(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137404
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】圧電装置およびその製造方法並びに圧電装置アレイ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240927BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20240927BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240927BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240927BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240927BHJP
B81B 7/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H04R17/00 330B
H03H9/17 F
H03H3/02 B
H04R17/00 332B
B81B3/00
B81C1/00
B81B7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048915
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬道
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【テーマコード(参考)】
3C081
5D019
5J108
【Fターム(参考)】
3C081AA15
3C081AA17
3C081BA45
3C081BA48
3C081BA55
3C081BA72
3C081CA03
3C081CA14
3C081CA17
3C081CA20
3C081CA28
3C081CA29
3C081DA03
3C081DA04
3C081DA29
3C081EA01
3C081EA39
5D019AA18
5D019BB02
5D019BB04
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5D019BB19
5D019HH03
5J108AA08
5J108BB05
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
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5J108JJ01
5J108KK01
5J108KK07
5J108MM08
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】クラックを抑制することが可能な圧電装置を提供する。
【解決手段】圧電装置は、空隙28を有する基板10aと、平面視において、前記空隙を覆うように前記基板上に設けられた中間層と、中間層上に設けられた下部電極12と、下部電極上に設けられた圧電層14と、下部電極と共に圧電層を挟む第1領域が、平面視において空隙28の外郭より内側に圧電層上に設けられ、平面視における面積が空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さい上部電極16と、を備え、平面視において第1領域の外周の外側において、空隙の外郭の内側から外側に渡り設けられた第2領域における圧電層の結晶粒の平均粒径は、第1領域における圧電層の結晶粒の平均粒径より小さく設けられた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を有する基板と、
平面視において、前記空隙を覆うように前記基板上に設けられた中間層と、
前記中間層上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられた圧電層と、
前記下部電極と共に前記圧電層を挟む第1領域が、平面視において前記空隙の外郭より内側における前記圧電層上に設けられ、平面視における面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さい上部電極と、
を備え、
平面視において前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り設けられた第2領域における前記圧電層の結晶粒の平均粒径は、前記第1領域における前記圧電層の結晶粒の平均粒径より小さく設けられた圧電装置。
【請求項2】
前記圧電層は窒化アルミニウムを主成分とし、
前記第2領域における前記圧電層はマグネシウムを含有する請求項1に記載の圧電装置。
【請求項3】
前記第2領域における前記圧電層のマグネシウム濃度は、アルミニウム、マグネシウムおよびその他の添加元素の合計を100原子%としたとき1原子%以上かつ10原子%以下である請求項2に記載の圧電装置。
【請求項4】
前記圧電層は窒化アルミニウムを主成分とし、
前記第2領域における前記圧電層の酸素濃度は、前記第1領域における酸素濃度より高い請求項1に記載の圧電装置。
【請求項5】
前記第2領域における前記圧電層の酸素濃度は、アルミニウム、窒素およびその他の添加元素の合計を100原子%としたとき1原子%以上かつ10原子%以下である請求項4に記載の圧電装置。
【請求項6】
前記第2領域における前記圧電層の下面から1μmの箇所における結晶粒の平均粒径は30nm以下である請求項2から5のいずれか一項に記載の圧電装置。
【請求項7】
前記第2領域における前記圧電層の下面の表面粗さは、前記第1領域における前記圧電層の下面の表面粗さより大きい請求項1に記載の圧電装置。
【請求項8】
平面視において、前記第1領域の外周を内周とし、前記第2領域の内周を外周とする第3領域における前記圧電層の下面の表面粗さは、前記第1領域の外周から前記第2領域の内周に向かうにしたがい大きくなる請求項7に記載の圧電装置。
【請求項9】
前記第1領域における前記下部電極と前記圧電層との間に、前記圧電層の主成分と同じ主成分を有するシード層が設けられている請求項1に記載の圧電装置。
【請求項10】
前記第1領域の前記圧電層の主成分と前記第2領域の前記圧電層の主成分とは同じである請求項1から5および7から9のいずれか一項に記載の圧電装置。
【請求項11】
空隙を有する基板と、
平面視において、前記空隙を覆うように前記基板上に設けられた中間層と、
前記中間層上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられた圧電層と、
前記下部電極と共に前記圧電層を挟む第1領域が、平面視において前記空隙の外郭より内側における前記圧電層上に設けられ、平面視における面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さい上部電極と、
を備え、
平面視において前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り設けられた第2領域における前記基板および前記空隙上に前記圧電層を介さずかつ前記圧電層を囲み設けられたアモルファス層と、
を備える圧電装置。
【請求項12】
請求項1から5および7から9のいずれか一項に記載の圧電装置が複数設けられ、前記複数の圧電装置における前記基板は一体として設けられている圧電装置アレイ。
【請求項13】
スパッタリング法を用い、基板上に設けられた下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とする第1圧電層を形成する工程と、
第1領域における前記第1圧電層が残存し、前記第1領域の外側に設けられた第2領域における前記第1圧電層を除去する工程と、
スパッタリング法を用い、前記第1圧電層を形成するときのパワー密度より小さいパワー密度を用い前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に窒化アルミニウムを主成分としマグネシウムを含む第2圧電層を形成する工程と、
前記第1領域内の前記第1圧電層上に上部電極を形成する工程と、
平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、
を含む圧電装置の製造方法。
【請求項14】
スパッタリング法を用い、基板上に設けられた下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とする第1圧電層を形成する工程と、
第1領域における前記第1圧電層が残存し、前記第1領域の外側に設けられた第2領域における前記第1圧電層を除去する工程と、
スパッタリング法を用い、前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とし前記第1圧電層より酸素濃度の高い第2圧電層を形成する工程と、
前記第1領域内の前記第1圧電層上に上部電極を形成する工程と、
平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、
を含む圧電装置の製造方法。
【請求項15】
第1領域における基板上に設けられた下部電極の上面の表面粗さが、前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極の上面の表面粗さより小さくなるように、前記第2領域における前記下部電極の上面を荒らす工程と、
前記第1領域および前記第2領域における前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、
前記第1領域内の前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、
平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、
を含む圧電装置の製造方法。
【請求項16】
前記下部電極の上面を荒らす工程は、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域において、前記第1領域から前記第2領域に向かうにしたがい、前記下部電極の上面の表面粗さが大きくなるように、前記下部電極の上面を荒らす工程を含む請求項15に記載の圧電装置の製造方法。
【請求項17】
第1領域における基板上に設けられた下部電極上にシード層を形成する工程と、
前記第1領域における前記シード層上および前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、
前記第1領域内の前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、
平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、
を含む圧電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電装置およびその製造方法並びに圧電装置アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体を用いた圧電型マイクロマシン超音波トランスデューサ(pMUT:Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が知られている。複数のpMUT素子をアレイ状に配置した超音波トランスデューサが知られている(例えば特許文献1、非特許文献1)。また、窒化アルミニウム膜の圧電層にマグネシウムを添加することが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許公開第2020/0194658号明細書
【特許文献2】特開2021-150920号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. Ngoc, et al., Micromachines, vol 9, no.9 p.455 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
pMUTでは、基板に空隙が設けられ、空隙上に圧電層を含む積層膜が設けられている。平面視において空隙と重なる振動領域における積層膜がたわみ振動する。このとき、基板上の積層膜は固定されており、振動領域の外周に応力が集中する。非特許文献1には、圧電層として単結晶PZT(Lead Zirconate titanate)を用いた場合に、振動領域の外周付近の圧電層にクラックが形成されることが記載されている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、クラックを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空隙を有する基板と、平面視において、前記空隙を覆うように前記基板上に設けられた中間層と、前記中間層上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電層と、前記下部電極と共に前記圧電層を挟む第1領域が、平面視において前記空隙の外郭より内側における前記圧電層上に設けられ、平面視における面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さい上部電極と、を備え、平面視において前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り設けられた第2領域における前記圧電層の結晶粒の平均粒径は、前記第1領域における前記圧電層の結晶粒の平均粒径より小さく設けられた圧電装置である。
【0008】
上記構成において、前記圧電層は窒化アルミニウムを主成分とし、前記第2領域における前記圧電層はマグネシウムを含有する構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電層のマグネシウム濃度は、アルミニウム、マグネシウムおよびその他の添加元素の合計を100原子%としたとき1原子%以上かつ10原子%以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電層は窒化アルミニウムを主成分とし、前記第2領域における前記圧電層の酸素濃度は、前記第1領域における酸素濃度より高い構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電層の酸素濃度は、アルミニウム、窒素およびその他の添加元素の合計を100原子%としたとき1原子%以上かつ10原子%以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電層の下面から1μmの箇所における結晶粒の平均粒径は30nm以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第2領域における前記圧電層の下面の表面粗さは、前記第1領域における前記圧電層の下面の表面粗さより大きい構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、平面視において、前記第1領域の外周を内周とし、前記第2領域の内周を外周とする第3領域における前記圧電層の下面の表面粗さは、前記第1領域の外周から前記第2領域の内周に向かうにしたがい大きくなる構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1領域における前記下部電極と前記圧電層との間に、前記圧電層の主成分と同じ主成分を有するシード層が設けられている構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1領域の前記圧電層の主成分と前記第2領域の前記圧電層の主成分とは同じである構成とすることができる。
【0017】
本発明は、空隙を有する基板と、平面視において、前記空隙を覆うように前記基板上に設けられた中間層と、前記中間層上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられた圧電層と、前記下部電極と共に前記圧電層を挟む第1領域が、平面視において前記空隙の外郭より内側における前記圧電層上に設けられ、平面視における面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さい上部電極と、を備え、平面視において前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り設けられた第2領域における前記基板および前記空隙上に前記圧電層を介さずかつ前記圧電層を囲み設けられたアモルファス層と、を備える圧電装置である。
【0018】
本発明は、上記圧電装置が複数設けられ、前記複数の圧電装置における前記基板は一体として設けられている圧電装置アレイである。
【0019】
本発明は、スパッタリング法を用い、基板上に設けられた下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とする第1圧電層を形成する工程と、第1領域における前記第1圧電層が残存し、前記第1領域の外側に設けられた第2領域における前記第1圧電層を除去する工程と、スパッタリング法を用い、前記第1圧電層を形成するときのパワー密度より小さいパワー密度を用い前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に窒化アルミニウムを主成分としマグネシウムを含む第2圧電層を形成する工程と、前記第1領域内の前記第1圧電層上に上部電極を形成する工程と、平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、を含む圧電装置の製造方法である。
【0020】
本発明は、スパッタリング法を用い、基板上に設けられた下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とする第1圧電層を形成する工程と、第1領域における前記第1圧電層が残存し、前記第1領域の外側に設けられた第2領域における前記第1圧電層を除去する工程と、スパッタリング法を用い、前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に窒化アルミニウムを主成分とし前記第1圧電層より酸素濃度の高い第2圧電層を形成する工程と、前記第1領域内の前記第1圧電層上に上部電極を形成する工程と、平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、を含む圧電装置の製造方法である。
【0021】
本発明は、第1領域における基板上に設けられた下部電極の上面の表面粗さが、前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極の上面の表面粗さより小さくなるように、前記第2領域における前記下部電極の上面を荒らす工程と、前記第1領域および前記第2領域における前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、前記第1領域内の前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、を含む圧電装置の製造方法である。
【0022】
上記構成において、前記下部電極の上面を荒らす工程は、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域において、前記第1領域から前記第2領域に向かうにしたがい、前記下部電極の上面の表面粗さが大きくなるように、前記下部電極の上面を荒らす工程を含む構成とすることができる。
【0023】
本発明は、第1領域における基板上に設けられた下部電極上にシード層を形成する工程と、前記第1領域における前記シード層上および前記第1領域の外周の外側に設けられた第2領域における前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、前記第1領域内の前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、平面視において空隙の外郭より内側に前記上部電極が設けられ、平面視における前記上部電極の面積が前記空隙の外郭に囲まれた領域の平面視における面積よりも小さく、前記第1領域の外周の外側において、前記空隙の外郭の内側から外側に渡り前記第2領域となるように、前記基板に前記空隙を形成する工程と、を含む圧電装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、クラックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る超音波トランスデューサの平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、
図1(b)における圧電層の断面模式図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、超音波トランスデューサの動作を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1に係る超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1に係る超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実験1におけるパワー密度に対する結晶粒の平均粒径を示す図である。
【
図8】
図8は、実験2における酸素濃度に対する結晶粒の平均粒径を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例2に係る超音波トランスデューサの断面図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、実施例2に係る超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施例2の変形例1に係る超音波トランスデューサの断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、実施例2の変形例1に係る超音波トランスデューサの製造方法1を示す断面図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、実施例2の変形例1に係る超音波トランスデューサの製造方法2を示す断面図である。
【
図14】
図14は、実施例3に係る超音波トランスデューサの断面図である。
【
図15】
図15(a)および
図15(b)は、実施例3に係る超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。
【
図16】
図16は、実施例4に係る超音波トランスデューサの断面図である。
【
図17】
図17は、実施例5に係る超音波トランスデューサの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し実施例について説明する。以下の実施例では、圧電装置として超音波トランスデューサを例に説明する。
【実施例0027】
図1(a)は、実施例1に係る超音波トランスデューサ100の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では、空隙28を破線で示し、上部電極16をクロスハッチングで示している。各層の積層方向をZ方向、基板10の平面視における辺の延伸方向をX方向およびY方向とする。
【0028】
超音波トランスデューサ100は、厚みを有し平面形状が矩形の基板10を有する。基板10は、例えばSOI(Semiconductor On Insulator)基板から作製され、下から基板10a、ストッパ層10bおよび活性層10cが順に設けられている。基板10aは例えばシリコン基板である。ストッパ層10bは例えば酸化シリコン層である。活性層10cは例えばシリコン層である。
【0029】
基板10aは、基板10aを貫通する空隙28を有する。空隙28は、キャビティとも言う。このストッパ層10bと活性層10cの積層膜は、層状であり、平面視でみたとき、ストッパ層10bのほぼ中央は空隙28と接し、周囲は基板10aによって支持されている。ストッパ層10bは、空隙28を形成するときのエッチングストッパとして機能する。活性層10cは圧電層14を支持する支持層である。
【0030】
活性層10c上に絶縁層11が設けられている。絶縁層11は設けられていなくてもよい。空隙28と下部電極12との間の層(すなわち、ストッパ層10b、活性層10cおよび絶縁層11)は中間層である。下部電極12は活性層10cの上面の全面を覆うように設けられている。圧電層14は下部電極12の上面の全面を覆うように設けられている。圧電層14上に上部電極16が設けられている。
【0031】
図1(a)から、平面視において、上部電極16は、基板10aの中心とほぼ一致して設けられている。圧電層14上にパッド24aおよび24bが設けられている。平面視において、パッド24aおよび24bは、空隙28の周囲に設けられる。パッド24aは圧電層14を貫通する孔22を介し下部電極12に接続されている。パッド24bは配線16aを介し上部電極16と一体で接続されている。パッド受け部16b上には、ボンディング用の金で形成されたパッド24bが設けられている。
【0032】
下部電極12と上部電極16に電圧が印加されたとき、圧電層14は、逆圧電効果によって、電気的エネルギーが機械的エネルギーに変換され、左右方向の圧縮応力または引張応力が生じる。結果として、空隙28がある領域が上下方向にたわんで振動し、超音波を発生させる。
【0033】
ここで、ストッパ層10b、活性層10c、絶縁層11、下部電極12、圧電層14および上部電極16が、順に設けられた膜を、積層膜18とする。空隙28がストッパ層10b(中間層)と接する領域は、振動領域50である。振動領域50における積層膜18はたわみ振動する。下部電極12と上部電極16とが圧電層14を挟んで重なる領域を、stackの頭文字をとり、S領域52とする。このS領域52は、平面視において振動領域50(すなわち空隙28)より小さく、振動領域50に含まれるように設けられている。すなわち、上部電極16の平面視における面積は空隙28の外郭に囲まれた振動領域50の平面視における面積よりも小さい。振動領域50およびS領域52の平面形状は、例えば略円である。S領域52の中心は、振動領域50の中心55に略一致する。
【0034】
以下、平面視でみたとき、圧電層14を、複数の領域に分割して説明する。平面視でみたとき、S領域52よりも大きく、振動領域50よりも小さい領域を、領域54とする。この領域54の圧電層14を、第1圧電層15aとする。この領域54の外側の領域であって、領域54の外周と接し、振動領域50の内外周を含んで、基板10の周囲まで延在する領域を、第2領域56とする。すなわち、第2領域56は、平面視において、空隙28の外郭の内側から外側に渡り設けられている。第2領域56の圧電層14を、第2圧電層15bとする。
【0035】
これらの名称を使って説明すると、第2圧電層15bの結晶粒の平均粒径は、第1圧電層15aの結晶粒の平均粒径より小さい。つまり圧電層14の中央よりも周囲の平均粒径を小さくしている。
【0036】
図2(a)および
図2(b)は、
図1(b)における圧電層15aおよび15bの断面模式図である。圧電層15aおよび15bが柱状の多結晶構造なので、複数の結晶粒34が設けられている。結晶粒34の界面は粒界35である。
図2(a)および
図2(b)のように、第2圧電層15bの結晶粒の平均粒径は第1圧電層15aの結晶粒の平均粒径より小さいことに特徴がある。
【0037】
超音波トランスデューサ100における動作を説明する。
図3(a)および
図3(b)は、超音波トランスデューサの動作を示す断面図である。絶縁層11、ストッパ層10bの図示を省略している。
【0038】
超音波を送信する場合を例に説明する。
図3(a)および
図3(b)に示すように、下部電極12と上部電極16との間に交流電圧を加える制御部30が設けられている。下部電極12と上部電極16との間にこの交流電圧が印加されると、逆圧電効果により圧電層14に歪み31aおよび31bが生じる。これにより、活性層10cに応力32aおよび32bが加わり、積層膜18は、上下方向33aおよび33bに振動する。この交流電圧により、
図3(a)と
図3(b)との状態が繰り返されることにより、振動領域50が上下方向33aおよび33bに交互に繰り返すように振動し、振動領域50から超音波が放射される。
【0039】
超音波を受信する場合には、外部から振動領域50に超音波を受けると、振動領域50が上下方向33aおよび33bに振動する。これにより、振動領域50の活性層10cに応力32aおよび32bが加わる。これにより、圧電層14に歪み31aおよび31bが生じる。圧電効果により、下部電極12と上部電極16との間に交流電圧が生成される。この交流電圧(交流信号)を測定することで、超音波を受信できる。
【0040】
図3(a)および
図3(b)のように、振動領域50内の積層膜18がたわみ振動すると、振動領域50の外周の近傍の範囲58、つまり、リング状の付け根やその近傍には応力が集中する。この現象は、範囲58が振動の固定端であるからである。圧電層14に用いられる圧電体は、ヤング率が大きく、硬い材料が用いられる。このため、圧電層14にクラックが生じやすい。結晶粒34が大きい場合、硬い結晶粒34の部分が多くなり、圧電層14は相対的に硬くなる。結晶粒34が小さい場合、硬い結晶粒34の部分が少なくなり、圧電層14は相対的に柔らかくなる。
【0041】
そこで、実施例1では、第2領域56における第2圧電層15bの結晶粒34の平均粒径は、S領域52(第1領域)における第1圧電層15a内の結晶粒34の平均粒径より小さい。
【0042】
これにより、クラックの生じやすい範囲58を含む第2領域56の第2圧電層15bは相対的に柔らかくなり、クラックが抑制される。一方、S領域52の第1圧電層15aは、粒径が大きいことにより、粒界における機械的な摩擦が小さく機械的品質係数Qmが大きい。また、第1圧電層15aは、粒径が大きいことにより、圧電横効果(d31)が大きく、圧電性が高くなる。よって、電気機械的エネルギーの変換効率が向上する。
【0043】
第2圧電層15b内の結晶粒34の平均粒径は、S領域52における第1圧電層15a内の結晶粒34の平均粒径の0.9倍以下が好ましく、0.8倍以下がより好ましく、0.7倍以下がさらに好ましい。
【0044】
粒径を小さくすることは難しい。この観点から、第2圧電層15b内の結晶粒34の平均粒径は、S領域52における第1圧電層15a内の結晶粒34の平均粒径の0.1倍以上が好ましく、0.2倍以上がより好ましい。
【0045】
第1圧電層15aおよび第2圧電層15bにおける結晶粒34の平均粒径の求め方の例を説明する。この圧電層15aおよび15bにおいて、下面から高さ(Zの位置)が同じ箇所におけるXY面の断面を観察する。なお、圧電層15aおよび15bの断面を観察する箇所の高さは、圧電層15aおよび15bの厚さの5%程度の誤差を許容できる。
【0046】
第1圧電層15aおよび第2圧電層15bにおける結晶粒34の平均粒径の求め方の例を説明する。この圧電層15aおよび15bにおいて、下面から高さ(Zの位置)が同じ箇所におけるXY面の断面を観察する。なお、圧電層15aおよび15bの断面を観察する箇所の高さは、圧電層15aおよび15bの厚さの5%程度の誤差を許容できる。
【0047】
圧電層15aおよび15bの断面を例えばTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて観察する。TEMの回折コントラストを用いると結晶粒が観察しやすく、画像上で結晶粒を画定しやすくなる。結晶粒が画定できないものはサンプリングせず、結晶粒が画定できたものをサンプリングする。例えば500nm×500nmのTEM画像から結晶粒をサンプリングする。結晶粒のサンプリング数は60個以上が好ましい。結晶粒のサンプリング数が60個未満の場合はTEM画像を増やす。
【0048】
サンプリングした結晶粒34の面積を測定する。測定した結晶粒34の面積を円相当の径に換算する。結晶粒34の面積をSとすると、粒径Rは2×√(S/π)で表現できる。この粒径Rを平均すると結晶粒34の平均粒径となる。
【0049】
第1圧電層15aの主成分と第2圧電層15bの主成分は同じであるので、両者の音響インピーダンスはほぼ等しくなる。よって、圧電層15aと15bとの境界に、インピーダンス差が発生せず、振動の反射を抑制でき、その結果、不要な振動モードを抑制できる。
【0050】
なお、圧電層15aおよび15bの主成分とは、圧電層としての機能を有するための元素である。圧電層15aおよび15bは、意図せずまたは意図して主成分以外の元素を含むことを許容する。例えば、圧電層15aおよび15bの主成分の元素濃度は50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。例えば、圧電層15aおよび15bの主成分が窒化アルミニウムの場合、アルミニウムと窒素の合計の濃度は、50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。また、圧電層15aおよび15bにおけるアルミニウムの濃度は10原子%以上または20原子%以上であり、窒素の濃度は10原子%以上または20原子%以上である。
【0051】
以下に、具体的に、各構成の材料を説明する。
前に述べたSOI基板以外にも、基板として、シリコン基板を用いることができる。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム、モリブデン、金、チタン、白金、アルミニウム、銅、クロム、銀、パラジウムもしくはニッケルの金属から選択された膜、またはこれらの中から複数の金属が選択された積層膜である。例えば、下部電極12は、活性層10c側からクロム膜、ルテニウム膜である。上部電極16は、圧電層14側からルテニウム膜、クロム膜である。
【0052】
圧電層14の材料は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、KNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)、BaFeO3(鉄酸バリウム)、BaTiO3(チタン酸バリウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、LiTaO3(タンタル酸リチウム)、ZnO(酸化亜鉛)またはpVDF(ポリフッ化ビニリデン)である。保護膜の材料は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムの無機絶縁体である。パッド24aおよび24bは、例えば金層、銅層またはアルミニウム層である。
【0053】
基板10aの厚さは、100μm~500μmであり、ストッパ層10bの厚さは、0.1μm~3μmであり、活性層10cの厚さは、1μm~20μmである。下部電極12および上部電極16の厚さは、例えば100nm~300nmである。圧電層14の厚さは、例えば100nm~300nmである。
【0054】
振動領域50およびS領域52の平面形状は円である。振動領域50の中心55とS領域52の中心とは一致している。振動領域50の直径は、200μm~2000μm、S領域52の直径は、振動領域50の直径よりも小さく、100μm~1500μmである。振動領域50およびS領域52の平面形状および面積は適宜設定できる。振動領域50およびS領域52の平面形状は、例えば略楕円または略多角形であってよい。
【0055】
[実施例1の製造方法]
以下、実施例1の超音波トランスデューサの製造方法を説明する。
図4(a)から
図6(b)は、実施例1に係る超音波トランスデューサ100の製造方法を示す断面図である。
【0056】
図4(a)に示すように、実施例1の前半で説明したように、基板10は、SOI基板であり、この基板10上全域に例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法または熱酸化法を用いて絶縁層11を形成する。この絶縁層11上に例えばスパッタリング法を用いて導電性材料を成膜し、下部電極12を形成する。
【0057】
続いて、
図4(b)に示すように、下部電極12上に例えばスパッタリング法を用いて圧電材料を成膜し、圧電層15aを形成する。
【0058】
図4(c)に示すように、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて圧電層15aをパターニングする。この結果、第2領域56における圧電層15aが除去され、領域54に圧電層15aが残存する。圧電層15aのエッチングには、例えばイオンミリング法もしくはRIE(Reactive Ion Etching)法などのドライエッチング法またはウェットエッチング法が用いられる。
【0059】
続いて、
図5(a)に示すように、下部電極12および圧電層15aを覆うように、スパッタリング法を用いて圧電層15bを形成する。なお、第1圧電層15aおよび第2圧電層15bの結晶粒の粒径につては後述する。
【0060】
続いて、
図5(b)に示すように、圧電層15aの上面を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて取り除き、平坦化された面を形成する。中央の圧電層15aと、圧電層15aを囲んだ圧電層15bとにより、上面が平坦化した一体の圧電層14が形成される。よって2タイプの圧電層15aおよび15bを用意でき、
図4(c)~
図5(b)までのプロセス条件を適宜設定することにより、結晶粒の平均粒径の異なる圧電層を形成できる。またはこのプロセスの後に、光照射などを利用して、結晶粒の平均粒径が異なる圧電層を形成できる。詳しくは、後述する。
【0061】
続いて、
図5(c)に示すように、圧電層14上に例えばスパッタリング法を用いて導電性材料を成膜する。この導電性材料をパターニングして、第1圧電層15aの上に上部電極16を形成する。この結果、上部電極16が残存した領域がS領域52となる。このとき、
図1(a)の配線16aおよびパッド受け部16bも上部電極16と同時に形成する。
【0062】
続いて、
図6(a)に示すように、圧電層14に孔22を形成する。
【0063】
続いて、
図6(b)に示すように、孔22を介し下部電極12と接続するパッド24aを形成する。このとき、
図1(a)のパッド24bもパッド24aと同時に形成する。パッド24aおよび24bには、金属細線(ボンディングワイヤ)を接合するため、パッド24aおよび24bの表面には、金メッキまたはスパッタ等で導電性膜を被覆する。
【0064】
その後、基板10aの下面から例えばDRIE(Deep RIE)法を用いて空隙28を形成する。ストッパ層10bは、エッチングのストッパとして機能する。以上により、実施例1に係る超音波トランスデューサ100が製造される。よって、
図1(b)に示すように、空隙28の屋根に相当する部分は、エッチングのストッパ層10bから上部電極16までの積層膜18が、この空隙28を覆うように積層される。なお、例えば、基板10aの空隙28に相当する部分に、犠牲層を設け、エッチングして除去することで、空隙28を形成してもよい。
【0065】
次に、圧電層15aと15bの成膜条件について実験を基に説明する。
[実験1]
添加物を添加していない窒化アルミニウム膜を膜Aとして成膜し、マグネシウム(Mg)およびハフニウム(Hf)を添加した膜Bを成膜した。
【0066】
膜Aの成膜方法
AC(Alternating Current)マグネトロンスパッタ方式による成膜を行った。2つのAlターゲットを用いた。アルゴン(Ar)と窒素(N2)をスパッタリング用のガスとして用いた。
【0067】
膜Bの成膜方法
ACマグネトロンスパッタ方式による成膜をおこなった。AlターゲットとAl76MgHf12合金ターゲットを用いた。アルゴンと酸素窒素をプロセスガスとして用いた。Al76、Mg12およびHf12は原子%である。なお、Mg濃度は、Al、MgおよびHfの合計に対するMgの濃度であり、Hf濃度は、Al、MgおよびHfの合計に対するHfの濃度である。
【0068】
膜Aおよび膜Bを成膜するときのACパワー密度を10.0、17.5および20.0W/cm
2と変化させた。
図7は、実験1におけるパワー密度に対する結晶粒の平均粒径を示す図である。結晶粒34の平均粒径は、膜Aおよび膜Bを1μmの厚さで成膜した後の表面近傍のTEM画像を用いて、前述の方法により測定した。
【0069】
膜Aでは、パワー密度が10W/cm2、17.5W/cm2および20W/cm2における平均粒径は、それぞれ43.8nm、39.8nmおよび40.8nmである。膜Bでは、パワー密度が10W/cm2、17.5W/cm2および20W/cm2における平均粒径は、それぞれ25.2nm、33.7nmおよび38.1nmである。パワー密度が10W/cm2におけるMgの平均濃度およびHfの平均濃度は、それぞれ3.36原子%および2.97原子%である。17.5W/cm2におけるMgの平均濃度およびHfの平均濃度は、それぞれ4.47原子%および4.86原子%である。20W/cm2におけるMgの平均濃度およびHfの平均濃度は、それぞれ3.89原子%および5.25原子%である。
【0070】
膜Aはパワー密度を変えても平均粒径はほとんど変わらない。一方、膜Bでは、パワー密度を低くすると平均粒径が小さくなる。
【0071】
この理由を推定した。特許文献2には、MgとHfを添加した窒化アルミニウム膜では、Hf濃度は膜全域においてほぼ均一であるのに対し、Mg濃度は粒界35付近において結晶粒34内より高くなることが記載されている。窒化アルミニウム膜を、スパッタリング法を用いて成膜するとVolmer-Weber成長する。Volmer-Weber成長では、膜厚が厚くなると結晶粒の粒径が大きくなることがわかっている。Mgが結晶粒34の粒界35に偏析することと、低パワー密度で成膜することによりスパッタされた粒子の移動度が小さくなることで結晶粒34の成長が抑制されると推定している。この理由から、窒化アルミニウム膜にマグネシウムが含有していれば、パワー密度を低くすることで、結晶粒34の平均粒径を小さくできる。
【0072】
そこで、
図4(b)において、スパッタリング法を用いて、基板10上に設けられた下部電極12上に窒化アルミニウムを主成分とする圧電材料を成膜し、圧電層15a(第1圧電層)を形成する。
図4(c)において、S領域52(第1領域)における圧電層15aを残存させ、S領域52の外側に設けられた領域56(第2領域)における圧電層15aを除去する。その後、
図5(a)において、スパッタリング法を用いて、圧電層15aを形成するときのパワー密度より小さいパワー密度を用い範囲58における下部電極12上に窒化アルミニウムを主成分としマグネシウムを含む圧電材料を成膜し、圧電層15b(第2圧電層)を形成する。これにより、圧電層15bの結晶粒34の平均粒径を圧電層15aの結晶粒34の平均粒径より小さくできる。
【0073】
よって、範囲58における圧電層15bにクラックが生じることが抑制される。一方、S領域52の圧電層15aは圧電性が高く、電気機械的エネルギーの変換効率が向上する。圧電層15aは、マグネシウムを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
【0074】
このように製造した超音波トランスデューサ100では、圧電層14は窒化アルミニウムを主成分とする。領域56における圧電層15bはマグネシウムを含有する。
【0075】
図7より、Mgを添加していない膜Aおよびパワー密度が20W/cm
2の膜Bでは、平均粒径は約40nmである。これに対し、パワー密度が約10W/cm
2の条件を用いて膜Bを成膜すると、平均粒径は約25nmである。
【0076】
結晶粒34の平均粒径を小さくするため、圧電層15bにおけるMgの平均濃度は、10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましい。圧電層15bにおけるMgの平均濃度は1原子%以上が好ましい。なお、Mg濃度は、アルミニウム、マグネシウムおよびその他の添加元素の合計(窒素は含まない)を100原子%としたときのマグネシウムの濃度である。
【0077】
マグネシウムを含む窒化アルミニウムはマグネシウムを含まない窒化アルミニウムより柔らかくなる。そこで、圧電層15bにおけるMgの平均濃度を圧電層15aにおけるMgの平均濃度より高くする。これにより、範囲58における圧電層15bにクラックが生じることをより抑制できる。
【0078】
[実験2]
酸素(O)を添加した窒化アルミニウム膜を成膜した。成膜には、ACマグネトロンスパッタ方式を用いた。2つのAlターゲットを用いた。アルゴン(Ar)と窒素(N2)と酸素(O2)をスパッタリング用のガスとして用いた。窒素と酸素の混合比を変えて、酸素濃度の異なる窒化アルミニウム膜を成膜した。SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)法を用いて、表面から0.7μm~1μmの酸素の平均濃度を測定し、膜の酸素濃度とした。
【0079】
図8は、実験2における酸素濃度に対する結晶粒の平均粒径を示す図である。窒化アルミニウム膜内の酸素濃度が、0.0018原子%、0.67原子%および5.5原子%では、結晶粒34の平均粒径は、それぞれ38.4nm、33.3nmおよび26.6nmである。このように、窒化アルミニウム膜内の酸素濃度を高くすることで、平均粒径を小さくできる。
【0080】
そこで、
図4(b)において、スパッタリング法を用いて、下部電極12上に窒化アルミニウムを主成分とする圧電材料を成膜し、圧電層15aを形成する。
図4(c)において、S領域52(第1領域)における圧電層15aが残存し、S領域52の外側に設けられた領域56(第2領域)における圧電層15aを除去する。
図5(a)において、スパッタリング法を用いて、範囲58における下部電極12上に窒化アルミニウムを主成分とし、圧電層15aより酸素濃度の高い圧電材料を成膜し、圧電層15bを形成する。これにより、圧電層15bの結晶粒34の平均粒径を圧電層15aの結晶粒34の平均粒径より小さくできる。よって、範囲58における圧電層15bにクラックが生じることが抑制される。一方、S領域52の圧電層15aは圧電性が高く、効率が向上する。
【0081】
このように製造された超音波トランスデューサ100は、圧電層14は窒化アルミニウムを主成分とする。領域56における圧電層15bの酸素濃度は、S領域52における圧電層15aの酸素濃度より低い。
【0082】
圧電層15bの酸素濃度は、1原子%以上が好ましく、2原子%以上がより好ましい。圧電層15aの酸素濃度は、10原子%以下が好ましく、8原子%以下がより好ましい。圧電層15bの酸素濃度は、圧電層15aの酸素濃度の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。なお、酸素濃度は、アルミニウム、窒素およびその他の添加元素の合計を100原子%としたときの酸素の濃度である。
【0083】
実験1および2の結果から、領域56における圧電層15bの下面から1μmの箇所における結晶粒34の平均粒径は30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましい。S領域52における圧電層15aの下面から1μmの箇所における結晶粒34の平均粒径は35nm以上であることが好ましい。
実施例2の超音波トランスデューサ102では、領域56の圧電層15bの下面40の表面粗さは、領域54の圧電層15aの下面40の表面粗さより大きい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
圧電層15aの平均粒径を40nm程度とする観点から、圧電層15aの下面40の算術平均粗さは、5nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましい。圧電層15bの平均粒径を35nm以下とする観点から、圧電層15bの下面40の算術平均粗さは、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。算術平均粗さが平均粒径に対し大きすぎると、平均粒径は小さくならない。この観点から、圧電層15aの下面40の算術平均粗さは、50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
実施例2の変形例1の超音波トランスデューサ104では、領域54の外側に、範囲58を含む領域56と、領域54と領域56との間に位置する領域57と、が設けられている。領域57の圧電層15cの下面40の表面粗さは、領域54の圧電層15aの下面40の表面粗さより大きい。領域56の圧電層15bの下面40の表面粗さは、領域57の圧電層15cの下面40の表面粗さより大きい。領域57では、領域54から領域56に向かうにしたがい下面40の表面粗さが徐々に大きくなる。圧電層15cの結晶粒34の平均粒径は、圧電層15aの結晶粒34の平均粒径より小さい。圧電層15bの結晶粒34の平均粒径は、圧電層15cの結晶粒34の平均粒径より小さい。圧電層15cでは、圧電層15aから15bに向かうにしたがい結晶粒34の平均粒径が徐々に小さくなる。その他の構成は、実施例2と同じであり説明を省略する。
実施例1および2では、領域54と56との間において、平均粒径が急峻に変化する。このため、圧電層15aと15bとの境界に、界面が生じる。これにより、圧電層15aと15bとの界面において振動が反射され、不要な振動が生じる可能性がある。これにより、不要な振動はノイズとなる。また、領域54と56との間において、平均粒径が急激に変化すると、音響インピーダンスにも、急峻な差があると考えられる。このため、不要な振動が生じる可能性がある。
実施例2の変形例1では、領域57における圧電層15c内の結晶粒34の平均粒径は領域54から領域56に向かうにしたがい小さくなる。これにより、圧電層15aと15bとの間の音響インピーダンスが徐々に変化する。よって、振動の反射が抑制され、不要な振動を抑制できる。