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  • 特開-光ファイバ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137564
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G02B6/02 451
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023063738
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】502191550
【氏名又は名称】フォトニックサイエンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117961
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 昌
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小林 壮一
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 直樹
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AF04
2H250AF12
2H250AF23
2H250AF37
2H250AH14
2H250AH42
(57)【要約】
【課題】本開示では、単一の光ファイバによって誘導ラマンを抑制した伝送が可能な高出力光ファイバを提供することを目的とする。
【解決手段】本開示は、クラッド内に複数の空孔が形成されている光ファイバであって、前記光ファイバの中心軸に配置され、空孔の存在しないコア領域と、前記コア領域の周囲に配置され、第1の空孔間隔で空孔が配列されている内側層と、前記内側層の周囲に配置され、前記第1の空孔間隔よりも狭い第2の空孔間隔で空孔が配列されている外側層と、を備え、前記複数の空孔は一定の空孔直径を有し、前記コア領域が誘導ラマン散乱の抑制可能な面積を有する、光ファイバである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド内に複数の空孔が形成されている光ファイバであって、
前記光ファイバの中心軸に配置され、空孔の存在しないコア領域と、
前記コア領域の周囲に配置され、第1の空孔間隔で空孔が配列されている内側層と、
前記内側層の周囲に配置され、前記第1の空孔間隔よりも狭い第2の空孔間隔で空孔が配列されている外側層と、
を備え、
前記複数の空孔は一定の空孔直径を有し、
前記コア領域が誘導ラマン散乱の抑制可能な面積を有する、
光ファイバ。
【請求項2】
前記複数の空孔の空孔配列が、前記光ファイバの中心軸を中心とする六角形の形状を有する、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記外側層の数が前記内側層の数よりも少なく、
前記第2の空孔間隔が前記第1の空孔間隔の1/2以下である、
請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記面積は、前記光ファイバを伝送する光パワーで定められ、
前記面積によって、前記光ファイバにおいて最も中心軸に近い位置に配置されている第1層の空孔の空孔間隔が定められる、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
設定された光パワーの光を100m伝送したときの伝搬損失が0.5dB/km以下である、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバの設計方法であって、
コンピュータが、前記コア領域が誘導ラマン散乱の抑制可能な面積になるように、前記空孔直径、前記第1の空孔間隔及び前記内側層の数の組み合わせを算出し、
コンピュータが、設定されたファイバ長において伝搬損失が所望の値未満になるように、前記第2の空孔間隔及び前記外側層の数を算出する、
光ファイバの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファイバレーザ用の高出力光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザ用の高出力光ファイバが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、高出力化に伴って発生する誘導ラマン散乱を抑制するために、ラマン散乱光の波長が含まれないバンドギャップになるように、石英コアの周囲に複数の空孔を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-129886号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G. P. Agrawal, “Nonlinear Fiber Optics, Fourth Ed.,” (Academic Press,2007)
【非特許文献2】T.P.White et al., J. Opt. Soc. Am. B, 19, 2322 (2002).
【非特許文献3】A.B.Fallakhair et al., J. Lightwave Tech., 26 1423 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、光ファイバの光伝送路の途中に、非線形光学効果によって発生する誘導ラマン散乱を抑制するためのフォトニックバンドギャップファイバを接続する。このため、特許文献1では、フォトニックバンドギャップファイバの接続損失によって伝搬損失が増加してしまう問題がある。
【0006】
そこで、本開示では、単一の光ファイバによって誘導ラマン散乱を抑制した伝送が可能な高出力光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の高出力光ファイバは、
クラッド内に複数の空孔が形成されている光ファイバであって、
前記光ファイバの中心軸に配置され、空孔の存在しないコア領域と、
前記コア領域の周囲に配置され、第1の空孔間隔で空孔が配列されている内側層と、
前記内側層の周囲に配置され、前記第1の空孔間隔よりも狭い第2の空孔間隔で空孔が配列されている外側層と、
を備え、
前記複数の空孔は一定の空孔直径を有し、
前記コア領域が誘導ラマン散乱の抑制可能な面積を有する。
【0008】
前記複数の空孔の空孔配列が、前記光ファイバの中心軸を中心とする六角形の形状を有していてもよい。
【0009】
前記外側層の数が前記内側層の数よりも少なく、前記第2の空孔間隔が前記第1の空孔間隔の1/2以下であってもよい。
【0010】
前記面積は、前記光ファイバを伝送する光パワーで定められ、前記面積によって、前記光ファイバにおいて最も中心軸に近い位置に配置されている第1層の空孔の空孔間隔が定められてもよい。
【0011】
本開示の光ファイバは、設定された光パワーの光を100m伝送したときの伝搬損失が0.5dB/km以下である。
【0012】
本開示の光ファイバの設計方法は、本開示の高出力光ファイバの設計方法であって、
コンピュータが、前記コア領域が誘導ラマン散乱の抑制可能な面積になるように、前記空孔直径、前記第1の空孔間隔及び前記内側層の数の組み合わせを算出し、
コンピュータが、設定されたファイバ長において伝搬損失が所望の値未満になるように、前記第2の空孔間隔及び前記外側層の数を算出する。
【0013】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、単一の光ファイバによって誘導ラマン散乱を抑制した伝送が可能な高出力光ファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の光ファイバの断面構造一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
図1に、本開示の高出力光ファイバの本実施形態を示す。本実施形態の高出力光ファイバは、クラッド11内に複数の空孔12が形成されている光ファイバであって、空孔12の存在しないコア領域Aeffが中心に備わる。複数の空孔12の空孔直径は一定である。コア領域Aeffは光ファイバの中心軸に配置されている。
【0018】
本開示では、複数の空孔12の空孔配列が、光ファイバの中心軸を中心とする六角形の形状を有する六角構造空孔配列を採用している。このため、コア領域Aeffには、光ファイバの中心軸を中心に6つの空孔12が第1の空孔間隔Λで配置されている。本開示は、この6つの空孔12で形成されるコア領域Aeffが、誘導ラマン散乱の抑制可能な面積を有する。
【0019】
また、本実施形態では、コア領域Aeffの周囲に配置されている内側層と、内側層の周囲に配置されている外側層と、を備える。内側層は第1の空孔間隔Λで空孔12が配列され、外側層は前記第1の空孔間隔よりも狭い第2の空孔間隔Λで空孔12が配列されている。
【0020】
図1では、内側層が4層であり、外側層が2層であり、内側の第1層から順に、6個、12個、18個、24個、54個、60個の空孔12が配置されることにより、合計で174個の空孔12が配置されている例を示す。
【0021】
光ファイバの外径は、機械強度を考慮し、500μm以内である。光ファイバ長Lは任意であるが、伝送損失を算出するにあたり、L=100mとした。この100m伝送において伝搬損失を0.5dB/km未満にすることが望ましい。そこで、本実施形態では、光パワーPcが6kWのハイパワー光を伝送する際に、この条件を満たす光ファイバ構造を開示する。
【0022】
本開示の光ファイバの設計方法は、クラッド11内に複数の空孔12が形成されている光ファイバの設計方法であって、
コンピュータが、コア領域Aeffが誘導ラマン散乱の抑制可能な面積になるように、空孔直径、第1の空孔間隔Λ及び内側層の数の組み合わせを算出する第1の手順と、
コンピュータが、設定されたファイバ長Lにおいて伝搬損失が所望の値(0.5dB/km)未満になるように、第2の空孔間隔Λ及び外側層の数を算出する第2の手順と、
を備える。
【0023】
本開示の一態様においては、コア領域Aeffが誘導ラマン散乱の抑制可能な面積になり、かつ設定されたファイバ長Lにおいて伝搬損失が所望の値(0.5dB/km)未満になるまで、前記第1の手順及び前記第2の手順を繰り返してもよい。
【0024】
本実施形態では、光ファイバが石英ガラスで作製され、光の波長を1.08μmとして、そのラマン利得係数をg=1×10-11[cm/W]とした(例えば、非特許文献1参照。)。この条件下で誘導ラマン散乱の発生を抑制するためには、次式を満たすコア領域Aeffの面積を設定すればよい。
【数1】
【0025】
式(1)より、コア領域Aeffの面積が3750μmよりも大きければ、誘導ラマン散乱が抑制される。この条件下で伝搬損失を0.5dB/km未満にすることができる光ファイバ構造を算出した。与えられた光ファイバ構造におけるコア領域Aeffの面積及び伝搬損失は、例えば、マルチポール法(例えば、非特許文献2参照。)及び有限差分法(例えば、非特許文献3参照。)を用いて算出することができる。
【0026】
様々な光ファイバ構造を試した結果、空孔直径を2.8868μmとし、第1層から第4層までの第1の空孔間隔Λを28.686μmとすることで、コア領域Aeffの面積を3881μmにすることができた。そして、第5層から第6層の第2の空孔間隔Λを、第1の空孔間隔Λの1/2である14.343μmとすることで、伝搬損失を0.5dB/kmよりも小さい0.38dB/kmにすることができた。
【0027】
上述の実施形態では、第1の空孔間隔Λが28.686μmである例を示したが、第1の空孔間隔Λが28.686μm近傍であっても、本実施形態と同様の効果が得られる。また、第2の空孔間隔Λは、第1の空孔間隔Λの1/2よりも小さくしても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0028】
また、空孔直径及び第1の空孔間隔Λの組み合わせは、コア領域Aeffの面積が3750μmよりも大きくなる任意の組み合わせを採用することができる。
【0029】
また、上述の実施形態では内側層が4層かつ外側層が2層であり、第2の空孔間隔Λが第1の空孔間隔Λの1/2である例を示したが、本開示はこれに限定されない。例えば、第2の空孔間隔Λは、外側層の数を3層以上にすることによって、第1の空孔間隔Λの1/2よりも大きくしてもよい。
【0030】
また上述の実施形態では光の波長が1.08μmであり、空孔配列が六角形である例を示したが、本開示はこれに限定されない。光ファイバ構造における空孔配列、空孔直径、空孔間隔、内側層及び外側層の数などを調整することで、ファイバレーザなどの高出力用途に用いられる任意の波長に適用可能である。
【0031】
以上説明したように、本開示は、6kWの光を100m伝送したときの伝搬損失を0.5dB/km以下にすることができるため、単一の光ファイバによって誘導ラマンを抑制した伝送が可能な高出力光ファイバを提供することができる。
【0032】
本開示においてはPc=6kWかつL=100mの例を示したが、これらのパラメータは本開示の一例であり、任意に設定が可能であり、設定に応じた光ファイバ構造を算出しうる。
【符号の説明】
【0033】
11:クラッド
12:空孔
図1