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特開2024-137553ヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137553
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240930BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H05K7/20 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049112
(22)【出願日】2023-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163267
【弁理士】
【氏名又は名称】今中 崇之
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩一
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA06
5E322AA10
5E322DA04
5E322DB06
5E322FA01
5F136BA06
5F136CB06
5F136DA27
5F136FA02
5F136FA03
5F136GA13
(57)【要約】
【課題】流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立を図ることができるヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置を提供する。
【解決手段】ヒートシンク10は、千鳥配置され冷媒に接触する複数のピンフィン102を備えたヒートシンクであって、ピンフィン102の断面形状が、数式にて表現される翼型となっている。数式は、少なくとも2つのパラメータを含み、2つのパラメータが、それぞれ翼弦長c及び最大翼厚比τである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
千鳥配置され冷媒に接触する複数のピンフィンを備え、
前記ピンフィンの断面形状が、数式にて表現される翼型となっているヒートシンク。
【請求項2】
千鳥配置され冷媒に接触する複数のピンフィンを備え、
前記ピンフィンの断面形状が、数式にて表現される翼型から該翼型の後縁が取り除かれた形状となっているヒートシンク。
【請求項3】
請求項2記載のヒートシンクにおいて、
前記ピンフィンの後端部の形状が、後端に向かうに従って厚さが小さくなっているヒートシンク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1記載のヒートシンクにおいて、
前記数式が、少なくとも2つのパラメータを含み、
前記2つのパラメータが、それぞれ翼弦長c及び最大翼厚比τであるヒートシンク。
【請求項5】
請求項4記載のヒートシンクにおいて、
前記翼型がNACA4桁翼であるヒートシンク。
【請求項6】
請求項5記載のヒートシンクにおいて、
前記翼型が、実質的な対称翼であるヒートシンク。
【請求項7】
請求項6記載のヒートシンクであって、
該ヒートシンクが、前記ピンフィンの先端側から見て、長手方向と交差する方向に並んだ複数の区域に分けられ、
隣接する前記区域に形成されている前記ピンフィンの向きが、互い違いとなっているヒートシンク。
【請求項8】
請求項1記載のヒートシンクの製造方法であって、
前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、
前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、
前記決定工程にて決定された前記断面形状に基づいて前記ピンフィンが形成される形成工程と、を含むヒートシンクの製造方法。
【請求項9】
請求項2記載のヒートシンクの製造方法であって、
前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、
前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、該翼型の後縁が取り除かれた形状が前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、
前記決定工程にて決定された前記断面形状に基づいて前記ピンフィンが形成される形成工程と、を含むヒートシンクの製造方法。
【請求項10】
請求項1記載のヒートシンクの設計方法であって、
前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、
前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、を含むヒートシンクの設計方法。
【請求項11】
請求項2記載のヒートシンクの設計方法であって、
前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、
前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、該翼型の後縁が取り除かれた形状が前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、を含むヒートシンクの設計方法。
【請求項12】
複数の請求項4記載のヒートシンクが冷媒の流路に沿って配置されている冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フィンに向けて空気を送風するときの空気抵抗を小さくし、風量の低下を防いで放熱効率を高め、また乱流の発生を抑えて騒音の小さな静かな環境を保つことができる発熱素子の冷却装置が記載されている。
この発熱素子の冷却装置は、発熱素子の熱を受けるヒートシンクと、このヒートシンクに冷却用の空気を送風する送風手段と、この送風手段により送風される空気の送風通路内に配置するようにヒートシンクに一体的に設けられた複数のフィンとを具備し、各フィンの断面形状が送風通路内を流通する空気の流れの方向に沿って延びる翼形状となっていることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-332177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで一般に、ヒートシンクの流動抵抗と伝熱性能はトレードオフの関係にある。
本発明は、流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立を図ることができるヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、千鳥配置され冷媒に接触する複数のピンフィンを備え、前記ピンフィンの断面形状が、数式にて表現される翼型となっているヒートシンクである。
【0006】
請求項2に記載の発明は、千鳥配置され冷媒に接触する複数のピンフィンを備え、前記ピンフィンの断面形状が、数式にて表現される翼型から該翼型の後縁が取り除かれた形状となっているヒートシンクである。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載のヒートシンクにおいて、前記ピンフィンの後端部の形状が、後端に向かうに従って厚さが小さくなっている。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか1記載のヒートシンクにおいて、前記数式が、少なくとも2つのパラメータを含み、前記2つのパラメータが、それぞれ翼弦長c及び最大翼厚比τである。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4記載のヒートシンクにおいて、前記翼型がNACA4桁翼である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5記載のヒートシンクにおいて、前記翼型が、実質的な対称翼である。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項6記載のヒートシンクであって、該ヒートシンクが、前記ピンフィンの先端側から見て、長手方向と交差する方向に並んだ複数の区域に分けられ、隣接する前記区域に形成されている前記ピンフィンの向きが、互い違いとなっている。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1記載のヒートシンクの製造方法であって、前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、前記決定工程にて決定された前記断面形状に基づいて前記ピンフィンが形成される形成工程と、を含むヒートシンクの製造方法である。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項2記載のヒートシンクの製造方法であって、前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、該翼型の後縁が取り除かれた形状が前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、前記決定工程にて決定された前記断面形状に基づいて前記ピンフィンが形成される形成工程と、を含むヒートシンクの製造方法である。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項1記載のヒートシンクの設計方法であって、前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、を含むヒートシンクの設計方法である。
【0015】
請求項11に記載の発明は、請求項2記載のヒートシンクの設計方法であって、前記ヒートシンクによって生じる圧力損失及び該ヒートシンクの伝熱量を目的関数とし、1)最大翼厚比τ、2)翼弦長c及び3)互いに隣接する前記ピンフィンの配置を規定する一組のパラメータを設計変数として前記翼型のパレート最適解の集合を求める最適化工程と、前記パレート最適解の集合の中から適切な前記翼型が選択され、該翼型の後縁が取り除かれた形状が前記ピンフィンの断面形状として決定される決定工程と、を含むヒートシンクの設計方法である。
【0016】
請求項12に記載の発明は、複数の請求項4記載のヒートシンクが冷媒の流路に沿って配置されている冷却装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立を図ることができるヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及び設計方法並びに冷却装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るヒートシンクの使用例を模式的に示す説明図である。
図2】同ヒートシンクをピンフィンの先端側から見た図である。
図3】同ヒートシンクの側面図である。
図4図2のA部の拡大図であって、同ヒートシンクのピンフィンの形状を示す説明図ある。
図5】同ヒートシンクの第1の使用例を模式的に示す説明図である。
図6】同ヒートシンクの第2の使用例を模式的に示す説明図である。
図7】同ヒートシンクの変形例を示す説明図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係るヒートシンクのピンフィンの形状を示す説明図である。
図9】第1の実施の形態に係るヒートシンクの効果を示すシミュレーション結果であって、流動抵抗ΔPと伝熱性能Qの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。なお、図において、説明に関連しない部分は図示を省略する場合がある。
【0020】
〔第1の実施の形態〕
本発明の第1の実施の形態に係るヒートシンク10は、図1に示すように、例えば、インバータに搭載されたパワー半導体(発熱体の一例)20を冷却するための冷却装置に用いられる。
冷却装置が備えるヒートシンク10は、図2及び図3に示すように、基部101と、基部101に形成されたピンフィン102と、を有し、流路形成部材30(図1参照)とともに冷却水(冷媒の一例)が流れる流路40を形成する。
ヒートシンク10の材質は、例えばアルミニウム合金や銅などの金属である。
【0021】
基部101は、例えば板状の部材である。基部101は、パワー半導体20が実装された側に配置される。
【0022】
ピンフィン102は、基部101のパワー半導体20が実装された側とは反対の側に形成され、図2の矢印にて示す方向に流れる冷却水に接触することで、パワー半導体20が発生した熱を放出できる。
ピンフィン102は、同図2に示すように、基部101の表面の全範囲にわたって複数形成されており、先端側からみて、冷却水の流れの方向とこれに交差する方向にそれぞれ間隔を空けるように千鳥配置されている。
【0023】
各ピンフィン102の断面形状は、少なくとも2つのパラメータを含む数式にて表現される翼型である。この翼型は、例えば、翼弦長c及び最大翼厚比τをパラメータとする数式で表現され、具体的には、例えばNACA4桁翼として次式にて表現される。NACA4桁翼(数式にて表現される翼型の一例)は、対称翼であることが好ましい。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、xは、前縁からの翼弦(x軸)に沿った距離であり、yは、翼厚分布を規定するための翼弦(x軸)からの距離である。yは、翼厚の半分の距離となる。
【0026】
ピンフィン102の断面形状となる翼型は、後述するように、ヒートシンク10によって生じる流動抵抗を低減するとともにヒートシンク10の伝熱性能を向上させる多目的最適化により決定される。
従って、ピンフィン102の断面形状が、前述の数式にて示されるようなNACA4桁翼の対称翼であることにより、パレート最適解を求めるための計算量が低減される。
なお、「対称翼」は、厳密な意味での「対称翼」ではない。すなわち「対称翼」とは、設計上や製造上の誤差が許容され、「実質的な対称翼」という意味である。
【0027】
このようにして多目的最適化により決定された本実施の形態に係るヒートシンク10は、例えば円柱形状のピンフィンを備えるヒートシンクと比較して、流動抵抗が低減されるとともに伝熱性能が向上する。
【0028】
次に、ピンフィン102を備えたヒートシンク10の製造方法について説明する。ヒートシンク10は、ピンフィン102の設計方法(工程P1-1、P1-2)を含む工程P1-1、P1-2、P1-3に従って製造される。
【0029】
(工程P1-1)
本工程P1-1は、前述の数式にて示されるピンフィン102の最適な断面形状を求める最適化工程であり、ヒートシンク10によって生じる圧力損失[Pa]及びヒートシンク10の伝熱量[W]を目的関数とした多目的最適化が実行される。
【0030】
設計変数は、以下のとおりである(図4参照)。
(1)最大翼厚比τ
(2)翼弦長c
(3)隣接するピンフィン102の前縁同士を結ぶ線分L1の長さP(前縁間の距離P)
(4)線分L1と、隣接するピンフィン102の後縁及び前縁を結ぶ線分L2と、がなす角度θ
【0031】
多目的最適化の結果、例えば次表に示すようなパレート最適解の集合が求められる。
【0032】
【表1】
【0033】
なお、前述の(3)距離P及び(4)角度θは、ピンフィン102の配置を決定するためパラメータである。従って、ピンフィン102の配置を決定するための一組のパラメータであれば任意でよい。この一組のパラメータの他の例として、あるピンフィンの後縁を基準とする、隣接するピンフィンの前縁の位置を表すパラメータであって、翼弦に沿う方向の位置X1及びこれに直交する方向の位置Y1が挙げられる。
【0034】
従って、設計変数は、以下とおりであってもよい。
(1)最大翼厚比τ
(2)翼弦長c
(3)ピンフィン102の配置を決定するための一組のパラメータ
【0035】
このように、本工程P1-1において、多目的最適化によるピンフィン102の最適形状が求められるので、流動性能と伝熱性能の向上の両立が図られる。
【0036】
(工程P1-2)
本工程P1-2は、適切なピンフィン102の断面形状を決定する決定工程である。
現実の条件を考慮して、パレート最適解の集合の中から適切な翼型が選択される。現実の条件とは、例えば、冷却装置が備える、冷却水を送出するためのポンプの性能である。
その後、選択された翼型が、ピンフィン102の断面形状として決定される。
【0037】
(工程P1-3)
本工程P1-3は、ヒートシンク10を形成する形成工程である。
前工程P1-2にて決定された断面形状に基づいてピンフィン102を備えたヒートシンク10が形成される。ヒートシンク10を形成する方法は、例えば鍛造である。ただし、鍛造に限定されるものではない。
【0038】
以上の工程P1-1、P1-2、P1-3が実施されることによって、流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立が図られたヒートシンク10が製造される。
【0039】
次に、ピンフィン102を備えたヒートシンク10の使用方法について説明する。
冷却装置が備えるヒートシンク10は、前述のとおり、ピンフィン102が一方向に流れる冷却水に接触できるように単独で使用されるほか、以下に示す第1及び第2の使用例のように、モジュール化して使用することも可能である。
【0040】
(第1の使用例)
第1の使用例は、複数のパワー半導体モジュールに対して適用可能な使用例である。
図5に示すように、1つのヒートシンク10が1つのパワー半導体モジュールの熱を放出できるようにモジュール化され、例えば3つのパワー半導体モジュールにそれぞれ対応する3つのモジュールが冷却水の流れの方向(矢印参照)に沿って直列的に接続される。
【0041】
(第2の使用例)
第2の使用例は、大型のパワー半導体モジュールに対して適用可能な使用例である。
図6に示すように、ヒートシンク10がモジュール化され、例えば4つのモジュール全体で1つの大型のパワー半導体モジュールから生じた熱を放出できるように構成される。これらの複数のモジュールは冷却水の流れの方向(矢印参照)に沿って直列的に接続される。ただし、4つのモジュールうちの2つのモジュールは上流側に配置され、残りの2つのモジュールは、上流側とは反対方向に流れる下流側の流路内に配置される。
【0042】
第1及び第2の使用例のように、ヒートシンク10がモジュール化して使用され、流路に沿って配置されることにより、パワー半導体の多様な形態に柔軟に対応できる冷却装置が提供される。
【0043】
次に、ヒートシンク10の変形例であるヒートシンク10aについて説明する。
図7に示すように、ヒートシンク10aは、ピンフィン102の先端側から見て、ヒートシンク10aの長手方向と交差する方向に並んだ複数の区域B1~B3に分けられ、隣接する区域B1~B3に形成されているピンフィン102の向きが、互い違いとなっている。
【0044】
区域B1と区域B2との間には、流路の一部を形成するための流路隔壁104aが設けられ、区域B2と区域B3との間には、流路隔壁104bが設けられている。
矢印にて示すように、区域B1に入った冷却水は、流れの方向が反対向きとなって区域B2に入り、区域B2を抜けた後、再度流れの方向が反対向きとなって区域B3に入り、ヒートシンク10aの外部へと抜ける。
すなわち、冷却水の流れの方向は、クランク状となるように、隣接する第1~第3の区域B1~B3においてそれぞれ反対方向となっており、これに対応してピンフィン102の向きも反対方向となっている。
【0045】
従って、ピンフィン102がこのように配置されていることにより、ヒートシンク10aを冷却する冷却水の流路が多重パス化される。
なお、流路を形成する部材の一部である流路隔壁104a、104bは、ヒートシンク10aに形成されていてもよいし、ヒートシンク10aとともに流路を形成する流路形成部材として形成されていてもよい。
【0046】
〔第2の実施の形態〕
続いて、本発明の第2の実施の形態に係るヒートシンクについて説明する。第1の実施の形態に係るヒートシンク10と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
第2の実施の形態に係るヒートシンクは、第1の実施の形態に係るヒートシンク10、10aと対比すると、ピンフィンの形状が相違する。
【0047】
各ピンフィン102aの断面形状は、図8に示すように、数式で表現される翼型からこの翼型の後縁が取り除かれた形状となっている。具体的には、断面形状は、NACA4桁翼から鋭利な形状となっている後縁が取り除かれた形状となっている。
各ピンフィン102aの後端部の形状は、後端に向かうに従って厚さが小さくなっており、具体的には、例えば、後縁が面取りされた形状となっている。
【0048】
このように、ピンフィン102aは、鋭利な形状となっている翼型の後縁が取り除かれた形状となっているので、本実施の形態に係るヒートシンクは、第1の実施の形態に係るヒートシンク10、10aと比較して、製造がより容易である。
【0049】
次に、ピンフィン102aを備えたヒートシンクの製造方法について説明する。ヒートシンクは、ピンフィン102aの設計方法(工程P2-1、P2-2)を含む工程P2-1、P2-2、P2-3に従って製造される。
【0050】
(工程P2-1)
本工程P2-1は、ピンフィン102aの最適な断面形状を求める最適化工程である。第1の実施の形態に係る工程P1-1と実質的に同一であるため、その詳細な説明は割愛する。
【0051】
(工程P2-2)
本工程P2-2は、適切なピンフィン102aの断面形状を決定する決定工程である。
現実の条件を考慮して、パレート最適解の集合の中から適切な翼型が選択される。現実の条件とは、例えば、冷却水を送出するためのポンプの性能である。
翼型が選択された後、その翼型の後縁が取り除かれた形状がピンフィン102aの断面形状として決定される
【0052】
(工程P2-3)
本工程P2-3は、ヒートシンクを形成する形成工程である。
前工程P2-2にて決定された断面形状に基づいてピンフィン102aを備えたヒートシンクが形成される。ヒートシンクを形成する方法は、例えば鍛造である。ただし、鍛造に限定されるものではない。
【0053】
以上の工程P2-1、P2-2、P2-3が実施されることによって、流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立が図られたヒートシンクが製造される。
【実施例0054】
次に、第1の実施の形態に係るヒートシンク10のシミュレーション結果を示し、その効果についてより具体的に説明する。
発明者は、ピンフィン102を備えたヒートシンク10と、比較例となる円柱形状のピンフィンを備えたヒートシンクについて、同一条件の下で多目的最適化を行った。
ヒートシンク10についての多目的最適化方法については、前述の工程P1-1に示したとおりである。
【0055】
多目的最適化は、市販のCFD(Computational Fluid Dyamics)ソフトウェアFloTHERM XTとmodeFRONTIERを組み合わせて実行した。多目的最適化アルゴリズムとして、複合戦略アルゴリズムPilOPTを使用した。このPilOPTは自律型最適化アルゴリズムであり、最適化の回数や最適化に費やした時間に基づく効率的な最適化アルゴリズムである。
【0056】
各ヒートシンクの長さLH(図2参照)は100mmであり、幅WHは、50mmである。ピンフィン102の基部101の表面からの高さHF(図3参照)は、8mmであり、円柱形状のピンフィンの高さも8mmである。
発熱体と冷却水との温度差は75℃である。冷却水の流量は、2.4L/minである。
【0057】
多目的最適化の結果、図9に示すようなシミュレーション結果が得られた。なお、同図9の横軸は無次元化された流動抵抗ΔPであり、縦軸は無次元化された伝熱性能Qである。
このシミュレーション結果から、ヒートシンク10のパレート最適解が、円柱形状のピンフィンを備えたヒートシンクよりも明らかに優位であることが理解できる。
従って、ピンフィン102を備えたヒートシンク10は、円柱形状のピンフィンを備えたヒートシンクと比較して、高性能であることが確認された。
【0058】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るヒートシンク10、ヒートシンク10の製造方法及びヒートシンク10の設計方法並びに第2の実施の形態に係るヒートシンク、ヒートシンクの製造方法及びヒートシンクの設計方法によれば、流動抵抗の低減と伝熱性能の向上の両立を図ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
発熱体はパワー半導体に限定されるものではなく、任意の発熱体でよい。また、冷媒は冷却水に限定されるものではなく、任意の冷媒でよい。
【符号の説明】
【0060】
10、10a ヒートシンク
20 パワー半導体
30 流路形成部材
40 流路
101 基部
102、102a ピンフィン
104a、104b 流路隔壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9