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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137344
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240927BHJP
   F27B 1/28 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C21B5/00 310
F27B1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048836
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩貴
【テーマコード(参考)】
4K012
4K045
【Fターム(参考)】
4K012BB00
4K045AA02
4K045DA01
(57)【要約】
【課題】高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量結果を待つことなく、高炉の操作量を適切に決定できるようにする。
【解決手段】比較的早い時間応答で観測可能な観測量および対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後第1の時間が経過したときの観測量から、外乱値を推定し、推定した外乱値から外乱に伴う熱変化量を算出し、算出した熱変化量から溶銑温度の変化量を算出し、比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および対応する高炉の状態を推定する第2の状態空間モデルと溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルとを生成して、高炉への操作後、第1の時間より長い第2の時間が経過後の観測量および対応する高炉の状態を推定し、推定結果に基づいて、次回の高炉への操作量を決定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉のプロセスを制御する制御装置であって、
高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および前記比較的早い時間応答で観測可能な観測量に対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する外乱推定部と、
前記推定した外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する熱変化量算出部と、
算出した熱変化量から、溶銑温度の変化量を算出する温度変化量算出部と、
高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および前記比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量に対応する高炉の状態を推定する第2の状態空間モデルと、前記温度変化量算出部によって算出された溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルとを生成して、高炉への操作後、前記第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量および前記観測量に対応する高炉の状態を推定する状態観測量推定部と、
前記状態観測量推定部の推定結果に基づいて、次回の高炉への操作に係る操作量を決定する操作量決定部と、
を有する、制御装置。
【請求項2】
前記第1の状態空間モデルに係る比較的早い時間応答で観測可能な観測量は、ガス組成、カーボンソリューションロス量、CO利用率、H利用率、および、出銑量の少なくともいずれか1つであり、
前記第2の状態空間モデルに係る比較的遅い時間応答で観測可能な観測量は、溶銑Si、および、溶銑温度の少なくともいずれか1つである、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記操作量は、送風量、または微粉炭吹込み量である、請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
高炉のプロセスを制御する制御装置の制御方法であって、
高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および前記比較的早い時間応答で観測可能な観測量に対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する外乱推定ステップと、
前記推定した外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する熱変化量算出ステップと、
算出した熱変化量から、溶銑温度の変化量を算出する温度変化量算出ステップと、
高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および前記比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量に対応する高炉の状態を推定する第2の状態空間モデルと、前記温度変化量算出ステップの処理によって算出された溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルとを生成して、高炉への操作後、前記第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量および前記観測量に対応する高炉の状態を推定する状態観測量推定ステップと、
前記状態観測量推定ステップの推定結果に基づいて、次回の高炉への操作に係る操作量を決定する操作量決定ステップと、
を有する、制御方法。
【請求項5】
前記高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量は、ガス組成、カーボンソリューションロス量、CO利用率、H利用率、および、出銑量の少なくともいずれか1つであり、
前記高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量は、溶銑Si、および、溶銑温度の少なくともいずれか1つである、請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記操作量は、送風量、および、微粉炭吹込み量の少なくともいずれか1つである、請求項4または5に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および制御方法に関し、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、高炉の操作量を適切に決定する制御を実行できる制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高炉プロセスにおいては、安価な鉄鉱石の利用や低還元材比条件下での操業が指向されており、高炉の炉況を安定化させたいというニーズが高まっている。
【0003】
しかしながら、安価で低品質の原材料や低還元材等を用いた操業は、炉況の不安定につながりやすく、生産量の変動や炉熱の低下の原因となってしまうことがある。例えば、鉄鉱石やコークス等の装入原料に起因して、多様な種類の外乱が発生し、高炉操業の変動が引き起こされることが知られている。そのため、安定な高炉操業の実現のためには、これらの外乱を考慮して操業する必要がある。
【0004】
また、高炉操業においては、材料の投入や条件の変更等、高炉に対して種々の操作がなされているが、高炉操業を適正化するために、操作の結果として生じる変化を観測量として観測し、観測量をフィードバックすることで次回に行う操作の操作量を調整するといった制御が行われている。
【0005】
高炉操業に関する技術としては、高炉内の状態を計算可能な物理モデルを用いて高炉における溶銑温度を予測する手法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0006】
例えば、特許文献1には、高炉操業において、装入物由来の外乱の影響は一定時間が経過したときに初めて実測される場合が多いことに鑑みて、過去の所定区間における物理モデルの出力変数とその実測値との誤差を、出力変数をステップ的に変化させた際の出力変数の応答によりフィッテングしておき、出力変数の誤差を補償できるようにすることで、溶銑温度の予測精度を向上させる技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、物理モデルを用いて溶銑温度を予測する際には、鉄鉱石の被還元性やガス偏流等のモデル化が困難な外乱の影響によって溶銑温度の予測精度が低下する場合があることに鑑みて、溶銑温度以外の出力変数の過去区間における誤差の時間変化率に基づいて、計算値と実績値との差分を溶銑温度の計算誤差として算出し、操作変数の操作量が計算時点から変化したことに由来する予測誤差の影響を取り除くことで、溶銑温度の変化量の予測精度を向上させて溶銑温度の予測精度を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-24935
【特許文献2】特開2019-19385
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】萩原:ディジタル制御入門、コロナ社、1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、操作や外乱の結果が反映されて観測される観測量には、操作後の比較的遅いタイミングで観測される観測量(操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量)と、比較的早いタイミング(操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量)で観測される観測量とがある。
このため、比較的早いタイミングで観測される観測量を単純にフィードバックすることで次回に行う操作の操作量を調整したとしても、比較的遅いタイミングで観測される観測量を反映した適切な制御を行うことができず、また、比較的遅いタイミングで観測される観測量をフ単純にフィードバックすることで次回に行う操作の操作量を調整したとしても、対応が後手に回り、手遅れとなってしまうという課題があった。
【0011】
例えば、操業における重要な指標となる溶銑温度は、操作や外乱の影響に対して比較的遅いタイミングで観測される。例えば、溶銑温度が所望の値から乖離したことが観測された時点で、溶銑温度を所望の値に近づけるような操作を行ったとしても、その操作の結果、溶銑温度を所望の値に近づくまでに長い時間を要することになる。この場合、所望の温度からの乖離が大きい高炉の状態が、長時間に亘って継続することとなり、操業上問題があった。
【0012】
特許文献1の技術では、操作や外乱の影響が比較的遅いタイミングで観測される観測量と、比較的早いタイミングで観測される観測量との違いが意識されておらず、上述した操業上の問題を解決できない。
【0013】
また、溶銑温度の実績値の変化は、ガス利用率やRAR等の操業指標の時間変化率で説明できる要因だけに起因するものではない。例えば、炉下部における固体と液体との熱交換係数の変化や、炉底での湯流れの動きの変化や炉床での抜熱のばらつき、出銑後の樋における抜熱や、測温時の計測誤差などの様々な要因の影響を受けた外乱変化にも起因する。
【0014】
このため、特許文献2の方式のように、様々な外乱が重畳された溶銑温度の計算誤差を目的変数として、操業指標の時間変化率を説明変数とする回帰モデルを構成したとしても、正確にその回帰係数を算出することが難しいという問題があった。
【0015】
本発明の一態様は、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、高炉の操作量を適切に決定する制御を実行できるようにする技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る制御装置は、高炉のプロセスを制御する制御装置であって、高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および前記比較的早い時間応答で観測可能な観測量に対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する外乱推定部と、前記推定した外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する熱変化量算出部と、算出した熱変化量から、溶銑温度の変化量を算出する温度変化量算出部と、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および前記比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量に対応する高炉の状態を推定する第2の状態空間モデルと、前記温度変化量算出部によって算出された溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルとを生成して、高炉への操作後、前記第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量および前記観測量に対応する高炉の状態とを推定する状態観測量推定部と、前記状態観測量推定部の推定結果に基づいて、次回の高炉への操作に係る操作量を決定する操作量決定部とを有する。
【0017】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る制御方法は、高炉のプロセスを制御する制御装置の制御方法であって、高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および前記比較的早い時間応答で観測可能な観測量に対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する外乱推定ステップと、前記推定した外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する熱変化量算出ステップと、算出した熱変化量から、溶銑温度の変化量を算出する温度変化量算出ステップと、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および前記比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量に対応する高炉の状態とを推定する第2の状態空間モデルと、前記温度変化量算出ステップの処理によって算出された溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルとを生成して、高炉への操作後、前記第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量および前記観測量に対応する高炉の状態とを推定する状態観測量推定ステップと、前記状態観測量推定ステップの推定結果に基づいて、次回の高炉への操作に係る操作量を決定する操作量決定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、高炉の操作量を適切に決定する制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】高炉プロセスの概要を説明する図である。
図2】高炉プロセスと、操作量および観測量との関係を示す図である。
図3】高炉操業における操作入力の概要を説明する図である。
図4】高炉プロセスを制御する制御装置の構成例を示すブロック図である。
図5】制御処理の例を説明するフローチャートである。
図6】本実施形態による観測量の推定結果の検証に係るグラフである。
図7】本実施形態による溶銑温度の変化量の推定結果の検証に係るグラフである。
図8】制御装置として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。最初に高炉プロセスの概要について説明する。
【0021】
図1は、高炉プロセスの概要を説明する図である。高炉プロセスでは、図1に示すように、高炉101の炉上部から焼結鉱とコークスを交互に層を造るように装入し、炉下部にある送風羽口から熱風、還元材として微粉炭、等が吹込まれる。この熱風で微粉炭及びコークスがガス化し、一酸化炭素、水素等の高温の還元ガスが炉内を吹き昇り、焼結鉱を溶かしながら酸素を奪い、溶けた鉄分はコークスの炭素と接触して還元され、炭素5%弱を含む溶銑となって炉底の湯溜まり部に溜まる。
【0022】
この溶銑は、炉底横に設けられた出銑口から取り出され、次の製鋼プロセスへと運ばれる。なお、送風羽口(或いはその他の羽口)からは、コークス炉ガス(COG)や天然ガス(NG)等のガスが吹き込まれることがある。
【0023】
また、高炉操業においては、操業管理指標が設定され、当該操業管理指標の時間推移の監視を行い、それに対応した操作量で高炉プロセスに対する操業操作を実行することによって、炉況を制御している。そのため、適切な操業管理指標の設定は、高炉の安定的な操業のために極めて重要である。操業管理指標の詳細は後述するが、操業管理指標には、設定された目標値に保つべき指標(本実施形態では、制御量)や、主として炉況変化を把握するために利用する指標(本実施形態では、観測量)等がある。
【0024】
図2は、高炉プロセス1と、操作量uおよび観測量yとの関係を示す図である。図2に示すように、高炉プロセス1は、操作量uを入力し、観測量yを出力とする。また、高炉プロセス1の状態をxとする。
【0025】
操作量uは、送風量、微粉炭量に関する値(微粉炭吹込み量PCI又は微粉炭比PCR)などである。
【0026】
観測量yは、溶銑温度、ガス組成(例えばCO濃度、CO濃度、N濃度、H濃度)、ガス利用率(例えばCO利用率、H利用率)、カーボンソリューションロス量(CSL)、CO利用率、H利用率、出銑量、溶銑Si、溶銑温度などである。なお、これら観測量yのうち、溶銑温度、溶銑Si、出銑量は目標値が設定された制御量とみなされることも多い。
【0027】
近年の高炉プロセスにおいては、安価な鉄鉱石の利用や低還元材比条件下での操業が指向されており、高炉の炉況を安定化させたいというニーズが高まっている。
【0028】
しかしながら、安価で低品質の原材料や低還元材等を用いた操業は、炉況を不安定な状況にしやすく、生産量の変動や炉熱の低下の原因となってしまうことがある。例えば、鉄鉱石やコークス等の装入原料に起因して、多様な種類の外乱が発生し、高炉操業の変動が引き起こされることが知られている。そのため、安定な高炉操業の実現のためには、これらの外乱を考慮して操業する必要がある。
【0029】
また、高炉操業においては、材料の投入や条件の変更等、高炉に対して種々の操作がなされているが、高炉操業を適正化するために、操作の結果として生じる変化を観測量として観測し、観測量をフィードバックすることで次回に行う操作の操作量を調整するといった制御が行われている。
【0030】
図3は、高炉操業における操作入力の概要を説明する図である。図3に示されるように、プロセス制御において、外乱・状態推定が行われ、外乱の推定値d^および高炉の状態の推定値x^が算出される。ここで、x^、d^の表記は、x、dの上にそれぞれ^(ハット)が付されているものとする。ハットが付された文字については、以後同様に表記する。
【0031】
算出された外乱の推定値d^および高炉の状態の推定値x^に基づいて操作量uが決定され、操作入力が行われる。
【0032】
操作量uに対応する操作は、高炉プロセスに影響する。高炉プロセスには、操作や外乱に対する早い反応P1と遅い反応P2とが含まれる。早い反応P1は、操作や外乱に対する応答が得られるまでにかかる時間が比較的短いことを意味しており、遅い反応P2は、操作や外乱に対する応答が得られるまでにかかる時間が比較的長いことを意味している。早い反応P1によって、例えば、ガス利用率、CSLなどが変化する。また、遅い反応P2によって、例えば、溶銑温度などが変化する。
なお、詳細は後述するが、早い反応P1は鉱石の還元反応やコークスの消費反応等の化学反応過程に対応し、遅い反応P2は早い反応で生じた反応熱の移動・伝熱現象にそれぞれ略対応する。
【0033】
早い反応P1および遅い反応P2によって変化したガス利用率、CSL、溶銑温度などの指標の値は、観測量としてプロセス制御にフィードバックされる。すなわち、観測量に基づいて外乱・状態推定が行われ、外乱の推定値d^および高炉の状態の推定値x^が再度算出される。そして、算出された外乱の推定値d^および高炉の状態の推定値x^に基づいて新たに操作量uが決定され、操作入力が行われる。
【0034】
図3から分かる通り、操作の結果として観測される観測量には、操作や外乱に対する早い反応P1によって変化する指標に係る観測量と、操作や外乱に対する遅い反応P2によって変化する指標に係る観測量とがある。すなわち、プロセス制御にフィードバックされる観測量のうち、遅い反応P2によって変化した指標は、実際には、時間的に相当前に入力された操作や外乱に反応して変化した指標であり、早い反応P1によって変化した指標は、実際には、時間的に少し前に入力された操作や外乱に反応して変化した指標である。
【0035】
操作や外乱に対する早い反応P1によって変化する指標(例えば、ガス利用率、CSL)に係る観測量は、操作後や外乱が生じてから比較的短い時間が経過した時点で観測することができ、このような観測量は、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量ということができる。一方、操作や外乱に対する遅い反応P2によって変化する指標(例えば、溶銑温度)に係る観測量は、操作後や外乱が生じてから比較的長い時間が経過した時点で観測することができ、このような観測量は、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量ということができる。
【0036】
このため、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測される観測量をフィードバックして次回の操作量に反映させたのでは、速やかな制御操作を実現することはできない。
【0037】
例えば、操業における重要な指標となる溶銑温度の変化は、比較的遅いタイミングで観測される。溶銑温度が所望の値(目標温度)から乖離したことが観測された時点で、溶銑温度を目標温度に近づけるような操作を行ったとしても、その操作の結果、溶銑温度が目標温度に近づくまでに長い時間を要することになる。この場合、目標温度からの乖離が大きい高炉の状態が、長時間に亘って継続することになる。
【0038】
<実施形態>
(高炉の状態空間モデル)
本実施形態では、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量と、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量とを関係づけるパラメータを用いて、高炉の状態を求めるようにする。すなわち、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、高炉の状態を素早く求めることができ、高炉の状態に対応する観測量も求めることができるようにする。
【0039】
本実施形態では、高炉プロセス1の制御に、高炉操業を表現する式(1)および式(2)による離散時間線形状態空間モデルを利用する。離散時間線形状態空間モデルには、現時刻をkで表し、現時刻において操作量u(k)を加えたときに高炉プロセス1の状態(状態変数)がx(k)からx(k+1)に変化する離散時間の変化を表す式が含まれる。
【0040】
なお、x(k)は高炉の状態を示しており、観測量に影響を与える高炉内の因子の状態であって、各種の反応熱、圧力などが高炉の状態に含まれる。y(k)は高炉への操作に対して、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で(長時間経過後に)観測可能な観測量を含む、高炉一般の観測量を示している。u(k)は高炉への操作量を示しており、kは時分を示すインデックスである。
【0041】
操作量u(k)の例としては、送風量、微粉炭吹込み量を挙げることができる。
【0042】
(k)の例としては、溶銑Si、溶銑温度を挙げることができる。
【0043】
また、係数A、B、C、Dについては、予め定められるものとする。
【0044】
【数1】
(1)
【0045】
【数2】
(2)
また、高炉の状態を、状態空間モデルを用いた式(3)(4)で表すこともできるものとする。なお、x(k)は高炉の状態を示しており、y(k)は高炉への操作に対して、操作後の操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量を示している。y(k)の例としては、各種ガス(CO、CO2、N2等)組成や、カーボンソリューションロス量(CSL)、CO利用率、H2利用率、出銑量を挙げることができる。
【0046】
また、係数A、B、C、Dの値については、予め特定されているものとする。
【0047】
式(1)および式(2)と、式(3)および式(4)とでは対象となる高炉の状態の因子および観測量が異なるため、状態空間モデルの変数と定数に添え字を付けて、両者を区別している。一方、操作量u(k)は式(1)および(2)と式(3)および式(4)とで共通するため、添え字で区別していない。
【0048】
なお、式(1)と式(3)とは同じ式であっても良く、異なる式であっても良い。
【0049】
【数3】
(3)
【0050】
【数4】
(4)
上述した式(1)~(4)で表される状態空間モデルを利用することで、高炉の状態や観測量を求めることできる。ただし、状態空間モデルで得られる計算値と高炉における現実の実測値との間は、一般的に乖離が生じる。
【0051】
すなわち、炉頂から装入される原料性状の変化等、高炉操業を変動させる各種外乱の影響によって、観測量の計算値が実測値と乖離することになる。例えば、外乱の発生によって、炉内の主要な化学反応量が予想外に変化することで、乖離が生じる。炉内の主要な化学反応量としては、間接還元反応量、直接還元反応量、水素還元反応量、コークス消費量、コークス燃焼反応量等の化学反応量が挙げられる。
【0052】
そのため、高炉の状態や観測量をより正確に算出するためには、外乱の影響を受けた高炉における現実の実測値を、式(1)~(4)に示すような状態空間モデルにフィードバックし、状態空間モデルの計算値に反映していくことが必要となる。
【0053】
その際、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量が実際に観測されるのを待ってからフィードバックしようとすると、上述したように、目標温度からの乖離が大きい高炉の状態が、長時間に亘って継続することになる。このため、フィードバックする観測量としては、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量を用いることが望ましい。
【0054】
ここで、式(3)および式(4)について、外乱を考慮した場合を検討する。
【0055】
外乱を考慮する場合には、式(3)および式(4)に基づき、外乱推定値d^(k)を計算する公知の外乱推定オブザーバを適用する。これにより、式(5)、式(6)および式(7)が得られる。
【0056】
【数5】
(5)
【0057】
【数6】
(6)
【0058】
【数7】
(7)
ここで、Lx、Ldは、高炉の状態x及び外乱dに対するオブザーバゲインであり、Cdは単位行列を表している。また、値に付された^は、推定値であって、実測値ではないことを示している。
【0059】
なお、離散時間系におけるオブザーバの構成手順や設計方法については、非特許文献1などに記載されている。
【0060】
実際に観測した観測量y(k)の値を用い、式(5)乃至式(7)を解くことで、外乱推定値d^(k)の値を得ることができる。ここでは、観測量y(k)の値として、例えば、ガス組成、CSL、CO利用率、H2利用率、出銑量などの操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量を実際に観測して用いることができる。
【0061】
そして、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量を推定する状態空間モデル(式(3)および式(4))と、外乱推定オブザーバとを用いることで、高炉への操作後、比較的短い時間が経過した時点で観測された観測量から、外乱値が推定される。
【0062】
上述したように、計算値と実測値との乖離は外乱によるものと考えられるから、式(6)に示されるように、この外乱推定値d^(k)を用いて実測値に近い観測量を求めることが可能となる。ただし、この外乱推定値d^(k)は、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量から求めたものである。このため、外乱推定値d^(k)を、操作後の操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む状態空間モデル(式(1)および式(2))に適切に反映しようとしても、その計算手順が自明ではないことから、困難である。
【0063】
そこで、以下に述べる計算手順に従って、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量と、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量とを関係づけるパラメータを導入することとした。
【0064】
上述したように、外乱推定値d^(k)に対応する外乱は、高炉の炉頂から装入される原料の性状変化等の結果生じる化学反応の変化と対応すると考えられる。すなわち、高炉の炉頂から装入される原料の性状変化等の外乱要因によって、炉内の間接還元反応量、直接還元反応量、水素還元反応量、コークス消費量、コークス燃焼反応量等といった、化学反応量の変化が発生する。
【0065】
このような化学反応量の変化は、比較的速やかに生じるため、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量と、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量のそれぞれに対して、共通して影響すると考えられる。
【0066】
そのため、こうした化学反応の変化について検討を進める。
【0067】
高炉の内部で生じる化学反応因子であって、特に、ガス流れを介する化学反応因子の変化量をΔsとする。炉況の安定期では、プロセス変動は比較的小さいので、外乱推定値d^(k)は、式(8)のように、線形化して表すことができる。
【0068】
【数8】
(8)
ここで、Jは、炉内の各化学反応因子の単位量当たりの発生による、出銑量、COガス利用率、Hガス利用率、CSL、送風圧等への影響を表す影響係数行列であり、例えば、化学工学分野で公知の文献値や、高炉数学モデルを利用した計算によって算出することができる。高炉数学モデルについては、例えば、Koji TAKATANIらの「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」,ISIJ International,Vol.39(1999),No.1,p.15-22、又は、西岡らの「高炉数学モデルの開発」(新日鉄住金技報、第410号P.73-79、2018)等に記載の高炉数学モデルを好適に用いることができる。
【0069】
また、炉内の化学反応因子の変化は熱の変化を伴うものであることから、各化学反応が発熱反応か吸熱反応であるかに基づく、各化学反応因子と発生熱量との関係から、式(9)の関係が得られる。
【0070】
【数9】
(9)
ここで、ΔQは炉内における熱変化量であり、発熱反応または吸熱反応を伴う各化学反応因子の発生熱量を加算した熱量の変化を示す。また、hは単位量あたりの各化学反応因子の発生熱量を表す反応熱係数ベクトルであり、Tは対象となる行列の転置行列であることを示している。
【0071】
なお、式(9)の反応熱係数ベクトルhの値は、上述したように、例えば、高炉内の化学反応の時間変化を計算可能なモデル(高炉数学モデル)を利用して、具体的に計算して求めることができる。即ち、線形近似する際の基準となる操業状態(動作点)において、その動作点周りで外乱に相当する、モデルで設定可能な種々の境界条件設定値の変化を与えることで、炉内の各化学反応因子を摂動させ、動作点からの摂動量を計算することによって、式(9)の反応熱係数ベクトルhの値を算出することができる。
【0072】
さらに、式(9)に式(8)を代入することで、式(10)および式(11)が得られる。
【0073】
【数10】
(10)
【0074】
【数11】
(11)
ここで、vは、この代入過程で得られた、外乱推定値d^(k)と外乱発生に伴う熱変化量との関係を表すベクトルである。
【0075】
このようにすることで、外乱推定値d^(k)から、外乱発生に伴う熱変化量ΔQを算出することができる。
【0076】
高炉内部(例えば、融着帯)における、固体と液体の熱交換係数の公称値と出銑量とから、熱変化量ΔQと溶銑温度の温度変化量ΔTとの関係を、式(12)のように示すことができる。
【0077】
【数12】
(12)
ここで、βは熱変化量と温度変化量との換算係数であり、化学工学分野で公知の文献値や、高炉数学モデルを利用した計算から算出することができる。
【0078】
このように、熱変化量から、溶銑温度の変化量を推定することができる。
【0079】
しかし、現実には、高炉内の化学反応で熱が生じると、即座に溶銑温度が変化するわけではなく、装入物の炉内降下時間や溶銑の炉下部での滞留時間等の時間遅れ(むだ時間と称する)が生じる。さらに、高炉内の熱容量が大きいために、溶銑温度に伝熱するには時間遅れが生じる。結果として、溶銑温度が変化するまでに長い時間を要することになる。
【0080】
このため、むだ時間や伝熱現象の時定数を考慮して、ΔTの時間変化を、むだ時間を含めた一次遅れ系のダイナミクスとして、式(13)のように示す。式(13)では、適当な計算周期で時間離散化された離散時間モデルで表現したうえで、各化学反応熱の影響の時間遅れを、個別に設定できるものとしている。
【0081】
【数13】
(13)
ここで、hj、Δsjは、反応熱係数ベクトルh、炉内の化学反応因子の変化量ベクトルΔsの各要素であり、nsは要素数である。klag,jはベクトルの要素毎に設定されたむだ時間を示している。αは時定数に応じて定まる係数であり、予め特定されているものとする。
【0082】
また、式(13)は、式(8)乃至式(11)を用いて、式(14)のように変形することもできる。
【0083】
【数14】
(14)
ここで、vi、diは、式(10)および式(11)のベクトルv、外乱推定値d^(k)の各要素であり、ndは要素数である。k´lag,iはベクトルの要素毎に設定されたむだ時間である。
【0084】
すなわち、溶銑温度の変化量を算出するために用いられる外乱推定値は、時間k´lag,iだけ過去に観測された観測量を用いて算出されることになる。この際、過去に観測された観測量として、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量が用いられる。溶銑温度の変化量ΔTに影響を及ぼす外乱は、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量と、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量とに、共通して影響すると考えられるからである。
【0085】
このようにすることで、外乱の発生に伴う熱変化量から、溶銑温度の変化量ΔTを算出することができるようになる。この際、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量から溶銑温度の変化量を求め、求めた溶銑温度の変化量を、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量も含む高炉の状態に適用することができる。すなわち、溶銑温度の変化量が、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量と、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量とを関係づけるパラメータとして機能する。
【0086】
操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量をも含む高炉の状態を示す式(1)および(2)に対して、式(5)乃至式(7)で用いたような外乱の影響と、溶銑温度の変化量ΔTを付け加えることで、高炉の状態空間モデルを式(15)~(17)のように表すことができる。
【0087】
【数15】
(15)
【0088】
【数16】
(16)
【0089】
【数17】
(17)
さらに、溶銑温度の変化量を用いることで、将来予測計算の性能が向上する。例えば、状態空間モデルを、プロセスの将来予測計算結果に基づき制御操作を実行するモデル予測制御に適用することで、将来予測計算の性能が向上し、最適制御の性能を向上させることができる。モデル予測制御の計算実行手順については、例えば、J. Maciejowskiのモデル予測制御(東京電機大学出版局)に詳細に記載されている。
【0090】
上述した式(16)では、直達項Du(k)が含まれているが、推定対象が溶銑温度である場合は、直達項は考慮しなくてもよいため、直達項を省略することができる。よって、式(16)を式(18)のように書き換えることができる。
【0091】
【数18】
(18)
式(15)、式(18)、および式(17)によって表される高炉の状態空間モデルにおいて、現在時刻kにおける状態の推定値x^(k)と外乱の推定値d^(k)を初期値とし、将来の予測時刻kp=1,2,…,Hpにおける観測量の推定値を計算する。ここで、式(19)、式(20)、および式(21)のように、溶銑温度の変化量ΔTの時間発展も合わせて予測値に加算しておくことで、溶銑温度の計算の性能が向上する。
【0092】
【数19】
(19)
【0093】
【数20】
(20)
【0094】
【数21】
(21)
なお、溶銑温度の変化量ΔTの時間発展を式(15)に基づいて計算する場合、将来時刻における各外乱の推定値については、式(22)よって算出されるようにすればよい。
【0095】
【数22】
(22)
このように、本実施形態によれば、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および温度変化から、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を求めることが可能となる。
【0096】
従って、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、操作量の決定に必要な高炉の状態を素早く求めることができる。また、式(19)~式(21)の状態空間モデルにより、溶銑温度や溶銑Siなど操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測される観測量を精度よく計算することができるようになる。よって、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量をフィードバックして、高炉プロセスを適正に制御することが可能となる。
【0097】
(制御装置の構成)
図4は、高炉プロセスを制御する制御装置の構成例を示すブロック図である。図4に示される制御装置200は、操業指標を観測して高炉プロセスを制御する装置である。図4に示されるように、制御装置200は、推定部201と、操作制御部202とを有している。
【0098】
推定部201は、各種の操業指標に基づいて、将来観測される観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を推定し、推定値を出力する。推定部201には、図示せぬ操作部から、高炉に対する操作に係る操作量を示す情報が供給される。
【0099】
操作制御部202は、推定部201の推定結果に基づいて、高炉の操業を適正化するように、高炉に対する操作量の決定を制御する。例えば、溶銑温度が目標温度より上昇すると推定される場合、次回の操作よって、溶銑温度が下がるように、次回の操作に係る操作量の決定が制御される。操作量は、例えば、送風量、微粉炭吹込み量などである。
【0100】
また、図4に示されるように、推定部201は、外乱推定部211、熱変化量算出部212、温度変化量算出部213および状態・観測量推定部214を有する。
【0101】
外乱推定部211は、高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量および比較的早い時間応答で観測可能な観測量に対応する高炉の状態を推定する状態空間モデル(式(3)および式(4))と、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する。
【0102】
なお、式(3)および式(4)により表される状態空間モデルを適宜第1の状態空間モデルと称することにする。第1の状態空間モデルに係る高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量は、ガス組成、カーボンソリューションロス量(CSL)、CO利用率、H利用率、出銑量などである。
【0103】
すなわち、外乱推定部211は、入力された操作に係る操作量u(k)と、実測された観測量y(k)の値を用い、上述した式(5)乃至式(7)を解くことで、外乱推定値d^(k)を求める。そして、得られた外乱推定値d^(k)を、上述した式(8)に示されるように線形化して表す式を生成する。
【0104】
熱変化量算出部212は、外乱推定部211によって推定された外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する。すなわち、熱変化量算出部212は、外乱推定部211により生成された式(8)を用いて式(10)によって熱変化量ΔQを算出する。
【0105】
温度変化量算出部213は、熱変化量算出部212によって算出された熱変化量から、溶銑温度の変化量を推定する。すなわち、温度変化量算出部213は、式(11)に示される外乱推定値d^(k)と外乱発生に伴う熱変化量との関係を表すベクトルvを算出し、式(14)に示されるように、溶銑温度の変化量ΔT(k)を算出する。
【0106】
状態・観測量推定部214は、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量および比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量に対応する高炉の状態を推定する状態空間モデル(式(1)および式(2))と、温度変化量算出部213によって算出された溶銑温度の変化量ΔT(k)とを用いた状態空間モデルを生成して高炉への操作後、前記第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を推定する。
【0107】
なお、式(1)および式(2)により表される状態空間モデルを適宜第2の状態空間モデルと称することにする。第2の状態空間モデルに係る操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量は、溶銑Si、溶銑温度などである。
【0108】
すなわち、状態・観測量推定部214は、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量をも含む高炉の状態を示す式(1)および(2)に対して、式(5)乃至式(7)で用いたような外乱の影響と、溶銑温度の変化量ΔTを付け加えることで、式(15)~式(17)で示される状態空間モデルを生成する。さらに、状態・観測量推定部214は、式(15)~式(17)によって表される状態空間モデルにおいて、将来の予測時刻kp=1,2,…,Hpにおける観測量の推定値を計算できるようにする。すなわち、式(19)、式(20)および式(21)によって表される状態空間モデルが生成される。
【0109】
なお、式(19)、式(20)および式(21)により表される状態空間モデルを適宜第3の状態空間モデルと称することにする。
【0110】
そして、この第3の状態空間モデルによって将来観測される観測量(溶銑温度)と観測量に対応する高炉の状態が推定される。すなわち、上述した式(21)により表される観測量y^(k+kp)として、時刻k+kpにおける溶銑温度の推定値が算出される。また、上述した式(19)により表される高炉の状態x^(k+kp)の推定値が算出される。
【0111】
推定部201は、状態・観測量推定部214の推定結果を、操作制御部202に供給する。
【0112】
なお、状態・観測量推定部214は、操作制御部202に含まれるようにしてもよい。この場合、推定部201は、温度変化量算出部213によって算出された溶銑温度の変化量ΔT(k)が、操作制御部202に供給されるようにすればよい。
【0113】
(制御処理の流れ)
次に、制御装置200による制御処理の流れについて説明する。図5は、制御処理の例を説明するフローチャートである。
【0114】
ステップS101において、外乱推定部211は、高炉への操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を推定する第1の状態空間モデルと、外乱推定オブザーバとを用い、高炉への操作後、第1の時間が経過したときに観測された観測量から、外乱値を推定する。
【0115】
ステップS102において、温度変化量算出部213は、ステップS101の処理で推定された外乱値から、外乱の発生に伴う熱変化量を算出する。
【0116】
ステップS103において、温度変化量算出部213は、ステップS102の処理で算出された熱変化量から、溶銑温度の変化量を推定する。
【0117】
ステップS104において、状態・観測量推定部214は、高炉への操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を含む観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を推定する第2の状態空間モデルと、ステップS103の処理で算出された溶銑温度の変化量とを用いた第3の状態空間モデルを生成して高炉への操作後、第1の時間より長い第2の時間が経過したときに観測される観測量およびその観測量に対応する高炉の状態を推定する。
【0118】
ステップS105において、操作制御部202は、ステップS104の処理による推定結果に基づいて、高炉の操業を適正化するように、次回の操作に係る操作量を決定する。
【0119】
このようにして、制御処理が実行される。
【0120】
図6は、本実施形態による観測量の推定結果の検証に係るグラフである。この検証では、現時点より先の時刻で実際に実行した一連の操作に係る操作量が分かっていたとして、その操作に対する高炉プロセスの時間応答である観測量を状態空間モデルで計算する。そして、数時間先の時点における状態空間モデルによる計算値と実測値とを比較する。
【0121】
図6の最も上のグラフは、縦軸が出銑量(Pmax)、横軸が時間を示し、現在から8時間経過後までの出銑量(観測量)の変化についての計算値と実測値とが示されている。図6の上から2番目のグラフは、縦軸が溶銑温度、横軸が時間を示し、現在から8時間経過後までの溶銑温度(観測量)の変化についての計算値と実測値とが示されている。
【0122】
図6の上から3番目のグラフは、縦軸が微粉炭吹込み量(PCI)、横軸が時間を示し、現在から8時間経過後までの微粉炭吹込み量の変化が操作量の変化として示されている。図6の最も下のグラフは、縦軸がトータル風量、横軸が時間を示し、現在から8時間経過後までの風量の変化が操作量の変化として示されている。
【0123】
図6の最も上のグラフと上から2番目のグラフとから分かるように、3時間後の観測量は、いずれも計算値とほぼ一致していることが分かる。
【0124】
図7は、本実施形態による溶銑温度の変化量の推定結果の検証に係るグラフである。図7の上側のグラフは、本実施形態に係る方式での溶銑温度の変化量の計算結果の精度を示している。なお、この検証では、現時点より先の時刻で実際に実行した一連の操作に係る操作量が分かっていたとして、式(14)に示される計算方式により求められた3時間後の溶銑温度の変化量を計算する。
【0125】
図7の上側のグラフには、溶銑温度の変化量の実測値に対応する計算値がプロットされている。このグラフから分かる通り、3時間後の溶銑温度の変化量の推定結果について良好な結果が得られている。推定結果のRMSEは、5.77℃であり、Rは、0.43であった。
【0126】
図7の下側のグラフは、比較例として、本実施形態に係る方式とは異なる方式での溶銑温度の変化量の計算結果の精度を示している。この方式での計算においては、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量を用いることなく、溶銑温度の変化量が計算される。
【0127】
図7の下側のグラフには、溶銑温度の変化量の実測値に対応する計算値がプロットされている。このグラフから分かる通り、3時間後の溶銑温度の変化量の推定結果の精度は、図7の上側のグラフと比較して低くなっている。推定結果のRMSEは、7.25℃であり、Rは、0.22であった。
【0128】
(実施形態の効果)
上述したように、本実施形態によれば、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量から溶銑温度の変化量を求め、求めた溶銑温度の変化量を、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量も含む高炉の状態に適用することができる。従って、操作や外乱に対して比較的早い時間応答で観測可能な観測量が観測された時点で、操作や外乱に対して比較的遅い時間応答で観測可能な観測量を推定することが可能となる。
【0129】
その結果、本実施形態によれば、比較的早いタイミングで観測される観測量(例えば、ガス利用率、CSL)の変化をフィードバックすることにより、比較的遅いタイミングで観測される観測量(例えば、溶銑温度)を目標値に近づけるように操作量を決定することが可能となる。すなわち、比較的遅いタイミングで観測可能な観測量の観測結果を待つことなく、高炉の操作量を適切に決定する制御を実行することが可能となる。
【0130】
<ソフトウェアによる実現例>
制御装置200の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0131】
図8は、制御装置200として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。制御装置200は、図8に示すように、バス510と、プロセッサ501と、主メモリ502と、補助メモリ503と、通信インタフェース504と、入出力インタフェース505とを備えたコンピュータによって構成可能である。プロセッサ501、主メモリ502、補助メモリ503、通信インタフェース504、及び入出力インタフェース505は、バス510を介して互いに接続されている。入出力インタフェース505には、入力装置506および出力装置507が接続されている。
【0132】
プロセッサ501としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。
【0133】
主メモリ502としては、例えば、半導体RAM(random access memory)等が用いられる。
【0134】
補助メモリ503としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。補助メモリ503には、上述した制御装置200の動作をプロセッサ501に実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサ501は、補助メモリ503に格納されたプログラムを主メモリ502上に展開し、展開したプログラムに含まれる各命令を実行する。
【0135】
通信インタフェース504は、ネットワークに接続するインタフェースである。
【0136】
入出力インタフェース505としては、例えば、USBインタフェース、赤外線やBluetooth(登録商標)等の近距離通信インタフェース、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0137】
入力装置506としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、マイク、又はこれらの組み合わせ等が用いられる。出力装置507としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、又はこれらの組み合わせが用いられる。
【0138】
制御装置200の機能を、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現する場合、プロセッサ501と主メモリ502により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0139】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0140】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0141】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、上記装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ(cloud server)等)で動作するものであってもよい。
【0142】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0143】
1 高炉プロセス
200 制御装置
201 推定部
202 操作制御部
211 外乱推定部
212 熱変化量算出部
213 温度変化量算出部
214 状態・観測量推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8