される。
【0052】
[2.3. 還元工程]
次に、得られた焼結体を還元処理する(還元工程)。これにより、本発明に係る燃料極が得られる。還元処理は、焼結体中に含まれるNiO等の金属酸化物を還元し、Ni系粒子を生成させるために行われる。還元条件は、特に限定されるものではなく、電極の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
【0053】
なお、固体酸化物形水電解セルは、後述するように、燃料極(カソード)/電解質層/反応防止層/空気極(アノード)の接合体からなる。また、燃料極の外側に燃料極側集電層がさらに接合され、及び/又は、空気極の外側に空気極側集電層がさらに接合される場合がある。各層の焼結及び接合は、成形体を積層した後、積層体を所定の温度に加熱することにより行われる。また、各層の最適な焼結温度が異なる場合、焼結は、通常、複数段階に分けて行われる。さらに、燃料極の還元は、通常、すべての層を接合した後に行われる。
【0054】
[3. 固体酸化物形水電解セル]
[3.1. 構成]
図1に、Ni/GDC-YSZを燃料極(活性層)に用いた固体酸化物形水電解セルの模式図を示す。
図1において、固体酸化物形水電解セル(以下、単に「SOEC」ともいう)10は、
固体酸化物電解質Cからなる電解質層12と、
電解質層12の一方の面に接合された燃料極14と、
電解質層12の他方の面に接合された空気極16と、
電解質層12と空気極16との間に挿入された中間層(反応防止層)18と
を備えている。
【0055】
燃料極14には、本発明に係る固体酸化物形水電解セル用燃料極(Ni/GDC-YSZ)が用いられる。燃料極14の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
また、
図1において、燃料極14の外側には、さらに燃料極側集電層20が配置される。燃料極側集電層20は、燃料極14の厚さが薄い場合において、燃料極14を支持するためのものである。燃料極側集電層20は、省略することができる。
同様に、図示はしないが、空気極16の外側に空気極側集電層がさらに配置されていても良い。空気極側集電層(図示せず)は、空気極16の厚さが薄い場合において、空気極16を支持するためのものである。空気極側集電層は、省略することができる。
【0056】
[3.2. 材料]
電解質層12、空気極16、中間層18、燃料極側集電層20、及び、空気極側集電層(図示せず)の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0057】
[3.2.1. 電解質層、空気極、中間層]
例えば、電解質層12には、YSZなどを用いることができる。
空気極16には、(La,Sr)CoO3(LSC)、(La,Sr)(Co,Fe)O3(LSCF)、(La,Sr)MnO3(LSM)、LSCとGdドープCeO2(GDC)との複合体などを用いることができる。
中間層18は、電解質層12と空気極16とが直接、接触することにより生じる反応を防止するための層であり、必要に応じて挿入される。例えば、電解質層12がYSZであり、空気極16がLSCである場合、中間層18には、GdドープCeO2(GDC)を用いるのが好ましい。
【0058】
[3.2.2. 燃料極側集電層]
燃料極側集電層20は、少なくとも、
(a)電解質層12の表面に形成される燃料極14を支持するための機能、
(b)電解の原料を燃料極14まで拡散させる機能、
(c)還元反応に必要な電子を集電体から燃料極14まで輸送する機能、及び、
(d)電極反応により燃料極14で生成した水素を燃料極14外に排出する機能
を備えている必要がある。
燃料極側集電層20の組成は、このような機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。集電層は、Ni系粒子と、固体酸化物電解質からなる電解質粒子とを含むサーメットが好ましい。
【0059】
[A. 集電層に含まれるNi系粒子]
燃料極側集電層20(以下、単に「集電層」ともいう)に含まれる「Ni系粒子(以下、これを「Ni系粒子B」ともいう)」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が10mass%以上である金属粒子をいう。Ni系粒子Bに含まれるNiの質量割合は、好ましくは、50mass%以上、さらに好ましくは、90mass%以上である。
【0060】
Ni系粒子Bは、集電層中において、電子伝導体としての機能を有する。Ni系粒子Bの組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。Ni系粒子Bとしては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。
【0061】
[B. 電解質粒子]
燃料極側集電層20に含まれる電解質粒子(以下、これを「電解質粒子B」ともいう)の組成は、集電層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。
電解質粒子Bとしては、例えば、
(a)3~15mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
(b)燃料極に含まれる電解質粒子と同一又は類似の組成を持つ材料、
などがある。
これらの中でも、電解質粒子Bは、YSZが好適である。これは、機械的強度が安定しているためである。
【0062】
[C. 集電層の組成]
「Ni系粒子Bの含有量」とは、集電層に含まれる電解質粒子B及びNi系粒子Bの総質量に対するNi系粒子Bの質量の割合をいう。
Ni系粒子Bの含有量は、集電層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。また、集電層に含まれるNi系粒子Bの含有量は、燃料極に含まれるNi系粒子の含有量と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。集電層に含まれるNi系粒子Bの含有量は、通常、30~70mass%である。
【0063】
[D. 気孔率]
集電層の気孔率は、集電層のガス拡散性、強度、電子伝導性などに影響を与える。一般に、集電層の気孔率が小さすぎると、ガス拡散性が低下する。従って、集電層の気孔率は、40%以上が好ましい。気孔率は、さらに好ましくは、45%以上、さらに好ましくは、50%以上である。
一方、集電層の気孔率が大きくなりすぎると、強度及び電子伝導性が低下する場合がある。従って、集電層の気孔率は、60%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、58%以下、さらに好ましくは、55%以下である。
【0064】
[3.2.3. 空気極側集電層]
空気極側集電層の機能は、空気極16における反応形態が燃料極14とは異なる点を除き、燃料極側集電層20の機能とほぼ同様である。
空気極側集電層の電解質粒子の材料には、LSC、LSCFなどが用いられる。空気極側集電層に関するその他の点については、燃料極側集電層20と同様であるので、説明を省略する。
【0065】
[4. 作用]
[4.1. Niの酸化]
図2に、Ni/YSZを燃料極(活性層)に用いた従来の固体酸化物形水電解セル(SOEC)の模式図を示す。
図2において、従来のSOEC10’は、電解質層12と、電解質層12の一方の面に接合された燃料極14’と、電解質層12の他方の面に接合された空気極16と、電解質層12と空気極16との間に挿入された中間層18とを備えている。従来のSOEC10’は、燃料極14’として、Ni/YSZサーメットが用いられている。
【0066】
燃料極14’がNi/YSZサーメットからなるSOEC10’において、燃料極14’にH2Oを供給し、燃料極14’-空気極16間に電流を流すと、燃料極14’では、次の式(3)に示す還元反応が進行する。
H2O+2e- → H2+O2- …(3)
【0067】
しかし、SOEC10’を用いた水電解においては、燃料極14’に、原料となる高温(700℃以上)の水蒸気が供給される。そのため、燃料極14’に含まれるNiが容易に酸化され、Ni(OH)2が形成される。Ni(OH)2は蒸散しやすいため、Ni(OH)2の蒸散によって電極反応点である3相界面の形態が変化する。その結果、電解特性は低下する。
この点は、SOFCも同様である。すなわち、SOFCのアノード(燃料極)においては、電極反応により水が生成する。そのため、特に、高負荷運転条件下において、生成した水により燃料極中のNiが酸化され、発電特性が低下する場合がある。
【0068】
[4.2. GDC成分によるNiの酸化抑制]
これに対し、GDCは、高い酸素吸蔵能を示す。そのため、Ni系粒子及びGDC成分を含む電解質粒子を含む燃料極を備えたSOECを用いて水蒸気電解を行うと、Niの酸化が格段に抑制される。SOECにおいて、燃料極へのGDC成分の添加によりNiの酸化が格段に抑制されるのは、以下の理由によると考えられる。
【0069】
[4.2.1. GDC成分による酸素の固定]
NiとGDC成分を含む水素極が高温の水蒸気に曝されると、Niが酸化され、Ni粒子の表面がNi(OH)2となる(ステップ1)。この時、Ni粒子の近傍にGDC成分があると、Ni(OH)2から酸素が引き抜かれ、引き抜かれた酸素がGDC成分に固定される(ステップ2)。そのトリガーとなるのは、GDC成分の酸素吸蔵能力と考えられる。
【0070】
[4.2.2. GDC成分による還元雰囲気の生成]
Ni(OH)2から引き抜かれた酸素は、GDC成分に一時的にトラップされる(ステップ3)。燃料極は、Ni触媒から生成したH2によって還元雰囲気になっている。GDC成分自身も水分解能を持ち、そこから水素が生成するので、GDC成分もH2源として機能する。さらに、還元雰囲気下では、GDC成分はトラップした酸素原子又は酸素イオンを酸素分子として容易に放出する。GDC成分から放出された酸素分子は、Niを再酸化させる前に、系外に排出される(ステップ4)。あるいは、GDC成分を含む電解質粒子内の酸素イオンは電解反応により電解質粒子内を拡散し、酸素空孔が形成される(ステップ5)。以下、このようなステップ1~5が繰り返されることにより、Ni酸化が抑制されると考えられる。
【実施例0071】
(試料No.1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. GDC粉末の作製(試料No.1、2)]
所定量の硝酸セリウムCe(NO3)3・6H2Oと、硝酸ガドリニウムGd(NO3)3・5H2Oを秤量し、両者を、それぞれ、イオン交換水に溶解させた。さらに、イオン交換水と25%アンモニア水との混合物に、所定量の硝酸セリウム水溶液と、所定量の硝酸ガドリニウム水溶液とを添加し、15分間攪拌し、沈殿物を得た。
次に、沈殿物を大気雰囲気下、150℃×7h、及び、400℃×5hの条件下で熱処理し、乾燥させ、GDC粉末を得た。Gdドープ量は、10at%(試料No.1)、又は、20at%(試料No.2)であった。
【0072】
[1.2. 水電解セルの作製]
[1.2.1. 試料No.1、2]
図3に、試料No.1、2の水電解セルの模式図を示す。側面に参照電極(図示せず)を付けた8YSZ電解質ペレット(厚さ500μm)の一方の面にGDCシート(中間層)を重ね、1380℃で焼成した。
次に、8YSZ電解質ペレットの他方の面(中間層を焼き付けた面とは反対側の面)に、燃料極を形成した。すなわち、Ni/GDCペースト(NiO:GDC=1:1、質量比)をスクリーン印刷法にて塗布し、1340℃で焼成した。
【0073】
次に、中間層の上に、LSC/GDCペーストをスクリーン印刷法にて塗布し、1125℃で焼成し、空気極を形成した。
さらに、LSC/GDC電極(空気極)の上に、LSCペーストをスクリーン印刷法にて塗布し、950℃で焼成し、空気極側集電層を形成した。
【0074】
[1.2.2. 試料No.3]
燃料極を形成するためのペーストとして、Ni/8YSZペーストを用いた以外は、試料No.1と同様にして水電解セルを作製した。
【0075】
[2. 試験方法]
得られた水電解セルを用いて、表1に示す条件下で100hの水蒸気電解試験(耐久試験)を行った。
また、耐久試験の際にインピーダンス測定を行い、反応抵抗(Rct2)を測定した。さらに、耐久試験前後の反応抵抗(Rct2)を用いて、反応抵抗(Rct2)増加速度を算出した。
【0076】
[3. 結果]
本発明に係る燃料極の特徴は、集電領域(電解質層/燃料極界面から離れた領域)でのNi粒子の粒径変化が抑制されていることである。この結果は、電子パスであるNi粒子の形態が変わらず、電解反応が安定的に担保できることを意味する。Ni粒子の粒径変化が抑制される理由は、GDC成分が酸素吸蔵能力を持ち、集電領域におけるNiの酸化を抑制するからである。酸素吸蔵能力が高ければ、その効果は集電領域だけでなく、電極活性領域(電解質層/燃料極界面の近傍領域)にも及ぶ。
【0077】
図4に、試料No.1~3の燃料極の反応抵抗(Rct2)増加速度を示す。試料No.3の反応抵抗増加速度は、23.5%であった。一方、試料No.1、2の反応抵抗増加速度は、それぞれ、3.2%及び2.6%であった。
図4より、燃料極としてNi/GDCを用いると、Ni/YSZに比べて反応抵抗増加速度が約1/8に低減できることがわかる。この結果は、燃料極として、YSZ成分とGDC成分の固溶体又は混合物を用いると、GDC成分の量に応じて、反応抵抗増加速度が低下することを示している。
さらに、
図4より、Gdのドープ量を増加させると、反応抵抗増加速度がさらに低下することがわかる。これは、Gdのドープ量が多くなるほど、GDCの酸素吸蔵能が大きくなるためと考えられる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。