(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013759
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】透水係数パラメータ同定補助装置、透水係数パラメータ同定補助方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20240125BHJP
G01V 9/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
G01V9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116101
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 尚彦
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105GG06
2G105LL07
2G105LL09
(57)【要約】
【課題】水理地質解析モデルを修正した方がよい状況であるか否かを把握する。
【解決手段】トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データと、掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報と、透水係数を含む水理パラメータとを取り込み、前記トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析を行い、前記3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、前記観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定し、この判定結果に基づいて、前記第1許容値に収まっていない場合に、前記第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定し、この判定結果に基づいて、前記第1管理値を超えている場合に、地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データを取得する観測データ取得部と、
掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報を取得する現場条件取得部と、
透水係数を含む水理パラメータを記憶する水理パラメータ記憶部と、
前記観測データと前記現場条件設定情報と水理パラメータとを取り込み、前記トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析を行う3次元浸透流解析部と、
を有する地下水場予測システムに用いられる透水係数パラメータ同定補助装置であり、
前記3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、前記観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定する第1判定部と、
前記第1判定部の判定結果に基づいて、前記第1許容値に収まっていない場合に、前記第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定する第2判定部と、
前記第2判定部の判定結果に基づいて、前記第1管理値を超えている場合に、前記地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力するメッセージ出力部
を有する透水係数パラメータ同定補助装置。
【請求項2】
メッセージ出力部は、
前記第2判定部の判定結果に基づいて、前記第1管理値を超えていない場合に、前記観測データが増えると前記湧水量の予測結果の再現性が高まる可能性があることを表すメッセージを出力する
請求項1に記載の透水係数パラメータ同定補助装置。
【請求項3】
前記第1判定部の判定結果に基づいて、前記第1許容値に収まっている場合に、前記3次元浸透流解析に用いられた透水係数が、第2許容値に収まっている期間が第2管理値を超えている場合には、前記第2管理値に応じた期間における透水係数の平均値を求め、求められた透水係数の平均値を、前記3次元浸透流解析が行われた前記地質モデルにおける地質の透水係数の初期分布における正規分布の平均値として設定し、設定した透水係数を固定するための正規ノイズの標準偏差を設定するデータ設定部
を有する請求項1または請求項2に記載の透水係数パラメータ同定補助装置。
【請求項4】
コンピュータにより実行される透水係数パラメータ同定補助方法であって、
トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データを取得し、
掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報を取得し、
前記観測データと、前記現場条件設定情報と、透水係数を含む水理パラメータを記憶する水理パラメータ記憶部に記憶された水理パラメータとを取り込み、前記トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析が行われることに応じて、
前記3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、前記観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定し、
前記判定された結果に基づいて、前記第1許容値に収まっていない場合に、前記第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定し、
前記判定された結果に基づいて、前記第1管理値を超えている場合に、前記地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力する
透水係数パラメータ同定補助方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水係数パラメータ同定補助装置、透水係数パラメータ同定補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルを掘削する場合、トンネル湧水量やトンネル地山の地下水環境を予測するために、地下水解析が行われる場合がある。地下水解析においては、地質調査などを基にして水理地質モデルを作成し、有限要素法などの手法を用いて3次元の浸透流解析が行われる。地下水解析を実施するには、複雑な水理地質モデルの作成、再現解析・予測解析の技術的な評価や解析条件の見直しなど、専門技術者の高度な知識や技術を必要とし、またモデルの作成と解析そのものに多大な時間と労力を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような課題を解決する方法の一つとして、3次元浸透流解析とデータ同化手法を組み合わせて、観測データ取得から予測解析の結果出力までの一連を自動で行う地下水場予測システムを用いることが考えられる。このような地下水場予測システムの計算プログラムでは、トンネル掘削中の切羽湧水量などの観測データとデータ同化手法を使用して各地質の透水係数や比貯留係数などのパラメータを同定して、今後掘削することで生じる坑内湧水や水位低下などを予測することができる。
しかしながら、このような地下水場予測システムでは、データ同化により観測データを再現できるような各地質の透水係数などのパラメータを同定することとなるが、掘削中の地質における湧水量の観測データを使用していても、観測データの再現がうまくできない場合も起こりうる。そのような場合は、観測データが増えることでパラメータを同定できることもあるが、3次元浸透流解析で使用している水理地質解析モデルの精度が不十分であることに起因して、観測データが増えても再現できない場合がある。このような場合、水理地質解析モデルの修正した方がよい状況であるか否かを把握できることが望ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、水理地質解析モデルを修正した方がよい状況であるか否かを把握することができる透水係数パラメータ同定補助装置、透水係数パラメータ同定補助方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データを取得する観測データ取得部と、掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報を取得する現場条件取得部と、透水係数を含む水理パラメータを記憶する水理パラメータ記憶部と、前記観測データと前記現場条件設定情報と水理パラメータとを取り込み、前記トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析を行う3次元浸透流解析部と、を有する地下水場予測システムに用いられる透水係数パラメータ同定補助装置であり、前記3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、前記観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定する第1判定部と、前記第1判定部の判定結果に基づいて、前記第1許容値に収まっていない場合に、前記第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定する第2判定部と、前記第2判定部の判定結果に基づいて、前記第1管理値を超えている場合に、前記地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力するメッセージ出力部を有する透水係数パラメータ同定補助装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、コンピュータにより実行される透水係数パラメータ同定補助方法であって、トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データを取得し、掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報を取得し、前記観測データと、前記現場条件設定情報と、透水係数を含む水理パラメータを記憶する水理パラメータ記憶部に記憶された水理パラメータとを取り込み、前記トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析が行われることに応じて、前記3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、前記観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定し、前記判定された結果に基づいて、前記第1許容値に収まっていない場合に、前記第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定し、前記判定された結果に基づいて、前記第1管理値を超えている場合に、前記地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力する透水係数パラメータ同定補助方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、この発明によれば、水理地質解析モデルを修正した方がよい状況であるか否かを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の一実施形態による地下水場予測システムSの構成を示す概略ブロック図である。
【
図2】地下水場予測システムSにおける透水係数パラメータ同定補助システムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態による地下水場予測システムについて図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施形態による地下水場予測システムSの構成を示す概略ブロック図である。
地下水場予測システムSは、現場端末1と、クラウドサーバ2と、大規模並列計算機3を含む。
【0011】
〈現場端末1の構成〉
現場端末1は、インターネット等のネットワークを介してクラウドサーバ2と通信可能に接続される。現場端末1は、例えば、コンピュータである。
現場端末1は、トンネルの掘削工事を行う現場の現場事務所に設けられる。現場端末1は、クラウドサーバ2と通信する通信機能、現場端末1の各部を制御する制御部等を有する。これら機能の他に、現場端末1は、観測データ取得部11と、観測データ補完部12と、現場条件取得部13と、表示部14とを有する。
【0012】
観測データ取得部11は、トンネルの切羽に生じる湧水量を測定した測定結果を少なくとも含む観測データを取得する。
トンネルの掘削工事が行われる現場には、観測装置が設けられる。観測装置は、観測場所において観測項目に応じた観測を行い、観測された結果である観測データを出力する。
トンネルの掘削工事は、日々行われる。この掘削工事が行われることに応じて、その日に測定された観測データが、日毎(あるいは数時間毎)に、観測された日時を示す日時データを含むデータとして観測装置から出力される。観測データ取得部11は、観測装置から観測データが出力される毎に、日時データが含まれる観測データを取得する。
観測データの観測項目は、例えば、切羽付近における坑内湧水量、既掘削区間における坑内湧水量、観測孔地下水位、降水量等である。
観測データの一つである坑内湧水量は、切羽付近のみの湧水量、既掘削区間の全体湧水量等がある。観測データ取得部11は、現場の測定状況等に応じて、切羽付近のみの湧水量と既掘削区間の全体湧水量とのうち、少なくともいずれか一方を取得できればよく、両方を取得してもよい。
【0013】
観測データ補完部12は、観測データに欠損値や異常値があるかを判定し、欠損値や異常値があると判定された場合には、欠損値や異常値を抽出し、それらのデータに対して、データの除去や前回得られた観測データを用いたデータの補完などの補正処理を行う。
【0014】
現場条件取得部13は、掘削区間を示す切羽の位置を少なくとも含む現場条件設定情報を取得する。
【0015】
表示部14は、大規模並列計算機3から出力された3次元浸透流解析の結果を通信機能によって受信し、表示画面に表示する。
【0016】
〈クラウドサーバ2の構成〉
クラウドサーバ2は、現場端末1に通信可能に接続されるとともに、ネットワークを介して大規模並列計算機3と通信可能に接続される。クラウドサーバ2は、例えば、インターネット上に構築された少なくとも1台のサーバ装置によって構成される。
クラウドサーバ2は、現場端末1との通信や大規模並列計算機3との通信を行う通信機能を有する。また、クラウドサーバ2は、解析用データ記憶部21、データ管理部22、水理パラメータ設定部23、予測結果記憶部24を有する。
【0017】
解析用データ記憶部21は、3次元浸透流解析を行うために用いる解析用データを記憶する。解析用データは、例えば、観測データ、現場条件設定情報、水理パラメータ、地質モデル、解析モデル、解析条件等を含む。
【0018】
観測データは、観測データ取得部11によって取得された観測データである。
現場条件設定情報は、現場条件取得部13によって取得された現場条件設定情報である。
水理パラメータは、透水係数、降雨浸透率(涵養量)、比貯留係数、水分特性曲線、比透水係数、間隙率等を含む。この水理パラメータにおいて、透水係数、降雨浸透率(涵養量)、比貯留係数について、同定する対象のパラメータとすることができる。ここでは、これらのパラメータのうち、一例として透水係数を同定する場合について説明する。
透水係数は、水が土壌や岩石を通過する際の水の通りやすさの度合いを表す係数である。
降雨浸透率(涵養量)は、降った雨が地下に浸透する能力を表す指標である。
比貯留係数は、地盤中において地下水位の変動が生じた際に単位体積当りの土塊から排出あるいは吸入される水量を表すものであり、比貯留係数が大きい地盤ほど水位変動に伴う地下水の排出量あるいは吸入量が大きいことを意味するものである。
水分特性曲線は、保水性を表すデータである。
比透水係数は、飽和透水係数に対する不飽和透水係数の比であり、体積含水率との関係によって解析に導入される。前記の水分特性曲線および比透水係数と体積間隙率の関係は、飽和-不飽和浸透流解析の入力データとして必要となる不飽和浸透特性である。
間隙率は、岩盤に存在する粒子間の空隙や割れ目等の度合いを表す。
体積含水率は、物質の体積に対する水分の体積の比率である。
【0019】
地質モデルは、施工対象のトンネルを掘削する際の地山の地質構造を表す3次元地質モデルである。地質モデルは、例えば、施工対象のトンネルを掘削する地山について地質調査を行った結果等を利用して作成される。3次元地質モデルには例えば複数の地層を表すモデルが含まれており、各地層に相当する要素には、岩盤(地盤)の浸透特性に基づいて、この地層に対応する物性値(例えば、透水係数など物性値)が割り当てられる。ここで、地層を構成する構成物には、その構成物の種類に応じた透水係数がある。このような透水係数は、構成物の種類毎に、典型的な値の範囲があることが知られている。地下水場予測システムSは、再現条件として入力された岩盤(地盤)の浸透特性に基づいて、透水係数の典型的な値の範囲を基に、三次元地質モデルにおける各地層に相当する要素に対して透水係数を割り当てる。この透水係数を適切に割り当てることで、高い精度で湧水量を求めることができる。透水係数は、同定するパラメータであり、予測解析を行うことを繰り返すことで、大規模並列計算機3においてパラメータの修正がなされ、より適切な値に近づくように更新される。
解析モデルは、観測データとして得られた観測結果を再現するためのモデルである。解析モデルは、例えば、地質モデルに対する解析メッシュが付与され、地質モデルにおける各岩盤に対して透水係数が割り当てられたモデルである。
解析条件は、解析するために与えられる各種条件である。
【0020】
データ管理部22は、現場端末1から得られる観測データや現場条件設定情報を取得し、解析用データ記憶部21に書き込む。データ管理部22は、現場端末1から観測データが得られると、観測データを、当該観測データが観測された日時とともに解析用データ記憶部21に書き込む。
また、データ管理部22は、各種情報を外部から取り込み、解析用データ記憶部21に書き込む。
水理パラメータ設定部23は、水理パラメータを解析用データ記憶部21に書き込む。
【0021】
予測結果記憶部24は、大規模並列計算機3から予測結果を取得して記憶する。
【0022】
解析用データ記憶部21、予測結果記憶部24は、それぞれ、記憶媒体、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only
Memory)、RAM(Random Access read/write Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。解析用データ記憶部21、予測結果記憶部24は、例えば、不揮発性メモリを用いることができる。
【0023】
〈大規模並列計算機3の構成〉
大規模並列計算機3は、クラウドサーバ2と通信を行う通信機能を有する。
大規模並列計算機3は、データ取得部31と、3次元浸透流解析部32と、データ同化処理部33と、解析結果出力部34と、第1判定部35と、第2判定部36と、メッセージ出力部37と、データ設定部38を有する。
【0024】
データ取得部31は、大規模並列計算機3において3次元浸透流解析を行うために用いられる各種データをクラウドサーバ2から取得する。
例えばデータ取得部31は、掘削区間を示す切羽の位置を示すデータを取得する。
【0025】
3次元浸透流解析部32は、観測データと現場条件設定情報と水理パラメータとをクラウドサーバ2から取り込み、トンネルの近傍の地質モデルと解析モデルとに基づいて、3次元浸透流解析を行う。3次元浸透流解析は、一般に用いられている既存のシステム(ソフトウェア)を適用することができる。
【0026】
データ同化処理部33は、観測データ取得部11によって得られた観測データと、推定値(予測結果)を用い、観測データが反映された解析値を得ることでデータ同化処理を行う。データ同化処理部33は、観測データが得られると、データ同化処理を行う逐次データ同化手法に従って、データ同化処理を行う。
データ同化処理部33は、データ同化処理を行い、3次元浸透流解析の結果を出力するとともに、同定対象のパラメータ(例えば、透水係数、降雨浸透率(涵養量)、比貯留係数等)を更新し、更新後のパラメータを水理パラメータ記憶部に書き込んで更新する。
データ同化処理部33は、3次元浸透流解析の結果によって得られた予測結果と観測データとの差がある程度大きい場合には、その差が少なくなるように、また、予測結果と水理パラメータとの差がある程度大きい場合には、その差が少なくなるように、地質モデルと解析モデルとのうち少なくともいずれか一方を修正する。
データ同化処理部33は、データ同化で観測データを再現するために同定するパラメータは透水係数が基本となるが、坑内湧水量にも関与してくる降雨浸透率(涵養量)や比貯留係数などの複数パラメータの同定もできる機能を備えている。
データ同化処理部33は、データ同化処理を行うにあたり、アンサンブルカルマンフィルタによって、アンサンブルメンバーであるパラメータを用い、時間更新(シミュレーションによる予測)と観測更新(モデル修正)を逐次的に繰り返すことで、データ同化を行う。
【0027】
3次元浸透流解析部32やデータ同化処理部33の機能を実現する計算プログラムは、3次元浸透流解析と、計算コストが比較的小さい逐次データ同化手法を組み合わせたものとなっている。そして、この予測解析(計算プログラム)は大規模並列計算機を用いて実行できるようになっている。
【0028】
解析結果出力部34は、3次元浸透流解析が行われた解析結果を出力する。例えば解析結果出力部34は、解析結果をクラウドサーバ2に送信し、クラウドサーバ2の予測結果記憶部24に予測結果の書き込みを行わせる。
【0029】
大規模並列計算機3は、3次元浸透流解析部32による3次元浸透流解析処理と、データ同化処理部33によるデータ同化処理とを行うことができる。
【0030】
上述した地下水場予測システムSでは、観測データの取得から予測解析の結果の出力までの一連の処理を、自動で行うシステムとなっており、これにより、リアルタイムに予測を行うことができる。
一般に、地下水環境を予測することは、解析専門技術者の高度な知識・技能(たとえば、再現解析・予測解析結果の技術的評価、解析与条件の見直し方法など)を必要とし、さらには、多大な時間(例えば数日)を要する。上述した地下水場予測システムSによれば、3次元浸透流解析と、計算コストが比較的小さい逐次データ同化手法とを組み合わせ、これらの演算を大規模並列計算機3が行うことで、短時間で精度よく、観測データの再現と坑内湧水量や地下水位などの予測結果を得ることができるようになっている。これらにより、解析専門技術者の高度な知識や技術、判断を必要とせずに、予測解析を行うことが可能である。
【0031】
地下水場予測システムSが取得する観測データは、地下水場予測システムSにおける計算プログラムで扱えるデータであれば、どのようなデータにも対応である。また、観測データの異常値等を補完処理するチェックシステムが設けられていることから、精度の維持・向上が期待できる。
観測データの一つである坑内湧水量については、現場の測定状況等に応じて、切羽付近のみの湧水量と既掘削区間の全体湧水量のどちらでも対応できる計算プログラムとシステムとなっている。
また、地下水場予測システムSにおいて、予測解析時における同定するパラメータは、透水係数であるが、透水係数のみではなく、坑内湧水量にも関与してくる降雨浸透率(涵養量)や比貯留係数などの複数パラメータについての同定も可能となっている。
【0032】
第1判定部35は、3次元浸透流解析の結果を参照し、3次元浸透流解析の結果によって得られた湧水量と当該湧水量が得られた切羽の位置における観測データとの差が、観測データを基準にした第1許容値に収まっているか否かを判定する。
【0033】
第2判定部36は、第1判定部35の判定結果に基づいて、第1許容値に収まっていない場合に、第1許容値に収まっていない期間が第1管理値を超えているか否かを判定する。
【0034】
メッセージ出力部37は、第2判定部36の判定結果に基づいて、第1管理値を超えている場合に、地質モデルの修正を行うことを表すメッセージを出力する。メッセージ出力部37は、大規模並列計算機3にメッセージを出力することで、クラウドサーバ2を介して、現場端末1にメッセージを出力させることができる。
大規模並列計算機3と現場端末1が接続されている場合、メッセージ出力部37は、メッセージをクラウドサーバ2を介することなく、現場端末1に出力するようにしてもよい。
【0035】
また、メッセージ出力部37は、第2判定部36の判定結果に基づいて、第1管理値を超えていない場合に、観測データが増えると湧水量の予測結果の再現性が高まる可能性があることを表すメッセージを出力する。
【0036】
データ設定部38は、第1判定部35の判定結果に基づいて、第1許容値に収まっている場合に、3次元浸透流解析に用いられた透水係数が、第2許容値に収まっている期間が第2管理値を超えている場合には、第2管理値に応じた期間における透水係数の平均値を求め、求められた透水係数の平均値を、3次元浸透流解析が行われた地質モデルにおける地質の透水係数の初期分布における正規分布の平均値として設定し、設定した透水係数を固定するための正規ノイズの標準偏差を設定する。
【0037】
なお、大規模並列計算機3のうち、第1判定部35、第2判定部36、メッセージ出力部37を含む透水係数パラメータ同定補助装置として、大規模並列計算機3とは別の装置として設け、大規模並列計算機3に接続されるようにしてもよい。すなわち、大規模並列計算機3と透水係数パラメータ同定補助装置とを別の装置として分けて、大規模並列計算機3と透水係数パラメータ同定補助装置が連携するようにしてもよい。また、透水係数パラメータ同定補助装置には、データ設定部38を含むようにしてもよい。そして、透水係数パラメータ同定補助装置は、3次元浸透流解析が行われることに応じて、第1判定部35、第2判定部36、メッセージ出力部37、データ設定部38の機能を実行するようにしてもよい。
【0038】
次に、上述した地下水場予測システムSの動作を説明する。
図2は、地下水場予測システムSにおける透水係数パラメータ同定補助システムの動作を説明するフローチャートである。
この
図2に示すフローチャートを実行することにより、本実施形態では、掘削している箇所の地質の透水係数パラメータが同定できているかを自動的に判断することができる。
地下水場予測システムSは、観測データの取得から、データ、解析設定条件、モデル情報等の各情報の保存・引き渡し、データ同化予測解析、解析結果の出力・引継ぎなどの一連の予測解析を自動で行うことにより、リアルタイムに予測を行うことができる。
【0039】
現場端末1の観測データ取得部11は、観測装置から観測データを取得する(ステップS1)。観測データ取得部11は、複数の観測項目についてそれぞれ既存の計測装置等によって計測されると、その計測結果を自動的に(例えば計測装置から計測結果が出力される毎に)取得する。取得するデータは、例えば、切羽付近における坑内湧水量、既掘削区間における坑内湧水量、観測孔地下水位、降水量等である。
ここで、データ同化に使用する観測データは、計算プログラムで扱えるデータであればどのようなデータにも対応である。また観測データの一つである坑内湧水量については、切羽付近のみの湧水量と既掘削区間の全体湧水量のどちらでも対応できるような計算プログラムと予測システムとなっているため、現場の状況に合わせた対応が可能である。
【0040】
観測データ補完部12は、取得された観測データに欠損値や異常値があるかを判定し、欠損値や異常値があると判定された場合には、欠損値や異常値を抽出し、それらのデータに対して、データの除去や前回得られた観測データを用いたデータの補完などの補正処理を行う。欠損値は、値として得られるべき観測データが欠落している場合を示す。異常値は、観測項目において今回得られた観測データについて、過去に得られたデータに比べて極端に逸脱した値である。
観測データには、欠損値や異常値が含まれることがある。そのため、これらのデータをそのまま使用すると予測解析の結果に影響を及ぼす。そこで、観測データ補完部12が、取得された観測データについてチェックすることによって欠損値や異常値を抽出し、それらのデータに対して、データの除去や前回値による補完などの補正処理を行う。これにより、異常値等に引きずられないデータ同化が可能となり、精度を維持したまま予測が可能となる。また観測データ補完部12は補正処理を行うにあたり、補正処理の許容時間が超える場合には、エラー表示を出す機能を備えている。
【0041】
現場条件取得部13は、現場端末1の入力装置から入力される現場条件設定情報を取得する。現場端末1から入力される現場条件設定情報を表すデータには、少なくとも切羽位置(既掘削区間)が含まれていればよい。この切羽位置(既掘削区間)の情報が入力されれば、後述する3次元浸透流解析を行うことができ、これにより、坑内湧水量や地下水位などの予測結果を得ることができる。また、現場条件設定情報を表すデータには、何日先までという予測したい日数を含むようにすることができ、この場合、入力されたその日数までの予測結果を出すことも可能である。また、現場条件として、現場の地域の天気予報に基づく降水量の情報を入力することで、より精度の高い予測結果を出せるようになっている。
【0042】
データ管理部22は、現場端末1から得られる観測データや、現場条件設定情報、解析条件を解析用データ記憶部21に書き込む。
水理パラメータ設定部23は、水理パラメータ(透水係数、降雨浸透率(涵養量)、比貯留係数、水分特性曲線、比透水係数、体積含水率、間隙率等)を解析用データ記憶部21に書き込む。
ここで、解析用データ記憶部21は、水理地質モデル、解析モデルの各種情報を予め記憶している。
【0043】
〈ステップS100〉
大規模並列計算機3のデータ取得部31は、クラウドサーバ2から解析に必要な各種データを取得することでインポートする。ここでは、例えば、データ取得部31は、現在掘削している位置を示すデータと、掘削している地質を示すデータを含むデータを取得する。
3次元浸透流解析部32は、クラウドサーバ2から得られた各種データを用いて、3次元浸透流解析を行う。ここでは、3次元非定常浸透流解析が行われる。
3次元浸透流解析が行われると、データ同化処理部33は、データ同化処理を行う。
【0044】
〈ステップS101,S101a〉
その後、3次元浸透流解析部32は、データ同化処理部33によるデータ同化処理によって更新された透水係数を基に解析結果の湧水量(湧水量の予測結果)を算出する。
第1判定部35は、3次元浸透流解析部32によって解析結果の湧水量が算出されると、算出された湧水量の再現値(予測結果)が、観測データが示す湧水量の値を基準にした許容値内に収まっているか(例えば、観測データ値の±50%以内)否かを判定する。
【0045】
〈ステップS102,ステップS102a〉
解析結果の流量の再現値が許容値を超えていた場合は(ステップS101a-許容値外)、第2判定部36は、その許容値を超えている期間が何日前から続いているかを算出し、その期間が管理値b(例えば、5日間)を超えているか否かの判定を行う。例えば第2判定部36は、許容値を超えたと判定された際に用いられた観測データの日時データを参照し、管理値bの期間に亘って連続しているか否かを判定する。
【0046】
〈ステップS103〉
ステップS102の判定において、第2判定部36によって、管理値bを超えていると判定された場合(ステップS102a-管理値b外)、すなわち、少なくとも連続する5日分の観測データに対して、再現値がいずれも許容値を超えている場合、メッセージ出力部37は、「水理地質モデルの見直しが必要」であることを示すエラーのメッセージを出力する。
ここで、ステップS102の判定において、管理値bを超えている場合、解析に使用している水理地質モデルが現実の地質と異なるなど、モデルの精度が不十分である可能性が高いことを表していると考えられる。
そのため、このままデータ同化を続けても湧水量の再現できない可能性が高く、また今後の予測についても精度が見込めないため、水理地質モデルの修正が必要となる。
そこで、メッセージ出力部37は、エラーメッセージを出力することで、3次元浸透流解析を停止させる。ここでは、メッセージ出力部37は、現場端末1にエラーメッセージを出力させる。これにより、現場端末1の利用者が、3次元浸透流解析を停止させるよう指示を現場端末1に入力することで、大規模並列計算機3における3次元浸透流解析処理を停止させるようにしてもよい。また、メッセージ出力部37は、3次元浸透流解析部32にエラーを出力することで、3次元浸透流解析を停止させ、現場端末1にエラーメッセージも出力させる。このようにエラーメッセージを出力し、3次元浸透流解析を停止させることで、水理地質モデルの見直しを促すことができる。
このようなエラーメッセージが表示されたことに応じて、現場端末1の操作者は、地質モデルや解析モデルの修正等を行うことができる。
【0047】
〈ステップS104〉
解析が停止されると、3次元浸透流解析部32は、予測結果記憶部24にログを書き込むことで記憶する。
【0048】
〈ステップS105〉
一方、ステップS102の判定において、管理値bを超えていない場合は(ステップS102a-NO)、メッセージ出力部37は、「水理地質モデルの見直しが必要となる可能性がある」ことを表すエラーメッセージを出力する。ここでは、水理地質モデルの見直しが必要となる可能性はあるものの、データ同化に使用する観測データの情報が不十分であり、今後観測データが増えることで、解析結果の流量の再現性が高まる可能性があると考えられる。そのため、メッセージ出力部37は、このエラーメッセージを出力することで、水理地質モデルの見直しが必要となる可能性があることを出力することができる。現場端末1の利用者は、このメッセージを参照することで、水理地質モデルの見直しが必要となる可能性があることを把握することができ、今後観測データが増えることで、解析結果の流量の再現性が高まる可能性があることを把握することができる。
【0049】
〈ステップS115〉
3次元浸透流解析部32は、ステップS105においてエラーが出力された後、解析を停止せずに、現段階の解析結果をログとして予測結果記憶部24に記憶したあと、次の解析ステップへ移行することで、3次元浸透流解析を継続する。例えば、新たな観測データが取得されると、その観測データを用いた3次元浸透流解析を行う。
【0050】
〈ステップS110,ステップS110a〉
解析結果の流量の再現値が許容値を超えていない場合(ステップS101a-許容値内)、データ同化処理部33は、掘削している地質の同定した透水係数のアンサンブル標準偏差を算出する。
第2判定部36は、その標準偏差が許容値内に収まっているかを判定する。許容値は、予め定められた値を用いるようにしてもよい。例えば、標準偏差が0.1以下である場合には、アンサンブルの分布が平均の周りに集まっているということがいえるため、高い精度で同定できている可能性がある。そのため、許容値は、例えば0.1とすることができる。また、許容値は、現場(掘削する対象の山岳)に応じて0.1以外の値を用いるようにしてもよい。
【0051】
〈ステップS120〉
メッセージ出力部37は、第2判定部36の判定結果に基づいて、標準偏差が許容値を超えている場合(ステップS110a-許容値外)、「パラメータ同定精度が不十分の可能性あり」を示すエラーメッセージを出力する。
【0052】
〈ステップS115〉
ここで、第2判定部36の判定結果において、標準偏差が許容値を超えていると判定された場合、各アンサンブルの透水係数のバラツキが大きいことから、透水係数の同定精度が低い可能性がある。しかし、今後観測データが増えることで、各アンサンブルの透水係数のバラツキが小さくなる可能性もあることから、メッセージ出力部37からエラーメッセージが出力されるものの、3次元浸透流解析部32は、3次元浸透流解析を停止せずに、現段階の解析結果をログとして予測結果記憶部24に記憶したあと、次の解析ステップへ移行することで、3次元浸透流解析を継続する。
【0053】
〈ステップS111,ステップS111a〉
一方、標準偏差が許容値内に収まっている場合(ステップS110a-許容値内)、第2判定部36は、さらに、標準偏差が許容値内である継続期間が管理値a(例えば7日間)を超える期間続いているかを判定する。例えば第2判定部36は、許容値内であると判定された際に用いられた観測データの日時データを参照し、管理値aの期間に亘って継続しているか否かを判定する。
【0054】
〈ステップS120〉
メッセージ出力部37は、標準偏差が許容値内である継続期間が管理値aを超えていない場合は(ステップS111a-管理値内)、透水係数の同定精度は高いものの、再度、各アンサンブルの透水係数のバラツキが大きくなって、透水係数の同定精度が低くなる可能性もあることから、「パラメータ同定精度が不十分の可能性あり」を示すエラーを出力する。
【0055】
〈ステップS115〉
3次元浸透流解析部32は、ステップS120においてエラーメッセージが出力されると、3次元浸透流解析を停止せずに、現段階の解析結果をログとして予測結果記憶部24に記憶したあと、次の解析ステップへ移行することで、3次元浸透流解析を継続する。
【0056】
〈ステップS112〉
一方、第2判定部36によって管理値aを超えていると判定された場合(ステップS111a-管理値外)、透水係数の同定精度が高い状態が一定期間続いていることから、信頼性も高く、透水係数が同定できると判定できることとなる。そこで、データ設定部45は、同定された複数の透水係数のうち、管理値aに応じた全期間(継続期間)において同定された複数の透水係数に基づいて平均値を算出する。ここでは、掘削方向において異なる複数の掘削箇所において同定されたそれぞれの透水係数の平均値が算出される。
【0057】
〈ステップS113〉
データ設定部45は、管理値aに応じた全期間における同定された透水係数の平均値が算出されると、この算出された透水係数の平均値を、掘削箇所の地質の透水係数として設定する。すなわち、地質モデルにおける地質のうち、現在の掘削位置における地質に対する透水係数として設定する。
【0058】
ここで、掘削箇所の地質モデルにおける地質の透水係数を設定する場合、データ設定部45は、アンサンブルカルマンフィルタの機能により、データ同化によって得られた透水係数に対して揺らぎ(摂動)を与えて、複数の初期値を生成する。この初期値の分布(初期分布)は、一様分布とする場合と、正規分布とする場合の、2通りがある。
データ設定部45は、透水係数が未知の場合には、初期分布として一様分布を用いる。
ここで、掘削箇所において、地質調査の一貫としてボーリングが行われることがある。ボーリングが行われたことに基づいて、現場透水試験やボーリングコアを用いた室内透水試験を行うことにより、対象地質の透水係数を取得する場合がある。一方で、このようなボーリングが行われない場合は、対象地質の透水係数が不明であることから、透水係数を未知として扱う。透水係数が未知である場合、文献値を用いて一般的な値を基に、一様分布の最小値と最大値を決めることができる。この場合、データ同化処理部33は、文献値を基に、一様分布の最小値と最大値を設定するとともに、透水係数の不確かさ、すなわち、正規ノイズの標準偏差を設定する。言い換えると、複数の初期値(透水計数)のそれぞれには不確かさを考慮するが、その不確かさとして標準偏差を用いる。これにより、複数の初期値(透水係数)のそれぞれが、標準偏差の範囲内においてばらつきが生じるように予測値を求めることができる。
一方、データ設定部45は、推定される透水係数が予めわかっている場合に、初期分布として正規分布を用いる。上述したように、掘削箇所において、地質調査の一貫としてボーリングが行われる場合には、現場透水試験やボーリングコアを用いた室内透水試験を行うことにより、対象地質の透水係数を取得できる場合がある。また、対象地質の透水係数が複数取得できる場合があり、取得できた透水係数を平均値として入力し、そのばらつき(ノイズ)を標準偏差で設定する。この場合、データ同化処理部33は、正規分布の平均値と標準偏差を設定するとともに、一様分布と同様に、正規分布の場合も正規ノイズの標準偏差を設定する。
【0059】
〈ステップS114〉
データ設定部45は、掘削箇所の地質の透水係数が同定できると判定できた場合は、初期分布として正規分布を用い、正規分布の平均値に、ステップS112において算出された透水係数の平均値を与えた上で、正規ノイズの標準偏差を小さくすることで、3次元浸透流解析部32に対して、透水係数をほぼ固定させた(アンサンブルの変動を小さくさせた)状態で、次ステップ以降の解析を進めさせることができる。
【0060】
〈ステップS115〉
ステップS114のあと、3次元浸透流解析部32は、現段階の解析結果を示すログを予測結果記憶部24に書き込むことで記憶し、3次元浸透流解析を停止せずに、次の解析ステップへ移行する。
【0061】
クラウドサーバ2の予測結果記憶部24は、大規模並列計算機3から予測結果が出力されると、予測結果をログとして記憶する。
現場端末1は、予測結果記憶部24に予測結果が記憶されると、この予測結果を取得する。表示部14は、取得された予測結果を表示画面上に表示する。現場端末1は、予測結果に基づいて、坑内湧水量、全水頭分布、水位低下図などを表示部14に表示することができる。
このように、予測結果をクラウドサーバ2上で管理・共有できるように大規模並列計算機3から出力される。このため、予測結果の表示を表示させたい現場における現場端末1において表示することができる。
【0062】
以上説明した実施形態によれば、解析専門技術者が透水係数パラメータを同定できているかの判断を自ら行う必要がなく、一定の判定基準に則って、掘削している箇所の地質の透水係数パラメータを自動的に同定することができる。
また、地下水場予測システムが自動化されている場合であっても、地質モデルを見直すタイミングを把握することができる。
また、掘削している箇所の地質の透水係数パラメータが同定できていない状況であっても、解析専門技術者を必要とせずに判定を行い、水理地質解析モデルの精度が不十分で、モデルの修正を行う必要があることを示すことができる。
また、システム内の許容値や管理値は、パラメータとして異なる値を設定できることから、トンネル現場ごとの状況に合わせてパラメータの変更が可能であり、汎用性が高いものとなっている。
【0063】
また、上述の実施形態によれば、掘削中の地質においては、日々の観測データによりその地質の透水係数パラメータを同定することとなるが、今後の湧水量予測や次に掘削する地質の透水係数パラメータを同定するためにも、ある程度掘進した段階でその地質の同定した透水係数パラメータを固定させることができる。
【0064】
また、以上説明した実施形態によれば、トンネル地山の地下水環境を予測・解析するにあたり地質調査による3次元浸透流解析の結果に実際の逐次観測データ(坑内湧水量、地下水位、降水量など)をデータ同化させることで、再現解析・予測解析の精度を向上させることができる。
【0065】
また、観測データの取得から予測解析の結果出力までの一連の処理を自動で行うことができ、リアルタイムの予測が可能となる。
また、3次元浸透流解析とデータ同化手法を組み合わせて自動化することで、再現解析・予測解析の技術的な評価や解析条件の見直しなど、解析専門技術者の高度な知識や技術を必要としない。また3次元解析を行うことから、解析領域全体の地下水環境場の再現と予測が可能となる。
【0066】
なお、上述した実施形態において、許容値や管理値は、トンネル現場ごとの状況に合わせて任意の値を設定することができる。この設定は、現場端末1のマウスやキーボード等の入力装置から、解析専門技術者によって入力するようにしてもよい。
【0067】
上述した実施形態における現場端末1、クラウドサーバ2、大規模並列計算機3をそれぞれコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0068】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1…現場端末、2…クラウドサーバ、3…大規模並列計算機、11…観測データ取得部、12…観測データ補完部、13…現場条件取得部、14…表示部、21…解析用データ記憶部、22…データ管理部、23…水理パラメータ設定部、24…予測結果記憶部、31…データ取得部、32…3次元浸透流解析部、33…データ同化処理部、34…解析結果出力部、35…第1判定部、36…第2判定部、37…メッセージ出力部、38…データ設定部、44…メッセージ出力部、45…データ設定部