(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137562
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多孔質顆粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
A23L5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023062385
(22)【出願日】2023-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隅 賢
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC04
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG20
4B035LP24
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】 溶解性が良く、油溶性物質を吸着させることが可能な多孔質顆粒であって、潰れにくい多孔質顆粒の製造方法、該方法により得られる多孔質顆粒、該顆粒に油溶性物質を吸着させた油吸着顆粒、油吸着顆粒の製造方法及び油吸着顆粒を含む食品を提供するものである。
【解決手段】 難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥することで、多孔質であり、溶解性が良く、油溶性物質を吸着できる優れた顆粒を製造できることを見出し、本発明に至った。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥することを特徴とする、非球形多孔質顆粒の製造方法。
【請求項2】
多孔質顆粒のゆるめ嵩密度が0.45g/mL以下である、請求項1記載の多孔質顆粒の製造方法。
【請求項3】
難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥してなる多孔質顆粒である、非球形多孔質顆粒。
【請求項4】
多孔質顆粒のゆるめ嵩密度が0.45g/mL以下である、請求項3記載の多孔質顆粒。
【請求項5】
請求項3又は4記載の多孔質顆粒に油溶性物質を吸着させた油吸着顆粒。
【請求項6】
油吸着顆粒全体を100重量%とした場合に、油溶性物質を最大74重量%含むことを特徴とする、請求項5記載の油吸着顆粒。
【請求項7】
請求項3又は4記載の多孔質顆粒に油溶性物質を吸着させる工程を含む、油吸着顆粒の製造方法。
【請求項8】
油吸着顆粒全体を100重量%とした場合に、油溶性物質を最大74重量%含むことを特徴とする、請求項7記載の油吸着顆粒の製造方法。
【請求項9】
請求項5記載の油吸着顆粒を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質顆粒の製造方法及び該方法により得られる多孔質顆粒、油吸着顆粒及びその製造方法、並びに該油吸着顆粒を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のように、単糖類、二糖類、塩、アミノ酸及びアミノ酸塩からなる群より選ばれた少なくとも一種を粉末全体を100重量%とした場合に少なくとも80重量%、澱粉を5重量%以下含み、20℃での水100mLに対する溶解度が多くとも100gである粉末と、水とを混合し、減圧乾燥させる製造方法であって、ゆるめ嵩密度が少なくとも0.30g/mLである油吸着用多孔質顆粒の製造方法が知られていた。該公報中には、溶解度の高い原料を用いると、多孔質顆粒が得られないことが記載されており、20℃での水100mLに対する溶解度が多くとも100gである粉末を用い、該粉末を水に溶解することなく、該粉末と水とを混合して減圧乾燥する方法が記載されているが、得られる多孔質顆粒は、油を吸着させた油吸着顆粒全体100重量%に対して最大33重量%の油吸着量だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、溶解性が良く、油溶性物質を吸着させることが可能な多孔質顆粒であって、潰れにくい多孔質顆粒の製造方法、該方法により得られる多孔質顆粒、該顆粒に油溶性物質を吸着させた油吸着顆粒、油吸着顆粒の製造方法及び油吸着顆粒を含む食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥することで、多孔質であり、溶解性が良く、油溶性物質を吸着できる優れた顆粒を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]の態様に関する。
[1]難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥することを特徴とする、非球形多孔質顆粒の製造方法。
[2]多孔質顆粒のゆるめ嵩密度が0.45g/mL以下である、[1]記載の多孔質顆粒の製造方法。
[3]難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥してなる多孔質顆粒である、非球形多孔質顆粒。
[4]多孔質顆粒のゆるめ嵩密度が0.45g/mL以下である、[3]記載の多孔質顆粒。
[5][3]又は[4]記載の多孔質顆粒に油溶性物質を吸着させた油吸着顆粒。
[6]油吸着顆粒全体を100重量%とした場合に、油溶性物質を最大74重量%含むことを特徴とする、[5]記載の油吸着顆粒。
[7][3]又は[4]記載の多孔質顆粒に油溶性物質を吸着させる工程を含む、油吸着顆粒の製造方法。
[8]油吸着顆粒全体を100重量%とした場合に、油溶性物質を最大74重量%含むことを特徴とする、[7]記載の油吸着顆粒の製造方法。
[9][5]又は[6]記載の油吸着顆粒を含む食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質顆粒の製造方法は、煩雑な工程が無く、簡便である。さらに、該製造方法によって得られる顆粒は、多孔質の構造を有しているため溶解性に優れ、かつ優れた油吸着能力を有しており、油溶性物質吸着後の流動性に優れ、さらに多孔質構造ながら十分な強度を兼ね備えている。
本発明の油吸着顆粒は、油溶性物質吸着時に乳化剤が不要なため油溶性物質自体の風味を損なうこと無く保持しており、流動性が高く、流通過程で衝撃を受けても潰れ難いため油漏れし難く、さらに水や湯に添加した際は速やかに溶解することができる優れた溶解性を有している。加えて、その製造方法においても、油溶性物質と顆粒との添加方法や順番に制限は無く、一般的な方法で混合して、高い油吸着量を実現できる。
さらに、該油吸着顆粒を含む食品は流動性が高く、簡便に該食品を製造できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】難消化性デキストリンを25%配合して製造した多孔質顆粒と、その顆粒に対して油吸着量30%を吸着させた油吸着顆粒を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、難消化性デキストリン15~30重量%を溶解した水溶液100重量%を凍結真空乾燥することで、多孔質であり、溶解性が良く、油溶性物質を吸着できる優れた顆粒を製造でき、該顆粒に油溶性物質を吸着させることで、油吸着顆粒を製造できる。
【0010】
本発明で用いる難消化性デキストリンは、特に限定されず、一般的な市販品を使用することができる。難消化性デキストリンを使用することで、糖質の吸収が抑えられ、低カロリーな顆粒を調製できる。
【0011】
本発明で用いる難消化性デキストリンと水との割合は、難消化性デキストリンを溶解した水溶液全体を100重量%とした場合に、15~30重量%であればよく、25重量%以下が好ましく、25重量%未満がより好ましい。
【0012】
本発明では、通常の凍結真空乾燥で乾燥すれば特に限定されず、該乾燥方法により、得られる顆粒が多孔質となり、溶解性に優れると共に、油溶性物質吸着能が優れており、さらに多孔質構造ながら十分な強度も兼ね備えることができる。
【0013】
本発明の多孔質顆粒は、非球形であり、多孔質顆粒の粒子径は特に限定されないが、好ましくは少なくとも100μm、より好ましくは少なくとも200μm、さらに好ましくは300μm~2cm、特に好ましくは500μm~1cmであり、篩別して得ることができる。さらに多孔質顆粒の製造方法は、破砕工程及び篩別工程を含むことが好ましく、凍結真空乾燥後に、乾燥物を破砕して篩別しても良く、凍結させ破砕した後に、乾燥しても良い。篩別には、前記粒子径を得るために最適な目開きを有するJIS規格Z8801-1:2006のふるいを使用することができる。
【0014】
本発明では、多孔質構造ながら強度があり、油溶性物質をよく吸着でき、油吸着後も漏出し難い顆粒であれば特に限定されないが、顆粒のゆるめ嵩密度は、好ましくは0.10g/mL以上であり、また、好ましくは0.50g/mL以下、より好ましくは0.45g/mL以下、さらに好ましくは0.42g/mL以下、特に好ましくは0.40g/mL以下又は0.40g/mL未満で、0.30g/mL未満でもよい。尚、水平な場所に設置した容量100mlのステンレス製カップに顆粒を充填し、充填後摺り切り板にて摺り切り、測定した重量を100で割って得られた値を、ゆるめ嵩密度(g/mL)とした。
【0015】
本発明では、多孔質顆粒が強度を有し、潰れ難く、油溶性物質吸着後に油が漏れ難い強度であれば特に限定されないが、好ましくは18mm×18mm×17mmに調製した試験片の圧縮応力が1.0kgf以上、より好ましくは1.2kgf以上、さらに好ましくは1.5kgf以上である。本発明では、プッシュプルスケールFB-5(株式会社イマダ製)を用いて、直径12mmの円柱形プランジャーにより測定対象物に圧力を加え、圧縮応力(kgf)を測定し、強度を判定した。
【0016】
本発明の多孔質顆粒は、例えば油吸着用の基材である油吸着用顆粒として利用できる。多孔質顆粒に吸着させる油溶性物質としては、多孔質顆粒を溶解しない物質であれば特に限定されず、例えば、油脂であれば常温で液体でも固体でも良く、脂溶性ビタミン、油性香料、油性色素でも良い。常温で液体の油では、ごま油、サラダ油、しらしめ油、コーン油、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、小麦胚芽油、椿油、ベニバナ油、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油等が例示でき、常温で固体の脂では、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、ショートニング等が例示できる。さらに、水分含量を好ましくは多くとも4重量%に調整したバター又はマーガリン等が例示できる。その上、顆粒に吸着させる油溶性物質は、顆粒を溶解しなければ、混合物中の油溶性物質でも良い。本発明の多孔質顆粒は、油吸着能が高く、特に今まで保持が困難だった常温で液体の油脂も吸着させることができる。
【0017】
本発明では、前記の多孔質顆粒と前記の油溶性物質とを混合して流動性の良い油吸着顆粒を得ることができ、混合時には特段の注意点は無く、多孔質顆粒と油溶性物質との添加方法及び順番は特に限定されず、多孔質顆粒に油溶性物質を添加しても良く、油溶性物質に多孔質顆粒を添加しても良いが、多孔質顆粒に油溶性物質を添加する方が一般的であり、より簡便に流動性の良い油吸着顆粒を得られる。多孔質顆粒と油溶性物質との混合割合は、多孔質顆粒が油溶性物質を吸着できる量であれば特に限定されないが、油吸着顆粒全体を100重量%として、最大で油溶性物質74重量%吸着することができ、73重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、下限値は特に限定されないが、35重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、45重量%以上がさらに好ましい。油溶性物質が固体であれば、多孔質顆粒との混合前又は混合時に、油溶性物質が液状になる程度に加熱する。油吸着顆粒は、多孔質顆粒が油を吸着、含有又は保持している顆粒である。
【0018】
本発明の多孔質顆粒は、様々な食品に利用することができ、油吸着顆粒を含む食品を製造することができる。例えば、予め油溶性物質を吸着させた油吸着顆粒と顆粒を溶解しない食品とを混合して、流動性の良い油吸着顆粒含有食品を製造することができる。顆粒を溶解しなければ混合する食品は特に限定されないが、水分含量が好ましくは多くとも10重量%、より好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも4重量%の食品である。例えば固形(粉末、顆粒、小片状、ブロック状など)食品、調味料、香辛料、砂糖又は甘味料と油吸着顆粒とを混合して油吸着顆粒を含む食品を製造することができ、油吸着顆粒含有調味料、油吸着顆粒含有糖、油吸着顆粒含有菓子、油吸着顆粒含有飲料、油吸着顆粒含有健康食品が例示できる。具体的には即席ラーメンの通常別添の油脂を吸着させた油吸着顆粒を粉末スープに混ぜた油吸着顆粒入り乾燥ラーメンスープを製造することで、塊にならず流動性に優れた乾燥ラーメンスープを製造でき、喫食時に手が汚れず、喫食時の煩雑性が無い。また、ごま油等を吸着させた油吸着顆粒と粉末調味料とでふりかけやチャーハンの素を製造すれば、簡便にごま油風味を楽しむことができ、一方、香料を吸着させた油吸着顆粒をコーヒーや紅茶用の砂糖に混ぜた香味糖を製造すれば、フレーバーコーヒーやフレーバーティーを楽しむこともでき、脂溶性ビタミンを含ませた油吸着顆粒を健康食品としても利用できる。
さらに、顆粒を溶解しない油溶性物質含有物と本発明の多孔質顆粒とを混合して流動性の良い油吸着顆粒含有食品を製造することができる。顆粒を溶解しなければ混合する油溶性物質含有物は特に限定されないが、該含有物中の水分含量は好ましくは多くとも10重量%、より好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも4重量%である。油溶性物質含有物は、油溶性物質ベースであれば形状は限定されず、固形、ペースト状又は液状の食品であり、例えば、チョコレート、ごまペースト、ナッツペースト、ルウ、水分を前記含量に調整したマヨネーズ等が例示でき、粘度が高い食品でも良い。油溶性物質含有物と本発明の多孔質顆粒とを混合すると、該含有物中の油溶性物質が顆粒に吸着し、顆粒チョコレート等の油吸着顆粒含有菓子又は飲料、油吸着顆粒含有調味料、油吸着顆粒含有トッピング等の流動性の良い油吸着顆粒含有食品を製造することができる。常温で固体の油を含む油溶性物質含有物であれば、多孔質顆粒との混合前又は混合時に、該含有物が液状になる程度に加熱する。油溶性物質含有物と多孔質顆粒との混合比は、該含有物中の油溶性物質が多孔質顆粒に吸着し、流動性のある食品が得られる混合比であれば特に限定されないが、該含有物中の多孔質顆粒重量を1とした場合に、油溶性物質が3.0未満が好ましく、2.9以下がより好ましく、2.8以下がさらに好ましく、また、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましく、流動性を有する油溶性物質吸着顆粒とすることができる。
【実施例0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、各原料及び素材の%は別記がない限り全て重量%である。
難消化性デキストリン(ファイバーソル(登録商標)2、松谷化学工業株式会社製)と水とを表1の割合で配合し、難消化性デキストリンを水に完全に溶解させた後、トレイに入れ、常法により凍結真空乾燥を行った。乾燥状態及び顆粒の強度について、以下の評価を行った。
乾燥状態については、乾燥直後の状態を評価し、キューブ状の形状であるものを○、発泡してキューブ状の形状を成していなものを×とし、強度については、乾燥後に粉砕し、ふるいを用いて、8メッシュ(公称目開き2.36mmのふるい)パス42メッシュ(公称目開き355μmのふるい)オンさせて、得た多孔質顆粒について、指で軽く押しても壊れないものは○、壊れ易いものは×とし、結果を表1に示した。
表1に示したように、難消化性デキストリン10%と水90%の配合割合では、顆粒としての強度が不十分で、また、難消化性デキストリン40%と水60%の配合割合では、キューブ状の乾燥物が得られなかったのに対し、難消化性デキストリン15~30%を含む水溶液を凍結真空乾燥した場合は、乾燥状態に問題はなく、さらに強度を有する顆粒が得られることが分かった。尚、難消化性デキストリンの配合割合が40%以上の場合は溶液中の固形分割合が高過ぎるために、凍結がうまくいかず、乾燥時に発泡してしまうことで、キューブ状の乾燥物が得られなかったと考えられる。
難消化性デキストリン15~30%を含む水溶液を凍結真空乾燥して粉砕し、篩別して得られた多孔質顆粒について、それぞれゆるめ嵩密度を測定したところ、難消化性デキストリン15%配合:0.13g/mL、難消化性デキストリン20%配合:0.24g/mL、難消化性デキストリン25%配合:0.32g/mL、難消化性デキストリン30%配合:0.41g/mLだった。