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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137383
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/067 20060101AFI20240927BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240927BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20240927BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240927BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/00 M
B23K26/00 P
B23K26/046
B23K26/064 Z
B23K26/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048887
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】井本 大暉
(72)【発明者】
【氏名】北村 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】森 正裕
(72)【発明者】
【氏名】多谷本 真聡
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD00
4E168CA02
4E168CA03
4E168CA05
4E168CA06
4E168CA11
4E168CB13
4E168CB18
4E168CB22
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA33
4E168DA38
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA05
4E168EA06
4E168EA13
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
4E168JA15
4E168JA17
4E168KA10
4E168KA17
4E168KB02
(57)【要約】
【課題】分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させることができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】本開示に係るレーザ加工装置は、レーザ光を加工対象物の加工面に照射してレーザ加工を行う装置であって、レーザ光の光ビームを出射する光源と、光ビームが伝搬する光軸に沿って配置され、入射した光ビームを加工面に集光させる集光レンズと、光軸に沿って入射した光ビームを、光軸に対して所定の分岐角度で2つ以上に分岐させ、分岐プロファイルを有する照射ビームを出射する回折光学素子と、集光レンズの加工面に対する照射方向の位置を調整する第1駆動ユニットと、回折光学素子の加工面に対する照射方向の位置を調整する第2駆動ユニットと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工対象物の加工面に照射してレーザ加工を行う装置であって、
レーザ光の光ビームを出射する光源と、
前記光ビームが伝搬する光軸に沿って配置され、入射した前記光ビームを前記加工面に集光させる集光レンズと、
前記光軸に沿って入射した前記光ビームを、前記光軸に対して所定の分岐角度で2つ以上に分岐させ、分岐プロファイルを有する照射ビームを出射する回折光学素子と、
前記集光レンズの前記加工面に対する照射方向の位置を調整する第1駆動ユニットと、
前記回折光学素子の前記加工面に対する照射方向の位置を調整する第2駆動ユニットと、
を備える、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記集光レンズと前記回折光学素子とは、前記光ビームの伝搬方向に沿って順に配置され、
前記第1駆動ユニットと前記第2駆動ユニットとは、前記集光レンズと前記回折光学素子とのそれぞれを前記光軸に沿って移動させる、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
レーザ加工中の前記照射ビームの状態を制御する制御システムを更に備え、
前記制御システムは、特性量検出部と、補正量演算装置と、制御部とを含み、
前記特性量検出部は、レーザ加工中の前記照射ビームの状態の変動を示す特性量を検知し、
前記補正量演算装置は、検知された前記特性量に基づき、前記加工面に対する前記照射ビームの集光位置のズレを補正する第1補正量と、前記加工面における前記照射ビームの前記分岐プロファイルの変動を補正する第2補正量とを算出し、
前記制御部は、算出された前記第1補正量と前記第2補正量とに基づいて、前記照射ビームの状態の変動を補正するように、前記第1駆動ユニットと前記第2駆動ユニットとを動作させる、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記特性量検出部は、温度センサを備え、前記特性量は前記集光レンズの温度である、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記特性量検出部は、画像検出器を備え、前記特性量は前記加工面における加工スポットの形態である、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記特性量検出部は、光センサを備え、前記特性量は、前記加工面により発生されるプラズマ光と、反射光と、熱放射光とのうちの少なくとも1つの少なくとも一部の光量である、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記補正量演算装置は、
検出された前記特性量に基づき、前記第1補正量を算出し、
算出された前記第1補正量と前記回折光学素子の前記分岐角度とに基づき、前記第2補正量を算出する、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記第1駆動ユニットは、前記集光レンズ及び前記回折光学素子を前記加工面に対して前記第1補正量を移動させ、
前記第2駆動ユニットは、前記回折光学素子を前記加工面に対して前記第2補正量を移動させる、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工対象物にレーザ光を照射することで加工を行うレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料を加工する技術としてレーザ加工が知られている。レーザ加工では、集光レンズ等を用いて所定の焦点位置に集光させたレーザ光を加工対象物に照射する。また、レーザ光源から出射されるレーザ光ビームを、例えば、回折格子などの回折光学素子を用いて複数の光ビームに分岐することで、所望の分岐光ビームを試料に照射して多点同時に加工を行うものがある。
【0003】
レーザ加工を行う際に、集光レンズがレーザ光を吸収することによってレンズの温度が上昇し、熱レンズ効果と呼ばれる集光位置のズレが発生してしまう現象がある。これにより、レーザ光照射ビームが変動し加工品質の低下が発生する原因となる。そのため、加工レンズの位置を調整することで、熱レンズ効果による集光位置の変動を補正する焦点距離自動調整装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2012/137579A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ加工の用途において、ビーム分岐光学部品を用いて、単一のレーザ光源からのレーザ光照射ビームを複数に分岐して加工面の所望のスポットに集光して多点を同時に加工する光学系がある。このような光学系において、例えば、特許文献1に開示されたような焦点距離自動調整装置を利用すると、加工レンズの位置調整が、分岐光ビームの分岐幅などに影響を及ぼすため、所望の加工パターンを実現することが困難である。したがって、分岐光ビームを用いたレーザ加工において、加工精度の低下が生じる課題を有している。
【0006】
そこで、本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであって、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させることができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係るレーザ加工装置は、レーザ光を加工対象物の加工面に照射してレーザ加工を行う装置であって、レーザ光の光ビームを出射する光源と、光ビームが伝搬する光軸に沿って配置され、入射した光ビームを加工面に集光させる集光レンズと、光軸に沿って入射した光ビームを、光軸に対して所定の分岐角度で2つ以上に分岐させ、分岐プロファイルを有する照射ビームを出射する回折光学素子と、集光レンズの加工面に対する照射方向の位置を調整する第1駆動ユニットと、回折光学素子の加工面に対する照射方向の位置を調整する第2駆動ユニットと、を備える。
【0008】
本明細書にいう「分岐プロファイル」とは、レーザ加工に用いられる照射ビームを構成する分岐光ビームの分岐幅、各分岐光ビームの強度分布等を含む光ビームの分岐特性を表すものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様に係るレーザ加工装置によれば、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図
図2図1のレーザ加工装置の制御システムの構成例を示すブロック図
図3A】熱レンズ効果の発生及び熱レンズ効果に起因した集光位置のズレを概念的に示す図
図3B図3Aの集光位置のズレの補正及び分岐プロファイルの変動の補正を概念的に示す図
図4】実施の形態1に係る集光レンズ温度と照射ビームの集光位置変化量との関係を示す図
図5】実施の形態1に係る照射ビームの集光位置変化量と分岐プロファイル変動量との関係を示す図
図6】実施の形態1に係るレーザ加工装置の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャート
図7A図1のレーザ加工装置における熱レンズ効果が発生する前の照射ビームを示す図
図7B図1のレーザ加工装置における熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図
図8A図7Bの照射ビームに対して集光位置補正を示す図
図8B図8Aの照射ビームに対して分岐プロファイル補正を示す図
図9】本開示の実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図
図10】加工面における加工スポットの直径と照射ビームの集光位置変化量との関係を示す図
図11図9のレーザ加工装置の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャート
図12図9のレーザ加工装置の熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図
図13】本開示の実施の形態3に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図
図14】戻り光の光量と照射ビームの集光位置変化量との関係を示す図
図15図13のレーザ加工装置の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャート
図16図13のレーザ加工装置の熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図
図17】従来の焦点距離自動調整装置を備えたレーザ加工装置を示す図
図18A】分岐光ビームを用いたレーザ加工装置であって、熱レンズ効果が発生したときの照射ビームの例を示す図
図18B図18Aの照射ビームに対して、従来の焦点距離自動調整装置を用いて補正された分岐光ビームを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の第1態様によれば、レーザ光を加工対象物の加工面に照射してレーザ加工を行う装置であって、レーザ光の光ビームを出射する光源と、光ビームが伝搬する光軸に沿って配置され、入射した光ビームを加工面に集光させる集光レンズと、光軸に沿って入射した光ビームを、光軸に対して所定の分岐角度で2つ以上に分岐させ、分岐プロファイルを有する照射ビームを出射する回折光学素子と、集光レンズの加工面に対する照射方向の位置を調整する第1駆動ユニットと、回折光学素子の加工面に対する照射方向の位置を調整する第2駆動ユニットと、を備える、レーザ加工装置を提供する。
【0012】
この態様によれば、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させることができる。
【0013】
本開示の第2態様によれば、集光レンズと回折光学素子とは、光ビームの伝搬方向に沿って順に配置され、第1駆動ユニットと第2駆動ユニットとは、集光レンズと回折光学素子とのそれぞれを光軸に沿って移動させる、第1態様に記載のレーザ加工装置を提供する。
【0014】
本開示の第3態様によれば、レーザ加工中の照射ビームの状態を制御する制御システムを更に備え、制御システムは、特性量検出部と、補正量演算装置と、制御部とを含み、特性量検出部は、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量を検知し、補正量演算装置は、検知された特性量に基づき、加工面に対する照射ビームの集光位置のズレを補正する第1補正量と、加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動を補正する第2補正量とを算出し、制御部は、算出された第1補正量と第2補正量とに基づいて、照射ビームの状態の変動を補正するように、第1駆動ユニットと第2駆動ユニットとを動作させる、第1又は第2態様に記載のレーザ加工装置を提供する。
【0015】
本開示の第4態様によれば、特性量検出部は、温度センサを備え、特性量は集光レンズの温度である、第3態様に記載のレーザ加工装置を提供する。
【0016】
本開示の第5態様によれば、特性量検出部は、画像検出器を備え、特性量は加工面における加工スポットの形態である、第3態様に記載のレーザ加工装置を提供する。
【0017】
本開示の第6態様によれば、特性量検出部は、光センサを備え、特性量は、加工面により発生されるプラズマ光と、反射光と、熱放射光とのうちの少なくとも1つの少なくとも一部の光量である、第3態様に記載のレーザ加工装置を提供する。
【0018】
本開示の第7態様によれば、補正量演算装置は、検出された特性量に基づき、第1補正量を算出し、算出された第1補正量と回折光学素子の分岐角度とに基づき、第2補正量を算出する、第3から第6態様のいずれか1つに記載のレーザ加工装置を提供する。
【0019】
本開示の第8態様によれば、第1駆動ユニットは、集光レンズ及び回折光学素子を加工面に対して第1補正量を移動させ、第2駆動ユニットは、回折光学素子を加工面に対して第2補正量を移動させる、第3から第7態様のいずれか1つに記載のレーザ加工装置を提供する。
【0020】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0021】
<分岐光ビームを用いたレーザ加工における課題及び本発明に至る過程>
先ず、図17図18A、及び図18Bを参照しながら、分岐光ビームを用いたレーザ加工における課題、及び本発明に至る過程について説明する。図17は、従来の焦点距離自動調整装置を備えたレーザ加工装置1を示す図である。図18Aは、分岐光ビームを用いたレーザ加工装置11であって、熱レンズ効果が発生した状態の照射ビームの例を示す図である。図18Bは、図18Aの照射ビームに対して、従来の焦点距離自動調整装置を用いて補正された分岐光ビームを示す図である。
【0022】
図17は、特許文献1に開示された焦点距離自動調整装置を備えたレーザ加工装置1を示している。レーザ加工装置1は、レーザ光2を加工対象物9に集光させる加工レンズ3を備え、加工レンズ3の上面に配置された温度センサ5によってレーザ加工中の加工レンズ3の温度が検出される。計算用コンピュータ7は温度センサ5の検出結果に基づいて加工レンズ3の熱レンズの大きさを算出する。制御用コンピュータ8は、計算用コンピュータ7の算出結果に基づいてレンズ駆動装置6を制御し、レンズホルダ4をレーザ光2の光軸方向に移動させて加工レンズ3の位置を調整し、熱レンズ効果による加工レンズ3の集光位置の変動を補正する。
【0023】
図17に示すレーザ加工装置1に、レーザ光2を複数の光ビームに分岐させる分岐光学部品10をレーザ光の光路上に設置することで、図18Aに示す分岐光ビームを用いたレーザ加工装置11をすることができる。図18Aの分岐光ビームを用いたレーザ加工装置11において、分岐光学部品10は、入射した光ビームを、光軸Oiに対して分岐角度θiで複数のビームに分岐させて、分岐光ビームを有する照射ビーム2aを形成する。照射ビーム2aは、加工レンズ3によって加工対象物9に集光し、加工対象物9において、照射ビーム2aは、分岐光ビームの集光スポット間に所定の分岐幅Waを有する分岐プロファイルで照射し、加工を行う。
【0024】
しかし、レーザ加工中に、加工レンズ3は、レーザ光2が透過するときにレーザ光2の一部を吸収するため、熱レンズと呼ばれる現象が発生する。このとき、図18Aに示すように、照射ビーム2aは、加工対象物9から離れた位置にある集光面9aに集光することとなる。
【0025】
図18Aに示す熱レンズ効果が発生した状態の照射ビームに対して、図17に示す従来の焦点距離自動調整装置を用いて補正を行った結果、図18Bに示すように、レンズホルダ4を図示-Z方向に移動することで補正された照射ビーム2bは、加工対象物9上に集光することができる。しかしながら、分岐光学部品10の分岐角度θiが一定であるため、補正後の照射ビーム2bは、分岐幅Waと異なる分岐幅Wbの分岐プロファイルで加工対象物9に照射する。このように、従来の焦点距離自動調整装置を用いて補正した結果、加工対象物9における照射ビームの分岐プロファイルが変動し、所望の加工パターンを実現できなくなる問題が生じる。
【0026】
そこで、本発明者(ら)は、分岐光ビームを用いたレーザ加工において、熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のズレを補正するとともに、加工対象物の加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動を補正することを可能にするレーザ加工装置について検討し、以下の発明に至った。
【0027】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0028】
本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置について、図1乃至図16を参照しながら説明する。添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供するものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。なお、図面において実質的に同一の部材については、同一の符号を付している。
【0029】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成、及びレーザ加工中に照射ビームの状態の変動の補正について、図1から図8Bを参照して説明する。
【0030】
なお、本明細書にいう「照射ビームの状態」とは、照射ビームの集光位置、及び加工面における照射ビームの分岐プロファイルを含む。
【0031】
(レーザ加工装置)
先ず、本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置100の構成を示す概略図である。図2は、図1のレーザ加工装置の制御システム110の構成例を示すブロック図である。
【0032】
図1のレーザ加工装置100は、X-Z平面に示され、照射システム101と、制御システム110と、駆動部106とを備えている。照射システム101は、レーザ光を加工対象物131の加工面に照射してレーザ加工を行い、制御システム110は、レーザ加工中の照射ビームの状態の制御を行い、駆動部106は、制御システム110の制御により動作し、照射システム101に含まれる光学素子の加工対象物131の加工面に対する照射方向の位置を調整する。以下、レーザ加工装置100の構成要素及び動作について、詳細に説明する。
【0033】
(照射システムの構成)
本実施の形態では、照射システム101は、加工用光源であるレーザ発振器102と、集光レンズ104及び回折光学素子105を含む光学ユニット103とを備えている。
【0034】
レーザ発振器102は、内部にレーザ光をコリメートする機能を有し、出射口からは平行なレーザ光ビームL1を出射することができる。レーザ発振器102の一例として、例えば、波長1070nm、最大出力3kW、連続発振するファイバレーザを用いることができる。本実施の形態では、レーザ発振器102より出射されたレーザ光ビームL1は、平行でかつガウス強度分布を有する。
【0035】
なお、本開示は、レーザ発振器102の種類又は加工に用いられるレーザ光に限定されない。レーザ光の波長、パワー、強度分布、出射パターンなどは、加工条件、加工材料によって適したものを選択することができ、例えば、用途に応じて、グリーン、ブルー、UVなどの帯域の波長、トップハット強度分布、又は、パルスレーザなどを用いることができる。
【0036】
レーザ発振器102から出射したレーザ光ビームL1は、光軸Oaに沿って図示-Z方向に進み、光学ユニット103に入射する。光学ユニット103の集光レンズ104は、入射したレーザ光ビームL1を加工対象物131の加工面に集光されるように構成される。これに限定されないが、本実施の形態では、説明を簡単にするために、球面凸レンズを集光レンズ104として用いる例を説明する。集光レンズ104は、例えば、焦点距離255mm、透過率が少なくとも50%以上、好ましくは90%以上の球面凸レンズで構成することができる。なお、本開示は集光レンズの構成に限定されない。集光レンズ104は、球面凸レンズに限定されることなく、例えば、高出力対応の組みレンズ、非球面レンズ等を使用することができ、また、単一のレンズ素子で構成されてもよく、複数のレンズ素子を含むレンズ系で構成されてもよい。
【0037】
集光レンズ104と回折光学素子105とは、レーザ光ビームが伝搬する光軸に沿って配置される。また、本実施の形態では、集光レンズ104と回折光学素子105とは、照射システム101におけるレーザ光ビームの伝搬方向に沿って順に配置されている。図1に示すように、集光レンズ104を透過した光ビームL2は、光軸Oaに沿って進み、回折光学素子105に入射する。回折光学素子105は、入射した光ビームL2を、光軸Oaに対して分岐角度θ0で2つ以上のビームに分岐させて、分岐光ビームを有する照射ビームL3を出射する。
【0038】
本実施の形態では、回折光学素子105は、合成石英に微細な回折格子パターンを加工することで構成され、入射したレーザ光を少なくとも50%以上、好ましくは80%以上透過させることができる。回折光学素子105の位相パターンを制御することで、異なる分岐プロファイルを有する分岐光ビームを形成することが可能である。
【0039】
回折光学素子105に入射した光ビームL2は、回折光学素子105を透過して分岐し、分岐プロファイルを有する照射ビームL3となる。なお、図1において、光軸Oaに対して分岐角度θ0を成す2つの分岐光ビームを含む分岐パターンを有する照射ビームL3が形成される例を示しているが、本開示はこれに限定されない。3つ以上の分岐光ビームを含む分岐パターンを有する照射ビームL3を形成することもできる。
【0040】
光学ユニット103を透過した照射ビームL3は、加工対象物131に入射する。加工対象物131の加工面は集光レンズ104の集光位置に配置され、照射ビームL3の複数の分岐光ビームは、加工対象物131の加工面における複数の集光スポットに集光し、所望のパターンを加工することができる。なお、光学ユニット103は、用途に応じて、例えば、ミラー等の他の光学素子(図示せず)を更に含むことができる。
【0041】
加工対象物131は、照射ビームL3により加工される材料であり、本実施の形態では、SPCCやSUSなどの鉄系の金属を用いることができる。なお、加工対象物131は、鉄系材料に限定されるものではなく、アルミニウムや銅などの非鉄金属材料、さらには樹脂材料やセラミックスなどの脆性材料などを用いられてもよい。
【0042】
レーザ加工中に、集光レンズ104及び回折光学素子105は、透過するレーザ光の一部を吸収することで熱レンズ効果が発生する。熱レンズ効果により、光学ユニット103を透過した照射ビームの集光位置のズレ及び分岐プロファイルの変動が生じる。本開示のレーザ加工装置100は、制御システム110が駆動部106を動作させることで、熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のズレ及び分岐プロファイルの変動を補正することができる。以下、駆動部106と制御システム110との構成を説明する。
【0043】
(駆動部及び制御システムの構成)
図1に示すように、駆動部106は、第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とを含み、第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とは、集光レンズ104と前記回折光学素子105との加工対象物131の加工面に対する照射方向の位置をそれぞれ調整するように構成されている。
【0044】
なお、ここで、「照射方向の位置を調整する」ことは、完全に照射ビームの出射光軸に沿った移動で位置を調整するだけでなく、例えば、照射ビームの出射光軸における移動分量を有するように位置を調整してもよい。
【0045】
本実施の形態では、第1駆動ユニット107は、光学ユニット103に固定され、光学ユニット103全体の照射方向の位置を調整するように用いられる。第1駆動ユニット107が加工対象物131の加工面に対して、照射方向において光学ユニット103を移動させることによって、集光レンズ104及び回折光学素子105を含む光学系の集光位置を調整することができる。本実施の形態では、第1駆動ユニット107は、集光レンズ104と回折光学素子105とを光軸Oaに沿って移動させることができる。
【0046】
本実施の形態では、第2駆動ユニット108は、回折光学素子105に固定されている。また、第2駆動ユニット108は、光ビームを透過させるように開口を設けて回折光学素子105を固定支持するための支持ホルダとして用いるように構成することができる。第2駆動ユニット108は、回折光学素子105の照射方向の位置を調整するように用いられる。第2駆動ユニット108が加工対象物131の加工面に対して、照射方向において回折光学素子105を移動させることによって、回折光学素子105の照射方向の位置を調整でき、加工対象物131の加工面における照射ビームの分岐プロファイルを調整することができる。本実施の形態では、第2駆動ユニット108は、回折光学素子105を光軸Oaに沿って移動させることができる。
【0047】
本実施の形態に係る制御システム110は、特性量検出部111と、補正量演算装置115と、制御部120とを含む。補正量演算装置115は、特性量検出部111及び制御部120にそれぞれ接続され、制御部120は、駆動部106の第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とのそれぞれに接続されている。
【0048】
(特性量検出部)
特性量検出部111は、加工対象物131を照射するときに、照射システム101の照射ビームL3の状態を示す特性量を検知するために用いられ、検出された特性量の検知データDは補正量演算装置115に送信される。本実施の形態では、特性量検出部111は、温度センサ112とデータ転送部113とを有し、集光レンズの温度を照射ビームの状態の変動を示す特性量として検知するように構成されている。
【0049】
温度センサ112は、集光レンズ104のフチ部分のレーザ光ビームL1の光路にあたらない箇所に設けられている。本実施の形態では、例えば、温度センサ112は、測定範囲0~1100℃の熱電対を集光レンズ104表面に接触させ、レーザ加工中の集光レンズ104の温度を測定するように構成することができる。なお、温度センサ112は熱電対に限定されることなく、熱放射式の非接触温度センサ、測温抵抗体などの他の接触式温度センサを用いてもよい。
【0050】
温度センサ112により検出された集光レンズ104の温度測定データD1は、照射ビームL3の状態を示す特性量の検知データDとして、データ転送部113に記録され、補正量演算装置115に送信される。なお、データ転送部113による温度測定データの送信は、有線接続によって実現されてもよく、無線転送によって実現されてもよい。
【0051】
(補正量演算装置)
補正量演算装置115は、特性量検出部111により検知された特性量に基づいて、レーザ加工中に生じる熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のズレを補正する補正量と、加工対象物の加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動を補正する補正量とを算出するために用いられる。
【0052】
本実施の形態では、補正量演算装置115は、特性量検出部111から温度測定データD1を受信し、補正量を算出する演算処理を行う。以下、図2を参照して補正量演算装置115の構成について説明する。図2は、図1に示す制御システム110の補正量演算装置115の一構成例を示している。補正量演算装置115は、例えば、コンピュータ装置である。このコンピュータ装置として、汎用的なコンピュータ装置を用いることができ、例えば、図2に示すように、処理部116と、記憶部117と、表示部119とを含むことができる。なお、補正量演算装置115は、更に入力装置、記憶装置、インタフェース等を含んでもよい。
【0053】
≪処理部116≫
処理部116は、例えば、中央処理演算子(CPU)、マイクロコンピュータ、又は、コンピュータで実行可能な命令を実行できる処理装置であればよい。
【0054】
≪記憶部117≫
記憶部117は、例えば、ROM、EEPROM、RAM、フラッシュSSD、ハードディスク、USBメモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の少なくとも一つであってもよい。
【0055】
記憶部117には、プログラム118を含む。なお、補正量演算装置115がネットワークに接続されている場合には、必要に応じてプログラム118をネットワークからダウンロードしてもよい。プログラム118について、後段で詳述する。
【0056】
≪表示部73≫
表示部119は、例えば、処理部116によりプログラム118が実行されて、得られた集光位置補正量及び分岐プロファイル補正量の結果等を、例えば、ディスプレイ等に表示することができる。なお、表示部119は、用途によって省略することもできる。
【0057】
(制御部)
制御部120は、補正量演算装置115により算出された補正量に基づいて、熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のズレ及び加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動を補正するように制御することができる。本実施の形態では、制御部120は、補正量演算装置115から受信した補正量データE1,E2のそれぞれに基づいて、駆動部106へコマンドF1,F2を送信し(図1参照)、駆動部106の第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とを動作させて、レーザ加工中に照射ビームの状態の変動を補正するように制御する。なお、制御部120による補正量データE1,E2の受信及びコマンドF1,F2の送信は、有線接続によって実現されてもよく、無線転送によって実現されてもよい。
【0058】
≪レーザ加工中に照射ビームの状態の変動の補正≫
本開示のレーザ加工装置100において、レーザ加工中に照射ビームの状態の変動を補正するための補正量は、プログラム118の実行により算出される。プログラム118は、集光位置補正量算出部118aと、分岐プロファイル補正量算出部118bとを含むことができる。集光位置補正量算出部118aと、分岐プロファイル補正量算出部118bとは、実行するときには、記憶部117から読み出されて処理部116にて実行される。
【0059】
集光位置補正量算出部118aと分岐プロファイル補正量算出部118bとによる補正量の算出について、図3から図5を参照して更に詳細に説明する。図3Aは、熱レンズ効果の発生及び熱レンズ効果に起因した集光位置のズレを概念的に示す図である。図3Bは、図3Aの集光位置のズレの補正、及び分岐プロファイルの変動の補正を概念的に示す図である。図4は、実施の形態1に係る集光レンズ104の温度と照射ビームL3の集光位置変化量との関係を示す図である。図5は、実施の形態1に係る照射ビームL3の集光位置変化量と分岐プロファイル変動量との関係を示す図である。
【0060】
図1に示したように、レーザ光ビームL1が、集光レンズ104と回折光学素子105とを順に透過した後、照射ビームL3で加工対象物131に照射する。集光レンズ104の透過率は少なくとも80%以上、好ましくは98%以上であり、回折光学素子105の透過率は少なくとも50%以上、好ましくは80%以上である。これにより、レーザ加工中に、集光レンズ104と回折光学素子105とは、照射光を透過させるとともに、レーザ光の一部を吸収する。レーザ加工中に生じる熱レンズ効果は、当該レーザ光の吸収に起因する。
【0061】
図3Aは、熱レンズ効果が発生する前(図3Aの(a))、及び熱レンズ効果が発生したとき(図3Aの(b))に、図示X-Z面において、レーザ加工装置から出射される照射ビームを示している。図3Aの上段には、レーザ光ビームL1の強度分布を概念的に示している。本実施の形態では、レーザ光L1は、ビーム中心強度が強く、概ねガウス強度分布を有している。
【0062】
図3Aの下段には、集光レンズ104と回折光学素子105との受光面における温度分布を示している。熱レンズ効果が発生する前には、図3Aの(a)の下段に示すように、集光レンズ104と回折光学素子105との受光面において、温度分布が概ね均一である。一方、レーザ光の照射に連れ、ガウス強度分布のレーザ光の一部を吸収することにより、図3Aの(b)の下段に示すように、集光レンズ104と回折光学素子105との受光面は、周縁部よりも中央部の温度が高くなり、不均一な温度分布が生じる。
【0063】
図3Aの中段には、熱レンズ効果発生前後の集光レンズと回折光学素子との形状及び照射ビームの変動を示している。図3Aの(b)の中段に示すように、集光レンズ104と回折光学素子105との中央部の温度が高くなるにつれ、周縁部よりも中央部が大きく膨張し、変形が生じている。変形した集光レンズ104aは焦点距離が短くなり、変形した回折光学素子105aは、変形により集光レンズの効果を持つようになり、いずれも照射ビームの集光特性に影響を与える。このように、熱レンズ効果が発生する。
【0064】
図3Aの(a)の中段に示すように、熱レンズ効果が発生する前の集光レンズ104と回折光学素子105とを透過した照射ビームL3aは、加工対象物の加工面である集光面Lf1に集光している。これに対し、図3Aの(b)の中段に示すように、熱レンズ効果が発生すると、変形した集光レンズ104aと回折光学素子105aとを透過した照射ビームL3bは、加工対象物の加工面Lf1から離れた集光面Lf2に集光することとなる。このように、熱レンズ効果発生前後において、加工対象物の加工面に対して、照射ビームの集光位置のズレZfが生じる。なお、図3Aでは、照射ビームの集光位置がレーザ照射側(図示+Z方向)にずれるように示しているが、熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のずれ方向はレーザ照射側に限らず、図示-Z方向のズレが生じることもあり得る。
【0065】
集光レンズ104の焦点距離をf1とし、回折光学素子105の焦点距離をf2とし、集光レンズ104と回折光学素子105との間の距離をdzとすると、集光レンズ104と回折光学素子105との組み合わせによる複合光学系の合成焦点距離fsは、以下式(1)で表すことができる。
【0066】
【数1】
【0067】
具体例を考えると、例えば、熱レンズ効果が発生する前に、集光レンズ104の焦点距離が255mmであり、回折光学素子105が平板のためレンズとして機能しないため、焦点距離が無限遠であり、集光レンズ104と回折光学素子105との間の距離が80mmである場合、すなわち、f1=255mm、f2=∞、dz=80mmにより、合成焦点距離fs=255mmである。
【0068】
一方で、熱レンズ効果が発生することによって、集光レンズ104と回折光学素子105の中央部が膨張した場合、変形した集光レンズ104aの焦点距離が250mmとなり、変形した回折光学素子105aは中央部の膨張により集光レンズの効果を持つようになり、焦点距離が5000mmとなると、f1=250mm、f2=5000mm、dz=80mmにより、合成焦点距離fs=242mmとなる。
【0069】
したがって、熱レンズ効果により、変形した集光レンズ104aと回折光学素子105aとを透過した照射ビームの集光位置は、図示+Z方向に13mmのズレZfが生じる。また、レーザ加工中に熱レンズ効果により生じる照射ビームの集光位置のズレは、加工時間の経過にともなって大きさが変化し、その後所定の大きさに飽和する傾向がある。本実施の形態では、プログラム118の集光位置補正量算出部118aは、特性量検出部111により検出された照射ビームの状態の変動を示す特性量に基づいて、照射ビームL3bの集光位置のズレを補正する集光位置補正量を算出することができる。
【0070】
レーザ加工中に、熱レンズ効果により照射ビームの状態が変動したとき、集光レンズの温度が変化する。そのため、本実施の形態では、特性量検出部111は、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として集光レンズの温度を検知し、集光位置補正量算出部118aは、集光レンズの温度測定データD1に基づいて、集光位置補正量を算出することができる。集光位置補正量の算出は、例えば、図4に示す集光レンズ温度と照射ビームの集光位置変化量との関係を利用して実行することができる。
【0071】
具体的には、例えば、シミュレーションにより予め算出した集光レンズ温度値と集光位置変化量との関係テーブル、又は、実験により予め取得した集光レンズ温度の測定値と集光位置変化量とのマッピングデータをデータベースとして作成し、記憶部117に保存することができる。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から集光レンズ温度と照射ビームの集光位置変化量との関係性データを読み出して、レーザ加工中に温度センサ112の測定値をインプット値として用いることで、照射ビームL3bの集光位置補正量Zfをアウトプット値として得ることができる。
【0072】
算出された集光位置補正量ZfのデータE1は、補正量演算装置115から制御部120に送信される。制御部120は、受信した集光位置補正量Zfに基づいて、駆動部106にコマンドF1を出力する(図1参照)。コマンドF1を受けることによって、第1駆動ユニット107が動作し、例えば、図3Aの(b)の集光レンズ104a及び回折光学素子105aを含む光学ユニット103の全体を、光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して図示-Z方向に集光位置補正量Zfだけ移動させる。これによって、図3Bの(a)に示すように、熱レンズ効果による集光位置のズレが補正され、補正後の照射ビームL3cの集光面が加工対象物の加工面Lf1となる。
【0073】
なお、本実施の形態では、第1駆動ユニット107が集光レンズ104a及び回折光学素子105aを含む光学ユニット103の全体を移動させて照射ビームの集光位置を補正するように説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1駆動ユニット107は、集光レンズ104aと回折光学素子105aとを個別に、それぞれ集光位置補正量Zfだけ、光ビームの伝搬光軸に沿って移動させて照射ビームL3bの集光位置を補正するように構成することも可能である。
【0074】
図3Aの(a)に示すように、熱レンズ効果が発生する前、回折光学素子105の分岐角度θ0によって、加工対象物の加工面Lf1において、照射ビームL3aは、分岐光ビームの集光スポット間に分岐幅d0を有する分岐プロファイルで照射する。このとき、回折光学素子105と加工面Lf1との距離がH0とすると、加工面Lf1における照射ビームL3aの分岐光ビームの分岐幅d0は以下の式(2)で表すことができる。
【0075】
【数2】
【0076】
次に、熱レンズ効果による照射ビームの集光位置を補正した後、図3Bの(a)に示すように、加工対象物の加工面Lf1と回折光学素子105aとの間の距離は、集光位置を補正する前のH0よりも集光位置補正量Zfだけ短縮される。このとき、回折光学素子105aの分岐角度θ0によって、加工対象物の加工面Lf1において、照射ビームL3cは、分岐光ビーム間に分岐幅d1を有する分岐プロファイルで照射する。加工面Lf1における照射ビームL3cの分岐光ビームの分岐幅d1は以下の式(3)で表すことができる。
【0077】
【数3】
【0078】
このように、照射ビームの集光位置の補正前後において、加工面おける照射ビームの分岐プロファイルの変動が生じる。本実施の形態では、本実施の形態では、プログラム118の分岐プロファイル補正量算出部118bは、加工面における照射ビームL3cの分岐プロファイルの変動を補正する分岐プロファイル補正量を算出することができる。
【0079】
分岐プロファイル補正量の算出は、例えば、図5に示す集光位置変化量と分岐プロファイル変動量との関係を用いて実行することができる。具体的には、回折光学素子の所定の分岐角度θ0に対して、照射ビームの集光位置変化量と加工面における分岐プロファイル変動量との関係グラフを作成し、記憶部117に保存することができる。分岐プロファイル補正量算出部118bは、実行するときに、記憶部117から所定の分岐角度θ0に対する集光位置変化量と分岐プロファイル変動量との関係グラフを読み出して、集光位置補正量算出部118aにより算出された集光位置補正量Zfをインプット値として用いることで、加工面における分岐プロファイル補正量Zdをアウトプット値として得ることができる。
【0080】
算出された分岐プロファイル補正量ZdのデータE2は、補正量演算装置115から制御部120に送信される。制御部120は、受信した集光位置補正量Zdに基づいて、駆動部106にコマンドF2を出力する(図1参照)。コマンドF2を受けることによって、第2駆動ユニット108が動作し、例えば、図3Bの(a)の回折光学素子105aを、光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して、図示+Z方向に分岐プロファイル補正量Zdだけ移動させる。これによって、図3Bの(b)に示すように、回折光学素子105aと加工面Lf1との間の距離が分岐プロファイル補正量Zdだけ増加してH1となる。このように、照射ビームの集光位置の補正により生じた加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動が補正され、補正後の照射ビームL3dは、熱レンズ効果が発生する前の照射ビームL3aの分岐光ビームの分岐幅d0(図3Aの(a)に示す)を有する分岐プロファイルで加工面Lf1を照射することができる。
【0081】
なお、図3Bの(b)に示すように、回折光学素子105aを図示+Z方向に分岐プロファイル補正量Zdだけ移動させることによって、集光レンズ104aと回折光学素子105aとの相対距離は、dzから分岐プロファイル補正量Zdだけ短縮されてdz1となる。これによって、集光レンズ104aと回折光学素子105aとの組み合わせによる複合光学系の合成焦点距離fs(式(1))が影響されるとも思われる。しかし、式(1)を参照すれば、集光レンズ104aと回折光学素子105aとの焦点距離の積f1×f2が非常に大きいため、集光レンズ104aと回折光学素子105aとの相対距離dzの変化が合成焦点距離fsへの影響は通常無視できるレベルである。
【0082】
また、レーザ加工装置の構成において、回折光学素子105をレーザ発振器102と集光レンズ104との間に配置して光学ユニット103を構成することもできる(図18A図18B参照)。本実施の形態では、集光レンズ104と回折光学素子105とを、照射システム101における光ビームの伝搬方向に沿って順に配置するように光学ユニット103を構成している。このような構成は、レーザ加工中に照射ビームの状態の変動の補正において有利である。
【0083】
例えば、図18A図18Bに示すレーザ加工装置の構成では、光ビームが分岐光学部品10を透過して加工レンズ3に入射する。この場合、分岐光学部品10と加工レンズ3との相対距離が変化したとき、分岐光学部品10の分岐角度θiによって、加工レンズ3における入射光ビームのビームスポットが変化する。そのため、分岐光学部品10と加工レンズ3との相対距離の変化は照射ビームの集光特性や軸外収差に影響を及ぼす場合がある。
【0084】
本実施の形態のレーザ加工装置100は、光ビームが集光レンズ104を透過して回折光学素子105に入射するように構成されている。この場合、例えば、照射ビームの分岐プロファイルを補正するときに、集光レンズ104と回折光学素子105との相対距離が変化しても、集光レンズ104における入射光ビームのビームスポットが変化しないため、照射ビームの集光特性や軸外収差に影響を与えない。また、回折光学素子105の分岐特性は光ビームの入射位置に依存せず、光軸の横方向における入射光ビームのズレも光学的に影響を与えないため、光学系の設計が容易にできるとともに、照射ビームの分岐プロファイルの補正による集光特性への影響を回避することができる。
【0085】
このように、本開示のレーザ加工装置100は、制御システム110により、レーザ加工中に生じる熱レンズ効果による照射ビームの集光位置のズレの補正、及び加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動の補正を行うことで、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させ、所望の品質を有するレーザ加工を実現することができる。
【0086】
本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置100の照射ビーム制御プロセスについて、以下、図6乃至図8Bを参照して説明する。図6は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャートである。図7Aは、図1のレーザ加工装置100における熱レンズ効果が発生する前の照射ビームを示す図である。図7Bは、図1のレーザ加工装置100における熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図である。図8Aは、図7Bの照射ビームに対して集光位置補正を示す図である。図8Bは、図8Aの照射ビームに対して分岐プロファイル補正を示す図である。図7Aから図8Bにおいて、上段には、X-Z平面においてレーザ加工装置100照射ビームを示し、下段には、X-Y平面において加工対象物131の加工面Lf1における照射ビームの分岐光ビームのビームスポットを示している。なお、図7Aから図8Bの各図において、同様な要素について、同じ符号を付し、重複した内容について説明を省略する。
【0087】
(照射ビーム制御プロセス)
図6は、図1のレーザ加工装置100の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャートである。
【0088】
(1)まず、S101では、レーザ加工装置100の設計値として、回折光学素子105の分岐角度を補正量演算装置115に入力する。レーザ加工装置100は、スポットパターンの異なる加工にも対応可能なように、分岐パターンの異なる複数の回折光学素子を切り替える機構を備えることができる。S101では、例えば、予め記憶部117に保存された複数の分岐角度を含む分岐角度データから、加工に用いられる回折光学素子105の分岐角度を選択することもできる。
【0089】
(2)次に、S102では、レーザ発振器102を起動させてレーザ照射を開始する。レーザ照射を開始した直後は、熱レンズ効果が発生しておらず、図7Aに示すように、集光レンズ104と回折光学素子105とを透過した照射ビームL3aは、加工対象物131の加工面Lf1に集光している。また、回折光学素子105の分岐角度θ0によって、加工面Lf1において、照射ビームL3aは、分岐光ビームの集光スポットL3a1,L3a2の間に分岐幅d0を有する分岐プロファイルで照射している。このとき、回折光学素子105と加工面Lf1との距離がH0である。
【0090】
(3)次に、S103では、特性量検出部111の温度センサ112によってレーザ加工中の集光レンズ104の温度を測定する。熱レンズ効果が発生したとき、図7Bに示すように、変形した集光レンズ104aと回折光学素子105aとを透過した照射ビームL3bは、加工対象物131の加工面Lf1から離れた集光面Lf2に集光している。このとき、照射ビームL3bの集光位置は、加工面Lf1に対してズレZfが発生し、加工面Lf1において、照射ビームL3bは、熱レンズ効果が発生する前の照射ビームL3aの集光スポットL3a1,L3a2のビーム径よりも大きいビーム径のビームスポットL3b1,L3b2で照射し、加工精度の低下が生じる。
【0091】
(4)そして、S104では、補正量演算装置115は、集光位置補正量算出部118aによって、温度センサ112によって検出された集光レンズの温度測定値t0,t1に基づいて、照射ビームL3bの集光位置のズレを補正する集光位置補正量Zfを算出する。ここで、温度測定値t0,t1は、熱レンズ効果の発生前後の集光レンズの温度測定値である。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から集光レンズ温度と照射ビームの集光位置変化量との関係性データ(図4)を読み出して、レーザ加工中に温度センサ112の温度測定値t0,t1をインプット値として用いることで、照射ビームL3bの集光位置補正量Zfをアウトプット値として得ることができる。算出された集光位置補正量ZfのデータE1は、補正量演算装置115から制御部120に送信される。
【0092】
(5)続いて、S105では、制御部120は、補正量演算装置115から受信した集光位置補正量Zfに基づいて、光学ユニット103を移動させるコマンドF1を駆動部106に送信する。これによって、図8Aに示すように、駆動部106の第1駆動ユニット107が動作し、集光レンズ104a及び回折光学素子105aを含む光学ユニット103の全体を、光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して図示-Z方向に集光位置補正量Zfだけ移動させる。この補正によって、熱レンズ効果による照射ビームL3bの集光位置のズレが補正され、補正後の照射ビームL3cは加工対象物の加工面Lf1に集光するようになる。
【0093】
光学ユニット103を移動することによって、加工面Lf1と回折光学素子105aとの間の距離は、集光位置を補正する前のH0よりも集光位置補正量Zfだけ短縮される。このとき、回折光学素子105aの分岐角度θ0によって、加工対象物131の加工面Lf1において、照射ビームL3cは、分岐光ビームの集光スポットL3c1,L3c2の間に分岐幅d1を有する分岐プロファイルで照射し、加工面における照射ビームの分岐プロファイルの変動が生じる。
【0094】
(6)そこで、S106では、補正量演算装置115は、分岐プロファイル補正量算出部118bによって、加工面における照射ビームL3cの分岐プロファイルの変動を補正する分岐プロファイル補正量Zdを算出する。分岐プロファイル補正量算出部118bは、実行するときに、記憶部117から所定の分岐角度θ0に対する集光位置変化量と分岐プロファイル変動量との関係グラフを読み出して、集光位置補正量算出部118aにより算出された集光位置補正量Zfをインプット値として用いることで、加工面Lf1における分岐プロファイル補正量Zdをアウトプット値として得ることができる。算出された分岐プロファイル補正量ZdのデータE2は、補正量演算装置115から制御部120に送信される。
【0095】
(7)続いて、S107では、制御部120は、補正量演算装置115から受信した分岐プロファイル補正量Zdに基づいて、回折光学素子105aを移動させるコマンドF2を駆動部106に送信する。これによって、図8Bに示すように、駆動部106の第2駆動ユニット108が動作し、回折光学素子105aを、光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して図示+Z方向に分岐プロファイル補正量Zdだけ移動させる。これによって、回折光学素子105aと加工面Lf1との間の距離が分岐プロファイル補正量Zdだけ増加してH1となる。補正後の照射ビームL3dは、熱レンズ効果が発生する前の照射ビームL3aの分岐光ビームの分岐幅d0(図7Aに示す)を有する分岐プロファイルで加工面Lf1を照射する。このように、照射ビームの加工性が回復し、熱レンズ効果による加工精度の低下が改善され、高精度で所望の加工パターンを実現することができる。
【0096】
なお、ステップS105からステップS107は、上記説明した順序とは異なる順序で行うことができる。例えば、ステップS104の集光位置補正量Zfの算出に続いて、ステップS106の分岐プロファイル補正量Zdの算出を実行することができる。そして、ステップS105とステップS107とは、実質的に同時に実行されてもよく、上記説明した順序とは逆の順序で実行されてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、第1駆動ユニット107が動作し、集光レンズ104a及び回折光学素子105aを含む光学ユニット103の全体を移動させ、第2駆動ユニット108が回折光学素子105aを移動させるように構成されているが、本開示はこれに限定されない。例えば、ステップS104の集光位置補正量Zfの算出に続いて、ステップS106の分岐プロファイル補正量Zdの算出を実行する。その後、例えば、第1駆動ユニット107は、集光レンズ104aを光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して図示-Z方向に集光位置補正量Zfだけ移動させることができる。第2駆動ユニット108は、回折光学素子105aを光軸Oaに沿って、加工面Lf1に対して、集光位置補正量Zfと分岐プロファイル補正量Zdとを合わせた補正量、例えば、本実施の形態では、図示-Z方向に(Zf-Zd)だけ移動させることができる。
【0098】
なお、図1等において、第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とは、互いに分離して配置されるように示しているが、本開示はこれに限定されない。第1駆動ユニット107と第2駆動ユニット108とは実質的に一体に構成することができる。
【0099】
(8)続いて、S108では、レーザ加工が完了するか否かの判断を行い、レーザ加工が完了するまでステップS103からステップS107までの処理が繰り返して実行される。
【0100】
このように、本実施の形態では、レーザ加工装置100は、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として集光レンズの温度を検知し、検知された集光レンズの温度に基づいて、集光レンズと回折光学素子との光ビームの伝搬光軸における位置を補正することによって、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させ、所望の加工パターンを実現することができる。
【0101】
レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量は、集光レンズの温度に限らない。以下、別の特性量を用いてレーザ加工中の照射ビームの状態の変動を補正することができる、本開示の他の実施形態に係るレーザ加工装置を説明する。
【0102】
(実施の形態2)
本開示の実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成、及びレーザ加工中に照射ビームの状態の変動の補正について、図9から図12を参照しながら説明する。図9は、本開示の実施の形態2に係るレーザ加工装置200の構成を示す概略図である。図9では、図1に示す実施の形態1に係るレーザ加工装置100と同様な構成要素に同じ符号を付しており、詳細な説明を省略する。
【0103】
図9に示すように、レーザ加工装置200は、照射システム101と、制御システム210と、駆動部106とを備えている。照射システム101は、レーザ光を加工対象物131の加工面に照射してレーザ加工を行い、制御システム210は、熱レンズ効果による照射ビームの変動を補正するように、駆動部106を動作させる制御を行う。図示のように、本実施の形態のレーザ加工装置200の照射システム101及び駆動部106は、図1のレーザ加工装置100と同様であって、制御システム210はレーザ加工装置100の制御システム110と異なる構成を有する。
【0104】
レーザ加工装置200の制御システム210は、特性量検出部211と、補正量演算装置115と、制御部120とを含む。補正量演算装置115は、特性量検出部211及び制御部120にそれぞれ接続されている。レーザ加工装置200の制御システム210において、補正量演算装置115と制御部120とは、レーザ加工装置100の制御システム110の構成と同様で、図2に示す構成を有し、特性量検出部211が異なる構成を有する。
【0105】
(特性量検出部)
特性量検出部211は、加工対象物131を照射するときに、照射システム101の照射ビームL3の状態を示す特性量を検知するために用いられる。本実施の形態では、特性量検出部211は、画像検出器212とデータ転送部113とを有し、加工面における加工スポットの形態を照射ビームの状態の変動を示す特性量として検知するように構成される。加工対象物の加工面において、照射ビームにより形成される加工スポットの形態は、照射ビームの状態の変動によって変化するため、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として、加工面における加工スポットの形態を用いることができる。
【0106】
なお、ここで、加工スポットは、例えば、レーザ加工中に、加工対象物の加工面における溶融状態の加工点であってもよく、「加工スポットの形態」とは、例えば、溶融状態の加工点の形状や大きさを含むことができる。
【0107】
特性量検出部211により検知された加工面における加工スポットの形態データD2は、照射ビームL3の状態を示す特性量の検知データDとして、データ転送部113に記録され、補正量演算装置115に送信される。
【0108】
本実施の形態では、特性量検出部211の画像検出器212は、高速度カメラ212で構成することができる。高速度カメラ212は、照射ビームL3が加工対象物131の加工面に照射することによって形成された加工スポットの形態をモニタリングすることができる。本実施の形態では、高速度カメラ212は、例えば、加工面における加工スポットの直径を検知するように構成することができる。
【0109】
一例として、高速度カメラ212は、例えば、5,000~10,000fps程度のフレームレートを有してもよく、加工速度に合わせて最適なフレームレートを選択してよい。また、高速度カメラ212の画素数は1000×600であってもよく、視野は、照射ビームL3の分岐プロファイルの全体が加工面において形成した加工スポットが捉えられる範囲、例えば、2mm×3mm程度であってもよく、照射ビームL3の分岐プロファイルの一部が加工面において形成した加工スポットが捉えられる範囲であってもよい。
【0110】
画像検出器に用いられる照明(図示せず)は、白色光源を使用することができ、例えば、カメラレンズに850nmのバンドパスフィルタを取り付けてもよく、加工対象物の材料や観察方法によって最適な照明を選択してよい。また、図9では、画像検出器としての高速度カメラ212は、加工面の斜め上方向からレーザ加工中の加工スポットの形態をモニタリングするように配置されているが、本開示はこれに限定されない。例えば、画像検出器は、照射ビームと同軸となるように設置することも可能である。
【0111】
本実施の形態では、特性量検出部211により、レーザ加工中に加工面における加工スポットの形態が照射ビームの状態の変動を示す特性量として検知される。補正量演算装置115の集光位置補正量算出部118aは、例えば、高速度カメラ212により取得された加工面における加工スポットの直径の測定値に基づいて、集光位置補正量を算出することができる。図10は、加工面における加工スポットの直径と照射ビームの集光位置変化量との関係を示す図である。集光位置補正量の算出は、図10に示す加工面における加工スポットの直径と照射ビームの集光位置変化量との関係を利用して実行することができる。
【0112】
具体的には、例えば、シミュレーションにより予め算出した加工面における加工スポットの直径と集光位置変化量との関係テーブル、又は、実験により予め取得した加工面における加工スポットの直径の測定値と集光位置変化量とのマッピングデータをデータベースとして作成し、記憶部117に保存することができる。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から加工スポットの直径と照射ビームの集光位置変化量との関係性データを読み出して、レーザ加工中に高速度カメラ212により取得された加工スポットの直径の測定値をインプット値として用いることで、照射ビームの集光位置補正量Zf1をアウトプット値として得ることができる。
【0113】
(照射ビーム制御プロセス)
図11は、図9のレーザ加工装置200の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャートである。図11に示す照射ビーム制御プロセスは、ステップS203及びS204において、図6に示した照射ビーム制御プロセスと異なる。以下、図12を併せて参照し、ステップS203,S204について説明し、他のステップについて詳細の説明を省略する。図12は、図9のレーザ加工装置200の熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図である。図12において、上段には、X-Z平面においてレーザ加工装置200照射ビームを示し、下段には、X-Y平面において加工対象物131の加工面Lf1における照射ビームの分岐光ビームにより形成された加工スポットを示している。
【0114】
S203では、特性量検出部211の高速度カメラ212によってレーザ加工中の加工面における加工スポットの画像を検知する。熱レンズ効果が発生したとき、図12に示すように、変形した集光レンズ104aと回折光学素子105aとを透過した照射ビームL3bは、加工対象物131の加工面Lf1から離れた集光面Lf2に集光している。このとき、照射ビームL3bの集光位置は、加工面Lf1に対してズレZf1が発生し、加工面Lf1において、照射ビームL3bは、熱レンズ効果が発生する前の照射ビームL3aの集光スポットにより形成される加工スポットL3A1,L3A2の直径D0よりも大きい直径D1の加工スポットL3B1,L3B2を形成し、加工精度の低下が生じる。熱レンズ効果の発生前後において、加工面における加工スポットの直径がΔDの変化が生じる。
【0115】
S204では、補正量演算装置115は、集光位置補正量算出部118aによって、高速度カメラ212によって検出された加工面Lf1における加工スポットの直径の測定値D0,D1に基づいて、照射ビームL3bの集光位置のズレを補正する集光位置補正量Zf1を算出する。ここで、加工スポットの直径の測定値D0,D1は、熱レンズ効果の発生前後の加工面Lf1に形成される加工スポットの直径である。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から加工面における加工スポットの直径と照射ビームの集光位置変化量との関係性データ(図10)を読み出して、レーザ加工中に高速度カメラ212による加工スポットの直径の測定値D0,D1をインプット値として用いることで、照射ビームL3bの集光位置補正量Zf1をアウトプット値として得ることができる。算出された集光位置補正量Zf1のデータは、補正量演算装置115から制御部120に送信される。
【0116】
S105以降の処理は図6に示す第1実施形態と同様である。このように、本実施の形態では、レーザ加工装置200は、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として加工面における加工スポットの形態を検知し、検知された加工スポットの形態に基づいて、集光レンズと回折光学素子との光ビームの伝搬光軸における位置を補正することによって、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させ、所望の加工パターンを実現することができる。
【0117】
(実施の形態3)
本開示の実施の形態3に係るレーザ加工装置の構成、及びレーザ加工中に照射ビームの状態の変動の補正について、図13から図16を参照しながら説明する。図13は、本開示の実施の形態3に係るレーザ加工装置300の構成を示す概略図である。図13では、図1に示す実施の形態1に係るレーザ加工装置100と同様な構成要素に同じ符号を付しており、詳細な説明を省略する。
【0118】
図13に示すように、レーザ加工装置300は、照射システム301と、制御システム310と、駆動部106とを備えている。照射システム301は、レーザ光を加工対象物131の加工面に照射してレーザ加工を行い、制御システム310は、熱レンズ効果による照射ビームの変動を補正するように、駆動部106を動作させる制御を行う。図示のように、本実施の形態のレーザ加工装置300の駆動部106は、図1のレーザ加工装置100と同様であって、照射システム301と制御システム310とは、レーザ加工装置100の照射システム101と制御システム110と異なる構成を有する。
【0119】
レーザ加工装置300の照射システム301は、加工用光源であるレーザ発振器102と、集光レンズ104と、回折光学素子105と、ダイクロイックミラー312とを含む光学ユニット303とを備える。照射システム301は、図1に示す照射システム101と比較すると、光学ユニット303がダイクロイックミラー312を更に含む点で異なる。
【0120】
本実施の形態では、ダイクロイックミラー312は、例えば、レーザ発振器102と集光レンズ104との間に、光軸Oaに対して所定の角度を設けて配置することができる。レーザ加工中に、加工対象物131の加工面により、溶接光に含まれるプラズマ光と熱放射光と、レーザ反射光との少なくとも1つを含む戻り光が発生し、戻り光ビームP4は、図示+Z方向に伝搬する。レーザ加工中に照射ビームの状態が変動したとき、加工面により発生される戻り光の光量が変化する。ダイクロイックミラー312は、戻り光の少なくとも一部を光センサ313(後段で説明する)に導き、少なくとも一部の戻り光の光量を検出するように用いられる。なお、図13において、明瞭化のために、レーザ光ビームP1と戻り光ビームP4とを分けて図示しているが、実際には、レーザ光ビームP1と戻り光ビームP4とは、同一の経路に沿って伝搬することができる。
【0121】
ダイクロイックミラー312は、図示+Z側の面312aで受光するレーザ光ビームL1を透過させる。一方で、戻り光ビームP4は、加工対象物131の加工面から図示+Z方向に伝搬し、回折光学素子105と集光レンズ104とを順に透過した戻り光は、ダイクロイックミラー312の図示-Z側の面312bで反射して、少なくとも一部が光センサ313に入射し、検出される。ダイクロイックミラー312は、従来知られているダイクロイックミラーの構成を採用することができ、例えば、波長1070nmのレーザ光に対し、少なくとも95%以上、好ましくは99.5%以上の透過率の反射膜を備えて構成することができる。
【0122】
なお、本実施の形態では、ダイクロイックミラー312は、レーザ発振器102と集光レンズ104との間に、集光レンズ104と回折光学素子105と同軸に配置されているが、本開示はこれに限定されない。ダイクロイックミラー312は、戻り光ビームP4の伝搬径路に配置すればよく、光学系の構成によって、集光レンズ104と回折光学素子105とは異なる光軸に配置されてもよい。
【0123】
レーザ加工装置300の制御システム310は、特性量検出部311と、補正量演算装置115と、制御部120とを含む。補正量演算装置115は、特性量検出部311及び制御部120にそれぞれ接続されている。レーザ加工装置300の制御システム310において、補正量演算装置115と制御部120とは、レーザ加工装置100の制御システム110の構成と同様で、図2に示す構成を有し、特性量検出部311が異なる構成を有する。
【0124】
(特性量検出部)
特性量検出部311は、加工対象物131を照射するときに、照射システム101の照射ビームL3の状態を示す特性量を検知するために用いられる。本実施の形態では、特性量検出部311は、光センサ313とデータ転送部113とを有し、加工中に少なくとも一部の戻り光の光量を照射ビームの状態の変動を示す特性量として検知するように構成される。レーザ加工中に照射ビームの状態が変動したとき、加工面により発生される戻り光の光量が変化するため、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として、加工面により発生される戻り光の光量を用いることができる。なお、特性量として用いられる戻り光は、加工面により発生されるプラズマ光と、反射光と、熱放射光とのうちの少なくとも1つであってもよく、光センサ313は、少なくとも一部の戻り光の光量を検知することができる。
【0125】
特性量検出部311の光センサ313は、例えば、プラズマ光と熱放射光との波長帯域、及び/又は、レーザ光の波長帯域に感度を持つ可視光域フォトダイオード又は赤外光域フォトダイオードで構成することができる。光センサ313は、従来知られている構成を採用することができ、本明細書では更なる詳細な説明を省略する。
【0126】
特性量検出部311により検知された戻り光の光量データD3は、照射ビームL3の状態を示す特性量の検知データDとして、データ転送部113に記録され、補正量演算装置115に送信される。
【0127】
補正量演算装置115の集光位置補正量算出部118aは、例えば、光センサ313により検知された戻り光の光量の測定値に基づいて、集光位置補正量を算出することができる。図14は、戻り光の光量と照射ビームの集光位置変化量との関係を示す図である。集光位置補正量の算出は、戻り光の光量と照射ビームの集光位置変化量との関係を利用して実行することができる。
【0128】
具体的には、例えば、シミュレーションにより予め算出した戻り光の光量と集光位置変化量との関係テーブル、又は、実験により予め測定した戻り光の光量の測定値と集光位置変化量とのマッピングデータをデータベースとして作成し、記憶部117に保存することができる。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から戻り光の光量と照射ビームの集光位置変化量との関係性データを読み出して、レーザ加工中に光センサ313により検知された戻り光の光量の測定値をインプット値として用いることで、照射ビームの集光位置補正量Zf2をアウトプット値として得ることができる。
【0129】
(照射ビーム制御プロセス)
図15は、図13のレーザ加工装置300の照射ビーム制御プロセスを示すフローチャートである。図15に示す照射ビーム制御プロセスは、ステップS303及びS304において、図6に示した照射ビーム制御プロセスと異なる。以下、図16を併せて参照し、ステップS303,S304について説明し、他のステップについて詳細の説明を省略する。図16は、図13のレーザ加工装置300の熱レンズ効果が発生したときの照射ビームを示す図である。図16において、上段には、X-Z平面においてレーザ加工装置300照射ビームを示し、下段には、X-Y平面において加工対象物131の加工面Lf1における照射ビームの分岐光ビームのビームスポットを示している。
【0130】
S303では、特性量検出部311の光センサ313によってレーザ加工中の戻り光の光量を測定する。熱レンズ効果が発生したとき、図16に示すように、変形した集光レンズ104aと回折光学素子105aとを透過した照射ビームL3bは、加工対象物131の加工面Lf1から離れた集光面Lf2に集光している。このとき、照射ビームL3bの集光位置は、加工面Lf1に対してズレZf2が発生し、加工面Lf1において、照射ビームL3bは、熱レンズ効果が発生する前の照射ビームL3aの集光スポットL3a1,L3a2のビーム径よりも大きいビーム径を有するビームスポットL3b1,L3b2で照射し、加工精度の低下が生じる。熱レンズ効果の発生前後において、加工面Lf1により発生される戻り光の光量が変化する。
【0131】
S304では、補正量演算装置115は、集光位置補正量算出部118aによって、光センサ313によって検出された戻り光の光量の測定値Pf0,Pf1に基づいて、照射ビームL3bの集光位置のズレを補正する集光位置補正量Zf2を算出する。ここで、戻り光の光量の測定値Pf0,Pf1は、熱レンズ効果の発生前後の戻り光の光量である。集光位置補正量算出部118aは、実行するときに、記憶部117から戻り光の光量と照射ビームの集光位置変化量との関係性データ(図14)を読み出して、レーザ加工中に光センサ313による戻り光の光量の測定値Pf0,Pf1をインプット値として用いることで、照射ビームL3bの集光位置補正量Zf2をアウトプット値として得ることができる。算出された集光位置補正量Zf2のデータは、補正量演算装置115から制御部120に送信される。
【0132】
S105以降の処理は図6に示す第1実施形態と同様である。このように、本実施の形態では、レーザ加工装置300は、レーザ加工中の照射ビームの状態の変動を示す特性量として加工面により発生される戻り光の少なくとも一部の光量を検知し、検知された戻り光の少なくとも一部の光量に基づいて、集光レンズと回折光学素子との光ビームの伝搬光軸における位置を補正することによって、分岐光ビームを用いたレーザ加工の加工精度を向上させ、所望の加工パターンを実現することができる。
【0133】
なお、上記説明した実施形態において、加工対象物の加工面において、照射ビームのビームスポットが移動しないように説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、加工対象物をステージで移動させもよく、又は、照射ビームを加工面において走査してもよい。
【0134】
以上のように、本開示における技術の例示としての実施の形態を説明するために、添付図面及び詳細な説明を提供した。したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。したがって、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0135】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。そのような変更、及び異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示は、レーザ加工装置に適用可能である。本開示は、分岐光ビームを用いたレーザ加工に適用可能である。
【符号の説明】
【0137】
100,200,300 レーザ加工装置
101,310 照射システム
102 レーザ発振器
103,303 光学ユニット
104 集光レンズ
105 回折光学素子
106 駆動部
107 第1駆動ユニット
108 第2駆動ユニット
110 制御システム
111,211,311 特性量検出部
112 温度センサ
113 データ転送部
115 補正量演算装置
116 処理部
117 記憶部
118 プログラム
118a 集光位置補正量算出部
118b 分岐プロファイル補正量算出部
119 表示部
120 制御部
131 加工対象物
212 画像検出器、高速カメラ
312 ダイクロイックミラー
313 光センサ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B