(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137466
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】アスファルト再生用添加剤
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20240927BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L91/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049001
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】小松 泰幸
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE052
4J002AG001
4J002FD022
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】劣化したアスファルトとの相溶性に優れ、低粘度であり、安全性を向上させたアスファルト再生用添加剤を提供する。
【解決手段】環分析(n-d-M法)による%CPが50以下、%CAが30~40であって、かつ引火点が260℃以上である石油系溶剤抽出油:50質量%~80質量%、油脂:20質量%~50質量%を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環分析(n-d-M法)による%CPが50以下、%CAが30~40であって、かつ引火点が260℃以上である石油系溶剤抽出油:50質量%~80質量%、
油脂:20質量%~50質量%
を含有すること
を特徴とするアスファルト再生用添加剤。
【請求項2】
多環芳香族炭化水素類(PAHs)の合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下である上記石油系溶剤抽出油を含有すること
を特徴とする請求項1記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項3】
フルフラール溶剤抽出精製により生成された上記石油系溶剤抽出油を含有すること
を特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項4】
引火点が260℃以上である上記油脂を含有すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項5】
上記油脂は、廃油脂を含有すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項6】
多環芳香族炭化水素類(PAHs)の合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下の性状を示すこと
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項7】
60℃動粘度が50~200mm2/sの性状を示すこと
を特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項8】
スラッジの発生量が2.0質量%以下の性状を示すこと
を特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【請求項9】
引火点が260℃以上の性状を示すこと
を特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路舗装の修繕の際に除去されたアスファルト混合物に対して添加することにより、再生アスファルト混合物を生成するためのアスファルト再生用添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路舗装材として、骨材や各種充填材にアスファルトを加熱混合したアスファルト混合物が広く使用されている。この道路舗装材が紫外線、酸素、外気に曝露されることで、これに含まれるアスファルトが酸化、重合等により劣化してしまう。これにより、アスファルトの針入度や軟化点、粘度等の性状が変化する結果、道路舗装材自体の亀裂や砕石の飛散等の損傷が発生する。
【0003】
このような道路舗装材の損傷が発生した場合、舗装面の修繕が必要になる。修繕に際して、除去作業により大量のアスファルト混合物が発生する。この除去されたアスファルト混合物は、廃棄されることなく、所定の手順を経て、再生アスファルト混合物として再利用される。このアスファルト混合物の再利用時には、再生骨材に含まれる、劣化したアスファルトの性状回復のため、軟質なアスファルト再生用添加剤等を添加することが、例えば舗装再生便覧(平成22年版)((公社)日本道路協会)の、「2-5 再生舗装用の材料の配合設計」に記載されている。特に近年における道路舗装では、現存する道路を適切に維持、修繕することが求められており、資源の有効利用の観点からも再生アスファルト混合物の使用が推奨されている。このため、各種再生アスファルト混合物(例えば、特許文献1参照。)や、その製造方法(例えば、特許文献2参照。)等も案出されている。
【0004】
従来のアスファルト再生用添加剤としては、パラフィン系の飽和脂肪族分を多く含む潤滑油基油を主成分とするもの(パラフィン系)、又はパラフィン基原油、ナフテン基原油、混合基原油等より得られる芳香族分を多く含む重質なフルフラールエキストラクト等を主成分とするもの(エキストラクト系)が多く用いられてきた。
【0005】
パラフィン系のアスファルト再生用添加剤は低粘度(軽質)であるため、劣化したアスファルトを軟化させることができる。しかし、このパラフィン系は、飽和分を多く含むために、劣化したアスファルト(旧アス)との相溶性が低く、再生を繰り返した後のアスファルトでは軟化点、伸度等の性状が回復しにくい、また旧アスと混合時のスラッジ発生量が多い場合があった。特許文献2によれば、スラッジ発生量が2.0質量%を超えると、再生アスファルトにした際に耐ひび割れ抵抗性が劣る結果が報告されている。
【0006】
エキストラクト系のアスファルト再生用添加剤は、芳香族分を多く含み、劣化したアスファルトとの相溶性に優れ、再生を繰り返したアスファルトにおいても、軟化点、伸度を良好に回復することができる。しかし、エキストラクト系は、低粘度にするために軽質分を多く含有させた場合には引火点が低くなる。また、エキストラクト系は、引火点を高めるために重質分を使用すると、劣化したアスファルトの性状を回復させるために比較的多くの量が必要となる。特にエキストラクト系において重質分を使用した際には、高粘度となり、寒冷期においては加温しないと流動せず、設備状況によっては使用が難しくなるという場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-154465号公報
【特許文献2】特許第7041149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上述したパラフィン系、エキストラクト系がそれぞれ抱える問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、劣化したアスファルトとの相溶性に優れ、低粘度であり、安全性を向上させたアスファルト再生用添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の技術は、上記課題を解決するため、以下のアスファルト再生用添加剤を提供する。
1.環分析(n-d-M法)による%CPが50以下、%CAが30~40であって、かつ引火点が260℃以上である石油系溶剤抽出油:50質量%~80質量%、
油脂:20質量%~50質量%
を含有すること
を特徴とするアスファルト再生用添加剤。
2.多環芳香族炭化水素類(PAHs)の合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下である上記石油系溶剤抽出油を含有すること
を特徴とする上記1記載のアスファルト再生用添加剤。
3.フルフラール溶剤抽出精製により生成された上記石油系溶剤抽出油を含有すること
を特徴とする上記1又は2に記載のアスファルト再生用添加剤。
4.引火点が260℃以上である上記油脂を含有すること
を特徴とする上記1~3のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
5.上記油脂は、廃油脂を含有すること
を特徴とする上記1~4のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
6.多環芳香族炭化水素類(PAHs)の合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下の性状を示すこと
を特徴とする上記1~5のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
7.60℃動粘度が50~200mm2/sの性状を示すこと
を特徴とする上記1~6のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
8.スラッジの発生量が2.0質量%以下の性状を示すこと
を特徴とする上記1~7のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
9.引火点が260℃以上の性状を示すこと
を特徴とする上記1~8のいずれか1項に記載のアスファルト再生用添加剤。
【発明の効果】
【0010】
上述した構成からなる本発明によれば、劣化したアスファルトとの相溶性に優れ、より低粘度で軟質であり、安全性を向上させたアスファルト再生用添加剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、濾過方法に用いられる濾過器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、本発明者らは、道路舗装の修繕の際に除去されたアスファルト混合物に対して添加することにより、再生アスファルト混合物を生成するためのアスファルト再生用添加剤の成分について鋭意検討を行った。その結果、スラッジの発生量及び60℃における動粘度、引火点を所望の範囲にするとともに、安全性を確保する上で、アスファルト再生用添加剤の成分を、環分析(n-d-M法)による%CPが50以下、%CAが30~40であって、かつ引火点が260℃以上である石油系溶剤抽出油を50質量%~80質量%、油脂を20質量%~50質量%で含有させることを新たに見出し、本開示の技術を完成させるに至った。ここでいう安全性とは、引火点が高いこと、又は発がん性を呈する可能性のあるPAHsが規制値以下であること、若しくはその両方を満たすことを意味するものである。
【0013】
以下、各成分組成の詳細並びにその含有量を限定した理由について説明をする。
【0014】
(石油系溶剤抽出油(エキストラクト))
石油系溶剤抽出油であるエキストラクト(溶剤抽出油又は、溶剤抽出物とも呼ばれる)は、原油から潤滑油を製造する際の溶剤抽出過程で生成される抽出油であり、芳香族分及びナフテン分に富んだ油状物質である(「石油製品のできるまで」,
図3-1”一般的な潤滑油製造工程”,石油連盟発行,1998年4月,p.97、及び「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.304参照)。この石油系溶剤抽出油は、軟化剤として作用する成分である。石油系溶剤抽出油は、例えば、原油精製の工程において、減圧蒸留残油をフルフラールを用いて処理し,残油中の芳香族成分を抽出して除去する、いわゆるフルフラール溶剤抽出精製により生成されるものであってもよい。
【0015】
具体的には、硫黄分1.3~2.0質量%、API度29~35の中東系原油を常圧蒸留装置で処理した沸点350℃以上の常圧残渣油を得る。得られた常圧残渣油を、減圧蒸留処理して得られた減圧残渣油を得る。得られた減圧残渣油を、プロパンを用いて溶剤比400~800%、温度55~75℃で交流接触させ溶剤脱瀝油を得る。得られた溶剤脱瀝油を、溶剤としてフルフラールを用いた溶剤比200~400%、温度40~120℃で得られた溶剤抽出物(エキストラクト)を使用するのが好ましい。当業者であれば、上記条件内で適宜運転条件を調整することにより、本発明に記載するエキストラクトを得ることができる。
【0016】
この石油系溶剤抽出油は、環分析(n-d-M法)による%CPが50以下、%CAが30~40のものを使用する。ここで、n-d-M法では、%CP(パラフィン炭素数)、%CN(ナフテン炭素数)、%CA(芳香族炭素数)がそれぞれ全炭素に対する割合で表示される。%CPが50を超える場合、スラッジの発生量が多くなってしまう。また%CAが30未満の場合には、芳香族炭化水素が少ないことによりアスファルトとの相溶性が低下し、スラッジの発生量が多くなってしまう。%CAが40超の場合には、多環芳香族炭化水素類(PAHs)が増加してしまうことから安全性が低下してしまう。このため、環分析による%CPは50以下、%CAは30~40のものを使用する。
【0017】
また石油系溶剤抽出油は、引火点が260℃以上のものを使用する。使用する石油系溶剤抽出油の引火点が260℃未満の場合、再生アスファルト混合物作成時などに引火の危険性が高まり、作業者の安全性が低下する。
【0018】
PAHsとは、芳香環が縮合した炭化水素を表すものであり、100種類以上の化学物質が含まれる。PAHsの中には発がん性を有するものがあり、欧州においては、タイヤまたはタイヤ部品の原料に用いるオイルについて、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(e)ピレン、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(b)フルオランテン、ベンゾ(j)フルオランテン、ベンゾ(k)フルオランテン、クリセン、ジベンゾ(a、h)アントラセンの8成分の合計が10ppm超、及び/又はベンゾ(a)ピレンが1.0ppm超を含有するオイルの使用を制限している。アスファルト再生用添加剤についても、作業者への健康被害防止の観点から、上記の規制値を超えないものが望ましい。
【0019】
また石油系溶剤抽出油は、PAHsの合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下のものを使用することが望ましい。PAHsの合計が10ppm超である場合、及び/又はベンゾ(a)ピレンが1.0ppm超である場合、アスファルト再生用添加剤自体が発がん性を呈する可能性のあるものとなり、取扱時、作業時における安全性を確保することができなくなるためである。
【0020】
石油系溶剤抽出油の含有量は、50質量%~80質量%としている。石油系溶剤抽出油の含有量が50質量%未満の場合には、スラッジの発生量が多くなってしまう。これに対して、石油系溶剤抽出油の含有量が80質量%超の場合には、動粘度が高くなり、特に低温時には流動性に乏しくなり作業性が低下する。このため、本発明では、石油系溶剤抽出油の含有量の下限を50質量%、上限を80質量%とする。
【0021】
なお、石油系溶剤抽出油の含有量は、70質量%超~80質量%されていることが望ましい。石油系溶剤抽出油の含有量の下限を70質量%超とすることにより、スラッジの発生量をより低く抑えることができるためである。
【0022】
(油脂)
油脂は、高引火点でありながら粘度が低く、旧アスの溶解性を維持することができる。また石油由来の基材ではないため、カーボンニュートラルの観点から油脂の使用が二酸化炭素の排出削減となり、特に廃油脂であれば資源の再利用が可能となる。油脂は、天然油脂、天然油脂の水素化処理物、天然油脂のエステル交換物、又は天然油脂のエステル交換物の水素化処理物等である。ここで、天然油脂としては、各種の動物油脂又は植物油脂である。動物油脂は、例えば、牛脂、バター等の牛乳脂質、豚脂、羊脂、鯨油、魚油、肝油等である。植物油脂は、例えば、パーム油、パーム核油、綿実油、ヒマシ油、桐油、椿油、落花生油、亜麻仁油、サフラワー油、大豆油、菜種油、ヤシ油、ゴマ油、オリーブ油、カポック油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油である。また、本発明においては、これらの動物油脂、植物油脂を民生用、産業用、食用等で使用した廃油脂も雑物等の除去工程を加えた後に原料とすることができる。また、廃油脂の中でも、廃食油を利用することが好ましい。
【0023】
油脂は、脂肪酸炭素数が3~18である飽和脂肪酸、不飽和結合を1つ若しくは複数有する不飽和脂肪酸等で構成されていてもよく、またこれら飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の混合物で構成されていてもよい。この中でも、本発明において適用する油脂は、脂肪酸炭素数が18である飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸で構成されていることが望ましい。その飽和脂肪酸の例としては、例えば、ステアリン酸(C17H35COOH)であり、不飽和脂肪酸の例としてはオレイン酸(C17H33COOH)、リノール酸(C17H31COOH)、リノレン酸(C17H29COOH)、リシノール酸(C17H32(OH)COOH)等が挙げられる。
【0024】
油脂は、酸価は5.0mgKOH/g以下が好ましく、4.0mgKOH/g以下が更に好ましい。ヨウ素価は50~130gI2/100gのものが好ましく、100~110gI2/100gが更に好ましい。
【0025】
酸価が5.0mgKOH/gを超えると、再生用添加剤とした時の劣化が促進されて所望の性能が得られなくなる恐れがあり、また配管等の金属を腐食するという問題点があるため、5.0mgKOH/g以下が望ましい。
【0026】
ヨウ素価は二重結合の数の指標であり、値が小さいほど二重結合数が少なくなる。ヨウ素価が50gI2/100gを下回ると油脂の流動性が低下し、作業性の改善を図ることができない。ヨウ素価が130gI2/100gを超えると、油脂の熱安定性が低下し、酸化されやすくなり、加熱時の性能劣化が激しくなるといった問題点がある。
【0027】
油脂の含有量が20質量%未満では、二酸化炭素削減効果が発揮されず、また再生用添加剤の低粘度化が発揮されず、作業性の改善を図ることができない。一方、油脂の含有量が50質量%を超える場合、アスファルトとの相溶性が低下し、スラッジ発生量が大きくなり、アスファルト混合物の性能が低下してしまうばかりでなく、高価な油脂の添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題点が生じる。このため、油脂の含有量は、20質量%~50質量%としている。なお、油脂の含有量は、更に20質量%~30質量%未満とされていることが望ましい。その理由として、油脂の上限を30質量%未満とすることで、石油系溶剤抽出油の含有量の下限を70質量%超とすることができ、スラッジの発生量をより低く抑えることができるためである。
【0028】
また、本発明を適用したアスファルト再生用添加剤では、上述した石油系溶剤抽出油、油脂以外に、例えば、原油精製または化学合成によって得られる潤滑油の成分を含有するものであってもよい。
【0029】
上述した成分を含有するアスファルト再生用添加剤自体の物性としては、PAHsの合計が10ppm以下、ベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下、60℃動粘度が50~200mm2/s、スラッジの発生量が2.0質量%以下、引火点が260℃以上、密度が0.95g/cm3以上の性状を示すことが望ましい。
【0030】
60℃動粘度は、好ましくは70~200mm2/s、より好ましくは80~170mm2/sである。
【0031】
スラッジの発生量は、より好ましくは1.0質量%以下、より一層好ましくは0.35質量%以下、更により一層好ましくは0.25質量%以下である。引火点は、より好ましくは310℃以上、より一層好ましくは320℃以上である。密度は、より好ましくは0.96g/cm3以上、より一層好ましくは0.97g/cm3以上である。
【0032】
これにより、劣化したアスファルトとの相溶性に優れ、より低粘度で安全性を向上させることができる。
【実施例0033】
実験的検討を行うために、石油系溶剤抽出油として、表1に示すエキストラクト1~エキストラクト4を準備した。
【0034】
エキストラクト1は、中東系原油を常圧蒸留装置で処理した常圧残渣油を減圧蒸留処理し、沸点520℃以上の減圧残渣油を用いてプロパン脱瀝を行い、得られたプロパン脱瀝油をフルフラール抽出したエキストラクトである。
【0035】
エキストラクト2は、一般的にパラフィン系と呼ばれる市販の再生用添加剤である。
【0036】
エキストラクト3は、中東系原油を常圧蒸留装置で処理した常圧残渣油を減圧蒸留処理し、沸点380℃~570℃までの留分をフルフラール抽出したエキストラクトである。
【0037】
エキストラクト4は、オーストラリア産原油を精製して得られた市販品の再生用添加剤である。
【0038】
また油脂としては、酸価3.1mgKOH/g、ヨウ素価107.6gI2/100g
の廃食油を準備した。
【0039】
【0040】
これらのエキストラクト1~エキストラクト4、廃食油について実際に混合する前の単体の状態での各種物性及び化学的分析値を表1に示す。項目は、PAHsの合計の含有量(ppm)、ベンゾ(a)ピレンの含有量(ppm)、引火点(℃)、スラッジの発生量(質量%)、環分析(n-d-M法)による%CP、%CN、%CA、15℃における密度(g/cm3)、60℃における動粘度(mm2/s)からなる。密度は、JIS K 2249-1 原油及び石油製品―密度の求め方―第1部 : 振動法に基づいて測定した。また、動粘度の測定は、JIS K 2283 原油及び石油製品―動粘度試験方法及び粘度指数算出方法に基づいて測定した。
【0041】
この比較例としてのエキストラクト3は、%CAが40.4と範囲から外れていることから、PAHsの合計が13.7ppmであり、規制値である10ppmを超えている。さらに、引火点が252℃であり、本発明において規定した260℃以上を下回っているため、油脂と混ぜた際に安全性が低下する可能性が高い。このエキストラクト3においてスラッジの発生量は、未検出であるが表1の%Cp、%CAの値からスラッジの発生量が2.0質量%以下という基準を満たすと考えられる。
【0042】
また、比較例としてのエキストラクト4は、%CAが69.0と範囲から外れていることから、PAHsの合計が223ppmであり、規制値である10ppmを超えている。さらに、ベンゾ(a)ピレンが27.8ppmであり、規制値である1.0ppmを超えている、かつ引火点が252℃であり、本発明において規定した260℃以上を下回っているため、油脂と混ぜた際に安全性が低下する可能性が高い。
【0043】
PAHsの合計の含有量(ppm)、ベンゾ(a)ピレンの含有量(ppm)の測定方法は、EN:16143(Petroleum products - Determination of content of Benzo(a)pyrene (BaP) and selected polycyclic aromatic hydrocarbons (PAH) in extender oils - Procedure using double LC cleaning and GC/MS analysis)に基づいて測定した。なお、測定装置の限界により、PAHsの合計、ベンゾ(a)ピレンともに0.2ppm未満である場合は、検出ができない。かかる場合には、PAHsの合計、ベンゾ(a)ピレンの量が極めて少ないため、「未検出」と判定している。
【0044】
引火点は、JIS K 2207「石油アスファルト-引火点試験」により規定される方法で測定した。
【0045】
スラッジは、濾過方法を用いて各濾過用サンプルを濾過し、スラッジの発生量を測定した。濾過方法は、ISO10307-2(Petroleum products - Total sediment in residual fuel oils)を参考に実施した。濾過方法では、
図1に示す濾過器100を用いた。濾過方法として、濾過器100の漏斗101内にフィルタ102を設置し、評価サンプルを保持する。なお、フィルタ102として、上述の規格に例示されるグラスファイバーフィルタ(目開き1.6μm)を用いた。この状態で濾過用サンプルを加熱及び減圧器104を介して減圧することで、吸引瓶103にはフィルタ102を通過した評価サンプルの一部が堆積し、フィルタ102上にはスラッジが残る。この方法により、濾過前における濾過用サンプルの量と、濾過後におけるフィルタ102上に残ったスラッジの量とを用いて、スラッジの発生量を測定した。なお、表1におけるスラッジの発生量は、廃食油、エキストラクト1、2、4の何れかと旧アスファルトとを混合したときに発生する量としている。より詳細には、旧アスファルトと、廃食油、エキストラクト1、2、4の何れかとを質量比で1:9で混合し、その時のスラッジ発生量を測定している。ちなみに旧アスファルトと混合させる廃食油、エキストラクト1、2、4、の何れかは常温、旧アスファルトは130℃とし、これらを1つの容器に入れてスパチュラで1分間攪拌したあと、130℃で1時間保持することで、濾過用サンプルを形成している。旧アスファルトと混合する廃食油、エキストラクト1、2、4の何れかは、その混合する物質をそれぞれ100質量%で構成する。表1中の“○”は、スラッジの発生量が基準(2.0質量%以下)を満たしている可能性が高いことを示している。
【0046】
環分析(n-d-M法)は、ASTM D3238:1995に準拠して行った。
【0047】
ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に基づいて測定した。
【0048】
酸価は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.1-2013 酸価」に基づいて測定した。
【0049】
上述した各エキストラクト1~4のうち、本発明において規定した、環分析による%CPが50以下、%CAが30~40であるものは、エキストラクト1のみである。また、PAHsの合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下であるのは、エキストラクト1、2である。
【0050】
表1に示す物性からなる各エキストラクト1、2に対して油脂(廃食油)を、それぞれ60℃以上に加温してから混合し、均一に混ざるように約1分間手混ぜで攪拌することで、アスファルト再生用添加剤を形成した。形成したアスファルト再生用添加剤のエキストラクト1、2及び油脂の各成分の含有量、及び得られたアスファルト再生用添加剤についてそれぞれ測定した各物性を表2に示す。この表2においてPAHsの合計の含有量、ベンゾ(a)ピレンの含有量以外は何れも実測値である。なお、測定装置の限界により、PAHsの合計、ベンゾ(a)ピレンともに0.2ppm未満である場合は、検出ができない。かかる場合には、PAHsの合計、ベンゾ(a)ピレンの量が極めて少ないため、「未検出」と判定している。出発原料であるエキストラクト1、2、及び油脂(廃食油)のPAHsの合計の含有量、ベンゾ(a)ピレンの含有量が何れも基準の範囲内にあることから、得られる再生用添加剤のPAHsの合計の含有量、ベンゾ(a)ピレンの含有量も表2に示すように、何れも基準の範囲内に収まっているものと考えられる。
【0051】
また表2におけるスラッジの発生量を測定するための濾過用サンプルは、旧アスファルトと、エキストラクトと廃食油とを混合することにより得られる再生用添加剤とを質量比で1:9となるように混合することで形成している。より詳細には、再生用添加剤は常温、旧アスファルトは130℃とし、これらを、これらを1つの容器に入れてスパチュラで1分間攪拌したあと、130℃で1時間保持することで、濾過用サンプルを形成している。
【0052】
【0053】
比較例1~2、実施例1~5は、何れもエキストラクト1と廃食油とを混合したものであり、比較例3は、エキストラクト2と廃食油とを混合したものである。
【0054】
また、本発明のアスファルト再生用添加剤の混合方法は、上述の方法以外であっても均一に混合できればよく、例えばタンク内でのプロペラ混合や、タンク内での循環での混合などであってもよい。
【0055】
形成した比較例1~3、実施例1~5におけるアスファルト再生用添加剤についても、同様に引火点(℃)、スラッジの発生量(質量%)、15℃における密度(g/cm3)、60℃における動粘度(mm2/s)を測定した。各測定方法は、上述した説明と同様であることから以下での説明は省略する。
【0056】
このアスファルト再生用添加剤におけるPAHsの合計は、10ppm以下、60℃動粘度は50~200mm2/s、スラッジの発生量が2.0質量%以下、引火点は260℃以上の性状を本発明所期の効果発現の基準としている。
【0057】
実施例1~5は、何れもエキストラクト1における環分析による%CP、%CAが本発明において規定した範囲内であり、またエキストラクト1、廃食油の含有量が共に、本発明において規定した、石油系溶剤抽出油、油脂の含有量の範囲内であることから、スラッジの発生量も1.0質量%以下であった。60℃動粘度もいずれも(50~200mm2/s)であった。
【0058】
また、実施例1~5は、何れもエキストラクト1を使用しているため、得られるアスファルト再生用添加剤も同様にPAHsの合計が10ppm以下であり、かつベンゾ(a)ピレンが1.0ppm以下と低く、安全性が高くなっている傾向が示されていた。同様に実施例1~5は、引火点も260℃以上の性状を示していた。
【0059】
中でも実施例1、2は、エキストラクト1が70質量%超~80質量%の範囲にあることから、スラッジの発生量が特に低く、0.2質量%以下に抑えられていた。
【0060】
比較例1は、石油系溶剤抽出油として、エキストラクト1を使用しているものの、その含有量が80質量%を超えているため、スラッジの発生量は低かったものの60℃動粘度が200mm2/sを超えていた。
【0061】
比較例2は、石油系溶剤抽出油として、エキストラクト1を使用しているものの、その含有量が50質量%未満であることから、スラッジの発生量が高くなっていた。
【0062】
比較例3は、石油系溶剤抽出油として、エキストラクト2を使用しており、環分析による%CPが50超、%CAが30未満であり、スラッジの発生量が高くなっていた。