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特開2024-137372トンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137372
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】トンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20240927BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048869
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591075630
【氏名又は名称】株式会社アクティオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 康夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 信
(72)【発明者】
【氏名】松元 和伸
(72)【発明者】
【氏名】勝部 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 英一
(72)【発明者】
【氏名】甲谷 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】早坂 真知子
(72)【発明者】
【氏名】岩根 康之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宮島 克英
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅敬
(72)【発明者】
【氏名】立川 和寛
(72)【発明者】
【氏名】松原 智樹
(72)【発明者】
【氏名】日南 茂雄
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155KA00
2D155LA16
(57)【要約】
【課題】センサにより既設覆工の切削を行うドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置を検出して、検出結果に応じてドラムカッタの切削動作を制御するトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムを提供する。
【解決手段】本発明によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムは、トンネルの既設覆工の内空側に有ってドラムカッタを支持してトンネルの縦断方向に移動可能なアーチフレームと、アーチフレームに沿ってトンネル周方向に移動しながら既設覆工の切削を行うドラムカッタと、切削時のドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置の少なくとも一方を検出するセンサと、ドラムカッタの動作を制御する制御装置と、を有し、制御装置は、センサの検出結果に基づきドラムカッタの回避動作を含む動作モードの選択又はドラムカッタの位置に対応した切削深さ制御の少なくともいずれかの制御を行うことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの既設覆工の内空側に有ってドラムカッタを支持してトンネルの縦断方向に移動可能なアーチフレームと、
アーチフレームに沿ってトンネル周方向に移動しながら既設覆工の切削を行うドラムカッタと、
切削時のドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置の少なくとも一方を検出するセンサと、
ドラムカッタの動作を制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記センサの検出結果に基づきドラムカッタの回避動作を含む動作モードの選択又はドラムカッタの位置に対応した切削深さ制御の少なくともいずれかの制御を行うことを特徴とするトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム。
【請求項2】
前記センサはドラムカッタにかかる油圧を検出する油圧センサであり、
前記制御装置は、油圧センサの検出結果に基づき、油圧の大きさが所定値以下ではドラムカッタの移動を加速、維持、又は減速しながら切削を行い、油圧の大きさが所定値を超えるとドラムカッタの移動を停止するか、一時的に切削面からドラムカッタを離して回避し、油圧が所定値を下回ったことを確認すると切削を再開するようにドラムカッタの動作を制御するドラムカッタ駆動制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載のトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム。
【請求項3】
前記センサはドラムカッタの位置を検出する位置センサであり、
前記制御装置は、前記位置センサにより検出したドラムカッタの現在の位置情報データと、予め既設覆工に対して計測された3次元計測データから求められる既設覆工面の座標データと切削目標断面である切削面の座標データとの差分から求められた切削目標情報に基づき、ドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御するドラムカッタ駆動制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載のトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム。
【請求項4】
前記ドラムカッタ駆動制御部は、前記アーチフレームの設計上の設置位置と実際の設置位置との誤差情報の入力を受けつけ、前記切削目標情報を入力された誤差情報により補正し、補正後の切削目標情報とドラムカッタの現在の位置情報データに基づきドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御することを特徴とする請求項3に記載のトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム。
【請求項5】
前記アーチフレームは、トンネルの既設覆工の内空側に有って内部に人や車両の通行用の空間を有し、トンネルの縦断方向に移動可能な防護工の外周部に固定され、
前記アーチフレームのトンネルの縦断方向への移動は前記防護工のトンネルの縦断方向への移動によりなされることを特徴とする請求項1に記載のトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムに関し、特にセンサにより既設覆工の切削を行うドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置を検出して、検出結果に応じてドラムカッタの切削動作を制御することにより、狭隘な作業空間でも効率的に目標とする形状に切削を進めることができるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
平地の少ない日本では道路や鉄道などにトンネルが多用されているが、その多くが長い使用年月を経て老朽化が進み、補修や改修が必要となってきている。
トンネルの補修や改修には、内壁のひび割れに伴う落下を防止するために、内壁表面に繊維シート等を貼り付ける「内面補強工」や、強度の低下を食い止める、或は強度の回復・向上を図るためにコンクリートの吹き付けや補強板の設置を伴う「内巻補強工」など様々な方法が存在する。
しかし既設トンネルの長期的な活用を考慮すると、応急処置的な「内面補強工」よりも強度の回復・向上が図れる「内巻補強工」の採用が望ましい。このとき、建築限界の制約があることからトンネルの覆工コンクリートを所定厚さ切削してから「内巻補強工」を施工する覆工再生による改修方法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、覆工コンクリートを切削する部分より地山側に線状補強材を設置して補強を行ってから、所定厚さの覆工コンクリートを切削し、その後切削した元の覆工コンクリートの厚さを超えないようにコンクリートの打設、コンクリートの吹付け等の更新を行う既設トンネル覆工切削更新方法が記載されている。
【0004】
しかし、既設トンネルを更新しようとする場合、既に人や車両の通行に利用されているものであるため、人や車両の通行を止めて工事を行うのは好ましくない。そこで実際にはトンネル内を区切り、片側通行などの車線規制を行いながらの工事を行う方法が採用される。この場合、工事期間中は覆工コンクリートの切削片などが落下してくることがあるので、コの字を伏せたような形状で、工事エリアと通行可能エリアとを区切り、内部の通行可能エリアを安全に通行できるように防御する防護工が設置される。これにより工事エリアはトンネルの既設覆工の内空側と防護工の外壁との間の狭隘な作業空間となる。
【0005】
トンネルの既設覆工の切削にはドラムカッタを使用する。ドラムカッタは、通常は油圧ショベルに取り付けて使用するが、狭隘な作業空間では油圧ショベルは設置できず、また安全確保の観点から切削中にオペレータが作業空間に立ち入ることができない。このためオペレータが切削状況を確認しながらドラムカッタを操作する通常の操作環境は確保できず、特別な切削装置が必要となる。
【0006】
特許文献2には、トンネル内に防護工を設け、防護工に対して移動可能に配設し、トンネルの内壁の周方向に沿うアーチ状の支持部材と、支持部材に沿って周方向に移動可能な移動支持台に配設したドラムカッタを備え、ドラムカッタで覆工コンクリート内壁面を所定厚さ切削後、新たに覆工コンクリートを打設するトンネル覆工部の改築工法が記載されている。
【0007】
ドラムカッタ切削では、切削により過度の負荷が加わると回転が停止し、切削が中断してしまう。特許文献1、2にはこのような課題は触れられていない。こうした状況を回避するために、切削によってドラムカッタにかかる負荷をモニタリングしながらドラムカッタの稼働を最適化する覆工再生システムの提供が望まれる。
【0008】
また、覆工再生のための既設覆工の切削断面形状はあらかじめ計画時に設定されるが、既設覆工がもともと均一な断面で完成されているとは限らず、切削深さは場所により相違することがあり得る。切削断面を任意の形状に切削するためには断面位置により切削深さを制御する必要がある。そこで、断面位置ごとの必要な切削量を事前にデータ化し、そのデータに基づいてドラムカッタの位置に応じて切削深さを制御する覆工再生システムの提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-100031号公報
【特許文献2】特許第6715667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の覆工再生システムにおける問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、センサにより既設覆工の切削を行うドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置を検出して、検出結果に応じてドラムカッタの切削動作を制御することにより、狭隘な作業空間でも効率的に目標とする形状に切削を進めることができるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムは、トンネルの既設覆工の内空側に有ってドラムカッタを支持してトンネルの縦断方向に移動可能なアーチフレームと、アーチフレームに沿ってトンネル周方向に移動しながら既設覆工の切削を行うドラムカッタと、切削時のドラムカッタにかかる油圧又はドラムカッタの位置の少なくとも一方を検出するセンサと、ドラムカッタの動作を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記センサの検出結果に基づきドラムカッタの回避動作を含む動作モードの選択又はドラムカッタの位置に対応した切削深さ制御の少なくともいずれかの制御を行うことを特徴とする。
【0012】
前記センサはドラムカッタにかかる油圧を検出する油圧センサであり、前記制御装置は、油圧センサの検出結果に基づき、油圧の大きさが所定値以下ではドラムカッタの移動を加速、維持、又は減速しながら切削を行い、油圧の大きさが所定値を超えるとドラムカッタの移動を停止するか、一時的に切削面からドラムカッタを離して回避し、油圧が所定値を下回ったことを確認すると切削を再開するようにドラムカッタの動作を制御するドラムカッタ駆動制御部を備えることが好ましい。
【0013】
前記センサはドラムカッタの位置を検出する位置センサであり、前記制御装置は、前記位置センサにより検出したドラムカッタの現在の位置情報データと、予め既設覆工に対して計測された3次元計測データから求められる既設覆工面の座標データと切削目標断面である切削面の座標データとの差分から求められた切削目標情報に基づき、ドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御するドラムカッタ駆動制御部を備えることが好ましい。
【0014】
前記ドラムカッタ駆動制御部は、前記アーチフレームの設計上の設置位置と実際の設置位置との誤差情報の入力を受けつけ、前記切削目標情報を入力された誤差情報により補正し、補正後の切削目標情報とドラムカッタの現在の位置情報データに基づきドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御することが好ましい。
【0015】
前記アーチフレームは、トンネルの既設覆工の内空側に有って内部に人や車両の通行用の空間を有し、トンネルの縦断方向に移動可能な防護工の外周部に固定され、前記アーチフレームのトンネルの縦断方向への移動は前記防護工のトンネルの縦断方向への移動によりなされることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムによれば、ドラムカッタ切削時の稼働を自動制御することができるのでオペレータ等の作業者が作業空間に立ち入らないで切削を行うことが可能となる。これにより切削作業時の作業者の安全を確保し、粉塵や騒音、振動などの作業環境についても負荷を軽減することができる。
また、本発明に係るトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムによれば、切削中にドラムカッタにかかる負荷をモニタリングして稼働を制御することで、過負荷による切削の停止を防止し、施工速度を向上させることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明に係るトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムによれば、予め既設覆工に対して計測された3次元計測データから求められる既設覆工面の座標データと切削目標断面である切削面の座標データとの差分から求められた切削目標情報に基づき、ドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御することができるため、任意形状の切削目標断面でも目標通りに実現することが可能となる。
【0018】
本発明に係るトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムによれば、アーチフレームの設計上の設置位置と実際の設置位置との誤差情報を入力することで、切削目標情報を誤差情報により補正し、補正後の切削目標情報とドラムカッタの現在の位置情報データに基づきドラムカッタのアーチフレーム上の周方向位置及び覆工面への切削深さを制御するので、より正確な切削が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムのトンネル縦断方向からの構造例を示す図である。
図3】本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムのトンネル横断方向からの構造例を示す図である。
図4】本発明の実施形態による油圧センサからの油圧データに対する動作モード例を示す図である。
図5】本発明の実施形態による切削面データの設定例を示す図である。
図6】本発明の実施形態による誤差の補正例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係るトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムを実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図1を参照すると、本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム1は、既設トンネルの覆工コンクリートを切削するドラムカッタ30、ドラムカッタ30を支持するアーチフレーム40、アーチフレーム40を支持すると共に既設トンネル内の通行の安全を確保する防護工50、ドラムカッタ30の位置や油圧を感知するセンサ60、及びドラムカッタ30の位置や動作を制御する制御装置10を備える。
【0021】
本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム1は、老朽化などにより改修が必要となった既設トンネルの覆工コンクリートの内空側を、所定厚さ切削してから新たな覆工コンクリートを打設して改修する覆工再生工を、狭隘な作業空間でも効率的に、且つ精度よく、また安全に行うためのシステムである。
【0022】
このため本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム1(以下単に切削自動制御システム1と称す)は、トンネルの既設覆工の内空側に有ってドラムカッタ30を支持してトンネルの縦断方向に移動可能なアーチフレーム40と、アーチフレーム40に沿ってトンネル周方向に移動しながら既設覆工の切削を行うドラムカッタ30と、切削時のドラムカッタ30にかかる油圧又はドラムカッタ30の位置の少なくとも一方を検出するセンサ60と、ドラムカッタ30の動作を制御する制御装置10とを有する。制御装置10は、センサ60の検出結果に基づきドラムカッタ30の回避動作を含む動作モードの選択又はドラムカッタ30の位置に対応した切削深さ制御の少なくともいずれかの制御を行うように構成される。
【0023】
改修の対象となる既設トンネルは、基本的には通行に使用される現在利用中のトンネルであり、改修工事のために長期間通行を遮断することは好ましくない。そこで車線が減る可能性があるものの、内部の空間を人や車両が通行可能な状態で改修工事ができるように、防護工50が使用される。防護工50はコの字を伏せたような断面形状で形成され、上面と側方の3方向の壁で改修工事中に発生する切りくずや塵埃などが内部空間に落下したり舞いこんだりしないように防護する。改修工事は対象となるトンネルで全長にわたり一度に工事を行うわけではなく、改修の開始点から所定区間ずつ順次進めていく。そのため工事を行う所定区間の分だけ安全が保たれればよいので、防護工50は、所定区間に対応する長さで、トンネルの改修工事の進展に伴い、工事区間に合わせて移動するように設置する。移動は連続的に行う必要はなく、工事に合わせて断続的に移動を行えればよい。また移動を行わない状態では確実に固定されていることが求められる。そのため実施形態の防護工50は、移動を行うための走行駆動部51と、固定のためのアウトリガ伸縮駆動部52を備える。
【0024】
防護工50は、側壁の底面部に移動のための複数の走行ローラを備え、予めトンネル内に設けられたガイドレールの上を移動するように設置される。走行駆動部51は走行用モータを備え、外部からの制御信号を受けて複数の走行ローラのうちの駆動用走行ローラを回転駆動して防護工50を必要距離だけ移動するように構成される。
アウトリガ伸縮駆動部52は、防護工50の側壁に設けられたアウトリガを伸縮させるアウトリガ駆動モータを備え、防護工50を移動する際はアウトリガを縮めるように駆動し、防護工50を静止した場合はアウトリガを伸ばして、防護工50が意図しない移動を行わないように地面に固定する。
【0025】
防護工50を設置することにより、改修工事のための作業空間は既設覆工の内面と防護工50の外壁との間の狭隘な空間に限られることになる。このため既設覆工を切削するのに油圧ショベルを使用することができない。本発明の実施形態による切削自動制御システム1では、既設覆工の内面と防護工50の外壁との間の狭隘な空間にアーチ形状のアーチフレーム40を備え、アーチフレーム40により既設覆工を切削するドラムカッタ30を支持及びガイドすることで安全で効率的な切削作業を実現する。
【0026】
覆工再生工では既設トンネルに対し、トンネルの断面図に基づき既設覆工をどのような形状に切削するかを予め設定し、その形状になるように切削を進める。目標となる切削の完成形状は1つの既設トンネルに対しては1つであり、トンネルの縦断方向のどこの位置でも目標となる切削の完成形状は同じであるので、アーチフレーム40のアーチ形状は、この切削の完成形状に対応した形状に形成される。
【0027】
アーチフレーム40は、アーチ形状によりドラムカッタ30の周方向の移動をガイドするが、トンネルの縦断方向にはアーチフレーム40毎移動する必要がある。実施形態による切削自動制御システム1では、アーチフレーム40は防護工50に固定され、防護工50の移動に伴いトンネルの縦断方向に移動する。既設覆工の周方向の切削とトンネルの縦断方向への移動を繰り返すことで切削作業が進行していく。既設覆工の周方向の切削中は、アーチフレーム40にはドラムカッタ30を介して切削面からの反力や切削時の振動が加わるので、アーチフレーム40の両端部それぞれの近傍にアウトリガを備え、このアウトリガに対するアウトリガ伸縮駆動部41をさらに備える。
アウトリガ伸縮駆動部41は、アーチフレーム40が移動する際はアウトリガを縮め、既設覆工の切削を行う場合はアウトリガを伸ばして、アーチフレーム40を固定する。
【0028】
ドラムカッタ30は、略円柱状の形状で、その表面にコンクリートを切削するための突起を複数備えた切削部を回転しながらコンクリートに押し付けて切削していく装置であり、回転駆動部31、旋回駆動部32、及び起伏駆動部33を備える。
【0029】
回転駆動部31は、切削部を回転駆動するための回転駆動モータを備え、回転駆動モータは油圧モータである。旋回駆動部32は、アーチフレーム40に沿ってドラムカッタ30を旋回動作するための旋回駆動モータを備える。起伏駆動部33は、切削部を既設覆工に押し付ける押し付け動作を行うものである。一実施形態では切削部はアーチフレーム40に沿って移動する支持台車に、ヒンジにより既設覆工に向けて回動可能に取り付けられたアームの先端に備えられ、起伏駆動部33は、アームを必要量だけ回動させてアーム先端の切削部の切り込み深さが狙った値となるように駆動する。
【0030】
センサ60は、ドラムカッタ30にかかる油圧又はドラムカッタ30の位置の少なくとも一方を検出する。実施形態ではセンサ60は、油圧センサ61と位置センサ62とを備え、油圧センサ61は、ドラムカッタ30の回転駆動部31が備える油圧モータにかかる油圧を検出して油圧のセンサ情報を出力する。位置センサ62は、ドラムカッタ30の切削部の位置を特定するためのものであり、ドラムカッタ30がアーチフレーム40のどの位置にいるか、またトンネルの縦断方向に対してどの位置にいるかを検出するため、それぞれの位置センサ62を含む。位置センサ62はドラムカッタ30の位置を検出して位置のセンサ情報を出力する。3次元的な位置を検出可能な位置センサ62であれば、アーチフレーム40上の周方向の位置とトンネルの縦断方向に対する位置を1つのセンサで検出ができるので、この場合は複数の位置センサ62を設けなくてもよい。
【0031】
制御装置10は、センサ60からのセンサ情報を受け取り、センサ情報に基づきドラムカッタ30、アーチフレーム40、又は防護工50に対する制御信号を出力する装置であり、制御部11、入出力部12、記憶部13、表示部14、ドラムカッタ駆動制御部15、計算部21を備える。
ドラムカッタ駆動制御部15は、ドラムカッタ30の動作モードや位置などを制御するものであり、旋回制御部16、走行制御部17、起伏制御部18、カッタ回転制御部19、及びアウトリガ伸縮制御部20を備える。
【0032】
旋回制御部16は、アーチフレーム40上のドラムカッタ30の位置を制御する。旋回制御部16は、現状のドラムカッタ30の位置を把握し、切削作業の進展に合わせドラムカッタ30の旋回駆動部32に旋回動作を行う制御信号を出力してアーチ形状に沿った旋回動作を行わせる。ドラムカッタ30はアーチフレーム40上に複数設けてもよく、その場合旋回制御部16は、それぞれのドラムカッタ30の位置に基づき、それぞれのドラムカッタ30の旋回駆動部32に制御信号を出力してアーチ形状に沿った旋回動作を行わせる。
【0033】
また旋回制御部16は、油圧センサ61からのセンサ情報に基づき、ドラムカッタ30にかかる油圧の大きさが所定値以下の場合は、油圧の大きさに応じてドラムカッタ30のアーチ形状に沿った旋回動作を加速、現状維持、又は減速して進行するように制御信号を出力し、油圧の大きさが所定値を超えた場合は、ドラムカッタ30の旋回動作を停止するように制御信号を出力する。これによりドラムカッタ30が過負荷により停止してしまうことを防止する。過負荷により停止してしまうと復旧作業が必要となり作業効率が低下してしまうため、旋回制御部16は切削の進行を止めることによりこれを回避する。
【0034】
走行制御部17は、ドラムカッタ30のトンネル縦断方向の位置を把握し、防護工50の走行駆動部51に対し、トンネル縦断方向の移動を制御する制御信号を出力する。防護工50に固定されたアーチフレーム40も防護工50とともに移動するので、ドラムカッタ30も防護工50の移動距離だけトンネル縦断方向に移動する。
【0035】
起伏制御部18は、ドラムカッタ30の現状の位置及び既設覆工への切り込み深さに基づき、ドラムカッタ30の起伏駆動部33を制御する制御信号を出力する。ドラムカッタ30は起伏動作により、切削部がアーチフレーム40から離隔する方向に起き上がるか、アーチフレーム40に接近するように伏せる動作を行うので、切削部が起き上がる距離を制御することにより既設覆工への切り込み深さを制御することができる。
【0036】
前述のように、トンネルの断面図に基づき予め設定される目標となる切削の完成形状は1つであり、この形状は座標を持たない形状のみの切削面データとして付与される。この切削面データを、改修するトンネルの既設覆工に対し、どの位置に設定するかで、その位置における切り込み深さが変わってくる。このため、既設覆工に対し、どの位置に切削面データを設定するかが重要である。但し、既設覆工の表面形状は、施工誤差が含まれていることがあり、必ずしも当初のトンネルの断面図通りにできているとは限らない。
【0037】
そこで本発明の実施形態による切削自動制御システム1では、予め改修するトンネルの既設覆工に対し3次元計測機器による3次元計測を行って、計測により得られた点群より既設覆工面データを作成し、所定区間の既設覆工面データと所定区間にわたって延長された切削面データとを3次元的に重ね合わせたときに両データの差分として求められる所定区間の切削体積が、所定の条件を満たす位置に切削面データを設定し、これに整合するように切削を進める。所定の条件とは、例えば既設覆工面データと切削面データとを重ね合わせたときに、切削面データの中心線で左右に分割したときに左右の切削体積が同じとなるような位置である。
このように実施形態では、既設覆工面データと切削面データとの重ね合わせによって、ドラムカッタ30の3次元的な位置から、その位置における切り込み深さが求められるので、起伏制御部18は、この切り込み深さとなるように起伏駆動部33を制御する。
【0038】
なお、位置センサ62が検出するドラムカッタ30の位置は、トンネル内に設定した固定された基準点に基づけば誤差は出ないが、例えばアーチフレーム40に対する位置として検出する場合、アーチフレーム40自体がトンネル内でどのような位置で設置されているかにより位置情報には誤差を含み得る。そこで実施形態では、アーチフレーム40を設定すべき位置とアーチフレーム40が実際に設置された位置との誤差を測定し、制御装置10に誤差を入力すると、制御装置10では誤差に基づきドラムカッタ30の位置に対する切込み深さを補正し、起伏制御部18は、補正した切込み深さに応じて起伏駆動部33の起伏状態を制御する。
【0039】
また起伏制御部18は、油圧センサ61からのセンサ情報に基づき、ドラムカッタ30にかかる油圧の大きさが所定値以下の場合は、ドラムカッタ30による切削作業を進行するように制御信号を出力し、油圧の大きさが所定値を超えた場合は、切削面からドラムカッタ30を離して回避するように制御信号を出力する。
【0040】
カッタ回転制御部19は、ドラムカッタ30の回転駆動部31に回転の開始又は停止の制御信号を出力する。カッタ回転制御部19は、防護工50を走行させる場合、ドラムカッタ30の切削部の回転を止め、アーチフレーム40がアウトリガを伸ばして固定されている状態、又はさらに起伏駆動部33が切削のため起伏するように制御信号が出力された時点でドラムカッタ30の切削部の回転を開始するように制御する。
【0041】
アウトリガ伸縮制御部20は、防護工50を静止した状態で維持する場合に防護工50のアウトリガを伸ばし、防護工50を走行させる場合に防護工50のアウトリガを縮めるようにアウトリガ伸縮駆動部52を制御する制御信号を出力する。また既設覆工を切削する際にアーチフレーム40のアウトリガを伸ばし、防護工50とともにアーチフレーム40を走行させる場合にアーチフレーム40のアウトリガを縮まるようにアウトリガ伸縮駆動部41を制御する制御信号を出力する。
【0042】
計算部21は、センサ60からのセンサ情報を取得し、センサ情報が位置センサ62からの位置情報を含む場合は、センサ情報に基づきドラムカッタ30の現在の位置を算出する。計算部21は、センサ情報取得部22と位置計算部23とを備える。
【0043】
センサ情報取得部22は、センサ60からのセンサ情報を取得し、センサ情報が油圧センサ61からの油圧の情報を含む場合、取得した油圧の情報をドラムカッタ駆動制御部15に引き渡す。このときセンサ情報取得部22は、取得した油圧の情報から油圧の大きさが所定の値を超えるか否かを判断し、その判断結果と共に取得した油圧の情報をドラムカッタ駆動制御部15に引き渡すようにしてもよい。また、センサ情報が位置センサ62からの位置情報を含む場合は、取得した位置情報を位置計算部23に引き渡す。
【0044】
位置計算部23は、位置センサ62からの位置情報に基づきドラムカッタ30の現在の位置を算出する。位置センサ62からの位置情報は、防護工50のトンネル縦断方向の位置、アーチフレーム40上のドラムカッタ30の周方向の位置のように、個別の位置センサ62の情報として取得される。そこで位置計算部23は、これらの個別のセンサ情報を組み合わせて、ドラムカッタ30の3次元的な位置情報を計算する。他の実施形態として、3次元的な位置を検出可能な位置センサ62を使用する場合は、この位置センサ62から得られる3次元データに基づき、トンネル縦断方向の位置及びアーチフレーム40上のドラムカッタ30の周方向の位置を算出する。
【0045】
また、アーチフレーム40を設定すべき位置と実際に設置された場合の位置との誤差があり、測定の結果として誤差情報が制御装置10に入力された場合、位置計算部23は、誤差情報を参照して、正しいドラムカッタ30の3次元的な位置情報を計算する。このように位置計算部23で設置誤差を加味した正しいドラムカッタ30の3次元的な位置情報を計算した場合は、既に誤差の影響は盛り込み済みなので、起伏制御部18の目標とする切込み深さは、正しいドラムカッタ30の3次元的な位置情報に基づく切込み深さとなるように制御信号を出力する。
【0046】
入出力部12は、センサ60からのセンサ情報を取得したり、ドラムカッタ30、アーチフレーム40及び防護工50に制御信号を出力したりするためのものである。制御装置10とセンサ60やドラムカッタ30などとの間を有線又は無線通信で接続する場合、入出力部12は有線又は無線の通信手段を備える。また入出力部12は、ドラムカッタ30などの制御パラメータや、後述するアーチフレーム40の設置誤差などの入力のためのキーボード又はタッチパネルなどの入力手段を備える。
【0047】
記憶部13は、センサ60から取得するセンサ情報や、既設覆工を切削するための切削面データなどの各種情報を保存する。またセンサ60からのセンサ情報に基づきドラムカッタ30をどのように制御するかを組み込んだアプリケーションプログラムや、制御装置10自身を制御するための制御プログラム等を保存する。記憶部13は、半導体メモリ装置やメモリモジュール等により実現される。
【0048】
表示部14は、ドラムカッタ30などの制御パラメータや、後述するアーチフレーム40の設置誤差などの入力値の表示や、センサ60からのセンサ情報の表示などの他、必要によりアプリケーションプログラムの表示などを行う。表示部14は液晶表示装置などにより実現される。
【0049】
制御部11は、記憶部13に保存した制御プログラムに従い、各構成要素が上記機能を果たすように制御する。制御部11はマイクロコンピュータなどを実装した制御基板などにより実現される。
【0050】
図2は、本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムのトンネル縦断方向からの構造例を示す図である。
図2を参照すると、改修を行うトンネルの既設覆工コンクリート70の内空側に防護工50が設置され、防護工50の上面及び左右の側壁により、人や車両が安全に通行できる通行用の空間56が区画される。防護工50の左右の側壁の下面には移動用の走行ローラ52を備え、防護工50は、走行ローラ52により予めトンネル内に設置されたガイドレール53の上をトンネルの縦断方向に移動可能である。また防護工50の左右側面の下方部分には、アウトリガ54が設けられ、防護工50を移動させないときはアウトリガ54を伸ばして意図しない移動が起こらないように固定する。
【0051】
トンネル内は、防護工50の設置により区画される結果、覆工再生工のための作業空間は、既設覆工コンクリート70と防護工50の外壁との間の空間に限定される。この限定された作業空間内にアーチフレーム40が、設けられる。アーチフレーム40はアーチ形状をしており、ドラムカッタ30を既設覆工コンクリート70の内面に沿って移動可能に支持するフレームである。アーチフレーム40は防護工50が備えるアーチフレーム固定部55に固定され、防護工50の移動に合わせ、トンネルの縦断方向に移動可能である。アーチフレーム40の両端の近傍にはアウトリガ42が備えられ、ドラムカッタ30により既設覆工の切削が行われる際は、アウトリガ42を伸ばして地面に確実に固定する。
【0052】
ドラムカッタ30は、アーチフレーム40に沿って移動可能な支持台車34、支持台車34にヒンジ36を介して回動可能に取り付けられるアーム37、アーム37の先端に回転可能に取り付けられる切削部38、及び支持台車34とアーム37との間に固定され、伸縮することによりアーム37を回動させて起伏動作を行わせる起伏シリンダ35を備える。
【0053】
油圧センサ61は、図示しないが回転駆動モータに油を供給する油用の回路の何れかの場所に設置して、この回路を流れる油の圧力を検出する。
位置センサ62は、一つはアーチフレーム40上のドラムカッタ30の周方向の位置を検出するように設置する。例えば図2に示すようにアーチフレーム40に沿ってライン状の位置センサ62を設置し、ドラムカッタ30の支持台車34の接近又は支持台車34との接触等によりドラムカッタ30の位置を検出するようにしてもよい。
【0054】
ドラムカッタ30の位置、特に切削部38の中心位置は、例えばヒンジ36を基準として、水平からの立ち上がり角度Aとヒンジ36を中心としたアーム37の立ち上がり角度Bとの組み合わせとして表すことができる。アーム37の立ち上がり角度Bもアーチフレーム40上に設けた位置センサ62とは別の位置センサ62を設けることにより検出することができる。
ドラムカッタ30のトンネル縦断方向の位置は、例えばガイドレール53に沿ってライン状の位置センサ62を設置し、防護工50のトンネル縦断方向の走行により防護工50の特定点を検出することでも求めることができる。
【0055】
図3は、本発明の実施形態によるトンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システムのトンネル横断方向からの構造例を示す図である。
図3を参照すると、図3では左右方向となるトンネル縦断方向に沿ってガイドレール53が設置され、ガイドレール53上には、複数の走行ローラ52によりガイドレール53に沿って移動可能に防護工50が設置される。防護工50には図示しないアーチフレーム固定部55において、アーチフレーム40が固定される。実施形態では平行に並べた3つのアーチ状のフレームを複数の横枠で接続した構造であり、両端のフレームの下端部近傍にアウトリガ42を備える。
【0056】
アーチフレーム40の外周部にはドラムカッタ30が設けられる。ドラムカッタ30の回動するアーム37の先端には切削部38が回転可能に取り付けられ、アーム37を起き上がるように回動させて切削部38を回転させた状態で既設覆工コンクリート70に押し付けることにより、既設覆工コンクリート70を切削する。アーチフレーム40上の切削部38が切削しながら旋回するのに対応した位置には切りくず排出溝43が設けられる。切りくず排出溝43は、切削の際に発生する切りくずをガイドしながら落下させる。
【0057】
図4は、本発明の実施形態による油圧センサからの油圧データに対する動作モード例を示す図である。
図4を参照すると、上段に油圧センサ61からの油圧の値、下段にそれに対し制御装置10のドラムカッタ駆動制御部15が制御する動作モードが示される。油圧が18MPa以下の場合は、ドラムカッタ駆動制御部15は切削中のドラムカッタ30の旋回動作の加速を行うようにドラムカッタ30に制御信号を出力する。油圧が18MPaを超え、22MPa以下の場合は、ドラムカッタ駆動制御部15は旋回動作の現在速度を維持するようにドラムカッタ30に制御信号を出力する。また油圧が22MPaを超え、25MPa以下の場合は、ドラムカッタ駆動制御部15は旋回動作の現在速度を減速するようにドラムカッタ30に制御信号を出力する。このように油圧が25MPa以下の場合は、ドラムカッタ駆動制御部15は、ドラムカッタ30での切削作業は行いながら旋回動作の速度を一定範囲に収まるように制御を行う。
【0058】
しかし、油圧が25MPaを超えると、切削の負荷が過大となり切削部38の回転が停止してしまうおそれがある。そこでドラムカッタ駆動制御部15は、油圧が25MPaを超え、28MPa以下の場合は、旋回動作を止めるようにドラムカッタ30に制御信号を出力する。更に油圧が28MPaを超える場合は切削部38の回転が停止してしまう可能性が高いので、ドラムカッタ駆動制御部15は、切削部38を既設覆工コンクリート70から離して回避するように起伏シリンダ35を縮めるように制御信号を出力する。その後、油圧が低下し25MPa以下に戻ると、ドラムカッタ駆動制御部15は、切削を再開するように起伏シリンダ35を伸ばすように制御すると共に、ドラムカッタ30での切削作業を行いながら旋回動作の速度を一定範囲に収まるように制御を行う。
【0059】
ここで示した油圧の値や動作モードの組み合わせは一つの例であって、過負荷による切削部38の回転の停止が発生しないように制御できれば、他の値や他の動作モードの組み合わせであっても構わない。例えば油圧の値が所定値を超えたら旋回動作を止めるか一旦逆向きに旋回するように制御してもよい。
【0060】
図5は、本発明の実施形態による切削面データの設定例を示す図である。
図5を参照すると、左上に3次元計測機器により取得された既設覆工の3次元計測データが示される。図はトンネル表面の点群データを示したものであるが、点群の点数が多いため点群データでも立体形状をイメージすることができる。このように得られた点群を用いて面を表すデータに加工することにより既設覆工の形状を表す既設覆工面データが生成される。
下の図は所定区間の端部に相当する位置での既設覆工面データと、破線で示す切削面データとの重ね合わせの状態を示す図である。この図で内側の既設覆工面データと外側の切削面データとの間の部分が切削する部分を示す。
【0061】
右上に示す図は既設覆工である現況面に所定区間分の切削面データを重ね合わせて立体的に確認できるように示す図である。このように一度に工事を行う所定区間ごとに既設覆工面データと切削面データを重ね合わせることでその差分から切削体積が求められる。本発明の実施形態による切削自動制御システム1では、切削体積が所定の条件を満たすように既設覆工面データに切削面データを重ね合わせの位置を決定し、そのときの切削面データに基づき既設覆工の切削を進めていく。そこで一つの設定方法として例えば切削面データの中心線で左右に分割したときの左側の切削体積と右側の切削体積が同一になるように切削面データの位置を設定する。このように切削体積を想定して切削面データの重ね合わせ位置を決定することにより、施工誤差を含んで形成されていたトンネル内の特定箇所で切削によって必要以上に覆工が薄くなってしまうのを防止することができる。
重ね合わせ位置を含む切削面データは、予め取得され、制御装置10の記憶部13に保存しておき、ドラムカッタ駆動制御部15は、この重ね合わせ位置を含む切削面データに基づき、ドラムカッタ30の動作を制御して所望する切削形状を形成していく。
【0062】
図6は本発明の実施形態による誤差の補正例を示す図である。
図6を参照すると、トンネルのアーチフレーム40を本来設置すべき位置を2点鎖線で示し、実際に設置された位置を実線で示す。ドラムカッタ30は、アーチフレーム40に沿って移動するため、目標とする切削形状を得るためには、アーチフレーム40が設計時点の正しい位置に設置されている必要がある。しかし実際には防護工50の設置誤差により、アーチフレーム40の設置位置に誤差が含まれることがある。そこで実施形態ではアーチフレーム40に対し進行方向に向かって左側の2つのコーナ(L1、L2)と右側の2つのコーナ(R1、R2)について本来設置すべき位置との誤差を左右方向(X方向)と進行方向(Y方向)について計測し、制御装置10に入力する。図に例示したように例えば場所L1の左右方向誤差は20mmであり、進行方向誤差は‐4mmである。
【0063】
制御装置10は誤差入力を受けると、ドラムカッタ30の位置データを入力された誤差に基づき補正する、この補正によりドラムカッタ30の位置データがアーチフレーム40を本来設置すべき位置基準の位置データになるため、その位置における切削面データに基づき誤差のない正しい切込み深さを求めることができる。そこでドラムカッタ駆動制御部15は、正しい切込み深さとなるようドラムカッタ30に対する制御信号を出力する。
【0064】
このように本発明の実施形態による切削自動制御システム1は、防護工50を設置した状態で狭められた作業空間の中でも、人が立ち入らず、ドラムカッタ30が意図しない回転停止を起こさないように効率的に自動で切削を進めることができ、また切削面も既設覆工面データと切削面データの重ね合わせ条件に基づき誤差を加味して正確な既設覆工の切削及び再覆工を行うことが可能となるシステムである。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 トンネル既設覆工コンクリートの切削自動制御システム
10 制御装置
11 制御部
12 入出力部
13 記憶部
14 表示部
15 ドラムカッタ駆動制御部
16 旋回制御部
17 走行制御部
18 起伏制御部
19 カッタ回転制御部
20 アウトリガ伸縮制御部
21 計算部
22 センサ情報取得部
23 位置計算部
30 ドラムカッタ
31 回転駆動部
32 旋回駆動部
33 起伏駆動部
34 支持台車
35 起伏シリンダ
36 ヒンジ
37 アーム
38 切削部
40 アーチフレーム
41、52 アウトリガ伸縮駆動部
42、54 アウトリガ
43 切りくず排出溝
50 防護工
51 走行駆動部
52 走行ローラ
53 ガイドレール
55 アーチフレーム固定部
56 通行用の空間
60 センサ
61 油圧センサ
62 位置センサ
70 既設覆工コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6