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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137515
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】作業機械の遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20240927BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20240927BHJP
   H04M 11/00 20060101ALI20240927BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240927BHJP
   B66C 13/40 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E02F9/26 B
H04Q9/00 331A
H04M11/00 301
E02F9/20 N
B66C13/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049059
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】境 和樹
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
5K048
5K201
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA02
2D003BA04
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB04
2D015HA03
2D015HB00
5K048AA04
5K048BA25
5K048BA48
5K048DA01
5K048EB02
5K048EB12
5K048EB13
5K048FB05
5K048FB15
5K048GA09
5K048GB04
5K048HA01
5K048HA02
5K048HA21
5K201AA05
5K201BA01
5K201BA02
5K201BA20
5K201CA06
5K201CC09
5K201DC02
5K201EC06
5K201ED09
5K201EF02
5K201EF10
5K201FA03
(57)【要約】
【課題】作業性を向上できるようにした作業機械の遠隔操作システムを提供すること。
【解決手段】
作業機械の遠隔操作システム1は、作業機械10の状況を示す情報および作業機械の周辺環境を示す情報を取得して、作業機械および周辺環境を仮想空間で表現する制御装置200と、作業機械が仮想空間内に表現された仮想作業機械10sを操作する操作信号を制御装置へ入力する入力装置210と、制御装置により生成された仮想空間を表示する表示装置220とを備え、制御装置は、操作信号に応じて仮想作業機械を仮想空間内で動作させ、作業機械を仮想作業機械の動作に追従させる出力信号を生成し、生成された出力信号を記憶部301に蓄積し、記憶部に蓄積された出力信号を作業機械へ送信させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械を遠隔操作する作業機械の遠隔操作システムであって、
前記作業機械の状況を示す情報および前記作業機械の周辺環境を示す情報を取得して、前記作業機械および前記周辺環境を仮想空間で表現する制御装置と、
前記作業機械が前記仮想空間内に表現された仮想作業機械を操作する操作信号を前記制御装置へ入力する入力装置と、
前記制御装置により生成された前記仮想空間を表示する表示装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記操作信号に応じて前記仮想作業機械を前記仮想空間内で動作させ、
前記作業機械を前記仮想作業機械の動作に追従させる出力信号を生成し、
生成された出力信号を記憶部に蓄積し、
前記記憶部に蓄積された出力信号を前記記憶部から前記作業機械へ送信させる
作業機械の遠隔操作システム。
【請求項2】
前記制御装置は、さらに、
前記作業機械の動作と前記仮想作業機械の動作との差分を検出し、前記検出された差分に応じて、前記仮想作業機械の動作を停止させる
請求項1に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記仮想作業機械の動作を所定時間以上停止させても前記差分が解消しない場合、前記作業機械に異常が発生したと判定する
請求項2に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記検出された差分が所定の閾値以上であって、かつ前記作業機械があらかじめ設定された安全状態であると判定された場合に、前記仮想作業機械の動作を停止させる
請求項2に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記制御装置は、俯瞰視点または前記作業機械の運転席から見た主観視点のうちいずれか選択された視点で前記仮想空間を生成する
請求項1に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記仮想作業機械のうち所定の部分を透明または半透明にして表示させる
請求項5に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項7】
前記作業機械の前部には、作業を行う作業装置と前記作業機械の周辺環境を示す情報を取得する周辺環境センサとが設けられており、
前記制御装置は、前記作業装置が前記周辺環境センサによる情報取得を阻害しない所定の姿勢になった場合に、前記周辺環境センサにより前記作業機械の周辺環境を示す情報を取得する
請求項1に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記作業機械の周囲を移動する小型移動体に設けられた周辺環境センサから、前記作業機械の周辺環境を示す情報を取得する
請求項1に記載の作業機械の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の遠隔操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業者の立ち入りが難しい災害現場などでは、作業機械から離れた場所で作業機械を遠隔操作する遠隔操作システムが運用される。作業者が作業機械に乗り込んで直接操作する場合と遠隔操作する場合とでは操作性が異なるため、シミュレータを用いて事前に操作性を確認できるようにした技術も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-179105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遠隔操作される油圧ショベルなどの作業機械では、操作信号とカメラの映像とを無線またはインターネットを通じて送受信するため、操作信号の入力タイミングと作業機械の実動作のタイミングとにずれが発生し、さらに実動作のタイミングとカメラ映像での動作のタイミングのずれが発生する。そのため、作業者が操作するタイミングとカメラ映像を通して作業者が動作状況を認識するタイミングとが一致せず、操作性が低い。動作のずれは時々刻々と変化するため、ずれによる影響をシミュレータに反映させるのは難しい。
【0005】
ところで、従来の遠隔操作システムでは、作業者は二次元の正面画像を見ながら操作するため、作業現場の奥行きが分かりづらく、作業性が低い。このため、シミュレータによって事前に操作性を確認できたとしても、実際の操作性とは異なるため、作業効率は低下する。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、作業性を向上できるようにした作業機械の遠隔操作システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの観点に係る作業機械の遠隔操作システムは、作業機械の状況を示す情報および作業機械の周辺環境を示す情報を取得して、作業機械および周辺環境を仮想空間で表現する制御装置と、作業機械が仮想空間内に表現された仮想作業機械を操作する操作信号を制御装置へ入力する入力装置と、制御装置により生成された仮想空間を表示する表示装置とを備え、制御装置は、操作信号に応じて仮想作業機械を仮想空間内で動作させ、作業機械を仮想作業機械の動作に追従させる出力信号を生成し、生成された出力信号を記憶部に蓄積し、記憶部に蓄積された出力信号を作業機械へ送信させる。
【0008】
制御装置は、さらに、作業機械の動作と仮想作業機械の動作との差分を検出し、検出された差分に応じて、仮想作業機械の動作を停止させてもよい。
【0009】
制御装置は、仮想作業機械の動作を所定時間以上停止させても差分が解消しない場合、作業機械に異常が発生したと判定してもよい。
【0010】
制御装置は、検出された差分が所定の閾値以上であって、かつ作業機械があらかじめ設定された安全状態であると判定された場合に、仮想作業機械の動作を停止させてもよい。
【0011】
制御装置は、俯瞰視点または作業機械の運転席から見た主観視点のうちいずれか選択された視点で仮想空間を生成してもよい。
【0012】
制御装置は、仮想作業機械のうち所定の部分を透明または半透明にして表示させてもよい。
【0013】
作業機械の前部には、作業を行う作業装置と作業機械の周辺環境を示す情報を取得する周辺環境センサとが設けられており、制御装置は、作業装置が周辺環境センサによる情報取得を阻害しない所定の姿勢になった場合に、周辺環境センサにより作業機械の周辺環境を示す情報を取得してもよい。
【0014】
制御装置は、作業機械の周囲を移動する小型移動体に設けられた周辺環境センサから、作業機械の周辺環境を示す情報を取得してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】作業機械の遠隔操作システムの概要を示す全体図。
図2】制御装置の構成図。
図3】記憶部に蓄積される出力信号の概略図。
図4】作業機械の運転席から見た景色と表示装置に表示される映像を比較して示す説明図。
図5】実際の作業機械(実機)と仮想作業機械とで動作にずれが生じる様子を示す説明図。
図6】作業装置の各アクチュエータの動作を示すタイムチャート。
図7】遠隔操作処理を示すフローチャート。
図8】作業機械へ出力信号を送信する処理を示すフローチャート。
図9】実施例2に係り、仮想空間での仮想作業機械の見え方を示す説明図。
図10】盛り土などをワイヤーフレームモデルで表現する例を示す説明図。
図11】作業装置の各アクチュエータの動作と運搬された土の量の変化を示すタイムチャート。
図12】実施例3に係る作業機械の遠隔操作システムの全体図。
図13】実施例4に係り、遠隔操作処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態では、以下に詳述する通り、作業機械およびその周辺環境を仮想空間で表現し、仮想空間で表現された仮想作業機械を操作して、仮想作業機械の動作に追従させる出力信号を生成させ、生成された出力信号を記憶部に蓄積し、蓄積された出力信号を作業機械へ送信する。すなわち、作業者は作業機械を操作するために、まず仮想空間で仮想作業機械を操作する。作業者が仮想空間で仮想作業機械を操作すると、仮想作業機械がその操作に瞬時に反応するため、作業者は滑らかに仮想作業機械を操作することができ、通信遅延などによるタイムラグが少なく、ストレスを感じない。
【0017】
すなわち、本実施形態の遠隔操作システムは、作業機械を遠隔操作して、現実世界での操作結果を仮想空間に反映させるのではなく、仮想空間内の仮想作業機械を操作して、仮想空間での操作結果を現実の作業機械に反映させる。
【0018】
制御装置は、仮想作業機械を仮想空間内で動作させるだけでなく、仮想作業機械の動作に作業機械の動作を追従させるための出力信号を生成し、記憶部に蓄積させる。この出力信号は、例えば、作業機械が仮想作業機械の動作を再現するための遠隔操作信号と呼ぶこともできる。記憶部に蓄積された出力信号は、記憶部から作業機械へ送信される。作業機械は、出力信号を受信すると、その出力信号にしたがって動作する。
【0019】
記憶部には、作業者が仮想作業機械を操作したときに発生するひとかたまりの出力信号が蓄積される。つまり、作業者による仮想作業機械への一連の操作に対応する出力信号が記憶部に蓄積され、記憶部に蓄積された出力信号が作業機械へ送信される。作業機械は、一連の操作を再現するかのように動作する。したがって、本実施形態の遠隔操作システムでは、仮想作業機械を仮想空間で直接的に操作することにより、その一連の操作に応じた出力信号が蓄積されて作業機械へ送信されるため、作業者はタイムラグを意識せずに離れた作業現場にある作業機械を滑らかに遠隔操作できる。制御装置は、作業機械の状況を示す情報および作業機械の周辺環境を示す情報を取得し、仮想空間へ反映させる。これにより、遠隔操作システムの作業効率が改善する。
【0020】
本実施形態の遠隔操作システムは、以下のように表現することもできる。ただし、以下の表現は一つの例であり、本発明の範囲を狭めるものではない。
【0021】
遠隔操作される作業機械において、作業機械の少なくとも一つのアクチュエータと、アクチュエータの位置または角度を検出する少なくとも一つの位置角度センサと、作業機械の向きを検出する角度センサと、作業機械の周囲の地形を検出する地形センサと、地形センサによって得られた作業機械の周囲の地形に基づいて設定された仮想環境における作業機械の動作のシミュレーションを実行する演算装置と、演算装置に作業機械の操作信号を送信する少なくとも一つの入力装置と、仮想環境の映像を映し出すディスプレイを備え、演算装置は入力装置の入力に従い、仮想環境における作業機械を動作させるシミュレーション動作演算部と、仮想環境における作業機械の動きに追従するように実際の作業機械への出力信号を作成する信号作成部と、信号作成部にて作成された出力信号を記憶しておく記憶部と、記憶部に記憶された出力信号を作業機械に出力する信号出力部と、位置角度センサと角度センサから得られた値とシミュレーション動作演算部にて演算された仮想上のアクチュエータの位置または角度と作業機械の向きの値の差分を計算する姿勢ずれ判定部を備える。
【実施例0022】
図1図8を用いて実施例1を説明する。以下、作業機械が建設機械である場合を例に挙げて説明する。建設機械には、例えば、ショベル、ブルドーザ、クレーン車、ホイールローダ、ダンプトラック、モータグレーダなどがある。これら以外の装置にも本実施形態の遠隔操作システムを適用可能である。
【0023】
図1は、遠隔操作システム1の全体概要図である。遠隔操作システム1は、例えば、作業機械の例としてのショベル10と、ショベル10から離れた場所からショベル10を操作する遠隔操作室20と、ショベル10と遠隔操作室20とにそれぞれ通信可能に接続されたクラウドシステム(図中、クラウドと略記)30とを備える。ショベル10は、例えば災害現場などの作業現場50に配備される。ショベル10と遠隔操作室20の詳細は後述する。
【0024】
ショベル10と遠隔操作室20およびクラウドシステム30は、通信ネットワークCNにより双方向通信可能に接続されている。通信ネットワークCNは、インターネットのような公衆回線でもよいし、専用回線でもよい。通信ネットワークCNの一部は有線通信を含んでもよい。ショベル10の周辺環境を計測するためのドローン40も、通信ネットワークCNを介してクラウドシステム30に接続され、クラウドシステム30を介して遠隔操作室20にデータを送信する。
【0025】
ショベル10は、上部旋回体101と下部走行体102で構成される。上部旋回体101には、ブーム103、アーム104、バケット105、キャブ106、地形センサ107、機械室108が備えられている。ショベル10は、油圧で動作する油圧式ショベルでもよいし、電動モータおよび電動シリンダを用いる電動式ショベルでもよい。ブーム103とアーム104とバケット105を総称して作業装置109と呼ぶ。
【0026】
遠隔操作室20は、作業者(運転者)がショベル10を遠隔操作する施設である。遠隔操作室20には、コントローラ200と、入力装置210と、「表示装置」としてのモニタディスプレイ220とが設けられている。
【0027】
「制御装置」の例であるコントローラ200は、遠隔操作システム1を制御するコンピュータである。コントローラ200は、仮想ショベル10sを含む仮想空間を生成し、入力装置210から入力された操作信号にしたがって仮想ショベル10sを動作させる。仮想空間は、ショベル10および作業現場50をシミュレーションした映像である。仮想空間でのショベルを仮想ショベル10sと呼び、仮想空間での作業現場を仮想作業現場50sと呼ぶ。さらに、仮想空間における作業装置、ブーム、アーム、バケットには、作業装置109s、ブーム103s、アーム104s、バケット105sという符号を付して説明する。
【0028】
コントローラ200は、仮想ショベル10sの動作に合わせてショベル10を動作させるための出力信号を生成し、クラウドシステム30の持つ記憶部301を介して、出力信号をショベル10へ送信させる。出力信号を受信したショベル10は、作業者による一連の操作に応じて、作業装置109を動作させる。または、出力信号を受信したショベル10は、作業者による一連の操作に応じて、ショベル10を走行させたり旋回させたりする。
【0029】
入力装置210は、ショベル10を操作する装置である。入力装置210は、例えば、操作レバー、操作ペダル、操作ボタンなどを含む。入力装置210は、ショベル10のキャブ106内に設けられた操作装置(不図示)と同様の装置でもよいし、全く異なる装置でもよい。例えば、入力装置210として、複数の押釦が設けられたカード状の装置を用いてもよいし、携帯情報端末(いわゆるスマートフォンを含む。)にインストールされた操作用アプリケーションを用いてもよい。さらには、作業者は、ヘッドマウントディスプレイまたはVR(Virtual Reality)ゴーグルなどを用いて、仮想空間の作業現場50s内の仮想ショベル10sを操作することもできる。作業者は、少なくとも一部の操作を音声で指示してもよい。
【0030】
作業者が入力装置210を用いて仮想ショベル10sを操作すると、コントローラ200は入力装置210への操作に応じて仮想ショベル10sを動作させる。コントローラ200は、仮想ショベル10sを動作させると共に、ショベル10を動作させるための出力信号(遠隔操作信号)を生成し、記憶部301に蓄積させる。
【0031】
記憶部301には、作業者による一連の操作に応じた出力信号が蓄積される。蓄積された出力信号は、通信ネットワークCNを介してショベル10に送られる。無線通信によって出力信号をショベル10へ送信する場合に、クラウドシステム30に設けられた記憶部301を用いると、通信遅延の影響を少なくして、出力信号をショベル10へ送ることができる。一つ一つの動作を示す出力信号をショベル10へ送信する場合、一時的な通信負荷の増大などによって通信遅延が発生し、作業者の意図した一連の操作の途中で、ショベル10が一時停止する可能性があり得る。これに対し、記憶部301に一連の操作に対応する出力信号を蓄積して一気に送信することにより、一連の操作中にショベル10が一時停止するのを抑制できる。
【0032】
作業者によるショベル10の操縦例を説明する。作業者は、遠隔操作室20に設けた入力装置210により、ブーム103またはアーム104またはバケット105の操作と、上部旋回体101の旋回動作とを行わせることができる。作業者は、入力装置210の操作により、下部走行体102に備えられた走行モータ(不図示)を駆動させて、前進または後進または回動させることもできる。さらに、作業者は、入力装置210を用いて、ショベル10のライトを点灯させたり、ブザーを鳴動させたり、機械室108内のエンジンの回転数を変えたりすることもできる。
【0033】
作業者は、モニタディスプレイ220に映し出される映像から得られる情報から判断してショベル10を操作する。モニタディスプレイ220には、地形センサ107およびセンサ群110から得られた情報の全部または一部が表示される。
【0034】
「周辺環境センサ」の例である地形センサ107は、ショベル10の周辺環境としての地形を測定する。地形センサ107は、例えば、カメラ、赤外線センサ、LiDAR(Light Detection And Ranging)などである。超音波センサなどを地形センサ107として用いてもよい。
【0035】
遠隔操作システム1は、ショベル10に搭載される地形センサ107の代わりに、または地形センサ107と共にドローン40を用いることもできる。「小型移動体」としてのドローン40は、例えばショベル10の周囲を飛行しながら、作業現場50の状況を計測し、コントローラ200へ送信する。ドローン40は、カメラ、赤外線センサ、LiDAR、超音波センサなどのセンサを少なくとも一つ搭載して、ショベル10の周囲の地形を測定する。ドローン40は、飛行体に限らず、地上を走行する小型車両でもよいし、水中を移動する小型潜水艇でもよい。ショベル10が水中で作業をする場合は、水中を移動して海底の状況を測定する水中移動型ドローンを用いてもよい。空中移動型ドローン、水中移動型ドローン、地上移動型ドローンのうちいずれか複数を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
地形センサ107またはドローン40は、一定周期で、または所定タイミングで、地形を測定することができる。所定タイミングは、例えば、作業者が指示した場合、作業装置109が所定の姿勢になった場合、入力装置210への操作が終了してから所定時間が経過した場合などを挙げることができる。所定の姿勢になった場合とは、例えば、作業装置109が地形センサ107による情報取得(地形の測定)を阻害しない所定の姿勢になった場合、という意味である。上部旋回体101の前部に地形センサ107が設けられている場合において、バケット105が下側に位置すると、地形センサ107の測定を妨げてしまう可能性がある。そこで、例えば、バケット105が測定上の障害物とならない位置になった場合に、地形センサ107によりショベル10の周囲の地形(主に前方の地形)を計測する。
【0037】
クラウドシステム30は、例えばインターネットのような広域通信ネットワークCNに接続されたサーバコンピュータであり、演算装置と記憶装置と通信装置を備える(いずれも不図示)。コントローラ200で生成されたショベル操作用の出力信号は、通信ネットワークCNを介してクラウドシステム30の記憶部301に蓄積され、記憶部301から通信ネットワークCNを介してショベル10へ送信される。クラウドシステム30の記憶装置に代えて、コントローラ200内の記憶装置またはコントローラ200に接続された記憶装置のいずれかに出力信号を蓄積し、それら記憶装置からショベル10へ出力信号を送信してもよい。
【0038】
記憶部301は、コントローラ200に内蔵されたハードディスクまたはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリでもよいし、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリでもよい。上述のように、記憶部301は、クラウドシステム30に設けられてもよい。
【0039】
図2は、コントローラ200の機能構成を示す。コントローラは、例えば、演算装置、記憶装置、入出力装置、通信装置(いずれも不図示)などのハードウェア資源とソフトウェア資源とを備えたコンピュータである。演算装置が記憶装置に記憶された所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、以下の各機能201-207が実現される。
【0040】
コントローラ200は、例えば、操作入力部201、地形測定部202、シミュレーション動作演算部203、信号作成部204、信号出力部205、実機姿勢測定部206、姿勢ずれ判定部207を含む。
【0041】
操作入力部201は、入力装置210からの信号を受け取り、シミュレーション動作演算部203へ伝達する。地形測定部202は、地形センサ107から出力された信号(情報)に基づいて、地形を測定する。シミュレーション動作演算部203は、操作入力部201から入力される信号と地形測定部202から取得される信号とに基づいて、仮想ショベル10sと仮想作業現場50sの地形とをシミュレーションする。
【0042】
信号作成部204は、シミュレーション動作演算部203により演算された結果に基づいて、ショベル10を操作するための信号(出力信号)230を作成する。記憶部301は、信号作成部204で作成された信号を記憶する。信号出力部205は、記憶部301から信号230を取得し、通信ネットワークCNを介してショベル10へ出力する。
【0043】
実機姿勢測定部206は、ショベル10に設けられたセンサ群110からの信号に基づいて、ショベル10の姿勢を測定する。実機とは、ショベル10を意味する。センサ群110は、例えば、ブーム角度センサ、アーム角度センサ、バケット角度センサ、旋回角度センサ、ペダルセンサ、車速センサ(いずれも図示せず)を含む。実機姿勢測定部206は、センサ群110に含まれる全てのセンサを利用する必要はなく、ショベル10の姿勢を測定するために必要なセンサからの信号を利用すればよい。
【0044】
姿勢ずれ判定部207は、実機姿勢測定部206により測定されたショベル10の姿勢と、シミュレーション動作演算部203で演算された仮想ショベル10sの姿勢とのずれを計算し、算出されたずれが所定値以上であるか判定する。姿勢ずれ判定部207は、所定値以上のずれが発生したと判定すると、ショベル10の作業装置109の動作を一時停止させる遅延信号232を生成し、ショベル10へ送信する。
【0045】
地形測定部202は、地形センサ107からショベル10の周囲の地形を取得し、仮想空間での仮想の地形を作成する。本明細書では、仮想空間に再現された仮想地形を仮想作業現場50sまたは仮想地形50sと呼ぶ。図4で後述するように、仮想ショベル10sは、上部旋回体と下部走行体を備える。上部旋回体には、ブーム103s、アーム104s、バケット105s、キャブなどが備えられている。
【0046】
シミュレーション動作演算部203は、仮想ショベル10sを仮想の地形上に置き、操作入力部201からの信号に従い、上部旋回体、下部走行体、ブーム103s、アーム104s、バケット105sを動作させる。シミュレーション動作演算部203は、地形モデルに土モデルを導入して、仮想作業現場50sを生成する。仮想ショベル10sが仮想作業現場50sで掘削または放土などの作業を行うと、それらの作業に応じて作業現場50sの地形は変化する。シミュレーション動作演算部203は、シミュレーションの結果得られた映像231をモニタディスプレイ220に表示させ、作業者へ伝える。
【0047】
図3は、記憶部301に蓄積される出力信号230の概略図である。記憶部301は、信号作成部204で作成された時間と出力信号との二つのデータを記憶する。時間は、シミュレーションを開始してからの時間でもよいし、実際にシミュレーションを行っているときの時間でもよい。出力信号は、ショベル10の操作レバーの操作量または操作ペダルの操作量などの値でもよいし、または、ショベル10の姿勢を示す値でもよい。ショベル10の姿勢を示す値には、例えば、ブーム103、アーム104、バケット105の、角度および上部旋回体101の旋回角度といったショベル10の姿勢を制御する値である。
【0048】
出力信号は、ショベル10の遠隔操作の方式に応じて決定できる。例えば、キャブ106内に操作用アクチュエータ付きの操作装置が設けられており、そのアクチュエータを遠隔動作させることでショベル10を操作する場合を考える。この場合、ショベル10を操作するための出力信号230は、操作装置の操作量である。操作装置の操作量とは、例えば、操作レバーの操作量、操作ペダルの操作量のように、操作装置に与えられる操作量である。
【0049】
操作用アクチュエータ付き操作装置が、ブーム角度、アーム角度、パケット角度を検出する機能を持つ場合は、ショベル10の姿勢を示す値(ブーム角度、アーム角度、パケット角度)を出力信号230としてもよい。電磁弁(不図示)の開閉を制御する場合、出力信号は、電磁弁に供給する電流の値でもよい。
【0050】
図3に示すように、出力信号は時系列順に生成されて記憶部301に蓄積され、記憶部301から時系列順にショベル10内の制御装置へ送信される。図3に示す例では、時間t1、t2,t3の順に、出力信号230(1),230(2),230(3)が記憶部301から読みだされ、ショベル10へ送られる。
【0051】
図4は、ショベル10の正面の景色とモニタディスプレイ22に表示される仮想空間の映像とを対比して示す。図4の上側には、ショベル10のキャブ106内から見る実際の景色の様子である。
【0052】
キャブ106から見える実際の景色G1には、ブーム103,アーム104およびバケット105と、作業現場50の作業対象51とが含まれる。シミュレーション動作演算部203は、シミュレーションの結果得られた仮想空間の映像をモニタディスプレイ220に表示させる。シミュレーション動作演算部203は、例えば、ショベル10に実際に作業者が乗った際の視点からの景色G1とほぼ同一となるように生成された仮想視点からの景色G1sを、モニタディスプレイ220に表示させる。
【0053】
仮想的な景色G1sから、ピラーまたはドアなどのキャブの一部または全部を取り除くこともできる。ショベルの構造物の少なくとも一部を除去することにより、作業者の視界が妨げられるのを防止し、作業効率を向上させることができる。キャブなどのショベルの所定の部分は、作業者の指示により表示と非表示とを切り替えることができる。「所定の部分を非表示にする」とは、仮想ショベル10sの所定の部分を透明または半透明にしてモニタディスプレイ220に表示させることを意味する。透明または半透明とは、可視光線に対する透過率が高いことである。
【0054】
図5は、ショベル10と仮想ショベル10sの動作のずれを模式的に示す。ショベル10は、コントローラ200により生成された出力信号230を受信すると、仮想作業現場50sにおける仮想ショベル10sの動きに追従するように動作する。例えば仮想ショベル10sがアーム104sを持ち上げると、ショベル10もアーム104を同じ量だけ持ち上げる。
【0055】
図6は、ショベル10の作業装置109を構成する各アクチュエータ(ブーム103、アーム104、バケット105)の動作を示すタイムチャートである。図6のタイムチャートは、仮想ショベル10sの各アクチュエータの動きとショベル10の各アクチュエータの動きとを対比して示す。横軸は時間である。
【0056】
仮想ショベル10sの動き出しを時間0としたとき、ショベル10は時間t1だけ遅れて動作する。時間t1の値は、コントローラ200で生成された出力信号230がショベル10に受信されてアクチュエータを動作させるまでの遅延時間である。
【0057】
図6の上段には、仮想ショベル10sのバケットの角度変化を示すグラフL1sと、ショベル10のバケットの角度変化を示すグラフL1とが示されている。図6の中段には、仮想ショベル10sのアームの角度変化を示すグラフL2sと、ショベル10のアームの角度変化を示すグラフL2とが示されている。図6の下段には、仮想ショベル10sのブームの角度変化を示すグラフL3sと、ショベル10のブームの角度変化を示すグラフL3とが示されている。
【0058】
図6では、仮想ショベル10sが時間t2までブーム103s、アーム104s、バケット105sをそれぞれ動かしており、ショベル10は仮想ショベル10sと同じ動きを時間t3まで行っている。時間t2と時間t3との差は時間t1の大きさと異なっていてもよい。実際の環境では遅延時間は時々刻々と変化するため、動き出しと終わりの遅延時間は異なることがあるためである。
【0059】
時間t4において、ショベル10が何らかの原因で仮想ショベル10sの動作に追従していないとする。この場合、姿勢ずれ判定部207は、仮想ショベル10sとショベル10とでずれ量が閾値Δb以上(所定値以上)となったと判定し、遅延発生をシミュレーション動作演算部203へ伝える。
【0060】
シミュレーション動作演算部203は、閾値以上の遅延が発生すると、仮想ショベル10sの動作を停止させ、ショベル10の動作が仮想ショベル10sの動作に追従してくるのを待つ。時間t5でショベル10が動き出し、姿勢ずれ判定部207でずれ量が閾値未満となったと判定されると、姿勢ずれ判定部207は、遅延が解消したことをシミュレーション動作演算部203に伝える。この通知を受領したシミュレーション動作演算部203は、通常通り、入力装置210からの入力信号(操作信号、操作入力とも呼ぶ)にしたがって、仮想ショベル10sを動作させる。
【0061】
図7は、コントローラ200で実施される第1の処理を示す。第1の処理とは、遠隔操作処理である。
【0062】
ステップS101において、地形測定部202は、地形センサ107から地形情報を取得する。
【0063】
ステップS102において、シミュレーション動作演算部203は、取得された地形情報を使ってシミュレーション内の地形を更新する。
【0064】
ステップS103において、操作入力部201は、作業者が入力装置210を操作することで発生する入力信号を取得する。
【0065】
ステップS104において、シミュレーション動作演算部203は、入力装置210からの信号に従い、仮想ショベル10sを動作させる。
【0066】
ステップS105において、シミュレーション動作演算部203は、シミュレーション映像(仮想空間の映像)をモニタディスプレイ220に表示させる。
【0067】
ステップS106において、信号作成部204は、シミュレーション動作演算部203によるシミュレーション結果から出力信号230を作成する。
【0068】
ステップS107において、信号作成部204は、作成された出力信号230を時系列順に記憶部301に蓄積させる。記憶部301に蓄積された出力信号230は、通信ネットワークCNを介してショベル10へ送信される。ショベル10は、出力信号230を受信すると、仮想ショベル10sの動作に追従するようにして動作する。
【0069】
ステップS108において、実機姿勢測定部206は、実機であるショベル10の姿勢情報を取得する。
【0070】
ステップS109において、姿勢ずれ判定部207は、仮想ショベル10sの姿勢とショベル10の姿勢とのずれ量diffを計算する。
【0071】
ステップS110において、実機姿勢測定部206は、算出された姿勢のずれ量diffが閾値Th以上であるか判定する。ずれ量diffが閾値Th以上の場合(S110:YES)、ステップS111へ進む。ずれ量diffが閾値Th未満の場合(S110:NO)、ステップS114へ進む。
【0072】
ステップS111において、シミュレーション動作演算部203は、シミュレーションの動作を一時停止する。すなわち、シミュレーション動作演算部203は、仮想ショベル10sの動作を停止させる。そして、シミュレーション動作演算部203は、一時停止時間Tpを測定する。
【0073】
ステップS112において、シミュレーション動作演算部203は、一時停止時間Tpが閾値Thp以上であるか判定する。一時停止時間Tpが閾値Thp以上の場合(S112:YES)、ステップS113へ進む。一時提示時間Tpが閾値Thp未満の場合(S112:NO)、ステップS109へ戻る。
【0074】
ステップS113において、コントローラ200は、ショベル10に異常が発生したと判定して警報を出力し、遠隔運転を終了させる。
【0075】
ステップS114において、コントローラ200は、ショベル10の遠隔操作を終了するか判定する。遠隔操作を終了させる場合(S114:YES)、コントローラ200は本処理を終了する。遠隔操作を終了させない場合(S114:NO)、コントローラ200は、ステップS101へ戻る。
【0076】
図8は、コントローラ200で実施される第2の処理を示す。第2の処理とは、出力信号をショベル10へ送信する出力信号送信処理である。上述の通り、作業者が入力装置210を介して仮想ショベル10sを操作すると、作業者による入力装置210の操作に応じた一連の出力信号230が生成されて、記憶部301へ蓄積される。
【0077】
ステップS201において、信号出力部205は、記憶部301から出力信号230を取得する。
【0078】
ステップS202において、信号出力部205は、出力信号を通信ネットワークCNを介してショベル10へ送信する。通信ネットワークCNに代えて、有線で出力信号をショベル10へ送信してもよい。または、赤外線通信などを用いてショベル10へ出力信号を送信してもよい。
【0079】
ステップS203において、ショベル10に異常が発生した旨の警報が図7のステップS113で出力されたか判定する。警報が出力された場合(S203:YES)、信号出力部205は、出力信号を送信する処理を終了させる。警報が出力されていない場合(S203:NO)、ステップS204へ進む。
【0080】
ステップS204において、信号出力部205は、記憶部301内の出力信号をすべて送信したか判定する。記憶部301内の出力信号がすべてショベル10へ送信された場合(S204:YES)、本処理は終了する。記憶部301内に未送信の出力信号が残っている場合(S204:NO)、信号出力部205は、ステップS201へ戻る。
【0081】
本実施形態の遠隔操作システム1は、上述の構成を備えるため、シミュレーション上で仮想ショベル10sを動かして作業を行うことで、ショベル10との通信速度に左右されずにショベル10を操作できるため、作業効率を向上させることができる。
【0082】
本実施例では、ショベル10の周囲の地形50を定期的にまたは所定タイミングで取得することにより、実際の施工状況をシミュレーションに適切に反映させて、正確な施工を行うことができる。
【0083】
本実施例では、実際のショベルとの姿勢のずれを把握し、ずれ量が大きくなった際にはシミュレーションを停止させるため、施工のずれを低減できるとともに、ずれ量が大きいままの場合にはショベル10に異常が発生していると判定することができる。これにより、遠隔操作システム1の作業性および作業効率が向上する。
【実施例0084】
図9図11を用いて実施例2を説明する。本実施例を含む以下の各実施例では、実施例1との差異を中心に説明する。
【0085】
図9は、本実施例の遠隔操作システム1Aのモニタディスプレイ220に表示されるシミュレーション映像の例(仮想空間の例)である。
【0086】
シミュレーション動作演算部203がシミュレーションの結果得られた映像をモニタディスプレイ220に表示する際に、キャブの運転席から見た視点G1s(主観的視点とも呼ぶ)に限らず、他の視点を用いることもできる。例えば、ショベル10sを俯瞰する仮想視点G2sを用いて、仮想空間を表現することもできる。仮想の俯瞰視点G2sから仮想空間を表現することにより、仮想ショベル10sの作業現場50s全体における位置関係、作業対象51sの形状、盛り土52sの大きさ、作業装置109(ブーム103s、アーム104s、バケット105s)の挙動などを作業者は容易に把握できる。俯瞰視点G2sと主観的視点G1s(図4の下側)とは、作業者の選択によって自由に切替可能である。または、モニタディスプレイ220の画面上に、主観的視点G1sで表現した仮想空間と、俯瞰視点G2sで表現した仮想空間とを同時に表示させてもよい。
【0087】
図10は、モニタディスプレイ220に表示される他の映像の例である。複数の視点から見た映像を組み合わせて、仮想空間を表現してもよい。例えばモニタディスプレイ220を四分割にして複数の視点の映像を表示したり、或る映像に他の映像を重ねて表示してもよい。俯瞰視点G2sに代えて、あるいは俯瞰視点とともに、複数の視点から仮想空間を表現してもよい。作業者は、任意の視点から仮想空間を俯瞰することができる。
【0088】
例えば、ショベル10sの側面から見た視点、ショベル10sの上面から見た視点、バケット105sを常に中心に置いた視点から仮想空間を表現することもできる。
【0089】
図9に示す俯瞰視点G2sから見た仮想空間と、図10に示すワイヤーフレームG3sで表現した仮想空間とを並べて、モニタディスプレイ220に表示することもできる。
【0090】
図10は、盛り土をワイヤーフレームで表現した仮想空間の映像である。高精細な三次元グラフィックスよりも単純なワイヤーフレームで表現する方が、作業現場50sの状況を容易に把握できる場合がある。盛り土をワイヤーフレームで表現すると、掘削地点の奥行方向を水平線の数から推測することができるため、カメラ映像では確認しづらい奥行方向の距離を把握できる。特に、作業現場は、土や石、雑草などの比較的単調な色彩の物体が多く、カメラ映像では奥行きを認識しにくい場合がある。これに対し、ワイヤーフレームで仮想空間を表現することにより、作業者は、単調な色彩の作業現場の様子を適切かつ容易に把握することができ、作業性が向上する。
【0091】
図11は、作業装置109の各アクチュエータのタイムチャートである。さらに、図11のタイムチャートは、ショベル10により運搬される土の量(すなわち作業機械による作業量)の積算値も示されている。
【0092】
図11では、図6で述べたと同様に、時間0から遠隔操作を行い始め、時間t1にて実際のショベル10が動き出している。時間t2にてシミュレーション上(仮想空間上)にて放土が行われ、時間t3にて実際のショベル10にて放土が行われている。仮想ショベル10sがシミュレーションで運搬した土量とショベル10が実際に運搬した土量との間に差異が発生している。
【0093】
仮想作業現場50sでの作業と実際の作業現場50での作業とでは、例えば、土の固さの違い、土の粘り気の違い、車体の追従精度の相違があるため、運搬土量に差異が発生する。
【0094】
土量は地形センサ107で取得した周囲の地形の変化から算出できる。時間t4にてシミュレーション上にて2回目の放土が行われ、時間t5にて実際のショベル10にて2回目の放土が行われている。シミュレーション上で運搬された土量と実際に運搬された土量との差Δdが閾値以上となった場合に、コントローラ200は、時間t6にてシミュレーション上で運搬された土量を補正する。これにより、コントローラ200は、シミュレーション内の仮想作業現場50sの地形を更新し、作業現場50の地形と一致させる。
【0095】
時間t6は、一定時間ごとに補正の判定を行ったタイミング、またはショベル10が特定の姿勢をとったタイミングである。特定の姿勢とは、例えばバケット105内に土が入っておらず、一定以上の高さにある状態である。
【0096】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例の遠隔操作システム1Aは、仮想空間の任意の視点からショベル10sおよび作業現場50sを見ることができるため、作業装置109sの動きを容易に把握することができる。
【0097】
さらに、本実施例では、仮想ショベル10sの掘った土量(作業量)とショベル10の掘った土量(作業量)との差に応じて、シミュレーション上の地形を補正する。これにより、実際の施工とのずれを解消し、より正確な施工を行うことができる。
【0098】
さらに、本実施例では、ショベルが特定の姿勢になったときに、作業現場の地形を測定するため、アクチュエータによって地形センサ107の視界が遮られることなく正確に地形を測定できる。
【実施例0099】
図12を用いて実施例3を説明する。本実施例の遠隔操作システム1Bは、その主要部300をクラウドシステム30Bに配置し、遠隔操作室20Bには、クラウドシステム30Bの主要部300を利用するための操作システム250だけを配置させる。
【0100】
図12は、遠隔操作システム1Bの制御構造を示す全体図である。ショベル10Bは、その制御構造として例えば、制御装置111、操作装置112、通信装置113、地形センサ107、センサ群110を備える。ここでは、作業装置109の図示を省略している。
【0101】
遠隔操作システム1Bの主要部300は、データ管理システムとしてクラウドシステム30Bに設けられている。主要部300は、例えば、記憶部301と、制御装置302と、通信装置303とを備える。制御装置302を制御部302と、通信装置303を通信部と、それぞれ呼ぶこともできる。
【0102】
制御装置302は、図2で述べたコントローラ200の機能を実現する。すなわち、制御装置302は、遠隔操作室20Bからの入力信号に応じて仮想空間の仮想ショベル10sを動かすとともに、ショベル10Bを仮想ショベル10sに追従させるための出力信号を生成して蓄積し、ショベル10Bへ送信する。さらに、制御装置302は、ショベル10Bからのセンサ信号に基づいて、仮想ショベル10sおよび仮想作業現場50sを更新する。
【0103】
通信装置303は、通信ネットワークCNを介して、ショベル10Bおよび遠隔操作室20Bと双方向通信する。
【0104】
遠隔操作室20Bには、遠隔操作システム1Bの主要部を利用するための操作システム250が設けられている。操作システム250は、例えば、入力装置210と、表示装置としてのモニタディスプレイ220と、通信装置240とを備える。
【0105】
本実施例の遠隔操作システム1Bでは、少なくとも一つの主要部300によって、複数のショベル10Bの遠隔操作を実現する。すなわち、遠隔操作システム1Bは、複数のショベル10Bと、複数の遠隔操作室20Bと、少なくとも一つの遠隔操作システム主要部300を備えており、一つの遠隔操作システム主要部300によって、複数のショベル10Bの遠隔操作が行われる。
【0106】
各遠隔操作室20Bには少なくとも一人の作業者が在室しており、各作業者は操作システム250を用いて主要部300を利用することにより、少なくとも一つのショベル10Bを遠隔操作する。一つの遠隔操作室20Bに複数の作業者が在室し、各作業者がそれぞれの操作システム250を用いて、担当するショベル10Bを遠隔操作してもよい。
【0107】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、遠隔操作システム1Bの主要部300をクラウドシステム30Bに配置するため、遠隔操作室20Bの構造を簡素化でき、手軽に設置することができる。したがって、遠隔操作システム1Bの使い勝手が向上する。
【実施例0108】
図13を用いて実施例4を説明する。図13は、本実施例に係る遠隔操作システム1Cで実施される遠隔操作処理のフローチャートである。図13に示す処理では、図7で述べた処理に比べてステップS121が追加されている。
【0109】
ステップS121は、例えばステップS110で「YES」と判定されると実施される。つまり、ステップS121は、ステップS110とステップS111との間に設けられる。
【0110】
本実施例も実施例1と同様に、遠隔操作システム1Cは、シミュレーションでの施工量(仮想作業現場50sでの作業量)と実際の作業現場50での施工量(作業量)とのずれを比較し、ずれ量が大きい場合にはショベル10に異常が発生していると判定し、仮想ショベル10sの動作を停止させ、ショベル10が追従するのを待つ。
【0111】
さらに、本実施例では、仮想ショベル10sの動作を一時停止させる前に(S111)、ステップS121において、実機姿勢測定部206は、ショベル10が安全状態であるか判定する。
ショベル10は仮想ショベル10sに追従して動作し、停止するが、仮想ショベル10sの停止時の姿勢(つまり、ショベル10が停止するときの姿勢)が所定の安全状態ではない場合、その後の作業性が低下する恐れがある。所定の安全状態とは、例えば、ショベル10に搭載された横転防止機能が発動しない姿勢のように、安全な姿勢であるとあらかじめ定義された姿勢、または安全ではないと定義された姿勢以外の姿勢である。あるいは、崖または凹みの近くのように、安全に作業できない場所に仮想ショベル10sが停止する場合も、所定の安全状態ではないと判定できる。
【0112】
遠隔操作システム1Cのコントローラは、仮想ショベル10sの停止時の姿勢が所定の安全状態ではないと判断すると(S121:NO)、ステップS109へ戻る。遠隔操作システム1Cのコントローラは、仮想ショベル10sの停止時の姿勢が所定の安全状態であると判断すると(S121:YES)、ステップS111へ進む。
【0113】
上述の通り、例えば、バケット105sに土砂を満載した状態でアーム104sを延ばしたまま仮想ショベル10sが一時停止したとすると、或る時間の経過後に、ショベル10も仮想ショベル10sの動作に追従するため、作業装置109に負荷がかかる上に、ショベル10が不安定な状態となり得る。そこで、本実施例では、仮想ショベル10sが安全状態になるのを待ってから仮想ショベル10sの動作を一時停止させる。
【0114】
仮想ショベル10sが所定の安全状態ではないと判断された場合、仮想ショベル10sが所定の安全状態となるまで、仮想ショベル10sを自動的に動かしてもよい。つまり、入力装置210からの入力操作を待たずに、仮想ショベル10sの姿勢および位置を自動的に安全状態として、仮想ショベル10sを一時停止させる。この自動修正処理は、ステップS121で行ってもよいし、ステップS121からステップS109へ移動する途中で行ってもよい。
【0115】
例えば、ショベルなどの作業機械が作業中の動的状態を考慮した安定性評価指標として、ゼロモーメントポイント(ZMP:Zero Moment Point)を見る手法がある。作業中のZMPを実時間で計測して、リアルタイムに動的状態(慣性力)を監視するために、ショベル10の各部の姿勢、各主要部材の重心における加速度、アタッチメント部の負荷をセンサ(不図示)により計測する。ZMPをリアルタイムに算出し、横転等の危険性がない安全状態まで作業装置109を動作させる制御を行うこともできる。常にZMPを計算しながら、ショベル10が安全な領域内で作業するように、予めショベル10の動作範囲を抑制してもよい。
【0116】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、仮想ショベル10sの動作とショベル10の動作とが閾値以上ずれた場合、仮想ショベル10sが所定の安全状態になってから、仮想ショベル10sの動作を一時停止させる。したがって、本実施例では、遠隔操作システム1Cの安全性を維持しつつ、作業性および作業効率を向上させることができる。
【0117】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加または削除または置換することもできる。
【符号の説明】
【0118】
1,1A,1B,1C:遠隔操作システム、10:ショベル、10s:仮想ショベル、20,20B:遠隔操作室、30,30B:クラウドシステム、40:ドローン、50:作業現場、50s:仮想作業現場、101:上部旋回体、102:下部走行体、103:ブーム、104:アーム、105:バケット、106:キャブ、107:地形センサ、108:機械室、109:作業装置、200:コントローラ、201:操作入力部、202:地形測定部、203:シミュレーション動作演算部、204:信号作成部、205:信号出力部、206:実機姿勢測定部、207:姿勢ずれ判定部、210:入力装置、220:モニタディスプレイ、230:出力信号

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13