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特開2024-137349熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグ
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  • 特開-熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137349
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048842
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 英紀
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB28
4F072AD11
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH48
(57)【要約】
【課題】繰り返し変形性に優れる、熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、特定の式で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を強化繊維に含浸させてなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させてなり、繰り返し変形させることが可能な性質を有する、プリプレグまたはセミプレグ。
【化1】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
【請求項2】
前記二官能フェノール化合物(A)が、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる、少なくとも1種の二官能フェノール化合物である、請求項1に記載のプリプレグまたはセミプレグ。
【請求項3】
前記(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)は、(ポリ)オキシエチレン基、および/または、(ポリ)オキシプロピレン基を有する、請求項1に記載のプリプレグまたはセミプレグ。
【請求項4】
前記式(I)において、mとnとの比が、n/m=1/0.1~1/100である、請求項1に記載のプリプレグまたはセミプレグ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプリプレグまたはセミプレグを硬化させてなる、繊維複合材料。
【請求項6】
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させて、プリプレグまたはセミプレグを得るステップと、
【化2】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させ、繊維複合材料を得るステップと、
を含む、繊維複合材料の成形方法。
【請求項7】
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させる前に、前記プリプレグまたはセミプレグを、予備硬化させて、硬化度が0%超~99%の予備硬化プリプレグまたは予備硬化セミプレグを得るステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プリプレグまたはセミプレグを予備硬化させる前に、前記プリプレグまたはセミプレグを50℃以上の温度で、1回以上繰り返し変形させるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプリプレグまたはセミプレグを硬化させて成形させた後に、再度変形させ、その後、加熱により硬化させる、再成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物は、熱などによってベンゾオキサジン環が開環重合および反応し、揮発分の発生を伴わずに硬化することが知られている。そのため、ベンゾオキサジン構造を有する低分子化合物または重合体を主成分とする熱硬化性樹脂は、耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械強度および長期信頼性などの熱硬化性樹脂が有する基本的な特徴に加え、低誘電率、低硬化収縮などの様々な利点を有し、注目されている。例えば、特許文献1には、二官能フェノール化合物と、脂肪族ジアミンまたは芳香族ジアミンと、アルデヒド化合物と、を反応させてジヒドロベンゾキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂が開示されている。
【0003】
他にも、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたプリプレグおよび/またはセミプレグが知られている。例えば、特許文献2には、ガラス繊維基材にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを用いた積層板が開示されている。また、特許文献3には、エポキシ樹脂配合物を用いたエポキシプリプレグが開示されている。さらに、特許文献4には、エポキシ樹脂をガラス繊維織布に含浸し加熱乾燥したプリプレグを含む、積層体が開示されている。さらにまた、特許文献5には、エポキシ樹脂組成物と、炭素繊維および/またはガラス繊維とからなる成形材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-291070号公報
【特許文献2】特開2002-264157号公報
【特許文献3】特表2021-535941号公報
【特許文献4】特開2002-200633号公報
【特許文献5】国際公開第2021/157442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、変形させる工程を含む再成形を繰り返すと破断するなどの問題があり、繰り返し変形させることが可能な性質(繰り返し変形性)の観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、繰り返し変形性に優れる、熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るプリプレグまたはセミプレグは、一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させてなり、繰り返し変形させることが可能な性質を有する。
【0008】
【化1】
【0009】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
また、上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るプリプレグまたはセミプレグから得られる繊維複合材料の成形方法は、
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させて、プリプレグまたはセミプレグを得るステップと、
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させ、繊維複合材料を得るステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、繰り返し変形性に優れる、熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたはセミプレグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例および比較例における、繰り返し変形性評価の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔1.本発明の概要〕
熱硬化性樹脂を含むプリプレグおよび/またはセミプレグは様々な用途に使用されている。近年、一度成形させたプリプレグまたはセミプレグを変形させ、その後再成形させることが可能な性質を持つ新たなプリプレグまたはセミプレグへの要求が高まっている。しかしながら、特許文献2~5に開示されているような、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用したプリプレグおよび/またはセミプレグは、再成形を繰り返すと破断するため、繰り返し変形させることが可能な性質の観点から改善の余地があった。また、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用したプリプレグおよび/またはセミプレグは、柔軟性のグレードが高い場合、硬化前に変形させることは可能であるが、柔軟性が高いことにより変形後の形状を維持できないと考えられる。
【0014】
そこで、上記の課題を解決するために本発明者が鋭意研究を重ねた結果、ある特定の式で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を使用することで、繰り返し変形させることが可能な性質に優れるプリプレグおよび/またはセミプレグが得られることを見出した。また、変形させ、60℃などの低温で加熱して硬化させた場合でも、変形後の形状を維持できるプリプレグおよび/またはセミプレグが得られることも見出した。本願明細書において、「繰り返し変形させることが可能な性質」は、「繰り返し変形性」とも称する。繰り返し変形性には、プレプリグまたはセミプレグを別の形に変形させて加熱により硬化させることが可能である性質も含まれる。また、一度プリプレグまたはセミプレグを積層して、それぞれプリプレグ積層体およびセミプレグ積層体を得た後に、当該積層体を別の形に変形させることが可能である性質も含まれる。さらにまた、プリプレグ、セミプレグ、プリプレグ積層体、またはセミプレグ積層体を硬化させて成形させた後に、別の形に変形させ、加熱により再硬化させる、一連の処理を繰り返し行うことができる性質も含まれる。この一連の処理を繰り返し行うことを再成形とも称する。
【0015】
〔2.プリプレグおよび/またはセミプレグ〕
本明細書においてセミプレグとは、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に部分的に含侵して(半含浸状態)、一体化した複合体を意味する。また、本明細書においてプリプレグとは、前記セミプレグから得ることができ、例えば、セミプレグをさらに加熱溶融することによって、樹脂を強化繊維に含浸させることにより得ることができる。すなわち、本願明細書においてプリプレグとは、強化繊維への樹脂の含浸の程度がセミプレグよりも進んだものであるとも言える。
【0016】
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させてなり、繰り返し変形させることが可能な性質を有する。
【0017】
【化2】
【0018】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
式(I)において、ArおよびArは、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示す。二官能フェノール化合物(A)としては、そのOH基および当該OH基に対するオルト位がベンゾオキサジン環に組み込まれうる構造を有するものが好適である。例えば、ジヒドロキシジフェニルメタン化合物、ジヒドロキシジフェニルエタン化合物、ジヒドロキシジフェニルプロパン化合物、ジヒドロキシジフェニルブタン化合物、ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン化合物、その他のジヒドロキシジフェニル化合物が挙げられる。
【0019】
ジヒドロキシジフェニルメタン化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(通称:ビスフェノールF)などが挙げられる。
【0020】
ジヒドロキシジフェニルエタン化合物としては、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(通称:ビスフェノールE)などが挙げられる。
【0021】
ジヒドロキシジフェニルプロパン化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールAまたはBPA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパンなどが挙げられる。
【0022】
ジヒドロキシジフェニルブタン化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(通称:ビスフェノールB)などが挙げられる。
【0023】
ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン化合物としては、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0024】
その他のジヒドロキシジフェニル化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0025】
この中では、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンがより好ましい。
【0026】
式(I)において、Rは、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示す。すなわち、脂肪族ジアミン化合物(B)としては、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を有するジアミン化合物が挙げられる。中でも炭素数6の直鎖アルキレン基を有するジアミン化合物、例えば、1,6-ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミン)が好適である。
【0027】
式(I)において、Rは、(ポリ)オキシアルキレン骨格と2個のアミノ基末端とを有する(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、2価の(ポリ)オキシアルキレン基を示す。本明細書において、(ポリ)オキシアルキレン基は、モノオキシアルキレン基(1つのオキシアルキレン基からなる)と、ポリオキシアルキレン基(複数のオキシアルキレン基を含む)とを包含する。(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)は、(ポリ)オキシアルキレン基として、(ポリ)オキシエチレン基および/または(ポリ)オキシプロピレン基を有することが好ましい。(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)としては、Jeffamine(登録商標)D-seriesのJeffamine D-230、Jeffamine D-400、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000が挙げられる。特にJeffamine D-2000が好ましい。本開示の熱硬化性樹脂は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物由来の2価の(ポリ)オキシアルキレン基を含むことにより、熱硬化性樹脂の硬化前後の靱性を高めることができる。
【0028】
また、本開示の熱硬化性樹脂を合成するために、アルデヒド化合物を使用してもよい。アルデヒド化合物としては、特に限定されないが、ホルムアルデヒドが好ましく、該ホルムアルデヒドとしては、その重合体であるパラホルムアルデヒド、または水溶液であるホルマリンなどの形態で使用することができる。
【0029】
式(I)において、mは重合度であり、1以上の整数を示すが、硬化前および硬化後の機械物性を向上する観点から、mは2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。また、mは成形時の流動性を維持する観点から、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、100以下であることが特に好ましい。
【0030】
式(I)において、nは重合度であり、1以上の整数を示すが、硬化前および硬化後の機械物性を向上する観点から、nは2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。また、nは成形時の流動性を維持する観点から、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、100以下であることが特に好ましい。
【0031】
また、mとnとの比は、n/m=1/0.1~1/100であることが好ましい。mとnとの比が前記の範囲であれば、分解温度、および硬化前後の靱性に優れる熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0032】
本開示の熱硬化性樹脂は、式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造の他の構造を含んでもよい。例えば、式(I)で示される構造の末端を封止するための単環フェノール化合物由来の構造を有していてもよい。また、本開示の熱硬化性樹脂は、脂肪族モノアミン、(ポリ)オキシアルキレンモノアミン化合物由来の構造を含んでもよい。
【0033】
本開示の熱硬化性樹脂は、GPCで測定される重量平均分子量(Mw)が10000以上であることが好ましく、硬化前および硬化後の機械物性を向上する観点から、Mwは15000以上であることがより好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、100000以下であることが好ましい。
【0034】
本開示の熱硬化性樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば、二官能フェノール化合物(A)と、脂肪族ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物とを反応させるステップ(s1)と、二官能フェノール化合物(A)と、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)と、アルデヒド化合物とを反応させるステップ(s2)と、を含む方法によって製造することができる。二官能フェノール化合物(A)、脂肪族ジアミン化合物(B)、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)、およびアルデヒド化合物については、上述した通りである。
【0035】
ステップ(s1)によれば、式(I)で示す重合度mで示すユニットが生成される。ステップ(s2)によれば、式(I)で示す重合度nで示すユニットが生成される。
【0036】
ステップ(s1)とステップ(s2)とは、同時であってもよく、ステップ(s1)が先でステップ(s2)が後でもよく、ステップ(s2)が先でステップ(s1)が後でもよい。すなわち、ステップ(s1)の反応進行後の系にステップ(s2)の材料を加えてステップ(s2)を行ってもよく、その逆であってもよい。また、ステップ(s1)と、ステップ(s2)とを別々の系で行った後、得られたそれぞれの生成物を1つの系で反応させてもよい。換言すれば、本開示の製造方法は、二官能フェノール化合物(A)と、脂肪族ジアミン化合物(B)と、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)と、アルデヒド化合物とを反応させるステップを含む。また、本開示の製造方法は、脂肪族ジアミン化合物(B)と、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)とを同時に投入してもよく、順次投入してもよい。操作の簡便性からは、ステップ(s1)とステップ(s2)とは同時であることが好ましい。
【0037】
本開示の製造方法において、二官能フェノール(A)と、脂肪族ジアミン化合物(B)と(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)とを併せたモル数の比は、二官能フェノール(A)/(脂肪族ジアミン化合物(B)+(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C))=10/1~1/10であることが好ましく、2/1~1/2であることがより好ましい。二官能フェノール(A)と、脂肪族ジアミン化合物(B)と(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)とを併せたモル数の比が前記の範囲であれば、製造時にゲル化しにくく、高分子量の熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0038】
本開示の製造方法において、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)と、脂肪族ジアミン化合物(B)とのモル数の比は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)/脂肪族ジアミン化合物(B)=1/0.1~1/100であることが好ましく、1/1~1/9であることがより好ましい。(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)と、脂肪族ジアミン化合物(B)とのモル数の比が前記範囲であれば、分解温度、および硬化前後の靱性に優れる熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0039】
本開示の製造方法において、二官能フェノール化合物(A)と、アルデヒド化合物とのモル数の比は、1/1~1/20であることが好ましく、1/2~1/6であることがより好ましい。二官能フェノール化合物(A)と、アルデヒド化合物とのモル数の比が前記範囲であれば、ベンゾオキサジン環を好適に生成することができる。
【0040】
本開示の製造方法において、溶媒は原料を溶解できれば特に限定されないが、例えば、クロロホルム、トルエン、トルエンとメタノールとの混合溶媒、トルエンとエタノールとの混合溶媒、トルエンとイソブタノールとの混合溶媒、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0041】
ステップ(s1)および/またはステップ(s2)の反応温度は25~150℃であることが好ましく、40~120℃であることがより好ましい。ステップ(s1)および/またはステップ(s2)の反応時間は0.5~10時間であることが好ましく、1~5時間であることがより好ましい。本開示の製造方法では、得られた生成物を、炭酸水素ナトリウム水溶液等を用いて洗浄してもよい。また、洗浄後、硫酸ナトリウム等を用いて脱水を行ってもよい。
【0042】
本開示の熱硬化性樹脂を主成分として含み、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、配合剤を副成分として含む熱硬化性組成物を作製し、使用することも可能である。
【0043】
他の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、などが挙げられる。
【0045】
配合剤としては、必要に応じて、難燃剤、造核剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いられてもよく、2種以上を併用しても構わない。また、反応性あるいは非反応性の溶剤を使用することもできる。
【0046】
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、繰り返し変形性を有する。また、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた従来のプリプレグまたはセミプレグに比べて、繰り返し変形性に優れる。ここで、「繰り返し変形性」の定義については、上述した通りである。繰り返し変形は、変形と加熱処理による硬化とを繰り返すことによって行うことができる。加熱処理の温度の下限値は、例えば、50℃以上、60℃以上、80℃以上、100℃以上、または120℃以上であってもよい。加熱処理の温度の上限値は、例えば、400℃以下、300℃以下、または200℃以下であってもよい。また、繰り返し変形の回数(サイクル数とも称する)は特に限定されないが、1回以上、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、10回、20回、30回、または50回であってもよい。本願明細書において、「繰り返し変形性に優れる」とは、本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグが、従来のエポキシ樹脂を用いたプリプレグまたはセミプレグに比べて同じ加熱処理条件下で繰り返し変形可能な回数が多いことを意味する。例えば、本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、加熱処理温度100℃以上120℃未満において7回以上の繰り返し変形、または加熱処理温度120℃以上において3回以上の繰り返し変形に供した場合に、脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も当該プリプレグまたはセミプレグに確認されないものであり得る。
【0047】
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、それぞれ複数枚を積層化させた状態で存在していてもよい。プリプレグを複数枚積層化させたものをプリプレグ積層体とも称し、セミプレグを複数枚積層化させたものをセミプレグ積層体とも称する。
【0048】
さらに、本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、他の基材(金属)などへの接着性を有することが好ましい。前記接着性を有することにより、接着剤を必要とすることなくプリプレグまたはセミプレグを他の基材に接着させることができる。
【0049】
さらにまた、本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、自己支持性を有することが好ましい。本願明細書において、「自己支持性」とは、成形後に付与したい任意の形状、例えば湾曲した形状を有するプリプレグ積層体をオーブン等を用いた加熱に供した場合に、物理的な支持体を必要とすることなく加熱後も、その形状を維持する性質を指す。当該性質を具体的に説明すると、プリプレグ積層体の一端を平面を有する物体の主面に固定し、もう一端を宙に浮かせた状態のまま、オーブン等で加熱した場合に、加熱後も加熱前の形状(例えば湾曲した形状)を維持する性質を指す。
【0050】
自己支持性を有することにより、複合材料を成形する途中でオートクレーブを用いた成形からオーブンを用いた成形に切り替えることができる。オートクレーブを用いた成形と違って、オーブンを用いた成形では、汎用的な副資材(エポキシに合わせて耐熱性は180℃程度)を使用することができる。したがって、自己支持性を有することにより、高価な副資材を必要とすることなく複合材料を成形することができるため好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグは、航空機部材、自動車部材、建築部材、電子部品、および電子機器、ならびにそれらの材料に用いることができる。
【0052】
<プリプレグまたはセミプレグの製造方法>
本発明の一実施形態に係るプリプレグまたはセミプレグの製造方法は特に限定されないが、強化繊維に予め樹脂が含浸しているシートの表裏に前記熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を重ね、所定の温度および所定の圧力によってプレスすることによって得ることができる。強化繊維としては例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維等が挙げられる。強化繊維は、1種類でも2種類以上でもよい。
【0053】
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられる。また、金属繊維としては、金属繊維を炭素で被覆した炭素被覆金属繊維が挙げられる。この中でも、硬化物の強度を高める観点から、強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。
【0054】
一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されているが、そのまま用いても良く、必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない繊維を用いること、または有機溶剤処理もしくは加熱処理などの既存の方法にてサイジング剤を除去することもできる。また、あらかじめ炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊し、炭素繊維の単糸間に樹脂を含浸させやすくするような処理を施してもよい。サイジング剤使用量の低減またはサイジング剤の除去により、高温でのサイジング剤の分解に起因するボイドの形成および樹脂の変色を抑制できる。
【0055】
〔3.繊維複合材料〕
本発明の一実施形態には、プリプレグまたはセミプレグを硬化させてなる、繊維複合材料も包含される。繊維複合材料の成形方法は、
上記一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させて、プリプレグまたはセミプレグを得るステップと、
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させ、繊維複合材料を得るステップと、
を含む。一般式(I)中のAr、Ar、R、R、m、およびnの定義については、上述した通りである。
【0056】
また、前記成形方法は、プリプレグまたはセミプレグを硬化させる前に、プリプレグまたはセミプレグを、予備硬化させて、硬化度が0%超~99%の予備硬化プリプレグまたは予備硬化セミプレグを得るステップを含んでいてもよい。ここで、本明細書において予備硬化とは、プリプレグまたはセミプレグを部分的に硬化させることを意味する。したがって、予備硬化プリプレグおよび予備硬化セミプレグは、それぞれ部分的に硬化させたプリプレグおよびセミプレグを意味する。予備硬化プリプレグまたは予備硬化セミプレグの硬化度は、99%以下であってもよく、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0057】
さらに、前記成形方法は、プリプレグまたはセミプレグを予備硬化させる前に、プリプレグまたはセミプレグを繰り返し変形させるステップをさらに含んでいてもよい。さらにまた、前記成形方法は、予備硬化プリプレグを硬化させる前に、予備硬化プリプレグを繰り返し変形させるステップをさらに含んでいてもよい。繰り返し変形は、上述したように変形と加熱処理による硬化とを繰り返すことによって行うことができる。加熱処理の温度の下限値は、例えば、50℃以上、60℃以上、80℃以上、100℃以上、または120℃以上であってもよい。加熱処理の温度の上限値は、例えば、400℃以下、300℃以下、または200℃以下であってもよい。また、繰り返し変形の回数は特に限定されないが、1回以上、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、10回、20回、30回、または50回であってもよい。
【0058】
さらにまた、前記成形方法は、プリプレグまたはセミプレグを硬化させて成形させた後に、再度変形させ、その後、加熱により再度硬化させるステップを含んでいてもよい。本願明細書では、当該成形方法を再成形方法とも称する。
【0059】
前記繊維複合材料は、本発明の一実施形態に係るセミプレグまたはプリプレグのみを使用して得られた繊維複合材料であってもよく、本発明の一実施形態に係るセミプレグまたはプリプレグと、他の樹脂またはその組成物を強化繊維に含浸させてなるプリプレグまたはセミプレグとを、共に積層した、繊維複合材料であってもよい。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
〔4.まとめ〕
本発明の一実施形態は、以下の構成であってもよい。
<1>
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させてなり、繰り返し変形させることが可能な性質を有する、プリプレグまたはセミプレグ。
【0062】
【化3】
【0063】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
<2>
前記二官能フェノール化合物(A)が、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる、少なくとも1種の二官能フェノール化合物である、<1>に記載のプリプレグまたはセミプレグ。
<3>
前記(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)は、(ポリ)オキシエチレン基、および/または、(ポリ)オキシプロピレン基を有する、<1>または<2>に記載のプリプレグまたはセミプレグ。
<4>
前記式(I)において、mとnとの比が、n/m=1/0.1~1/100である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のプリプレグまたはセミプレグ。
<5>
<1>~<4>のいずれか1つに記載のプリプレグまたはセミプレグを硬化させてなる、繊維複合材料。
<6>
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させて、プリプレグまたはセミプレグを得るステップと、
【0064】
【化4】
【0065】
〔式(I)において、
ArおよびArは、それぞれ同一でも異なっても良く、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6~12の直鎖アルキレン基を示し、
は、(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)由来の、(ポリ)オキシアルキレン基を示し、
mは、1以上の整数を示し、
nは、1以上の整数を示し、
mで表される繰り返しユニットと、nで表される繰り返しユニットとは、ランダムに繰り返されるか、ブロックとして繰り返されるか、または交互共重合である。〕
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させ、繊維複合材料を得るステップと、
を含む、繊維複合材料の成形方法。
<7>
前記プリプレグまたはセミプレグを硬化させる前に、前記プリプレグまたはセミプレグを、予備硬化させて、硬化度が0%超~99%の予備硬化プリプレグまたは予備硬化セミプレグを得るステップをさらに含む、<6>に記載の方法。
<8>
前記プリプレグまたはセミプレグを予備硬化させる前に、前記プリプレグまたはセミプレグを50℃以上の温度で、1回以上繰り返し変形させるステップをさらに含む、<7>に記載の方法。
<9>
<1>~<4>のいずれか1つに記載のプリプレグまたはセミプレグを硬化させて成形させた後に、再度変形させ、その後、加熱により再度硬化させる、再成形方法。
【実施例0066】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
〔実施例1(JD19)〕
〔材料〕
ベンゾオキサジン樹脂の製造に使用した材料を以下に示す。
【0068】
(二官能フェノール化合物(A))
・2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA、BisA)(東京化成工業(TCI)社製)
(脂肪族ジアミン化合物(B))
・ヘキサメチレンジアミン(HMD)(東京化成工業(TCI)社製)
(ポリ)オキシアルキレンジアミン化合物(C)
・Jeffamine D-2000(Hentsman社製)
〔ベンゾオキサジン樹脂の製造〕
クロロホルム(40mL)中に、ビスフェノールA(4.5666g、0.02mol)、ヘキサメチレンジアミン(2.0923g、0.018mol)、Jeffamine D2000(4.0000g、0.002mol)、パラホルムアルデヒド(2.5840g、0.086mol)を投入し、60℃で反応させた。5時間経過後に反応を止めた。反応液を室温まで冷却した後、0.1N炭酸水素ナトリウム溶液60mLを用いて分液を3回行った。硫酸ナトリウムを用いて洗浄した後の反応液を脱水させ、ろ過した。溶媒を、エバポレーターを用いて加熱減圧下で除去し、真空オーブンを用いて40℃で減圧乾燥することで目的化合物であるベンゾオキサジン樹脂の粉末が得られた。
【0069】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、島津社製)を用いて、標準ポリスチレン換算で、得られた化合物の数平均分子量(Mn)、および重量平均分子量(Mw)を求めた。化合物の分子量は、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は6063、重量平均分子量(Mw)は17414であった。
【0070】
〔ベンゾオキサジン樹脂フィルムの成形〕
離形PET(厚さ50μm)の上に、中心部に孔(厚さ50μm、8cm角または10cm角)を有する離形PETスペーサーを置き、当該孔に、上記で得られた樹脂の粉末を置き、その上に離形PETを重ねた。この積層したものをステンレス板で挟み、プレス成型機で60℃、5分加熱後、圧力10MPaで10分プレス成型を行い、厚さ0.05mmのフィルムを得た。
【0071】
〔ベンゾオキサジン樹脂プリプレグの成形〕
上記で得られたフィルム2枚(それぞれ、片側の離型PETは剥離され、片側の離型PETは残存した状態)を、8cm角の炭素繊維平織材(商品名:CO6343B(東レ社製)、繊維目付:198g/m、密度:1.76g/cm)1枚の表裏に重ね、その重ね合わせた物(離型PET、フィルム、炭素繊維平織材、フィルム、離型PETの順に構成されている)をステンレス板で挟み、プレス成型機を用いて60℃で5分間加熱後、圧力1MPaで10分間プレス成型を行い、8cm角、厚さ0.2~0.3mmのプリプレグを得た。なお、炭素繊維平織材の表側には8cm角のフィルム、裏側には10cm角のフィルムを重ねてプリプレグを得た。続いて、得られたプリプレグを2枚用意し、それぞれの片面の離形PETを剥がし、それらプリプレグの剥がされた面同士を貼り合わせ、60℃で5分間加熱後、60℃にて圧力1MPaで10分間プレス成型を行い、8cm角、厚さ0.4~0.6mmのプリプレグ積層体(その上下面ともに離型PETが張り合わされている)を得た。
【0072】
<繰り返し変形性評価>
得られたプリプレグ積層体について、図1に示すような手順で繰り返し再成形性の評価を行った。
1.プリプレグ積層体を2×8cmの短冊状にカットし、上下の離形PETを取った。
2.上記1の工程を経たプリプレグ積層体の短冊を、金属バットの角に貼り合わせて曲がった形状とし、100℃で5分間、コンベクションオーブン内で加熱した。加熱後、オーブンから取り出し、プリプレグ積層体の短冊を金属バットから剥がすと、曲がった形状を維持したプリプレグ積層体の短冊が得られた。
3.上記2の工程で得られたプリプレグ積層体の短冊を、金属バットの底面に沿わせるように、短冊の両端をテープで貼り合わせて曲がっていない形状(すなわち、上記2の工程において曲げる前の平たい形状)とした。この形状を維持したまま、100℃で5分間、コンベクションオーブン内で加熱した。加熱後、オーブンから取り出し、プリプレグ積層体の短冊を金属バットから剥がすと、曲がっていない形状を維持したプリプレグ積層体の短冊が得られた。つまり、この3の工程では、プリプレグ積層体の短冊の形状が上記1の工程と同様の形状に復元された。
4.上記2と3を1サイクルとし、7サイクル実施した。
【0073】
繰り返し変形性評価の結果、7サイクル実施後の当該プリプレグ積層体には、脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も確認されなかった。
【0074】
〔比較例1〕
炭素繊維複合材料(CFRP)として、市販のUD(Uni-Directional)エポキシプリプレグを使用した。当該エポキシプリプレグ8cm角を直交に2枚積層し、2×8cmの短冊状にカットしてプリプレグ積層体(擬似平織材)を得た。疑似平織材とは、2枚のUDプリプレグの繊維が直交していることにより、それら2枚の繊維が織られたものではないものの、疑似的に平織材に似た配列を有している材を意味する。
【0075】
得られたプリプレグ積層体を、実施例1と同様に、上記繰り返し変形性評価における工程2および3からなるサイクルに供した。6サイクルまでは、当該プリプレグ積層体に脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も確認されなかった。一方で、7サイクル実施した後に当該プリプレグ積層体を確認したところ、繊維が破断していた。
【0076】
〔実施例2(JD19)〕
実施例1と同様の方法でプリプレグを成形した。その後、上記繰り返し変形性評価における工程2および3における加熱処理温度を120℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、得られたプリプレグの繰り返し変形性を評価した。
【0077】
繰り返し変形性評価の結果、7サイクル実施後の当該プリプレグ積層体には、脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も確認されなかった。
【0078】
〔比較例2〕
比較例1と同様の方法でプリプレグ積層体を得た。得られたプリプレグ積層体の繰り返し変形性を、実施例2と同様の方法で評価した。2サイクルまでは、当該プリプレグ積層体に脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も確認されなかった。一方で、3サイクル実施した後に当該プリプレグ積層体を確認したところ、繊維が破断していた。なお、前述のように3サイクル実施した後の確認において、繊維の破断が認められたため、4サイクル以降は実施しなかった。
【0079】
〔実施例3(JD19)〕
実施例1と同様の方法でプリプレグを成形した。その後、上記繰り返し変形性評価における工程2および3における加熱処理温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、得られたプリプレグの繰り返し変形性を評価した。
【0080】
繰り返し変形性評価の結果、1サイクル実施後の当該プリプレグ積層体には、脆化している、破断している、または割れているといったいずれの状態も確認されなかった。すなわち、当該プリプレグ積層体について、変形させ、その後60℃などの低温で加熱して硬化させた場合でも、変形後の形状が維持されていることが確認できた。
【0081】
〔まとめ〕
以上の繰り返し変形性評価結果より、実施例のプリプレグ積層体は、比較例のプリプレグ積層体と比較して、繰り返し変形性に優れることが確認された。すなわち、本発明の一実施形態に係るプリプレグを使用して作製したプリプレグ積層体は、加熱処理温度が高い場合および/またはサイクル数が多い場合であっても繰り返し変形性を有し、従来のエポキシプリプレグを使用したプリプレグ積層体と比較して、繰り返し変形性に優れることが明らかとなった。また、本発明の一実施形態に係るプリプレグを使用して作製したプリプレグ積層体は、変形させ、その後60℃などの低温で加熱して硬化させた場合でも、変形後の形状が維持されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
熱硬化性樹脂、または前記熱硬化性樹脂を含む組成物を、強化繊維に含浸させてなる、プリプレグまたはセミプレグを用いる分野に利用することができる。
図1