(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137373
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H02K1/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048870
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】大重 成希
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲平
(72)【発明者】
【氏名】木戸 勇志
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA26
5H601DD01
5H601DD11
5H601GA40
5H601JJ04
(57)【要約】
【課題】ステータコアに圧縮力のみをかけて固定した場合と比較して、ステータコアの鉄損などの磁気特性を改善することが可能な回転電機を提供する。
【解決手段】このモータ100は、回転軸線C回りに回転するロータ1と、ロータ1が径方向の内側に対向するように配置されたステータコア21を含むステータ2と、ステータコア21の外周面21dに係合する係合部材4と、係合部材4を径方向の外側に引っ張る張力付与部材5とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線回りに回転するロータと、
前記ロータが径方向の内側に対向するように配置されたステータコアを含むステータと、
前記ステータコアの外周面に係合する係合部材と、
前記係合部材を前記径方向の外側に引っ張る張力付与部材とを備える、回転電機。
【請求項2】
前記ステータコアの前記径方向の外側において前記係合部材と対向して配置されるとともに、前記ステータコアの前記外周面に係合された前記係合部材が前記張力付与部材により引っ張られた状態で固定される固定部材をさらに備える、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記張力付与部材は、前記径方向において、前記固定部材と前記係合部材との間に微小隙間を介して配置した状態で、前記係合部材を前記径方向の外側に引っ張って前記固定部材に固定している、請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記ステータコアは、前記外周面に設けられ、前記係合部材が少なくとも1つに係合するように配置される複数のステータ側係合部を有する、請求項1に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、モータ(回転電機)が開示されている。このモータは、ロータと、ステータ(ステータコア)と、ステータハウジングとを備えている。ロータは、ステータの径方向の内側に配置されている。ステータは、焼き嵌めによりステータハウジングの内周面に固定されている。ステータは、ステータハウジングの熱収縮により生じる圧縮力がかかった状態で、ステータハウジングの内周面に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のモータでは、ステータハウジングからステータ(ステータコア)にかかる圧縮力によりステータ(ステータコア)に生じる圧縮応力に起因して、ステータ(ステータコア)の鉄損などの磁気特性が悪化するという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ステータコアに圧縮力のみをかけて固定した場合と比較して、ステータコアの鉄損などの磁気特性を改善することが可能な回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における回転電機は、回転軸線回りに回転するロータと、ロータが径方向の内側に対向するように配置されたステータコアを含むステータと、ステータコアの外周面に係合する係合部材と、係合部材を径方向の外側に引っ張る張力付与部材とを備える。
【0008】
この発明の一の局面における回転電機では、上記のように、係合部材を径方向の外側に引っ張る張力付与部材を備える。これにより、張力付与部材が係合部材を引っ張ることにより、係合部材が係合しているステータコアが径方向の外側に引っ張られるので、張力付与部材から係合部材を介してステータコアに伝達された引張力によりステータコアにおいて引張応力が生じる。ここで、ステータコアに引張応力がかかる場合、ステータコアにおける鉄損などの磁気特性が良化する。この点は、本願発明者がシミュレーションにより確認済みである。その結果、ステータコアに圧縮力のみをかけて固定した場合と比較して、ステータコアの鉄損などの磁気特性を改善することできる。なお、鉄損とは、ステータコアを磁化した際に発生する電気エネルギーの損失を示す。
【0009】
上記一の局面による回転電機において、好ましくは、ステータコアの径方向の外側において係合部材と対向して配置されるとともに、ステータコアの外周面に係合された係合部材が張力付与部材により引っ張られた状態で固定される固定部材をさらに備える。
【0010】
このように構成すれば、張力付与部材の引張力により、ステータコアの固定およびステータコアへの引張力の付与の両方を行うことができるので、ステータコアの固定およびステータコアへの引張力の付与を別個の構成で行う場合と比較して、部品点数の増加を抑制することができる。その結果、ステータコアの鉄損などの磁気特性を改善しつつ、回転電機の構造の複雑化を抑制することができる。
【0011】
この場合、好ましくは、張力付与部材は、径方向において、固定部材と係合部材との間に微小隙間を介して配置した状態で、係合部材を径方向の外側に引っ張って固定部材に固定している。
【0012】
このように構成すれば、張力付与部材は、微小隙間の分だけ係合部材を固定部材に向かって引っ張ることができるので、ステータコアにかけられる引張応力は、微小隙間の分だけ係合部材とともにステータコアを引っ張った引張力により発生する。この場合、微小隙間分の力に引張力を抑制することができるので、ステータコアにかけられる引張応力が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0013】
上記一の局面による回転電機において、好ましくは、ステータコアは、外周面に設けられ、係合部材が少なくとも1つに係合するように配置される複数のステータ側係合部を含む。
【0014】
このように構成すれば、回転電機の種類または構造などに合わせて、複数のステータ側係合部のうちの適切な箇所に係合部材を配置することができるので、異なる種類または構造の回転電機においても適切な引張応力をステータコアに付与することができる。
【0015】
なお、上記一の局面における回転電機において、以下のような構成も考えられる。
【0016】
(付記項1)
上記一の局面による回転電機において、ステータコアは、内周面から径方向のうちの内方向に突出するティースと、回転軸線の延びる方向の一方側から見て、係合部材に係合するように形成されるとともに、外周面から内方向に窪むステータ側係合凹部とを含み、ステータ側係合凹部は、径方向においてティースの位置に合わせて、ステータコアの外周面に設けられている。
【0017】
このように構成すれば、ステータ側係合凹部に起因してステータコアの径方向の長さが減少するが、ティースに対応する位置に係合凹部を形成することにより、ステータコアの径方向の長さを確保することができるので、張力付与部材により係合部材を引っ張った際にステータコアに生じる引張応力に対する機械的強度を確保することができる。
【0018】
(付記項2)
上記固定部材を備える回転電機において、張力付与部材は、係合部材を径方向の外側に引っ張る締結部材であり、係合部材は、締結部材が締結される締結孔を含み、固定部材は、締結孔に締結される締結部材が径方向の外側から挿入される挿入孔を含む。
【0019】
このように構成すれば、張力付与部材の引張力により、ステータコアの固定およびステータコアへの引張力の付与の両方を行うことが可能な構造を締結部材による締結で実現することできるので、固定および引張力の付与の構造を比較的簡易な構造で実現することができる。
【0020】
(付記項3)
上記固定部材を備える回転電機において、固定部材は、回転軸線の延びる方向の一方側から見て、リング状に形成されており、リング状の固定部材は、径方向において、隙間を設けた状態でステータを内側に収容している。
【0021】
このように構成すれば、リング状の固定部材へのステータコアの固定により、固定部材からステータコアに圧縮力がかからないようにすることができるので、ステータコアに圧縮応力が生じにくくすることができる。
【0022】
(付記項4)
この場合、リング状の固定部材の内周面には、径方向のうちの外方向に窪むとともに、係合部材の径方向の外側の部分が挿入される挿入凹部が形成されている。
【0023】
このように構成すれば、挿入凹部内に係合部材を挿入した分だけ、径方向におけるステータとリング状の固定部材との距離を小さくすることができるので、回転電機の径方向の大型化を抑制することができる。
【0024】
(付記項5)
上記ステータコアが、ステータ側係合部を有する回転電機において、ステータ側係合部は、径方向の内側端部の周方向の間隔よりも外側端部の周方向の間隔が小さくなるように、ステータコアの外周面を径方向のうちの内方向に窪ませたステータ側係合凹部であり、係合部材は、ステータ側係合凹部の形状に対応するように、径方向の内側端部の周方向の長さよりも外側端部の周方向の長さが小さくなるように形成されている。
【0025】
このように構成すれば、張力付与部材の引張力により係合部材が径方向の外側に引っ張られた際、径方向の外側に向かう係合部材がステータ側係合凹部に係合するので、張力付与部材の引張力に起因して、ステータコアから係合部材が外れないようすることができる。
【0026】
(付記項6)
上記一の局面による回転電機において、係合部材および張力付与部材は、回転軸線の延びる方向の一方側から見て、点対称に複数並んで配置されている。
【0027】
このように構成すれば、張力付与部材により係合部材を介してステータコアに均等に引張力をかけることができるので、ステータコアにおいて比較的均等に引張応力を発生させることができる。その結果、ステータコアにおいて磁気特性の改善が均一に行われるので、磁気特性の改善が偏ることに起因する磁界の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】一実施形態のモータのリング状の固定部材の側面図である。
【
図4】一実施形態のモータの係合部材の斜視図である。
【
図5】
図1のZm部分における締結部材による係合部材の締結が完了する前の状態を示した拡大図である。
【
図6】
図1のZm部分における締結部材による係合部材の締結が完了した状態を示した拡大図である。
【
図7】一実施形態のモータにおいて締結部材をリング状の固定部材を介して係合部材に締結した状態を示した側面図である。
【
図8】ステータコアに生じる圧縮応力および引張応力と、それらの応力に伴うステータコアの鉄損との関係を示したグラフである。
【
図9】一実施形態の第1変形例のモータにおいて、
図1のZm部分に相当する箇所の構造を示した拡大図である。
【
図10】一実施形態の第2変形例のモータにおいて、
図1のZm部分に相当する箇所の構造を示した拡大図である。
【
図11】一実施形態の第3変形例のモータにおいて、
図1のZm部分に相当する箇所の構造を示した拡大図である。
【
図12】一実施形態の第4変形例のモータにおいて、
図1のZm部分に相当する箇所の構造を示した拡大図である。
【
図13】一実施形態の第5変形例のモータにおいて、
図1のZm部分に相当する箇所の構造を示した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図1~
図8を参照して、実施形態によるモータ100の構成について説明する。なお、モータ100は、特許請求の範囲の「回転電機」の一例である。
【0031】
モータ100は、たとえば、同期モータ(Synchronous Motor)などである。モータ100は、駆動用モータとして車両に搭載されることが想定されている。
【0032】
図1に示すように、具体的には、モータ100は、ロータ1と、ステータ2と、リング状の固定部材3と、係合部材4と、締結部材5とを備えている。モータ100は、ステータ2の内側にロータ1を対向させて配置したインナーロータ型のモータである。なお、締結部材5は、特許請求の範囲の「張力付与部材」の一例である。
【0033】
ここで、ロータ1の後述するロータシャフト11の回転軸線Cの延びる方向をZ方向とし、Z方向のうちの一方をZ1方向とし、他方をZ2方向とする。また、ロータシャフト11回りの周方向をR方向とする。ロータシャフト11の延びる方向に直交する径方向をD方向とし、D方向のうちの外側をD1方向とし、D方向のうちの内側をD2方向とする。
【0034】
(ロータ)
ロータ1は、回転軸線C回りのR方向に回転するように構成されている。具体的には、ロータ1は、ロータシャフト11と、ロータコア12とを含んでいる。ロータシャフト11は、モータ100の回転中心となる軸部材である。ロータシャフト11は、回転軸線Cの延びる方向に沿って延びている。ロータシャフト11は、ロータコア12のシャフト挿入孔12aに挿入されている。ロータコア12は、D1方向において、ステータ2に対向するように配置されている。シャフト挿入孔12aは、Z方向にロータコア12を貫通している。
【0035】
(ステータ)
ステータ2は、図示しない外部電源から供給された3相交流電力により磁界を発生させるように構成されている。ステータ2は、ロータ1がD2方向に対向するように配置されている。ステータ2は、ステータコア21と、複数のステータ側係合部22とを含んでいる。
【0036】
ステータコア21は、複数の電磁鋼板がZ方向に積層されており、磁束を透過可能に構成されている。ステータコア21は、ティース21aと、バックヨーク21bとを有している。
図2に示すように、複数のティース21aの各々は、ステータコア21のD2方向側の内周面21cからD2方向に突出している。複数のティース21aの各々は、R方向に等角度間隔で配置されている。複数のティース21aの各々には、図示しないコイルが巻回されている。バックヨーク21bは、ステータコア21の複数のティース21aの各々のD1方向側の端部よりもD1方向側の外周部分である。バックヨーク21bのD方向における最大長さは、モータケースへのステータの固定に用いられるボルトを挿入するための公知の耳部が設けられたステータのバックヨークの最大長さと同じ長さに設けられている。
【0037】
〈ステータ側係合部〉
複数(12個)のステータ側係合部22の各々は、係合部材4(
図2において点線で表示)とD1方向およびD2方向の各々において係合する部分である。なお、複数(12個)のステータ側係合部22の数は、2個~11個、または、13個以上であってもよい。
【0038】
複数のステータ側係合部22の各々は、Z1方向側から見て、係合部材4に係合するように形成されている。複数のステータ側係合部22の各々は、ステータコア21の外周面21dからD2方向に窪んでいる。複数のステータ側係合部22の各々は、D2方向の内側端部のR方向の間隔Giよりも外側端部のR方向の間隔Goが小さくなるように、ステータコア21の外周面21dをD2方向に窪ませたステータ側係合凹部である。すなわち、複数のステータ側係合部22の各々は、D1方向側ほどR方向の間隔が小さくなる先細り形状を有している。複数のステータ側係合部22の各々のR方向における一対の側面の各々は、D1方向において複数のステータ側係合部22の各々のR方向の中心に向かって傾斜する面である。このように、複数のステータ側係合部22の各々一対の側面は、Z1方向側から見て、テーパ形状を有している。
【0039】
複数のステータ側係合部22の各々は、Z方向において、ステータコア21の外周面21dを貫通している。複数のステータ側係合部22の各々は、ステータコア21のZ1方向側の面からZ2方向側の面まで同一の形状を維持しながら延びる溝である。複数のステータ側係合部22の各々は、R方向に等角度θ間隔で配置されている。複数のステータ側係合部22の各々は、Z1方向側から見て、回転軸線Cが通る中心点に対して点対称に配置されている。複数のステータ側係合部22の各々は、D方向においてティース21aの位置に合わせて、ステータコア21の外周面21dに設けられている。すなわち、複数のステータ側係合部22の各々のR方向における中心位置Cr1とティース21aのR方向における中心位置Cr2とは、D方向において略一致している。また、複数のステータ側係合部22の各々は、Z1方向側から見て、中心位置Cr1と中心位置Cr2とを結んだ線に対して線対称の形状を有している。
【0040】
このような複数のステータ側係合部22のうちの少なくとも1つに、係合部材4が係合するように配置される。係合部材4を配置するステータ側係合部22は、モータ100の仕様に合わせて、ユーザにより判断される。なお、
図1では、複数のステータ側係合部22の全てに、係合部材4が配置された場合を一例として示している。
【0041】
(リング状の固定部材)
図1に示すように、リング状の固定部材3は、ステータコア21の外周面21dに係合された係合部材4が締結部材5により引っ張られた状態で固定される部材である。リング状の固定部材3は、Z1方向側から見て、ステータ2の全周を囲むように、リング状に形成されている。リング状の固定部材3のD2方向側の内周面は、ステータコア21のD1方向側の外周面21dに対向するように配置されている。リング状の固定部材3は、アルミニウムなどの金属製の部材である。リング状の固定部材3は、D2方向側にロータ1、ステータ2および係合部材4を収容する空間を有する収容部材である。すなわち、リング状の固定部材3は、D2方向において係合部材4と対向して配置されているとともに、D2方向においてステータコア21と対向して配置されている。また、リング状の固定部材3は、D方向において、隙間Sp(
図1において点線でその一部を示す)を設けた状態でステータ2を内側に収容している。これにより、リング状の固定部材3からステータコア21に対してD2方向に圧縮する圧縮力がかからない。
【0042】
図3に示すように、リング状の固定部材3には、締結部材5がD1方向側から挿入される複数の挿入孔31が設けられている。複数の挿入孔31の各々は、D2方向において、リング状の固定部材3を貫通している。複数の挿入孔31の各々は、Z方向において、リング状の固定部材3に等間隔に配置されている。複数の挿入孔31の各々は、Z方向に3つ配置されているが、2つ、または、4つ以上であってもよい。複数の挿入孔31の各々は、Z1方向側から見て、複数のステータ側係合部22(
図1を参照)の各々の配置位置に合わせて、R方向に等角度θ間隔で配置されている。
【0043】
(係合部材および締結部材)
図4および
図5に示すように、本実施形態のモータ100では、係合部材4および締結部材5を用いて、ステータコア21にD1方向への引張力がかけられる。このような係合部材4および締結部材5の各々の構造について、以下に説明する。なお、係合部材4および締結部材5は、複数のステータ側係合部22の全てに配置されているが、係合部材4および締結部材5の各々の構造は同様であるので、
図1のZm部分のステータ側係合部22に配置された係合部材4および締結部材5の構造についてのみ説明する。
【0044】
係合部材4は、ステータコア21の外周面21dに係合する部材である。係合部材4は、ステータ側係合部22にD1方向およびD2方向の各々において係合するように構成されている。
【0045】
すなわち、係合部材4のZ方向の長さは、ステータ側係合部22のZ方向の長さに合わせて設けられている。係合部材4は、凹形状のステータ側係合部22に対してZ方向の全体にわたって係合するように、Z方向に沿って延びる角柱形状を有している。係合部材4は、Z1方向側から見て、D1方向側に向かって先細る円錐台形状を有している。ここで、係合部材4は、ステータ側係合部22の形状に対応するように、D方向の内側端部(内側の辺)のR方向の長さLiよりも外側端部(外側の辺)のR方向の長さLoが小さくなるように形成されている。係合部材4のR方向における一対の側面の各々は、ステータ側係合部22の各々のR方向における一対の側面に合わせて、D1方向において係合部材4のR方向の中心に向かって傾斜する面である。このように、係合部材4の傾斜する一対の側面は、Z1方向側から見て、テーパ形状を有している。これにより、係合部材4とステータ側係合部22とは、D1方向において係合する。また、係合部材4のD2方向側の面とステータ側係合部22のD1方向側の面とが当接することにより、係合部材4とステータ側係合部22とは、D2方向において係合する。また、D方向において係合部材4の長さは、ステータ側係合部22の長さよりも大きい。
【0046】
係合部材4には、締結部材5が締結される締結孔41が形成されている。すなわち、締結孔41は、締結部材5のおねじ部が螺合するめねじ部により構成されている。締結孔41は、係合部材4のD1方向側の先端面からD2方向に窪んで形成されている。なお、締結孔41は、係合部材4をD方向に貫通していてもよい。締結孔41は、リング状の固定部材3にZ方向において等間隔に配置された複数の挿入孔31の各々の位置に合わせて複数(3つ)配置されている。なお、締結孔41の数は、複数の挿入孔31に合わせて2つ、または、4つ以上であってもよい。
【0047】
このような係合部材4は、ステンレスなどの非磁性材料であり、かつ、機械的強度を有する材質により形成されている。
【0048】
図5および
図6に示すように、締結部材5は、係合部材4をD1方向に引っ張る部材である。すなわち、締結部材5は、D方向において、リング状の固定部材3と係合部材4との間に微小隙間Gam(
図5を参照)を介して配置した状態で、係合部材4を径方向の外側に引っ張ってリング状の固定部材3に係合部材4を固定(
図6を参照)している。
【0049】
すなわち、締結部材5を締結孔41に螺合させて、締結部材5の頭部の座面をリング状の固定部材3のD1方向側の外周面に当接させた後、さらに締結部材5を締結孔41に螺合することにより、締結部材5により係合部材4がD1方向に引っ張られて移動する。この際、微小隙間Gamの分だけ、締結部材5により係合部材4がD1方向に引っ張られて移動することにより、係合部材4によりD1方向に向かう引張力がステータコア21にかけられるので、ステータコア21に引張応力が発生する。ここで、微小隙間Gamは、リング状の固定部材3のD方向の厚みよりも小さい間隔(たとえば、0.5mmなど)であることが好ましい。また、この際、締結部材5の頭部がリング状の固定部材3をD1方向に押圧しつつ、係合部材4がリング状の固定部材3をD2方向側に押圧することにより、リング状の固定部材3に係合部材4が固定されるとともに、ステータ2がリング状の固定部材3に固定される。このような固定状態において、係合部材4のD1方向側の先端部は、リング状の固定部材3の内周面に対してD2方向側に配置されている。
【0050】
図7に示すように、締結部材5は、リング状の固定部材3にZ方向において等間隔に配置された複数の挿入孔31(
図3を参照)に合わせて、Z方向において等間隔に配置されている。締結部材5は、挿入孔31を介して締結孔41に締結されている。
【0051】
上記したような係合部材4および締結部材5は、R方向に等角度θ間隔で配置されている(
図1を参照)。すなわち、係合部材4および締結部材5は、Z1方向側から見て、回転軸線Cが通る中心点に対して点対称に配置されている(
図1を参照)。
【0052】
〈微小隙間〉
図8には、締結部材5により係合部材4を引っ張る距離である微小隙間Gamの間隔を変化させた場合の、ステータコア21に生じる引張応力および圧縮応力と、ステータコア21に生じる鉄損との関係を示したグラフが示されている。このグラフは、ステータコアに引張応力がかかる場合、ステータコアにおける鉄損などの磁気特性が良化することを、本願発明者が確認するために行ったシミュレーション結果のグラフである。ここで、
図8に示す、第1間隔、第2間隔および第3間隔のうち第1間隔が、最小の間隔である。第3間隔は、第1間隔、第2間隔および第3間隔のうちの最大の間隔である。第2間隔は、第1間隔よりも大きく、かつ、第3間隔よりも小さい中間の間隔である。
【0053】
第1間隔、第2間隔および第3間隔のいずれの場合においても、圧縮応力がステータコア21に生じた場合の鉄損は、引張応力がステータコア21に生じた場合の鉄損と比較して大きくなる。また、微小隙間Gamの間隔が大きい程、引張応力が大きくなるが、必ずしも、引張応力の大きさに反比例して鉄損が小さくなる訳ではない。したがって、鉄損がもっとも小さくなるように微小隙間Gamの間隔を小さく設定することが好ましい。すなわち、ステータコア21、リング状の固定部材3、係合部材4および締結部材5の互いの組付け性が許容される限り、微小隙間Gamの間隔を小さく設定することが好ましい。この結果、ステータコア21に圧縮応力がかかる場合と比較して、鉄損を低減することが可能である。
【0054】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
本実施形態では、上記のように、モータ100は、係合部材4をD1方向に引っ張る締結部材5を備えている。これにより、締結部材5が係合部材4を引っ張ることにより、係合部材4が係合しているステータコア21がD1方向に引っ張られるので、締結部材5から係合部材4を介してステータコア21に伝達された引張力によりステータコア21において引張応力が生じる。ここで、ステータコアに引張応力がかかる場合、ステータコアにおける鉄損などの磁気特性が良化する。この点は、本願発明者がシミュレーション(
図8を参照)により確認済みである。ことが、従来から知られている。この結果、ステータコア21に圧縮力のみをかけて固定した場合と比較して、ステータコア21の鉄損などの磁気特性を改善することできる。なお、鉄損とは、ステータコア21を磁化した際に発生する電気エネルギーの損失を示す。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、モータ100は、ステータコア21のD1方向において係合部材4と対向して配置されるとともに、ステータコア21の外周面21dに係合された係合部材4が締結部材5により引っ張られた状態で固定される固定部材3を備えている。これにより、締結部材5の引張力により、ステータコア21の固定およびステータコア21への引張力の付与の両方を行うことができるので、ステータコア21の固定およびステータコア21への引張力の付与を別個の構成で行う場合と比較して、部品点数の増加を抑制することができる。この結果、ステータコア21の鉄損などの磁気特性を改善しつつ、モータ100の構造の複雑化を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、締結部材5は、D方向において、固定部材3と係合部材4との間に微小隙間Gamを介して配置した状態で、係合部材4をD1方向に引っ張って固定部材3に固定している。これにより、締結部材5は、微小隙間Gamの分だけ係合部材4を固定部材3に向かって引っ張ることができるので、ステータコア21にかけられる引張応力は、微小隙間Gamの分だけ係合部材4とともにステータコア21を引っ張った引張力により発生する。この場合、微小隙間Gam分の力に引張力を抑制することができるので、ステータコア21にかけられる引張応力が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、ステータコア21は、外周面21dに設けられ、係合部材4が少なくとも1つに係合するように配置される複数のステータ側係合部22を含んでいる。これにより、モータ100の種類または構造などに合わせて、複数のステータ側係合部22のうちの適切な箇所に係合部材4を配置することができるので、異なる種類または構造のモータ100においても適切な引張応力をステータコア21に付与することができる。
【0059】
[変形例]
今回開示された上記実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0060】
たとえば、上記実施形態では、リング状の固定部材3に係合部材4が固定された固定状態において、係合部材4のD1方向側の先端部は、リング状の固定部材3の内周面に対してD2方向側に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図9に示す第1変形例のように、係合部材4は、固定状態において、ステータ側係合部22に係合されているとともに、リング状の固定部材203の挿入凹部231に挿入されていてもよい。挿入凹部231は、リング状の固定部材203の径方向の内周面をD1方向に窪ませることにより形成されている。挿入凹部231には、係合部材4のD1方向の外側の部分が挿入されている。
【0061】
また、上記実施形態では、係合部材4の一対の側面は、Z1方向側から見て、テーパ形状を有しているとともに、複数のステータ側係合部22の各々の一対の側面は、Z1方向側から見て、テーパ形状を有している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図10~
図13の各々に示す第2~第5変形例のような構造であってもよい。
【0062】
本発明では、
図10に示す第2変形例のように、ステータ側係合部322は、D2方向の内側端部のR方向の間隔よりも外側端部のR方向の間隔が小さくなるように、ステータコア321の外周面21dをD2方向に窪ませた段差形状を有していてもよい。この場合、係合部材304は、ステータ側係合部322の形状に対応するように、D方向の内側端部(内側の辺)のR方向の長さよりも外側端部(外側の辺)のR方向の長さが小さくなるように、段差形状を有している。ここで、リング状の固定部材303には、係合部材304のD1方向の外側の部分が挿入される挿入凹部331が形成されている。
【0063】
また、本発明では、
図11に示す第3変形例のように、ステータ側係合部422は、D2方向の内側端部のR方向の長さよりも外側端部のR方向の長さが大きくなるように、ステータコア421の外周面21dからD2方向に突出したキー形状を有していてもよい。この場合、係合部材404は、ステータ側係合部422の形状に対応するように、D方向の内側端部のR方向の間隔よりも外側端部のR方向の間隔が小さくなるように、D2方向側の内表面をD1方向に窪ませて形成したキー溝404aを有している。ここで、リング状の固定部材403には、係合部材404のD1方向の外側の部分が挿入される挿入凹部431が形成されている。
【0064】
本発明では、
図12に示す第4変形例のように、ステータ側係合部522は、ステータコア521の外周面21dからD2方向に突出した部分において、D2方向の内側端部のR方向の間隔よりも外側端部のR方向の間隔が小さくなるように、外周面21dをD2方向に窪ませた段差形状を有していてもよい。この場合、係合部材504は、ステータ側係合部522の形状に対応するように、D方向の内側端部(内側の辺)のR方向の長さよりも外側端部(外側の辺)のR方向の長さが小さくなるように、段差形状を有している。ここで、リング状の固定部材503には、ステータコア521の外周面21dからD2方向に突出した部分、および、係合部材504が挿入される挿入凹部531が形成されている。
【0065】
本発明では、
図13に示す第5変形例のように、ステータ側係合部622は、ステータコア621の外周面21dからD2方向に突出した部分において、D2方向の内側端部のR方向の長さよりも外側端部のR方向の長さが大きくなるように、ステータコア621の外周面21dからD2方向に突出したキー形状を有していてもよい。この場合、係合部材604は、ステータ側係合部622の形状に対応するように、D方向の内側端部のR方向の間隔よりも外側端部のR方向の長さが小さくなるように、D2方向側の内表面をD1方向に窪ませて形成したキー溝604aを有している。ここで、リング状の固定部材603には、ステータコア621の外周面21dからD2方向に突出した部分、および、係合部材604が挿入される挿入凹部631が形成されている。
【0066】
また、上記実施形態では、リング状の固定部材3は、Z1方向側から見て、ステータ2の全周を囲むように、リング状に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、固定部材は、回転軸線の延びる方向の一方側から見て、ステータにおける係合部材と係合した部分にのみ設けられてもよい。また、固定部材は、回転軸線の延びる方向の一方側から見て、ステータの全周を囲むように、リング状以外の形状を有していてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、モータ100(回転電機)は、駆動用モータとして車両に搭載されることが想定されていると説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、回転電機は、発電機のジェネレータとして用いられることも想定されている。
【0068】
また、上記実施形態では、特許請求の範囲の「張力付与部材」として締結部材5を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、張力付与部材は、径方向の外側に引っ張る引張力をステータコアにかける、引張ばね、または、レバーなどであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、係合部材4は、凹形状のステータ側係合部22に対してZ方向の全体にわたって係合している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、係合部材は、回転軸線の延びる方向において、凹形状のステータ側係合部の中間部などの少なくとも一部に対して係合していればよい。
【符号の説明】
【0070】
1 ロータ
2 ステータ
3、203、303、403、503、603 固定部材
4、304、404、504、604 係合部材
5 締結部材(張力付与部材)
21、321、421、521、621 ステータコア
21d 外周面
22、322、422、522、622 ステータ側係合部
100 モータ(回転電機)
C 回転軸線
Gam 微小隙間