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  • 特開-納豆菌発酵液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137569
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】納豆菌発酵液
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023063744
(22)【出願日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】菅 美里
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA19X
4B065BB15
4B065BB29
4B065BC05
4B065BD08
4B065BD10
4B065CA10
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】 利用し易い納豆菌発酵液及びその製造方法、並びに納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法を提供するものである。
【解決手段】 グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地で好気的に発酵させることで、利用し易い納豆菌発酵液が製造できることを見出し、本発明に至った。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地で好気的に発酵させた納豆菌発酵液であって、グルコースを0.95重量%以上含む納豆菌発酵液。
【請求項2】
発酵臭が抑制された、請求項1記載の納豆菌発酵液。
【請求項3】
イソ吉草酸が100ppm以下である、請求項1又は2記載の納豆菌発酵液。
【請求項4】
請求項1又は2記載の納豆菌発酵液の乾燥物。
【請求項5】
グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地に納豆菌を接種して好気的に発酵させ、培地中にグルコースが0.95重量%以上残存する状態で発酵終了する、納豆菌発酵液の製造方法。
【請求項6】
発酵臭が抑制された納豆菌発酵液を製造する、請求項5記載の納豆菌発酵液の製造方法。
【請求項7】
培地中のイソ吉草酸が100ppm以下である状態で発酵終了する、請求項5又は6記載の納豆菌発酵液の製造方法。
【請求項8】
グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地に納豆菌を接種して好気的に発酵させ、培地中にグルコースが0.95重量%以上残存する状態で発酵終了する、納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法。
【請求項9】
培地中のイソ吉草酸が100ppm以下である状態で発酵終了する、請求項8記載の納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆菌発酵液及びその製造方法、並びに納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆菌(バチルス・サブチリス)は、古くから納豆の製造に利用されている微生物であり、納豆菌の摂取によって免疫賦活、整腸、睡眠改善等の健康効果がもたらされることが報告されている。
【0003】
一方、納豆菌を用いた発酵食品は、納豆菌が発酵時に産生するイソ吉草酸等の不快な臭い成分を含有していることが多く、臭いのために食品としての汎用性が低いという問題がある。
【0004】
そこで、納豆菌を用いた発酵食品の臭いを低減する方法が検討されており、例えば、納豆の発酵前に添加された1,5-D-アンヒドロフルクトースを含む納豆(特許文献1)の他、納豆製造方法において、フルクトースポリマーを大豆へ添加する工程を含むことを特徴とする、アンモニア臭及びムレ臭が少なく、かつ、糸引きのよい納豆の製造方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5561579号公報
【特許文献2】特開2005-333856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、利用し易い納豆菌発酵液及びその製造方法、並びに納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地で好気的に発酵させることで、利用し易い納豆菌発酵液が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]の態様に関する。
[1]グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地で好気的に発酵させた納豆菌発酵液であって、グルコースを0.95重量%以上含む納豆菌発酵液。
[2]発酵臭が抑制された、[1]に記載の納豆菌発酵液。
[3]イソ吉草酸が100ppm以下である、[1]又は[2]に記載の納豆菌発酵液。
[4][1]~[3]の何れかに記載の納豆菌発酵液の乾燥物。
[5]グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地に納豆菌を接種して好気的に発酵させ、培地中にグルコースが0.95重量%以上残存する状態で発酵終了する、納豆菌発酵液の製造方法。
[6]発酵臭が抑制された納豆菌発酵液を製造する、[5]に記載の納豆菌発酵液の製造方法。
[7]培地中のイソ吉草酸が100ppm以下である状態で発酵終了する、[5]又は[6]に記載の納豆菌発酵液の製造方法。
[8]グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地に納豆菌を接種して好気的に発酵させ、培地中にグルコースが0.95重量%以上残存する状態で発酵終了する、納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法。
[9]培地中のイソ吉草酸が100ppm以下である状態で発酵終了する、[8]記載の納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、不快な発酵臭を抑えることで、利用し易く、汎用性の高い納豆菌発酵液及びその製造方法、並びに納豆菌発酵液の発酵臭抑制方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】納豆菌の培養において、17~24時間目にサンプリングした発酵液について測定したグルコース濃度、イソ吉草酸濃度、pH及び納豆菌菌体数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の納豆菌発酵液は、グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地で好気的に発酵させた納豆菌発酵液であって、グルコースを0.95重量%以上含む、好ましくは1.0重量%以上含む納豆菌発酵液で、発酵臭が抑制された納豆菌発酵液であるのが好ましく、イソ吉草酸が100ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下であり、不検出である納豆菌発酵液であるのが特に好ましい。該発酵液中の納豆菌の菌体数は特に限定されないが、10億個以上/gが好ましく、20億個以上/gがより好ましく、殺菌菌体として前記菌体数を含むのが好ましい。
【0012】
本発明に記載の納豆菌は、納豆から単離された菌株を指し、バチルス・サブチリスNBRC3009、バチルス・サブチリスNBRC3013、バチルス・サブチリスNBRC3335、バチルス・サブチリスNBRC13169等の納豆菌が好ましく、独立行政法人製品評価技術基盤機構等から入手することができ、芽胞形成能欠損株が好ましい。
【0013】
前記芽胞形成能欠損株は、遺伝子組換えによる方法、突然変異による方法等により変異させることで得られるが、自然突然変異による方法が好ましい。自然突然変異による芽胞形成能欠損株の取得方法は、特に限定されず、高温培養法や、野生株と欠損株のコロニーのメラニン色素の着色により識別するランダム法、異化代謝産物抑制(Catabolite repression)様現象を利用した方法(J.F.Michel,B.Cami,P.Schaeffer:Ann.Inst.Pasteur,114,11;21(1968))が例示できるが、異化代謝産物抑制様現象を利用した方法が好ましい(特許第6019528号公報参照)。異化代謝産物抑制様現象を利用する方法により得られる芽胞形成能欠損株は、芽胞形成能と供にリゾチーム活性及び形質転換能が欠損しているため、溶菌による問題がなく継代することができ、芽胞形成能欠損という形質を維持することができる。芽胞形成能欠損株を使用すれば、100℃以下の穏和な殺菌条件で殺菌できるため、芽胞形成株で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができ、各種食品への添加や製剤化が容易となる。
【0014】
本発明で使用する液体培地は、グルコースを構成糖とする糖質を含んでいればよく、グルコースを構成糖とする糖質としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉等の糖類、マルチトール等の糖アルコールが例示でき、黒糖、蜂蜜、水あめ、糖蜜等、二種以上の糖質を含有する糖質でもよく、1種又は2種以上の前記糖質を使用してもよい。その他、納豆菌が増殖できる成分を含む液体であればよく、窒素源、無機物等が溶解した液体培地が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が例示でき、天然物中に含まれる成分を利用できる。
【0015】
本発明における発酵条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的に液体発酵すればよく、発酵温度は例えば10~50℃が例示でき、20~45℃が好ましく、pHは例えば4.0~9.0が例示でき、5.0~8.5が好ましい。発酵中に例えば前記範囲でpH調整をしてもよく、pH5.5~8.0の範囲に調整するのが好ましく、6.0~7.5の範囲に調整するのがより好ましく、pH調整は、クエン酸等の有機酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いることができる。発酵時間は、発酵終了時に培地中のグルコースが0.95重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上残存していれば特に限定されないが、例えば2~36時間が例示でき、4~24時間が好ましく、6~20時間がより好ましい。
【0016】
本発明では、グルコースを構成糖とする糖質を含む液体培地に納豆菌を接種して好気的に発酵させ、培地中にグルコースが0.95重量%以上、好ましくは1.0重量%以上残存する状態、また、好ましくはイソ吉草酸が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下であり、特に好ましくは不検出である状態で、発酵終了することにより、納豆菌発酵液を製造することができ、また、納豆菌発酵液の発酵臭を抑制することができる。
【0017】
本発明において、発酵後、加熱により殺菌するのが好ましく、加熱条件は、一般的な殺菌方法であれば特に限定されないが、例えば70~150℃が例示でき、加熱時間は1~60分間が例示できる。なお、納豆菌の芽胞形成能欠損株の殺菌菌体を得る場合の加熱温度は、100℃以下でよく、70~100℃が好ましい。60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。
【0018】
納豆菌発酵液は、常法により濃縮機等で処理して濃縮物として用いてもよく、乾燥して乾燥物として用いてもよい。乾燥方法は、特に限定されず、公知の手段を用いて乾燥することができる。乾燥方法としては、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等の公知の手段を用いることができる。また、デキストリン等の賦形剤を添加して乾燥してもよい。さらに、乾燥により得られたものを粉砕後、粉末等として用いてもよく、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0019】
本発明の納豆菌発酵液又はその乾燥物は、各種飲食品に添加することで、納豆菌発酵物含有飲食品が得られる。本発明の納豆菌発酵液又はその乾燥物は、汎用性が高いため、各種飲食品に添加が可能で、液体で添加してもよく、乾燥品を添加してもよい。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、飼料等にも利用できる。各種製品中の納豆菌発酵液又はその乾燥物の含有量は、特に限定されないが、固形分として0.001~80重量%が好ましく、0.005~60重量%がより好ましく、0.01~50重量%がさらに好ましい。
【実施例0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0021】
[調製]
納豆菌の一種であるバチルス・サブチリスNBRC3335又はNBRC13169から、異化代謝産物抑制様現象を利用した自然突然変異により、芽胞形成能が欠損した納豆
得た。尚、異化代謝産物抑制様現象を利用した自然突然変異は、特許第6019528号公報の実施例に記載の方法で行い、該公報に記載の方法で芽胞形成能が欠損した株であることを確認した。
【実施例0022】
200mL容バッフル付き三角フラスコに、糖質として黒糖5g(10%)、窒素源として酵母エキス(ミーストP1G、アサヒビール食品社製)0.5g(1%)、総量が50gとなるように水道水を加えて溶解させた後、121℃で15分間加熱処理した。次い
を行った後、90℃で10分間加熱殺菌処理することで黒糖納豆菌発酵液(実施品1-1又は1-2)を得た。
【0023】
[比較例1]
1と同様に実施し、黒糖納豆菌発酵液(比較品1-1又は1-2)を得た。
【0024】
[評価試験1]
実施品1-1及び1-2、並びに比較品1-1及び1-2の各黒糖納豆菌発酵液について、納豆菌菌体(殺菌)数(バクテリア計算盤)、グルコース(糖質)濃度(グルコースCII-テストワコー)、イソ吉草酸濃度(下記HPLC条件)を測定した。また、各黒糖納豆菌発酵液をそれぞれ水道水に1%添加して、発酵臭の強さを官能評価した。以上の結果を表1に示す。
【0025】
<HPLC測定条件>
・検出器:蛍光検出器(励起波長:365nm、蛍光波長412nm)
・カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
・蛍光標識:ADAMを用いたプレカラム法
・移動相:80容量%アセトニトリル水溶液
・流速:1.0ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:イソ吉草酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)をメタノールで溶解して、検量線を作成した。
【0026】
【表1】
【0027】
グルコース(糖質)が残存するように発酵させた実施品1-1及び1-2の黒糖納豆菌発酵液は、イソ吉草酸が検出されず、発酵臭がほとんど感じられないものであった。一方、発酵後のグルコース(糖質)が検出されなかった比較品1-1及び1-2の黒糖納豆菌発酵液では、イソ吉草酸濃度が400ppmを超えており、強い発酵臭を放っていた。
【実施例0028】
2L容ジャーファーメンターに、糖質として黒糖144g(12%)(実施例2-1)又は180g(15%)(実施例2-2)、窒素源として酵母エキス60g(5%)、総量が1200gとなるように水道水を加えて溶解させた後、121℃で15分間加熱処理し
7℃、pH6.5(水酸化ナトリウム)、通気攪拌条件下で22時間発酵を行った後、90℃で10分間加熱殺菌処理することで黒糖納豆菌発酵液(実施品2-1又は2-2)を得た。
【0029】
[比較例2]
黒糖60g(5%)(比較例2-1)又は120g(10%)(比較例2-2)を使用する以外は、実施例2と同様に実施し、黒糖納豆菌発酵液(比較品2-1又は2-2)を得た。
【0030】
[評価試験2]
実施品2-1及び2-2、並びに比較品2-1及び2-2の各黒糖納豆菌発酵液について、評価試験1と同様の評価を実施し、結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
グルコース(糖質)が残存するように発酵させた実施品2-1及び2-2の黒糖納豆菌発酵液は、イソ吉草酸が検出されず、発酵臭がほとんど感じられないものであった。一方、発酵後のグルコース(糖質)が検出されなかった比較品2-1及び2-2の黒糖納豆菌発酵液では、イソ吉草酸濃度が300ppmを超えており、強い発酵臭を放っていた。
【実施例0033】
2L容ジャーファーメンターに、糖質としてスクロース120g(10%)、窒素源として酵母エキス60g(5%)、総量が1200gとなるように水道水を加えて溶解させた後、121℃で15分間加熱処理した。次いで、納豆菌として前記調製で得たNBRC
件下で培養し、17~24時間目に各5mLサンプリングして、pHを測定すると共に、前記の方法で、グルコース濃度及びイソ吉草酸濃度を測定した。また、18、20、22及び24時間目の発酵液1gあたり納豆菌菌体(殺菌)数を測定した。結果を表3及び図1に示す。尚、“不検出”について、グラフ上では“0”として表した。
【0034】
【表3】
【0035】
表3及び図1が示すように、グルコース濃度が0.9%以下になるとイソ吉草酸が検出されるようになり、また、発酵臭も感じられた。
図1