(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137533
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240927BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20240927BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
F17C1/16
F16J12/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049085
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 晃也
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 功次郎
(72)【発明者】
【氏名】横井 孝明
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD03
3E172CA12
3E172CA21
3E172DA90
3J046AA14
3J046BA03
3J046BD09
3J046CA04
3J046EA02
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でライナと口金との相対回転を規制すること。
【解決手段】圧力容器は、ガスを貯蔵可能な内部空間を形成し、軸方向端に開口が設けられた筒状のライナと、ライナの軸方向端側に配置され、ライナに対して厚さ方向に重なる重なり部を有し、ライナに一体化される口金と、ライナの外面を被覆する補強層と、を備える。口金の重なり部は、厚さ方向へ貫通する貫通孔を有する。ライナは、重なり部に対して表側に配置される表側対向部と、重なり部に対して裏側に配置される裏側対向部と、貫通孔に挿入され、表側対向部と裏側対向部との間で棒状に延びる孔挿入部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを貯蔵可能な内部空間を形成し、軸方向端に開口が設けられた筒状のライナと、
前記ライナの軸方向端側に配置され、前記ライナに対して厚さ方向に重なる重なり部を有し、前記ライナに一体化される口金と、
前記ライナの外面を被覆する補強層と、
を備え、
前記口金の前記重なり部は、前記厚さ方向へ貫通する貫通孔を有し、
前記ライナは、
前記重なり部に対して表側に配置される表側対向部と、
前記重なり部に対して裏側に配置される裏側対向部と、
前記貫通孔に挿入され、前記表側対向部と前記裏側対向部との間で棒状に延びる孔挿入部と、
を有する、圧力容器。
【請求項2】
前記ライナは、前記口金にインサート成形されている、請求項1に記載された圧力容器。
【請求項3】
前記口金は、ボス部と、前記ボス部から径方向外側に延びるフランジ部と、を有し、
前記貫通孔は、前記フランジ部に設けられている、請求項2に記載された圧力容器。
【請求項4】
前記フランジ部は、表側における前記貫通孔の径方向位置よりも径方向内側の位置において径方向外側に向いて前記ボス部の外面を囲うように環状に形成された環状壁面部を有し、
前記環状壁面部は、前記表側対向部の径方向内側端面に対向し、
前記環状壁面部の前記厚さ方向の厚さと前記表側対向部の径方向内側端面の前記厚さ方向の厚さとは等しい、請求項3に記載された圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを高圧で充填することが可能な圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載されて水素ガスや天然ガスなどのガスを高圧で充填することが可能な圧力容器(例えば、特許文献1)が知られている。特許文献1記載の圧力容器は、容器本体である筒状のライナと、ライナの軸方向両端側に配置された口金と、ライナの外面を被覆して圧力容器の耐圧性を向上させる補強層と、を有している。口金は、ライナの開口周縁部に一体化されて取り付けられている。
【0003】
口金は、アルミニウムなどの金属により形成されている。口金は、ボス部と、ボス部から径方向外側に延びるフランジ部と、を有している。ライナは、ポリエチレンなどの樹脂により形成されている。ライナは、筒状に形成されており、軸方向両端に設けられた開口を有している。ライナの軸方向両端部は、ライナの軸方向中央部に比べて縮径されている。ライナの開口の径は、ライナの軸方向中央部の直径に比べて小さい。
【0004】
ライナの開口周縁部と口金のフランジ部とは、互いに厚さ方向に重なっている。ライナは、口金にインサート成形されている。口金のフランジ部には、保持溝が形成されており、ライナの開口周縁部には、リブが形成されている。ライナと口金とは、リブが保持溝に嵌った状態で互いに一体化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、補強層は、フィラメントワインディング(FW)法により繊維状部材がライナの外面に巻回されることにより、ライナの外面を被覆する。このFWでは、ライナが一体化された軸方向両側の口金を軸回りに回転させることによりその回転トルクをライナに伝達することが必要である。
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1記載の圧力容器では、ライナ及び口金の形状(特に、上記のリブ及び保持溝の形状)が、ライナと口金との軸回りの相対回転が許容されるものとなっているので、上記のFW時に口金からライナへの回転トルクの伝達が十分に行われないおそれがある。
【0008】
一方、ライナと口金との軸回りの相対回転を規制するうえでは、ライナと口金との接触箇所を、径方向に向けて凹凸する構造とすることが考えられる。しかしながら、この凹凸構造では、口金の外形が複雑になり、口金の加工費が増えて製造コストが増大するおそれがある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、簡易な構造でライナと口金との相対回転を規制することが可能な圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、ガスを貯蔵可能な内部空間を形成し、軸方向端に開口が設けられた筒状のライナと、前記ライナの軸方向端側に配置され、前記ライナに対して厚さ方向に重なる重なり部を有し、前記ライナに一体化される口金と、前記ライナの外面を被覆する補強層と、を備え、前記口金の前記重なり部は、前記厚さ方向へ貫通する貫通孔を有し、前記ライナは、前記重なり部に対して表側に配置される表側対向部と、前記重なり部に対して裏側に配置される裏側対向部と、前記貫通孔に挿入され、前記表側対向部と前記裏側対向部との間で棒状に延びる孔挿入部と、を有する、圧力容器である。
【0011】
この構成によれば、簡易な構造でライナと口金との相対回転を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る圧力容器の斜視図である。
【
図4】実施形態の圧力容器を
図2に示す直線IV-IVで切断した際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1-
図4を用いて、本発明に係る圧力容器の実施形態について説明する。
【0014】
一実施形態に係る圧力容器1は、ガスを貯蔵しかつその貯蔵したガスを放出するための容器である。圧力容器1は、貯蔵するガスを例えば燃料にして走行する車両などに搭載される。尚、圧力容器1が貯蔵するガスは、何れの種類のガスであってもよいが、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスであることが好適である。また、圧力容器1が貯蔵可能なガスの圧力は、何れであってもよいが、高圧(例えば100MPaなど)であってもよい。すなわち、圧力容器1は、耐圧容器であってよい。
【0015】
圧力容器1は、
図1、
図2、及び
図3に示す如く、ライナ10と、口金20と、補強層30と、を備えている。尚、
図1においては、圧力容器1の上部を断面図で、圧力容器1の下部を側面図で、それぞれ示している。また、
図3においては、ライナ10を半透明で示している。
【0016】
ライナ10は、ガスを貯蔵するための容器本体である。ライナ10は、筒状に形成されている。ライナ10内には、内部空間11が形成されている。すなわち、ライナ10は、内部空間11を内包している。ライナ10は、例えば、内部空間11でガスの圧力が均一に分散するように円筒状に形成されている。ライナ10は、軸の延びる方向(軸方向C)に延在している。尚、ライナ10は、円筒状に代えて正多角形筒状に形成されていてもよい。
【0017】
ライナ10は、軸方向C中央部において略同径になるようにかつ軸方向C両端部において軸方向C中央側から軸方向C端側にかけて縮径するように形成されている。以下適宜、略同径となるライナ10の軸方向C中央部を円筒部10aと、縮径するライナ10の軸方向C端部をドーム部10bと、それぞれ称す。
【0018】
内部空間11は、所定量のガスを貯蔵可能な容量を有している。ライナ10は、内部空間11に貯蔵されたガスを透過しない或いは透過し難いガスバリア性を有する材料により構成されている。尚、ライナ10の材料は、圧力容器1の使用環境等に応じて選択されればよい。
【0019】
例えば、ガスが水素であるときは、ライナ10の材料は、ナイロン樹脂やポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂等である。尚、ライナ10の内部は、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のガスバリア性に優れる材料でコートされていてもよい。また、圧力容器1が住宅用に用いられるときなど、圧力容器1の質量が大きくてもよいときは、ライナ10の材料は、アルミニウムやステンレススチール等の金属材料であってもよい。
【0020】
尚、ライナ10は、複数の分体により形成されていてよく、それら複数の分体が溶着や溶接などにより接続されて一体化されることにより形成されていてよい。例えばライナ10は、一つの円筒状の円筒分体と二つのドーム状のドーム分体とにより形成されていてよい。この場合、ライナ10は、軸方向C一端側から軸方向C他端側にかけて一方のドーム分体→円筒分体→他方のドーム分体の順に分体が並んだ状態で構成されていてよい。
【0021】
ライナ10は、開口12を有している。開口12は、ライナ10(具体的には、ドーム部10b)の軸方向C両端それぞれに設けられている。ドーム部10bは、口金20の後述するフランジ部22に対向して接していると共に、口金20の後述するボス部21に対向して接している。開口12は、口金20の後述するボス部21の内側(具体的には、後述の流路貫通孔21a回りの内壁面側)に配置されており、例えば円形状に形成されている。
【0022】
口金20は、ライナ10内側の内部空間11と外部との間でガスを出入りさせる部材である。すなわち、口金20は、ライナ10の外部から内部空間11へのガスの導入に用いられると共に、内部空間11からライナ10の外部へのガスの放出に用いられる。口金20は、ライナ10の軸方向C端側に配置されている。口金20は、剛性確保などのため例えばアルミニウムやステンレススチール等の金属により形成されている。口金20は、ボス部21と、フランジ部22と、を有している。
【0023】
ボス部21は、軸方向Cに延在する筒状に形成された軸部位である。ボス部21は、例えば円柱状に形成されている。ボス部21は、流路貫通孔21aを有している。流路貫通孔21aは、ライナ10の内部空間11を外部に連通させる通路である。流路貫通孔21aは、断面が円形となる形状に形成されている。流路貫通孔21aは、ボス部21の軸心部に設けられており、軸方向Cへ貫通している。流路貫通孔21aは、バルブが挿嵌されてガス導入時及びガス放出時にガスが流れる流路となる。
【0024】
尚、圧力容器1は、軸方向両側の口金20のうち双方でガスを出し入れさせるものであってもよいし、或いは、それら二つの口金20の何れか一方だけでガスを出し入れさせると共に他方に栓が装着されたものであってもよい。
【0025】
フランジ部22は、ボス部21から径方向外側に延びる部位である。フランジ部22は、ボス部21の全周に亘って形成されており、例えば円盤状に形成されている。フランジ部22の径方向外端の形状は、例えば円形である。フランジ部22は、ボス部21に一体成形されている。尚、フランジ部22は、ボス部21側から径方向外側にかけてライナ10のドーム部10bの外面に沿うように湾曲していてもよい。
【0026】
ライナ10と口金20とは、厚さ方向で互いに重なる部位を有している。具体的には、口金20は、ライナ10のドーム部10bに対して厚さ方向に重なる重なり部23を有している。口金20の重なり部23は、
図1及び
図3に示す如く、口金20のフランジ部22及びボス部21を含む。尚、重なり部23は、ボス部21を含まず、フランジ部22の一部又は全部だけであってもよい。
【0027】
ライナ10は、インサート成形により口金20に一体化されている。ライナ10は、例えば、インサート成形により口金20に一体化された樹脂ライナである。尚、ライナ10が複数の分体により形成される構造では、軸方向両側それぞれの口金20にライナ10の各分体がインサート成形により一体化され、その後に、両ライナ分体が溶着などで接続されてよい。また、ライナ10が唯一つの構造体により形成される構造では、軸方向両側の口金20に一つのライナ10がインサート成形により一体化されてよい。
【0028】
ライナ10のドーム部10bは、口金20のフランジ部22よりも軸方向C中央側を通りかつ口金20のボス部21の流路貫通孔21a回りの内壁面よりも軸心側を通って連続しており、ボス部21の軸方向C中間部辺りまで至っている。ライナ10の開口12は、口金20のボス部21の軸方向C中間部に位置している。
【0029】
ドーム部10bは、口金20の流路貫通孔21aに対応する筒状部位13を有している。筒状部位13は、口金20とライナ10とが互いに一体化された状態で形成される。筒状部位13は、口金20における流路貫通孔21a回りの内壁面に接するように、外面が円形となる形状に形成されている。筒状部位13は、ボス部21における流路貫通孔21a回りの内壁面の一部である軸方向C奥側のみに対向している。
【0030】
筒状部位13には、流路貫通孔13aが形成されている。流路貫通孔13aは、断面が例えば円形となる形状に形成されている。流路貫通孔13aは、口金20の流路貫通孔21aのうち筒状部位13の配置されていない軸方向C手前側に連通して、その流路貫通孔21aと一体となってライナ10の内部空間11を外部に連通させる通路となる。流路貫通孔13a,21aは、互いに一体化されたライナ10及び口金20を軸方向Cに貫通する。
【0031】
口金20の流路貫通孔21a及びライナ10の流路貫通孔13aには、バルブ(図示せず)が挿嵌されている。このバルブは、根元側で口金20の流路貫通孔21a回りの内壁面のうち軸方向C手前側に接していると共に、先端側でライナ10の筒状部位13の流路貫通孔13a回りの内壁面に接している。流路貫通孔13a,21aは、ガス導入時にガス管を介してガス供給源に接続される。また、流路貫通孔13a,21aは、ガス放出時にガス管を介してガスを燃料とするガス供給先に接続される。バルブは、ガス導入時及びガス放出時に流路貫通孔13a,21aを開放し、一方、それ以外では流路貫通孔13a,21aを閉じる。
【0032】
更に、ライナ10とバルブとの間には、ライナ10の内部空間11から外部へのガスの漏出を防止するためのOリングなどのシール部材が介在されていてもよい。また、軸方向C両側の口金20同士は、シャフト部材を介して互いに接続されていてもよい。このシャフト部材は、ライナ10の内部空間11に配置されて軸方向Cに直線的に延在し口金20同士を連結する。
【0033】
口金20の重なり部23は、貫通孔24を有している。貫通孔24は、口金20の厚さ方向へ貫通する孔である。貫通孔24は、フランジ部22に形成されている。貫通孔24は、フランジ部22の径方向最外位置よりも径方向内側に設けられている。貫通孔24は、フランジ部22の厚さ方向である軸方向Cへ貫通している。貫通孔24は、例えば断面円形に形成されている。尚、貫通孔24は、断面円形に代えて断面多角形状に形成されていてもよい。
【0034】
尚、貫通孔24は、フランジ部22においてボス部21の軸心回りに複数設けられていることが好ましい。そして、複数の貫通孔24が設けられる場合は、貫通孔24が軸対称に配置されていることが好ましく、更に、貫通孔24が軸回りに等間隔に配置されていることが好ましい。
【0035】
ライナ10は、表側対向部14と、裏側対向部15と、孔挿入部16と、を有している。表側対向部14、裏側対向部15、及び孔挿入部16は、ドーム部10bに形成されている。
【0036】
表側対向部14は、口金20の重なり部23に対して表側に配置される部位である。表側対向部14は、重なり部23の表面に接するように対向している。表側対向部14は、口金20のフランジ部22の一部である径方向外端部に厚さ方向(具体的には、軸方向C)で対向している。裏側対向部15は、口金20の重なり部23に対して裏側に配置される部位である。裏側対向部15は、重なり部23の裏面に接するように対向している。裏側対向部15は、口金20のフランジ部22の全部及びボス部21の一部に厚さ方向で対向している。表側対向部14と裏側対向部15とは、口金20の重なり部23(具体的には、フランジ部22)を挟み込むように形成されている。
【0037】
口金20のフランジ部22は、ライナ10に対向する部位を有している。フランジ部22は、表側において軸心側を残して円環状に切り欠かれた形状に形成されている。フランジ部22は、ライナ10の表側対向部14の径方向内側端面14aに対向する環状壁面部25を有している。環状壁面部25は、フランジ部22の表側における貫通孔24の径方向位置よりも径方向内側の位置に配置されている。すなわち、貫通孔24は、フランジ部22における環状壁面部25の径方向位置よりも径方向外側の薄肉箇所に配置されている。環状壁面部25は、径方向外側に向いており、ボス部21の外面を囲うように環状に形成されている。
【0038】
ライナ10の表側対向部14は、環状壁面部25に径方向で対向する径方向内側端面14aを有している。径方向内側端面14aは、径方向内側に向いており、環状に形成されている。口金20のフランジ部22の環状壁面部25とライナ10の表側対向部14の径方向内側端面14aとは、互いに径方向で対向している。環状壁面部25の厚さ方向(具体的には、軸方向C)の厚さと径方向内側端面14aの厚さ方向(具体的には、軸方向C)の厚さとは、等しい。
【0039】
ライナ10の孔挿入部16は、口金20の貫通孔24に挿入される部位である。孔挿入部16は、貫通孔24に配置されており、口金20の貫通孔24回りの内壁面に嵌まっている。孔挿入部16は、表側対向部14と裏側対向部15との間で棒状に延びている。孔挿入部16は、貫通孔24に対応した形状(例えば、断面円柱状や断面多角柱状)に形成されている。
【0040】
尚、孔挿入部16ひいては貫通孔24については、口金20からライナ10への回転トルクの伝達を実現するうえでは体格が大きいことや数が多いことが好ましい。孔挿入部16は、表側対向部14及び裏側対向部15と一体化されている。孔挿入部16は、ライナ10と口金20とがインサート成形されることにより形成される。
【0041】
尚、口金20は、熱伝導材により形成されていてもよい。すなわち、口金20は、圧力容器1の温度調整のため、熱交換媒体が循環する熱交換器として機能してもよい。尚、軸方向両側の口金20が熱交換器として機能することが好適であるが、軸方向両側の口金20のうちの何れか一方が熱交換器として機能するものであってもよい。例えば、ガスの出入りが一方の口金20で行われる場合は、その口金20とは軸方向反対側の他方の口金20が熱交換器として機能してもよい。
【0042】
補強層30は、ライナ10の外面(すなわち、径方向外側に向いた面)を被覆してライナ10を補強する層である。補強層30は、線状や帯状の繊維状部材がライナ10の外面に巻回されることにより形成されている。尚、補強層30は、繊維状部材がフープ巻きされたフープ層や繊維状部材がヘリカル巻きされたヘリカル層であってよい。補強層30を構成する繊維状部材は、例えば、樹脂を含浸した高強度繊維(すなわち、FRP)であって、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等である。
【0043】
尚、補強層30は、繊維状部材が直接的にライナ10の外面に巻回されることに代えて、繊維状部材を用いてシート状に形成されたヘリカル層やフープ層がライナ10の外面に貼り付けられることにより形成されてもよい。また、補強層30は、繊維状部材に樹脂が含浸された状態で形成されてよく、例えば、ヘリカル層やフープ層の形成後に樹脂が加熱硬化されたものであってもよい。この繊維状部材に含浸される樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂などである。
【0044】
また、圧力容器1は、ライナ10内の内部空間11の全部や一部に、ガスを吸蔵可能かつ放出可能である貯蔵材を収容するものであってもよい。この貯蔵材の断面形状は、ライナ10の断面形状に合わせて例えば円形状や正六角形などの正多角形状であってよい。また、貯蔵材は、貯蔵対象のガスの種類に応じた材料により形成されてよく、この材料は、例えば、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(すなわちMOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物などであってよい。
【0045】
次に、圧力容器1を組み立てる製造手順の一例を説明する。圧力容器1の組み立て製造は、製造装置により以下の手順に従って行われる。この製造装置は、口金20とライナ10とをインサート成形するための金型と、その金型にインサート品としての口金20がセットされた状態でライナ10の樹脂材料などを流し込むゲートと、を有している。尚、このゲートは、口金20のボス部21における流路貫通孔21a回りの内壁面すなわちライナ10の筒状部位13を形成する部位近傍に設けられていることが好ましい。
【0046】
まず、圧力容器1の組み立て製造前に、成形された口金20を準備してその口金20を金型にセットする。そして、金型に口金20がセットされた状態でゲートからライナ10の材料を流し込んで口金20とライナ10とをインサート成形する。口金20とライナ10とのインサート成形後、そのインサート成形されたサブアッシーに対して、フィラメントワインディング(FW)法でライナ10の外面に補強層30を被覆する処理を行う。具体的には、ライナ10が一体化された軸方向C両側の口金20を軸回りに回転させながら、補強層30となる繊維状部材をライナ10の外面に巻回する。これらの処理により、圧力容器1は製造される。
【0047】
次に、圧力容器1の動作及び作用について説明する。
製造後の圧力容器1においては、軸方向C両側のうち一方の口金20側の流路貫通孔21a,13aがバルブにより閉じられた状態で他方の口金20側の流路貫通孔21a,13aを介してガスがライナ10の内部空間11へ供給されると、その内部空間11にガスが流入する。そして、内部空間11へのガス流入後、他方の流路貫通孔21a,13aがバルブにより閉じられると、内部空間11にガスが充填される。
【0048】
また、圧力容器1へのガスの充填後は、例えば一方の流路貫通孔21a,13aがバルブにより開放されると、内部空間11内のガスがその流路貫通孔21a,13aを介して外部に放出される。
【0049】
従って、圧力容器1によれば、内部空間11にガスを充填することができると共に、その充填したガスを外部に放出することができる。
【0050】
圧力容器1において、口金20は、ライナ10に対して厚さ方向に重なる重なり部23を有し、その重なり部23は、厚さ方向へ貫通する貫通孔24を有する。そして、ライナ10は、貫通孔24に挿入される孔挿入部16を有し、その孔挿入部16は、ライナ10の表側対向部14と裏側対向部15との間で棒状に延びている。これらの口金20とライナ10とは、インサート成形により一体化されて拘束される。
【0051】
この構造においては、口金20とライナ10とが径方向で対向する径方向端面部位の形状が、軸回りの相対回転を許容する円形であったとしても、ライナ10の孔挿入部16が口金20の貫通孔24に棒状に挿入されているので、口金20とライナ10との相対回転を規制することができ、口金20とライナ10との一体化後は互いを一体で回転させることができる。
【0052】
このため、例えばFW法による補強層30の被覆時には、口金20を軸回りに回転させた回転トルクを十分にライナ10に伝達することができるので、FWにより補強層30をライナ10の外面に適切に被覆することができる。また、口金20とライナ10との相対回転を規制するうえで、回転トルクを受けるための口金20とライナ10とが径方向で対向する径方向端面部位の形状を凹凸構造とすることは不要であるので、口金20とライナ10とを一体で回転させるための形状や構造を簡素化することができると共に、回転トルクを受けるための口金20とライナとの径方向端面部位を厚肉化することは不要である。
【0053】
従って、圧力容器1によれば、簡易な構造で口金20とライナ10との相対回転を規制することができ、これにより、加工費などの高騰を抑えて、製造コストの低減を図ることができる。
【0054】
また、圧力容器1において、口金20は、ライナ10に対して厚さ方向に重なる重なり部23を有し、ライナ10は、その重なり部23に対して表側に配置される表側対向部14を有する。この構造においては、口金20の表面の一部をライナ10の表側対向部14で覆うことができる。このため、ライナ10が樹脂ライナであるときは、口金20の表面がライナ10で覆われていない構造に比べて、口金20と補強層30とが直接に接触する面積を小さく抑えることができるので、口金20と補強層30との間で滑りと固着とが交互に繰り返されるスティックスリップ現象時における異音の発生を抑えることができる。
【0055】
ところで、口金20とライナ10とが未拘束であるものとすると、低温などに起因してライナ10が収縮したときに、ライナ10が口金20から離れ易くなり、ライナ10(特に、肩部であるドーム部10b)と補強層30との間に生じる隙間が大きくなる。この場合は、加圧時にライナ10のドーム部10bに集中する応力が大きくなるので、その応力に対応するためにはドーム部10bの厚肉化を図ることが必要となる。
【0056】
これに対して、本実施形態の圧力容器1においては、口金20とライナ10とがインサート成形により互いに拘束されている。特に、口金20とライナ10とがインサート成形された状態で、口金20のフランジ部22における環状壁面部25の厚さと、ライナ10の表側対向部14の径方向内側端面14aの厚さとは等しい。この構造においては、低温などに起因してライナ10がライナ10の径方向内側に収縮しようとしても、ライナ10(特に、肩部であるドーム部10b)が口金20から離れ難く、ライナ10と補強層30との間に生じる隙間が小さい。この場合は、加圧時においてライナ10のドーム部10bに集中する応力が小さくなるので、ドーム部10bの薄肉化を図ることができる。
【0057】
上記の如くライナ10のドーム部10bが薄肉化された構造では、厚肉化構造に比べて、成形収縮率が小さい。このため、圧力容器1を製造する金型の調整を易化することができる。また、ライナ10の特にドーム部10bの寸法精度を向上させることができる。更に、上記の薄肉化構造によれば、ライナ10として使用する材料量を低減することができ、ライナ10の軽量化を図ることができる。
【0058】
尚、上記の実施形態においては、口金20の重なり部23が、厚さ方向へ貫通する貫通孔24を有しているが、この貫通孔24がフランジ部22に形成されており、軸方向Cへ貫通している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、口金20の貫通孔24がボス部21に形成され、径方向へ貫通していてもよい。
【0059】
また、上記の実施形態においては、ライナ10のドーム部10bが円筒部10a側から口金20のボス部21の軸方向C中間部辺りまで連続して延びており、ライナ10の開口12が口金20のボス部21の軸方向C中間部に位置している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ライナ10のドーム部10bが円筒部10a側から口金20のフランジ部22までしか延びず、ライナ10の開口12が口金20のフランジ部22の径方向所定箇所に位置していてもよい。
【0060】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。また、本明細書は、出願当初に各請求項に記載された引用関係で示される技術思想を開示するだけでなく、各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0061】
1:圧力容器、10:ライナ、10a:円筒部、10b:ドーム部、11:内部空間、12:開口、13a:流路貫通孔、14:表側対向部、14a:径方向内側端面、15:裏側対向部、16:孔挿入部、20:口金、21:ボス部、21a:流路貫通孔、22:フランジ部、23:重なり部、24:貫通孔、25:環状壁面部、30:補強層。