(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137348
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置、及び熱延鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 47/06 20060101AFI20240927BHJP
B21C 47/24 20060101ALI20240927BHJP
B21C 47/26 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B21C47/06 A
B21C47/24 D
B21C47/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048840
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 雄介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛人
【テーマコード(参考)】
4E026
【Fターム(参考)】
4E026AA03
4E026BA04
4E026BC03
4E026BC05
4E026BC11
4E026DB01
4E026EA02
4E026EA09
(57)【要約】
【課題】コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を決定するに際して、コイルの外径、板厚等からコイル毎に正確に決定し、コイルの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できる、熱延鋼板の巻き取り方法等を提供する。
【解決手段】熱延鋼板の巻き取り方法におけるスプレー制御ステップ(ステップS2)は、コイルCの設置位置、コイルCの外径D、コイルCの板厚t、ノズル4a,4bの位置、ノズル4a,4bの向きα、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度β、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Q、及びコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する冷却時間算出ステップ(ステップS23)を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板の先端部から尾端部までを巻き取り装置のマンドレルにてコイル状に巻き取った後、コイルに対して遊星状に配置された複数のラッパーロールを前記コイルに押し付けた状態で前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対してノズルから冷却水を噴射し、前記コイルの外周部を所定の冷却時間だけ冷却する熱延鋼板の巻き取り方法であって、前記コイルの外周部に対する所定の冷却時間を、前記コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と等しく設定した熱延鋼板の巻き取り方法において、
前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対して前記ノズルから冷却水を噴射するよう前記マンドレルの回転及び前記ノズルからの冷却水の噴射を制御するスプレー制御ステップを含み、
該スプレー制御ステップが、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記コイルの板厚、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、前記ノズルからの冷却水の噴射角度、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、前記ノズルからの冷却水の流量、及びコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する冷却時間算出ステップを含むことを特徴とする熱延鋼板の巻き取り方法。
【請求項2】
前記冷却時間算出ステップは、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、及び前記ノズルからの冷却水の噴射角度に基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長を算出する冷却範囲弧長算出ステップと、該冷却範囲弧長算出ステップにおいて算出した前記冷却範囲の弧長、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、及び前記ノズルからの冷却水の流量に基づいて流量密度を算出する流量密度算出ステップと、該流量密度算出ステップにおいて算出した前記流量密度とコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、熱伝達率を算出する熱伝達率算出ステップと、該熱伝達率算出ステップにおいて算出した前記熱伝達率と前記コイルの板厚とに基づいて、前記冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する最大温度差冷却時間算出ステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板の巻き取り方法。
【請求項3】
前記スプレー制御ステップは、前記冷却時間算出ステップにおいて算出した、前記冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間と、前記冷却範囲の弧長と、前記コイルの外径とに基づいて、前記マンドレルの回転速度と、前記ノズルから冷却水を噴射して前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間とを算出するコイル総冷却時間算出ステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼板の巻き取り方法。
【請求項4】
前記ノズルが前記コイルの外周に沿って複数設置され、
複数の前記ノズルの夫々から冷却水をコイルの外周部に噴射することを想定して、複数の前記ノズルのそれぞれについて前記冷却時間算出ステップ及び前記コイル総冷却時間算出ステップを実施して、前記コイル総冷却時間算出ステップにおいて、複数の前記ノズルの夫々につき、前記マンドレルの回転速度と、前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間とを算出することを特徴とする請求項3に記載の熱延鋼板の巻き取り方法。
【請求項5】
前記スプレー制御ステップは、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル、マンドレルの回転速度、及びマンドレルの回転角度を選択する噴射ノズルパターン選択ステップを含み、
該噴射ノズルパターン選択ステップでは、下記のAの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間と、下記のBの場合の時間とを比較して、下記Aの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間が下記Bの場合の時間よりも短い場合、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズルのうちコイル総冷却時間が最も短いノズルを選択すると共に、マンドレルの回転速度として、選択された当該ノズルについてのマンドレルの回転速度を選択し、マンドレルの回転角度として、選択された当該ノズルについてのコイル一周分のマンドレルの回転角度を選択し、下記Bの場合の時間が下記Aの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間よりも短い場合、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズルの全てノズルを選択するとともに、マンドレルの回転速度として、下記いずれか一つのノズルについてのマンドレルの回転速度及び下記隣接ノズルについてのマンドレルの回転速度のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度を選択し、かつ、マンドレルの回転角度として、下記いずれか一つのノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点から下記隣接ノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点までの回転角度を選択することを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の熱延鋼板の巻き取り方法。
A:コイル総冷却時間算出ステップにおいて算出した、前記複数のノズルの夫々についての前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間
B:複数のノズルのうちのいずれか一つのノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点からそのノズルに対してマンドレルの回転方向に隣接する隣接ノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点までの回転角度が最も大きい前記いずれか一つのノズルと前記隣接ノズルを想定し、前記いずれか一つのノズルについてのマンドレルの回転速度及び前記隣接ノズルについてのマンドレルの回転速度のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度で、前記いずれか一つのノズルによる冷却範囲中の点から前記隣接ノズルによる冷却範囲中の点までの回転角度だけマンドレルを回転させたときの時間
【請求項6】
熱延鋼板の先端部から尾端部までをマンドレルにてコイル状に巻き取った後、コイルに対して遊星状に配置された複数のラッパーロールを前記コイルに押し付けた状態で前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対してノズルから冷却水を噴射し、前記コイルの外周部を所定の冷却時間だけ冷却する熱延鋼板の巻き取り装置であって、前記コイルの外周部に対する所定の冷却時間を、前記コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と等しく設定した熱延鋼板の巻き取り装置において、
前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対して前記ノズルから冷却水を噴射するよう前記マンドレルの回転及び前記ノズルからの冷却水の噴射を制御するスプレー制御部を備え、
該スプレー制御部は、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記コイルの板厚、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、前記ノズルからの冷却水の噴射角度、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、前記ノズルからの冷却水の流量、及びコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する冷却時間算出部を備えることを特徴とする熱延鋼板の巻き取り装置。
【請求項7】
前記冷却時間算出部は、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、及び前記ノズルからの冷却水の噴射角度に基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長を算出する冷却範囲弧長算出部と、該冷却範囲弧長算出部で算出した前記冷却範囲の弧長、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、及び前記ノズルからの冷却水の流量に基づいて流量密度を算出する流量密度算出部と、該流量密度算出部で算出した前記流量密度とコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、熱伝達率を算出する熱伝達率算出部と、該熱伝達率算出部で算出した前記熱伝達率と前記コイルの板厚とに基づいて、前記冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する最大温度差冷却時間算出部を備えることを特徴とする請求項6に記載の熱延鋼板の巻き取り装置。
【請求項8】
前記スプレー制御部は、前記冷却時間算出部で算出した、前記冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間と、前記冷却範囲の弧長と、前記コイルの外径とに基づいて、前記マンドレルの回転速度と、前記ノズルから冷却水を噴射して前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間とを算出するコイル総冷却時間算出部を備えることを特徴とする請求項7に記載の熱延鋼板の巻き取り装置。
【請求項9】
前記ノズルが前記コイルの外周に沿って複数設置され、
複数の前記ノズルの夫々から冷却水をコイルの外周部に噴射することを想定して、複数の前記ノズルのそれぞれについて前記冷却時間算出部及び前記コイル総冷却時間算出部での処理を実施して、前記コイル総冷却時間算出部において、複数の前記ノズルの夫々につき、前記マンドレルの回転速度と、前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間とを算出することを特徴とする請求項8に記載の熱延鋼板の巻き取り装置。
【請求項10】
前記スプレー制御部は、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル、マンドレルの回転速度、及びマンドレルの回転角度を選択する噴射ノズルパターン選択部を備え、
該噴射ノズルパターン選択部は、下記のAの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間と、下記のBの場合の時間とを比較して、下記Aの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間が下記Bの場合の時間よりも短い場合、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズルのうちコイル総冷却時間が最も短いノズルを選択すると共に、マンドレルの回転速度として、選択された当該ノズルについてのマンドレルの回転速度を選択し、マンドレルの回転角度として、選択された当該ノズルについてのコイル一周分のマンドレルの回転角度を選択し、下記Bの場合の時間が下記Aの場合のコイル総冷却時間のうち最も短い時間よりも短い場合、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズルの全てノズルを選択するとともに、マンドレルの回転速度として、下記いずれか一つのノズルについてのマンドレルの回転速度及び下記隣接ノズルについてのマンドレルの回転速度のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度を選択し、かつ、マンドレルの回転角度として、下記いずれか一つのノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点から下記隣接ノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点までの回転角度を選択することを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載の熱延鋼板の巻き取り装置。
A:コイル総冷却時間算出ステップにおいて算出した、前記複数のノズルの夫々についての前記コイルの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間
B:複数のノズルのうちのいずれか一つのノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点からそのノズルに対してマンドレルの回転方向に隣接する隣接ノズルによるコイル外周上の冷却範囲中の点までの回転角度が最も大きい前記いずれか一つのノズルと前記隣接ノズルを想定し、前記いずれか一つのノズルについてのマンドレルの回転速度及び前記隣接ノズルについてのマンドレルの回転速度のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度で、前記いずれか一つのノズルによる冷却範囲中の点から前記隣接ノズルによる冷却範囲中の点までの回転角度だけマンドレルを回転させたときの時間
【請求項11】
請求項1乃至5のうちいずれか一項に記載の熱延鋼板の巻き取り方法を用いて熱延鋼板を巻き取り装置にてコイル状に巻き取る巻取工程を備えていることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板、特に鋼管杭や角コラム材の素材となる高強度厚肉熱延熱延鋼板を安定的に製造するための熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置、及び熱延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主として港湾建築物等の基礎杭として用いられる鋼管杭や、建屋の柱材として用いられる角コラム材の需要が高まっている。これら鋼管杭や角コラム材の材料には高強度、高靱性といった特性が求められる。このため、鋼管杭や角コラム材は高強度厚肉熱延鋼板を素材として製造される。この高強度厚肉熱延鋼板は、肉厚が12~30mm程度、幅は1100~2200mm程度となる。
【0003】
ところで、熱間圧延ラインを通過した後の熱延鋼板は、巻き取り装置(ダウンコイラー)にて巻き取られる。この際、高強度厚肉材の場合、コイル状に巻き取られた熱延鋼板(以下、コイル状に巻き取られた熱延鋼板をコイルという)の最外周部の弾性変形(スプリングバック)が大きくなる。巻き取り装置内で、コイルの自重よりもコイルの最外周部の弾性変形力が大きいため、
図15に示すように、コイルCの最外周部C1の弾性変形力によってコイルCが持ち上がる(コイルCを支持するクレードルロール107a,107bからコイルCが持ち上がる)。これにより、コイルCと縮径したマンドレル102とが接触し、コイルCをマンドレル102から抜け出せないことがある。また、コイルCとマンドレル102とが接触することにより、マンドレル102を破損する危険性もある。更に、熱延鋼板を巻き取った後、コイルCの最外周部C1の弾性変形力が大きいため、搬送途中でコイルCの外周を拘束する拘束バンド(図示せず)を引きちぎり、その瞬間、コイルCがはじけ飛ぶ危険性もある。また、鋼管杭やコラム素材は、強度や靱性が求められており、材料試験のためのサンプルを採取する必要がある。このサンプル採取に際しては、一度コイル状に巻き取った熱延鋼板を冷却後、人の手でガス切断をするが、コイルCを拘束する拘束バンドを外した瞬間に、コイルCの最外周部C1の弾性変形力により熱延鋼板が跳ね上がり非常に危険である。このため、コイルCの最外周部C1の弾性変形を抑制することは熱延鋼板を製造する上で必須といえよう。
【0004】
コイルの最外周部の弾性変形を抑制するものとして、従来、例えば、特許文献1に示す熱延鋼板の巻き取り方法が提案されている。
特許文献1に示す熱延鋼板の巻き取り方法は、熱延鋼板の先端部から尾端部までをコイル状に巻き取った後、コイルに対して遊星状に配置されたラッパーロールをコイルに押し付けた状態にてコイル外周部に対して冷却水を噴射する。そして、コイル外周部を所定の冷却時間だけ冷却した後、冷却を停止してコイルを所定の滞留時間だけ巻き取り装置内に滞留させた後にラッパーロールを解放し、巻き取り装置からコイルを抜き出すようにしている。
【0005】
また、コイルの最外周の弾性変形を抑制するものとして、従来、例えば、特許文献2に示す高強度厚肉熱延鋼板の巻き取り方法も提案されている。
特許文献2に示す高強度厚肉熱延鋼板の巻き取り方法は、高強度厚肉熱延鋼板の先端部から尾端部までをマンドレルにコイル状に巻き取り、次いで、複数のラッパーロールをコイルに押し付けた状態にてコイル外周部に冷却水を噴射する。これにより、コイルの外周部を急冷して、コイル外周部を所定の温度まで低下させた後のコイルを巻き取り装置から抜き出すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-24793号公報
【特許文献2】特開2010-162594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に示す熱延鋼板の巻き取り方法においては、コイル外周板の冷却時間が、コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と略等しい場合に、スプリングバックの低減効果が発揮されるとしている。
そして、特許文献1に示す熱延鋼板の巻き取り方法においては、そのコイル最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間として、コイル巻き取り実験等を行い、API規格X65以上、製品厚19mm以上の材料では、当該冷却時間を5秒以上としている。
【0008】
しかしながら、コイル最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を決定するに際しては、API規格X65以上、製品厚19mm以上の材料では、5秒以上とするだけでは足りず、コイルの外径、板厚、冷却水を噴射するノズルの位置、向き、冷却水の流量等からコイル毎に正確に決定する必要がある。
また、特許文献2に示す高強度厚肉熱延鋼板の巻き取り方法の場合、コイル外周部に冷却水を噴射することにより急冷して、コイル外周部を所定の温度まで低下させるものである。しかし、スプリングバックの低減効果を発揮するために、コイル外周板の冷却時間をコイル最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間とすることについての記載は一切ない。
【0009】
従って、本発明はこの従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を決定するに際して、コイルの外径、板厚、冷却水を噴射するノズルの位置、向き、冷却水の流量等からコイル毎に正確に決定し、コイルの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できる、熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置、及び熱延鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る熱延鋼板の巻き取り方法は、熱延鋼板の先端部から尾端部までを巻き取り装置のマンドレルにてコイル状に巻き取った後、コイルに対して遊星状に配置された複数のラッパーロールを前記コイルに押し付けた状態で前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対してノズルから冷却水を噴射し、前記コイルの外周部を所定の冷却時間だけ冷却する熱延鋼板の巻き取り方法であって、前記コイルの外周部に対する所定の冷却時間を、前記コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と等しく設定した熱延鋼板の巻き取り方法において、前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対して前記ノズルから冷却水を噴射するよう前記マンドレルの回転及び前記ノズルからの冷却水の噴射を制御するスプレー制御ステップを含み、該スプレー制御ステップが、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記コイルの板厚、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、前記ノズルからの冷却水の噴射角度、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、前記ノズルからの冷却水の流量、及びコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する冷却時間算出ステップを含むことを要旨とする。
【0011】
また、本発明の別の態様に係る熱延鋼板の巻き取り装置は、熱延鋼板の先端部から尾端部までをマンドレルにてコイル状に巻き取った後、コイルに対して遊星状に配置された複数のラッパーロールを前記コイルに押し付けた状態で前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対してノズルから冷却水を噴射し、前記コイルの外周部を所定の冷却時間だけ冷却する熱延鋼板の巻き取り装置であって、前記コイルの外周部に対する所定の冷却時間を、前記コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と等しく設定した熱延鋼板の巻き取り装置において、前記マンドレルを回転させつつ前記コイルの外周板に対して前記ノズルから冷却水を噴射するよう前記マンドレルの回転及び前記ノズルからの冷却水の噴射を制御するスプレー制御部を備え、該スプレー制御部は、前記コイルの設置位置、前記コイルの外径、前記コイルの板厚、前記ノズルの位置、前記ノズルの向き、前記ノズルからの冷却水の噴射角度、前記ノズルからの冷却水による前記コイルにおける冷却幅、前記ノズルからの冷却水の流量、及びコイル巻き取り時の冷却前の前記コイルの表面温度とに基づいて、前記コイルにおける冷却範囲の弧長分のコイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を算出する冷却時間算出部を備えることを要旨とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る熱延鋼板の製造方法は、前述の熱延鋼板の巻き取り方法を用いて熱延鋼板を巻き取り装置にてコイル状に巻き取る巻取工程を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置、及び熱延鋼板の製造方法によれば、コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間を決定するに際して、コイルの外径、板厚、冷却水を噴射するノズルの位置、向き、冷却水の流量等からコイル毎に正確に決定し、コイルの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できる、熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置、及び熱延鋼板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示す巻き取り装置におけるスプレー制御部の概略構成図である。
【
図3】
図2に示すスプレー制御部における冷却時間算出部の概略構成図である。
【
図4】
図1に示す巻き取り装置における巻き取り制御装置での処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図4に示す巻き取り制御装置での処理の流れを示すフローチャートにおけるステップS2(スプレー制御ステップ)での処理の流れの詳細を示すフローチャートである。
【
図6】
図5に示すステップS2(スプレー制御ステップ)での処理の流れを示すフローチャートにおけるステップS23(冷却時間算出ステップ)での処理の流れの詳細を示すフローチャートである。
【
図7】巻き取り制御装置による制御内容を示し、(a)はラッパーロール制御、(b)はスプレー制御、(c)は空冷制御、(d)は尾端停止制御を示す図である。
【
図8】コイルの最外周板の塑性曲げモーメントを説明するための図である。
【
図9】コイル自重モーメントを説明するための図である。
【
図10】コイルにおける冷却範囲の弧長の算出を説明するための図である。
【
図11】コイルの最外周板の外周表面と内周表面の温度差と冷却時間との関係を板厚(t=12、15mm)毎に示したグラフである。
【
図12】コイルの最外周板の外周表面と内周表面の最大温度差に至るまでの時間とコイルの板厚との関係を熱伝達率(h=6000、10000、20000kcal(m
2.hr・℃)
-1)毎に示すグラフである。
【
図13】コイルの最外周板の外周表面と内周表面の最大温度差に至るまでの時間と熱伝達率との関係を板厚(t=10、15、20、25.4mm)毎に示すグラフである。
【
図14】噴射ノズルパターン選択部及びステップS25(噴射ノズルパターン選択ステップ)での処理を説明するための図である。
【
図15】コイルをマンドレルから抜き出す際における、コイルの最外周部のスプリングバックによってコイルが持ち上がる様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
図1には、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置の概略構成が示されている。
図1に示す熱延鋼板の巻き取り装置1は、熱間圧延ライン(図示せず)に設けられ、熱間圧延された後の熱延鋼板を巻き取る設備である。
熱延鋼板の巻き取り装置1は、熱延鋼板Sの先端部から尾端部までをコイル状に巻き取る(コイル状に巻き取った熱延鋼板Sを、以後、コイルCと呼ぶ)。
【0017】
熱延鋼板Sは、肉厚が12~30m程度、幅が1100~2200程度の高強度肉厚熱延鋼板である。この高強度肉厚熱延鋼板を素材として鋼管杭や角コラム材が製造される。
前述したように、熱延鋼板Sが高強度厚肉材の場合、コイルCの最外周部C1(
図15参照)のスプリングバックがコイルCの自重よりも大きため、
図15に示すように、コイルCの最外周部C1のスプリングバックによってコイルCが持ち上がる(コイルCを支持するクレードルロール107a,107bからコイルCが持ち上がる)。これにより、コイルCと縮径したマンドレル102とが接触し、コイルCをマンドレル102から抜け出せないことがある。また、コイルCとマンドレル102とが接触することにより、マンドレル102を破損する危険性もある。更に、熱延鋼板を巻き取った後、コイルCの最外周部C1のスプリングバックが大きいため、搬送途中でコイルCの外周を拘束する拘束バンド(図示せず)を引きちぎり、その瞬間、コイルCがはじけ飛ぶ危険性もある。
【0018】
このため、コイルCの最外周部C1のスプリングバックを低減させることが重要である。本実施形態にあっては、巻き取り装置1は、熱延鋼板Sをマンドレル2にてコイル状に巻き取った後、コイルCに対して遊星状に配置された複数(本実施形態にあっては4つ)のラッパーロール3a~3dをコイルCに押し付けた状態でマンドレル2を回転させつつコイルCの外周板に対してノズル4a,4bから冷却水を噴射し、コイルCの外周部を所定の冷却時間だけ冷却するようにしている。これにより、コイルCの最外周部C1のスプリングバックを低減させることができる。これは、コイルCの外周板を冷却して板厚方向に温度差を生じさせて塑性変形域を増加させ、その後、コイルCの内部からの熱伝導でコイルCの外側が復熱して熱膨張し、その外周部の熱膨張に伴ってコイルCの内側に変形させる力を発生させてスプリングバックを低減させるものである。
【0019】
そして、ノズル4a,4bによるコイルCの外周部に対する所定の冷却時間を、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間と等しく設定している。この理由は、前述した塑性変形及び熱膨張の効果は、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大のときの最大温度差で最も大きくなり、スプリングバックの低減効果が最大となるからである。そして、前述の塑性変形域は、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となるときの最大温度差で決まるため、長時間冷却してもスプリングバックの低減効果が不変であり、冷却時間としてはコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる時間で足りるとしているものである。
【0020】
このようなノズル4a,4bによるコイルCの外周部の冷却を実現するため、本実施形態において、巻き取り装置1は、
図1に示すように、ラッパーロール制御部11、スプレー制御部12、空冷制御部13、及び尾端停止制御部14を有する熱延鋼板Sのマンドレル2による巻き取りを制御する巻き取り制御装置10を備えている。
【0021】
巻き取り制御装置10は、演算処理機能を有するコンピュータシステムであり、ハードウェアに予め記憶された各種専用のコンピュータプログラムを実行する。これにより、ラッパーロール制御部11、スプレー制御部12、空冷制御部13、及び尾端停止制御部14の各機能(後に述べるステップS1~ステップS4、
図4参照)をソフトウェア上で実現できるようになっている。
【0022】
巻き取り制御装置10のラッパーロール制御部11は、熱延鋼板Sの尾端部Saがピンチロール5a,5bを抜けたときに、
図7(a)に示すように、複数のラッパーロール3a~3dをコイルCに押し付けるようラッパーロール3a~3dの移動を制御する。熱延鋼板Sの尾端部Saがピンチロール5a,5bを抜けた信号は、ラッパーロール3a~3dに設けられた図示しない尾端部検出センサにより検出され、ラッパーロール制御部11は、尾端部検出センサからその信号を受信した時に複数のラッパーロール3a~3dをコイルCに押し付けるようラッパーロール3a~3dの移動を制御する。
【0023】
ラッパーロール制御部11は、上位計算機15に接続されている。上位計算機15には、コイルCの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径(
図10におけるD)、コイルC(熱延鋼板S)の板厚(
図8におけるt)、コイルC(熱延鋼板S)の板幅(図示せず)、コイルC(熱延鋼板S)の単重P
W、コイルC(熱延鋼板S)の降伏応力σ
yなどのコイルCに関する情報が格納されている。また、上位計算機15には、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Qなどのノズル4a,4bに関する情報が格納されている。
【0024】
また、スプレー制御部12は、ラッパーロール制御部11の制御によって複数のラッパーロール3a~3dがコイルCに押し付けられ後、
図7(b)に示すように、マンドレル2を回転させつつコイルCの外周板に対してノズル4a,4bから冷却水を噴射するようマンドレル2の回転及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射を制御する。スプレー制御部12も、上位計算機15に接続されている。
ここで、スプレー制御部12の詳細な構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、
図1に示す巻き取り装置1におけるスプレー制御部の12概略構成図である。
【0025】
スプレー制御部12は、
図2に示すように、材料情報取得部12a、冷却要否判定部12b、冷却時間算出部12c、コイル総冷却時間算出部12d、噴射ノズルパターン選択部12e、及び駆動制御部12fを備えている。
材料情報取得部12aは、コイルCに関する情報、例えば、前述したコイルCの外径D、コイルCの板厚t、コイルCの板幅、コイルCの単重P
W、コイルC(熱延鋼板S)の降伏応力σ
yの他、コイルC(熱延鋼板S)のヤング率E、コイルCにおける最外周板の曲率半径ρ、コイルCにおける最外周板の断面二次モーメントIの情報を上位計算機15から取得する。
【0026】
また、冷却要否判定部12bは、材料情報取得部12aから取得したコイルCに関する情報に基づいて、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要があるか否かを判定する。
冷却要否判定部12bによる判定は、次の(1)式によるコイル抜出可否判定式によってコイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMがコイル自重モーメント(=PW・L/4)未満か否かを判定するコイル抜出可否判定と、次の(2)式によるバンド固縛可否判定式によってコイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMがバンド固縛モーメント(=σ・bt・w・g・D・N)未満か否かを判定するバンド固縛可否判定である。
【0027】
次の(1)式が成立するときは、前述の塑性曲げモーメントMがコイル自重モーメントよりも小さく、コイルCがクレードルロール7a,7bから浮き上がらずに、コイルCをマンドレル2から抜去するときにマンドレル2に接触する事態は回避される。
また、次の(2)式が成立するときは、前述の塑性曲げモーメントMがバンド固縛モーメントよりも小さく、コイルCの外周を拘束する拘束バンドが引きちぎられるおそれはない。
【0028】
【0029】
M<σ・bt・w・g・D・N ・・・(2)
前述の(1)式において、λeは弾性変形率であり、次の(3)式で表される。
λe=2δ/t=2・ρ・σy/E・t ・・・(3)
(1)式において、EはコイルC(熱延鋼板S)のヤング率E、IはコイルCにおける最外周板の断面二次モーメント、ρはコイルCにおける最外周板の曲率半径、(3)式において、ρはコイルCにおける最外周板の曲率半径、σyはコイルC(熱延鋼板S)の降伏応力、EはコイルC(熱延鋼板S)のヤング率、tはコイルC(熱延鋼板S)の板厚である。これらの情報は冷却要否判定部12bが材料情報取得部12aから取得する。
【0030】
また、前述の(1)式において、P
WはコイルCの単重であり、この情報は冷却要否判定部12bが材料情報取得部12aから取得する。また、(1)式において、Lは、
図9に示すように、コイルCを支持するクレードルロール7a,7bの中心7a1,7b1間の距離であり、この情報は、冷却要否判定部12bが上位計算機15から取得する。
【0031】
また、前述の(2)式において、σはコイルCの外周を拘束する拘束バンドのバンド耐力、btは拘束バンドの板厚、wは拘束バンドの板幅、gは重力加速度、Nは拘束バンドの本数であり、これらの情報は冷却要否判定部12bが上位計算機15から取得する。また、前述の(2)式において、DはコイルCの外径であり、この情報は冷却要否判定部12bが材料情報取得部12aから取得する。
【0032】
そして、コイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMが(1)式及び(2)式の少なくとも一方を満たさない場合、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要があると判定され、当該塑性曲げモーメントMが(1)式及び(2)式の双方を満たす場合、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要がないと判定される。
【0033】
また、冷却時間算出部12cは、冷却要否判定部12bがコイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要があると判定した場合に、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、コイルC(熱延鋼板S)の板厚t、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Q、及びコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する。
【0034】
ここで、冷却時間算出部12cについて、詳細に説明する。
図3には、冷却時間算出部12cの概略構成が示されている。
冷却時間算出部12cは、
図3に示すように、冷却範囲弧長算出部12ca、流量密度算出部12cb、熱伝達率算出部12cd、及び最大温度差冷却時間算出部12ceを備えている。
冷却範囲弧長算出部12caは、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)に基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcを算出する。
【0035】
図10において、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcは、向きがαだけ傾いたノズル4a,4b(位置がN
i(x
i,y
i))から冷却水Wが噴射角度βで噴射され、その冷却水WがコイルCの外周板に接触する冷却水Wの端点P2から冷却水Wの端点P1までのコイル外周上の長さである。
そして、冷却水Wの端点P1及びP2の位置は、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、及びコイルCの外径Dから求められる。
【0036】
そして、この冷却水Wの端点P2から端点P1までのコイル外周上の長さは、コイルCの外周上の所定点P0から端点P1までの回転角度をθ1、コイルCの外周上の所定点P0から端点P2までの回転角度をθ2としたとき、コイルCの外径Dとして、D/2×(θ1-θ2)で表される。従って、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcは、次の(4)式で算出することができる。
Lc=D/2×(θ1-θ2) ・・・(4)
ここで、LcはコイルCにおける冷却範囲の弧長(mm)、DはコイルCの外径(mm)、θ1、θ2は回転角度(rad)である。
【0037】
コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)の情報は、冷却範囲弧長算出部12caが上位計算機15から取得する。
【0038】
また、流量密度算出部12cbは、冷却範囲弧長算出部12caで算出した冷却範囲の弧長Lc、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、及びノズル4a,4bからの冷却水の流量Qに基づいて流量密度wを算出する。冷却水の流量密度wは、次の(5)式で算出される。
w=Q/(Ac×10-6)=Q/(Lc×Wc×10-6) ・・・(5)
【0039】
ここで、wは冷却水の流量密度(L/(min・m2)、Qはノズル4a,4bからの冷却水の流量(L/min)、Acは比冷却面積(mm2)、LcはコイルCにおける冷却範囲の弧長(mm)、Wcはノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅(Cの幅方向における冷却水によって冷却される幅)(mm)である。
冷却幅Wc及び冷却水の流量Qの情報は、流量密度算出部12cbが上位計算機15から取得する。
【0040】
また、熱伝達率算出部12cdは、流量密度算出部12cbで算出した流量密度wとコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、熱伝達率hを算出する。
熱伝達率hは、次の(6)式で算出される。
h=494.3w0.595×10-0.00179T0 ・・・(6)
ここで、hは熱伝達率(kcal(m2.hr・℃)-1)、wは冷却水の流量密度(L/(min・m2)、T0はコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度(℃)である。
【0041】
コイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0は、
図1に示すように、ピンチロール5a,5bの出側に設置された温度計6によって測定される。そして、この測定されたコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0の情報は、温度計6から熱伝達率算出部12cdに送信される。
なお、コイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0は、温度計6によって実測する場合のみならず、目標となる表面温度T0を予め定めておいて上位計算機15に格納しておき、熱伝達率算出部12cdが上位計算機15から目標となる表面温度T0の情報を取得するようにしても良い。
【0042】
また、最大温度差冷却時間算出部12ceは、熱伝達率算出部12cdで算出した熱伝達率hとコイルCの板厚tとに基づいて、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する。
ここで、
図11には、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差と冷却時間との関係が板厚(t=15、25mm)毎に示されている。また、
図12には、コイルの最外周板の外周表面と内周表面の最大温度差に至るまでの時間とコイルの板厚との関係が熱伝達率(h=6000、10000、20000kcal(m
2.hr・℃)
-1)毎に示されている。更に、
図13には、コイルの最外周板の外周表面と内周表面の最大温度差に至るまでの時間と熱伝達率との関係が板厚(t=10、15、20、25.4mm)毎に示されている。
【0043】
図11に示すように、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差は、冷却時間が増加すると、増加していき、当該温度差が最大となってから徐々に減少していく。
図11において、コイルCの板厚tが12mmのときは、前述の温度差が最大となるまでの冷却時間が1.5sec、コイルCの板厚tが25mmのときは、前述の温度差が最大となるまでの冷却時間が5.5secとなっている。
図11のグラフでは、熱伝達率が20000kcal(m
2.hr・℃)
-1のときのデータを示している。
【0044】
そして、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大(最大温度差)となるまでの時間は、
図11及び
図12に示すように、コイルCの板厚tの増加にともなって増加する。また、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大(最大温度差)となるまでの時間は、
図13に示すように、熱伝達率hの増加にともなって減少する。
図12のグラフでは、熱伝達率が6000kcal(m
2.hr・℃)
-1、10000kcal(m
2.hr・℃)
-1、20000kcal(m
2.hr・℃)
-1のときのデータを示している。また、また、
図13のグラフでは、コイルCの板厚tが10mm、15mm、20mm、25.4mmのときのデータを示している。
【0045】
図12及び
図13に示すグラフから導出したコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大(最大温度差)となるまでの時間は、板厚tのべき乗に比例し、熱伝達率hのべき乗に反比例する次の(7)式で表される。
従って、最大温度差冷却時間算出部12ceは、次の(7)式に基づいて冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する。
【0046】
【0047】
ここで、τは冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間(sec)、tはコイルC(熱延鋼板S)の板厚(mm)、hは熱伝達率(kcal(m2.hr・℃)-1)である。コイルC(熱延鋼板S)の板厚tの情報は、最大温度差冷却時間算出部12ceが上位計算機15から取得する。
【0048】
次に、
図2に示すスプレー制御部12のコイル総冷却時間算出部12dは、冷却時間算出部12cで算出した、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τと、冷却範囲の弧長Lcと、コイルCの外径Dとに基づいて、マンドレル2の回転速度ωと、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間T
totalとを算出する。コイルCの外径Dの情報は、コイル総冷却時間算出部12dが上位計算機15から取得する。
マンドレル2の回転速度ωは、次の(8)式により算出することができる。
【0049】
【0050】
ここで、ωはマンドレル2の回転速度(rpm)、LcはコイルCにおける冷却範囲の弧長(mm)、τは冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間(sec)、DはコイルCの外径(mm)である。
そして、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalは、次の(9)式により算出することができる。
Ttotal=1/ω ・・・(9)
【0051】
ここで、Ttotalはノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間(min)、ωはマンドレル2の回転速度(rpm)である。
ここで、ノズルは、コイルCの外周に沿って複数(本実施形態にあっては、ノズル4aとノズル4bの2つ)設置されているので、複数のノズル4a,4bの夫々から冷却水をコイルCの外周部に噴射することを想定して、複数のノズル4a,4bの夫々について前述した冷却時間算出部12c及びコイル総冷却時間算出部12dでの処理を実施する。
【0052】
そして、コイル総冷却時間算出部12dにおいて、複数のノズル4a,4bの夫々につき、マンドレル2の回転速度ωと、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間T
totalとを算出する。
また、
図2に示すスプレー制御部12の噴射ノズルパターン選択部12eは、
図14に示すように、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω
2、ω
1、あるいはω
2およびω
1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ
1)を選択する。
【0053】
噴射ノズルパターン選択部12eについて、具体的に説明する。
噴射ノズルパターン選択部12eは、下記のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間と、下記のBの場合の時間とを比較する。
そして、下記Aの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間が下記Bの場合の時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bのうちコイル総冷却時間Ttotalが最も短いノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)を選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度ωとして、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのマンドレル2の回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのコイルC一周分のマンドレルの回転角度(360°、あるいは360°)を選択する。
【0054】
一方、下記Bの場合の時間が下記Aの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bの全てノズル4a,4bを選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度として、いずれか一つのノズル4aについてのマンドレル2の回転速度ω2及び隣接ノズル4bについてのマンドレル2の回転速度ω1のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、いずれか一つのノズル4aによるコイルC外周上の冷却範囲中の点aから隣接ノズル4bによるコイルC外周上の冷却範囲中の点bまでの回転角度(θ1)を選択する。
【0055】
A:コイル総冷却時間算出部12dで算出した、複数のノズル4a,4bの夫々についてのコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotal
B:複数のノズル4a,4bのうちのいずれか一つのノズル4aによるコイルC外周上の冷却範囲中の点aからそのノズル4aに対してマンドレル2の回転方向に隣接する隣接ノズル4bによるコイルC外周上の冷却範囲中の点bまでの回転角度θ1が最も大きいいずれか一つのノズル4aと隣接ノズル4bを想定する。そして、いずれか一つのノズル4aについてのマンドレル2の回転速度ω1及び隣接ノズル4bについてのマンドレル2の回転速度ω2のうち回転速度の速いマンドレル2の回転速度(ω2、あるいはω1)で、いずれか一つのノズル4aによる冷却範囲中の点aから隣接ノズル4bによる冷却範囲中の点bまでの回転角度θ1だけマンドレルを回転させたときの時間
【0056】
なお、ノズルが1つのみ設置されている場合、具体的には、例えば、コイルCの外周にノズル4aのみが設置されている場合、ノズル4aから冷却水をコイルCの外周部に噴射することを想定して、ノズル4aについて冷却時間算出部12c及びコイル総冷却時間算出部12dでの処理を実施する。
そして、コイル総冷却時間算出部12dにおいて、ノズル4aにつき、マンドレル2の回転速度ω2と、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する。
そして、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとしてノズル4a、マンドレル2の回転速度ω2及びマンドレル2の回転角度360°を選択する。
【0057】
また、
図2に示すスプレー制御部12の駆動制御部12fは、噴射ノズルパターン選択部12eで選択された、冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω
2、ω
1、あるいはω
2およびω
1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ
1)に基づいて、マンドレル2の回転及び噴射ノズルの噴射を制御する。駆動制御部12fからの制御信号は、図示しないマンドレル2の駆動装置と噴射ノズルの噴射装置に送信され、これらマンドレル2の駆動装置と噴射ノズルの噴射装置は、駆動制御部12fからの制御信号に基づいて、マンドレル2の回転及び噴射ノズルの噴射(流量は前述したQ)を制御する。
【0058】
なお、駆動制御部12fからの制御信号は、ラッパーロール3a~3dの駆動装置にも送信され、ラッパーロール3a~3dの駆動装置は、駆動制御部12fからの制御信号に基づいて、ラッパーロール3a~3dの回転をマンドレル2の回転と同期するように制御する。
スプレー制御部12によるノズル4a,4bからの冷却水の噴射をする時間は、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間と、Bの場合の時間とを比較した際の短い時間である。
【0059】
また、
図1に示す巻き取り制御装置10の空冷制御部13は、スプレー制御部12によるノズル4a,4bからの冷却水の噴射制御が終了した後、
図7(c)に示すように、予め設定された時間だけマンドレル2及びラッパーロール3a~3dを回転させて、コイルCを空冷する。空冷制御部13も、上位計算機15に接続されている。
また、巻き取り制御装置10の尾端停止制御部14は、空冷制御部13によるコイルCの空冷制御が終了した後、
図7(d)に示すように、コイルCの尾端部Saを指定尾端位置Pで停止させるようマンドレル2の及びラッパーロール3a~3dの回転を制御する。そして、尾端停止制御部14は、クレードルロール7a,7bがコイルCの下側を支持した後、ラッパーロール3a~3dを開放するよう制御する。尾端停止制御部14も、上位計算機15に接続されている。
【0060】
その後、コイルCをマンドレル2から抜去する際に、マンドレル2は、
図7(d)に示すように、縮径し、コイルCをマンドレル2から抜去することができる。
ここで、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置1によれば、スプレー制御部12は、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、コイルC(熱延鋼板S)の板厚t、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Q、及びコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する冷却時間算出部12cを備えている。
【0061】
これにより、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを決定するに際して、コイルCの外径D、板厚t、冷却水を噴射するノズル4a,4bの位置Ni(xi,yi)、向きα、冷却水の流量Q等からコイルC毎に正確に決定し、コイルCの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できる熱延鋼板の巻き取り装置1を提供できる。
コイルCの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できることから、コイルCをマンドレル2から抜去する際に、コイルCの最外周部C1のスプリングバックによってコイルCが持ち上がり、コイルCと縮径したマンドレル102とが接触するおそれを回避できる。また、熱延鋼板Sを巻き取った後、コイルCの最外周部C1のスプリングバックが低減されているので、搬送途中でコイルCの外周を拘束する拘束バンドを引きちぎるおそれを回避することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置1によれば、冷却時間算出部12cは、コイルの設置位置CP(x
0,y
0)、コイルCの外径D、コイルCの板厚t、ノズル4a,4bの位置N
i(x
i,y
i)、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)に基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcを算出する冷却範囲弧長算出部12caを備えている。また、冷却時間算出部12cは、冷却範囲弧長算出部12caで算出した冷却範囲の弧長Lc、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、及びノズル4a,4bからの冷却水の流量Qに基づいて流量密度wを算出する流量密度算出部12cbを備えている。また、冷却時間算出部12cは、流量密度算出部12cbで算出した流量密度wとコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、熱伝達率hを算出する熱伝達率算出部12cdを備えている。更に、冷却時間算出部12cは、熱伝達率算出部12cdで算出した熱伝達率hとコイルCの板厚tとに基づいて、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する最大温度差冷却時間算出部12ceを備えている。
これにより、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τをより精度高く決定することができる。
【0063】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置1によれば、スプレー制御部12は、冷却時間算出部12cで算出した、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τと、冷却範囲の弧長Lcと、コイルCの外径Dとに基づいて、マンドレル2の回転速度ωと、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出するコイル総冷却時間算出部12dを備えている。
これにより、マンドレル2の回転速度ωとノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを精度高く算出することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置1によれば、ノズル4a,4bがコイルCの外周に沿って複数設置されている。そして、複数のノズル4a,4bの夫々から冷却水をコイルの外周部に噴射することを想定して、複数のノズル4a,4bのそれぞれについて冷却時間算出部12c及びコイル総冷却時間算出部12dでの処理を実施して、コイル総冷却時間算出部12dにおいて、複数のノズル4a,4bの夫々につき、マンドレル2の回転速度ωと、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する。
これにより、複数のノズル4a,4bの夫々について、マンドレル2の回転速度ωとノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを精度高く算出することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り装置1によれば、スプレー制御部12は、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)を選択する噴射ノズルパターン選択部12eを備えている。
【0066】
そして、噴射ノズルパターン選択部12eは、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間と、前述のBの場合の時間とを比較する。
そして、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間が前述Bの場合の時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bのうちコイル総冷却時間Ttotalが最も短いノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)を選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度ωとして、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのマンドレル2の回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのコイルC一周分のマンドレル2の回転角度(360°、あるいは360°)を選択する。
【0067】
一方、前述Bの場合の時間が前述Aの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bの全てノズル4a,4bを選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度として、いずれか一つのノズル4aについてのマンドレル2の回転速度ω2及び隣接ノズル4bについてのマンドレル2の回転速度ω1のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、いずれか一つのノズル4aによるコイルC外周上の冷却範囲中の点aから隣接ノズル4bによるコイルC外周上の冷却範囲中の点bまでの回転角度(θ1)を選択する。
【0068】
これにより、複数のノズル4a,4bを設置している場合において、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)を、冷却時間がもっと短い時間となるように選択でき、コイルの冷却時間を短くすることができる。
【0069】
次に、巻き取り制御装置10での処理の流れを
図4乃至
図6を参照して説明する。
図4は、巻き取り制御装置10での処理の流れを示すフローチャートである。
図5は、
図4に示す巻き取り制御装置での処理の流れを示すフローチャートにおけるステップS2(スプレー制御ステップ)での処理の流れの詳細を示すフローチャートである。
図6は、
図5に示すステップS2(スプレー制御ステップ)での処理の流れを示すフローチャートにおけるステップS23(冷却時間算出ステップ)での処理の流れの詳細を示すフローチャートである。
【0070】
先ず、ステップS1において、巻き取り制御装置10のラッパーロール制御部11は、熱延鋼板Sの尾端部Saがピンチロール5a,5bを抜けたときに、
図7(a)に示すように、複数のラッパーロール3a~3dをコイルCに押し付けるようラッパーロール3a~3dの移動を制御する(ラッパーロール制御ステップ)。
次いで、ステップS2において、巻き取り制御装置10のスプレー制御部12は、ステップS1(ラッパーロール制御ステップ)によって複数のラッパーロール3a~3dがコイルCに押し付けられ後、
図7(b)に示すように、マンドレル2を回転させつつコイルCの外周板に対してノズル4a,4bから冷却水を噴射するようマンドレル2の回転及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射を制御する(スプレー制御ステップ)。
【0071】
このステップS2(スプレー制御ステップ)の詳細を、
図5を参照して説明する。
先ず、ステップS21において、スプレー制御部12の材料情報取得部12aは、コイルCに関する情報、例えば、前述したコイルCの外径D、コイルCの板厚t、コイルCの板幅、コイルCの単重P
W、コイルC(熱延鋼板S)の降伏応力σ
yの他、コイルC(熱延鋼板S)のヤング率E、コイルCにおける最外周板の曲率半径ρ、コイルCにおける最外周板の断面二次モーメントIの情報を上位計算機15から取得する(材料情報取得ステップ)。
【0072】
次いで、ステップS22において、冷却要否判定部12bは、ステップS21で取得したコイルCに関する情報に基づいて、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要があるか否かを判定する(冷却要否判定ステップ)。
冷却要否判定部12bによる判定は、前述の(1)式によるコイル抜出可否判定式によってコイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMがコイル自重モーメント(=PW・L/4)未満か否かを判定するコイル抜出可否判定と、前述(2)式によるバンド固縛可否判定式によってコイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMがバンド固縛モーメント(=σ・bt・w・g・D・N)未満か否かを判定するバンド固縛可否判定である。
【0073】
そして、コイルCの最外周板の塑性曲げモーメントMが(1)式及び(2)式の少なくとも一方を満たさない場合、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要があると判定され、ステップS23に移行する。一方、当該塑性曲げモーメントMが(1)式及び(2)式の双方を満たす場合、コイルCの外周部に対して冷却水を噴射して冷却する必要がないと判定され、ステップS2(スプレー制御ステップ)での処理は終了する。
【0074】
次いで、ステップS23において、冷却時間算出部12cは、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、コイルC(熱延鋼板S)の板厚t、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Q、及びコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する(冷却時間算出ステップ)。
【0075】
このステップS23での処理の流れの詳細を、
図6を参照して説明する。
先ず、ステップS231において、冷却時間算出部12cの冷却範囲弧長算出部12caは、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)に基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcを前述の(4)で算出する(冷却範囲弧長算出ステップ)。
【0076】
次いで、ステップS232において、流量密度算出部12cbは、ステップS231で算出した冷却範囲の弧長Lc、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、及びノズル4a,4bからの冷却水の流量Qに基づいて流量密度wを前述の(5)式で算出する(流量密度算出ステップ)。
次いで、ステップS233において、熱伝達率算出部12cdは、ステップS232で算出した流量密度wとコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、熱伝達率hを前述の(6)式で算出する(熱伝達率算出ステップ)。
【0077】
次いで、ステップS234において、最大温度差冷却時間算出部12ceは、熱伝達率算出部12cdで算出した熱伝達率hとコイルCの板厚tとに基づいて、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを前述の(7)式で算出する(最大温度差冷却時間算出ステップ)。
これにより、ステップS23での処理が終了する。
ステップS23での処理が終了したらステップS24に移行する。
【0078】
ステップS24において、スプレー制御部12のコイル総冷却時間算出部12dは、ステップS23(冷却時間算出ステップ)で算出した、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τと、冷却範囲の弧長Lcと、コイルCの外径Dとに基づいて、マンドレル2の回転速度ωと、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する(コイル総冷却時間算出ステップ)。
【0079】
マンドレル2の回転速度ωは、前述の(8)式により算出することができる。
また、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalは、前述の(9)式により算出することができる。
ここで、ノズルは、コイルCの外周に沿って複数(本実施形態にあっては、ノズル4aとノズル4bの2つ)設置されているので、複数のノズル4a,4bの夫々から冷却水をコイルCの外周部に噴射することを想定して、複数のノズル4a,4bの夫々について前述したステップS23及びステップS24を実施する。
【0080】
そして、ステップS24において、複数のノズル4a,4bの夫々につき、マンドレル2の回転速度ωと、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する。
次いで、ステップS25において、スプレー制御部12の噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)を選択する(噴射ノズルパターン選択ステップ)。
【0081】
このステップS25において、噴射ノズルパターン選択部12eは、先ず、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間と、前述のBの場合の時間とを比較する。
そして、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間が前述のBの場合の時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bのうちコイル総冷却時間Ttotalが最も短いノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)を選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度ωとして、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのマンドレル2の回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのコイルC一周分のマンドレルの回転角度(360°、あるいは360°)を選択する。
【0082】
一方、前述Bの場合の時間が前述Aの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bの全てノズル4a,4bを選択する。また、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転速度として、いずれか一つのノズル4aについてのマンドレル2の回転速度ω2及び隣接ノズル4bについてのマンドレル2の回転速度ω1のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度(ω2、あるいはω1)を選択する。更に、噴射ノズルパターン選択部12eは、マンドレル2の回転角度として、いずれか一つのノズル4aによるコイルC外周上の冷却範囲中の点aから隣接ノズル4bによるコイルC外周上の冷却範囲中の点bまでの回転角度(θ1)を選択する。
【0083】
なお、ノズルが1つのみ設置されている場合、具体的には、例えば、コイルCの外周にノズル4aのみが設置されている場合、ノズル4aから冷却水をコイルCの外周部に噴射することを想定して、ノズル4aについてステップS23及びステップS24を実施する。そして、ステップS24において、コイル総冷却時間算出部12dは、ノズル4aにつき、マンドレル2の回転速度ω2と、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する。そして、ステップS25において、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとしてノズル4a、マンドレル2の回転速度ω2及びマンドレル2の回転角度360°を選択する。
【0084】
次いで、ステップS26において、スプレー制御部12の駆動制御部12fは、ステップS25(噴射ノズルパターン選択ステップ)で選択された、冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)に基づいて、マンドレル2の回転及び噴射ノズルの噴射を制御する(駆動制御ステップ)。
【0085】
駆動制御部12fからの制御信号は、図示しないマンドレル2の駆動装置と噴射ノズルの噴射装置に送信され、これらマンドレル2の駆動装置と噴射ノズルの噴射装置は、駆動制御部12fからの制御信号に基づいて、マンドレル2の回転及び噴射ノズルの噴射(流量は前述したQ)を制御する。
なお、駆動制御部12fからの制御信号は、ラッパーロール3a~3dの駆動装置にも送信され、ラッパーロール3a~3dの駆動装置は、駆動制御部12fからの制御信号に基づいて、ラッパーロール3a~3dの回転をマンドレル2の回転と同期するように制御する。
【0086】
スプレー制御部12によるノズル4a,4bからの冷却水の噴射をする時間は、前述のAの場合のコイル総冷却時間T
totalのうち最も短い時間と、Bの場合の時間とを比較した際の短い時間である。
これにより、ステップS2での処理が終了し、次のステップS3に移行する。
ステップS3において、巻き取り制御装置10の空冷制御部13は、ステップS2での処理が終了した後、
図7(c)に示すように、予め設定された時間だけマンドレル2及びラッパーロール3a~3dを回転させて、コイルCを空冷する(空冷制御ステップ)。
【0087】
最後に、ステップS4において、巻き取り制御装置10の尾端停止制御部14は、ステップS3での処理が終了した後、
図7(d)に示すように、コイルCの尾端部Saを指定尾端位置Pで停止させるようマンドレル2の及びラッパーロール3a~3dの回転を制御する(尾端停止制御ステップ)。
そして、ステップS24において、尾端停止制御部14は、クレードルロール7a,7bがコイルCの下側を支持した後、ラッパーロール3a~3dを開放するよう制御する。
その後、コイルCをマンドレル2から抜去する際に、マンドレル2は、
図7(d)に示すように、縮径し、コイルCをマンドレル2から抜去することができる。
【0088】
このように、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り方法によれば、スプレー制御ステップ(ステップS2)は、コイルの設置位置(
図10におけるコイル中心位置CP(x
0,y
0))、コイルCの外径D、コイルC(熱延鋼板S)の板厚t、ノズル4a,4bの位置(
図10におけるN
i(x
i,y
i))、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、ノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、ノズル4a,4bからの冷却水の流量Q、及びコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する冷却時間算出ステップ(ステップS23)を含んでいる。
【0089】
これにより、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを決定するに際して、コイルCの外径D、板厚t、冷却水を噴射するノズル4a,4bの位置Ni(xi,yi)、向きα、冷却水の流量Q等からコイルC毎に正確に決定し、コイルCの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できる熱延鋼板の巻き取り方法を提供できる。
コイルCの最外周部のスプリングバック低減効果を精度高く発揮できることから、コイルCをマンドレル2から抜去する際に、コイルCの最外周部C1のスプリングバックによってコイルCが持ち上がり、コイルCと縮径したマンドレル102とが接触するおそれを回避できる。また、熱延鋼板Sを巻き取った後、コイルCの最外周部C1のスプリングバックが低減されているので、搬送途中でコイルCの外周を拘束する拘束バンドを引きちぎるおそれを回避することができる。
【0090】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り方法によれば、冷却時間算出ステップ(ステップS23)は、コイルの設置位置CP(x
0,y
0)、コイルCの外径D、コイルCの板厚t、ノズル4a,4bの位置N
i(x
i,y
i)、ノズル4a,4bの向き(
図10における水平状態からの傾斜角度α)、及びノズル4a,4bからの冷却水の噴射角度(
図10における冷却水の噴射幅を規定する角度β)に基づいて、コイルCにおける冷却範囲の弧長Lcを算出する冷却範囲弧長算出ステップ(ステップS231)を含んでいる。また、冷却時間算出ステップ(ステップS23)は、冷却範囲弧長算出ステップ(ステップS231)で算出した冷却範囲の弧長Lc、ノズル4a,4bからの冷却水によるコイルCにおける冷却幅Wc、及びノズル4a,4bからの冷却水の流量Qに基づいて流量密度wを算出する流量密度算出ステップ(ステップS232)を含んでいる。また、冷却時間算出ステップ(ステップS23)は、流量密度算出ステップ(ステップS232)で算出した流量密度wとコイル巻き取り時の冷却前のコイルCの表面温度T0とに基づいて、熱伝達率hを算出する熱伝達率算出ステップ(ステップS233)を含んでいる。更に、冷却時間算出ステップ(ステップS23)は、熱伝達率算出ステップ(ステップS233)で算出した熱伝達率hとコイルCの板厚tとに基づいて、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τを算出する最大温度差冷却時間算出ステップ(ステップS234)を含んでいる。
これにより、コイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τをより精度高く決定することができる。
【0091】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り方法によれば、スプレー制御ステップ(ステップS2)は、冷却時間算出ステップ(ステップS23)で算出した、冷却範囲の弧長Lc分のコイルCの最外周板の外周表面と内周表面の温度差が最大となる冷却時間τと、冷却範囲の弧長Lcと、コイルCの外径Dとに基づいて、マンドレル2の回転速度ωと、ノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出するコイル総冷却時間算出ステップ(ステップS24)を含んでいる。
これにより、マンドレル2の回転速度ωとノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを精度高く算出することができる。
【0092】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り方法によれば、ノズル4a,4bがコイルCの外周に沿って複数設置されている。そして、複数のノズル4a,4bの夫々から冷却水をコイルの外周部に噴射することを想定して、複数のノズル4a,4bのそれぞれについて冷却時間算出ステップ(ステップS23)及びコイル総冷却時間算出ステップ(ステップS24)を実施して、コイル総冷却時間算出ステップ(ステップS24)において、複数のノズル4a,4bの夫々につき、マンドレル2の回転速度ωと、コイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを算出する。
これにより、複数のノズル4a,4bの夫々について、マンドレル2の回転速度ωとノズル4a,4bから冷却水を噴射してコイルCの外周部を一周分冷却する時のコイル総冷却時間Ttotalとを精度高く算出することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の巻き取り方法によれば、スプレー制御ステップ(ステップS2)は、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)を選択する噴射ノズルパターン選択ステップ(ステップS25)を含んでいる。
【0094】
そして、噴射ノズルパターン選択ステップ(ステップS25)において、噴射ノズルパターン選択部12eは、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間と、前述のBの場合の時間とを比較する。
そして、前述のAの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間が前述Bの場合の時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bのうちコイル総冷却時間Ttotalが最も短いノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)を選択すると共に、マンドレル2の回転速度ωとして、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのマンドレル2の回転速度(ω2、あるいはω1)を選択し、マンドレル2の回転角度として、選択された当該ノズル(ノズル4aのみ、あるいはノズル4bのみ)についてのコイルC一周分のマンドレル2の回転角度(360°、あるいは360°)を選択する。
【0095】
一方、前述Bの場合の時間が前述Aの場合のコイル総冷却時間Ttotalのうち最も短い時間よりも短い場合、噴射ノズルパターン選択部12eは、冷却水を噴射する噴射ノズルとして、複数のノズル4a,4bの全てノズル4a,4bを選択するとともに、マンドレル2の回転速度として、いずれか一つのノズル4aについてのマンドレル2の回転速度ω2及び隣接ノズル4bについてのマンドレル2の回転速度ω1のうち回転速度の速いマンドレルの回転速度(ω2、あるいはω1)を選択し、かつ、マンドレル2の回転角度として、いずれか一つのノズル4aによるコイルC外周上の冷却範囲中の点aから隣接ノズル4bによるコイルC外周上の冷却範囲中の点bまでの回転角度(θ1)を選択する。
【0096】
これにより、複数のノズル4a,4bを設置している場合において、冷却水を噴射するに際しての冷却水を噴射する噴射ノズル(ノズル4aのみ、ノズル4bのみ、あるいはノズル4a及びノズル4bの双方)、マンドレル2の回転速度ω(ω2、ω1、あるいはω2およびω1のうち回転速度が速い方)及びマンドレル2の回転角度(360°、360°、あるいはθ1)を、冷却時間がもっと短い時間となるように選択でき、コイルの冷却時間を短くすることができる。
【0097】
そして、この熱延鋼板の巻き取り方法を用いて熱延鋼板Sを巻き取り装置1にてコイル状に巻き取る巻取工程を備えて熱延鋼板を製造することができる。すなわち、本発明による熱延鋼板の巻き取り方法、熱延鋼板の巻き取り装置を用いることにより、コイルCの最外周部C1のスプリングバック低減効果を精度高く発揮でき、熱延鋼板Sの製造時においても、コイルCの最外周部C1のスプリングバック増大による製造性の阻害や設備の破損という問題を解決しうる製造方法を提供することができる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、ノズル4a,4bの数は、2つに限らず、1であっても、3つ以上であってもよい。
また、空冷制御部13による空冷制御は、必ずしも行わなくてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 熱延鋼板の巻き取り装置
2 マンドレル
3a,3b,3c,3d ラッパーロール
4a,4b ノズル
5a,5b ピンチロール
6 温度計
7a,7b クレードルロール
10 巻き取り制御装置
11 ラッパーロール制御部
12 スプレー制御部
13 空冷制御部
14 尾端停止制御部
15 上位計算機
C コイル
S 熱延鋼板
Sa 尾端部