(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013747
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】トリチウム検出装置及びトリチウム検出方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20240125BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01T1/167 A
G01T1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116077
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】桜木 洋一
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA12
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB05
2G188CC10
2G188CC18
2G188CC21
2G188DD05
2G188EE12
2G188EE16
2G188FF02
(57)【要約】
【課題】試料水中のトリチウムの濃度を正確に計測できるトリチウム検出装置及びトリチウム検出方法を提供する。
【解決手段】無機ガラス或いは樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、複数の微粒子に形成され前記多孔質膜に保持されたシンチレータと、を有し、前記多孔質膜に含侵した試料水中に含まれるトリチウムが放射するベータ線に基づいて前記シンチレータが発光する検出体と、光透過性を有し前記検出体及び前記試料水を収容する容器と、前記容器の周囲に配置された複数の光電子増倍装置と、少なくとも1つの前記光電子増倍装置から出力された出力値に基づいて前記トリチウムの濃度を算出する演算部と、を備え、前記光電子増倍装置は、光を検出して電気信号を出力する複数の光電子増倍センサを備え、複数の前記光電子増倍センサは、所定の領域において面的に配列されている、トリチウム検出装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラス或いは樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、複数の微粒子に形成され前記多孔質膜に保持されたシンチレータと、を有し、前記多孔質膜に含侵した試料水中に含まれるトリチウムから放射されるベータ線に基づいて前記シンチレータが発光する検出体と、
光透過性を有し前記検出体及び前記試料水を収容する容器と、
前記容器の周囲に配置された少なくとも1つの光電子増倍装置と、
前記光電子増倍装置から出力された出力値に基づいて前記試料水中に含まれる前記トリチウムの濃度を算出する演算部と、を備え、
前記光電子増倍装置は、検出面において光を検出して電気信号を出力する複数の光電子増倍センサを備え、
複数の前記光電子増倍センサは、前記検出面における所定の領域において面的に配列されている、
トリチウム検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、少なくとも2つの前記光電子増倍センサから同時に出力される前記電気信号に基づいて前記トリチウムの濃度を算出する、
請求項1に記載のトリチウム検出装置。
【請求項3】
複数の前記光電子増倍センサは、前記所定の領域において2次元的なマトリクス状に配列されている、
請求項2に記載のトリチウム検出装置。
【請求項4】
無機ガラス或いは樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、複数の微粒子に形成され前記多孔質膜に保持されたシンチレータと、を有し、前記多孔質膜に含侵した試料水中に含まれるトリチウムから放射されるベータ線に基づいて前記シンチレータが発光する検出体を用いてトリチウムの濃度を測定するトリチウム検出方法であって、
光透過性を有する容器に前記検出体を収容し、
前記容器内に前記試料水を充填し、
前記容器の周囲に少なくとも1つの光電子増倍装置を配置し、
前記光電子増倍装置は、光を検出して電気信号を出力する複数の光電子増倍センサを備え、複数の前記光電子増倍センサは、検出面における所定の領域において面的に配列されており、複数の前記光電子増倍センサから出力された前記電気信号に基づいて前記シンチレータの発光を検出し、
前記光電子増倍センサから出力される前記電気信号に基づいて前記試料水中に含まれる前記トリチウムの濃度を算出する、
トリチウム検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム検出装置及びトリチウム検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所においては、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線モニタを設置し、排水に含まれる放射線源の管理を行っている。種々の放射線源のうち、トリチウム(3H)は、最大エネルギーが弱いβ線(18keV)のみを放出する核種であることから、測定が困難であることが知られている。トリチウムの測定方法としては、例えば、特許文献1に記載されたトリチウム検出体が知られている。特許文献1には、試料水に含まれるトリチウムを検出する検出体が記載されている。この検出体は、樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、放射線を吸収し放射線を光に変換するシンチレータと、を有している。シンチレータは、複数の微粒子状に形成され、多孔質膜に形成された微細孔に保持されている。
【0003】
この検出体を用いてトリチウムを検出する場合、光透過性を有する容器に検出体を収容する。容器本体には、トリチウムを含む試料水が収容され、検出体に試料水を含浸させる。容器本体の開口部は、蓋により閉塞し検出素子を構成する。検出体は、試料水中のトリチウムから放出されるβ線に起因して光を放出する。検出素子の周囲には、光電子増倍管が配置され、検出体から放出される光を受光する。試料水中のトリチウムの濃度と、検出された光に応じて一定時間内に光電子増倍管から取り出されるパルス信号の数と、の対応関係に基づいて、容器本体に収容された試料水におけるトリチウムの濃度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された手法に基づいてトリチウムの濃度を算出する場合、容器の周囲に配置された複数の光電子増倍管により、検出体から放出された光を受光し、一定時間内に光が同時に計測された際の同時計数をカウントする。その後、カウントされた同時計数に基づいてトリチウムの濃度を算出する。この手法に用いられる検出体は、襞状に畳まれて容器に収容されている。検出体のシンチレータは、フッ化カルシウム(CaF2)により形成されており、観測する位置によってはCaF2と水との屈性率の差により白濁し、隠蔽性を有する。トリチウムが有する放射線エネルギーは極めて弱く、この検出体から放出される光は、観測位置によっては検出体を透過せず、観測されない場合がある。
【0006】
そのため、検出体が収容された容器の周囲に配置された複数の光電子増倍管は、検出体から放出される光を同時に検出できず、同時計数をカウントできない場合がある。そのため、特許文献1に記載された手法によれば、トリチウムの濃度を正確に算出できない場合がある。
【0007】
本発明は、試料水中のトリチウムの濃度を正確に計測できるトリチウム検出装置及びトリチウム検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、無機ガラス或いは樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、複数の微粒子に形成され前記多孔質膜に保持されたシンチレータと、を有し、前記多孔質膜に含侵した試料水中に含まれるトリチウムが放射するベータ線に基づいて前記シンチレータが発光する検出体と、光透過性を有し前記検出体及び前記試料水を収容する容器と、前記容器の周囲に配置された複数の光電子増倍装置と、少なくとも1つの前記光電子増倍装置から出力された出力値に基づいて前記トリチウムの濃度を算出する演算部と、を備え、前記光電子増倍装置は、光を検出して電気信号を出力する複数の光電子増倍センサを備え、複数の前記光電子増倍センサは、所定の領域において面的に配列されている、トリチウム検出装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料水中のトリチウムの濃度を正確に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るトリチウム検出装置の構成を示す断面図である。
【
図5】リチウム検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】トリチウム検出方法の原理を概略的に示す図である。
【
図7】トリチウム検出方法の処理を示すフローチャートである。
【
図8】変形例に係るトリチウム検出装置の構成を示す斜視図である。
【
図9】変形例に係るトリチウム検出装置の構成を示す断面図である。
【
図10】変形例に係る光電子増倍装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るトリチウム検出装置及びトリチウム検出方法について説明する。
【0012】
図1から
図3に示されるように、トリチウム検出装置1は、トリチウムから放射されるベータ線に基づいて発光する検出体2と、検出体2及び試料水を収容する容器Sと、容器Sの周囲に配置された複数の光電子増倍装置20と、光電子増倍装置20に接続された演算装置10とを備えている。
【0013】
検出体2は、試料水に含まれるトリチウムから放射される微弱な放射線(ベータ線)に基づいて発光するように形成されている。検出体2は、シート状に形成されている。検出体2は、例えば、プラスチックシンチレータに形成されている。検出体2は、例えば、樹脂材料を形成材料とする多孔質膜3と、多孔質膜に保持された粒子状のシンチレータ4と、を有している。
【0014】
多孔質膜3は、光透過性を有する非水溶性の無機ガラスにより形成されている。多孔質膜3は、粒子状のシンチレータ4を保持可能に形成されている。多孔質膜3は、無機ガラス繊維が織り込まれたマットにより形成されていてもよい。また、多孔質膜3は、樹脂材料により形成されていてもよい。多孔質膜3の樹脂材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、アクリル樹脂、ポリスチレンを用いることができる。多孔質膜3は、より好ましくはポリエチレン材料により形成されている。ポリエチレンは、耐水性を有すると共に、光透過性を有する。多孔質膜3は、シンチレータ4から放出される光を減衰させにくく、トリチウムの検出に好適に形成されている。
【0015】
多孔質膜3には、多数の細孔3aが形成されたメッシュ構造を有する。多数の細孔3aは、多孔質膜3の表面から多孔質膜3の内部にまで連通している。複数の細孔3aの大きさや形状は、同じ大きさ・形状となるように均一に形成されていてもよいし、不均一に形成されていてもよい。
【0016】
多孔質膜3には、試料水が含侵される。試料水は、多孔質膜3中の細孔3aを流通する。この際に、試料水中に含まれるトリチウムは、細孔3aを流通する。この状態において、多孔質膜3の細孔3aの内壁とトリチウムとのの距離が近いほど、トリチウムから放出されるベータ線が細孔3aの内壁近傍に届きやすくなる。そのため、細孔3aの孔径は、なるべく小さく形成されることが望ましい。トリチウムから放出されるベータ線は、水中での平均自由行程が0.6μmと短い。そのため、細孔3aは、例えば、0.6μm以下の孔径(細孔径)に形成されていることが好ましい。
【0017】
細孔3aの孔径が0.6μm以下であれば、細孔3a内のトリチウムから放出されるベータ線は、内壁のどこかに到達する。また、細孔3aの孔径が0.6μm以下であれば、細孔3aの壁際に存在するトリチウムから放出されるベータ線が細孔3aの中心方向に放出されたとしても対向側の内壁に到達する。細孔3aには、シンチレータ4が適宜保持されているため、トリチウムから放出されるベータ線は、シンチレータ4に吸収され、シンチレータ4を発光させる。
【0018】
シンチレータ4は、帯電粒子の衝突に基づいて蛍光を出す物質により形成されている。シンチレータ4は、放射線を吸収し放射線により励起されて光を放出する。本実施形態の検出体2はトリチウムを検出対象としている。シンチレータ4は、多孔質膜3に含侵した試料水中に含まれるトリチウムが放射するベータ線に基づいて発光する物質により形成されている。
【0019】
シンチレータ4は、非水溶性の材料により形成されていることが望ましい。シンチレータ4は、例えば、荷電粒子が通過するときに発光する無機シンチレーション結晶(放射線検出材料)により形成されている。シンチレータ4は、例えば、ユウロピウム(Eu)がドープされたフッ化カルシウム(CaF2(Eu))により形成されている。これによりシンチレータ4は、試料水中に含まれるトリチウムが放射するベータ線に基づいて発光する。
【0020】
シンチレータ4は、例えば、上記材料により形成された結晶を粉砕・分級した無数の微粒子状に形成されている。シンチレータ4の粒子径は、多孔質膜3の細孔3aの内部(内壁)および多孔質膜3の基材内部の少なくともいずれか一方において保持されるように調整されている。シンチレータ4の平均粒子径は、1μm以下に調整されていることが好ましい。
【0021】
シンチレータ4を形成する微粒子は、例えば、試料水に含まれるトリチウム量に応じて設定された分量において多孔質膜3に保持されている。シンチレータ4の分量は、例えば、予め異なる分量のシンチレータ4を含む複数種の検出体2を用いた測定に基づいて調整される。上記構成により、多孔質膜3及びシンチレータ4を有する検出体2が構成される。
【0022】
検出体2は、内部空間S1が形成された容器Sに収容される。内部空間S1には、更に試料水が充填される。容器Sは、光透過性を有する材料により形成されている。容器Sは、光透過性を有し耐水性を有する材料により形成されている。容器Sは、例えば、無機ガラスにより形成されていることが好ましい。容器Sは、樹脂により形成されていてもよい。容器Sは、例えば、本体部S5と、本体部S5と別体に形成された蓋部S4とを備えている。本体部S5は、例えば、円筒状に形成された側壁S2と、側壁S2の下部を覆うように円板状に形成された底部S3とを備えている。側壁S2と底部S3とは、一体に形成されている。側壁S2の上部には、円形の開口部S2Aが形成されている。開口部S2Aは、蓋部S4により覆われている。
【0023】
シート状に形成された検出体2は、平面視して放射状に広がるようにひだ折りされた筒状に変形され、内部空間S1に収容される。これにより、検出体2は、単なる筒状や平面状の状態に比して表面積を増加させることができ、シンチレータ4によるトリチウムの検出確率を増加させることができる。
【0024】
検出体2は、容器Sに収容可能であれば他の折りたたみ方法により収容されてもよい。検出体2は、放射状に折りたたまれるだけでなく、例えば、平面視してロール状に巻き上げられて容器S内に収容されてもよい。
【0025】
容器S内の検出体2の収容量については、検出対象物として想定する試料水に含まれるトリチウム量に応じて設定される。蓋部S4は、側壁S2の上部の開口部S2Aを閉塞可能に形成されている。蓋部S4は、例えば、側壁S2の上部に圧入されて固定される。側壁S2の上部および蓋部S4の内側には、それぞれ不図示の雄ねじ、雌ねじが形成されていてもよく、蓋部S4は、側壁S2の上部に螺入されて固定されてもよい。また、蓋部S4は、必要に応じて不図示のパッキンを備えていてもよい。パッキンは、側壁S2の上端と蓋部S4との間の隙間を閉塞するように密着し、容器Sの内部に収容される試料水の漏洩を防止するように構成されていてもよい。
【0026】
蓋部S4は、耐水性を有する材料により形成されている。蓋部S4は、側壁S2と同じ素材により形成されていてもよく、異なっていてもよい。蓋部S4は、例えば、無機ガラスにより形成されていることが好ましい。蓋部S4は、樹脂により形成されていてもよい。容器Sの周囲には、複数の光電子増倍装置20が等間隔に配置されている(
図1参照)。
図1の例では、容器Sの周囲に3個の光電子増倍装置20が配置されている。光電子増倍装置20は、3個以上設けられていてもよい。
【0027】
図4に示されるように、光電子増倍装置20は、例えば、平面に形成された検出面21を備えている。検出面21は、検出体2及び試料水が収容された容器Sの側壁S2に向けて配置される。検出面21の所定の領域には、光を検出して電気信号を出力する複数の光電子増倍センサ22が面的に配列されている。
図4の例では複数の光電子増倍センサ22は、検出面21の正方形の所定の領域において8×8個の2次元的なマトリクス状に配列されている。複数の光電子増倍センサ22の配置関係や個数は一例であり、複数の光電子増倍センサ22は、検出面21においてシンチレータ4の発光を検出可能であれば他の配置関係や個数により配置されていてもよい。
【0028】
各光電子増倍センサ22は、陰極(不図示)と陽極(不図示)とを備え、両極間には、後述の高圧電源28により高圧の電圧が加えられている。光電子増倍センサ22は、光電効果を利用しシンチレータ4からの発光に基づいて光電子を発生させると共に増幅し、トリチウムから放射されるベータ線の計数を電気信号として出力する。電気信号は、後述の同時計数回路12に出力される。
【0029】
各光電子増倍センサ22は、自体から発生する熱の影響によりノイズとなる信号も検出する場合がある。また、シンチレータ4は、トリチウムから放射されるベータ線だけでなく宇宙から到来する宇宙線(ガンマ線)や自然放射線(ガンマ線)により発光するため、各光電子増倍センサ22は、宇宙線や自然放射線も検出する場合もある。トリチウムから放射されるベータ線を正確に計測するため、光電子増倍装置20において複数の光電子増倍センサ22のうち少なくとも2つの光電子増倍センサ22によりトリチウムから放射されるベータ線を同時に検出する。光電子増倍センサ22から出力された電気信号は、演算装置10に出力される。
【0030】
図5に示されるように、トリチウム検出装置1は、複数の光電子増倍装置20と、複数の光電子増倍装置20に電力を供給する高圧電源28と、複数の光電子増倍装置20に接続された演算装置10とを備えている。演算装置10は、複数の光電子増倍装置20から出力される電気信号を取得する同時計数回路12と、同時計数回路12の出力値に基づいてトリチウムの濃度を算出する演算部14と、演算に必要なデータを記憶する記憶部16と、演算結果を出力する表示部18とを備えている。
【0031】
同時計数回路12には、複数の光電子増倍装置20が電気的に接続されている。同時計数回路12は、各光電子増倍装置20に設けられた複数の光電子増倍センサ22が電気的に接続されている。同時計数回路12は、複数の光電子増倍センサ22から出力された電気信号を受信するインタフェースである。
【0032】
図6に示されるように、検出体2において発光Lが生じた際に、発光L側に配置された光電子増倍装置20に少なくとも2つの光路L1,L2を経由した光が同時に到達する。
【0033】
光電子増倍装置20において、少なくとも2つの光電子増倍センサ22は、同時に光を検出し、電気信号E1,E2を出力する。同時計数回路12は、同時に入力された電気信号E1,E2が存在する場合、これを同時計数としてカウントし出力値を出力する。同時計数回路12は、電気信号が同時に入力されない場合、出力値を出力しない。複数の光電子増倍装置20において検出される熱の影響に基づくノイズは、ランダムに発生するため、少なくとも2つの光電子増倍センサ22で同時に計測されることは稀である。同時計数回路12に電気信号が同時に入力されない場合、出力値を出力しないことにより、複数の光電子増倍装置20において検出される熱の影響に基づくノイズの影響を低減することができる。
【0034】
図5に戻り、演算部14は、同時計数回路12から出力された出力値に基づいて同時計数をカウントする。演算部14は、少なくとも2つの光電子増倍センサ22から同時に出力される電気信号に基づいて同時計数回路12から出力される同時計数の出力値に基づいてトリチウムの濃度を算出する。演算部14は、例えば、CPUなどのプロセッサが、記憶部16に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。また、これらの構成要素の機能のうち一部または全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェア(回路部:circuitryを含む)によって実現されていてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されていてもよい。プログラムは、予めHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0035】
記憶部16は、演算部14の演算に必要なプログラムや各種データが記憶されている。記憶部16は、例えば、RAM、ROM、HDD、フラッシュメモリなどの記憶媒体を備える記憶装置である。記憶部16は、演算装置10に内蔵されていてもよいし、外部記憶装置として構成され外部接続されていてもよい。また、記憶部16は、ネットワークに接続された記憶サーバであってもよい。
【0036】
表示部18は、演算部14の演算結果が出力されるディスプレイ装置である。表示部18は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により別体に構成されていてもよい。
【0037】
高圧電源28は、複数の光電子増倍装置20に高電圧(例えば、1000V程度)の電圧を加える電源装置である。光電子増倍装置20において、各光電子増倍センサ22には、高圧電源28が並列に電気的に接続されている。
【0038】
図7には、トリチウム検出装置1を用いたトリチウム検出方法の処理の流れがフローチャートにより示されている。光透過性を有する容器Sに検出体2を収容する(ステップS100)。検出体2は、無機ガラス或いは樹脂材料を形成材料とする多孔質膜3と、複数の微粒子に形成され多孔質膜3に保持されたシンチレータ4と、を有している。容器内にトリチウムを含む試料水を充填する(ステップS102)。容器Sの周囲に複数の光電子増倍装置20を配置する(ステップS104)。容器S内において、多孔質膜3に含侵した試料水中に含まれるトリチウムが放射するベータ線に基づいてシンチレータ4が発光する。
【0039】
光電子増倍装置20の所定の領域において面的に配列された複数の光電子増倍センサ22から出力された電気信号に基づいてシンチレータ4の発光を検出する(ステップS106)。複数の光電子増倍センサ22から出力される電気信号に基づいてトリチウムの濃度を算出する(ステップS108)。
【0040】
上述したようにトリチウム検出装置1によれば、試料水中のトリチウムの濃度を正確に計測できる。トリチウム検出装置1によれば、検出体2の周囲においてシンチレーション発光が検出され難い領域が存在する場合においても、複数の光電子増倍センサ22が配列された検出面21が検出体2の発光部分に面していれば、発光部分における同時計数を検出することができる。トリチウム検出装置1によれば、従来手法においては検出体2の周囲においてシンチレーション発光が検出され難い領域が存在する場合、発光部分における同時計数を検出できない場合があるのに比して、発光部分における同時計数を確実に検出することができる。
【0041】
[変形例]
以下、トリチウム検出装置1の変形例について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
図8に示されるように、容器Sの周囲には、4個の光電子増倍装置20が配置されていてもよい。隣接する光電子増倍装置20の間には、隙間があってもよいし、無くてもよい。
【0042】
図9に示されるように、検出体2は、シート状に形成されていてもよい。容器Sは、シート状に形成された検出体2を収容するように矩形断面に形成されていてもよい。この場合、少なくとも1つの光電子増倍装置20が検出体2の一面側に配置され、シンチレータ4の発光Lを少なくとも2つの光電子増倍センサ22により検出してもよい。また、検出体2は、平面状だけでなくひだ折りされていてもよい。
【0043】
図10に示されるように、光電子増倍装置20の検出面21において、m×n個(m、n:自然数)の所定数の光電子増倍センサ22を有するセンサユニット23を形成してもよい。そして、検出面21において、複数のセンサユニット23を面的に配置して光電子増倍装置20を構成してもよい。各センサユニット23は、m×n個の光電子増倍センサ22から検出されるm×nチャンネル(ch)の電気信号を出力するように構成されている。
【0044】
複数のセンサユニット23において、同一のチャンネルに相当する光電子増倍センサ22は、並列に電気的に接続され、光電子増倍装置20は、m×nチャンネルの電気信号を出力するように構成してもよい。
図10の例では、センサユニット23は、2×2個の光電子増倍センサ22を有し、光電子増倍装置20は、2×2個の電気信号が出力されるように構成されている。これにより、光電子増倍装置20は、配線数が削減されると共に、出力される電気信号が低減されるように構成することができる。
【0045】
この他、容器Sは、円形断面だけでなく、多角形断面であってもよい。また、容器Sは、球面状に形成されていてもよい。光電子増倍装置20における検出面21は、平面状だけでなく、容器Sの形状に合わせて曲面状に形成されていてもよい。光電子増倍装置20は、容器Sの周囲を覆うように一体に形成されていてもよい。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、検出体2は、フッ化カルシウムだけでなく、他の材料により形成されたシンチレータ4を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 トリチウム検出装置
2 検出体
3 多孔質膜
4 シンチレータ
14 演算部
20 光電子増倍装置
21 検出面
22 光電子増倍センサ
E1、E2 電気信号
S 容器