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特開2024-137456積層造形物、その製造方法および積層造形用粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137456
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】積層造形物、その製造方法および積層造形用粉末
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/16 20060101AFI20240927BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B35/16
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048983
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】角田 貫一
(72)【発明者】
【氏名】池畑 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 麻穂
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 朋泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 栄一
(72)【発明者】
【氏名】粂 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伴 美織
(57)【要約】
【課題】鉄基材からなる本体上に高密着性の酸化物層を形成した積層造形物を提供する。
【解決手段】本発明は、鉄基材からなる本体上に酸化物層が形成された積層造形物である。酸化物層は、FeSiOからなるマトリックス中に、少なくともFeOが分散した複合材からなる。複合材は、FeSiOよりも線膨張係数が大きく、FeOよりも電気抵抗率が大きい特定化合物を含んでもよい。このような特定化合物として、例えば、CrFeOがある。複合材は、例えば、その全体を100at%として、Fe:20~45%、Si:2~12%含む。FeOが非樹枝状粒子からなり、マトリックス中に微細に分散しているほど、酸化物層の電気抵抗値は大きくなり易い。このような酸化物層は、電気絶縁層や耐食層として機能し得る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基材からなる本体上に酸化物層が形成された積層造形物であって、
該酸化物層は、FeSiOからなるマトリックス中に、少なくともFeOが分散した複合材からなる積層造形物。
【請求項2】
前記FeOは、非樹枝状粒子である請求項1に記載の積層造形物。
【請求項3】
前記複合材は、さらに、FeSiOよりも線膨張係数が大きく、FeOよりも電気抵抗率が大きい特定化合物を含む請求項1に記載の積層造形物。
【請求項4】
前記複合材は、CrFeOを含む請求項1に記載の積層造形物。
【請求項5】
前記複合材は、その全体を100at%(単に「%」という。)として、
Fe:20~45%と、
Si:2~12%と、
を含む請求項1に記載の積層造形物。
【請求項6】
前記複合材は、さらに、Cr、Al、Mn、Mg、CaまたはTiの一種以上である特定金属元素を0.5~25%含む請求項5に記載の積層造形物。
【請求項7】
指向性エネルギー堆積法により、請求項1~6のいずれかに記載の積層造形物を得る製造方法。
【請求項8】
指向性エネルギー堆積法に供される原料粉末であって、請求項1~6のいずれかに記載の積層造形物が得られる積層造形用粉末。
【請求項9】
前記原料粉末は、その全体を100at%(単に「%」という。)として、
Fe:15~40%と、
Si:4~14%と、
を含む請求項8に記載の積層造形用粉末。
【請求項10】
前記原料粉末は、さらに、Cr、Al、Mn、Mg、CaまたはTiの一種以上である特定金属元素を1~30%含む請求項9に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物層を有する積層造形物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の除去加工(切削、研削、切断等)や成形加工(鋳造、鍛造、プレス等)とは異なり、専用の型や大型の工作機械等を必要とせずに、所望の造形物を得る付加加工(AM:Additive Manufacturing)が注目されている。積層を繰り返す付加加工(積層造形)によれば、従来の製造方法では製作が困難であった物(積層造形物)が得られる。
【0003】
付加加工は、大別して7種類に分類される(ASTM規格)。具体的にいうと、指向性エネルギー堆積法(DED: Directed Energy Deposition)、粉末床溶融結合法(PBF:powder bed fusion)、結合剤噴射法(binder jetting)、材料噴射法(material jetting)、材料押出法(material extrusion)、液槽光重合法(vat photopolymerization)およびシート積層法(sheet lamination)の各方式がある。
【0004】
このうち、DEDやPBFによれば、金属やセラミックからなる実用的な造形物が得られる。DEDとPBFはいずれも、高エネルギービーム(レーザや電子ビームなどの熱源)で原料粉末(混合粉末を含む。)を溶融凝固(結合)させて造形物を得る点で共通する。特にDEDは、PBFよりも、原料粉末の使用量抑制、造形自由度の拡大等を図り易い。このような積層造形に関する提案は多くなされており、例えば、下記の文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】金丸ら,2021年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集, (2021) p. 326.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、DEDで製作したFeSi造形物やFeCoV造形物に関する記載がある。もっとも非特許文献1は、具体的な合金組成を開示しておらず、等方性結晶粒からなる軟磁性造形物を対象にしているに過ぎない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鉄基材からなる本体上に酸化物層を設けた新たな積層造形物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究した結果、FeSiOからなるマトリックス中にFeOを分散させた複合材からなる酸化物層は、鉄基材からなる本体に対して優れた密着性を発揮することを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《積層造形物》
(1)本発明は、
鉄基材からなる本体上に酸化物層が形成された積層造形物であって、該酸化物層は、FeSiOからなるマトリックス中に、少なくともFeOが分散した複合材からなる積層造形物である。
【0010】
(2)本発明の積層造形物(単に「造形物」ともいう。)は、鉄基材からなる本体と酸化物層が界面で密着しており、酸化物層により付加される所望特性(例えば高電気抵抗、高耐食性等)を安定的に発揮し得る。勿論、本発明の積層造形物は、本体および/または酸化物層の形成自由度や形態自由度が大きいため、例えば、複雑または微細な部材等でも効率的に製作され得る。
【0011】
酸化物層と本体の密着性が優れる理由は、次のように考えられる。500Kで比較すると、鉄基材の線膨張係数(約14×10-6/K)に対して、FeSiO(ファイアライト)の線膨張係数(約10×10-6/K)は小さいが、FeOの線膨張係数(約13×10-6/K)は同程度となる。このため、FeSiOからなるマトリックス中にFeOが分散した複合材からなる酸化物層は、鉄基材からなる本体との線膨張係数差が小さくなる。これにより、酸化物層と本体の界面に作用する熱応力は小さくなり、界面付近で剥離、割れ等が生じ難なり、酸化物層は本体に高密着するようになったと考えられる。
【0012】
《製造方法》
本発明は、積層造形物の製造方法(積層造形方法)としても把握される。例えば、上述した造形物は、指向性エネルギー堆積法(DED)や粉末床溶融結合法(PBF)を行なう製造方法により得られる。特にDEDによれば、本体上の所望箇所に、所望形態の酸化物層を効率的に形成することができる。
【0013】
粉末を溶融させる熱源は、レーザビーム、電子ビーム、プラズマアーク等の高エネルギービームである。本明細書では、便宜上、代表的な熱源であるレーザビームを用いたL-DED(LMD)を取り上げて説明する。
【0014】
《積層造形用粉末》
本発明は、上述した積層造形物を得るために、積層造形に供される原料粉末(積層造形用粉末)としても把握される。積層造形用粉末(適宜「原料粉末」という。)は、単種の合金粉末でも、複数種の粉末からなる混合粉末でもよい。原料粉末の成分組成または配合組成は、酸化物層の所望組成と同じでなくてもよい。積層造形時にできる溶融池には、原料粉末側の成分元素のみならず、本体側の成分元素も僅かながら溶け込み、溶融池は両側の成分元素が混在した状態となる。このため酸化物層の全体組成は、原料粉末の全体組成と必ずしも一致しない。原料粉末の全体組成は、その点を考慮して、予め調整されてもよい。
【0015】
《その他》
(1)本発明の「造形物」は、本体と酸化物層の両方が積層造形されたものでもよいし、酸化物層だけが積層造形されたものでもよい。前者の場合、さらに、本体と酸化物層は異なる方法で積層造形されたものでもよい。DEDなら、供給する原料粉末の変更等により、鉄基材からなる本体上に、その鉄基材とは異なる成分組成からなる酸化物層を効率的に形成することも可能である。
【0016】
(2)「本体」は、積層造形物の他、溶製材(展伸材、鋳物等)でも、焼結材でもよい。本体は、その形態や加工段階を問わず、素材、中間材、最終製品等でもよい。本体は、酸化物層の形成領域が鉄基材であれば、本体全体が鉄基材でなくてもよい。
【0017】
「鉄基材」は、純鉄でも、鉄合金(炭素鋼、合金鋼、鋳物等)でも、鉄基マトリックス中に分散粒子がある複合材等でもよい。
【0018】
(3)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】LMDにより酸化物層を積層造形する様子を示す模式図である。
図2】試料5(X=15)の造形物断面をデジタルマイクロスコープで観察した様子を示す写真である。
図3A】試料1~5の造形物断面(界面付近)を観察したSEM像である。
図3B】試料Cの造形物断面(界面付近)を観察したデジタルマイクロスコープ像である。
図4】試料1~5の造形層組織を分析したEDX像である。
図5】試料1~5の造形物に係る電気抵抗値を示すグラフである。
図6】原料粉末の成分組成に基づく熱力学計算から得られた相分率と液相線温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、積層造形物のみならず、積層造形方法、その原料粉末等にも適宜該当する。
【0021】
《酸化物層》
(1)酸化物層は、FeSiOからなるマトリックス中に、少なくともFeOが分散した複合材からなる。酸化物層は、本体上の少なくとも一部にあればよい。酸化物層は、本体の(最)表面側にある場合に限らず、本体中(内部)にあってもよい。酸化物層は、一層に限らず、複数層でもよい。複数の酸化物層は、連続的に形成されても、離散的に形成されてもよく、各層の成分組成や組織は略同じでも、異なっていてもよい。
【0022】
(2)マトリックス(FeSiO)中に分散しているFeOの形態は問わない。FeOの(粒子)形態制御により、酸化物層の所望特性(仕様)を調整してもよい。例えば、FeOが連続的に成長した樹枝状粒子である場合、FeOの電気抵抗率(10Ωcm程度)がFeSiOの電気抵抗率(10Ωcm程度)よりも大きく影響して、複合材からなる酸化物層の電気抵抗値は低くなる傾向を示す。逆に、FeOが分断された非樹枝状粒子(略角状粒子または略球状粒子)である場合、FeSiOの電気抵抗率がFeOの電気抵抗率よりも大きく影響して、複合材からなる酸化物層の電気抵抗値は高くなる傾向を示す。
【0023】
但し、複合材全体の線膨張係数は、概ね複合則に沿うため、FeOの粒子形態が酸化物層と本体の密着性に及ぼす影響は少ない。
【0024】
(3)複合材は、Fe、Si、O以外の特定元素を含んでもよい。また複合材は、マトリックス中にFeO以外の特定化合物や特定金属粒子を含んでもよい。それらの元素源は、原料粉末でも、本体の鉄基材でもよい。
【0025】
特定元素として、例えば、Cr、Al、Mn、Mg、CaまたはTiの一種以上である特定金属元素がある。このような特定金属元素は、例えば、複合材全体に対して0.5~25%、1~20%さらには2~17%含まれる。なお、本明細書でいう成分組成は、特に断らない限り、原子割合(at%)であり、単に「%」または数値のみで表わす。
【0026】
特定金属元素の一例としてCrがあり、特定化合物の一例としてCrFeOがある。Crは複合材の液相線温度を上昇させ、複合材の固液共存域を拡大させ得る。これにより、複合材のマトリックス中に晶出または析出する粒子の分散化、離散化または微細化等が促進され得る。具体的にいうと、Crが含まれる場合、マトリックス中でFeOは、非樹枝状に分散した状態となり易い。
【0027】
なお、複合材に含まれるCrは、例えば、CrFeO(特定化合物)としてマトリックス(FeSiO)中に晶出または析出する。CrFeOの線膨張係数(約12×10-6/K)はFeSiOよりも大きく、CrFeOの電気抵抗率(10Ωcm程度)はFeOよりも大きい。このようなCrFeOを含む複合材からなる酸化物層は、高密着性と高電気抵抗率の両立に寄与し得る。
【0028】
(4)複合材は、その全体を100at%として、例えば、Feを20~45%、22~35%または23~30%、Siを2~12%、3~10%または5~8%含む。ちなみに、FeSiOの理論組成(at%)は、Fe:28.6%、Si:14.3%、O:残部(57.1%)である。複合材にCrが含まれる場合、例えば、Crは0.1~25%、1~20%または2~18%でもよい。
【0029】
《原料粉末》
積層造形に供される原料粉末は、高エネルギービームの照射域(溶融池)で略均一的な液相となる限り、種類、製造プロセス、形態(形状、サイズ)を問わない。例えば、一種の合金粉末でも、複数種の粉末からなる混合粉末や造粒粉末でもよい。またアトマイズ粉末でも、粉砕粉末でもよい。
【0030】
原料粉末の粒度は、適宜、調整または選択されてもよい。例えば、原料粉末の粒度は、5~300μmまたは20~200μmである。本明細書でいう粒度は、例えば、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分け法で規定される。粒度「x~y」の粉末は、篩目開きx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。「y未満」は、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。
【0031】
原料粉末の全体組成は、酸化物層を構成する複合材の全体成分や組織、酸化物層を形成する鉄基材の成分組成、造形条件等を考慮して調整され得る。例えば、原料粉末は、その全体を100at%として、Feを15~40%、17~35%または20~30%含み、Siを4~14%、5~12%または6~10%含んでもよい。さらに原料粉末は、例えば、Cr、Al、Mn、Mg、CaまたはTiの一種以上である特定金属元素を、1~30%、3~25%または7~20%含んでもよい。
【0032】
《積層造形物》
(1)造形物は、形態(形状、大きさ)、用途等を問わない。酸化物層の厚さ、範囲、配置等は適宜、調整・選択される。酸化物層を積層造形するとき、その積層数等も問わない。酸化物層の厚さは、例えば、5~500μm、10~350μmまたは20~200μmである。
【0033】
酸化物層は、例えば、電気絶縁層や耐食層等として機能し得る。酸化物層または造形物の電気抵抗率は、例えば、1~10Ωcmまたは10~10Ωcmである。なお、高電気抵抗率な酸化物層は、本体(鉄基材)に対して局部電池の形成を抑止するため、高耐食層等にもなり得る。
【0034】
(2)造形物は、例えば、交番磁界中で使用される軟磁性部材(ヨーク、コア等)となる。具体的にいうと、電動機(発電機を含む)のロータやステータ、変圧器用鉄心等の全部または一部となる。このような造形物に形成される酸化物層は、効率的な磁気回路の形成、電磁機器の効率向上、鉄損の低減等に寄与し得る。
【実施例0035】
LMD(L-DED)により、本体上に造形層を形成した試料(積層造形物)を種々製造し、その構造や特性を評価した。このような具体例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0036】
《試料の製造》
(1)原料粉末
酸化物粉末(SiO粉末:(D50)100μm、FeO粉末:(D50)30μm)、純Cr粉末(-63μm)を用意した。各粉末は、粒度が45μm未満の粉末を除去して用いた。
【0037】
各粉末を下記に示す所望組成に秤量・配合した混合粉末を調製して、積層造形に供した。試料Cの原料粉末は、FeSiOの理論組成を想定して調製した。
試料1~5:(35Fe-10Si-55O)(100-X)Cr
試料C :29Fe-14Si-O(残部)
なお、本実施例で示す化学組成(成分組成)は、特に断らない限り、対象物全体(粉末、鉄基材、複合材、造形層(酸化物層)等)に対する原子割合(at%)であり、単に「%」または数値のみで示す。
【0038】
(2)積層造形
LMD装置(エンシュウ株式会社製レーザー加工試験機)のパウダーフィーダ(粉箱)に入れた原料粉末(混合粉末)を、キャリアガス(Ar)でパウダーノズルへ供給した。
【0039】
そのLMD装置を用いて、室温大気中で、本体(SS400鋼板(JIS)/15×15×t5mm)の最表面に造形層(12mm×15mm×t0.4mm)を形成した。この様子を模式的に図1に示した。なお、SS400(鉄基材)の化学組成は、例えば、P≦0.05質量%、S≦0.05質量%、C:0.15~0.2質量%、残部:Feである。
【0040】
ファイバーレーザ(株式会社IPG製YLS-4000/レーザ波長:1070nm)の照射条件は、出力:800W、ビーム径(スポット径):2.5mm、走査速度:800~1600mm/minとした。粉末供給量:0.06g/s 、走査ピッチ(x方向):0.75~1.5mm、キャリアガス(Ar)流量:10L/minとした。造形層の積層数は1回とした。
【0041】
こうして試料1~5と試料Cを製作した。試料1~5は、原料粉末に配合したCr量が異なり、試料1:X=0、試料2:X=3、試料3:X=6、試料4:X=10、試料5:X=15とした。
【0042】
《観察》
(1)断面
図2に示すように、試料5(X=15)の造形物断面をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製)で観察した。図2から明らかなように、造形層は本体上に剥離せず、密着して形成されていた。
【0043】
(2)界面
試料1~5について、造形層と本体の界面付近の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。これらのSEM像を図3Aに示した。また、試料Cのデジタルマイクロスコープ像を図3Bに示した。
【0044】
図3Aから明らかなように、試料1~5はいずれも、造形層(酸化物層)全体が鉄基材(本体)に密着していた。一方、図3Bから明らかなように、FeSiOを想定して造形層(試料C)は、鉄基材との界面付近で剥離が観られた。ちなみに、試料Cの造形層をEDXで分析したところ、その殆どはFeSiOからなる酸化物であり、FeOは殆ど含まれていなかった。
【0045】
《分析》
試料1~5の各造形層をSEMに付属しているエネルギー分散型X線分析(EDX)で分析した。それらのEDX像を図4にまとめて示した。
【0046】
図4から明らかなように、各造形層は、主たる酸化物であるFeSiO(マトリックス)中に、Fe系酸化物相(FeO)、Cr系酸化物相(CrFeO)またはFe相が分散した複合材からなる酸化物層であることがわかった。
【0047】
また、原料粉末に配合したCr量が多い試料ほど、FeO相(粒子)が樹枝状から微細な非樹枝状(粒状)へ変化すると共に、粒状のCrFeO相やFe相も増加することもわかった。
【0048】
《測定》
試料1~5について、本体(鉄基材)と造形層(酸化物層)の間の電気抵抗値を二端子法により測定した。測定は5回行ない、その算術平均値を図5にまとめて示した。
【0049】
図5から明らかなように、原料粉末に配合したCr量が多い試料ほど、造形物の電気抵抗値が大きくなった。
【0050】
《考察》
(1)組織と電気抵抗
図4図5の対比から、次のように考えられる。成長した樹枝状のFeOが多い組織からなる酸化物層ほど、電気抵抗値が減少する。逆に、微細な非樹枝状のFeOが多い組織からなる酸化物層ほど、電気抵抗値が増加する。このような組織制御は、例えば、原料粉末に含まれるCr量の調整により行える。
【0051】
(2)原料粉末と酸化物層
原料粉末の成分組成に基づいて、造形層に現れる形成相(相分率)とその液相線温度を熱力学計算により求めた。その結果を図6にまとめて示した。なお、解析は、熱力学解析ソフト(Thermo-Calc 2021b/酸化物系データベースTCOX11)を用いて平衡状態を計算した。
【0052】
図6図4とを比較すると明らかなように、両者間に相関が観られるものの、SiO やFeSiOの形成は相違していた。試料5の造形層の平均組成をEDXで実際に分析したところ、概ね25Fe-7Si-11Cr-O(at%)であり、原料粉末の全体組成とは異なっていた。
【0053】
その組成(25Fe-7Si-11Cr-O)に基づいて、上述した熱力学計算を再度行なったところ、図4の試料5に示すように、SiOは形成されず、FeSiO、FeO、CrFeOおよびFeのみが形成されることが明らかとなった。つまり、溶融池の合金組成により、ほぼ形成相が定まることがわかった。
【0054】
原料粉末に対して造形層に含まれるSiやCrが減少した理由は、造形時の歩留まり低下(供給粉末のばらつき)、原料粉末と鉄基材の溶融混合等に依ると考えられる。
【0055】
もっとも、原料粉末の配合組成からずれた成分組成の造形層(酸化物層)であっても、FeSiO(マトリックス)中にFeOが分散した複合材からなり、FeOの形態や量の調整により、所望特性(電気抵抗値等)が得られることは十分に確認された。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6